経済評論家を名乗る三橋貴明は『愚韓新論』(飛鳥新社)で、「韓国経済にとって日本は必須だが、日本にとってはまったくそうではない」と韓国を見下す。なぜなら「韓国経済は日本からの資本財輸入が止まると、生産設備の多くが動かなくなる。逆に、日本は韓国からの輸入が止まっても、特に何の支障もない」からだという。
三橋は、韓国が輸入している日本製品のうち「代替のきかないもの」の例として、高純度のネオン、クリプトン、キセノンといった「レアガス」を挙げる。レアガスは半導体やプラズマディスプレイなど先端産業分野に欠かせない材料だが、「韓国にはまったく生産能力がない」。したがって竹島問題などで日韓関係がさらに悪化し日本が対韓禁輸に踏み切れば、韓国は「製造ラインが止まってしまう」と三橋は嬉しそうに述べる。
しかしこれはおかしい。そもそもレアガス販売で高い世界シェアを握るのは、欧米の化学大手である。今は値段が安いなどの理由で日本製レアガスを買っている韓国企業も、日本からの輸入がストップすれば、欧米のどこからか購入するだけの話である。他の資本財にしても同様で、日本企業しか作れないものなどない。禁輸などすれば、損失を受けるのは販売先を失う日本企業である。
また三橋はさらに妄想を逞しくして、もしこうして日本から「代替のきかない資本財」の輸入が止まれば、韓国経済は壊滅的な打撃を受け、失業率が三十パーセントを上回っても不思議でないと脅かす。
だがこれもこけ威しの議論である。労働には需要と供給の法則が働く。もし労働の価格、すなわち賃金が十分下がれば失業は増えないし、かりに増えても一時的である。
ただしこの法則が働くには、賃金の下落が政府の規制で妨げられないことが必要だが、三橋自身が書いているとおり、現在の韓国では賃金水準が下落している。賃金構造がこのように柔軟であれば、経済環境が悪化しても、失業が大幅に増えることはないだろう。
むしろ日本のように、政府が企業に賃下げを許さない圧力をかければ、企業は人件費削減を新卒採用の凍結や「派遣切り」によって行わざるをえず、失業者を増やすことになる。三橋は韓国企業が賃金を切り下げ、国民を貧困化させていると難ずるが、失業すればもらえる賃金はゼロである。労働者にとってどちらが望ましいか、言うまでもない。
(2014年5月、「時事評論石川」に「騎士」名義で寄稿)
>>騎士コラム
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