2019-02-14

クルトワ他『共産主義黒書〈ソ連篇〉』


ナチスを超える犯罪

先月、タイ・バンコクを拠点に活動する、AKB48の姉妹グループBNK48のメンバーが、ナチスのかぎ十字が描かれたとみられるシャツを着てリハーサルに参加する動画がネット上に投稿され、タイのイスラエル大使館がツイッターで遺憾の意を示す騒ぎになった。このメンバーは「自分が無知だった。二度としない」などと謝罪した。

一方、昨年11月、映画『鈴木家の嘘』の公開記念舞台挨拶が東京都内の映画館で行われ、出演俳優や監督が、キューバ革命の指導者ゲバラの肖像をあしらった、おそろいのシャツを着用して登壇した。ところが、この行為はなんの非難も浴びなかったし、ゲバラのシャツが劇中にも登場することを理由に、公開が中止されることもなかった。

何が言いたいか、わからないだろうか。そうだとしたら、BNK48のメンバーを歴史に無知だと笑うことはできない。ナチスの犠牲者よりも、ゲバラらが信奉した共産主義による死者のほうがはるかに多いからだ。本書によれば、前者が2500万人だったのに対し、後者は8500万から1億人に達する。

ソ連、中国、北朝鮮、カンボジアなど「共産主義体制は自分たちの権力を確立するために、大量殺人を真の統治システムにまで高めた」と共著者の一人、クルトワは指摘する。死刑は銃殺、絞首、溺死、撲殺などさまざまな手段で行われ、人為的な餓死、強制収容所送り、強制移住の際の死、強制労働による死もあった。カストロやゲバラが率いたキューバも例外ではない。

ナチスがニュルンベルク裁判で裁かれたのに対し、共産主義はナチス以上の大量殺人を犯しながら、今なお断罪されない。それどころか、道徳的に優れた思想であるかのようなイメージが知識人やメディアによって振りまかれる。ゲバラのシャツを着たり、共産主義の父マルクスの銅像を建てたりしても、けっしてかぎ十字のような問題にはならない。

ナチズムと共産主義に対するこの扱いの違いは、現代における最も恥ずべき政治的ダブルスタンダード(二重基準)の一つである。本書はその欺瞞に気づかせてくれる。

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