2024-12-21

ミレイ大統領とホッペ氏の亀裂

ラ・ナシオン誌
(2024年12月12日)

アルゼンチンのミレイ大統領がかつて影響を受け、今では「リベルタクレイジー(古典的)リベラル」と呼ぶハンス・ヘルマン・ホッペ氏とは何者か?
ホッペ氏は、ミレイ大統領に影響を与えたドイツの古典的自由主義者であり、無政府資本主義の哲学者である。同大統領の属するオーストリア学派のもう一人の指導者、マレー・ロスバード氏の親しい共同研究者であった。

ミレイ大統領は、ストリーミング番組でゴルド・ダン氏と行ったインタビューで自政権の要点を分析し、アルゼンチンの「デフレ」や原発「アトゥチャ3」建設の進捗状況など現在の問題に言及した。しかし、影響を受けた一人でありながら最近距離を置いているホッペ氏を厳しく批判した。

同大統領は対談中、古典的自由主義と無政府資本主義のドイツの経済哲学者ホッペ氏に言及した。ホッペ氏はミレイ氏の師匠だったが、2か月前、両者の間に意見の相違が生じた。75歳のホッペ氏が「財産自由協会」で講演した際、ミレイ大統領の政権運営を分析して批判を展開するとともに、同大統領の米政府への忠誠を疑問視したためだ。

ミレイ大統領は(ホッペ氏の)講演について次のように語った。「恥ずかしいことだった。彼は哲学についてよく知っていて、哲学的には優れた無政府資本主義者かもしれないが、政治と通貨理論に関しては愚か者だ。彼は(インフレは)中央銀行を閉鎖するだけの問題だと言ったが、それが最も簡単な改革だと言うこの人は、通貨問題が負債であることを理解していなかった。負債は90日以上も前のもので、セルジオ・マッサ氏(前経済相)は辞任する前にそれを1日分に減らした。つまり、マネタリーベース(資金供給量)の規模によって5倍に増加するリスクがあったということだ」

ミレイ氏は続けた。「彼らは、我々がリバタリアン・リベラルではなく、ホッペ氏のような「解放された」リベラルだと思っていた。彼の本が役に立たないと言っているわけではないが、経済について語るとなると、かなりひどい人だ」。そして彼を「愚か者」と呼び、「彼はアルゼンチンについて何も知らないことを認めた」と述べた。「彼はまるで私が公権力を握っているかのように、私を批判する分析を徹底的に行った。滑稽だ」

一方、ホッペ氏は、まさに古典的自由主義と無政府資本主義の分野でミレイ氏に影響を与えた人物の一人である。ネバダ大学ラスベガス校の経済学教授であり、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス研究所の特別研究員でもある。ザールブリュッケンのザールラント大学とフランクフルトのゲーテ大学で社会学、政治学、経済学を学び、1974年にゲーテ大学で哲学の博士号を取得した。

経済と政治の分析に関する著書を多数出版しており、その中には『君主制、民主主義、自然秩序』(2021年)、『私有財産の経済学と倫理学』(1993年)、『社会主義と資本主義の理論』(1988年)、『リバタリアニズムを正しく理解する』(2019年)などがある。

オーストリア学派に属するミレイ氏のもう一人の指導的人物、マレー・ロスバード氏の優秀な弟子でもある。ミレイ大統領はロスバード氏を非常に尊敬しており、飼い犬の一匹にロスバード氏の名をつけている。ホッペ氏は1986年に米国でこの正統派経済学者に師事し始め、1995年にロスバード氏が死去するまで親しい協力者であり続けた。ホッペ氏は、ニューヨーカー誌(訳注・ニューヨーク大学出版部の誤りか)の『自由の倫理学』の序文も執筆している。

ホッペ氏のミレイ氏評


講演中、ホッペ氏はこう語った。「ミレイ氏は、国家をギャング組織とみなす自由主義者で無政府資本主義者であると自称した。税金を窃盗とみなし、それをゼロにしたい。それが彼の公言した綱領だ。彼が影響を受けた源は、第一に、私の師であり指導者であるロスバード氏、そして私自身である。だから、私からも影響を受けたと思われるこの男について、私はコメントする権利があると感じている」

「私は明らかに他の人(政治家)よりもミレイ氏が好きだ。しかし、彼が自身の哲学的信念だと主張する無政府資本主義の観点から見ると、彼は大失敗だ」とホッペ氏は説明し、さらにこう付け加えた。「彼を英雄に仕立て上げようとするリバタリアン集団には同意しない。彼は英雄ではない」

ホッペ氏はとりわけ、ミレイ大統領の米国との連携を批判した。「ミレイ氏と、世界の悪に責任を負うすべての機関との間には、一種の恋愛関係がある。彼は、最も帝国主義的な米政府を愛し、同調している」

(次を全訳)
Who Is Hans-Hermann Hoppe, the Former Inspiration of Javier Milei Whom He Has Now Called a 'Libertacrazy (Classic) Liberal' - LewRockwell [LINK]

【コメント】この記事を読む限り、ミレイ氏のホッペ氏批判は意味不明だ。インフレを鎮めるには中央銀行の廃止が最もシンプルな方法だし、それはミレイ大統領自身、就任前に主張していたことだ。もし大統領が「公権力を握って」いないとしたら、一体誰が握っているのだろうか。ミレイ氏を支援したアルゼンチンのユダヤ財閥だろうか。批判された途端、かつて尊敬していたはずの人物を愚か者呼ばわりするとは、立派な態度とはいえない。そして帝国主義的な米政府への同調。ホッペ氏のいうとおり、ミレイ氏は英雄に仕立て上げるような人物ではない。個別の政策を冷静に評価すべきだ。

2024-12-16

荘子の自由放任主義

荘子は、姓は荘、名は周。中国の戦国時代、宋の蒙(河南省)に生まれた。蒙の漆園の番人をしていたという。楚の国王が宰相の地位を与えようとしたが固辞し、悠々自適の自由人としての生活を選んだと伝えられる。老子とともに道家を代表する思想家だ。小国寡民の政治を理想とした老子に対し、荘子は一切の政治的配慮を捨て、超然として実存的な自由を説く違いがある。

荘子 内篇

著書とされる『荘子』(引用は原則、池田知久訳による。表記を一部変更。カッコ内は篇名)は、奇想天外な比喩や寓話に富む。とりわけ巻頭に置かれた「大鵬」の寓話は、はなはだスケールが大きく、大いなる自由を説く荘子にふさわしい。

「北の彼方、暗い海に魚がいる。その名を鯤(こん)と言う。鯤の大きさのほどは、何千里あるのか計り知ることができない。やがて変身して鳥となり、その名を鵬(ほう)と言う。鵬の背平は、何千里とも計り知ることができないほどだ。一度奮い立って飛び上がると、広げた翼は天空深く垂れ込めた雲のよう。この鳥が、海のうねりそめる頃、南の彼方、暗い海に渡っていこうとする。南の暗い海とは、天の果ての池である。……鵬が南の暗い海に渡っていくありさまは、三千里に及ぶ海面を激しく羽撃ち、つむじ風を羽ばたき起こして九万里の高みに舞い上がり、ここを去って6カ月飛び続け、そうして初めて一息つくのである」

蝉と小鳩がこれを笑って言う。「俺たちは勢いこんで飛び立ち、楡(にれ)・枋(まゆみ)に止まろうとするけれど、そこまで届かず地面に引き戻されてしまう時だってある。九万里もの高みに舞い上がり、さらに南を目指すなんてことをして、何になるのだろう」(逍遥遊)

これに対し、荘子は「小さな知恵は大きな知恵に及ばない」とコメントする。愚者は「飛ぶことにどんな利益があるか。疲れるだけ損だ」と言うが、賢者にとっては、力を尽くして飛ぶこと自体が生きることなのだ。

そんな荘子は政治について、政府が人々の生活に介入せず、自由に任せるよう説いた。「もしも君子が、やむをえず天下に君臨するようなことになった場合、無為(何もしない)でいるのが最もよい。為政者が無為であって、初めて人々はそれぞれの性命の自然な形に落ち着くことができるのである」(在宥)。中国思想学者の池田知久氏は「前漢初期のレッセ・フェール政策を述べた文章」だと指摘する。

近代経済学の祖とされる英国のアダム・スミスは『国富論』(1776年)で、個人が自分の利益に従って行動すれば、「見えない手」に導かれて社会の利益が促進されると説いた。荘子は近代西洋のスミスにはるかに先立つ古代東洋で、同様のレッセフェール(自由放任主義)思想を抱いていた。

経済・社会の自由な発展をこざかしい人為によって妨げれば、深刻な弊害を招く。そう解釈できる寓話がある。「南の海を治める帝を儵(しゅく)、すなわちはかない人のしわざと言い、北の海を治める帝を忽(こつ)、すなわち束の間の命と言い、中央を治める帝を渾沌、すなわち入り乱れた無秩序と言う。ある時、儵と忽が、渾沌の治める土地で思いがけず出会ったが、渾沌は彼らを大変手厚くもてなした」

そこで儵と忽は、渾沌の好意にお礼をしようと相談した。「人間は、誰にも七つの竅(あな)が具わっていて、視たり聴いたり食ったり息したりしているのに、独り渾沌だけに竅がない。一つ竅を鑿(ほ)ってやろうではないか」。こうして、一日に一竅ずつ鑿っていったところ、「七日目に渾沌は死んでしまった」(応帝王)。

自由に任せるのとは逆に、人民を重税などで苦しめる権力者に対しては、荘子は厳しい目を向けた。そうした権力者は泥棒と変わらないとして、「帯の止め金を掠め取った程度のかっぱらいは、死刑に処せられるが、国を盗んだ大泥棒となると、諸侯までのし上がる」(胠篋)と断じる。

権力者を盗賊と同一視する考えは、他の思想家にもある。たとえば、古代キリスト教最大の神学者アウグスティヌスが著書『神の国』に記した逸話によれば、アレクサンドロス大王が捕らえた海賊は、大王に対し「私は小さな舟で荒らすので海賊と呼ばれ、陛下は大艦隊で荒らすので皇帝と呼ばれるだけ」と答えたという。アウグスティヌスは「この答えはまったく適切で真実を衝いている」と評した。荘子と同意見だ。経済学者マレー・ロスバードは「荘子はおそらく、国家を巨大な盗賊とみなした最初の理論家だった」と述べる。

冒頭で述べたように、荘子は政治権力に仕えることを嫌った。あるとき川のほとりで独り釣り糸を垂れていると、楚の国王が二人の使者を立て、国の政治を司る宰相になってほしいと頼んだ。すると荘子は釣竿を手にしたまま、振り向きもせず、こう尋ねた。「聞くところによると、その国には死んで三千年にもなるという神聖な亀がいて、王はこれを袱紗(ふくさ)で包み竹箱に収めて、先祖の廟堂(みたまや)の中に大切にしまっておられるとか。ところでお尋ねするが、この亀にしてみれば、殺されて甲羅を残して大切にされたかっただろうか、それとも生き長らえて尻尾を泥の中に引きずっていたかっただろうか」

二人の使者は口をそろえて、「それは、やはり生き長らえて尻尾を泥の中に引きずっていたかったでしょう」と答えた。すると荘子は言った。「帰って下さい。私も尻尾を泥の中に引きずっていたいと思うのです」(秋水)。自由を愛する荘子らしいエピソードだ。

あるとき荘子は夢の中で、ひらひらと舞う胡蝶(蝶)となった。荘周(荘子の本名)であることを忘れ、ふっと目が覚めると、きょろきょろと見回す荘周である。荘子は言う。「荘周が夢見て胡蝶となったのか、それとも胡蝶が夢見て荘周となったのか。真実のほどはわからない」(斉物論)

この寓話が物語るように、人生とは、もしかすると大いなる夢かもしれない。そうだとすれば、死を恐れる必要はない。『荘子』の巻末に近い列御寇篇によれば、荘子は臨終の際、手厚く葬りたいという弟子たちの申し出を退け、葬礼に必要な品々はこの天地や日月に星々、地上の万物などで十分だと答えたそうだ。

2024-12-14

木村貴の経済の法則!(2024年、随時更新)

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  5. 米大統領選、誰が勝てば株高に? 民主・共和政権のパフォーマンスを点検(2024/2/9
  6. 長期の株高をもたらす政治指導者とは? 米大統領ランキング、上位は意外な顔ぶれ(2024/2/16
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  8. 景気って何だろう? 株価との関係は?(2024/3/1
  9. 不況は買い、好況は売り 株と景気の奇妙な関係(2024/3/8
  10. 財政出動で株は買い? 判断のポイントはここ(2024/3/15
  11. 日本株、ここから始まる「正常化相場」 創造的破壊にかじを切れ【日銀、マイナス金利解除】(2024/3/19*臨時解説
  12. 財政危機は株投資のチャンス インフラ整備、「官から民へ」加速へ(2024/3/22
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  19. お金って何だろう? ロビンソン・クルーソーに学ぶ基本のキ(2024/5/10
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  21. 民力奪う国債の供給過剰、市場が警告【長期金利、11年ぶり1%到達】(2024/5/23*臨時解説
  22. 金本位制って何だろう? マネー乱造に歯止め、復権機運も(2024/5/24
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  30. 無税社会は「北斗の拳」の暗黒世界か? 国税庁の偏ったメッセージ(2024/7/19
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  39. 東京海上アセット・平山氏「インフレ時代、株の選別投資強まる」(2024/9/10*臨時インタビュー
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  48. 総無責任だった総選挙 亡国の「財政ファイナンス」に歯止めかからず(2024/10/28*臨時解説
  49. 減税は「バラマキ」という嘘 政府の施しではない!(2024/11/1
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  51. 赤字国債はもうやめよう 禁止のはずが今や「恒例」(2024/11/8
  52. 国債デフォルトという選択 世界の終わりか、健全な市場経済への転機か?(2024/11/15
  53. ポピュリズムとは何だろう 大衆迎合か、民主主義への警鐘か?(2024/11/22
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  55. 政府、剛腕マスク氏でも「効率化」できない理由 企業とまったく異なる行動原理とは?(2024/12/6
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2024-12-04

ミレイ氏の正体と国連演説

オスカー・グラウ(音楽家)
2024年11月4日

2024年9月、アルゼンチンの大統領ハビエル・ミレイ氏がニューヨークの国連総会で演説を行った。多くの人々が、国家主義的な現状に対する自由主義的なすばらしい出来事としてこの演説を称賛したが、実際にはミレイ氏は羊の皮をかぶった狼であることを証明し続けているにすぎない。
矛盾したスタイルに忠実に、ミレイ氏は聴衆に「自分は政治家ではない」と念を押すところからスピーチを始めた。「政治をしようという野心はなかった」と。しかし、これはもはや意味をなさない。ミレイ氏は2年間下院議員を務めていた。そして、強制されたのでなければ、自ら進んで政治の世界に入り、大統領候補となった。いずれにせよ、ミレイ氏は政治家となったのだ。

国連


ミレイ氏は、この機会を利用して、国連が「本来の使命」を果たしていないのは危険だと世界中の国々に警鐘を鳴らし、国連は集団主義的な政策を推進し続けていると警告した。国連の設立、主な目的、基本原則を認めたうえで、ミレイ氏は、過去70年間の国連の指導の下、戦争の惨禍は消え去っていないものの、「人類は歴史上最も長い期間にわたる世界平和を経験し、それはまた、最大の経済成長を遂げた時期とも一致していた」と強調した。また、「全世界が商業的に統合し、競争し、繁栄することを可能にする秩序の下では、世界規模の紛争の拡大には至らなかった」とミレイ氏は述べた。

ここで、ミレイ氏に思い出させる必要があるかもしれない。世界は国家主義的な世界秩序にもかかわらず、商業的に統合し、競争し、繁栄してきたのだ。国連はその存在をすべての国民国家に負う組織として、この国家主義的な世界秩序が永遠に続くことを切望している。そして注目すべきことに、ミレイ氏が語る経済成長は、国連の指導とは何の関係もなく、自由市場と資本主義によるものだ。過去70年間、世界で税収と公共支出が大幅に増加しているという事実にもかかわらずである。

