2016年9月16日金曜日

池井戸潤『オレたちバブル入行組』

オレたちバブル入行組
オレたちバブル入行組

融資引き揚げは悪か

商売が苦しくなったとき、銀行が手のひらを返すように融資を引き揚げたら、頭にくるのはもっともである。しかしそれを悪として糾弾し、復讐まで企てるのは行き過ぎだろう。人気ドラマの原作となった本作は、そこが惜しまれる。

主人公・半沢直樹の父は小さな会社の経営者。大口の取引先が倒産した際、あおりで債権者が押し寄せた。地元の第二地銀が助けてくれるが、都市銀行は融資を引き揚げる。半沢は父の敵討ちという狙いを秘め、その都銀に入行する。

融資を引き揚げた行員は人情味のない嫌な奴で、半沢の同期を心の病に追い込んだうえ、不正を働く支店長とつるんで半沢を陥れようとする。だから結末近くで、潔白の証明された半沢に土下座をする場面では、思わず胸がすっとする。

しかしよく考えると、父の敵討ちにはなっていない。土下座したのは無実の罪を着せようとしたからで、連鎖倒産しそうな会社から融資を引き揚げたからではない。そんな理由でいちいち土下座していたら、銀行員は立っている暇がない。

融資を引き揚げた都銀は、利息で儲けるチャンスを失うことですでに損をしているし、冷たい銀行という悪い評判も立っただろう。それ以上の罰を受ける理由はない。部下いじめや不正加担と同等の悪であるかのように描くのはおかしい。

勧善懲悪のドラマを楽しむためには、悪はどこから見ても悪でなければならない。作者の筆力で一気に読ませるものの、ふとビジネスの道理に気づくと、上記の件がひっかかって心から楽しめなくなる。

また、すでにアマゾンのレビューでも指摘されているように、半沢が支店長の刑事責任に目をつぶるのも、純粋な武士の情けではなく、交換条件で自分が栄転するのは釈然としない。これでは背任・詐欺の共犯である。

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