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「反インフレ経済勉強会」開講のお知らせ

インフレは税の一種です。しかも普通の税よりも悪質な税です。ところが、この事実はよく理解されていません。それどころか、多少のインフレはむしろ良いことだという嘘が、現在主流の国家主義的な、誤った経済学(ケインズ経済学)や、そこから派生した極端な説 (MMT=現代貨幣理論など) によっ...

2023-04-04

不道徳な軍に入るのは不道徳

ジャーナリスト、ケイトリン・ジョンストン
(2023年3月28日)

軍隊に入るという決断は、自国の軍隊が道徳的で公正なやり方で使われる場合にのみ、道徳的に正当化される。この主張に反対する、権力に奉仕する奇妙なタブーがある。それは地球上で最も殺人的な戦争組織に入隊するのを思いとどまらせるよりも、「我が軍」という感情を守るほうが重要だという考えから生まれたものだ。それにもかかわらず、この主張は真実である。
だからといって、軍人を送り込んだ政府関係者よりも、その軍人が自ら行った悪行に責任があるというわけではないし、軍人が救いようのない悪人であるというわけでもない。ただ、不道徳なことをしているということだ。私たちは誰しも時折、不道徳なことをしたり、間違った決断をしたりする。それは軌道修正する必要があることを意味するだけだ。

たしかに軍隊に入る人の多くは、不公平な制度の中でお金を稼ぐために必要なことをしているだけだ。(しかし)刑務所にいるほとんどの人が犯した罪は、米国や同盟国の軍人が日常的に命じられるようなことに比べれば、はるかに悪質でない。なぜなら、米政府の強い要請で罪を犯したわけではないからだ。

また、たしかに軍隊に入る人は、軍隊がどういったもので、何をするものなのか、育った文化によって嘘やプロパガンダを叩き込まれる。しかし罪を犯す人の多くも同じく、周囲の人々によって間違った物語や間違った約束を叩き込まれる。例えば、ギャングに入る人はまさにそういう傾向がある。(カルト集団指導者)チャールズ・マンソンが操って殺人を犯させた人たちは、操られたからといって無罪になるわけではない。操られることは道徳を評価するうえで緩和要因にはなるが、マフィアの殺人が不道徳であるのと同じように、兵役が不道徳である事実は変わらない。

自国の国境を守るためだけに軍隊を使い、決して自国民を虐待しない国に住んでいるのでない限り、入隊を選べば、何か不道徳なことをしていることになる。米国同盟は文字どおり、つねに海外で戦争をしており、したがって入隊は決して道徳的ではない。理屈の上では、もし道徳的な理由で戦うのであれば、つねに海外で戦争をしている軍隊であっても、道徳的でありうるかもしれない。しかし米国同盟がそうだと道徳的に主張することはできないだろう。米国の同盟は、権力と利益のために侵略戦争を行うからだ。

不道徳な軍隊に仕えることが不道徳だと認めないことは、軍隊の勧誘者、戦争利益追求者、ワシントンとバージニア州(米中央情報局=CIA=の本部所在地)の帝国主義者以外の誰のためにもならない。社会としてこのことをはっきりさせ、人々がそのような暴力的な道から離れるよう、軌道修正し始めることができるようにしよう。


彼らは第三次世界大戦への準備を整えるために、第二次世界大戦と比較し続ける。


世界の大国が予見可能な将来を通じ、互いにますます危険な瀬戸際外交を繰り広げることを、私たちは実際に受け入れる必要はない。帝国の宣伝担当者たちは、私たちがこれを甘んじて受け入れる必要があると言い続けているが、私たちはそうしない。

戦争と核兵器によるホロコーストに向かうこの軌道は、米政府とその同盟国の人々によって推進されているが、彼らよりも私たちのほうがずっと多いのである。私たちはいつでも、この船を氷山から遠ざけることができる。ただそれを十分に望めばいい。


9・11同時テロの真実やケネディ暗殺に熱心な人は、米政府が何をしたかを本当に把握できれば、米国人の目が覚めるとよく言うが、これは米国が最近リビア、イラク、イエメン、シリアなどで行った、議論の余地なく公に知られている事実についても、同様に当てはまると強調しておく必要がある。

9・11以降の米国の行為に関する完全に議論の余地のない公の事実は、単に米大統領を暗殺したり、偽旗テロ攻撃で数千人の米国人を殺したりするよりも、はるかに邪悪である。米国は9・11以降、権力と利益のための戦争で何百万人もの人々を殺害したのだ。

問題は、米政府が行ってきた悪事について米国の人々に情報を提供すること、あるいは、それを見て理解してもらうことではない。米国人の世界観を支えてきた心理的な区画化やプロパガンダによる条件付けを吹き飛ばしてしまうほど、深く観察させ、真摯に考察させることである。

それが、私がここでやろうとしていることの大きな部分だ。私は画期的な調査報道をするわけでもなく、新事実を明らかにするわけでもない。ただ、人々が新鮮な目で帝国の本質を見抜き、その世界観を変えるような方法を見つけようと努力している。


心理学や社会学を学べば学ぶほど、幸せで豊かな人生を送れるかどうかは、最終的には「くじ運」にかかっていることが否定できなくなる。しかし私たちの制度はそれを反映していない。貧乏人は貧乏人として罰し、中毒者は中毒者として罰し、子供の頃に虐待を受けたとか、生まれた地域が悪かったとかいう理由で人を監禁している。これは非常に残酷なことであり、現時点では完全に非科学的なことである。

自分が恵まれているのは純粋な幸運によるものだと理解することで、自分の中で何かが変わり、運に恵まれない人々に対する思いやりが生まれるはずだ。ところが多くの人は何も気づかず、自分が持っているものはすべて努力と美徳の結果だと主張する。エゴイズムに陥りやすい人間の性向は、自分より運が悪かったという以外、何もしていない人への思いやりを失わせてしまう。自分たちや、自分たちの心地よい小さな「私」の物語にとって意味あるものだけのために。

私たちはまだ学ぶべきことがたくさんあるし、もっと重要なのは、私たちの体制が、すでに学んだことに追いついていないことだ。それはすべて、成長し、意識的な種になるための過程である。しかしそれを見守るのは、ときにやりきれない。

It’s Immoral To Serve In An Immoral Military: Notes From The Edge Of The Narrative Matrix – Caitlin Johnstone [LINK]

2023-04-03

【コラム】劣化ウラン弾は問いかける

木村 貴

ロシアのウクライナ「侵攻」をめぐり、英国がウクライナに供与する主力戦車の砲弾に劣化ウラン弾が含まれると表明した。英国のゴールディ国防担当閣外相が3月20日、英議員からの質問への回答として、ウクライナに供与する戦車「チャレンジャー2」の砲弾に劣化ウラン弾が含まれることを明らかにした。ロシアはこれに強く反発している。
劣化ウラン弾は、炸裂した際に飛び散る放射性物質が人体や環境に悪影響を及ぼす可能性があると指摘されている。英国による供与に対し、広島県内の7つの被爆者団体は3月24日、抗議の声明を発表した。NHKの報道によれば、声明では「劣化ウラン弾は非人道兵器であり、被爆者として許すことが出来ない」と強調。同日広島市役所で開いた会見では、代表の一人が「劣化ウラン弾は即刻廃止すべきで、英国の行為は許されない」と述べた。

しかし被爆者団体の厳しい非難に比べると、つねづね「日本は唯一の戦争被爆国」と強調するメディアの反応は、いかにも及び腰だ。むしろ劣化ウラン弾の人体などへの影響を軽視しようとしたり、ロシアの反発に難癖をつけたりして、英国の供与を実質擁護するような主張が目立つ。

朝日新聞デジタルは3月25日の記事(「『核を用いた兵器だ』恐怖あおるロシア 英国の劣化ウラン弾供給」)で、こう書いている。

劣化ウラン弾の健康や環境への影響は1990年代の紛争をきっかけに注目され、世界保健機関(WHO)などが研究してきた。原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、劣化ウランの放射線を浴びたことに関連した「臨床的に重要な病理は認められない」と結論づけた。国際原子力機関(IAEA)が関与した研究でも、着弾の衝撃で飛び出た劣化ウランの小さな粒子による人々や環境への放射線リスクは大きくない、としている。

もし「臨床的に重要な病理は認められない」「人々や環境への放射線リスクは大きくない」という研究結果が正しければ、被爆者団体の「非人道兵器」「即刻廃止」という主張は、見当外れということになる。しかし朝日は急いで付け加える。

とはいえ、健康被害の懸念は消えていない。国連軍縮部は「劣化ウラン弾やその破片に直接触れた個人には、放射線の潜在的なリスクが存在する可能性がある」とも指摘している。

朝日はここで、「劣化ウラン弾やその破片に直接触れた」場合だけにリスクがありうるかのように書いている。最初に掲げた、「着弾の衝撃で飛び出た劣化ウランの小さな粒子による人々や環境への放射線リスクは大きくない」というIAEAの研究結果につじつまを合わせるためだろう。「放射線の潜在的なリスク」の具体的な内容にも触れていない。

しかし、これは日本の他メディアに比べてさえ、リスクを小さく見せすぎる。日本経済新聞は「米軍が湾岸戦争などで使い、微粒子となったウランが拡散して人体に入り、体内被ばくを引き起こすと指摘されている」(3月22日記事)と書いている。産経新聞も「国連環境計画(UNEP)は2022年の報告書で、劣化ウランは『皮膚刺激や腎不全を引き起こし、がんのリスクを高める可能性がある』と指摘している」(3月23日記事)と具体的に説明している。

イラク・湾岸戦争の子どもたち―劣化ウラン弾は何をもたらしたか

個々の研究者による調査では、さらに深刻なリスクも指摘される。たとえば、米軍がイラク戦争(2003〜2011年)で使用した劣化ウラン弾とイラクの子供たちの先天障害に関連が疑われている。イラクではすでに湾岸戦争(1990〜1991年)の後から、フォトジャーナリストの森住卓氏が著書『イラク・湾岸戦争の子どもたち―劣化ウラン弾は何をもたらしたか』(2002年)で伝えたように、新生児の先天障害が増え、その原因として米軍の使った劣化ウラン弾が疑われてきた。イラク人だけでなく、湾岸戦争から帰還した米国や英国の元兵士も、がんや子供の先天障害の増加が報告されている。

これらのリスクは、まだ科学的に証明され、公的に認められたわけではない。だが劣化ウランに限らず、健康被害との因果関係を証明するのに時を費やしている間、何ら対策を講じることなく放置すれば、被害が拡大し深刻化する恐れがある。これは公害問題などで学んだ歴史的教訓でもある。政府や国際機関の科学判断が政治の圧力に左右されやすい現実を考えれば、なおさらだろう。