いずれにしても、ミレイ氏によると、国連は自らの原則を守らなくなった。「人類の王国を守る」ことを目的とした組織は、「何本もの触手あるリバイアサン(怪物)」へと変貌し、「各国は何をすべきか」「世界中の市民はどのように生きるべきか」を決定しようとしている。「平和を追求する」組織から、「無数の問題について、その加盟国にイデオロギー的な実施計画を押し付ける」組織へと変貌した。ミレイ氏にとって、かつて「成功を収めた」国連のモデルは、国家間の協力関係に基づいて設立されたものであり、その起源は「勝利なき平和の社会」について語ったウッドロー・ウィルソン(元米大統領)の思想にまでさかのぼることができる。そのモデルは「世界中の市民に特定の生活様式を押し付けようとする、国際官僚による超国家的な政府」に取って代わられたと指摘した。 その後ミレイ氏は、グローバル規模での新たな社会契約の定義を必要とするモデルが悪化し、(持続可能な開発のための)2030アジェンダへの取り組みが加速しているとして、次のように指摘した。

それ(2030アジェンダ)は、超国家的な政府プログラムに他ならず、社会主義的な性質を持ち、問題解決を装っているが、その解決策は国民国家の主権を脅かし、人々の生命、自由、財産の権利を侵害するものである。また、貧困、不平等、差別を法律によって解決しようとしているが、それはそれらの問題をさらに深刻化させるだけである。

またミレイ氏は、国連の「未来のための協定」も批判し、国連の数々の過ちや矛盾が「自由世界の市民の前で信頼を失い、その機能を喪失させる」結果となったと主張した。ミレイ氏は国連があたかも世界政府に近い存在であるかのように装っているが、実際には、国連が発するイデオロギーの推進を国家が口実にしたところで、国連が各国家の国民に対して持つ力は、国家よりも強くはない。もちろん、特定の利益を優遇する政策を推進する温床として、イデオロギー的な大義を掲げる利益団体が国連官僚を買収することはありうるが、それによって国連が世界中の市民に対して何かを強制するような権限が得られるわけではない。

実際、当時のアルゼンチン外相、ディアナ・モンディノ氏もミレイ氏の演説を否定した。演説から2日後、モンディノ氏は、2030アジェンダや未来のための協定といったこれらの実施計画の適用は自主的なものであると明確にし、アルゼンチンはこれらの計画に含まれるいくつかの事項に「完全に、または部分的に」従うと述べた。モンディノ氏は、アルゼンチンはこれらの計画に関連する政策や協定の類から決して離脱したことはないと述べたが、アルゼンチンは他国から「やらなければならない」と命じられたことをすべて受け入れるつもりはないと強調した。この点に関してモンディノ氏は、デジタルメディアの管理に関し、倫理的ではないと考える問題については制限を設けると断言した。

2024年10月、環境副大臣のアナ・ラマス氏は、ミレイ政権は「生物多様性を公共政策にしっかりと統合する」ことを追求していると述べた。ラマス氏は、アルゼンチンの潜在的な可能性として「エネルギー転換に必要な重要鉱物や再生可能エネルギーで世界に貢献する」ことを指摘し、国際協定から離脱するよう政府から指示されたことはないと明言した。実際、アルゼンチンはパリ協定にとどまり、環境目標を約束している。全国気候変動適応・緩和計画はアルゼンチンの気候政策を体系化し、2030年までに実施される一連の対策と手段を定めている。

それでもミレイ氏は、国連を誤った方向に導いたのは2030アジェンダの採択であったと指摘し、2020年のロックダウン(新型コロナ対策の都市封鎖)における組織的な自由の侵害の主な推進者の1つとして国連を非難した。彼はこれを「人類に対する犯罪」であると考えている。たしかに国連はロックダウンの推進役だったが、多くの国がコロナパスポート(ワクチン接種証明)を導入した時期に、国連はコロナパスポートに反対の立場を示した。しかし、もしミレイ氏が演説で国家主義的な現状と国際的な体制に本当に反旗を翻したかったのであれば、自由に対するこの恐ろしいまでの侵攻の最大の受益者と加害者、つまり製薬会社と政府の間で行われている偽りのワクチンビジネスに、もっと焦点を当てるべきだった。そして、すべての強制予防接種計画の廃止を目指す自由主義者の忘れられた闘いはどうだろうか。アルゼンチンにも存在するが、ミレイ氏はこの残虐行為と戦ったことは一度もない。

アルゼンチン


ミレイ氏にとって、アルゼンチンの変革の過程を導く原則は、アルゼンチンの国際的な行動を導く原則でもある。ミレイ氏は、政府の役割は限定的であるべきだと主張し、すべての国民は専制や抑圧から自由であるべきだと擁護した。ミレイ氏が宣言するように、これは外交的、経済的、物質的に支援されるべきであり、自由を守る「すべての国々の共同の力によって」支援されるべきである。

ミレイ氏がネオコン(新保守主義者)だと知る人々にとっては、すでに周知の事実かもしれないが、「自由を守る」ための共同戦線とは、米国と北大西洋条約機構(NATO)が世界中で不当な戦争を遂行し、イスラエルが中東で何千人もの罪のない民間人を殺害して西洋の価値観を守ることを意味する。


ミレイ氏の見解では、新生アルゼンチンの理念とは、国連の「真髄」である「自由を守るための国連の協力」である。ミレイ氏は「未来のための協定」に対するアルゼンチンの反対意見を表明し、「自由世界」の諸国に反対意見への参加と国連の新たな行動計画「自由のアジェンダ」の創出を呼びかけた。そして次のように断言した。

……アルゼンチン共和国は、これまでの特徴だった歴史的な中立の立場を放棄し、自由を守る闘争の最前線に立つ。

アルゼンチンはこの演説が行われる前から、すでにミレイ政権下で中立の立場を放棄していた。しかし、ミレイ氏が長年最も多く名前を挙げてきた思想家であるマレー・ロスバードは、この立場とは逆に、「リバタリアニズム(自由主義)は、国家間の紛争において中立国が中立を維持し、交戦国が中立市民の権利を完全に尊重するよう促すことを目指している」と書いている。一方、「自由世界」という表現は、冷戦時代に米国のプロパガンダで広く知られるようになったが、ミレイ氏にとっては目新しいものではなく、大統領就任前からすでに何度かこの表現を使用していた。

2024-12-02

老子の反戦平和思想

老子は中国古代の思想家。生没年不詳。姓は李、名は聃(たん)。その著述と伝えられる書物も『老子』と呼ばれる。『史記』では春秋時代の孔子と同時代の人とされるが、戦国時代中ごろの人というのが通説。実在の人物ではないとする説もある。孔子ら儒家の教えを否定して無為自然の道を説いた、道家の祖とされる。

老子入門 (講談社学術文庫 1574)

現代米国の経済学者で歴史家のマレー・ロスバードは、老子を「最初の自由主義知識人」と呼ぶ。同じ古代中国の思想家でも、官僚の支配を擁護した儒家とは異なり、老子は急進的な自由主義の信条を打ち立てたからだ。「老子にとって、個人とその幸福こそが社会の重要な単位であり目標だった。もし社会制度が個人の開花と幸福を妨げるのであれば、その制度は縮小されるか、完全に廃止すべきである」とロスバードは解説する。

老子の思想をその著述によって具体的にみていこう(引用は原則、金谷治『老子』<講談社学術文庫>による。かな表記を一部漢字に改めた)。

「世界を制覇するには、格別な仕事をしないであるがままに任せていくことが大切である」(第57章)と老子はいう。現代の言葉でいえば、自由放任の勧めといえる。その理由の一つは「世界中に煩わしい禁令が多くなると、人民は自由な仕事を妨げられていよいよ貧しくなる」(同)からだ。今の世の中でも、政府による規制が多くなりすぎると、個人や企業は自由な経済活動が妨げられ、その結果、社会から豊かさが失われるのは、よく知られた事実である。

それゆえ、「道」を体得した聖人はこう言っている、と老子は続ける。「私がことさらな仕業のない無為の立場を守っていて、それで人民はおのずからに感化されてくる。私が平静を好んでじっとしていて、それで人民はおのずからに正しくなる。私が格別なことを何もしないでいて、それで人民はおのずからに富んでくる。私が無欲でさっぱりしていて、それで人民はおのずからに樸(あらき)のような素朴になる」(同)

老子はさらに自由放任の勧めを説く。「政治がおおらかでぼんやりしたものであると、その人民は純朴で重厚であるが、政治がゆきとどいてはっきりしたものであると、その人民はずる賢くなるものだ」(第58章)。今日の政治は対照的に、人々の暮らしや経済活動の細々したところにまで気を配り、口を出そうとする。老子はそのような介入政策に反対する。なぜなら「災禍があればそこに幸福もよりそっており、幸福があればそこに災禍も隠れている。この循環のゆきつく果ては誰にもわからない」(同)からだ。

たとえば、現代の政府は景気が悪くなりかけると、すぐに財政・金融政策などでテコ入れしようとする。けれども、それによって目先は景気の悪化を避けられたとしても、永遠に先延ばしすることはできない。むしろ景気対策の副作用で物価が高騰したり、将来税金で返さなければならない政府の借金が増えたりして、人々を余計に苦しめる。そのために新たな対策が必要になってしまう。それならば、初めから景気対策などせず、経済が自然に回復するのを待つほうがいい。

また老子は「人民が飢えに苦しむことになるのは、お上が税をたくさん取りすぎるからであって、それゆえに飢えるのだ」(第75章)と述べ、重税で人々を苦しめる為政者に厳しい目を向けている。

老子の思想の特徴は、自由放任を説いた内政論とともに、戦争論にも表れている。老子は自衛戦争の必要は否定しないものの、その戦争論は平和主義、反戦主義に貫かれている。それが端的に示されるのは第31章だ。

老子は「武器というものは不吉な道具である。本来君子の使用すべき道具ではないのだ」と断じる。どうしてもやむをえず使わなければならないなら、執着をもたずにあっさり使うのが一番だ。「勝利が得られても、決して立派なことではない。それなのに、それを立派なこととして誉めそやすのは、つまりは人殺しを楽しみとしているということだ」。老子によれば、「敵を多く殺せば悲嘆の気が場に満ち、戦勝はまさに葬礼の場となる」。

戦争に勝ったというニュースが伝われば、銃後の国民は花火を上げ、行列してこれを喜ぶ。凱旋した将軍は、群衆の歓呼と小旗の波に盛大な出迎えを受ける。戦後はなくなったが、かつて戦争を繰り返した日本ではよくある風景だった。ところが老子はそうした熱狂に冷水を浴びせるように、戦いに勝ったら葬式のようにすすり泣けという。戦争の悲惨な本質を知る思想家でなければいえない言葉だ。

この言葉の背景について、歴史学者の保立道久氏はこう推測する。「老子は実際に戦闘を指揮する立場に立ったことがあったのではないか。敵を多く殺せば悲嘆の気が場に満ち、戦勝はまさに葬礼の場となるなどという言葉は、そうでなくてはなかなか吐けるものではないと思う」(『現代語訳 老子』<ちくま新書>)

黒人の救済に生涯を捧げ、のちにノーベル平和賞を受賞した医師シュバイツアーに興味深いエピソードがある。1945年5月7日、ドイツ軍が降伏して欧州での第二次世界大戦が終了したとき、シュバイツアーはアフリカのランバレネ(現ガボン)の病院で黒人患者の医療にあたっていた。たまたまラジオで大戦終了のニュースを傍受した欧州系の患者から聞いて、このことを知ったシュバイツアーはその日の夜、仏訳の『老子』をひもといて、心静かにこの一章を味わったという(楠山春樹『老子入門』<講談社学術文庫>)。

今日シュバイツアーに対しては、アフリカに対する西洋の植民地支配に無自覚だったという批判もなされる。それでもこのエピソードは、東西の平和思想の共鳴をよく伝えていると思う。

老子の戦争批判はこれだけではない。「軍隊が駐屯すると耕地も荒れ、大戦争のあとでは凶作が続く」(第30章)と指摘するとともに、「欲望をたくましくするのが最大の罪悪」(第46章)と述べ、戦争の原因は支配階層の私的な欲望だと喝破する。

中国思想学者の金谷治氏は、老子の思想は「一貫して反戦」だと述べる(『老子』)。世界で戦争が拡大する今日、平和を説いた老子の言葉をあらためて噛みしめたい。

2024-11-25

自由主義のイスラエル批判

オスカー・グラウ(音楽家)
2024年9月3日

(経済学者)ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスは、中央計画と社会主義の時代における自由の理想の擁護者であった。著書『自由主義』において、国家とは「社会における生活のルールに従うよう人々を強制する社会的装置」であり、自由主義の教義においてミーゼスが国家に割り当てた機能は、財産・自由・平和の保護である。そして、国家がその活動を進める際の規則から成る「法」がある。そして最後に、国家を管理する責任を負う機関から成る「政府」がある。
ミーゼスにとって、少数の人々による政府は被統治者(統治される人々)の同意に依存しているため、被統治者の大多数が自分たちの政府は優れていると納得しない限り、その形態、体制、人員を維持できる政府は存在しない。自由主義のその他のすべての要求は、財産という根本的な要求から生じる。財産とは、生産手段の私有所有(「消費可能な商品に関しては、私有所有は当然のことであり、社会主義者や共産主義者でさえも異論を唱えることはない」)を指す。

ミーゼスが言うように、自由主義の政策を一言で要約するとすれば、「財産」という言葉になるだろう。

戦争・征服・イスラエル国家


1948年、パレスチナにイスラエル国が建国された際、大多数の土地所有者の同意を得ることなく、政府が樹立され、その支配地域が拡大された。土地所有者の大半は追放されたり、殺害されたり、あるいは二級市民の地位に甘んじたりせざるをえなかった。実際、彼らはイスラエル軍によって奪われた広大な土地に住み、所有していた住民の大多数であった。このように、戦争と征服によってイスラエル国家が誕生し、建国前の数十年間にパレスチナに移住したユダヤ人の大半が、イスラエルという新国家の統治者の多数派となった。それ以来、イスラエル軍はイスラエルの拡大を目的とした戦争を止めず、新たな領土を征服し、それらの領土もまた、イスラエル国家の建国時に征服された領土と同様に、合法的に国有地として指定されている。

もし戦争が万物の父であるというのなら、人類の福祉と進歩のためには、人命の犠牲は必要であり、戦争による犠牲者を悼んでも、その数を減らそうとする努力をしても、戦争を廃絶し、永遠の平和を実現したいという願いを正当化することはできない。しかし、自由主義の視点は根本的に異なる。ミーゼスが説明しているように、自由主義の視点は、戦争ではなく平和こそが万物の父であるという前提から出発している。自由主義者が「戦争を忌み嫌う」のは、戦争が有害な結果しかもたらさないからである。

人間を進歩させ、動物から区別するのは社会協力である。生産的なのは労働だけである。労働は富を生み出し、それによって人間の精神的な開花のための外的基盤が築かれる。戦争は破壊だけをもたらす。何も創造できない。戦争、殺戮、破壊、荒廃は、我々をジャングルの捕食獣と同類にする。建設的な労働は、人間特有の特性である。

イスラエルの元首相メナヘム・ベギンが同国の征服を正当化するために用いた格言は、「我々は戦う、だから我々は存在する」というものだった。これはパレスチナのアラブ人が奪われた土地を取り戻すために用いることもできる(特に成功した場合)。いずれにしても、ミーゼスは戦争を悪とみなし、戦争を遂行し勝利する能力の有無に関係なく、次のように述べている。

(自由主義者は)勝利した戦争は勝者にとっても悪であり、戦争よりも平和の方が常に望ましいと確信している。強者に対して犠牲を要求するのではなく、自らの真の利益がどこにあるのかを理解し、平和は弱者だけでなく強者にとっても有益であることを理解することを求めている。

