2024-10-06

アジア太平洋戦争、日本の敗因

緒戦の勝利と危機の予兆


1941(昭和16)年12月8日、日本軍はハワイの真珠湾などを奇襲攻撃し、マレー半島にも上陸して、米国・英国に宣戦布告して太平洋戦争が始まった。

その際、日本の軍部の謀略によって、日本から駐米日本大使館への電報が遅らされ、そのため日本大使館からの日米交渉打ち切りの通告が遅れた。米政府は日本のだまし討ちと国民に宣伝し、元来戦争に乗り気でない米国民を、日本やドイツ、イタリアとの戦争に熱狂的に駆り立てることになった。

太平洋戦争の歴史 (講談社学術文庫 1669)

太平洋戦争は、当時の米国での呼称(the Pacific War)であり、日本は大東亜新秩序を建設する立場から、この戦争を大東亜戦争と呼んだ。この戦争のアジアへの広がりを示すため、近年、アジア太平洋戦争(あるいはアジア・太平洋戦争)という呼称も使われている。

独伊も三国同盟にもとづき米国に宣戦し、戦争は世界的規模に拡大した。

開戦後の半年間は、日本軍が米英の植民地防衛軍の劣勢に乗じて、中部太平洋から東南アジアに及ぶ広大な地域を占領した。緒戦は日本軍の圧勝に終わったとはいえ、危機の予兆はすでに現れ始めていた。欧州情勢の変化である。

日本政府のシナリオでは、南方作戦によって戦略的自給圏を確保して不敗の体制を確立するとともに、中国・蒋介石政権への圧力を強化する、他方で、独伊と軍事的に連携しながら、まず英国を屈服させ、それによって米国民の戦意を喪失させて講和に持ち込む、という目論見だった。

当時、英国の強固な抵抗にあったドイツは英本土上陸作戦を断念し、矛先を東に転じて41年6月には独ソ戦を開始していた。日本のシナリオの前提は、独ソ戦は短期間のうちにドイツの勝利に終わり、ソ連は崩壊する、独ソ戦の勝利によって戦略態勢を強化したドイツは、続いて英国を屈服させる、というものだった。

たしかに、スターリン体制下での大量粛清の結果、ソ連軍が弱体化していたこともあって、ドイツ軍の進撃は急であり、11月末には、首都モスクワまで33キロの地点に到達していた。しかし、死にものぐるいの反撃によってドイツ軍の総攻撃を挫折させたソ連軍は、12月上旬には反撃に転じ、ドイツ軍を押し返し始めた。アジア太平洋戦争が始まったのは、まさにその時だった。「日本の軍事戦略の前提そのものが、静かに崩れ始めていたのである」(吉田裕『アジア・太平洋戦争』)

連合国軍の反攻


日本は緒戦の予想以上の大戦果を実力の差によるものと過信し、安易な情勢判断と作戦計画に走った。陸海軍間には統一した戦略が欠如していた。

陸軍は、石油などの戦略的資源の開発と日本本土への輸送に力を注ぎながら、南方戦線では持久戦の態勢へ移行することを重視した。北方で対ソ戦を開始することを計画していたからである。一方、米国との国力の大きな格差から長期戦に自信の持てない海軍は、積極的な攻勢作戦の連続によって米国に短期決戦を強要し、米国民の戦意を喪失させることを基本戦略としていた。

その結果、1942年3月に決定された「今後採るべき戦争指導の大綱」は、戦略的重点のあいまいな折衷案となった。また同月決定された「世界情勢判断」では、米国など連合国軍の本格的な反攻作戦が開始される時期を、「概ね昭和18(1943)年以降なるべし」と予想した。だが実際には、米軍の反攻作戦は42年夏に始まった。

日本軍の緒戦の勝利を一気に覆したのは、42年6月のミッドウェー海戦の惨敗だった。ミッドウェー攻略作戦は連合艦隊司令部が海軍軍令部の反対を押し切って計画したものである。敗北の背景には、機動部隊の疲労と連勝による驕慢とがあった。

日本海軍は、ミッドウェー攻略作戦に虎の子の正規空母4隻を投入したが、日本軍の暗号を解読することによって攻撃を事前に知っていた米海軍は、3隻の正規空母を配備して日本軍を待ち受けていた。6月5日、日本軍のミッドウェー島に対する空襲で始まった戦闘は、当初、日本軍優位のうちに推移していたが、米海軍の急降下爆撃隊にすきをつかれ、たちまち「赤城」「加賀」「蒼龍」の3空母を失った。残る「飛龍」も米軍機の攻撃で沈没し、結局、このミッドウェー海戦は日本海軍の大敗に終わった。

