2023-10-27

ストは労働者を不幸にする

先進国でストライキの波が広がっている。英国では中部マンチェスターで鉄道運転士の労働組合がストを決行し、医師らも賃上げを求めて大規模なストを繰り広げた。米国では全米自動車労組(UAW)のストが突入から1カ月を過ぎても収束を見通せない。
日本でも8月末、そごう・西武の労組が西武池袋本店(東京・豊島)でストを決行した。親会社のセブン&アイ・ホールディングスは、労使の対立が続く状況のまま、そごう・西武の売却に踏み切るなど異例の展開となった。

一連のストを、労組の影響力の強い左派政党や左派言論人はもちろん強く支持する。日本共産党の機関誌「前衛」は11月号で「労働者の権利・ストライキのある社会へ」という特集を組んだ。

しかし世間では、「ストは迷惑」という率直な感想も出ていた。そうした声に対し、社会活動家の藤田孝典氏はX(旧ツイッター)で「労働組合がストライキで店を閉めたら「迷惑」〔略〕権力に対して、服従、猛獣がここまで進めば、ワーキングプアも貧困も解消しない〔略〕」と批判した。

一般の人とみられるポストによれば、NHKの連続テレビ小説(朝ドラ)「ブギウギ」で、少女歌劇団が「ストライキするしかないか」という話になった際、「ストはお客様に迷惑や」というセリフがあった。この人はそれに対し「ひっかかっている」といい、こう述べる。「ストは労働者の権利。海外では今も労働者はストライキをする。日本では8月にそごうがストライキをした。安く使われるのはごめんだ」

元ラグビー日本代表でスポーツ教育学者の平尾剛氏も、そごう・西武のストを伝える朝日新聞の記事へのコメントで「労働者の権利であるストが長らく行われてこなかった」と述べ、ストは労働者の権利という考えを強調した。

たしかに、ストは労働者の権利だ。日本国憲法第28条は、ストなどを行う団体行動権を保障している。この権利は労働法によって具体的に定められ、たとえば、適法なストである限り、かりに使用者が損害を受けても、労働者に対して賠償を請求することができない。ストは法によって強力に保護されているのだ。

しかし残念ながら、憲法も法律もすべて正しいとは限らない。法に定められた権利には2種類ある。すべての人が持つ権利と、政府によって一部の人だけに与えられる特権だ。ストは労組メンバーだけに与えられる経済上の特権にほかならない。そして特権はしばしば経済の働きをゆがめ、人々を不幸にする。

そもそもストライキとは、労組の要求が経営側との団体交渉によって解決できない場合、闘争の手段として一定期間、労働力の提供を停止することをいう。正常な業務運営に損害を与えることによって労働条件の向上・維持・改善などの要求を通させようとする。

言い換えれば、自由な市場取引で成り立つよりも高い価格を、暴力に訴えて実現しようとする手段といえる。普通の商売でやれば違法だが、すでに述べたように、ストの場合は政府が後ろ盾になっており合法だ。けれども、暴力や政府の力で市場経済をゆがめれば、必ずそのとがめを受ける。

資本主義経済で労働者の賃金を押し上げる最大の原動力は「資本投資」だ。機械、道具、設備、ソフトウェアなどへの資本投資が増えると、労働者自身の生産性が高まり、時間当たりに生み出すことのできる商品やサービスの量が増える。つまり、労働者は特別な教育や訓練を受けなくても、雇い主にとって突然価値が高まるのだ。信頼できる熟練社員はいつも引っ張りだこだから、他社に奪われたくない雇い主は賃金を上げる。これが自由な市場経済における賃金上昇のメカニズムだ。

ところが労働者の生産性が高まらず、企業の業績も良くなっていないのに、無理に賃金を引き上げれば、その分のお金をどこからか持ってこなければならない。人件費全体を増やせないとしたら、犠牲になるのはたいてい、労組という特権集団に入っていない労働者だ。すなわち、派遣労働者やパートタイムなどの非正規労働者ということになる。人件費を減らす代わりに、たとえば資本投資を減らせば、労働者自身の生産性が高まらず、ますます賃金を上げにくくなる。

ストはお客にとって迷惑なだけでなく、強引な賃上げは派遣やパートを含む労働者をむしろ不幸にする。本当に労働者の味方なら、ストをもてはやすのはやめたほうがいい。

<参考資料>
  • Strikes Always Have Economic Consequences and the Latest UAW Strike Is No Exception | Mises Wire [LINK]

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