しかしミーゼスにとって、各々が戦う目的は重要である。

平和を愛する国家が好戦的な敵に攻撃された場合、抵抗し、攻撃を撃退するためにあらゆる手段を講じなければならない。自由と生命のために戦う人々によるこのような戦争における英雄的行為は、完全に称賛に値する。ここで、大胆さ、勇敢さ、死への軽蔑は、それらが善き目的のために役立つものであるため、称賛に値する。

ミーゼスに従えば、人間の行動が善か悪かは、「その行動が何のために行われ、どのような結果をもたらすか」によって決まる。この意味で、彼は次のような例を挙げている。

(ペルシアの大軍に対し少数の軍勢で戦って戦死した古代スパルタの王)レオニダスでさえ、祖国の防衛者としてではなく、平和な民から自由と財産を奪うことを目的とした侵略軍のリーダーとして斃れたのであれば、我々が彼に対して抱く尊敬に値する人物ではなくなるだろう。

戦争・宗教・自由主義


イスラエルの指導者たちは、パレスチナのアラブ人の祖国への侵略や財産の略奪を、戦争遂行能力に基づいて正当化しない場合、神学上の根拠に基づいて自らの行動を正当化し、ユダヤ民族を選ばれた民として選んだ神に訴えることで、戦争と征服を正当化する。しかし、これが自由主義の法の下の平等を否定する議論でないにしても、自由主義が理想とする、平和という同じ目標に向かって融合する自由主義的な国内・外交政策による全人類の完璧な協力という究極の理想とは明らかに異なる。つまり、国家間においても、各国内においても、自由主義は平和的な協力関係を目指している。

……自由主義の政策と計画全体は、人類の仲間同士の相互協力の現状を維持し、さらにそれを拡大するという目的を果たすために設計されている。

ミーゼスにとって、自由主義の思考は全人類を視野に入れ、コスモポリタンでエキュメニカル(全人類的)である。すべての人間と全世界を視野に入れている。

一方、自由主義は関心を世俗のものに限っている。宗教の王国は世俗のものではない。それゆえ、ミーゼスによれば「自由主義と宗教は、それぞれの領域を侵すことなく並存しうる」のである。両者が衝突するようなことがあっても、それは自由主義のせいではない。なぜなら、自由主義は「宗教的信仰や形而上学的教義の領域」に立ち入ることはないからだ。また、平和の確保が何よりも優先されるべきであるという信念から、自由主義は「あらゆる宗教的信仰と形而上学的信念に対する寛容」を宣言している。しかし宗教的には、ベギンは、エホバの神の永遠の贈り物であるイスラエルの地(古代のユダ王国とイスラエル王国)をユダヤ人入植者に与えることでイスラエルの領土拡大を主張し、占領した土地を「解放された」と位置づけた。

そして、自由主義が(かつて)「来世における人間と世界の関係だけでなく、現世の問題についても自らの判断に基づいて規制する権利を主張する政治的な力である」教会と対決したのであれば、イスラエル国家とも対決しなければならない。イスラエル国家が宗教戦争を行なっているからだけでなく、何十年にもわたって、住民全体の財産、自由、平和に対して政治的・軍事的権力を恣意的に偏見をもって濫用することによって、民族・宗教の帰属によって歴史的なパレスチナの世俗の問題を規制してきたからである。

戦争・私有財産・自己決定


自由主義者は「説教や道徳的な訓戒によって戦争を廃絶できるとは思っていない」けれども、戦争の原因を排除する条件を作り出すことはできると考えている。そして、戦争の原因を排除するための第一条件は私有財産であると述べたうえで、ミーゼスは次のように付け加えている。

戦争時においても私有財産を尊重しなければならない場合、すなわち、戦勝国が民間人の財産を自らのものとする権利を持たず、また、生産手段の私有が至るところで優勢であるため公有財産の接収がさほど大きな意味を持たない場合、戦争を遂行する重要な動機はすでに排除されている。……自決権の行使が茶番に終わらないよう、政治制度は、ある政府から別の政府への領土の主権の移譲が、誰にとっても何の利益も不利益ももたらさない、最も重要性の低い問題となるようなものでなければならない。

しかし、イスラエル国家の指導者たちは、戦争の原因を排除しようと努力したことは一度もなく、むしろそのような原因を作り出すことに固執してきた。イスラエルの領土のほとんどすべてが国有地であり、同国の法律では、同国の土地はすべて公共の信託財産として保有され、排他的な私有財産としては保有されないと規定されていることを考えると、イスラエルにおける公共財産は大きな意味を持つ。そして1948年以来、戦争の征服者であり勝利者であるイスラエル国家は、今日に至るまで、多くの私有財産を民間人から接収してきた。

さらに、パレスチナの主権は、英政府によってアラブ人多数派やその他の誰かに譲渡されることは決してなく、むしろユダヤ人少数派に大きく委ねられた。その多くは、イスラエル建国以前から英国の国家権力から恩恵を受けており、それはユダヤ人の移住を促進するためにアラブ人の土地収用を推奨し、幇助するものだった。これらの出来事は、英政府がアラブ人の大多数の市民権を保証すると約束したことや、その故郷における自決権を真剣に考慮したことを茶番劇におとしめた。それ以来、1948年以降はイスラエル国家の手によって、何百万人ものアラブ人が不利益を被るだけでなく、死や貧困にも直面してきた。

実際、アラブ人と同様に、イスラエル建国以前のパレスチナのユダヤ人社会にも、同様の自己決定権が認められていた。そして、自由主義の考え方では、この権利は戦争を防ぐためにきわめて重要である。

……特定の領土の住民が、それが単一の村であろうと、地域全体であろうと、あるいは隣接する複数の地域であろうと、自由に行われる住民投票によって、その時点で属している国家に留まることを望まないことを表明し、独立国家の樹立を望むか、あるいは他の国家に併合されることを望む場合、その意思は尊重され、遵守されるべきである。これが革命や内戦、国際紛争を防ぐ唯一の現実的かつ効果的な方法である。

しかし、イスラエル国家の建国がまさにこの権利をはるかに超えたものであり、イスラエルはアラブ人の運命をその自己決定権に反して決定する権限を持っていたため、戦争を防ぐことができなかった。

ユダヤ教のラビの息子であったミーゼスの考えに従うならば、自由な国の民でありながら社会協力を選ぶのではなく、宗教的な正当化によって戦争や征服を選ぶ選民であることはできない。要するに、イスラエルの建国とその拡大継続は、自由主義を放棄することによってのみ正当化できるのである。

(次を全訳)
A Misesian Case Against the State of Israel | Mises Institute [LINK]

【コメント】パレスチナ問題についてはミーゼスの弟子であるマレー・ロスバードも取り上げ、イスラエル政府を厳しく批判している。今回の記事はリバタリアンの論客グラウ氏が、「もしミーゼスがパレスチナ問題を論じたら」という趣旨で書いたものだが、説得力がある。ロスバードがパレスチナの正義という倫理的な側面を強調するのに対し、ミーゼスは功利主義者らしく、戦争は害悪しかもたらさないと損得に訴えるだろう。いずれにしても重要なのは、自由主義の立場からは、イスラエル政府によるパレスチナの侵略と虐殺は愚かで許されない行為だということだ。

2024-11-23

俳句(2024年11月)



いなびかり凍てつく果ての闇夜かな

暗きよりせせらぎ聞ゆ返り花

この先に行くところなし狂ひ花

戦争は今日も終はらず狂ひ花

読書の秋賢くなったためしなし

2024-11-22

主流派経済学の嘘

トーマス・ディロレンゾ(ミーゼス研究所所長)
2024年11月9日

経済学者ミーゼスは、1880年代に設立された米経済学会に一度も参加しなかった。その理由については、同学会の設立文書にヒントがある。「政府は教育・倫理的な機関であり、その積極的な支援は人類の進歩に不可欠な条件である」と、その文書はうたっている。一方、「自由放任の教義」は「政治的には危険であり、道徳的には不健全である」と、同学会を設立した国家主義的な道学先生は述べている。
典型的な経済学入門の教科書は、ほとんどのページを「市場の失敗」に関する果てしない話(フリーライダー問題、外部性、独占と寡占、独占的競争、非対称情報など)に割いており、資本主義の礎である起業家精神についてはほとんど触れていない。

米国で産業革命が進んだ1880年代に「独占化の横行」を理由に独禁法が必要になったというのは大嘘だ。私は「法と経済学の国際論集」誌の記事で、当時独占行為で告発された業界が、米国で最も競争力があり、ダイナミックで、値下げを行い、革新的で、生産拡大を続ける業界だったことを示した。独禁法の目的は競争を妨げることであり、競争の「保護」ではなかった。

経済学の学生に教えられてきた最も馬鹿げていることの一つは、フリーライダー問題のせいで、米国は「国防」に費やす費用が少なすぎるというものだった。「効率性」は課税の強制を必要とするらしい。国防費を拡大しているからという理由で、国防総省の汚職や不正を擁護する経済学者もいる。国防費の拡大はフリーライダー問題によって妨げられているはずだという。一体誰が、国防総省の支出を「効率的」だと決めるのだろうか。

ノーベル経済学賞は、その後の研究で偽物であることが証明された「市場の失敗」に関する数多くの理論に対して授与されてきた。ジャネット・イエレン(米財務長官、元米連邦準備理事会議長)の夫であるジョージ・アカロフは1970年、「情報の非対称性」によって中古車市場がまもなく消滅するという論文で、ノーベル賞を共同受賞した。自動車の買い手が不良品を買わされたかどうかを判断できるようにする30日間の保証制度については、まったく知らなかったようだ。

デビッド・カードは、最低賃金法が失業の原因ではないとする論文でノーベル賞を受賞したが、全米経済研究所がその研究を再調査した際には、論文には「重大な欠陥がある」とされた。このようなたぐいのエピソードは数多くある。

財政学では、課税の「抜け穴」は非効率的だと教えられている。なぜなら、それは「人為的な」市場の歪みを生み出すからだ。政府官僚が国民の税金をより多く使う方がはるかに効率的だと教えられている。そしてケインズ経済学の要である「節約のパラドックス」という俗説がある。これは、貯蓄が消費を減らし、それが国内総生産(GDP)を減らし、結果として貯蓄が減るという主張だ。この理論は何十年にもわたって、貯蓄の利子所得に対する没収的な課税を「正当化」してきた。

主流派経済学の精神的指導者といえば、おそらくポール・サムエルソンを挙げることができるだろう。その著書『経済学』は40年間にわたり教科書販売のトップを独走し、その間、他の教科書のほとんどはその模倣だった。この本やそのたぐいの本に浸透している国家主義的な偏見は、1988年版でサムエルソンが書いた内容に集約されている。2000年までにソ連のGDPが米国を上回るだろうという予測である。

(次を抄訳)
All States are Empires of Lies | Mises Institute [LINK]

【コメント】今の経済学の教科書で正しい部分は、せいぜい全体の4分の1といったところだろう。まず、ケインズが創始したマクロ経済学はほぼすべて間違っている。残ったミクロ経済学のうち半分は、ディロレンゾ氏が批判するように、「市場の失敗」をいいかげんな根拠で躍起になって非難し、政府の失敗はなぜか無視される。政府は自分を正当化するために嘘を振りまき、御用学者にごほうびを与えるが、経済学はそれがとくにひどい。

2024-11-21

政府効率化省にロン・ポール氏を!

デビッド・ゴルノスキー(作家)
2024年11月20日

ほとんどの米国人は、スリムで効率的な政府、すなわち憲法に従い、財政的に誠実な政府を切望する心を持っている。この追求において過去60年間、これほど象徴的で執拗な人物は、元下院議員のロン・ポール氏をおいて他にいない。最近(次期米大統領)トランプ氏が発表した、イーロン・マスク氏とビベック・ラマスワミ氏が率いる「マンハッタン計画」政府効率化省(DOGE=ドージ)にまつわる興奮をよそに、必要な削減を実現するうえで、ロン・ポール氏ほど誠実な推進役はいないだろう。伝説のドクター・ノー〔訳注・医者であり、新たな支出や増税に対して一貫して反対票を投じたことからついたあだ名)をテーブルにつけ、DOGEのリーダーシップを完璧なものにすべきだ。
ロン・ポール氏は、真実と財政保守主義に対するお手本ともいえる献身の姿勢をもたらす。憲法と自然法の原則に基づく生涯にわたる政府縮小の提唱は、同氏を唯一無二の適任者としている。1970年代にさかのぼる警告と努力により、米国を財政破綻から救おうとするうえで、ロン・ポール氏ほど信頼に足る人物はいない。

ポール氏は、政府の運営に積極的に関与することを望んでいないと表明している。DOGEは非政府組織だと宣言しているから、これは好都合だ。しかしポール氏が実際に出向いたり日々関与したりする必要はない。ポール氏は、DOGEプロジェクト内で自身の理想や優先事項を代弁する人々を簡単に派遣することができる。この役割は、権力を振りかざすことではなく、揺るぎない原則に基づいて政策を導くことだ。

ロン・ポール氏の哲学によると、削減の最初の対象となるのは、多くの人が思い込んでいるのとは逆に、貧困層を支援する福祉事業ではない。代わりに同氏が優先事項として挙げるのは、企業への助成金廃止と、縁故主義にまみれた莫大な軍事費の削減である。これらの分野は、財政の無駄遣いであるだけでなく、米国の価値観と資源に対する裏切り行為である。米国は、世界の警察官、代理戦争、政権転覆作戦といったカネのかかる網に絡め取られすぎており、これらは国益に資するものではなく、また、我が国の子供たちを破産から守るものでもない。有権者がトランプ氏に託した「米国第一主義」の命題を達成するには、国内外で歴史的な政府の規模の縮小を実現しなければならない。さもなければ、破局が待ち受ける。

次期副大統領のJ・D・バンス氏が最近述べたように、ロン・ポール氏による連邦準備理事会(FRB)に関する洞察は非常に貴重だ。この違法な機関と、その悪用やインフレによる貧困層や中流階級からの収奪に対するポール氏の闘いは、耳を傾けるべきものだ。FRBとの存亡を賭けた対決にすぐに直面する可能性があるトランプ、マスク両氏にとって、ロン・ポール氏の視点は極めて重要になるかもしれない。ポール氏の金融政策に関する理解は、米国の経済状況を再定義するような決断を下す際に、両氏を導くことができるだろう。

DOGEの物語は自らを正当化する。 ポール氏との交流は、マスク氏だけにとどまらない。ポール氏と多くの価値観を共有し、選挙戦中にはポール氏の支持者を積極的に取り込もうとしていた人物、ラマスワミ氏ともポール氏は対談している。このつながりは、米国の建国250周年記念日まで、ポール氏の助言を常に得ておくことの重要性をさらに強調している。財政保守主義と自由の代弁者の声が単に聞かれるだけでなく、影響力を持つことを確実にするためだ。

米国が政府の無駄を大幅に削減する必要があるという主張は目新しいものではないが、DOGEとポール氏の関与による取り組みは、新鮮で、潜在的に変革をもたらす見解をもたらす。これは単にコスト削減を意味するのではなく、政府の行動を建国の父たちが掲げた生命、自由、幸福の追求という理念に沿うようにすることを意味する。

トーマス・ジェファーソン(第3代大統領)は中央銀行に警告を発した。ジョン・クインシー・アダムズ(第6代大統領)は「米国は怪物を滅ぼすために外国へ出向くことはない」と述べ、ジョージ・ワシントン(初代大統領)の意見を繰り返した。トランプ氏の個人的なヒーローであるアンドリュー・ジャクソン(第7代大統領)は、米国で2番目に設立された中央銀行を廃止したことが自分の最大の功績だと述べた。ロン・ポール氏と建国の父たちとの共鳴は尽きることがない。ポール氏の助言に従うことは、トランプ氏に建国の父たちを国の意思決定に再び呼び戻す機会を与えることになる。

(次を抄訳)
For DOGE to Hunt Waste, It Needs Ron Paul to Sic It - LewRockwell [LINK]

【コメント】「ドージ(Doge)」は「犬(Dog)」を意味するスラングで、インターネットミーム(ネット上の面白ネタ)として話題になった柴犬を由来としている。ここから「ビットコイン」をまねて2013年にジョークとしてつくられた仮想通貨がドージコインで、イーロン・マスク氏が愛好することで知られる。同氏のトランプ政権入りにより、ついに「政府効率化省」の略称にまで出世を遂げた。狩りの名人ロン・ポール氏のかけ声とともにワシントンの沼地に飛び出し、米政府の無駄を食い尽くしてもらいたいものだ。もともと柴犬だし、ぜひ日本にも来てほしい。

2024-11-20

トランプ氏はイランと和平を結べるか?