大本営発表を受けた新聞記事では「肉を斬らせて骨を斬る必殺の海軍魂」のあらわれだとしたが、現実には、「骨」を斬られたのは日本海軍だった。この真実を国民に隠すため、厳しい秘密主義がとられた。生存者にはかたく口止めがされ、通信は絵ハガキだけが許されて、封書はいっさい禁止された。

戦死者の遺族に対しても、ことの真相は隠され続けた。たとえば、空母「加賀」乗組の戦死者の遺族には、1カ月以上たってから、「名誉の戦死」の公報が送付され、①「生前ノ配属艦船部隊名等」の守秘義務②父母妻子(やむをえない場合は兄弟)以外には戦死の事実を漏らさないこと③僧侶の読経など外部へ漏れる行事の禁止——といった注意事項が指示されていた(黒羽清隆『太平洋戦争の歴史』)。

沖縄戦の悲劇


日本の敗色が濃厚となった1944年、日本軍は沖縄諸島の防衛を強化しようと、16歳から48歳までの男性を防衛隊などの名で動員し、陣地の構築や飛行場の設営作業を行わせた。

1945年4月1日、米軍は沖縄本島に上陸した。6月に守備軍が全滅するまで、戦闘は沖縄全土を巻き込み、約3カ月続いた。この間、日本軍は働ける男性のほとんどを、武器を持たない兵員である義勇軍として徴兵した。中等学校生は、男子が鉄血勤皇隊として戦い、女子が看護要員として働き、悲惨な最後を遂げた。

沖縄戦の特徴の一つは、日本軍守備隊の戦死者数とほぼ同じ数の一般住民(いずれも約9万4000人)が戦闘に巻き込まれて死亡していることである。沖縄の防衛にあたる第32軍と大本営は、沖縄戦を、本土決戦準備のための時間を稼ぐ捨て石作戦として位置づけていた。県民の避難計画や安全確保対策は後回しとなり、県民から大きな犠牲者を出す結果となった。

沖縄戦のもう一つの特徴は、日本軍によって、多数の沖縄県民が殺害されたことだ。日本軍は、米軍のスパイとみなした一般住民をただちに処刑しただけでなく、日本軍将兵用の壕を確保するため、住民を壕から追い立てた。これによって、多くの住民が激しい銃放火にさらされ、生命を奪われた。

さらに深刻なのは、「集団自決」である。米軍に圧倒され、戦局の行く末に絶望して自暴自棄になった日本軍将兵は、手榴弾を配るなどして、住民に「皇国臣民」として「自決」することを強要した。沖縄の地方有力者が協力している場合もあるが、日本軍が関与・主導しなければ、この「集団自決」は起こりえなかっただろう(前掲『アジア・太平洋戦争』)。

作家の司馬遼太郎氏は沖縄戦について考察し、「軍隊というものは本来、つまり本質としても機能としても、自国の住民を守るものではない」「軍隊は軍隊そのものを守る」と喝破する。さらに、「もし米軍が沖縄に来ず、関東地方にきても、同様か、人口が稠密なだけにそれ以上の凄惨な事態がおこったにちがいない」と述べる(『街道をゆく6 沖縄・先島への道』)。

アジア太平洋戦争の戦死者の大部分は、沖縄戦を含む、マリアナ諸島陥落後の絶望的抗戦期に発生している。岩手県の事例によれば、44年1月以降の戦死者は、全体の実に87.6%に達している。歴史学者の吉田裕氏は、「戦争終結の決断が遅れたことで、どれだけ多くの生命が失われたかを、この数字は示している」と指摘する。

2024-10-05

ネオコンとしてのミレイ氏

アルゼンチンのミレイ大統領は、外交政策においてリバタリアンではない。米国の帝国主義路線(親NATO、親ウクライナ、親イスラエル)を激しく支持し、不介入主義者ではない。就任後に発表され、実行されているその外交政策の特徴は、リバタリアンというよりネオコンである。
Una disección hoppeana de Javier Milei - Instituto Rothbard [LINK]
アルゼンチンのミレイ大統領は就任初日から、自ら進んで米NATO枢軸の一員となろうと望んでいることが明らかになった。イスラエルに対する様々な提案や、ウクライナの独裁者ゼレンスキーとの度重なる会談で、これを実証してきた。米政府の頼れる嘆願者であり、友人である。
Milei quiere más gasto; para las fuerzas armadas, por supuesto - Instituto Rothbard [LINK]

