2023-03-14

アメリカ神話の死

アメリカ思想研究所理事、ジョージ・オニール
(2023年3月9日)

さまざまな主流派の物語、とくにウクライナにおける米国・北大西洋条約機構(NATO)の対ロシア戦争をめぐる物語が崩壊するのを目の当たりにして、米国民はその国家指導者に対する理解を見直す必要がある。米国民の多くは、政府が海外で行っていることと、政府の広報担当者から聞く話との間に大きな隔たりがあることを認識していない。その結果、知らず知らずのうちに、実際に何が起こっているのかほとんど理解しないまま、あらゆる種類の海外活動を支援している。長年にわたり、米国民は絶え間ないプロパガンダ活動に惑わされてきたが、それが今ようやく崩れ始めている。
私たちは、米国が世界の大部分を支配する一極支配の断末魔を経験しているのだ。米政策の欺瞞の大きさを市民が理解し始めるまでは、米国の世界的地位の変化を理解し、世界中の多くの人々が抱く米国に対する負のイメージの拡大に適応することはますます難しくなる。

第二次世界大戦後、とくにソ連崩壊後、米国は圧倒的で比類のない世界的な大国となった。しかし米国は、平和を守り誠実な「世界の警察官」である代わりに、不安定な「いじめっ子」になりつつある。世界の多くの指導者は処罰を恐れ、米国の外交政策の破壊的な性質について発言することをためらってきた。しかし米国の地位と力が低下するにつれ、世界の多くの地域が米国の捕食から自らを守る取り決めを求めている。

ほとんどの米国人は、こうした再編成がなぜ起こっているかを理解していない。なぜなら、米国は「最も寛大な国」であり、「例外的な国」であり、「世界の利益のために自国の関心を脇に置く国」であり、「ルールに基づく秩序の守り手」として世界中の「善の重要な源」であり、国際体制と弱い国々を悪者から守る重い責任をつねに負っているというプロパガンダが、延々と続いたせいだ。多くの情報源によれば、米国が引き起こした戦争は第二次世界大戦後、1000万人以上の死者を出した直接の原因となっているという。新保守主義者(ネオコン)たちは、これらの事実とその情報源をあざ笑うだろうが、世界の大半の人々は、これが真実だと信じている。

米国人の多くは、これらの事実を受け入れることができない。なぜなら、これらの事実は、いたるところに存在する政府のプロパガンダ装置によってもたらされた物語と矛盾しているからである。米国人の海外での悪行が増え続けるなか、国内では何年もほとんど反論されることがなかったが、世界の多くの人々にとっては日々明白になってきている。米国人は注意を払うべきだ。たとえば中国外務省は、米国の不品行とみなすものの概要を発表したばかりである。米国の体制派や善意の愛国者たちは、中国の見解を否定するかもしれないが、新保守主義者のプロパガンダの泡の外に住む多くの人々には真実味がある。

体制派の神話に反して、米国は約束を破り、条約を破り、合意を放棄することで有名である。1990年に米国が約束した、NATOを旧ワルシャワ条約加盟国に東進させないという約束、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)、中距離核戦力(INF)、領空開放(オープンスカイ)、戦略兵器削減条約(START)の破棄、イラン核合意、リビアとの協定等々、枚挙に暇がない。また米国は、自らの覇権に屈しない国々を侵略し、国際法を無視することを繰り返してきた。

非政府組織(NGO)の選挙妨害活動に秘密裏に資金を提供する米国の機関は数多く存在する。冷戦時代の全米民主主義基金(NED)が、世界各国の選挙に影響を及ぼすために作られ、多くの選挙に介入してきたことを米国人の多くは知らない(全米民主主義基金はロシアから追放するまで、同国で資金を費やしていた)。さらに、米国のさまざまな機関が後援する有名な「カラー革命」もある。米国が干渉している国は50カ国にものぼると推定する人もいる。

この破壊的な行動を見て見ぬふりをする時代は終わろうとしている。多くの国の国民が、米国の覇権主義に従うことは自国の利益に反すると判断する時代に突入しているのである。米国の影響力の及ばないところで、代わりの同盟関係を結ぶ国も増えている。上海協力機構(SCO)、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)プラス、石油輸出国機構(OPEC)プラスなど、米国に属さない同盟のほうが、自国の利益が守られると考える国々が加盟し、加盟国が増加している。