ロン・ポール(元米下院議員)
2024年11月18日

次期米大統領のトランプ氏が選挙後の勝利宣言演説で述べた、最も勇気づけられる、最も期待できる言葉のひとつは、「私は戦争を始めるつもりはない。戦争を終わらせるつもりだ」というものだった。選挙が終われば、選挙公約の寿命は短いものになることが多いことは誰もが理解しているが、トランプ陣営が繰り返し戦争よりも平和を訴えてきたことは、少なくとも、それが米有権者に対する勝利のポイントだとトランプ氏が考えていることを示している。
トランプ氏の次期政権で、特に外交政策の要職にタカ派を指名していることを踏まえると、この平和への呼びかけは行動に移されることになるのだろうか。それはまだわからないが、先週、イランの国連大使と会談させるためにイーロン・マスク氏を派遣したという報道は、事実であれば良い兆候である。イラン側はこのような会談が行われたことを否定しており、また、トランプ次期大統領とプーチン(ロシア)大統領やその他の世界の指導者との会談の噂が飛び交っているため、単なるメディアの作り話である可能性もある。

しかし、かりにトランプ次期大統領がイラン側との会談にマスク氏を派遣したという事実がなかったとしても、そうすることは良い考えである。なぜマスク氏なのか。マスク氏はトランプ次期政権で正式な役割を担うことは期待されていないため、次期大統領の非公式なアドバイザーや友人として見られる可能性がある。さらに、実業家であるイーロン・マスク氏は、政府の外交官とは異なる言語を話す。

なぜイラン人と会うのか。何を話すというのか。取り上げるべき重要なトピックのひとつは、バイデン政権の米連邦捜査局(FBI)が主張している、当時大統領候補であったトランプ氏を暗殺しようとしたというイランの陰謀だろう。ラリー・ジョンソン元米中央情報局(CIA)分析官を含む多くのコメンテーターが主張しているように、FBIの起訴状に記載されているこの陰謀はありそうもない。ディープステート(闇の政府)のタカ派が、トランプ大統領が就任したあかつきにイランとの国交正常化に走らないよう、この疑わしい陰謀をでっち上げた可能性はあるだろうか。FBIはテロ計画をでっち上げた歴史があるだけに、残念ながら、この可能性を否定することはできない。

イランの否定を信用すべきだという意味だろうか。もちろん、そうではない。しかし、議論する価値はある。

トランプ大統領は2期目には、1期目の「最大限の圧力」政策に戻ると見られている。その判断は誤りである。トランプ氏はホワイトハウスに戻っても同じ世界に身を置くわけではない。ウクライナにおける代理戦争は、外交政策の手段としての制裁や圧力の無益さをこれまで以上に明らかにしている。米国の制裁対象国は、米国抜きで貿易や外交を行う独自の道を歩み始めている。

つまり、米国は制裁を次から次へと課すことで、ロシア、中国、イランを孤立させたわけではない。米国が自らを孤立させたのだ。(有力新興国で構成する)BRICSのような組織の出現を見れば、このことは明らかである。

米国が繁栄するためには、外国貿易の拡大が必要だ。(仏経済学者)フレデリック・バスティアは「商品が国境を越えなければ、兵士が越えることになる」と述べたとされる。近年、その状況をすでに十分見てきた。ある人が最近書いたように、もしニクソン氏(元米大統領)だけが(国交正常化のために)中国に行けたのであれば、おそらくトランプ氏だけがイランに行くことができるだろう。イランと和平を結べば、中東全域とそれ以外にも影響を及ぼす成果となるだろう。イスラエルにとっても、イランとの戦争状態を回避することは有益だ。戦争はすべてを破壊するが、平和は築き上げる。新たな取り組みに期待しよう。

(次を全訳)
If Trump Didn’t Send Musk to Talk with the Iranians…He Should! - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

【コメント】タカ派のネオコン色を強めるトランプ次期政権だが、これは明るいニュース。米紙ニューヨーク・タイムズによれば、イランの国連大使との面会はイーロン・マスク氏が要請し、両者は米国とイランの緊張緩和についてニューヨークで協議した。会談は「建設的」だったという。リバタリアンのロン・ポール氏も素直に評価している。過度な楽観は禁物だが、トランプ、マスク両氏というビジネスマンの「新たな取り組み」により、和平という「ディール」がうまく成立するよう願おう。

2024-11-19

減税を求め、政府支出には無関心——サプライサイド経済学批判

マレー・ロスバード(経済学者)
2024年11月16日

[編集者注:1984年10月に最初に発表されたこの記事で、マレー・ロスバードは共和党と保守派の経済学の問題点を批判している。つまり、その支持者は、税率を引き下げて政府支出を増やすことで、巨額の赤字を何とか増やさずに両方の利益を得ることができると考えている。その多くは、(減税で税率を最適水準に下げれば税収を増やすことができるという)いわゆるラッファー曲線の考え方に基づいているが、ロスバードはこれを懐疑的に見ている。さらにロスバードは、ほとんどの保守派が「金本位制」について話す際、意味するのは本物の金本位制の代用品である、政府に規制された金本位制だと指摘している。その根底にあるのは、巨大な米国の福祉国家について何もしないことだ。当時、この種のものは「サプライサイド(供給側)経済学」と呼ばれていた。残念ながら、今日のMAGA(トランプ次期米大統領のスローガン「米国を再び偉大に」)経済学は多くの点で、失敗した昔のサプライサイド経済学の焼き直しであり、ロスバードの批判は依然として重要な資料である。]
サプライサイド学派の中心となる主張は、限界所得税率の大幅な引き下げは、労働と貯蓄、ひいては投資と生産への意欲を高めるというものである。そうだとすれば、異論を唱える人はほとんどいないだろう。しかし、そこには他の問題も絡んでいる。少なくとも有名なラッファー曲線の国では、所得税の引き下げは財政赤字の万能薬として扱われていた。大幅な税率引き下げは、税収を増加させ、均衡予算をもたらすとされていた。

しかし、この主張を裏付ける証拠はまったくなく、実際、可能性はまったく逆である。所得税率が98%で、90%に引き下げられた場合、おそらく税収が増加するというのは事実である。しかし、これまでのはるかに低い税率では、この仮定を正当化する根拠はない。実際、歴史的に、税率の引き上げは収入の増加につながり、その逆もまたしかりであった。

しかし、サプライサイドにはラッファー曲線の誇張された主張よりももっと深刻な問題がある。サプライサイド派全員に共通するのは、総政府支出、ひいては財政赤字に対する無関心である。緊縮財政であれば民間部門に回るはずだった経営資源が公共部門に取られることを気にしない。

彼らが気にするのは税金だけだ。実際、財政赤字に対するその姿勢は、古いケインズ派の「我々は自分から借金をしているだけ」という考えに近い。それよりも悪いことに、サプライサイド派は現在の膨れ上がった政府支出の水準を維持したがっている。自称「ポピュリスト」として、その主張の基本は、国民は現在の支出レベルを望んでおり、その期待を裏切るべきではないというものだ。

支出に対するサプライサイド派の姿勢よりもさらに奇妙なのは、お金に対する見方だ。一方では(金などの裏付けのある)ハードマネーを支持し、「金本位制」に戻ることでインフレを終わらせると主張している。他方、ポール・ボルカーの連邦準備理事会(FRB)を、インフレ政策が過ぎるからではなく、「過度に引き締めた」金融政策を実施し、それによって「経済成長を阻害している」として絶えず攻撃してきた。

要するに、これらの自称「保守派ポピュリスト」は、インフレと低金利を熱愛する点において、まるで昔ながらの(左派)ポピュリストのように思えてくる。しかし、それは金本位制の擁護とどのように整合するのだろうか。

この質問の答えの中に、新しいサプライサイド経済学の一見矛盾する問題の核心へのカギがある。サプライサイド派が望む「金本位制」は、実質のない金本位制の幻想を提供するだけだ。銀行は(預金を)金貨で払い戻す必要はなく、FRBは経済を微調整する手段として、金ドルの定義(交換比率)を自由に変更する権利を持つことになる。要するに、サプライサイド派が望んでいるのは、昔のハードマネーの金本位制ではなく、インフレとFRBの通貨管理に屈して崩壊した、ブレトンウッズ時代の偽りの「金本位制」なのだ。

サプライサイド理論の核心は、ベストセラーとなった哲学的マニフェスト、(経済ジャーナリスト)ジュード・ワニスキー著『世界の仕組み』で明らかにされている。ワニスキーの見解は、人々、つまり大衆は常に正しく、歴史を通じて常に正しかったというものだ。

経済学では、大衆は大規模な福祉国家、大幅な所得減税、均衡予算を望んでいるとワニスキーは主張する。これらの矛盾した目的をどうやって達成できるのか。ラッファー曲線の巧妙な手法によってである。そして金融分野では、大衆が望んでいるのはインフレと低金利、金本位制への回帰であるように思われる。それゆえ、大衆は常に正しいという公理に支えられ、サプライサイド論者は、インフレ政策をとり、金融を緩和するFRBに加え、偽りの金本位制による安定の幻想を与えることで、大衆の望むものを与えようと提案するのだ。

(次を抄訳)
A Walk on the Supply Side | Mises Institute [LINK]

【コメント】現在の日本の減税運動の一部にも、かつてのサプライサイド派や今のトランプ派と似た欠点が見受けられる。減税を求めることには熱心だが、政府支出の削減は後回しにする傾向だ。政府支出は結局、何らかの形で国民が負担するしかないから、もし減税で税収が減れば、支出を減らしたくない政治家や官僚は、これまで同様、不足分を赤字国債の発行と、それを日銀に事実上引き受けさせることで穴埋めするだろう。それはお金の価値を薄め(インフレ税)、物価高を招き、産業の新陳代謝を妨げ、暮らしを苦しくする。政府支出の削減を伴わない減税は、担保を取らずに金を貸すようなもので、あとで痛い目にあう。

2024-11-18

トランプ氏のネオコン人事

ライアン・マクメイケン(ミーゼス研究所編集主任)
2024年11月12日

トランプの最初の大統領任期は、同氏が任命した数えきれないほどのお粗末な人選で注目を集めた。これは政治任用と政策任命の両面でいえた。政治任用では、トランプは自分をいつも政治的におとしめようとする人々を任用した。トランプ自身が任用した人々の多くは、2020年と2024年にトランプに反対するキャンペーンを展開することになった。トランプの無知な支持者たちは、これがすべてどういうわけだか、「4次元チェス」(凡人には到底認識できない長期的で壮大な知略)なのだと請け合った。もちろん、そうではなかった。4次元チェスという表現は、子供たちが言うように、いつだって「妄想剤」(現実を受け入れられない時に使う架空の薬)だった。
政策任命では、トランプ大統領の人事はさらにひどいものだった。ニッキー・ヘイリー(元国連大使)、ジョン・ボルトン(元大統領補佐官)、マイク・ポンペオ(元国務長官)といったネオコン(新保守主義)の好戦派、そして数え切れないほどのネオコン寄りの下級官僚が政権の要職に就いた。さらに、多くの連邦省庁で要職に就いた戦争推進派は、政権を弱体化させ、ロシアとの戦争を推進しようと露骨に画策する軍部の面々を守ることができた。卑劣な軍国主義者、アレクサンダー・ビンドマン(バイデン大統領に関するウクライナ不正疑惑を巡ってトランプ氏と対立した元陸軍中佐)が思い浮かぶ。

今、トランプは以前の悪癖に戻ったように見える。次期政権は公式には同じ過ちは繰り返さないと述べているが、新たな証拠は逆を示唆している。すでにトランプは、国連大使にエリス・ステファニク(下院議員)、国家安全保障担当の大統領補佐官にマイク・ウォルツ(同)を任命している。

もちろん、またしてもトランプ支持者の騙されやすい一部から、すべては4次元チェスだとの声が聞こえてくる。

そうだろうとも。

ウォルツは、(ネオコンの)ドナルド・ラムズフェルド(元国防長官)、ディック・チェイニー(元副大統領)の信奉者であり、ある動画の中でトランプ氏を称賛しているが、それはトランプが「イランを崩壊させる」「イスラエルとともに立つ」「中国に代償を支払わせる」など、ネオコンの主張するお決まりのテーマをすべて支持しているからだ。ウォルツは「同盟国とともに立つ」ことを称賛しているが、おそらくこれには、2017年のリヤド訪問でトランプを操ったサウジアラビアも含まれるだろう。ウォルツがイスラエル国家について正しいことは言うまでもない。トランプのホワイトハウスは常にイスラエルに占領された領土だった。「米国第一」(のスローガンが偽りであること)については、これで十分だろう。

ウォルツはウクライナでの紛争激化を繰り返し呼びかけてきた。つまり、選挙戦の大半を通じてトランプ氏が支持基盤に語りかけてきたことの正反対を主張しているのだ。

ステファニクの経歴は、親イスラエルの非政府組織(NGO)を推進し、ジョージ・ブッシュ(子、元大統領)やポール・ライアン(下院議長)といった典型的な保守派の政治家を支援するディープステート(闇の政府)工作員として長年働いてきたことで特徴づけられる。外交政策エリートへの貢献が認められ、議員になって数カ月で、国防政策に関する重要な委員会にすぐに任命された。彼女はワシントンの現状に何ら脅威をもたらさない。

ステファニク、ウォルツがプライバシーと財産権の敵であることは周知の事実である。〔訳注・外国情報監視法=FISA=による令状なしの国民監視に賛成〕

トランプ次期大統領の人事に関する最新ニュースは、マルコ・ルビオ(上院議員、共和党)を国務長官に指名する予定であるというものだ。おそらくディック・チェイニーは無理だったのだろう。ルビオは、いつでもどこでも世界中で軍事介入の継続を推進する外交族政治家のトップに立つ。ランド・ポール(上院議員)にならって、「ヒラリー・クリントン(元国務長官、民主党)とマルコ・ルビオは同じ人間だ」といってもいい。〔訳注・政党は違っても同じタカ派のネオコンという意味〕

これがトランプの示すベストの人選なのか。今のところトランプは、外交政策の役割を担うのにふさわしく、自分のために熱心に選挙運動をしたトゥルシー・ギャバード(元民主党下院議員)に対して何も提示していない。もし彼女が政権で得るポストが些細なものであれば、それはトランプがアメリカ帝国の機能を根本から変えるつもりなどなかったことが急速に明らかになっている政権を象徴するものとなるだろう。〔訳注・その後、ギャバード氏は国家情報長官への起用が決定〕

一方、(保守派評論家)ベン・シャピロは非常に満足している。

(次を全訳)
Here Come the Awful Neocon Trump Appointments | Mises Institute [LINK]

【コメント】ヘイリー、ポンペオ両氏が外れてホッとしたのも束の間、ルビオ氏が外交を仕切る国務長官に起用されるなど、トランプ次期米政権の顔ぶれは急速に好戦的なネオコン色を濃くしている。そのトランプ氏が大統領選の勝利後、最初の会談相手に選んだ外国首脳が、同じくネオコン路線で、イスラエルのガザ攻撃を支持するアルゼンチンのミレイ大統領だった意味を、ミレイ氏の明るい面だけに注目する日本のリバタリアンはよく考えておくべきだろう。