リバタリアンは戦争に対し和平と交渉を支持すべきだ。だがアルゼンチンのミレイ大統領は「イスラエルの自衛権」を擁護し、イスラエルは「いかなる過剰行為も行っていない」と述べた。西側の立場を強調し、テロリストから自分たちを守るために「あらゆる資源」を使うと述べた。
Javier Milei contra la causa antiguerra - Instituto Rothbard [LINK]

アルゼンチンのミレイ大統領は、ネタニヤフ首相率いる大量虐殺国家イスラエルに支援と忠誠を提供してきた。ネタニヤフは「両国とも自由市場を守る」と述べた。ミレイはそうでも、イスラエルでは西岸とガザのパレスチナ人に自由な土地取引や自由貿易が事実上認められていない。
Buchanan y Milei: un análisis rothbardiano - Instituto Rothbard [LINK]

アルゼンチンのミレイ大統領は、トランプ氏が社会主義と闘ったと称える。だがトランプはコロナ対応で社会を麻痺させ、米国を社会主義的な福祉政策からほとんど解放せず、内部告発者のアサンジやスノーデンを許さず、CDC、FDA、NSAなど札付きの政府機関には手をつけなかった。
Una disección rothbardiana de Javier Milei - Instituto Rothbard [LINK]

2024-10-04

米イスラエルの特別な関係

中東における米国の外交政策は何十年もの間、機能不全に陥っており、イスラエルとの不均衡な関係は、欠陥のある地域戦略の中核をなしている。米国は海外で過度に拡張し、国内で深刻な政治・経済問題に直面している今、イスラエルに追随して奈落の底に深く落ちようとしている。
It’s Time to Rethink the U.S.-Israel 'Special Relationship' - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]
イスラエルのオルメルト元首相によれば、国際舞台におけるイスラエルの政治的安定は長年にわたり、米国の絶対的な支援にかかってきた。イスラエル空軍は戦闘機、輸送機、給油機、ヘリコプターなど、すべて米国に依存している。供給源として、他に信頼できるところはない。
Former Israeli PM Admits Israel's War Crimes Can't Happen Without US Support - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

トランプは、自分がいかに米国を第一に考えているかを語るのが好きだ。トランプの伴走者バンスは、他の優先事項があることを明らかにした。副大統領討論会の最初の質問に答えて、自分の忠誠はまずイスラエルにあると主張した。それどころか米国は二番手ですらないと示唆した。
J.D. Vance, Israel Firster - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

ポリティコによれば、バイデン米政権が公にはレバノンでの停戦を求めているにもかかわらず、米政府当局者は内々にイスラエル当局者に対し、攻撃を激化させる計画に同意している。9月23日以来、レバノンではイスラエル軍によって民間人を含む1000人以上が虐殺されている。
The US Privately Encouraged Israel To Escalate in Lebanon - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

米上院議員8人は3月、バイデン大統領に書簡を送り、1961年対外援助法第6201条に基づきイスラエル政府への攻撃用軍事援助を打ち切るよう求めた。イスラエル政府が米国の人道支援の輸送や配達を禁止・制限しているからだ。それでも米国の活発なイスラエル軍事援助は続いている。
Violating the Law to Provide War Aid to Israel - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

2024-10-03

中国経済の試練

習近平政権の下で中国の成長率は以前の半分にまで落ち込んでいる。これは毛沢東を崇拝する習近平がビジネスを取り締まったからだ。一方で習氏は政府に有利な産業、とりわけグリーンエネルギーと住宅に何兆ドルも注ぎ込んだ。これらは現在、過剰設備と需要不足で崩壊している。
China on the Edge of Recession | Mises Institute [LINK]
経済の逆風にもかかわらず、中国共産党はその掌握力を強め続けている。 第14次五カ年計画では「データに基づく国家統治能力の活用」を目指している。中国は改革を進めているが、その大部分は依然として社会主義であり、繁栄を犠牲にしてでも国家統制を強化する方向にある。
The Chinese Economy: Market Socialism with Chinese Characteristics | Mises Institute [LINK]

日本や欧州は高齢化を迎えたとき、すでに豊かな先進国だった。技術を活用し、少ない労働者で高い生活水準を維持していた。中国は発展途上で、1人当たりGDPは伊日の約3分の1、米国の6分の1にも満たない。労働集約的な製造業に依存し、経済減速に伴いその雇用さえ減少している。
China’s Inefficient and Unsustainable Central Planning | Mises Institute [LINK]

中国が世界を征服するというのが、この10年間のストーリーだった。実際には、習近平の統治は中国経済にとって最悪であり、自由市場の奇跡は、資本を国営産業へ流すための規制に取って代わられた。コロナ対策の都市封鎖は途方もなく破壊的で、コロナ後の景気回復は頓挫した。
China Enters the Doom Loop | Mises Institute [LINK]

