2018年5月9日水曜日

「日本人」の幻想

民進党の新代表に蓮舫参院議員が選出されたが、代表選の最中、同議員に日本と台湾の「二重国籍」疑惑が持ち上がり、騒動になった。お粗末な話だ。蓮舫氏ではなく、騒いだ保守派メディアや言論人がである。

蓮舫氏が二重国籍にあたるかどうかは、日本が台湾(中華民国)を国家として承認していないことも絡み、判定が微妙である。しかし、かりに二重国籍だったとして、何が問題だと言うのか。世界では政治家の二重国籍は珍しくない。

米カリフォルニア州のシュワルツェネッガー元知事は米国とオーストリア、英国のジョンソン前ロンドン市長(現外相)は英米のそれぞれ二重国籍者だし、ペルーのフジモリ元大統領(ペルーと日本)、タイのアピシット元首相(タイと英国)など一国のトップもいる。

批判者の一部は「嘘をついているから経歴詐称だ、公職選挙法違反だ」と主張した。しかし選挙で「二重国籍ではない」と明言していない以上、経歴詐称にはあたらない。

二重国籍をことさら問題視し、叩く根底には、二重国籍者は「純粋」な日本人ではなく、だから信用できないという感情があるように思われる。だがこの感情は、国民というものに対する誤解に基づく。

東京経済大学准教授の早尾貴紀は『国ってなんだろう?』(平凡社)で、「日本人」とは明治以降、国民国家が形成される中で形づくられ、それ以降「日本人」という民族があるかのように思われるようになったと述べる。別に偏向した見方などではなく、西洋の国民国家にも共通する歴史的な事実である。

明治政府は誰が「国民」なのかはっきりさせるために、初めて全国的な戸籍を作った。明治5年の壬申戸籍である。登録対象とされたのは、横浜や神戸の居留地の外国人を除く皇族以外で、そのとき日本に居住していた全員だった。

当時の日本の範囲は、北海道から本州、四国、九州まで。その中には朝鮮半島や中国大陸、東南アジアなどから来ていた人々とその子孫も多数いた。江戸時代もアジアとは交易などで人の往来があったからである。これらの人々も無差別に戸籍に登録された。

その後の戸籍の継続は、戸籍を持つ親の子が戸籍に登録されるという血統主義の考え方がとられた。しかし最初の壬申戸籍に登録された「元祖日本人」は、住んでいた者全員だった。だから血筋としての純粋で均質な「日本人」の起源というものはないし、「日本人」という民族があったわけでもないと早尾は指摘する。

つまり「日本人」とは政治の産物であり、純粋な日本人とは幻想なのである。政治がすべての世の中では、人々は政治の産物を崇める。それは誤りであり、危うい。

(2016年10月、「時事評論石川」に「騎士」名義で寄稿)

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