2024-11-16

ミレイ氏の政治ゲーム

オスカー・グラウ(音楽家)
2024年9月24日

「私は政府を内部から破壊する者だ」 「国家は犯罪組織だ」「課税は窃盗だ」「国家は何もかも間違っている」。 これらはお上品な政治言説の壁を破り、2021年に下院議員となった後、2023年にアルゼンチン大統領の座を射止めたハビエル・ミレイが口にした多くの反国家主義的(あるいは無政府資本主義的)せりふのほんの一部にすぎない。
左派であれ右派であれ、国家主義者が権力を握れば国家主義は前進し続け、あるいは守られる。多くの人々は国家主義と徹底して闘うミレイに期待を寄せていた。しかし、その政治的冒険は、正しい方向への変化を超えて、国家主義に有利な政治ゲーム以上のものではないことが明らかになった。

2024年5月のインタビューで、ミレイは自身の計画に関するおおまかな考えを示した。その説明によれば、「不潔」な税金があり、他に消えなければならない税金、地方に依存し改革が必要な税金がある。ミレイが示した歳出凍結案では、経済が立ち直り成長し始めると、国内総生産(GDP)に占める支出の規模は減少する。そして無数にある税金は、「支払うべき」「理解できる」税金が4つ程度という簡素な制度に移行し、政府規模はGDPの25%となる。ミレイはかつて増税したら自分の腕を切り落とすと約束したが、インタビューでは税は上がったと認めていた。

(リバタリアン思想家)ロスバードの伝統に従えば、歳出を凍結するだけで、さらに削減しない理由はない。ミレイは「簡素な税」論者の1人にすぎないかもしれないが、どの税も望ましいとほのめかし、どの税が「支払うべき」「理解できる」税かを決めるのは独断的であり、反国家主義の精神に反する。政府規模に対する妥当な比率として25%という考えを提案するのは、反国家主義者としては不適切だし、実質経済成長に対する非現実的で貧弱な尺度に基づくことはいうまでもない。

課税が窃盗であるならば、ミレイの増税が「一過性」であることを理由に容認するのは、泥棒がすぐに盗みを減らすと約束したからといって路上強盗の増加を進んで容認するのと大差ない。

ミレイは何年もかけて敵対政党の福祉政策を批判してきたにもかかわらず、2024年6月、ミレイ内閣の経済相はさまざまな福祉政策への支出増を自慢する一方で、「最も弱い立場の人々を念頭に置いて達成された 」歴史的な財政収支について語った。

たしかにミレイの均衡予算には歴史的な削減が含まれている分野もあるが、福祉政策のように支出を増やした分野もあるし、今後もそうする予定である分野もある。したがって、すべては新しい風が吹くかどうかにかかっている。たとえば、北大西洋条約機構(NATO)と米シオニスト帝国主義に味方するミレイの外交政策と、24機のF16戦闘機の購入である。さらにミレイは2024年7月、国防と治安サービスの予算をほぼ倍増させた。また、軍の威信を回復し、近代化を図りたいとして、軍事費は今後8年間でGDPの1.5%増加すると予測されている。

ミレイは就任と同時に、省庁の数を22から9に減らした。この措置は象徴的なものだった。一部の省庁に他の省庁の吸収を命じただけだったからだ。そして2024年6月、ミレイは女性・ジェンダー・多様性省の廃止を完了した。これと国立差別・外国人排斥・人種差別研究所の閉鎖は、税金を財源とする革新主義との闘いとして称賛に値する。

いずれにせよ、2024年7月までに約3万1000人がミレイ政権で雇われなくなった。一方、新規採用者は6月までに3000人近くに上った。政府契約の不更新は珍しいことではなく、ミレイの数字はまだささやかだが、この分野での努力は評価されるべきだ。

(次を抄訳)
Milei’s Political Game | Mises Institute [LINK]

【コメント】グラウ氏は本職はミュージシャンだが、オーストリア学派経済学とリバタリアン政治理論の理解に基づき、ミレイ大統領の負の側面を厳しく批判し続けている。多くのリバタリアンがミレイ礼賛に終始する中で、その分析は非常に有益だ。ミレイ氏の内政は、好戦的な外交政策に比べればましであり、評価すべき点もあるが、現時点で手放しで称賛できるものではない。政治家は演説の美辞麗句ではなく、結果で評価しなければならない。

2024-11-15

トランプ大統領の2期目、何を意味するか

ダグ・ケーシー(作家・投資家)
2024年11月14日

ドナルド・トランプ氏の(米大統領としての)今後4年間については、前回の任期より優れた判断力を示すよう期待したい。当時はおべっか使いやディープステート一派、政治的ペテン師に取り囲まれていた。しかし今回は楽観的だ。例えば、マイク・ポンペオ氏(元国務長官)、ニッキー・ヘイリー氏(元国連大使)という恐ろしい人物を起用しないと発表した。
さらに、ロバート・ケネディ・ジュニア氏を食品医薬品局(FDA)を監督する地位(厚生長官)に就けると発表した。また、イーロン・マスク氏に連邦支出を2兆ドル削減するよう命じた。さらに、ロン・ポール氏を金融政策に意見を述べる立場に就けることも検討しているようだ。そして、ジョエル・サラティン氏(農家・作家)を農務省の役職に就けるようオファーしたようだ。

トランプ氏は哲学的な中核を持たず、行き当たりばったりで、知識も乏しく、前回は人々に対する判断力がひどく欠けていたが、今回は実際に物事を実現する人々を選ぶという点では、はるかに良い仕事をしていると思う。

トランプ氏は常に「低金利派」であり、「負債王」であると自称してきた。1期目の大統領在任中に大盤振る舞いをして、巨額の赤字を積み上げた。その額はブッシュ(子)、オバマ両大統領よりも相対的にも絶対的にも大きかった。過去4年間のバイデン氏の実績よりもさらに大きなものだ。トランプ氏は経済について真の理解がないので、経済を「支援」するために紙幣の印刷を推奨するだろうと予想している。彼に選択肢があるわけではない。紙幣の印刷を続けなければ、債務バブルは崩壊してしまうのだ。

明るい面に戻ると、トランプ氏は経済の大幅な規制緩和を望んでいる。これは非常に大きなプラスだ。また、減税を望んでいる。すばらしいことだ。しかし悪いニュースは、政府支出を削減しなければ減税などありえないということを理解していないことだ。特に今は、政府支出の3分の1が米連邦準備理事会(FRB)への債券売却によって賄われており、これは事実上の紙幣印刷に他ならない。この傾向はさらに強まるだろう。小売物価は確実に上昇するだろう。しかしすでに高値圏にある株式市場は、資金が流入することでさらに上昇するかもしれない。

イーロン・マスク氏が年間2兆ドルの予算削減を望んでいるのはすばらしいことだ。財政赤字額とほぼ同額だ。 しかし実現の可能性はゼロに近いだろう。社会保障、メディケイド(低所得者向け公的医療制度)、メディケア(高齢者向け公的医療制度)、国債利払い、軍事予算などは神聖不可侵であり、予算の90%以上を占めている。

マイナス面としては、トランプ氏はイスラエルへの揺るぎない支持を表明している。イランとの熱い戦争において米国がイスラエルの代理人となる可能性があり、そうなれば最悪だ。イスラエルは米国の51番目の州ではない。トランプ氏は戦争を回避したいと考えているが、中東版「仁義なき戦い」のような核の泥沼に米国を巻き込む可能性もある。

再び明るい面を挙げるとすれば、トランプ氏はウクライナ戦争を終わらせることができると主張している。ゼレンスキー(ウクライナ大統領)、プーチン(ロシア大統領)両氏と個人的に良好な関係にあると考えているからだ。プーチン氏のことを何と言おうと、ゼレンスキー氏はさらに危険であり、無意味な国境紛争を長引かせるために数十億ドルを米国から略奪した責任がある。唯一の勝者は、ウクライナの官僚と、同様に腐敗した軍事「防衛」企業だ。

トランプ氏が「タフ」なイメージを前面に出したいがために、ロシアを絶望的な状況に追い込もうとしないことを願おう。米国ではプロパガンダに煽られたヒステリー状態が生まれている。米国人はロシアが悪であり、末期の腐敗政権であるゼレンスキー政権は善であると信じている。第1次世界大戦の時と同様に、米国の介入は恐らく破滅的な結果をもたらすだろう。

(次を抄訳)
Trump’s Second Term: What It Means for America and Investors - LewRockwell [LINK]

【コメント】思慮深いリバタリアンはトランプ氏の勝利を歓迎しながらも、手放しでは喜ばず、マイナス面も冷静に分析する。ケーシー氏もその1人。「政府支出を削減しなければ減税などありえない」との指摘に加え、外交面でイスラエル支持が米国を「核の泥沼」に巻き込みかねないとの警告も重要だ。

2024-11-14

米国を一夜で再び偉大にする方法

カレン・クウィアトコウスキー(退役米空軍中佐)
2024年11月13日

(ジャーナリスト)メンケンの民主主義と選挙に対する見方は正しかった。誰かのポケットから、何もせずに何かを得ることだ。選んだ行政官は毎年何兆ドルもの借りた金や盗んだ金を使うが、それは次の選挙の票を買い、自分や仲間を豊かにするためで、決して責任を負わない。
3期目のないトランプは愛国者、起業家、兵士からなる新しい並外れたチームを率いて、ホワイトハウスに復帰する。その政策は公表されており、数年前までネオコンとエリート主義の悪徳の巣窟だったヘリテージ財団のアジェンダではない。

州、地方、連邦の政府職員は、米国で最も組合化が進んだ「労働者」の集団だ。これには公立学校の教師も含まれるが、連邦レベルでの大きな政策変更に直面して、これらの組合労働者はストを起こす可能性がある。トランプは有名なフレーズ(「お前はクビだ!」)を使うだろうか。

新大統領が直ちに取る行動は、忠実で志を同じくする人々をすべての省庁および機関の責任者にすることであり、トランプはそれを実行するつもりである。新たな責任者は各省庁にゼロベースの予算を直ちに要求し、承認済みの予算を停止しなければならない。

1988〜2005年に実施された5回の米軍基地縮小では、世界中の350の施設(任務ではない)が削減され、17年間でわずか120億ドルしか節約されなかった。これはウクライナへの無駄な援助の数カ月分にすぎず、2023年10月以降、通常の額に加え、急増したイスラエル支援に遠く及ばない。

新大統領があらゆるレベルの連邦職員を削減・解雇し、就任初日から支出を削り、大幅な予算削減を約束すると、ロビー団体に支配され、憲法に無知で財政的に無能な議会が、お決まりの巨額支出で「修正」し、対抗すると予想される。トランプは何度も拒否権を発動する必要があるだろう。

やるべきことは山ほどあり、期待できることも山ほどある。トランプは(おそらく)行政府を制御できるが、下院・上院の支援を頼りにできるだろうか。もちろんできない。トランプにできる最善かつ唯一のことは、中央銀行の米連邦準備理事会(FRB)を廃止して金融システムを解放することだ。

パウエルFRB議長の公然たる頑固さは、憲法が国立銀行の設立を認めていないことを考えると驚くべきものだ。まずパウエルを解任し、別の議長ではなく、トランプの襲撃チームに交代させるべきだ。チームは監査を行い、存在するかもしれない実質資産を奪い、売却するだろう。

トランプがジャクソン大統領のように、インフレと通貨劣化の工場(FRB)を閉鎖できれば、連邦政府の人員、権限、インフラ、任務を縮小し、省庁全体を廃止するという途方もなく複雑な仕事は、もうトランプの肩の荷でなくなる。市場が決めてくれる。

政府債務のコストが負担不可能になれば、お金は正直で、現実的で、有用になる。連邦政府を小さくする方法は一夜にして、恐怖とパニックではなく、革新と解決の問題に変わる。政府支出は実力主義になり、腐敗したロビー活動、卑劣な悪徳政治、貪欲な寡頭政治をすべて一度に置き換える。

FRBを廃止することは、CIAを解体したり、国防総省の75%を廃止したりするよりも、政治家にとって物理的に危険だろうか。蛇の頭を切り落とすことは、尻尾を切り落とすよりも危険だろうか。この一つの行為(FRB廃止)は共和国を救うことになるだろうか。今こそ、その答えを知るときだ。

(次を抄訳)
MAGA in One Step - LewRockwell [LINK]

【感想】減税すれば政府の歳出は自然に減ると信じる人がいる。しかし中央銀行が存在する以上、政府は税収不足をマネーの発行(による国債購入)で補うことができる。中央銀行の廃止でその逃げ道をふさげば、税収を上回る政府事業は維持できなくなり、それこそ自然に解体される。

2024-11-13

お金を再び自由にしよう

元米下院議員、ロン・ポール
(2024年11月11日)

トランプ氏がクリーブランド以来の米大統領返り咲きを決めた2日後、米連邦準備理事会(FRB)は金利を0.25%引き下げると発表した。この発表に続いてパウエル議長は記者会見を開き、任期が切れる2026年5月までに退任するよう求める大統領の要請には応じないと述べた。
パウエル議長は、大統領にはFRB議長を解任する法的権限がないと主張した。したがって、トランプ大統領がパウエル議長に「お前はクビだ」と言った場合、パウエル氏は裁判所にトランプ大統領の行動を再検討するよう求める訴訟を起こす可能性がある。

トランプ氏とパウエル議長は、金利変更など重要な措置を講じる前にFRBが大統領と協議するよう義務づけるというトランプ氏の意向を巡って対立している。同議長は、金融政策の策定において大統領に何らかの公式な役割を与える法案を議会が否決するよう説得するため、全力を尽くす可能性が高い。要するにパウエル議長はFRBの独立性を非常に重視しており、FRBの監査にも、独立性を脅かす可能性があるという理由で反対している。監査法案には、金融政策の実施に関して大統領や議会に新たな権限を与える内容はないにもかかわらず、である。

FRBが金融政策に関して大統領と協議するよう義務づけると、物価上昇とドル安が進む可能性が高い。政治家は通常、低金利を好む。低金利を経済成長に結びつけて考えるからだ。政治家はまた、政府が巨額の債務を積み上げ続けられるようにFRBが低金利を維持するよう望んでいる。財政ファイナンス(財政赤字の穴埋め)を行う準備と意志、能力のある中央銀行がなければ、福祉戦争国家は存在しえない。

パウエル議長や他の中央銀行擁護派の主張にもかかわらず、FRBは政治圧力から逃れたことは一度もない。トランプ氏がパウエル議長について「意地悪なツイート」を投稿し始めるずっと前から、大統領たちはFRBに影響を与えようとしていた。FRBに大統領との協議を義務づければ、少なくとも金融政策に影響を与えようとする大統領の努力はオープンで透明になるだろう。

トランプ氏やウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出)らFRB批判派は、自分たちがFRBよりも「正しい」金利を決定できると考えている。金利がお金の価格であり、他の価格と同様に、常に変化する様々な要因によって形成されるという事実を無視しているのだ。FRBが金利を操作すると、投資家に送られるシグナルがゆがめられる。その結果、好景気・不景気の経済循環が生まれる。不換紙幣制度は所得格差の拡大やドルの購買力の低下にも責任があり、ほとんどの米国人の生活水準を低下させている。

トランプ次期大統領は、FRBが金利を低く抑える必要性をなくすよう努力すべきだ。軍産複合体から始めて、大規模な支出削減に取り組むことで、それが可能になる。また、議会にFRB監査法案を可決するよう働きかけるべきだ。トランプ氏はさらに、競合するすべての通貨の合法化を支持すべきだ。今度の税制改革法案には、貴金属と暗号通貨をキャピタルゲイン課税から免除する条項を含めるべきだ。米国を再び偉大にするためのカギは、お金を再び自由にすることだ。

(次を全訳)
Make Money Free Again - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

【感想】リバタリアンは現実離れした夢想家だといわれることがある。たしかに、たとえばロン・ポール氏が持論とする中央銀行廃止は、実現不可能な夢物語だと思われるかもしれない。しかし何か問題を解決するためには、まず最終ゴールを示す必要がある。そうやって初めて、そこに至る適切な手順や補強手段を考えることができる。ポール氏が挙げるFRBの監査や貴金属と暗号通貨へのキャピタルゲイン課税免除はその例だ。

