ところが知識人の中には、そんな影の薄い自由放任主義があたかも世界中で猛威を振るっているかのように受け止め、政府の介入や規制の強化を求める意見が少なくありません。
1月4日付日経「経済教室」に掲載された、経済学者・岩井克人さんの論説はその一例です。この文章には腑に落ちないところがいろいろあるのですが、一番奇妙なのは、市場経済はハイパーインフレの危機に常にさらされているという部分です。
考えてもみてください。現在、深刻なハイパーインフレで国際ニュースをにぎわせている国といえば、ベネズエラです。ベネズエラは社会主義の国です。もし岩井さんが言うように、自由放任的な市場経済がハイパーインフレの犯人なら、自由放任とは正反対の社会主義国でハイパーインフレが起こるはずはありません。一方、最も自由放任に近いとみられている米国でハイパーインフレが起こったことはありません。
ハイパーインフレの原因は自由な市場経済ではありません。ウィキペディア「ハイパーインフレーション」の項にもあるように、米経済学者サージェントは第一次世界大戦後にハンガリー、オーストリア、ポーランド、ドイツの4カ国で生じたハイパーインフレを分析し、共通の原因は財政赤字の急膨張であり、不換紙幣である政府紙幣の発行による、財政赤字のファイナンスと結論づけています。これはベネズエラやジンバブエにも共通します。
つまりハイパーインフレの原因は、政府の放漫財政と、それによって生じた財政赤字を埋めるため行った政府紙幣の大量発行です。一言でいえば、ハイパーインフレの犯人は政府なのです。それなのに政府の介入を排する自由な市場経済を犯人呼ばわりするとは、とんだぬれぎぬです。
岩井さんは、市場経済が安定的に機能するには、政府や中央銀行の規制や介入が必要だと主張します。しかし実際には、国民が飢えや病に苦しむベネズエラの悲劇が物語るとおり、政府が規制や介入を強めるほど、経済は不安定になり、人々を不幸にします。自由放任で滅んだ国はありません。(2018/01/08)
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