1990年代以降、環境汚染や環境破壊から生態系や人々の健康を守る際の原則として「予防原則」が確立されてきた。1992年にブラジルのリオデジャネイロで開いた国連環境開発会議(地球サミット)が採択した「環境と開発に関するリオ宣言」には、「重大あるいは取り返しのつかない損害のおそれがあるところでは、十分な科学的確実性がない」場合でも対策を遅らせてはならないと明記された。

この「予防原則」は、地球サミットの行動計画である「アジェンダ21」などでも確認されている。内科医の振津かつみ氏は共著『劣化ウラン弾――軍事利用される放射性廃棄物』(2013年)でこうした経緯を踏まえ、「ウラン兵器は即刻禁止されなければならない」と訴える。

予防原則について朝日自身、いつもは前向きに取り上げている。たとえば、原発訴訟に関する2022年6月18日の記事では「水俣病やアスベスト被害をめぐる最高裁判決では、確実な情報でなくても、事故や被害の危険性がある程度あれば国は対応しないといけない、という『予防原則』の考え方をとり、国の賠償責任を認めてきた。(略)事故が起きると被害を元に戻すことはほとんど不可能という結果の重大性から見ても、予防原則に立ち、国の法的な責任を明らかにすべきだった」という清水晶紀・明治大学准教授(行政法)の談話を載せている。

ところが今回、英国からウクライナへの劣化ウラン弾の供与に対しては、予防原則に従い中止を求める声は、大手メディアでは皆無だ。それどころか、批判の矛先をロシアに向けようとする苦しまぎれの論法が目につく。

2023-04-02

シリアの米軍を守る最善の方法

元米下院議員、ロン・ポール
(2023年3月27日)

先週シリア北東部を占領する米軍への攻撃が急増し、米軍基地への無人機攻撃は「親イラン」勢力によるものとされ、米国の反撃で少なくとも19人が死亡したとされる。米国の報復の後、「親イラン」勢力による別の攻撃で、シリアの米国拠点が多数攻撃された。シリアの意向に反してシリアに駐留する900人の米軍に対し、攻撃が増えるのは時間の問題かもしれない。前回は米国の請負業者が1人殺された。次回はもっと多くの米国の人々が犠牲になるかもしれない。
突然の戦闘激化の背景には何があるのか。数カ月間の中東の根本的な変化は、米国がシリアとイラクを占領し続けていることに、いかに弁解の余地がないかを浮き彫りにしている。

たとえば、かつての宿敵であったサウジアラビアとイランの関係が、米国の宿敵である中国によって仲介され、歴史的な修復がなされたことである。米国の中東政策は、少なくとも1980年代のイラン・イラク戦争以降、長い間「分割統治」であった。米国が中東戦争に参戦したことで、大量の血が流され、憎しみが煮えたぎることで永続的な和平が望めなくなった。

そして米国は20年前にイラクに侵攻し、イラクをイランの同盟国に変えてしまった。これがネオコン(新保守主義者)の外交政策だ。100%の失敗率である。

そこで今月、イランを含む地域の輸送回廊を作ることに関心をもつ中国がやってきて、米国のやり口である爆撃、侵略、占領の代わりに、実際にサウジとイランの国交回復の仲介をした。

米国の共和党と民主党はともに中国を攻撃するのが大好きだが、中国は米国が何年も抵抗してきたこと、つまり地域の平和を実現したのである。米国が中東で占領を続けていることが、歓迎されていないことに驚くべきだろうか。

米国は、石油と農業があるシリアの巨大な一帯を占領している。その目的は、盗んだ天然資源から米国の多国籍企業に利益をもたらし、シリアの自然の富がその国の再建に使われるのを阻止することにあるようだ。米国が中東で不人気なのはなぜだろうか。

バイデン政権が1000億ドルも国民のお金を使い、ロシアをウクライナから追い出そうとするのは、なんと偽善的なことだろう。米国がシリアで占領している領土より、ロシアがウクライナで占領している領土の割合が少ないのに。そして米国は「ルールに基づく国際秩序」を支持すると主張しながら、私たちを攻撃しなかったイラクとアフガニスタン、その前は私たちを脅かそうとしても脅かすことができなかったセルビアを壊滅させたのである。

米国による中東占領の終焉は目前に迫っており、そのことに早く気づけばよいのだ。私たちは中東の政治に干渉したり、領土を占領したり、資源を盗んだりする必要はない。米国人は国内外のあらゆる敵から米国を守るために米軍に入隊したのに、腐敗したワシントンの高官に操られ、外国の土地を占領し、その石油を盗んでいる。米軍が採用目標を達成できないのは、このためかもしれない。

シリアにいる米軍を、さらなる「イラン連合」の攻撃から守る簡単な方法がここにある。米軍を帰還させるのだ。明日だ。それ以上待ってはいられない。

The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : The Best Way to Protect US Troops in Syria [LINK]

2023-04-01

無意味な民主主義サミット

ジャーナリスト、ダニエル・ラリソン
(2023年3月27日)

米国は今週末、第2回民主主義サミットを共同主催する。コスタリカ、オランダ、韓国、ザンビアの各首都で行われるイベントと連携し、米政府は2021年の最初のサミットをフォローアップするために、対面式とバーチャルな会議を組み合わせて開催する予定だ。
このサミットが何か有益なことを成し遂げる可能性は低いと思われる。バイデン(米大統領)の就任1年目に開催された第1回民主主義サミットは、ほとんど無意味な運動であり、なぜ政権が第2回を開催する価値があると考えたのか、という疑問が残る。

このサミットには、第1回と同じような論争がつきものである。北大西洋条約機構(NATO)の同盟国であるハンガリーとトルコは今回も招待リストから外され、自国の民主主義と法の支配を弱体化させてきた他の政府も依然として代表として名を連ねることになる。除外された国々は、自分たちが除外されたことを名誉なことだと考えるかもしれないし、恣意的な理由で再び除外されたことに腹を立てるかもしれない。いずれにせよ米国と共催国は、このようなイベントに、ある国は参加できず、同じような実績を持つ他の国は参加できる理由を説明できるようにする必要がある。

一つの問題は、単なるおしゃべり会から一部の国を排除することで、主催者が政治的な代償を払うことになるかもしれないということだ。もし主催者側が、どの国が参加できるかの線引きを拒否すれば、サミットには中身がないという批判にさらされることになるが、もしハードルを高く設定すれば、世界の選挙で選ばれた政府のほとんどを排除することになる。米国とその同盟国が、ある国は(民主化の)後退を理由に排除し、他の国の失敗は無視する決定を下すと、偽善と優遇主義の非難を浴びることになる。

たとえばインドだ。インドはナレンドラ・モディ首相のもとで、何年も前から着実に間違った方向に進んできた。このたびインドの野党指導者であるラフル・ガンジー氏が、首相への批判を理由に名誉毀損で有罪となり、国会から追放さ れたばかりだ。ガンジー氏は今後6年間、選挙に立候補することができなくなる。

この決定は、インドのすべての野党から抗議を引き起こし、ガンジー氏の追放は「民主主義の直接的な殺人」とさえ呼ばれている。ガンジー氏の所属する議会党のスポークスマンは、「与党による民主主義制度の体系的かつ反復的な無力化」の一環だと述べている。この展開に対する政権の公式な反応がどうなるかはまだわからないが、米国が懸念を表明する以上のことをしたとしたら、純粋に驚きである。

米国は近年、中国に対抗するパートナーとしてインド政府を育成するため、インドの民主化の後退をほとんど無視してきた。今年初め、インド政府は首相に批判的なBBCのドキュメンタリーを放送禁止にしたが、米国務省は知らんぷりだった。先月政府がBBCの事務所を家宅捜索した際も、国務省はそれを軽視した。米国は、相手国の政府が非自由主義的で権威主義的になっても、見て見ぬふりをする習慣がたくさんある。しかし、我が国政府が「専制主義」との壮大な闘いの中で民主主義の重要性を頻繁に宣伝している場合、これを無視することは非常に難しくなる。

インド政府が公然とインドの民主主義と報道の自由を損なっているのに、民主主義サミットにインド政府を代表させるのは、せいぜい気まずいだけだろう。今年のサミットにインドを参加させることは、後退する政府に対して一貫した、あるいは原則的な基準が適用されていないことを明確にするものだ。

今インドをこのようなイベントに参加させることは、モディ首相が自国政府の忍び寄る権威主義や多数派による虐待から目をそらすのに役立つ。バイデン政権がこのようなサミットで達成したい目標が何であれ、非自由主義的なナショナリストを援護し、その人物が政治的な反対を押しつぶすことは、おそらく目標の一つではないだろう。

バイデン政権の「民主主義対専制主義」の美辞麗句は、米国の外交政策や国際政治の現実には決して適合していない。米国には、民主主義を守ることにまったく関心を持たない半権威主義的、権威主義的な同盟国や傀儡国が多いだけでなく、米国の「リーダーシップ」によって、世界的な紛争やライバル関係の一部になりたくない民主主義国とも対立してきた。

米国は世界を反対する陣営に分断するのではなく、体制の種類にかかわらず、できるだけ多くの国家とより良い関係を築くことに前向きであるべきだ。多くの人々が気づき始めたように、米国はその外交政策においてあまりにも柔軟性に欠け、「民主主義対専制主義」という枠組みは、最も余裕がないときにこの硬直性を強化する恐れがある。

他の民主的な政府には当然ながら自国の国益があり、米国や欧州の同盟国から大きなイデオロギーのために必要だと言われたからといって、その国益を犠牲にすることはないだろう。米国は、他の民主主義国がすべての主要な問題で米国の側に立つ義務はないことを理解する必要がある。また、政府形態を共有することが、他の国家が我が国の政府と同じように世界を見ることを保証するものではないことを理解する必要がある。

多くの場合、他国は政府が有権者の望むことを行っているために、大きな問題について中立を保つか、反対に回ることさえある。米国が他の民主主義国を本当に尊重するならば、重要な国際情勢について、他国が異なる、あるいは反対の見解を採用する可能性があることを受け入れなければならない。指導者は、自分たちがすべての民主主義国の代弁者であるとか、自分たちの好みをすべての民主主義国が共有すべきだといった妄想を抱いていてはならない。

指導者は、自国の荒廃した政治体制の補強・修復に注意を払うほうが、米国にとってより良い結果をもたらすだろう。とくに外交政策においては、国民に対して透明性が高く、説明責任を果たすことのできる政府が必要である。指導者は、民主主義を世界に説いておきながら、国内では民主主義を軽視したり、弱体化させたりしている。米国が世界の民主主義の大義を「強化」するためにできる最善のことは、自国での民主主義の実践を改善することである。

そこで、このサミットは何のためにあるのかという疑問に立ち戻る。もしこのサミットが民主主義の規範と実践を「強化」し、後退を食い止めることを目的としているのであれば、あまりうまく機能しているとは言えない。もしそれが、自分たちの体制が優れていると自画自賛するためのショーだとしたら、時間と労力の浪費である。もしそれが他の政策課題の粉飾にすぎないのであれば、民主主義と関係があるかのように装うのはやめよう。