2024-11-12

トランプ氏勝利、これからの道

ミーゼス研究所創設者・会長、ルーウェリン・ロックウェル
(2024年11月11日)

皆さんと同じく、トランプが選挙に勝ったことをうれしく思う。ハリスは熱心なマルクス主義者であり、赤ん坊殺害(ガザでの虐殺)の支持者であり、「目覚めた」イデオロギーの熱心な支持者だ。外交政策では、脳死状態の「大統領」バイデンを操るネオコンに導かれていただろう。
しかし満足してはいけない。トランプは理想からは程遠く、自由社会に反するその政策に反対するために、私たちは全力を尽くす必要がある。さらに、マレー・ロスバードとロン・ポールが提唱するように、完全に自由主義的な社会のために努力する必要がある。

まずトランプの悪い部分を見てみよう。外交政策からだ。明るい点の1つは、ウクライナ戦争を解決したいと考えていることだ。親ナチスのゼレンスキー政権に何十億ドルもの資金を提供して米国のミサイルを供与するのではなく、である。

しかしトランプは中国との貿易戦争を激化させたいと考えている。中国からの輸入品に60~100%の関税を課すという。関税(基本的には輸入税)により工場の雇用が増え、財政赤字が縮小し、食品価格が下がり、政府が育児を補助できるようになると主張している。

トランプは大統領として、華々しく関税を課した。中国からの輸入太陽光パネル、鉄鋼、アルミニウム、ほぼすべての品物を標的にした。今回はさらに踏み込んだ。中国からの製品に60%、その他のすべての輸入品には最大20%の関税を課すよう提案した。

さらに悪いことに、トランプは「ビビ」ネタニヤフ(イスラエル首相)によるガザの大量虐殺と破壊を支持している。米国をイランとの戦争に巻き込む危険を冒しており、それはすぐに核戦争へとエスカレートする恐れがある。

外交政策といえば、CIA(米中央情報局)、NSA(米国家安全保障局)、FBI(米連邦捜査局)も廃止する必要がある。これらの機関は多くの外国で軍事介入を行っており、米国民をスパイしている。

おそらくさらに悪いのは、トランプが政府支出を削減したくないということだ。それどころかその予算案は、金遣いの荒い民主党よりも支出を増やしている。トランプは「支出狂」を終わらせることはないだろう。すでに膨らんでいる財政赤字を今よりもさらに増やすだろう。

トランプは前回大統領だったとき、中央銀行の米連邦準備理事会(FRB)に金利引き下げを迫った。オーストリア学派の景気循環理論は、これが人工的な好況と不況につながることを決定的に証明している。その代わりに、私たちは「FRBを廃止せよ!」と呼びかける必要がある。

最後にもう1つ。トランプは「目覚めた」イデオロギーに対して称賛すべき抵抗を示した。しかし私たちは、「妥当な方法」でDEI(多様性、公平性、包摂性)を維持するとか、「結果の平等」ではなく「機会の平等」を支持するとかいう試みに警戒しなければならない。

平等を完全に否定しなければならない。マレー・ロスバードは言った。「各個人がユニークであるなら、その人間らしさのほとんどを破壊し、人間社会を蟻塚のように画一的で機械のような存在にまでおとしめる以外に、どうやって個人を他者と「平等」にできるだろうか」

(次を抄訳)
The Road Ahead - LewRockwell [LINK]

【感想】今、日本の自由主義運動に必要なのは、トランプやアルゼンチンのミレイといった特定の政治家を英雄に祭り上げるのではなく、このミーゼス研究所のロックウェル氏のように、良い面と悪い面を冷静に分析することだと思う。

2024-11-11

国政選挙が暴く、中央集権化した「民主主義」の偽り

ミーゼス研究所編集主任、ライアン・マクメイケン
(2024年11月7日)

2024年の米大統領選は終了し、一部の州では大多数の人が勝者のトランプに投票した。ワイオミング州ではトランプが72%の票を獲得した。実際、13州で投票者の60%以上がトランプに投票した。これらの州の大多数にとっては幸運なことに、自分が投票した大統領を得ることになる。
​​しかしペンシルベニア、アリゾナ、ミシガン各州で100万人弱の人が投票を変えていたら、ハリスが次期大統領になっただろう。ハリスに60%以上の票が集まったのはマサチューセッツ州の1州だけだったにもかかわらず。

2012年、ロムニーは9つの州で60%以上の票を獲得した。ユタ州では72%にも達した。しかし結局、こうした圧倒的多数は意味をなさず、ユタ、オクラホマ、アラバマ、その他多くの(ロムニーが多数だった)州の住民が得た大統領はオバマだった。

評論家や政治家は「民主主義とは人々の声」「多数派の意志」と言う。しかし全国的にはわずかな多数派が、多くの州で圧倒的多数派を無効にする場合、それがどのように「多数派の意志」を表すのか、理解に苦しむ。

これらの「ルール」は、大統領が国内でほとんど権限を行使しなかった時代に作られたものだ。19世紀初め、大統領は議会の承認なしに国内でほとんど何もできず、その権限さえもわずかだった。しかし今日では、大統領は各州内で大きな権限を行使している。

この制度の不条理・不公平は、州の過半数が大統領やその政策にどれほど反対しても、どの州も州の一部も連邦から離脱することは決して許されないという事実によって、一層明らかになる。

州の3分の2の多数が連邦政府に対して何度も反対票を投じたとしても、ただ黙って、行政機関が決めたことは何でも受け入れるしかない。「ルールはルール」なのだ。

民間ではありえないことだ。会社の経営陣がどんなに意に反する行動をとっても、株を売って会社を去ることは決して許されないとしたら? 組織のリーダーがどんなに会員を騙しても、会費の支払いをやめることは決して許されないとしたら?

中央政府が州の有権者の大多数をどれだけ無視しても、決して(連邦から)立ち去ることは許されない。税金の支払いをやめることは絶対に許されず、あなたの考えなど気にもとめない連中を支えなければならない。

ただ一つの解決策は、地方分権と分離独立、現在の政治システムの解体にある。トランプの返り咲きはこれらを根本的に変えるものではない。トランプが2期目で反体制の夢の候補者になったとしても、2028年の選挙はわずか数年先だ。

現状を受け入れることは、遠く離れた連邦の官僚があなたの地域に政策を指図し続けるよう許すことだ。残念ながら、多くの人が中央政府を支持し続けるだろう。「ルールはルール」というプロパガンダが非常にうまく機能しているからだ。

(次を抄訳)
National Elections Expose the Sham that Is Centralized "Democracy" | Mises Institute [LINK]

2024-11-10

孟子、民を貴しとなす

孟子は中国、戦国時代の儒家。名は軻、字は子輿・子車。儒教の始祖・孔子より百年ほど後に生きた人で、孔子の継承者をもって任じ、王道による政治を説いた。

孟子 (講談社学術文庫)

王道は覇道に対する言葉だ。東洋史学者の小島祐馬氏によれば、覇道とは、支配者の利益のために、道徳の仮面を借りて実は力の政治を行うことであり、これに対して王道とは、人民の利益のために力の政治を排して、真の道徳の政治を行うことをさす(『中国思想史』)。孟子の言行を記した書『孟子』(引用は原則、宇野精一訳による。表記を一部変更。カッコ内は篇名)に従って、その思想をたどってみよう。

王道とは、孟子の言葉でいえば、「人に忍びざるの心をもって、人に忍びざるの政治を行う」(公孫丑上)こと、すなわち仁心をもって仁政を行うことである。王道の意義がこのようなものだとすれば、その基本が民を貴ぶことにあるのは当然だ。「民を貴しとなし、社稷(神霊)これに次ぎ、君を軽しとなす」(尽心下)という孟子の言葉は、それを端的に言い表している。

君主と対面しても物おじせず、遠慮のない意見を述べた。斉王から大臣の責任について尋ねられ、「君に国家の安否にかかわるような重大な過失があったときにはおいさめ申し、くり返しいさめても聞き入れられないと、その君を廃して別に一族の中の賢者を君に立てます」(万章下)と答えた。王はさすがに顔色を変えたという。

孟子は民を苦しめる政治を厳しく批判した。あるとき梁王に対し「人を殺すのに、つえで打ち殺すのと刃物で切り殺すのと、違いがありましょうか」(梁恵王上)と問いかけた。王が「別に変わりはない」と答えると、「では刃物で殺すのと政治(のしかたが悪くて)で殺すと違いがありましょうか」とたたみかけた。王は「別に変わりはない」と認めざるをえなかった。

内政で重要なのは経済政策だ。儒家の思想によれば、政治は個人の人格の完成を目的とすべきだが、現実問題として、食うや食わずの生活では難しい。このことを孟子は「恒産なければ、よって恒心なし」(梁恵王上)と喝破した。すなわち、経済上の保証があって初めて道徳は行われるものとする。

孟子が経済保証の具体案として主張したのは、給付金のバラマキなどではなく、減税だ。「井田法」という。正方形の耕地を井字形に9つに区画したところからこう呼ぶ。1里(約400メートル)四方の土地を1井とし、9等分する。周囲の8区画は8戸の家がそれぞれ「私田」として耕し、中心の1区画を「公田」として8戸共同で耕して、為政者にその収穫を納入する。収穫の9分の1を納税するから、税率は約11%になる。孟子にとって、重すぎない税の目安が約1割だったようだ。

商人や旅行者などへの課税は撤廃を唱えた。「関所では人や物の取り締まりをするだけで通行税や関税を取らないならば、天下の旅行者はみな喜んでその君の道路を通りたいと願うだろう」(公孫丑上)と語っている。

さらに減税は先延ばしするのではなく、思い立ったらただちに実行するよう求めた。宋の大夫から「租税を10分の1だけにして、そのほかの関所や市場の税を廃止することは、今年急に実行するわけにもいきません。今年は軽減しておいて、来年からさっぱりとやめることにしたいのですが、どうでしょう」と問われ、例え話を始める。

「ここに毎日、隣から入り込んでくる鶏を盗み取りする人があるとします。だれかその人に『それは君子の行為ではありません』と忠告すると、『では少し減らして毎月1羽ずつ盗むことにして、来年になったらよすことにしましょう』といったらどうでしょう」。そして問いにこう答えた。「正しくないと知ったら、すぐさまやめるまでで、来年を待つことはありますまい」(滕文公下)。重すぎる税は盗みも同然という厳しい考えだ。

孟子が心に基づく仁政を主張する以上、力の政治を排斥するのは当然だ。したがって孟子の王道では戦争を排斥する。絶対的非戦論を唱えたわけではないが、君主が富国強兵のために人民を殺してはならないと主張した。

あるとき、魯の君主が戦争の上手な慎子を将軍に任命して、大国の斉と一戦を交えようとした。これを聞いて孟子が「民に仁義の道を教育もせずに、戦いに用いるのは、民をいたずらに苦しめるというものだ」と言うと、それを聞いた慎子はむっとして不愉快げに「そんなことは、この私の関知しないことです」と言った。孟子はこう説明した。

「戦いもせずにただである者から取って、別の者に領地を与えるというのでも、道に外れたことは、仁者はせぬものだ。まして、人間を殺してまで領地を取ろうなどとはせぬ。君子が君に仕えるには、つとめてその君を正しい道に当たるように、仁道に志さしめるように、誘わねばならないのだ」(告子下)

また、君主が仁政を行わないのに、それをいさめもせず、むしろ欲心を助長するような家臣を次のように厳しく批判した。「君主の欲心のために強引な戦争をして、土地の争奪によって野に満ちるほど人を死なせ、城を争って城いっぱいも人を死なせるようなのは、つまり土地のために人肉を食わせるようなもの。その罪は死んでも償い切れぬ」(離婁上) 

孟子は軍事同盟も批判する。「自分は君のために同盟国を獲得し、戦争すれば必ず勝ってみせる」と言い立てる家臣を「民賊」と罵倒した(告子下)。戦争が上手な家臣は極刑に処すべきだとした後で、「諸侯に同盟を結ばせて攻伐せしめる者」は、それに次ぐ重罪にあたると主張した(離婁上)。

権力者におもねらず、民を貴ぶ王道政治の理想を説いた孟子は、中国に古代から伝わる「易姓革命」の思想を重視した。王朝がかわるのは、民に現れた天の意志によるもので、民意に反した政治を行った君主に対する革命は正しいとする。

孟子が革命を大胆に肯定した有名なエピソードがある。夏の桀王、殷の紂王はともに昔の暴君で、それぞれ臣下の湯王、武王によって放逐・誅伐された。この出来事について斉王が「臣でありながらその君を弑してよいものだろうか」と問うと、孟子は答えた。

「仁をそこなう者はこれを賊といい、義をそこなう者はこれを残と申しますが、残賊の人はそれを一夫すなわち一介の平民と申すべきで、君たる資格はありません。残賊の人たる桀・紂は、まさに一夫と申すべきであります。ですから、武王が『一夫なる紂』を誅したということは私も聞いていますが、君たる者を弑したとは、聞いておりません」(梁恵王下)

江戸時代以前、易姓革命の考えは、王朝が移り変わる中国と異なり、皇室をいただく日本にはなじまないとされ、『孟子』を積んだ船はことごとく沈没するといわれたが、もちろん事実ではない。今では文庫本などで気軽に読める。混迷する政治経済に多くの示唆を与える古典といえよう。

2024-11-09

歳出削減なき減税——納税者の負担は減らない

ミーゼス研究所編集主任、ライアン・マクメイケン
(2024年11月6日)

今回の選挙で改めて示されたように、民主党は増税を恥ずかしげもなく要求する。法人税であれ未実現キャピタルゲインへの課税であれ、増税を求める。一方、ドナルド・トランプ氏は一部の減税を公約に掲げている。「一部の」と言ったのは、輸入品への増税も公約に掲げているからだ。
トランプ氏は、当選したら米国人の税負担を軽減するという考えで出馬した。残念ながら、トランプ氏には政府支出を削減する計画はない。つまり、一般の納税者が実質的な減税を経験する可能性はほとんどないということだ。

歳出削減を伴わない減税は、実際には政府のコストを削減しない。歳出削減を伴わない減税は、単に税負担を移動させるだけであり、目に見える課税を、しばしば物価上昇という見えない課税に置き換える。

歳出削減を伴わない限り、減税は単に赤字支出を増やすだけであり、納税者は何らかの方法で赤字のツケを払うことになる。通常、財政赤字は将来の税金、現在の利払い、通貨インフレ(通貨量の膨張)のうち1つ以上を使って支払われる。

官僚が利払いコストを抑える方法は、中央銀行に国債を買い取らせることだ。中央銀行は国債を買うことで、人為的に国債の需要を高める。すると財務省は買い手を引き付けるために金利をそれほど払わなくて済む。

中央銀行は国債を買い上げる資金をどこから調達するのだろう。お金を印刷するのだ。そして通貨のインフレと、最終的には物価のインフレ(上昇)を引き起こす。つまり、財政赤字を増やす減税は、結局は納税者に新たな負担を強いるだけなのだ。本当の減税とはいえない。

政府が納税者から略奪したお金で何かを買うたびに、その商品の価格を押し上げ、民間部門がその資源を民間目的のために使うのを妨げる。それだけでなく、経済をゆがめ、勝者(政府職員、請負業者、供給業者)と敗者(政府に好まれない者)を選別する。

共和党が税制に拒否権を発動しても、歳出の拒否権が伴わなければ、納税者の負担を透明な税制法案以外の形に変えるだけで、何の成果もない。

実際、共和党が2020年以降続けているように、巨額の歳出増に同意するのであれば、赤字支出というわかりにくい手段で国民に税負担を押し付けるよりも、税率を引き上げるだけの方が不誠実ではないといえる。

