この記事「The Ethics and Economics of Private Property(私有財産権の倫理と経済学)」は、ハンス=ヘルマン・ホッペ(Hans-Hermann Hoppe)氏によるもので、彼の思想の根幹である「私有財産権」がいかにして倫理的に正当化され、経済的に不可欠であるかを論じています。
主要な論点は以下の通りです。
1. 財産権が必要な理由:希少性(Scarcity)
ホッペ氏は、もし資源が無限にある「エデンの園」のような世界であれば、財産権は不要だと説きます。しかし、現実世界では物や場所は希少(Scarcity)であり、同時に複数の人が同じものを使おうとすれば必ず衝突(Conflict)が起こります。
財産権の目的は、衝突を避けるための「誰がその資源の正当な使用者か」というルールを定めることにあります。
2. 正当な取得ルール:先占(Original Appropriation)
どのようにして持ち主が決まるべきかについて、ホッペ氏は以下の「自然法」的なルールを提示します。
自己所有権: 全ての人間は自分自身の身体の所有者である。
先占(ホームステッディング): 誰の所有物でもなかった自然資源に、自らの労働を最初に投じた(加工した)人が、その資源の正当な所有者になる。
合意による移転: 一度正当に取得された財産は、所有者の自発的な合意(契約)によってのみ他者へ移転できる。
3. 議論倫理学(Argumentation Ethics)による正当化
この記事(およびホッペ氏の代表的な功績)で最もユニークなのが、「議論倫理学」を用いた証明です。
人が「何が正しいか」を議論する際、その人はすでに「自分の身体は自分のものであり、相手の身体は相手のものである」という前提を認めています。
もし誰かが「私有財産制は間違っている」と主張したとしても、その主張(議論)自体が「自分自身の身体や場所、言葉を所有している」という事実に基づいているため、自己矛盾(実演的矛盾)に陥ります。
したがって、私有財産権は否定不可能な倫理的基盤であると結論づけます。
4. 経済的効率:私有 vs 公有(社会主義)
ホッペ氏は倫理面だけでなく、経済的な観点からも私有財産制を擁護します。
| 所有形態 | 経済的インセンティブ | 結果 |
| 私有財産 | 将来の価値を維持・向上させる動機が働く。 | 資本蓄積、長期的な投資、繁栄。 |
| 公有財産 | 「今、使い切ったほうが得」という動機が働く。 | 資源の枯渇、資本の食いつぶし、貧困。 |
5. 結論:国家は財産権の侵害主体である
ホッペ氏によれば、国家は「究極の仲裁者」を自称しながら、税金(略奪)や独占的な法解釈を通じて、他者の私有財産を組織的に侵害する存在です。真に倫理的で豊かな社会を実現するには、国家による干渉を排除し、純粋な私有財産制に基づく「私法社会」への回帰が必要であると結んでいます。
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