2016年10月26日水曜日

長沼伸一郎『経済数学の直観的方法』

経済数学の直観的方法 マクロ経済学編 (ブルーバックス)
経済数学の直観的方法 マクロ経済学編 (ブルーバックス)

現代経済学は裸の王様

現代の経済学は数学を多用する。記号や数式で埋め尽くされた論文を見ると、まるで物理学のように高度な科学だと思うかもしれない。だが本書を読むと、必ずしも著者の意図ではないものの、きらびやかに飾り立てた「社会科学の女王」が裸の王様にすぎないことがわかる。

著者が指摘するとおり、経済数学は「物理や天体力学の世界で成功した数学技法で使えそうなものを寄せ集めて作られた」。だから宇宙の神秘を背後に感じさせる物理数学と違い、全体を見ても「何か明確なストーリーが見えてこない」。

19世紀後半、ワルラスやパレートは経済学に微積分を応用し、「ニュートンの業績に比すべきもの」と称賛された。だが著者によれば、同意する理系研究者は少ない。オリジナリティが感じられないうえ、肝心の微分方程式をほとんど駆使できていないからだ。

天体力学には天体が3個以上になると問題が解けなくなる弱点があり、「太陽と地球」「太陽と木星」のように2個ずつの問題に分けて近似値を求めた。太陽の引力だけが桁外れに大きい特殊要因のおかげで、惑星間の引力を無視できた。

しかし経済学の場合、個々の現象をつなげた誤差は巨大になりかねない。このためケインズは数学の使用に否定的だった。「彼の方が遥かに数学に熟達していて、問題の本質を見抜いていた」と著者は書く。ケインズは数学科出身だった。

著者は経済数学を否定しているわけではない。肯定したうえでその攻略法を説いている。しかし物理学の学識を生かし、経済学と距離を置いた立場で自由に書いているために、飾りにすぎない数式を身にまとった現代経済学のお粗末な正体をはしなくも暴いた。一種の奇書といえる。

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