政治家が減税を公言したら、まず歳出削減に力を入れるのですねと念を押してほしい。そして、具体的にどの政府事業を削減するつもりなのか聞いてみよう。もしその質問に信用できるような答えを返せないなら、騙されたと思って間違いない。

(次を抄訳)
Tax Cuts without Spending Cuts Won't Reduce the Taxpayers' Burden | Mises Institute [LINK]

2024-11-08

ロスバードとイスラエル・パレスチナ紛争

音楽家、オスカー・グラウ
(2024年10月26日)

リバタリアン思想家ロスバードの考えでは、国家とは国民の私有財産という正当な権利を侵す犯罪組織である。物理的強制力(課税)によって収入を獲得し、一定の領土に対する強制力を独占し最終意思決定権を握る。ゆえにロスバードのリバタリアニズムに公正な国家は存在しない。
イスラエルは、パレスチナ難民は武力によってではなく、アラブの指導者が引き起こした混乱によって追い出されたと主張したが、ロスバードが指摘したように、イスラエルが難民を帰還させ、奪われた財産を取り戻すことを断固として拒否していることは誰もが認めるところだ。

現在、イスラエル国家は国境を定めず、領土の独占を拡大し、国土のほぼすべての所有権を維持している。この征服の背後にあり、今も続いている政治運動がシオニズムである。

自由主義者は、戦争におけるいかなる側をも免責すべきではないし、犯罪に関与したどちらの側の個人も免責すべきではない。しかし戦争とその結果に対する非難でさえ、平等に分かち合うことはできないというのが真実である。イスラエルとパレスチナの紛争も例外ではない。

ロスバードがいうように、事実上すべての戦争において、一方は他方よりはるかに罪が重く、侵略や征服への意欲などの基本的な責任は一方にある。しかし、どの戦争でも、どちらの側に罪があるのかを知るためには、その紛争の歴史について深く知る必要がある。

侵略の基本的な責任はイスラエル側にある。ロスバードが書いたように、イスラエルは中東における侵略者である。イスラエルは1948年以来、中東で行われてきた破壊と数え切れないほどの不正義のほとんどを犯している。

さらに、イスラエルとパレスチナの紛争は、近隣のアラブ諸国がイスラエルに対する戦争に巻き込まれたことを除けば、国家間の紛争ではなかった。この事実がすべての責任の所在を明確にしている。

イスラエル国家は、単純だがいくつかの特殊な要因のおかげで、その罪をぼやかすことに成功した。その第一の要因は、宗教的な国家としての地位に関係している。多くの人々が国家という制度に反対しているわけではないし、宗教的な合理化に惹かれる人々も多いからだ。

リバタリアニズムは、イスラエルに抵抗するパレスチナ人の正義を認める。真の平和が訪れるのは、イスラエルがパレスチナ人を再び流入させ、正当な財産を取り戻すことを許可したときだけだろう。イスラエルは排他主義的なシオニストの理想を放棄しなければならない。

国境を接する国家の存在は膨張主義を打ち消す。課税と最終意思決定権を同じ領土で独占する2つの国家は存在しえないからだ。イスラエルは無防備な民族を追放・消滅させ続けることができる以上、拡大主義を制限するパレスチナ国家の創設(ニ国家解決)を許すはずがない。

国家ができるだけ公正であろうとするならば、公正なイスラエルとは、シオニズムのない国家でなければならない。シオニズムはいまだにイスラエルを牛耳っており、ロスバードがシオニズム国家によって起こると警告したような虐殺と恐怖は、間違いなく続いているからである。

(次を抄訳)
Rothbard and the Israeli-Palestinian Conflict | Mises Institute [LINK]

2024-11-07

奴隷制と集団的罪悪

ミーゼス研究所リサーチフェロー、ワンジル・ンジョヤ
(2024年11月5日)

米国の歴史における奴隷制の役割については、これまで多くのことが語られてきた。その歴史は短い記事では語り尽くせないが、奴隷制の賠償をめぐる現代の議論に照らして、奴隷制を支える倫理原則のいくつかを明らかにすることは重要である。
リバタリアン思想家ロスバードの観点からすれば、奴隷制度がなぜ悪いかといえば、自己所有の原則に反するからである。自己所有権はすべての人間に与えられた自然権であり、そこから、いかなる人間も他人を所有することはできないということが導かれる。

ローマ法において奴隷制は合法だった。この点に関してローマ法は明らかに非倫理的であり、不道徳である。しかし歴史的な法規範が倫理的に不十分であったと宣告することと、歴史的な過ちを是正するために今なすべきことがあると主張することは、まったく別のことである。

アフリカの奴隷商人たちが自分たちの親族を集めて奴隷として売ったのは間違っていたと認めることはできるが、ナイジェリアのような現代のアフリカ国家がそうした歴史的な犯罪を償わなければならないと、今さら要求すべきなのだろうか。

同様に、アラブの海賊が何世紀にもわたってイギリス諸島を襲い、イギリス人らを故郷から拉致して北アフリカの奴隷市場で売りさばいたのは間違っていたが、だからといって、現代のアルジェリアやチュニジアがイギリスに賠償金を支払う必要があるのだろうか。

倫理的な問題として、歴史的な犯罪の代償を現代人が払うべきだという主張は、犯罪に対する罰は犯罪者本人にのみ与えられるものであり、その子孫には与えられないという基本的な道徳原則を見落としている。道徳的責任は集団的なものではなく、個人的なものである。

今日の納税者に金銭的な罰則を課すことによって歴史的な過ちを正すことの実現可能性について、功利主義的な考慮が生じるかもしれない。納税者は、国の歴史上起きたすべての歴史的過ちを償うよう求められるのだろうか。そうでないとしたら、どのように決めるのだろうか。

倫理的な問題については、奴隷制度は最悪の歴史的不正義であり、それゆえ他のすべての歴史的不正義とは区別される、という見解がときどき唱えられる。だが奴隷制は殺人より悪いわけではない。殺人の被害者は、奴隷制の被害者よりも賠償を受ける権利がないのだろうか。

「誰が最も苦しんだか」という尺度の問題点は、苦しみは主観的であり、誰の苦しみが最悪であったかという比較には原理的な根拠がないということである。倫理的な立場は、誰が最悪の苦しみを味わったかを評価しようとするのではなく、健全な道徳的原則に基づくべきである。

苦しみの大きさを比較しようとすれば、すべての集団は、自分たちの集団が被った歴史的な悪が軽んじられ、嘲笑されていると感じる。被害者論に明確な「勝者」をもたらすどころか、すべての集団がそれぞれの不満にさらに深く浸ることになるだけである。

歴史的な不満のために納税者から金を受け取る資格があるのは誰なのか、彼らにいくら支払うべきなのかを評価しようとするのではなく、その前提全体を否定し、集団的罪悪と集団的処罰の罠に陥らないように警戒すべきである。

(次を抄訳)
Slavery and Collective Guilt | Mises Institute [LINK]

2024-11-06

大統領職は自由の最大の脅威

ミーゼス研究所創設者・会長、ルーウェリン・ロックウェル
(2024年8月30日)

大統領職は打ち壊さなければならない。根本の悪であり、ほとんどすべての苦難の原因である。国富を浪費し、何の害も及ぼさない外国人に対して不当な戦争を始める。家族を崩壊させ、権利を踏みにじり、地域社会を侵略し、銀行口座をスパイする。文化を退廃とゴミにゆがめる。
大統領職、つまり行政府は米国の専制政治の総体である。大統領に任命された最高裁判所を含む他の政府機関は、単なる付属物にすぎない。大統領職は我々の労働生産物を奪い、経済的破滅に追い込む一方で、自らの命令に完全に献身し、謙虚に服従することを主張する。

米大統領職は世界一の悪である。アフガニスタン、イラク、セルビア、リビア、シリアを見れば、その引き起こした弊害がわかるだろう。これらは無意味な戦争で罪のない人々の命が奪われた場所であり、爆撃が民間インフラを破壊し、病気を引き起こすように計画された場所である。

今日、米大統領は世界で唯一の超大国、「世界になくてはならない国」の指導者と呼ばれる。しかしこの称号を持ち出すことで、政府は我々の関心を外交問題に集中させようとしている。それは、ここ米国で圧政を敷いていることに気づかせないための陽動作戦なのだ。

大統領職は大きな権力を持つようになるにつれ、説明責任を果たさなくなり、専制的になっていく。最近我々が「連邦政府」と言うとき、本当に意味しているのは大統領府である。「国家の優先事項」と言うとき、本当に意味しているのは大統領府の望みである。

大統領職はルソーの一般意志を体現したものであり、前近代社会の君主や国家元首よりもはるかに大きな権力を持つとみなされている。米大統領職は世界最大かつ最強の政府の頂点であり、そのため自由の対極にある。古来からの権利を取り戻すという我々の目標の前に立ちはだかる。

ホワイトハウスの特定の住人のことを言っているのではない。ホワイトハウスという組織そのものと、その従者である、選挙で選ばれたわけでもない多数の官僚について言っているのだ。我々が連邦と考えるものは、議会図書館を除けば、実質すべて行政府の庇護の下で運営されている。

統治エリート、とりわけ外交エリートは、大統領職に対する国民の尊敬を維持しようと躍起になり、神聖なオーラを与えようとする。ウォーターゲート事件の後、彼らは自分たちがやり過ぎて、民主的独裁政治の信用を失墜させてしまったのではと心配した。ある程度はそうなった。

しかしエリートたちは愚かではなかった。ウォーターゲート事件は大統領職に関するものではなく、ニクソンという人間に関するものだと慎重に主張した。二つを切り離すために、ニクソンに焦点を当て続け、悪魔に仕立て上げ、私生活の詳細や母親との問題などに興じた。

トランプにも同様の戦術が用いられている。トランプ大統領がまた誕生すれば、民主主義が終わり、自由が破壊されるという。もし本当なら、大統領の権限が強すぎるということだ。しかし統治エリートは決してそれを認めようとしない。問題はトランプという男にあると主張する。

この戦術はかつてのようには通用しない。今では大統領に正直さや誠実さ、良識を期待する有権者はほとんどいない。支持する候補者が他よりもひどくないよう期待して投票する。行政権が野放しの現体制で、それ以上のことは期待できないことを知っている。これは公民科の初歩だ。

(次を抄訳)
The Presidency Is the Greatest Threat to Our Freedoms | Mises Institute [LINK]

2024-11-05

俳句(2024年10月)


ハロウィンの一期は夢よただ狂へ

喧騒もまた心地よしぬるめ酒

彷徨へど迷ふにあらず秋の暮

独りなれど寂しくはなし秋の暮

秋空の下に出かけん百円ショップ

2024-11-04

バイデン氏の破壊的遺産

バイデン大統領の下で、米露関係はウクライナをめぐってさらに悪化する一方で、中国封じ込めと対立政策を追求したため、大国間紛争のリスクも高まっている。中東ではイスラエルによるガザ地区での大量虐殺作戦を支援し、レバノン侵攻を支持し、イランへの攻撃を支持した。
Biden's Destructive Legacy - Antiwar.com [LINK]
バイデン大統領は任期のほとんどを、外国政府の利益のために米国人の利益を犠牲にすることに費やしてきた。特にひどいのは、絶対君主制のサウジアラビアに安全保障を提供するという奇妙な申し出をしたことだ。これは米軍兵士が王室のボディーガードを務めるというものだ。
American Outreach to Middle Eastern Despots Is Shortsighted - The American Conservative [LINK]

ロシアに対する経済制裁は、ウクライナ戦争を終結させたり、ロシアの通貨を弱めたりすることに失敗しているだけでなく、裏目に出て、ロシアの強硬な立場を不用意に強化している。制裁は何もしないよりはましだという主張は、制裁が長期で逆効果になることを無視している。
Why sanctions on Russia are literally backfiring | Responsible Statecraft [LINK]

米議会はロシアやイランに対して合法的に宣戦布告することはできない。両国は米国の安全保障にとって現実味のある脅威ではないし、米国はウクライナやイスラエルと安全保障条約を結んではいない。それにもかかわらず、議会はこれらの戦争に資金を費やしている。
War and the Constitution - Antiwar.com [LINK]

パレスチナ人は長期的な視野で物事を見る。戦闘機や爆弾は短期の歴史に影響を与えるかもしれないが、勇気、信仰、共同体愛が長期の歴史を決定する。これが、パレスチナ人が正統性をめぐる戦争に勝利している理由であり、パレスチナ人の自由が時間の問題である理由なのだ。
The Long History of Palestine – Why Palestinians are Winning the Legitimacy War - Antiwar.com [LINK]

2024-11-03

ドル支配の終焉

米国人が商品を輸入するために輸出しているのはドルであり、世界の基軸通貨であるため、それで済んでいる。しかし大規模なインフレと制裁措置の濫用が相まって、一部の国々はドルに代わる通貨を探すようになった。金(ゴールド)がその代替通貨になるのではという憶測がある。
Can America Survive Global De-Dollarization? | Mises Institute [LINK]
ドルのアキレス腱は不換紙幣であることだ。米国は福祉や戦費を賄うために、意のままにドルを膨張させることができる。国際送金インフラから締め出すことで敵対国に制裁を加えることができる。BRICS諸国の通貨改革で金が戻ってくれば、これらすべては終わりを迎えるだろう。
Dollar Hegemony Is Ending Due to Geopolitical Changes | Mises Institute [LINK]

米国は主権国家にドルを受け入れるよう強制することはできない。ドルの購買力を守る責任を果たしていない。新しい上海協力機構(SCO)通貨はドルに取って代わり、世界の基軸通貨となるだろう。ドルや米国にとっては損失となるだろうが、世界は全体として利益を得るだろう。
World Dollar Hegemony Is Ending (and That May Be a Good Thing) | Mises Institute [LINK]

ペトロダラーの終焉はドル離れの大きなトレンドの一部である。外国中央銀行の外貨準備に占める米ドルの割合は20年前の71%から現在は60%に低下している。これは25年ぶりの低水準だ。ロシア、中国、インドは世界経済をドルから解放することに関心を示している。
Why the End of the Petrodollar Spells Trouble for the US Regime | Mises Institute [LINK]

米国の今のグローバルな立場は、衰退期のスペインに似ている。すでに経済が空洞化していたスペインは、国内が公共サービスと軍国主義の経済に変質する一方で、世界中の基地と所有地にしがみつこうと必死だった。米国の新たな支配が始まり、20世紀の帝国となる舞台が整った。
Why the Dollar Rules the World — And Why Its Reign Could End | Mises Institute [LINK]

2024-11-02

ゴールドに帰れ

ブレトンウッズ体制の致命的な欠陥は、専門家官僚の裁量に依存していることにある。19世紀末の古典的金本位制は、ブレトンウッズの金為替本位制(個人は直接の兌換を拒否された)よりもはるかに優れていた。金本位制は、通貨供給量を支配する権限を政府ではなく個人に与えた。
Gold Is Back—And So Is Judy Shelton | Mises Institute [LINK]
金(ゴールド)には人を律する力がある。権力者が自分たちの利益のためにカネを悪用する機会を制限する。裏付けのない不換紙幣とは対照的に、金の量はコストをかけず勝手に増やすことはできない。これこそが、支配者や政府が今日まで金という貨幣と戦ってきた理由なのである。
The Economic Wisdom of Antony C. Sutton’s The War on Gold | Mises Institute [LINK]

中国当局が、金に基づく決済ネットワークの成長を容認し、奨励することはありうる。それは金現物の裏付け(最も安全な証書では100%)を義務づけた預金証書を発行する、保管機関で構成されるだろう。中国と友好的な(貿易政策で米国に対立する)国々に広がる可能性がある。
Gold’s Future Depends Crucially on China | Mises Institute [LINK]

米政治家ウィリアム・ジェニングス・ブライアン(1860〜1925)はインフレ主義者と呼ばれる。しかし不換紙幣に酔いしれる今の中央銀行やポピュリストの大統領候補に比べれば、健全な通貨の味方に見える。現在のどちらの候補も、政府の貨幣創造を制限するとは考えにくい。
Today’s Pols Are All Bryanites | Mises Institute [LINK]