このような落とし穴がある以上、民主主義サミットの開催は、米政府にとって頭の痛い問題を引き起こすに値しないように思われる。

Why is Biden doing another pointless Summit for Democracy? - Responsible Statecraft [LINK]

2023-03-31

ルールに基づく国際無秩序

元米中央情報局(CIA)アナリスト、ラリー・ジョンソン
(2023年3月26日)

「ルールに基づく国際秩序」という言葉を聞いたことがあるだろうか。米政府や北大西洋条約機構(NATO)によれば、ロシアは(中国も)そのルールに違反しており、罰せられなければならない。世界の平和を乱す「ルール違反者」がいてはいけないのだ。
1945年以来、米国はさまざまな同盟関係、経済制度、安全上の利益、政治的・自由主義的規範、その他の手段(しばしば国際秩序と総称される)を構築・維持することによって、その世界的関心を追求してきた。……

国際秩序の構築は、少なくとも1940年代以降、米外交政策の正式な政策であり、建国以来、熱望されてきた目標であった。第二次世界大戦後、それを構築してきた人々によれば、国際秩序とは、米国のような自由で民主的な社会の理想が花開く環境を維持することによって、米国の価値を守るものである。米国はルールに基づく秩序を構築するために、権力と、利害共有に関する理想主義的な考えの両方を利用してきた。この意味で、米国はハードパワーとソフトパワーの両方を駆使して秩序を構築してきたのである。(ランド研究所ウェブサイト)

おわかりいただけただろうか。いわゆる国際秩序とは基本的に米国が決め、外国がそれに従っているかいないかを勝手に判断する体系なのだ。ようするに、これらの「ルール」は、他国を犠牲にして米国の利益を促進するために設計されている。

ルールとは何か。それは「権威のある、定められた行動の指示であり、とくに立法機関の手続きを管理する規則や、ゲーム、スポーツ、コンテストで選手が守る規則の一つ」である。理論上は、このルールは誰にでも適用されることになっている。

バスケットボールを例にとり(米国で「マーチマッドネス(3月の狂乱)」が開催中なのでちょうどいい)、本物のルールが競技の場合にどのように機能するのか見てみよう。大学の試合は、40分、20分ハーフと決まっている。aなたがルール担当者なら、好きなチームに多くの点を取らせ、最後に勝たせたいからといって、プレー時間を勝手に与えることはできない。3ポイントラインの外からシュートを決めた選手は、自チームに3点が与えられる。ボールを持ち、ドリブルをせずに2歩以上歩いた選手はトラベリングとなり、ボールは相手チームに引き渡される。

世界秩序を促進するためのいわゆる国際ルールを見てみると、まったく異なる姿が浮かび上がってくる。米国は伝統的に、カジノで仲間が勝つように仕向ける不正なディーラーのように振る舞ってきた。その一例はこうだ。デモ隊が街頭に出て、米国が気に入っている政府を転覆させようとした場合、それは悪いことで、デモ隊は罰せられなければならない。しかし、その政府が米国の支持を失ったのであれば、デモ参加者は神の意志を遂行する神聖な存在であり、支持されなければならない。

イランはそのケースである。昨年10月、米国はイランでの抗議活動を応援し、その活動を鎮めようとしたイラン当局を罰した。

米国は水曜日(10月6日)、イランの全国的な抗議行動に対する弾圧を続けているイラン政府関係者に対して新たな制裁を科した。これは22歳のマフサ・アミニさんの死後、怒りを鎮めようとするイラン政府に対する米国の最新の反応である。

アントニー・ブリンケン国務長官は声明で、「イランのいわゆる『道徳警察』に拘束された22歳のマフサ・アミニさんの死から40日が経過し、我々は彼女の家族およびイラン国民とともに、喪に服し反省する一日を過ごす」と述べた。

「米国はイラン国民を支援し、イランで進行中の全国的な抗議行動に対する残忍な弾圧の責任者が責任を問われるようにすることに全力を尽くしている」と、ブリンケン長官は述べた。「本日我々は、国務省と財務省の共同行動として、5つの異なる権限を用いて14の個人と3つの団体を指定することを発表し、イラン政府のあらゆるレベルの責任を問うためにあらゆる適切な手段を用いるという我々のコミットメントを示す」(米CNN)

ジョージア(州ではなく国)についても同様だ。同国の議会が自国に対する外国の干渉を制限することを目的とした法律を可決した3月上旬、デモ隊が街頭に出て警察と争った。

グルジアの首都トビリシの警察は水曜日(3月8日)遅く、催涙ガス、水鉄砲、目つぶし閃光弾を使用し、「外国の代理人」法に反対する2日連続の抗議デモを解散させようとした。この法律は報道の自由を制限し、欧州連合(EU)加盟の候補となる国の努力を損なうと批判的である。(英ガーディアン紙)

その「暴力的な暴動」に対する米政府の反応はどうか。

ワシントンでは、国務省のネッド・プライス報道官が、デモ隊との連帯を表明した。

「我々はジョージア政府に対し、平和的集会と平和的抗議の自由を尊重するよう求める」とプライス報道官は述べた。「我々はジョージアの人々と彼らの願いに寄り添っている」(同)

ジョージアの抗議活動の映像を見ると、平和的ではない。

2021年1月6日に米国で起こった、ドナルド・トランプ(前大統領)支持者が米連邦議会議事堂を取り囲んだ出来事とは、まったく対照的だ。トランプ支持者たちは、扇動に燃える暴徒として非難され、起訴され、投獄された。その日の証拠から、米政府のエージェント(およびアゾフ大隊の数人のウクライナ人メンバー)が群衆の中にいて、暴力にかき立てようとしていたことがわかる。デモ参加者たちが議事堂に入ると、暴力行為に参加した者はほとんどいなかった。しかしジョー・バイデン(大統領)に反対したために、卑劣な犯罪者として扱われている。(フォックス・ニュースの)タッカー・カールソン氏は、バイデン政権のプロパガンダに反撃した。

デモ隊への対応により欧州で広く非難されたイランは、議会の承認なしに年金の受給年齢を引き上げたことに怒るフランス市民に対するマクロン仏大統領の対応を大いに楽しんでいる。

イラン当局は、フランスでの大規模な抗議行動やストライキについてコメントした。イラン外務省のナセル・カナニ報道官によると、パリの当局はフランス国民の声に耳を傾け、「民主的権利を守る人々に対する野蛮な暴力的手段」を放棄すべきだとのことだ。(筆者ブログ)

デモに関するルールは、支援のために軍隊を派遣するよう要請されるか、攻撃を受けた場合を除き、外国で軍事活動を行わないという重大なルールに比べれば、小さなものである。米国とNATOは、ロシアはこのルールに大きく違反し、処罰されなければならないと主張している。ロシア側は、2014年以降ウクライナ政府から執拗な砲撃を受けたロシア語話者のウクライナ人を守るため、そしてNATOの国境への拡大に反対するために行動していると主張する。

ロシアも中国も米欧からの不満や怒りを一切信用しないのは、米国自身がベトナム、イラク、シリア、パナマ、旧ユーゴスラビア、ソマリア、アフガニスタンで軍事作戦を行ったという汚れた実績があるためだ。

ルールに基づく国際秩序に関する厳しい真実がここにある。それは米国によって第二次世界大戦後に作られた時代錯誤のものであり、崩壊しつつあり、バイデン政権はその終焉を早めるような政策を取り続けようとしている。

イスラエルから目を離さないでほしい。同国は、最高裁の権限を剥奪し行政府にその権限を集約する法律案をめぐり、抗議行動にさらされている。イスラエル国内の亀裂は深く、日に日に拡大している。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は今日、国防相を解任し、(米ニューヨークの)イスラエル総領事も抗議のため辞任した。

なぜ、このような話をしたのか。バイデン政権がこれらの抗議を「国際的なルールに従ったもの」として祝福するのか、それともネタニヤフ首相をそのルールに違反したと非難するのか、その合図がまだないためだ。

「ルールに基づく国際秩序」についての非難は、米国がもはや自国の意思を他国に押しつける力も能力も持っていないという事実を露呈している。中国、ロシア、イラン、サウジアラビア、インド、南アフリカなどは、この現実に目を覚まし、米国を脇に追いやるような、代わりの国際秩序の構築に奔走している。これがウクライナにおけるNATOとロシアの代理戦争の最も重要な帰結だと私は考えている。米国の弱点が露呈したのであり、米政府がいくら脅したり制裁したりしても、この現実を変えることはできない。

Understanding The International Rules Based Disorder - A Son of the New American Revolution [LINK]

2023-03-30

イラク侵攻とネオコン

クロニクルズ誌編集長、ポール・ゴットフリード
(2023年3月21日)

記憶によれば、2003年3月に始まった米国のイラク侵攻を糾弾した覚えはないし、その後すぐにも糾弾した覚えはない。やがて私は、イラクへの侵攻は愚かな行為であったと考えるようになった。イラク侵攻の初期段階から最も率直な批判者だと広く思われていたにもかかわらず、当初はその考えを明言しなかった。
2003年3月25日付のナショナル・レビュー誌に掲載された「愛国心のない保守主義者」の一人として私を挙げたデビッド・フラム氏も、私をいら立たせた。フラム氏は明らかに、自分が熱狂的に支持している戦争に私が反対していると思い込んでいたが、私に対する同氏の罵詈雑言は、私がイラク侵攻に反対していると思い込んでいたこととはまったく関係がない。敵は私を「パレオ(パレオ・コンサバティブ=旧保守主義者)の中で最も激しく独りよがりだ」と非難した。というのも、フラム氏の新保守主義者の友人たちが私を大学院の教授職から遠ざけようとしたことに、私が反応したからだ。同氏はかなり親身になって、私が非難されているのは、授業に遅刻し、不満を抱いた学生が漫談と勘違いするような方法で講義をしたことにあるとも語っている。不思議なことにフラム氏は、新保守主義者が計画したイラク侵攻に公然と反対した私が「愛国心のない保守主義者」であるという証拠を、提示しなかった。同氏は、この論文で攻撃した他の人たちと私の仕事上の関係から、私の立場を決めつけたのである。

2002年の創刊当時、私はこの雑誌(アメリカン・コンサバティブ誌)の役員を務めていたので、フラム氏は間違いなく、私の発言は米国の保守主義者たちの立場を暗黙のうちに支持していると考えた。私はクロニクルズ誌を含む他の出版物にも寄稿したが、そこではW(ジョージ・W・ブッシュ元大統領)の軍事的冒険にあまり興味を示さなかった。

