2018-12-25

守銭奴は悪くない

クリスマスの季節になると、英作家ディケンズの名作『クリスマス・キャロル』がよく話題にのぼります。先日も監督リドリー・スコットと俳優トム・ハーディがタッグを組み、同作をドラマ化すると報じられました。

残念なのは、しばしば映画やドラマで、いや原作そのものでも、主人公の商人スクルージが社会にとって迷惑でしかない、金の亡者として描かれることです。たしかにスクルージは金の亡者かもしれません。しかし見えない形で、社会に恩恵をもたらしています。

まず、スクルージが長年商売を続けられているということは、多くの取引相手を満足させていることを意味します。取引相手はスクルージの性格を嫌っているかもしれませんが、それでも取引を続けるのは、商売相手として信頼できるからです。スクルージは取引相手を満足させることで、間接的に取引相手の顧客も満足させ、社会全体の満足向上に貢献しています。

また、スクルージは稼いだお金を貯め込んでいることから、守銭奴と非難されますが、お金を貯め込む人は社会に貢献しています。銀行に預け、あるいは株式や社債を買えば、お金は企業の投資に使われ、生産力を高め、社会を物質的に豊かにするからです。

もし金融機関を信用せず、稼いだお金をすべてタンス預金にしたらどうでしょう。この場合も社会に貢献します。世間に出回るお金の量が減り、物価が安くなるからです。

今の世の中では、物価が下がること(デフレ)は悪いことで、物価安をありがたがるのは無知の証拠だという迷信が広められています。けれども実際には、物価安は個人にとっても社会全体にとっても、良いことです。

そしてスクルージは、なんといっても、争いを好まない平和的な人物です。暴力は振るいませんし、他人の物を奪うこともありません。カッとなって「死ねばいい」と口走ってしまうことはあっても、行動に移しはしません。死者から物を奪い手柄を誇る盗人に対し、怒りを燃やす正義感もあります。

社会に平和的な人物が一人でも増えれば、社会はそれだけ平和になります。スクルージはその意味でも、社会に貢献しています。

おそらく作者ディケンズの意図とは裏腹に、この小説を読んでいくと、スクルージが悪い人間ではないことがわかります。光文社古典新訳文庫版の訳者あとがきで、池央耿氏が「人が何と言おうと誹(そし)ろうと、スクルージは断じて悪人ではない」と書いているとおりです。

それはディケンズが正直ですぐれた作家だったあかしでもあるでしょう。商人というものの姿を、不自然な嘘を交えず活き活きと描いた結果、それは暴力を振るわず、略奪もせず、争いを好まない人物にしかならなかったのです。政治家ではこうはならないでしょう。

スクルージに対する誤解を解いたうえで、平和を祈るクリスマスにふさわしい作品として、読み継がれていってほしいものです。(2017/12/25

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