通貨供給量は増加しており、物価インフレの持続は当然だ。投資家にとって、この通貨破壊の下での最悪の判断は、国債に投資して現金を持つことだ。政府による通貨の購買力破壊は政策であり、偶然ではない。通貨破壊を反映して、株式と金は急騰し、債券は役に立たない。
Gold Prices Rise as the Dollar Slowly Dies | Mises Institute [LINK]

2024-11-01

アルゼンチン大統領が外相更迭

USニュース&ワールド・リポート
(2024年10月30日)

[ブエノスアイレス30日 ロイター]アルゼンチンのミレイ大統領は30日、国連で米国の対キューバ禁輸措置解除に賛成票を投じたモンディノ外相を更迭した。
2023年末に就任したリバタリアンであるミレイ氏は、臆面もない親米派であり、アルゼンチンをキューバやベネズエラから遠ざける措置をとるなど、地域内外の左派貿易相手国に対して冷淡な態度をとってきた。

これに先立ち国連総会は同日、米国とイスラエルだけが反対する拘束力のない決議で、米国に対し、数十年にわたるキューバへの制裁体制を終わらせるよう圧倒的多数で求めた。

アルゼンチンが米国やイスラエルと歩調を合わせることを望むと発言しているミレイ氏は、「独裁者を支持せず、共犯者にもならない」と自国政府を称賛する下院議員の投稿をソーシャルメディアでシェアした。

大統領報道官はXで、モンディノ氏の後任として、ヘラルド・ウェルテイン駐米大使が外相に就任すると発表した。

モンディノ氏は、ミレイ大統領の最初の閣僚の一人で、ブラジルや中国といった国々に対する大統領の扇動的な発言にもかかわらず、国際的なパートナーとの外交関係を円滑に保つうえで重要な役割を果たしてきた。

ミレイ大統領の昼食中、ウェルテイン氏から電話があり、共産主義に支配されたキューバに対する禁輸措置の解除にアルゼンチンが賛成したことについて問い合わせがあり、右派の同大統領を怒らせたと地元ニュースメディアのTNは報じている。

今年初め、アルゼンチンの国営エネルギー会社YPFは、キューバの国営キューバ航空に燃料を提供しないと発表し、同航空は40年近くハバナとブエノスアイレスを結んでいた路線を閉鎖することになった。

当時キューバ外務省によると、アルゼンチン政府関係者はこの動きを擁護するために、米国の禁輸措置を理由にしたという。

(以下を全訳)
Argentine President Milei Fires Foreign Minister After Vote to Lift Embargo Against Cuba [LINK]

2024-10-31

ミレイ大統領、9カ月の採点表

経済学者、アントニー・ミュラー
(2024年10月29日)

1970年代に欧米が停滞に陥った際、物価インフレがある程度収束し、経済成長が再び上向くまでには10年近くかかった。アルゼンチンのミレイ大統領は、すでに多くのことを達成したとはいえ、それほど時間はない。2023年12月10日の就任以来、以下のようなプラスとマイナスがある。
〈プラス面〉
・財政黒字(2024年1月以降)
・中央銀行による通貨創造の制限(2024年4月以降)
・インフレ率の低下(同)
・各種価格規制の撤廃(住宅市場など)
・各種物価補助金の削減
・8つの省庁の廃止、一部の完全閉鎖と約3万人の公務員の解雇

〈マイナス面〉
・高い物価上昇率(年237%)
・失業率の上昇(7.6%)
・低い労働力率(労働力人口の割合、48%)
・鉱工業生産の減少(年率-5.4%)
・対外債務は約2900億ドルに増加
・外貨準備高が不足(現在217億ドル)
・就任時の1ドル=322ペソから975ペソへの切り下げ

ミレイ政権は9月の予算発表で、 2025年の見通しを次のように発表した。

・国内総生産(GDP)を5%増加させる
・物価上昇率を年率18%に抑える(2025年末までに)
・通貨を1ドル1207ペソまで切り下げる(同)
・基礎的財政収支の黒字化(GDPの1.3%)

来年の目標が達成できるかどうかは疑問が膨らむ。物価上昇率は高止まりしており、再び上昇した際には金利を引き上げざるをえなくなるだろう。その結果、鉱工業生産の回復がさらに遅れることになる。来年1月には対外債務の利払いも控えている。

2025年は10月に中間選挙があるため、ミレイ大統領にとって重要な年となる。その時までに、大統領は選挙協力にはっぱをかけ、政策の次の段階に必要な票を議会で獲得しなければならない。

ミレイ政権を誕生させたのは、何よりもインフレに終止符を打つという公約だった。今、ミレイ氏に課せられているのは、不況を深刻化させることなく、その公約を守れるかどうかである。それは規制緩和と民営化を通じて、民間部門の強化にどの程度成功するかにかかっている。

(次より抜粋)
Nine Months of Javier Milei as President of Argentina: A Critical Assessment | Mises Institute [LINK]

2024-10-30

トランプ氏の功罪

トランプ氏は慎重な外交政策を望むと錯覚されている。しかし大統領在任中、同氏の外交政策は前任者たちとほとんど変わらなかった。むしろイランと中国に対する行動はさらに強硬だった。トランプ氏は、イランのソレイマニ将軍の暗殺を自らの政権の誇るべき成果とみなしている。
Trump, Harris, and the 'Lesser of Two Evils' - Antiwar.com [LINK]
トランプ大統領はDPRK(北朝鮮)との交渉の必要性を認識し、新たな接近を試みた。その点では称賛すべきである。現在、交渉はこれまで以上に急務となっている。首脳会談を時折行なうことは、朝鮮半島の緊張を和らげるために払うべき小さな代償である。バイデン政権は落第点だ。
It Is Time to Talk to North Korea - The American Conservative [LINK]

防衛戦争を戦う国と、植民地拡大などによる軍事的優位を求めて戦う国には違いがある。イスラエルのように後者の道を選んだ国は、自衛戦争だと主張はできない。国際法における自衛の定義は、軍事占領者となり、敵対行為を盛んに行い、暴力を不法に用いる国には適用されない。
Israel’s Biblical Wars of 'Self Defense': The Myth of the 'Seven War Fronts' - Antiwar.com [LINK]

ガザ地区に駐留する99人の米医療従事者が、子供たちに対するイスラエルの爆撃の停止を求める公開書簡をホワイトハウスに送った。イスラエルは病院が武装勢力ハマスのために使われると主張しているが、書簡によれば、ガザの病院でハマスの活動を目撃したことは一度もない。
American Healthcare Workers Plead for End to Gaza Bombing - Antiwar.com [LINK]

イスラエルが標的にしているのは武装勢力ハマスで、パレスチナの民間人が死ぬのはハマスが人間の盾として利用しているからだと主張する人々は、今でもそれを信じているのだろうか。ジェノサイドは1年以上も続き、イスラエル軍自身、それを喜々としてしてSNSでライブ配信している。
Israeli War Crimes Documented by the Israeli Defense Forces [LINK]

2024-10-29

平和は文明の条件

財産権、分業、自発的交換は文明の基礎である。経済学者ミーゼスは、これらの教義が文明にとって不可欠である理由を説明し、平和が分業と協力の前提条件であることを強調している。戦争の脅威が常に社会を覆うとき、人々はもはや最も生産的な技術や能力に特化することはない。
Peace as a Prerequisite for Civilization | Mises Institute [LINK]
自由には、聞きたくないことを言う人々の権利も含まれる。自由社会における政府は、「ヘイト」とみなすものに基づいて個人の自由を圧殺する権力を持つべきではない。多くの人々がそうした自由への侵害を容認していることは、もはや私たちが自由な国家に住んでいない証である。
“Hate Symbols” and the Meaning of Liberty | Mises Institute [LINK]

危害を防止するためにのみ自由が制約されるのであれば、単に他人に不快感を与えるだけでは、自由を制限する正当な理由にはなりえない。しかし近年、危害の概念は認識できないほど拡大している。今や精神的な害も含まれ、人種差別を想起させるような事柄も含まれる。
The Presumption of Liberty | Mises Institute [LINK]

奴隷として生きるのでなければ、人間関係は常に自発的であるべきだ。正しい倫理原則によれば、誰も自分の意思に反して他人と付き合ったり、付き合わなかったりすることを強制されるべきではない。人種、性別、宗教などに関する反差別原則は、結社の自由とは相容れない。
Freedom of Association and Cancel Culture | Mises Institute [LINK]

国家権力の絶え間ない拡大は、有権者の夢を実現するうえで必要な手段として正当化される。権力を執拗に追い求める国家には、有権者の心に深く響く可能性の高い問題に焦点を当てる強い動機があり、有権者が自分の生活の支配権を国家に委ねるよう説得する可能性が高い。
The State’s War Against Hate | Mises Institute [LINK]

2024-10-28

ガザのジェノサイド

国際法はアパルトヘイト(人種隔離)に反対しているが、イスラエルはパレスチナ人を支配するために行ってきた。民族浄化に反対しているが、イスラエルはパレスチナの人々に行なってきた。ジェノサイド(大量虐殺)に反対しているが、イスラエルは今まさにガザで行っている。
The West's Support for Israel's Genocide Is Destroying the World as We Know It - Antiwar.com [LINK]
イスラエル空軍の米国製F16戦闘機が誰を爆撃しようが、何千ものレバノン人家族(その多くは子供や女性)が死傷しようが、バイデン米大統領は無条件で兵器の提供を続けている。人権を侵害しない、米国の人道支援を妨害しない、などの条件を求める6つの米国法に違反している。
Opinion | Biden Stands Aside as Netanyahu Incinerates Gaza, Now Lebanon | Common Dreams [LINK]

地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD) とともに、運用する100人の米兵がイスラエルに到着した。米軍がイスラエルでイランのミサイルを撃ち落とす可能性がある。それは米国がイランから交戦国とみなされ、そのミサイルによって殺される可能性があることを意味する。
Is a THAAD for Israel Worth a War With Iran? - Antiwar.com [LINK]

イスラエルは1982年にもレバノンに侵攻したことがある。当時レーガン政権下の米国は多国籍軍の一部として海兵隊を派遣した。兵舎に爆発物を積んだトラックが突っ込み、海兵隊員220人と米軍関係者21人が死亡した。米軍にとってベトナムのテト攻勢初日以来の死者数となった。
41yrs ago: 220 Marines involved in Israel's war on Lebanon killed | Responsible Statecraft [LINK]

過去5人の民主党大統領候補のうち3人(ケリー、クリントン、バイデン)はイラクに対する軍事行動を支持した。オバマが2008年に勝利したのは、イラク戦争に反対したためでもあるが、彼はイランやキューバとの外交を進める一方で、リビア、シリア、イエメンへの介入を開始した。
Harris embrace of Cheney goes back to World War I | Responsible Statecraft [LINK]

2024-10-27

俳句(2024年9月)

<a href="https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/%E8%8C%B6%E8%89%B2%E3%81%AE%E6%9C%A8%E8%A3%BD%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%AB%E3%81%AB%E9%BB%92%E3%81%A8%E9%8A%80%E3%81%AE%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%82%AA-yE5_bQNQgfU?utm_content=creditCopyText&utm_medium=referral&utm_source=unsplash">Unsplash</a>の<a href="https://unsplash.com/ja/@carreteromolero?utm_content=creditCopyText&utm_medium=referral&utm_source=unsplash">Nacho Carretero Molero</a>が撮影した写真


秋寒し帰らざる日の流行歌

小雨降る山路の果ての野菊かな

山寺の裏に回れば野菊かな

馬追の声も消えたり母の家

馬追や静かに眠る吾子ふたり

2024-10-26

選挙の幻想

政治行動は防衛手段として機能し、政府の侵犯を遅らせ阻止することで自由を守るのに役立つ。一方、市場に基づく取り組みは、資金と時間を活用することで、攻撃手段を提供し、並列システムやネットワークの発展を促し、政府が管理するサービスを無意味なものにしていく。
How to Vote for Liberty | Mises Institute [LINK]
小学校では、大統領が私たちの総意を代弁し、国内外で直面する問題に対処するために行動すると教わる。そのような単純な話は、政府がすることは何でも皆の願いの具現化であり、反対するのは皆の希望に逆らう利己的な立場であるかのように、都合よく仕立て上げる幻想である。
It’s Good to be Skeptical of Elections | Mises Institute [LINK]

古典的な無政府主義の立場は、誰も投票すべきではないというものだ。もし本当に全国的な運動が起これば、この戦術が悪いとは思わない。一方、投票が本当の問題だとは思わない。反投票派の人たちとは対照的に、投票することが不道徳だとは思わない。
Rothbard on Voting | Mises Institute [LINK]

政府が与える選択肢は限定されているから、自分の自由や財産に違いが生じると思えば、利用しない理由はない。残念ながら大統領職を廃止する投票をすることはできないが、2人の候補者に少しでも違いがあるのなら、投票を利用すればいい。2人の人間は少なくとも微妙に異なる。
Rothbard on Voting | Mises Institute [LINK]

投票するかしないかはどうでもいい。重要なのは、誰を支持するかということだ。投票に行かないのは構わないが、選挙の夜、投票に行く残りの有権者というカモたちが誰に当選してほしいと願うのか。これは重要なことだ。残念ながら大統領は4年間、我々の生活を大きく左右する。
Rothbard on Voting | Mises Institute [LINK]

選挙で投票する人数は少ないほどよい。投票数が少ないほど反政治感情が高まり、政治に対する暗黙の否定が高まる。政治家が「誰にでもいい、頼むから投票してくれ!」と懇願するのはそのためだ。得票数が少ないほど、勝者に対する「民意」の主張がばかばかしくなる。
Voting and Politics | Mises Institute [LINK]

2024-10-25

アインシュタインの誤謬

物理学者アインシュタインは、労働者の給与が、生産する商品の本当の価値によって決まっていないと批判する。しかし、価値は労働から生産物へと何らかの形で移転するものではない。まったく逆である。労働の経済的価値は、労働が生み出す最終製品の価値によって決まるのだ。
Albert Einstein and the Folly of Marxist Sympathies | Mises Institute [LINK]
物理学者アインシュタインは、オーストリア学派経済学について知識がなく、経済学における自分の間違いに気づくことがなかった。例えば、失業問題を解決するために労働時間を短縮する法制を求め、大衆の購買力が商品の供給量に見合うように最低賃金を確保するよう求めた。
Einstein Was the Greatest Physicist but Was Economically Illiterate | Mises Institute [LINK]

マルクスの考えでは、プロレタリアート(賃金労働者階級)が限界に達した後、社会主義が資本主義に取って代わる。しかしマルクスは、社会主義がどのように機能するかについてはほとんど言及していない。実際、ミーゼスが示したように、市場価格がなければ、経済は混沌に陥る。
New "Engels" on Marx | Mises Institute [LINK]

マルクス主義は歴史を社会主義への予測可能な進行とみなした。仏思想家ソレルはこの決定論的な見方を否定し、労働者は行動を起こすよりも必然を待つように促されると主張した。ソレルはベルクソンの哲学に目を向け、行動、創造、予測不可能性を強調する革命戦略を明確にした。
Henri Bergson: The Philosopher of Life and Creative Evolution | Mises Institute [LINK]

マルクスによれば、労働者はつねに自分の労働という商品を価値よりも安く売り、資本家のために剰余価値を生み出す。しかし、なぜ労働だけが一貫して原価割れで売られているのか。他の市場であれば、商品をその価値より安く売るのは持続不可能な商行為で、倒産に至るだろう。
Why Marx Was Wrong about Workers and Wages | Mises Institute [LINK]

ハイエクは『隷従への道』で、政府が一定のルールに従う限り、福祉国家政策の一部は法の支配と両立しうると考えた。ミーゼスはこれに同意せず、「福祉国家は市場経済を社会主義へと一歩一歩変えていく手法にすぎない」「共産主義と福祉国家の違いは方法にすぎない」と述べた。
Hayek on the Welfare State | Mises Institute [LINK]