もちろん私の批判者たちは、私がずっと傾いていた立場について正しかったのである。私は戦争に反対することを宣言して回ったわけではなかったが、結局イラク政府が「大量破壊兵器」を保有しているという怪しげな主張に基づく、大失策であったことを理解したのである。イラクへの侵攻は多くのイラク人の犠牲者を出し、米国の利益には何の役にも立たなかったが、その最も強力な扇動者にとっては有益だった。フラム氏をはじめとするネオコン(新保守主義者)たちは、決して起こすべきではなかった戦争を擁護することで、政治評論家や政府顧問としてのキャリアを積んだ。(ワシントン・ポスト紙コラムニストの)マイケル・ガーソン氏のような宣伝家も、「民主主義の価値」を広めるという米国の使命を提唱し、ジャーナリストとしてのキャリアを築いた。ハンガリーなどの伝統的なキリスト教の国々にLGBT(性的少数者)の権利をもたらそうとする努力に見られるように、私たちは今もその仕事に従事している。

しかし、仲間の多くが早くから把握していたこの事実に気づくには、数週間を要した。当初、私はイラクに上陸した米国の軍隊を応援していた。なぜなら米軍はまあ、米国人だからだ。しかしすぐに、私たちが泥沼に迷い込み、そこから正式に脱出できたのは2011年だったということが明らかになった。しかもネオコンたちは、少なくとも1991年の第一次湾岸戦争が終わったときから、この紛争を迫っており、サダム・フセイン(イラク大統領)が大量破壊兵器の使用を計画しているという荒っぽい主張と、いつもの空虚な人権レトリックでこれを擁護していた。

侵略とその反動から明らかになったことのひとつは、右派における大規模な反戦活動の存在であった。私は冷戦時代を通じて、米国の敵に対して軍事力を行使するのが右派だと考えていた。また軍事的な取り組みに反対する人たちは、必ず左派に属すると信じていた。たしかに、伝統主義者のジョージ・ケナン氏(外交官)から自由主義者のマレー・ロスバード氏(経済学者)まで、私の一般論に例外があることは知っていた。しかし反共的な外交政策に反対するこれらの人々は、めったにいない異常者だと考えていた。

その後1990年代に入り、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス研究所での人脈構築を通じて、「戦争・福祉国家」に反対する非左翼的な人々と知り合うようになった。このとき、米国のベトナム関与に反対した人たちが、すべて共産主義者のシンパだったわけではないことがわかった。さらに1980年代のネオコンとの戦いから、熱狂的な冷戦の戦士がすべて右派であったわけではないことがわかった。左翼にも反共主義者がいて、ソ連帝国が崩壊した後も米国の外交政策に影響を与え続けていた。冷戦が終わったのだから、非共産主義者である左派が優位に立つことは明らかであったはずである。

しかし右派が右派的な理由で反戦活動を行う可能性があることを、それまでそれほど明白ではなかったやり方で明らかにしたのは、イラク侵攻に対する反応だった。米国の軍事力に反対するのは、「同情心あふれるリベラル」としてではなく、その使用が戦略的・道徳的に不当であり、ディープステート(闇の政府)による権力簒奪を招くからだというのが、戦争危機から私が得た大きな認識であった。イラク侵攻とそれに対する嵐のような反応について考えるうちに、その結論に達した。ネオコン評論家たちの主張に反し、2003年3月の私の最初の反応はそうではなかった。

Presumptive Neoconservatives - The American Conservative [LINK]

2023-03-29

米国に迫る屈辱的敗北

モニカ・ショウォルター
(2023年3月21日)

アジア・タイムズで「シュペングラー」として活躍するライター、デビッド・ゴールドマン氏は、ウクライナ紛争の終結を予見している。
ゴールドマン氏は最新のアジア・タイムズの記事で、外交政策関係者の内輪の考えに言及した。 

最近、レーガン政権からトランプ政権に至る米国の元高級軍人、情報機関関係者、学者の私的な集まりで、ウクライナのロシアに対する勝利の見込みについて暗い評価が示された。

ある参加者は、訓練された人材と弾薬が不足しているため、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、中国の和平案を検討するかもしれないと主張した。とくに、イランとサウジの紛争を北京がうまく調停した後では、そのようなことも考えられるという。

数十人の参加者は、その多くが閣僚や副閣僚の経験者であり、参加者個人の特定を禁じながらも、内容自体の提示を認める「チャタムハウスルール」に則って会合が行われた。
 
参加者の多くは、ウクライナがロシアを撃退できるまで物資を供給し続けるというバイデン政権の強引な姿勢を支持していたが、数字上は有利でなかった。ロシアは人員、資源、資金、そして中国やインドといった他の大国との同盟関係において、ウクライナよりもはるかに大きな存在だった。しかしその会議の最後に、ウクライナ軍のほとんどが死亡し、米国が訓練した優秀な兵士も戦死していることを指摘する小さな声が聞かれた。ウクライナの勇敢さは本物だったが、ロシアは圧倒的な戦力によって戦争に勝つことができた。南北戦争で北軍が南軍に勝ったのと同じ理由で、南軍には有能でやる気のある兵士がたくさんいたにもかかわらず、である。

ゴールドマン氏は5月、PJメディアでウクライナの分割は避けられないと書いた。

私は2008年に、また以下に再掲したPJメディアの2014年2月のメモを含む、その後の多くの場面でこう主張した。ウクライナにおける行動の流れは明らかに、チェコやスロバキアが行ったように、国民に分離独立を求める投票を許可することだった。しかし米国は、ウクライナがロシアにとってレッドライン(越えてはならない最後の一線)であることを知りながら、北大西洋条約機構(NATO)という選択肢を残すことを選んだ。プーチン(露大統領)が性悪な人物であろうとどうでもいい。プーチン氏はロシアの国益を明確に理解している、予想どおりの性悪な人物であり、ウクライナのNATO加盟候補に対する同氏の反応は完全に予想どおりであった。

三カ月間、ロシアが崩壊するという予測がほぼ一様にメディアで流された後、現在、ロシア軍がドンバス地方を支配するところまで来ているようだ。ロシア軍を撤退させることは、不可能ではないにせよ、困難であろう。その結果、先週のダボス会議でヘンリー・キッシンジャー(元米国務長官)が示唆したように、(最終的には)ウクライナがロシアに領土を譲り渡すことで和平が実現するだろう。「プーチン・ヒトラーに譲歩してはいけない」という美辞麗句は、その取引を行うときに、自分たちをよりみすぼらしく感じさせるだけである。米国はみすぼらしいと感じるべきなのだ。我々はこれを壮大なスケールで台無しにしたのだ。

それは陰鬱な内容で、結論はさらに不穏なものだった。----米国はまたしても屈辱的な敗北を喫し、ロシアを勝たせ、中国に仲裁を任せるべきだということだ。というのも、米国はベトナム戦争後のように、重要な潜在的紛争に対して戦略を練り直し、再考する必要があるからだ。世界の偉大な超大国はもはや存在しない。それはジョー・バイデン(大統領)の仕業である。

今月初め、フーバー研究所のサイトで、ゴールドマン氏はこう指摘した。

最も可能性の高い結果は、屈辱的な休戦である。逆説的だが、それは米国の長期の利益につながるかもしれない。北ベトナムは、ソ連より先に米国に屈辱を与えることで、米国に恩恵を与えた。1950年代後半から米国の軍事立案者が抱いていた、限定戦争という幻想を破壊した。1975年のベトナムからの屈辱的な撤退は、1977年のハロルド・ブラウン国防長官の時代からレーガン政権に至るまで、米国の軍事戦略を根本から見直すことを可能にした。米国は近代的な航空電子機器と精密兵器を製造する防衛技術の革命を行い、1970年代初頭にロシアが通常兵器で享受していた優位性を逆転させた。1982年のベッカー高原航空戦と戦略防衛構想の開始により、ロシア軍は米国に技術的に追いつけないという結論に達した。

民主主義を輸出するというユートピア的な幻想が、アフガニスタン、イラク、リビア、シリア、最後にはウクライナに至るまで、米国の過去一世代の大失態をうながした。冷戦を勝利に導いた技術的優位の追求に立ち戻るには、ベトナム戦争のような規模の国家的屈辱が必要なのかもしれない。

これらはすべて、地理、歴史、人間性について深い知識を持つ、驚異的な予言者であるゴールドマン氏の印象的なエッセイである。ゴールドマン氏が話した政府高官たちが、同氏が予見していたことに今になって賛同していることは、同氏の「壁に書かれた世界の文字」(王の宴会中、手が現れて壁に文字を書き、暗い未来を予言したという旧約聖書のエピソード)を読む能力の高さを証明するものである。

三つのエッセイはいずれも一読の価値ありだ。 

It slowly dawns on the West that Ukraine is not going to win - American Thinker [LINK]

2023-03-28

ミンスク合意の裏切り

コラムニスト、テッド・スナイダー
(2023年3月20日)

歴史を振り返ると、ミンスク合意(東部ウクライナにおける紛争の停止を目指した合意。2014年の「ミンスク1」と2015年の「ミンスク2」がある)を結ばなくてよかった世界がある。
2014年、米国が支援したクーデターにより、民主的に選ばれ、東部を地盤とするウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領が解任され、米国が選んだ米欧寄りの(ペトロ・ポロシェンコ)大統領と交代させた。ビクトリア・ヌーランド国務次官補(欧州・ユーラシア担当)は、ヤヌコビッチの後任としてアルセニー・ヤツェニュク(元ウクライナ首相)を米国が選んだとする通話が傍受されている。

新たな政府は、(東部)ドンバス地方が求める多文化ウクライナを否定し、民族主義的で一元論的なウクライナの実現を要求した。ドンバスのロシア系民族は、その言語、文化、権利、財産、生命に対する攻撃に苦しむことになる。

ドンバスはクーデター政権に反抗し、2014年5月までに、ある種の自治を宣言する住民投票を承認した。ウクライナの内戦は始まっていたのである。

ドンバスの暴力に対する最善の解決策は、ミンスク合意だった。ミンスク合意はフランスとドイツが仲介し、ウクライナとロシアが合意し、2014年と2015年に米国と国連が受諾したものである。ドンバスに完全な自治権を付与しつつ平和的にウクライナに返還することで、ウクライナにはドンバスを維持するチャンスを、ドンバスには平和とその望む統治を実現するチャンスを与えるものだった。

しかし、ミンスク合意以前に可能な解決策があった。

5月11日、ドンバスのドネツク州とルガンスク州は、主権獲得に賛成した。プーチン(露大統領)は住民投票の延期を要請しており、ロシアは民意を尊重しながらも、その結果を認めなかった。

2週間後、ポロシェンコが大統領に選出され、ドンバスの反政府勢力指導者と平和的解決に向けた交渉を開始した。交渉は順調に進み、翌月末にはドンバスをウクライナに平和的に残すための方式が見いだされた。この時点で、6月24日、ロシア議会は海外での軍隊使用権限を取り消した。和平は可能だった。

しかしその代わりに、(米政治学者)ニコライ・ペトロの報告によれば、ウクライナ政府は、プーチンが軍隊を撤退させたことで、ウクライナ軍が新たな優位に立つと判断し、ポロシェンコは和平を追求するのではなく、ドンバスを軍事的に奪還するための攻撃の開始を命じた。