中国では不動産セクターが巨大だ。その直接・間接の比重はGDPの25%で、日本やスペインの不動産バブルの2倍以上だ。中国政府は過剰な債務を減らすため規制を導入しているが、GDPの増加と雇用創出の恩恵を受けているため、企業債務モデルに関して自己満足的な立場を崩さない。
Evergrande Isn't China's "Lehman Moment." It Could Be Worse Than That. | Mises Institute [LINK]

2024-10-02

不換紙幣は吸血鬼

不換紙幣による被害は未知のものであり、吸血鬼のように闇に紛れて忍び寄ってくる。被害者は無力で無自覚であることが多く、労働の成果は事実上吸い取られていく。不換紙幣の製造を許された人々が、独占された貨幣を使わざるをえない人々を犠牲にして生きることを可能にする。
The Vampire Fiat Money System: How It Works and What It Means for Your Wealth | Mises Institute [LINK]
ギリシア神話の英雄アキレスがかかとに弱点を持っていたように、不換紙幣にも弱点がある。需要の縮小だ。国債や銀行預金への投資を減らす一方で、株式、貴金属、土地、不動産など有形資産への投資を奨励する。不換紙幣を解体する行動をとらない政府や政治家への支援をやめる。
The Achilles Heel of the Fiat Money System | Mises Institute [LINK]

個人は金を宝飾品や産業用途に使用する。 この意味で金は富の一部だ。もし何かの理由で金の生産が増え、その傾向が持続するなら、金の交換価値は他の財に対して持続的に下落するだろう。しかし金の供給量の増加は、「無から生み出す」貨幣の増加のような弊害をもたらさない。
Why There's So Much Confusion over What "Inflation" Means | Mises Institute [LINK]

20世紀に不換紙幣が普及する以前は、消費のために借金をすることに文化的な抵抗があった。今は物価上昇で貯蓄の価値が下がるため、家を買うために10年間お金を貯めることはもはや意味がない。借金してすぐ家を買い、安くなったお金でローンを返済する方がずっと好都合なのだ。
The Cultural Consequences of the Federal Reserve | Mises Institute [LINK]

不換紙幣と特権的銀行は経済をゆがめる。銀行は通貨発行益を得ることができるため、個人の貯蓄など他の資金調達源に勝つ。工場式に生産性を高めやすい穀物、豚肉、鶏肉に融資が集中し、牛肉に向かわなくなったため、豚肉などの供給は牛肉より相対的に増加し、価格は下落した。
How Fiat Money Made Beef More Expensive | Mises Institute [LINK]

2024-10-01

民主主義より自由を

政治体制が「民主的」かどうかにかかわらず、社会の政治的緊張を緩和し、安定をもたらすには、政府権力の制限が必要だ。自由な市場と個人の権利の強化によって、意思決定を分権化し、政府の役割を縮小しよう。必要なのは「より多くの民主主義」ではなく「より多くの自由」だ。
Smashing the Western Illusion of Democracy | Mises Institute [LINK]
民主主義は個人が投票を通じて未来を選択する機会を与えるとされる。しかし一票の個人の力は微々たるものだ。知識を持って投票するメリットは、多数の有権者によって薄められてしまう。ほとんどの人が感情や本能に基づいて投票し、表面的な美辞麗句に左右されることが多い。
Unmasking Democracy: A Moral Virtue or a Flawed Tool? | Mises Institute [LINK]

バイデン米大統領はSNSの投稿だけで大統領選から離脱し、ハリス副大統領を大統領選に推薦した。予備選の過程を完全に消し去った。民主主義の党だという民主党は、選出過程から一般有権者を完全に切り捨て、候補者は少数のエリート党内関係者によって選ばれることになった。
The party of "democracy" will now choose your candidate for you | Mises Institute [LINK]

民主主義を口にする割には、ホワイトハウスは実際には、目に見えない、選挙で選ばれたわけでもない、エリートだけに責任を負う人々によって運営されている。これをディープステートと呼ぶ者もいる。米国はテクノクラシー(専門家支配)であり、民主制でも共和制でもない。
Unelected technocrats are now the nation's chief executives | Mises Institute [LINK]

テクノクラート(技術者)は、ビジネスを運営するのに適した特定の知識を持っているかもしれないが、政府の仕事では常に「不適切な」人物となる。そうした専門家を活かす唯一の方法は、市場で他の人と競争し、利用可能な資源を利用し、要求する人にサービスを提供することだ。
The technocratic fallacy: we just need "the right people" in government | Mises Institute [LINK]