2016年12月29日木曜日

池上彰『高校生からわかる「資本論」』


マルクスの幻想

マルクスの再評価を叫ぶ論者は、自由な資本主義が労働者を不幸にすると主張する。しかし歴史上、実際に労働者の生活水準を高めたのは資本主義である。論者が労働者のためを思ったつもりで唱える規制強化は、労働者をむしろ苦しめる。

本書の著者も、資本主義が労働者を不幸にするというマルクス主義者の誤った主張を無批判に受け入れ、議論を展開する。派遣切りのニュースに触れ、これは「アメリカの新自由主義」の影響で派遣労働の自由化が推進されたせいだと書く。

しかしこれは誤りだ。2004年に実施された派遣労働の規制緩和は、労働者保護を目的とする国際労働機関(ILO)の方針に基づく。欧州の高い失業率を改善するために、不安定であっても雇用機会を増やすことが必要と考えたのだ。

著者は派遣切りに憤る。だが日本で派遣社員が増えたのは正社員の雇用を守るためだ。著者自身が礼賛する労働者保護規制のせいで不況でも正社員を解雇できないため、派遣社員が調整弁に使われた。著者は規制の負の部分を無視している。

戦後日本の官僚は大学でマルクス経済学を学んだので、資本主義をコントロールしたと著者は称える。戦時中、マルクス主義をひそかに学んだ革新官僚らによって経済体制が設計され、国家総動員法で国民を苦しめたことを知らないようだ。

著者は時事問題についてわかりやすく解説してくれるが、経済の理屈がからむ話になると学生時代に親しんだというマルクスの幻想にとらわれ、いいところがない。残念だ。

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