この和平プロセスへの裏切りによって、ミンスク合意の調印が必要となったのである。戦いに敗れたポロシェンコは、ドンバスの平和的返還交渉に後退せざるをえなかった。

ミンスク合意が最善の解決策となったのは、ポロシェンコが和平交渉を妨害した後であった。ポロシェンコはミンスク合意も妨害してしまうだろう。それには多くの手助けがあったかもしれない。

ミンスク合意は、ロシアのプーチン大統領、ウクライナのポロシェンコ大統領、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、フランスのフランソワ・オランド大統領によって交渉された。プーチンの各交渉相手は最近、ミンスク交渉は平和的解決を約束してロシアを停戦に誘い、ウクライナに軍事的解決に向けた軍備増強の時間を与えるための意図的な欺瞞であったと明らかにした。その主張を信じるなら、見かけ上の平和交渉は、最初から軍事的解決を意図していたものの隠れ蓑だったことになる。

ミンスク交渉の主役はドイツのアンゲラ・メルケル首相である。しかし同首相が2022年12月1日のシュピーゲル誌インタビューで語ったところによれば、「ミンスク会談の間、ウクライナがロシアの攻撃をうまくかわすために必要な時間を稼ぐことができた。現在、ウクライナは強固で要塞化された国になっている。あのとき、プーチンの軍隊に制圧されていたことは間違いない」。12月7日、メルケルはツァイト紙のインタビューでその告白を繰り返した。「2014年のミンスク合意は、ウクライナに時間を与えようとするものだった」とメルケルは述べた。ウクライナは「今日見るように、この時間を使ってより強くなった。2014~15年のウクライナは、今日のウクライナではない」

メルケルの主張は、ミンスクの参加者によって検証されている。オランド元仏大統領は12月28日のキエフ・インディペンデント紙のインタビューで、「ミンスクでの交渉は、ウクライナにおけるロシアの進出を遅らせるためのものだったと考えているか」と問われ、「そうだ、この点に関してはアンゲラ・メルケルが正しい」と答えた。そして「2014年以降、ウクライナは軍事態勢を強化した。実際、ウクライナ軍は2014年のそれとはまったく異なっていた。訓練も装備も良くなっていた。ウクライナ軍にこのような機会を与えたのは、ミンスク合意のおかげである」と述べた。

メルケルとオランドは、現在受け入れられている物語に合わせるために、過去の物語を書き換えるというオーウェル的な行為に及んだというもっともな指摘がなされている。しかし二人の説明は、プーチンと交渉しているもう一人の人物によって裏付けられる。

フィリップ・ショートの伝記『プーチン』によれば、ポロシェンコは後に、ミンスク合意に署名したのは「戦闘を止める唯一の方法だったからだが、政治体制や世論のナショナリズムの勢いのために、それが実行されることはないとわかっていた」と述べたという。

しかし2022年5月、ポロシェンコは「ミンスク合意を実施する政治的意志がないことを知りながら署名した」という主張を超え、ロシアを欺いたのは意図的だったとするメルケルとオランドの主張を裏付けた。ポロシェンコはフィナンシャル・タイムズ紙に、ウクライナは「軍隊をまったく持っていなかった」と語り、ミンスク合意の「偉大な外交成果」は「ロシアを国境から遠ざけること、国境からではなく、全面戦争から遠ざけること」だったと述べた。この合意により、ウクライナは軍備を整える時間を得ることができた。ポロシェンコはウクライナのメディアなどに「我々は望んでいたことをすべて達成した。我々の目標はまず、脅威を止めること、少なくとも戦争を遅らせること、つまり経済成長を回復し、強力な軍隊を作るための8年間を確保することだった」と語った。

ウォロディミル・ゼレンスキー(ウクライナ現大統領)は最近になって、証言に加わっている。ロシアとの和平やミンスク2への署名を掲げて当選したにもかかわらず、ゼレンスキーは現在、それらに署名するつもりはなかったと述べている。2月9日、ゼレンスキーはシュピーゲル誌に、協定を「譲歩」とみなし、メルケルとマクロンに「ミンスク全体としては……このままでは実施できない」と告げて「驚かせた」と語ったと報じられている。

更新した主張とは裏腹に、ゼレンスキーはミンスク合意を実施するという選挙公約を守ることに誠実であったようだ。当選後、ゼレンスキーは記者団に対し、ドンバスの分離主義者たちとの和平交渉を「再起動」させると語った。「ミンスク(和平)協議の方向性を継続し、停戦の締結に向かう」と伝えたのである。

2019年10月1日、ゼレンスキーは、ドンバスの選挙と自治権の承認を求めるドイツとフランスの仲介によるシュタインマイヤー方式に署名した。しかし「国内ですぐに反発に遭い」、ロシア、ドイツ、フランスはシュタインマイヤー方式に合意したものの、ウクライナは結局合意しなかった。

ロシアとの和平交渉とミンスク合意への署名を約束したゼレンスキーに対する反発は、強引で危険なものだった。極右民族主義的な準軍事組織「右派セクター」の創設者であるドミトリー・ヤロシュは、ゼレンスキーが選挙公約を実行すれば「彼は命を落とすだろう。どこかの木にぶら下がるだろう。……彼がこのことを理解することが重要だ」と脅した。

ウクライナの超国家主義者に外交の道を断たれたゼレンスキーは、選挙公約を翻し、合意の履行を拒否した。連邦主義者から民族主義者への旅は、決して珍しいものではなかった。ニコライ・ペトロは、ウクライナの運輸相であるウォロディミル・オメラヤンの2019年の発言を引用する。「ウクライナの新たな大統領はそれぞれ、自分こそがロシアと建設的な対話を行うことができ、ビジネスを行い、良好な関係を築く仲裁人の役割を与えられているという確信を持ってスタートを切る。……そしてすべてのウクライナ大統領は結局、(民族主義者)バンデラの事実上の(国家主義)信奉者となりロシア連邦に喧嘩を売る」

物理的な脅迫に直面した政府のメンバーは、ゼレンスキーだけではなかった。2020年3月12日、ゼレンスキーが「和解と統一のための国家プラットフォーム」を創設することを発表した場で、ゼレンスキー顧問のセルゲイ・シボコは、アゾフ大隊の大群から地面に投げ飛ばされた。

ミンスク2は自分が実行しない譲歩だというゼレンスキーの主張は、大統領になったばかりの頃(の考え)を反映していないかもしれないが、ウクライナ政府関係者の大合唱は反映している。メルケルとオランドの後の主張に力を貸したのは、ウクライナ国内ではポロシェンコとゼレンスキーという2人の大統領だけではない。

ニコライ・ペトロは『ウクライナの悲劇』の中で、「当初からウクライナの戦略はミンスク2の実施を阻止することだった」と述べる。ポロシェンコ、メルケル、オランドの証言に加え、ウクライナの元外相パウロ・クリムキンがラジオのインタビューで、「ウクライナがミンスク2に署名した唯一の目的は、ウクライナ軍の再建と対ロシア国際連合を強化することだった 」と述べたと、ペトロは伝えている。クリムキンは「文字どおりに読めば、ミンスク合意は実行不可能だ」と述べ、さらに「それは初日から理解されていた」と、欺瞞の事実を確固たるものにしている。

ペトロいわく、「過去と現在のウクライナの交渉担当者は皆、2021年2月にゼレンスキー大統領の参謀長であるアンドリー・イェルマークがしたのと同様に、同じ点を指摘している」。

メルケルとオランド、ポロシェンコとゼレンスキー、ウクライナ内部の声によって形成される、この多数の認め合いが真実なら、ミンクス合意は、ウクライナが軍隊を作り、西側がドンバスでのロシアとの戦争に備えてずっと計画し意図していた連合を作りながら、ロシアをなだめすかそうとする欺瞞だったと言えるだろう。

The Minsk Deception and the Planned War in Donbas - Antiwar.com Original [LINK]

2023-03-27

【コラム】「戦争犯罪」糾弾の欺瞞

木村 貴

ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、国際刑事裁判所(ICC)が「戦争犯罪」の容疑でロシアのプーチン大統領に逮捕状を出した。昨年2月の侵攻以降、ロシアが占領したウクライナの地域から子供を含む住民をロシアに連行した行為に責任があるとしている。

逮捕状は、ロシア政府で子供の権利などを担当するマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表にも出された。ICCは、日本を含む123の国と地域が参加しているものの、ロシアや米国、中国などは管轄権を認めていない。
ニュースを受け、メディアでおなじみの専門家が一斉に、ICCの応援団よろしく、ロシアの「戦争犯罪」を糾弾している。その多くは、首を傾げたくなるものばかりだ。

立命館大学の越智萌准教授(国際刑事司法)は3月18日の朝日新聞のインタビュー記事で、こう答える。

子どもの強制移送はジェノサイド(集団殺害)にあたりうるものです。子どもは集団の次世代を担い、子どもがいなくなることは、集団全体がいなくなることを意味します。ウクライナのアイデンティティーに対する攻撃であるという点をすくいあげるような犯罪の類型だと考えられます。

ウクライナ戦争について「ジェノサイド」という言葉を使うとき、テレビしか見ない一般人ならともかく、いやしくも専門家なら、ウクライナ政府によるロシア系住民の虐殺が脳裏に浮かぶはずだ。ウクライナ戦争は2022年に始まったのではなく、2014年に民族主義の政府と東部・南部のロシア系住民の内戦として始まったのであり、2021年末までに約1万4000人が死亡している。

この間、政府軍の無差別攻撃を受け、多くの子供やその家族が死亡した。たとえば、「ゴロフカの聖母」と呼ばれるようになったクリスティナ・ジュクさんと生後10カ月の娘キラちゃんは2014年7月27日、ウクライナ軍がドネツク州(ドネツク人民共和国)ゴロフカの町を砲撃した際に殺された。クリスティナさんは町の広場の芝生の上で、娘を抱きかかえたまま死んでいたという。この日の攻撃で、キラちゃんを含め4人の子供たちが命を奪われた
ロシア側によれば、子供を含む市民を「強制移送」したわけではなく、「保護」したのだという。ウクライナ政府による市民虐殺の恐ろしい現実を踏まえれば、別に無理のある主張ではない。ウクライナに親戚も多いロシア国民の声を考えれば、当然だとすら思える。

国連はロシアの訴えにもかかわらず、ウクライナ政府によるロシア系住民の迫害をジェノサイドとは認定していない(そもそも国連が認定し、ウクライナ政府にその責任を問うていれば、ロシアが軍事行動による自力救済に踏み切る必要もなかっただろう)。しかし市民への攻撃があったのは多く記者ら報告からも明らかだ。このような事実を無視し、ロシアの行為を「保護」ではなく「強制移送」だと決めつけるのは、乱暴すぎるだろう。

かりにロシアの行為が「強制移送」だとしよう。それでも、現にロシア系民間人の命を奪っているウクライナ政府の行為を不問にし、ロシアだけにジェノサイドのレッテルを貼り、指弾するのは、どうみてもバランスを失している。グロテスクとさえ言えるだろう。

