科学は多数決で決まらない
菅義偉首相は10月に行った所信表明演説で、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げた。その方針の前提とされるのは「地球は温暖化しており、それは代表的な温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の増加による」という説だ。
この説はメディアを通じ、絶対に正しい「常識」として通用している。けれども、その「常識」はほんとうに正しいのか。本書は疑問を投げかける。
メディアでは最近、台風の勢力が強くなり、数も多くなり、被害も甚大になったのは温暖化のせいだと喧伝する。これに対し著者の池田清彦氏は「台風の数はこの半世紀を通じて微減傾向にあるし、勢力も1960年代や70年代のほうが強かった」と、気象庁のデータを示しながら反論する。
20世紀後半になって地球の温度が急激に上がったことを示す、ホッケースティック型の有名なグラフがある。米気象学者マイケル・マンが作成したもので、 温暖化CO2犯人説の有力な根拠の一つとされてきた。
ところが2019年8月、グラフはデタラメだと批判したカナダの元大学教授ティム・ボールをマンが名誉毀損で訴えた裁判で、マンは完全敗訴した。被告が求めた、マンがグラフを作成するために使用した原データを開示せよ、という請求を拒んだことが、敗訴の大きな理由だった。
池田氏はこの一件を紹介し、「もともと捏造したのだから、原データを開示できるわけがない」と述べたうえで、「この裁判も日本のマスコミ(少なくとも朝日新聞やNHK)は全く報じなかった」とメディアの姿勢を批判する。
温暖化そのものに関する池田氏の議論には、多数派から異論もあることだろう。しかし次の指摘は、間違いなく問題の本質を衝いている。
政治的な決定は多数決によって決まる。科学的事実は多数決によっては決まらないから、ここには必然的に齟齬が生じることになる。
そして「一度始めてしまった政策が、新たに判明した科学的事実に整合的でないことが分かったとしても、この政策はなかなか廃絶されない」。問題の根元には政治による科学の利用があることを、池田氏は見抜いている。
本書は、物々交換のすすめなど賛同できない主張もあるけれども、多数派の「常識」に流されないことの大切さを教えてくれる。
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