2024-11-19

減税を求め、政府支出には無関心——サプライサイド経済学批判

マレー・ロスバード(経済学者)
2024年11月16日

[編集者注:1984年10月に最初に発表されたこの記事で、マレー・ロスバードは共和党と保守派の経済学の問題点を批判している。つまり、その支持者は、税率を引き下げて政府支出を増やすことで、巨額の赤字を何とか増やさずに両方の利益を得ることができると考えている。その多くは、(減税で税率を最適水準に下げれば税収を増やすことができるという)いわゆるラッファー曲線の考え方に基づいているが、ロスバードはこれを懐疑的に見ている。さらにロスバードは、ほとんどの保守派が「金本位制」について話す際、意味するのは本物の金本位制の代用品である、政府に規制された金本位制だと指摘している。その根底にあるのは、巨大な米国の福祉国家について何もしないことだ。当時、この種のものは「サプライサイド(供給側)経済学」と呼ばれていた。残念ながら、今日のMAGA(トランプ次期米大統領のスローガン「米国を再び偉大に」)経済学は多くの点で、失敗した昔のサプライサイド経済学の焼き直しであり、ロスバードの批判は依然として重要な資料である。]
サプライサイド学派の中心となる主張は、限界所得税率の大幅な引き下げは、労働と貯蓄、ひいては投資と生産への意欲を高めるというものである。そうだとすれば、異論を唱える人はほとんどいないだろう。しかし、そこには他の問題も絡んでいる。少なくとも有名なラッファー曲線の国では、所得税の引き下げは財政赤字の万能薬として扱われていた。大幅な税率引き下げは、税収を増加させ、均衡予算をもたらすとされていた。

しかし、この主張を裏付ける証拠はまったくなく、実際、可能性はまったく逆である。所得税率が98%で、90%に引き下げられた場合、おそらく税収が増加するというのは事実である。しかし、これまでのはるかに低い税率では、この仮定を正当化する根拠はない。実際、歴史的に、税率の引き上げは収入の増加につながり、その逆もまたしかりであった。

しかし、サプライサイドにはラッファー曲線の誇張された主張よりももっと深刻な問題がある。サプライサイド派全員に共通するのは、総政府支出、ひいては財政赤字に対する無関心である。緊縮財政であれば民間部門に回るはずだった経営資源が公共部門に取られることを気にしない。

彼らが気にするのは税金だけだ。実際、財政赤字に対するその姿勢は、古いケインズ派の「我々は自分から借金をしているだけ」という考えに近い。それよりも悪いことに、サプライサイド派は現在の膨れ上がった政府支出の水準を維持したがっている。自称「ポピュリスト」として、その主張の基本は、国民は現在の支出レベルを望んでおり、その期待を裏切るべきではないというものだ。

支出に対するサプライサイド派の姿勢よりもさらに奇妙なのは、お金に対する見方だ。一方では(金などの裏付けのある)ハードマネーを支持し、「金本位制」に戻ることでインフレを終わらせると主張している。他方、ポール・ボルカーの連邦準備理事会(FRB)を、インフレ政策が過ぎるからではなく、「過度に引き締めた」金融政策を実施し、それによって「経済成長を阻害している」として絶えず攻撃してきた。

要するに、これらの自称「保守派ポピュリスト」は、インフレと低金利を熱愛する点において、まるで昔ながらの(左派)ポピュリストのように思えてくる。しかし、それは金本位制の擁護とどのように整合するのだろうか。

この質問の答えの中に、新しいサプライサイド経済学の一見矛盾する問題の核心へのカギがある。サプライサイド派が望む「金本位制」は、実質のない金本位制の幻想を提供するだけだ。銀行は(預金を)金貨で払い戻す必要はなく、FRBは経済を微調整する手段として、金ドルの定義(交換比率)を自由に変更する権利を持つことになる。要するに、サプライサイド派が望んでいるのは、昔のハードマネーの金本位制ではなく、インフレとFRBの通貨管理に屈して崩壊した、ブレトンウッズ時代の偽りの「金本位制」なのだ。

サプライサイド理論の核心は、ベストセラーとなった哲学的マニフェスト、(経済ジャーナリスト)ジュード・ワニスキー著『世界の仕組み』で明らかにされている。ワニスキーの見解は、人々、つまり大衆は常に正しく、歴史を通じて常に正しかったというものだ。

経済学では、大衆は大規模な福祉国家、大幅な所得減税、均衡予算を望んでいるとワニスキーは主張する。これらの矛盾した目的をどうやって達成できるのか。ラッファー曲線の巧妙な手法によってである。そして金融分野では、大衆が望んでいるのはインフレと低金利、金本位制への回帰であるように思われる。それゆえ、大衆は常に正しいという公理に支えられ、サプライサイド論者は、インフレ政策をとり、金融を緩和するFRBに加え、偽りの金本位制による安定の幻想を与えることで、大衆の望むものを与えようと提案するのだ。

(次を抄訳)
A Walk on the Supply Side | Mises Institute [LINK]

【コメント】現在の日本の減税運動の一部にも、かつてのサプライサイド派や今のトランプ派と似た欠点が見受けられる。減税を求めることには熱心だが、政府支出の削減は後回しにする傾向だ。政府支出は結局、何らかの形で国民が負担するしかないから、もし減税で税収が減れば、支出を減らしたくない政治家や官僚は、これまで同様、不足分を赤字国債の発行と、それを日銀に事実上引き受けさせることで穴埋めするだろう。それはお金の価値を薄め(インフレ税)、物価高を招き、産業の新陳代謝を妨げ、暮らしを苦しくする。政府支出の削減を伴わない減税は、担保を取らずに金を貸すようなもので、あとで痛い目にあう。

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