朝日のインタビューに答えた越智氏は、たとえロシア系の子供たちがウクライナ政府によってむごたらしく殺されても、それよりもロシアによる「強制移送」のほうが、恐ろしいジェノサイドにあたりうるものとして糾弾するべきだと、本気で考えているのだろうか。砲撃で命を落としたドンバスの子供や母親たちのことは、頭にかすめもしないのだろうか。そのような偏った判断で、越智氏の専門である刑事司法の目指す正義の実現ができるとは、とても思えない。これはもちろん、ICCの政治的な判断そのものに言える問題だ。

ICCの問題点は、これだけではない。2003年の活動開始以来、捜査・訴追の対象がアフリカで起こった事件に集中し、一部のアフリカ諸国から批判されている(尾﨑久仁子『国際刑事裁判所』)。さらに大きな問題は、ベトナム、旧ユーゴスラビア、アフガニスタン、イラクなどに対し侵略戦争を行った米国の指導者の罪を裁いていない点だ。

アフガンの場合、ICCは2017年、米兵や情報機関員が戦争中に拷問などの戦争犯罪に関与した疑いがあるとして、正式捜査を申請した。米トランプ政権はこれに強く反発し、2020年にはICCのベンソーダ主任検察官らに資産凍結の制裁を科した。その後、捜査は事実上ストップしたままだ。圧力に屈したと思われても仕方あるまい。アフガン以外の戦争については、ジェノサイドなど重大な戦争犯罪に時効はないにもかかわらず、捜査に着手さえしていない。

米国はICCに加盟していないが、それはロシアも同じだ。プーチン大統領に逮捕状を出せるのなら、米国のブッシュ、オバマ、トランプ、バイデンの歴代大統領にも出せるはずだ。そうしないなら、ダブルスタンダード(二重基準)だと批判されても当然だろう。

前出の越智氏は記事の出た翌日、ツイッターの個人アカウントでアフガンの一件に触れ、「米国が国際刑事裁判所ICCを支持することには、自国の過去を棚上げしている感は間違いなくあります。(略)ダブルスタンダードの批判とどう向き合っていくかは重要課題です」と正しく述べている。ところが専門家仲間には、このまっとうな意見が気に食わない人もいる。
東京外語大学教授の篠田英朗氏(国際政治)は、越智氏のツイートを引用し、こうコメントした。

「感」というのは、何でしょうね。アフガニスタンの捜査を不許可した理由は、捜査の不可能性。実際、その後許可になった後も、アフガニスタンでは捜査できていない。少なくとも論理的には、相当な捜査の後に逮捕状発行に至った今回のウクライナとは、状況が全然違う。(改行略)

米国には「自国の過去を棚上げしている感」があるという越智氏の発言にカチンときたようだ。篠田氏によれば、ロシアと米国は「状況が全然違う」。なぜなら、アフガンでは捜査ができなかったのに対し、ウクライナでは「相当な捜査」ができたからだという。

なんだか奇妙な議論だ。アフガンの捜査ができなかった大きな理由は、米政府自身が制裁までして圧力をかけたことである。それにICCは火のないところに煙を立てたわけではなく、報道から拷問などの情報を得ていたから、捜査しようとしたのだ。その点、子供の「強制移送」が事前に報じられていたロシアと共通している。いくら「少なくとも論理的には」と断ったからといって、「全然違う」とは米国びいきが過ぎるだろう。

一方、ロシアに対し「相当な捜査」が行われたというのも疑問が残る。

2023-03-26

イラク侵攻という犯罪

コラムニスト、ベン・バーギス
(2023年3月20日)

20年前の今日、米国と連合軍の地上部隊がイラクに侵攻した。前日から「衝撃と畏怖」の爆撃作戦が始まっていた。

2003年3月20日に起こったことは、「ミス」ではなかった。良かれと思ってやったことではなく、「賢明でない」ことだった。大規模に行われた計算された計画的な犯罪であった。何千人もの米国の人々と何十万人ものイラク人が、明らかに無意味な嘘を前提とした戦争で死んだのである。

人的被害


ジョージ・W・ブッシュ大統領がイラク侵攻を命じたとき、私は数カ月間、反戦デモに参加し、教会の地下室で開かれた組織化会議に出席していた。2003年2月15日、「イラク戦争に反対する大ランシング・ネットワーク」は、故郷の通りに4000人の人々を集め、ミシガン州立大学の組合ビルからランシングの州議事堂の階段まで行進させた。これは人類史上最大の組織的抗議行動のほんの一部だった。600万人から1000万人の人々が、戦争計画者に「ノー」を突きつけるために、世界中の600の都市に集まったのである。

しかし連中は聞く耳を持たなかった。そして数カ月間、4000人以上の米国人が国旗のついた棺桶に入って帰還した。その棺のひとつに、高校時代の同級生の遺体が入っていた。彼は17歳の時に陸軍に入隊した。イーストランシングの金曜と土曜の夜、州立大の学生でごった返すバーに行くには、4歳若すぎる。レンタカーを借りるには8歳若すぎる。そして、その人生を投げ出すことを決めた政治家の誰にも、残酷で愚かな「選挙戦争」で投票する資格がないほど若すぎた。

共通の友人はいたが、つるんではいなかったので、どんな動機で入隊したのかはわからない。しかし採用担当者が、米国軍がいかに「自由を守る」ために存在するかについて、ありふれた話をしたと想像せざるをえない。その代わり、同級生は地球の反対側で、大多数のイラク人が激しく憤る占領を押しつける過程で死んだ。

一般のイラク人が受けた影響は、「連合軍」の犠牲者を凌ぐものであった。ブラウン大学のワトソン研究所が今月発表した推計によると、侵攻以来、55万人から58万人がイラクで、さらに混乱が拡大したシリアで死亡し、「予防可能な病気など間接的な原因で、その数倍が死亡した可能性がある」。さらに700万人以上がこの二つの国から逃れ、800万人が「国内難民」となった。

歴史を書き換えるフラム氏


ブッシュ大統領は侵攻の前年の演説で、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」として非難している。サダム・フセイン(大統領)のイラクと、1980年代まで長く血なまぐさい戦争を続けたイラン・イスラム共和国が「枢軸」の一部であるという考えは、北朝鮮を入れる前にすでに奇妙なものだった。しかし、これは9・11後の米国のジンゴイズム(排外的愛国主義)熱の頂点であり、ブッシュ氏の美辞麗句が理にかなっていなくても、国民の大部分がうなずいたのである。

この演説の著者であるデビッド・フラム氏は、ブッシュ氏の中東戦争がもたらす破滅的な結果が明らかになった後、恥を忍んで公の場から身を引いたかもしれない----恥を知る能力があったなら。その代わり、フラム氏は先週、アトランティック誌で「イラク戦争再考」という衝撃的な見出しの記事を発表した。

その中でフラム氏は、戦争がうまくいかなかったことを認め、現実的には「賢明でなかった」かもしれないと認めている。しかし米国が「いわれのない侵略」をしたわけではないと主張し、フセインに力を持たせておくほうが悪かったかもしれないと主張し、イラクとロシアのウクライナ侵攻との比較には歯切れが悪くなる。そして何よりも、イラクでの大失敗が、他の場所での新たな戦争に対する国民の熱意を削いでしまったことを残念に思っているようだ。

米国が世界のために力を発揮できるという信念は、悲しいことに、そして間違ったことに、薄れてしまった。イラクの記憶は、民主主義を脇に追いやり、世界を独裁者に委ねようとする過激派や権威主義者にとって、強力な情報源となった。

フラム氏によれば、1990〜91年の第一次湾岸戦争は、イラクのクウェート侵攻を考えれば「明らかに合法」であり、イラクは停戦の条件に従わなかったから、イラク侵攻は「無謀な侵略」ではなかったという。しかし、もしフラム氏がこの議論に真剣に取り組んでいるならば、たとえば米国がグレナダに侵攻した後やパナマに侵攻した後に、他の国が米国の都市を爆撃したとしても、それは「明らかに合法」であり、その後の停戦に対する米国の違反は、その国全体のクラスター爆撃、侵略、長期占領の理由になると主張しなければならないだろう。

フラム氏は本当にそう考えているのだろうか。誰もがそう思っているのだろうか。

不条理な嘘に基づく戦争


当時、ブッシュ氏とその取り巻きは、「12年前に終わった戦争で停戦違反があったからイラクに侵攻する、それだけで正当化できる」とは言わなかった。そのような根拠は誰も認めないことを知っていたからだ。その代わりに彼らは、(a)サダム・フセインが「大量破壊兵器」を持っていて、(b)長い間地元のイスラム教徒を残酷に弾圧してきたイラクの独裁者が、魔法のようにこの「大量破壊兵器」を宿敵アルカイダと共有しようと決意する----と主張した。ブッシュ政権幹部は、大量破壊兵器がアルカイダの手に渡るという理論的な可能性は、あまりにも恐ろしくて、誰も本当の証拠を待つ気にならないと主張した。ディック・チェイニー副大統領の悪名高い言葉によれば、「決定的な証拠」は、米国の都市上空の「きのこ雲」になるかもしれないという。

ウラジーミル・プーチン(露大統領)がウクライナに侵攻したのは「非武装化、非ナチス化」のためだと主張するのと同じように、これらすべてはナンセンスである。かりに(a)を信じる理由があったとしても、(b)の不条理がそれを無意味なものにしてしまった。

フラム氏は、イラクに大量破壊兵器がなかったことに衝撃を受けたと主張している。そして、ブッシュ政権が大量破壊兵器について語ったことの多くが、意図的な歪曲に基づいていたことが後に判明したのは事実である。しかし当時でさえ、国民に提示された証拠は不十分だった。

2002年、政治学の授業で教授とこのことについて議論したのを覚えている。その教授(かなりリベラルな民主党議員)は、イラクは化学・生物兵器を保有しており、少なくとも核兵器の開発に取り組んでいると話していたのだ。どうしてそんなことがわかるのか、と私が尋ねると、教授は大統領の自信に満ちた数々の発言に言及した。たしかに、これらの主張はすべて、ブッシュ大統領が情報機関から得た情報に基づいている。

しかし私はそうは思わなかった。たとえば、ジョン・F・ケネディ政権が1962年、キューバにあるソ連のミサイル基地の監視写真を全世界に公開したように、決定的な証拠があるのなら、なぜそれを共有しないのだろうか。

米国では、パウエル国務長官が炭疽菌の入った小瓶を振り回しながら、イラクの脅威を喧伝していた。大学の反戦学生たちと一緒にパウエル氏の演説を見たが、ある場面で彼が傍受したイラクの通信に「トラック」という曖昧な表現があり、パウエル氏はあたかもそのトラックとは移動式の化学兵器研究所というのが唯一の解釈であるかのように主張したことを覚えている。こんなことを真に受けている人がいることに驚いた。