悲劇的で不必要なウクライナ戦争の影響で、他の協力的な同盟を求める動きが加速している。米国の欧州における同盟国が学んでいるように、米国と提携することは政治的、経済的に大きなコストがかかる可能性がある。欧州の人々は、自滅的な10回にわたるロシアへの制裁のために、自国の経済が苦しめられ、エネルギーのために大金を払うのを見てきた。

「ルールに基づく秩序」の提唱者と保護者は、ドイツは安価なロシアの天然ガスを輸入すべきではないと判断した。米国の大統領と政府高官は、ロシアが米政府の意向に従わなければ、ロシアの天然ガスを供給するパイプラインを切断すると脅した。偶然にも、ノルドストリーム・ガスパイプラインは、それから間もなく爆破された。米国務長官はこの破壊工作を「チャンス」だと言い、国務次官も満足そうだった。米国の同盟国に対するこのテロ行為に称賛を浴びせる新保守主義者たちは、米国に責任がなかったことにすれば米国と欧州を安心させることができると考えているかもしれないが、世界の他の国々はそう考えてはいない。

多くの人は、ノルドストリーム・パイプラインの破壊に米国が関与した場合の結果を無視したり、軽視したりするだろう。しかし米国が行ったと海外で信じられている無慈悲な行為のリストに、さらにこの行為が加わることは、米国が「寛大な国」「自由世界のリーダー」「ルールに基づく秩序の守り手」であるという物語を台無しにすることになる。長年にわたり、こうした矛盾は、欺瞞に満ちた報道機関や、欺瞞から利益を得る共犯的な機関によって巧みにごまかされ、無視されてきた。しかし米国の力が弱まるにつれ、世界の他の国々はそれに気づき始め、他の保護的な友好関係を求めるようになりつつある。

二年足らず前、「人類史上最も強力な軍隊」が、小銃で武装し、ロバ、自転車、スクーターに乗った有象無象の武装集団によってアフガニスタンから追い出された。タリバンは今、私たちの指導者が置き忘れた800億ドル相当の米軍装備を手にしている。言い訳は米政府のエリートたちには説得力があったかもしれないし、政権に忠実なメディアによって強力に売り込まれたかもしれない。しかし、世界の他の国々はよく知っている。ベトナム崩壊後によく言われた、「本当に戦うことさえ許されていれば勝てたはずだ」という主張は、20年の歳月と何十万人もの死者やホームレス、数兆ドルもの費用が費やされたあの惨事の後では空しく響く。

「地獄の制裁」の衝撃と畏怖でロシアは崩壊するだろうという多くの主張に反して、バイデン大統領の予測と違って通貨ルーブルは瓦礫と化してはいない。米国とそのNATOの同盟国は、その命令で白骨と化すウクライナに送る弾薬と武器が不足している。ロシアは着実にウクライナ軍をすり減らしていくようだ。このようなことは、第一次世界大戦を思い起こさせる。当時の新保守主義者たちは、あの戦争を1914年のクリスマスまでには終わる、迅速な交戦だと売り込んだ。4年後、2000万人が死亡し、さらに多くの負傷者や避難民が出た。その後、欧州のキリスト教君主国のほとんどが崩壊し、ロシアは共産主義の70年の悪夢に陥り、世界を「民主主義のための安全な場所」にするための「すべての戦争を終わらせる戦争」が、さらに恐ろしい第二次世界大戦の舞台となった。

それから1世紀後、私たちは夢遊病のように第三次世界大戦に突入している。米国人は、政府主導のプロパガンダ(第一次世界大戦に至るまでと不気味なほど似ている)を無視し、目を覚まし、自分たちの指導者が何をもたらしたかを見つめ、大戦のような大混乱やそれ以上の事態に直面する前に、この残酷な戦争への支援を終わらせるために、できる限りのことをするべきだ。

Death of a Myth - The American Conservative [LINK]

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