2016年10月22日土曜日

松戸清裕『ソ連史』


他山の石としてのソ連

もしあなたが「ソ連は社会主義だから滅びた。資本主義の日本には関係ない」と考えているとしたら、それは誤りだ。ソ連が滅びたのは、本書が描くように、政府が市場経済の原理に無知だったからである。日本に無縁の話ではない。

最高指導者フルシチョフは、食肉・牛肉・バターの生産量で米国に追いつき、追い越せと号令した。これは「非現実的」だった。畜産物の政府買付価格は安くて生産コストに満たず、農民が生産増大に積極的に取り組もうとしないからだ。

農民の生産意欲を高めるには買付価格の引き上げが必要である。それまで何度も引き下げた小売価格を上げざるをえない。平均30%引き上げたところ、国民は強く反発した。ある州では数千人が抗議し、軍の発砲で数十人が死傷した。

またフルシチョフは、安価で供給されるパンを餌に家畜を飼う都市住民が少なくないことが、パン不足を招いているとみて、都市住民による家畜の飼育を禁止した。この結果、都市は食肉不足に陥る。農家の付属地削減で野菜も不足した。

環境破壊は「資本主義の病」という神話に反し、社会主義のソ連で環境は大規模に汚染されていた。利潤の最大化への無関心が逆に罰金や悪評を厭わぬ態度につながったとも、生産計画達成のため環境対策を後回しにしたともいわれる。

今日、貧困や格差を解決するため、資本主義に代わる「対抗文明」を訴える人々もいる。しかし著者はソ連の歴史を踏まえ、「善き意図が善き結果につながるとは限らず、『対抗文明』のほうが優れたもの、善きものとなるとは限らない」と慎重に述べる。ソ連史を他山の石として学ぶ意義は大きい。

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