決して忘れてはいけない


その懐疑的な態度は、私だけのものではなかった。あの2月には、600万人から1000万人の人々が反戦デモに参加した。世界の反戦運動はまったく正しかった。そして2003年に間違った側にいた人は誰も、それを忘れることを許されない。デビッド・フラム氏のような恥知らずの異常者も、弱く見られるのを恐れて戦争に賛成した両党の政治家も、ブログやニューヨーク・タイムズ紙の論説でブッシュ政権をかばった、いかにも賢そうな中道派の識者の誰も、忘れてはならない。

これらの人々は誰一人として、罪のない間違いを犯してはいない。かろうじて首尾一貫したナンセンスに基づく戦争で、地球の反対側にある社会を破壊し、その過程で最低でも数十万人を殺害しようと公然と計画している陰謀家たちと一緒になって、断固として支持したのだ。(兵器メーカーの)ハリバートン社やレイセオン社、ロッキード・マーチン社の株主にとっては非常に良い戦争であり、他のほとんどすべての人々にとっては悪い戦争だった。

これは「失敗に学ぶ」状況ではない。

イラクへの侵攻は「ミス 」ではなかった。

犯罪だったのだ。

そして許しがたいことだ。

The Invasion of Iraq Wasn’t a “Mistake.” It Was a Crime. [LINK]

2023-03-25

犯罪者の大統領

コラムニスト、ソフラブ・アフマリ
(2023年3月21日)

20年前、米国主導の連合軍は、サダム・フセインの大量破壊兵器を廃棄し、アルカイダへの支援を停止し、イラク国民を解放することを公式目標として、イラクに侵攻した。本誌(アメリカン・コンサーバティブ誌)が当時、(ギリシャ神話の預言者)カサンドラのように警告したとおり、この戦争は歴史的な失敗となった。だから当然、戦争責任者であるジョージ・W・ブッシュは今、「責任ある」賢者としてメディアの輝きに浴しているし、反戦派のドナルド・トランプは刑事告発に直面している。
ブッシュの戦争がもたらした結果を簡単に振り返ってみよう。数千人の米軍兵士が死亡し、イラク人の犠牲者は数十万人にのぼった。戦争は米国の納税者に3兆ドル、国民一人当たり約9000ドルの負担を強いた。大量破壊兵器は発見されなかった。サダムとアルカイダの関係は、ディック・チェイニー(元米副大統領)とその妻リンがウィークリー・スタンダード誌に書いたところによると、「深く、長く、広範囲に及ぶ」ものだったが、フェイクニュースであることが判明した。

ブッシュ政権は、侵攻直後の計画を立てず、イラクの貴重な考古学的遺産を破壊する略奪の乱痴気騒ぎを引き起こす条件を整えた。2003年4月、36時間にわたる略奪で、国立博物館から約1万5000点が持ち去られ、その半分以上がいまだに回収されていない。当時の国防長官ドナルド・ラムズフェルドは、「国中にそんなにたくさんの壺があっただろうか」と冗談を言った。

同じように指導と監督に失敗した結果、イラク郊外のアブグレイブにある米国経営の刑務所で起こったサディズムが綿密に記録されることになった。ニューヨーク・タイムズ紙が10年以上経ってから社説でまとめたように、そこでは、「米国人の管理下にあった被収容者は、レイプされ、殴られ、ショックを受け、裸にされ、食事と睡眠を与えられず、手首を吊られ、死の恐怖にさらされた」。ジェーン・メイヤーが(ニューヨーカー誌で)みごとに報告したあるケースでは、被拘禁者が殺害された。

もう一つの大失敗は、ブッシュ政権がサダム政権時代の党員を公務員から排除するために組織的に進めた「脱バース化」であった。その結果、重要な局面で統治能力を欠くイラク政府が誕生することは予想できた。さらに危険だったのは、将来の「イスラム国](IS)を形成することになる数十万人のスンニ派イラク人の没落と、恨みの増大である。

結局、イラクとシリアにおける「イスラム国」の台頭は、ブッシュ政権の足元から始まったと言わざるをえない。ブッシュ政権は、すでに繊細な民族や宗派の断層によって引き裂かれていた地域を揺るがし、その跡に統治されず、統治できない空間を残した。その結果、ヤジディ教徒がほぼ集団虐殺され、世界で最も古い歴史を持つイラクのキリスト教社会は言うまでもなく壊滅し、その人口は戦前の150万人から25万人にまで減少してしまった。イラクと政権交代の標的となったシリアの不安定な状況は、100万人の移民を欧州に送り込み、欧州大陸で10年間にわたる政治的混乱が続く舞台を整えた。

米国の傷痍軍人たちは、ブッシュ政権の手によって、ほとんど良い結果を得ることができなかった。ウォルター・リード陸軍医療センターでは退役軍人が長い待ち時間だけでなく、ゴキブリ、ネズミ、腐敗したカビに悩まされていることが、ワシントン・ポスト紙の暴露記事で明らかになった。ポスト紙が発見したように、この制度全体が、最も治療を必要としている人たち、つまり、記録がないためにイラク(およびアフガニスタン)での従軍を証明できないままになっている人たちの治療を拒否するように設計されているように思われたのである。

より大きな戦略的影響は、あまりにも身近なものである。地域的な対抗軸を取り除くことで、米国は結局イランに力を与えることになった。今日、テヘランはイラクの主要な外部勢力として機能している。文明の影響圏を信じるなら、これはそれほどひどいことではないのかもしれない。しかし米国人タカ派の論理に従えば、この結果は大失敗である。結局のところ、イランは「テロとの戦い」の勝者の一人になるはずはなかった。しかし、結果的にそうなってしまった。

このような事態を引き起こした大統領は、現在、有名なメディア関係者である。彼は絵を描き、その芸術的な取り組みを本にして出版し、広く賞賛を浴びている。ブッシュはプーチンの「残忍なイラク侵略」(ウクライナのことを指していた)と思わず本音を漏らし、他の人々とともに笑い、平然と前に進んでいる。一方、後継者のトランプは、久々に新たな戦争を起こさない大統領となった。

ニューヨーク州マンハッタンで刑事訴追を受けているのはブッシュではなくトランプであり、ブッシュやチェイニーを称賛するのと同じ体制派が着手した、トランプの行動に関する数十の捜査のうちの一つである。ポルノ女優に口止め料を払ったことで、トランプは刑事責任を問われるべきなのだろうか。私にはわからないし、気にもしない。なぜなら、トランプの犯罪がどのようなものであれ、それはジョージ・W・ブッシュの「合法的」犯罪に比べれば取るに足らないものだからだ。

A Criminal President - The American Conservative [LINK]

2023-03-24

米国はロシアと和平交渉を

クインシー研究所理事、ジョージ・ビーブ
(2023年3月20日)

ウクライナ戦争の見通しを形成する3つの大きな要因が動いている。それぞれが他の要素に影響を与え、潜在的に補強し合っている。これらが相まって、米バイデン政権が望む結果へと舵を切る能力を大きく制約するようなダイナミズムが、まもなく生まれるかもしれない。
第一は、戦況の変化である。昨秋にプーチン(露大統領)が命じた動員により、ロシア軍は(東部ドネツク州の要衝)バフムトの包囲に近づきつつあり、ウクライナ軍は昨夏以来の大きな後退の危機に瀕しているように見える。この戦いは、ロシアには時間とコストがかかるが、ウクライナは莫大な犠牲を払っている。 

ワシントン・ポスト紙によると、ウクライナの防衛は、弾薬と経験豊富な兵士の深刻な不足に悩まされているという。米国や北大西洋条約機構(NATO)の軍隊を派遣すれば、ロシア軍と直接衝突し、核紛争に発展する可能性がある。西側諸国の戦争用の砲弾やミサイルの備蓄は減少しており、それは米国の他の地域での軍事態勢にも影響を与える。そして米国とその同盟国は、ウクライナの緊急のニーズに応えるには、国防製造を迅速に増強できないことが明らかになりつつある。 

ロシアがバフムトを占領したことが、ウクライナの領土をより多く征服するために極めて重要な意味を持つかどうかは議論の余地がある。しかし戦争は地図上のポイントを押さえれば勝てるというものではなく、相手の戦力や補給能力を疲弊させることも同様に有効である。消耗戦の場合、ロシアはウクライナよりもはるかに多くの人員と軍需産業の基盤を持っている。かりにバフムトへのロシアの攻撃を食い止めることに成功したとしても、ウクライナのゼレンスキー大統領が限られた資源をバフムトの防衛に全面投入すれば、ウクライナが他の場所で有効な反撃を行い、クリミア半島を含むロシア占領地を取り返すという公約を達成する能力を失わせることになりかねない。 

もう一つは、少なくとも同様に重要な米国の国内政治である。数カ月間、戦争に対する米国人の世論は二極化しており、共和党は米国の戦争目的やウクライナに対する米国の支援の程度を疑問視するようになっている。1年前、米国がウクライナに「過剰な支援」をしていると考える共和党員は10%未満だったが、最近のキニピアックの世論調査によれば、その数は50%近くになっている。一方、民主党の62%は、米国の支援は「ほぼ適切」と考えている。 

戦場からの悲痛な報告が米国人の楽観主義を削ぎ、2024年の大統領選挙に向けた運動が過熱するにつれ、この党派間の溝は深まるだろう。フロリダ州のロン・デサンティス知事とドナルド・トランプ前大統領は、共和党の有権者の4分の3以上の支持を得ているが、ウクライナの「平和」を明確に訴え、米国の関与拡大に反対しており、バイデン大統領の「白紙委任」による、目的が定まらない、達成不可能な資金提供とは対照的な姿勢である。バイデン氏のウクライナ政策は、過去1年間は超党派の圧倒的な支持を得ていたが、今後は政治的な反発が強まる可能性がある。 

米国内でウクライナをめぐる議論が活発化するなか、この戦争における最大のワイルドカードである中国が活発化し始めている。米国は非公開の情報をもとに、中国がロシアへの軍事援助を検討していると主張し、中国に対して公式に警告している。一方、中国の習近平国家主席は今週、モスクワでロシアのプーチン大統領と会い、ゼレンスキー・ウクライナ大統領と電話で会談する準備を進めているが、バイデン大統領やその高官らは、中国が最近発表したウクライナ和平案を拒否し、中国のロシアびいきは調停役として失格だと主張している。

米国の懸念とは裏腹に、中国がロシアに軍事的な支援をすることはないだろう。そのような支援は、経済の不確実性が高まるなか、中国にとって最も重要な貿易相手国である欧州に対する立場を大きく損なうことになる。習主席はロシアが戦争に負ける危険があると思えば、こうした関係を危険にさらすことをいとわないかもしれないが、そのような結果が迫っていると考えている兆候はない。   

