2023-01-25

債務上限騒動の偽善

元米下院議員、ロン・ポール
(2023年1月23日)

今週、米政府は31.4兆ドルの借入限度額(通称「債務上限」)に達した。このため下院共和党、バイデン大統領、議会民主党の間で対決が繰り広げられた。
下院共和党は、バイデン大統領と上院民主党に対し、債務上限の引き上げに歳出削減を含めることに同意するよう要求している。しかしバイデン大統領と議会民主党は、共和党との交渉を拒否している。むしろ大統領らとその仲間である主要メディアは、債務上限引き上げに歳出削減を含めるよう求める共和党を「無責任」だと非難している。

米国の国家債務は国内総生産(GDP)の約122%で、国民が生産する以上の借金を抱えていることになる。国債の利払いは、他の連邦予算の大きな支出分野である社会保障、医療保険、「国防」に次ぐ規模である。利払いが行われている間にも、国の借金は毎年増え続けている。

政府の支出は民間部門から資源を奪う。したがって民間企業が成長し、新しい雇用を生み出すために利用できる資本は少なくなる。政府支出はまた、連邦準備理事会(FRB)の財政ファイナンスにより、物価上昇とドルの価値下落の一因となる。FRBが金利を自由市場の水準に近づけることを許さない理由の一つは、連邦政府の利払いが維持できない水準に上昇することになるからである。これらの事実を考慮すると、無責任なのは、政府が支出を削減せずに信用限度を引き上げるべきだと考えている人々であることは明らかだろう。

ケビン・マッカーシー下院議長のような旧来の共和党員が財政抑制の英雄であるとは言わない。むしろマッカーシー氏は多くの共和党員同様、ドナルド・トランプ氏が大統領になった際、歳出増にも債務上限措置の停止にも反対しなかったのである。さらに共和党のどの支出計画も、軍産複合体への支出を増やし続ける一方で、社会保障とメディケア(高齢者向け公的医療保険)の迫り来るコスト問題への対処を拒否する可能性が高い。

一部の共和党員は社会保障とメディケアの改革を議論することに前向きだが、大半は依然として高齢者ロビー団体を恐れるあまり、制度変更を支持しない(たとえその変更が現在の受益者に損害を与えないものであっても)。その結果、議会が有意義な制度改革を可決する可能性は低い。少なくとも、メディケアと社会保障の信託基金が資金不足に陥り、そうするしかなくなるまでは、動かないだろう。メディケア信託基金は5年後、社会保障信託基金は12年後に債務超過に陥ると予測されている。もちろんFRBがインフレ税によって政府給付を削減し、労働者の賃金や貯蓄の価値を下げる可能性が高いので、議会は厳しい選択を避けることができるかもしれない。

下院共和党の指導部が軍事費の削減を支持する姿勢を示したという初期の報道を受けて、共和党のタカ派からは、軍事費の削減は米国とその同盟国を敵に対して脆弱な状態に置くことになるという予想どおりの声が上がっている。しかし限られた額の削減を検討しても、米国は次に軍事費の大きい9カ国の軍事費の合計を上回る軍事費を維持することになる。軍産複合体の支持者や宣伝担当者から圧力を受けた後、ほとんどの共和党議員は国防費の削減を支持することから退いた。

多くの財政保守派の問題は、福祉・戦争国家主義の前提を受け入れていることである。そのため彼らは支出削減を支持したり、支出増加に反対したりする一貫した原則に基づく議論を行うことができない。自由な社会を取り戻すカギは、国家主義を拒否する個人が一定以上に増えることにある。

(次を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Debt Ceiling Hysteria and Hypocrisy [LINK]

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