スイス国立銀行(中央銀行)が1月15日、過去3年にわたり維持してきたスイスフランの対ユーロの上限、1ユーロ=1.20フランを廃止すると突如発表した。対ユーロで割高になるのを避けようとフランを無制限に供給してきたが、ついに限界に達した。スイス中銀の決定を受けて外為相場は大混乱となったが、世界が人為的なマネー膨張のツケを払うのはこれからかもしれない。
スイス中銀のバランスシートは過去7年間で5倍の規模に膨らみ、直近では国内総生産(GDP)の100%近くに達していた。「異次元緩和」で膨張した日銀でさえ80%程度だから、いかに常軌を逸した水準かわかる。
スイス中銀は、スイスフランが対ユーロで割高になると景気に悪影響を及ぼすとしてフランを刷りまくってきた。だがそれは不動産バブルという副作用をもたらし、国内で社会問題を引き起こした。欧州中央銀行は22日の理事会で量的緩和を発表すると予想されており、それにつきあってフランをさらに増やすのは無理と判断したとみられる。
中銀の突然の発表を受けてスイスフランは一時30%も急騰、通貨高による輸出減への懸念からスイス株は急落した。スイスの輸出企業は中銀の決定に怒りを表明している。
しかし米経済評論家ピーター・シフ(Peter Schiff)はスイスフラン高について「陳腐な“知恵”とは逆に、スイス国民にとって良いこと」と指摘する。高い購買力のある強い通貨を取り戻したからである。
シフによれば、スイス中銀が事実上の固定相場を維持するためこれまでユーロ買いに投じた金額は、1年あたり国民1人につき約1万ドル(116万円)相当に達するという。「もし際限なく続けていたら、スイス中銀のバランスシートの拡大は限界点を超えていただろう」
同じく米評論家のデヴィッド・ストックマン(David Stockman)はスイス中銀について「これまで嘘をつき、ごまかし、きわどいところで取り繕っていたことを白状した」と批判する。同中銀のジョーダン総裁は繰り返し、スイスフラン相場の上限は重要だと述べていたし、ダンティーヌ副総裁にいたっては、上限廃止発表のわずか3日前、「スイスフランの上限は今後も金融政策の基礎であるべきと確信している」と語ったばかりだった。
ストックマンはこう続ける。「いうまでもなく、嘘がばれる中央銀行家はジョーダンで最後ではない。最初にすぎない。ドラギ(欧州中銀総裁)がもう次に控えている」。次期大統領候補とも取りざたされるドラギ総裁の出身国イタリアでは、公的債務の対GDP比率が2008年の103.6%から2014年は132.6%に上昇している。
欧州に限らない。「日本の金融混乱は欧州にそれほど後れをとっているだろうか。(略)中国が積み上げた26兆ドルの負債は世界金融の風にすでにふらついているのではないか」。ストックマンはそう警鐘を鳴らす。
主要国の政治家たちは中央銀行という打ち出の小槌を頼りに、福祉国家の幻想を振りまいて有権者の票を稼いできた。しかし幻はいつか朝露のように消える。それは今すぐではないかもしれないが、スイス発の衝撃がその序章になる可能性はある。
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