しかし中国がピースメーカーになるチャンスは、米国の多くの人々が考えているよりも大きい。プーチン氏のウクライナでの不手際により、ロシアは経済的にも地政学的にも中国に圧倒的に依存するようになり、中国はロシアに対して大きな影響力を持っている。欧米を疎外したプーチン氏は、最も重要な国際的パートナーである中国が協議に応じると主張すれば、それを阻止する余裕はないだろう。逆にウクライナは、中国がロシアへの軍事支援を検討することが、戦争の帰趨を左右しかねないと認識しているに違いない。ウクライナ側が、米国は戦場で勝利をもたらす気もなければ、ロシアを納得のいく決着に導くこともできないと認識すれば、中国の仲介役としての役割は、ウクライナにとって魅力的なものとなる。 

これらの要因が組み合わさると、どのようなことが起こるだろうか。バイデン政権はこれまで、ウクライナの交渉姿勢は時間とともに強化されるし、交渉の決断は米国ではなくウクライナで行うべきで、ロシアは現在占領している領土を大幅に失うまでは交渉のテーブルに着くことはできない、と主張してきた。しかし夏にはウクライナの戦況が悪化し、米国人の支持に対する信頼が失われ、交渉力が低下する可能性がある。ウクライナとロシアはそれぞれ異なる理由から、中国を潜在的な仲介者としてしだいに魅力的に感じるようになるかもしれない。そのような魅力を感じない米国は、ウクライナに対してかなりの影響力を保持しているため、中国が主催する和平プロセスを台無しにする可能性もある。しかしバイデン氏は、和解に反対するように見えることで、国内外に影響を及ぼすリスクを冒したいのだろうか。 

バイデン政権は、ロシアとの交渉にアクセルを踏み込むことで、この潜在的な罠から抜け出す方法を見出すことができる。例えば、ウクライナのNATO加盟という難問について、プーチン氏が戦争の核心とみなしながら、バイデン氏が今のところ議論を拒否している問題について、米国が議論する用意があると控えめにロシアに合図すれば、こうした力学を変え、ロシアの和解への態度を再構築する助けになるかもしれない。

しかし、米国の外交のチャンスは狭まりつつあるといっても過言ではない。

Biden's looming trap in Ukraine - Responsible Statecraft [LINK]

2023-03-23

イラク戦争、勝者は中国

国際政治学者、アンドリュー・ベイセヴィッチ
(2023年3月20日)

ジョージ・W・ブッシュ大統領が米軍にイラク侵攻を命じてから20年、私たちは今、あの紛争がもたらした結果についてやっと気づき始めたところである。誰が勝ったのか。米国でないことは確かである。
イラク戦争への直接的な関与を避けた中華人民共和国が、勝利の栄冠を手にしたように見える。中国はイラク戦争に直接関与することを慎重に避けたのである。中国が選択したのは、当たって砕ける戦争ではなく、外交であった。その努力は今、報われる兆しを見せている。

ブッシュとその部下が作り出したプロパガンダの霧を抜けると、「イラクの自由作戦」はイラク人の解放とはほとんど関係がなかった。実際の目的は、ペルシャ湾で誰が主導権を握っているかという疑念を打ち砕くことであった。米国は9・11の屈辱(19人のハイジャック犯による残忍な攻撃を防げなかった)を味わったことで、地域的優位性が疑われるようになった。(イラク大統領)サダム・フセインに素早く決定的な勝利を収めれば、米国に牙をむく国家や集団に教訓を与えることができる。

しかしこの戦争はブッシュ政権の脚本どおりにはいかなかった。米国が被った具体的な犠牲、すなわち何千人もの米軍兵士の死、負傷、身体切断、そして何兆ドルもの出費について、改めて説明することは差し控えたいが、何も利益をもたらさなかった。米国のイラク侵攻は、1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻、1990年のサダム・フセインによるクウェート併合と並ぶ、現代の自業自得のランキングに名を連ねていることは言うまでもない。

戦争の副次的影響を正確に測定することはさらに難しい。しかし少なくとも、中東を不安定化し、米国政治に悪影響を及ぼしたことは事実である。簡単に言えば、この無謀な戦争に乗り出した米国の無謀さが、過激派組織「イスラム国(ISIS)」の出現とドナルド・トランプ氏の国政進出に大きく貢献したのである。

中国は慎重にも、米国の愚行への道を邪魔しないことを選択し、今や米国の犠牲の上に利益を得る立場にあることに気づいた。中国がサウジアラビアとイランの国交回復を仲介したことは、ニューヨーク・タイムズ紙によれば、「誰にも予想できなかった、大混乱の展開」の一つである。

あるいは、ペルシャ湾での軍事的覇権を追求する米国の強引なやり方が生み出した混乱を、中国が自らに有利になるように利用する、最も賢明な方法の一つかもしれない。

この中国主導の平和構想が、果たして平和に近いものをもたらすかどうかは、まだわからない。しかしそれでも、心理的な影響は大きい。タイムズ紙は、米国は「重大な変化の瞬間に傍観者であることに気づいた」とし、中国は「突然、新たなパワープレーヤーに変身した」と報じている。

ここにはかなりの誇張表現がある。傍観者だろうか。そんなことはない。実際、国防総省は中東全域に基地を置いているが、中国はほとんど置いていない。とはいえ、米国にとってきわめて重要な世界の一部で、米国人以外の人間が主導権を行使することは、米国の権力者にとって心外なことである。

それでもなお、この問いには価値がある。中国の不意打ちの反撃は、米国に検討する価値のある機会を提供するのではないか。米国が、米国の利益にかない、米国の価値観を反映した地域秩序の確立を期待してイラク戦争に踏み切ってから20年、そろそろ次の段階に進むべきときなのかもしれない。自国の安全と繁栄にとって、ペルシャ湾の重要性を見直すべき時なのだろう。

中国の習近平国家主席は、この地域を取り巻く古くからの敵対関係を整理する責任を負いたいと考えているのだろうか。それなら、やらせてみたらどうだろう。ペルシャ湾の石油は、中国のほうが米国よりはるかに必要としているのだから。

米軍がイラクに進駐してから20年という節目は、「我々は失敗した」という事実を認識する絶好の機会かもしれない。米国が撤退し、中国がどんな代償を払い、どんな重荷を背負うことになるのか、試してみることにしよう。それは興味深いものになるはずだ。

And the Winner Is... - The American Conservative [LINK]

2023-03-22

戦争の白紙委任状

米上院議員、ランド・ポール
(2023年3月16日)

先日、上院外交委員会で、2002年のイラク戦争のための軍事力行使権限承認(AUMF)の撤廃を議論した。イラク戦争はとっくに終わっている。すでに終わった戦争を終わらせることは、全会一致で合意されていると思うだろう。   

しかしイラク戦争権限承認の廃止だけで終わってしまっては、何も変わらないのではと恐れる。
アフガニスタン戦争の権限承認も廃止するという追加のステップを踏む必要がある。9・11のテロリストを裁くための2001年の承認は正当なものだったが、イラク戦争と同様、アフガン戦争もとっくに終わっている。にもかかわらず、承認は残ったままだ。

いつどこで戦争をするのかを決めるのは議会の仕事である。大統領は戦争を遂行する権限を持つが、戦争を開始する権限はない。(建国の父の一人)ジェームズ・マディソンは、行政府は最も戦争をしやすいので、憲法はその権限を立法府に委ねたと書いた。

マディソンの言葉には、知恵がある。両党の大統領は9・11の権限を濫用し、イラク、シリア、イエメン、ソマリア、リビア、ニジェールなどで戦争に踏み切った。

イラク戦争承認の廃止は、正しい方向への一歩である。しかし忘れてはならないが、バイデン政権が廃止に反対しないのは、米国の現在の軍事活動が承認に依存していないからではない。言い換えれば、政権はそれを必要としていないのだ。2002年のイラク戦争承認だけを撤廃しても、何も変わらない。いつどこで戦争をするかという決定は、依然として行政官の気まぐれだけに左右されることになる。

最近の大統領はみな、合衆国憲法第2条に基づき無制限の戦争権限を誤って主張し、少なくとも19カ国での戦争を正当化するために2001年9月11日の承認を利用している。

しかし9・11の権限承認は、「2001年9月11日に発生したテロ攻撃を計画、許可、実行、援助した者、またはそのような組織や人物をかくまった者」に対してのみ武力を認めている。

9・11テロとの関係で狭く定義されたこれらの組織に対する武力行使を認めているのである。世界的な対テロ戦争やイスラム過激派に対する承認は与えられていない。

何年もかけて、この権限承認の対象となる集団の定義が広がっていった。つまり大統領は、9・11への関与との関係がいかに希薄であっても、あらゆる集団に対して戦争を仕掛ける権限を主張できるのである。

2001年の議会では、少なくとも19カ国で行われる数十年にわたる戦争に賛成しているとは、誰も思っていなかった。

議会の仕事は、単に戦争に議会のお墨付きを与えることではない。その重要な仕事は、私たちの息子や娘をいつどこの戦場に送るかを決めることである。

最近、私は委員会の仲間に尋ねた。この中に、現状を承認することに投票する人はいるだろうか。ほぼ20カ国の軍事作戦を承認することに票を投じるか。いつどこで戦争をするかという問題について、議会は議論すべきだと思わないか。

2001年9月11日の権限承認を廃止すれば、米国民を危険にさらすことになると主張する人もいる。

それなら、その議論をしようではないか。私が提出した修正案は、これらの作戦を継続すべきかどうかについては言及していない。2001年9月11日の権限承認を半年後に無効化するものだ。その間に、どこでどのように武力行使を許可するか、きちんと議論すればよいのだ。

戦争は時に必要だが、戦争に踏み切るかどうかは、一人の人間(大統領)の判断で決められるべきものではない。イラク戦争とアフガン戦争に対する議会の承認を終了させることで、戦争の権限を米国民とその代表者に戻すことができる。

Time to rip up the president's blank check for war - Responsible Statecraft [LINK]

2023-03-21

対話の外交、脅しの外交

作家、グラハム・フラー
(2023年3月13日)

米国のニュースメディアでは、ささやかな記事にしかならない。しかし中国は、イランとサウジアラビアという強力だが敵対関係にある両国間の外交的和解を促し、パラダイムシフトを成し遂げたばかりである。時間が経てばわかることだが、この出来事は中東の力関係を変化させるだけでなく、中国の外交的役割の増大における新たな段階を示すものでもある。
とくに米国が外交を軽視し、軍事力や懲罰的制裁による影響力の行使を優先し、米国の野心や「ルールに基づく国際秩序」という概念に対して他の国家を「埒外」とする構えを見せる現在、米国の戦略思考における紛争の「必然性」や「永続性」について新たな考えを呼び起こすことが期待できるかもしれない。

このことは、歴史上最も古い問いの一つである「なぜ、国々は実際に戦うのか」という問いを実際に提起している。学者たちはさまざまな答えを提示している。権力拡大や支配への欲求、資源をめぐる争い、不安や恐怖、あるいはイデオロギーや信仰、世界観の対立。あるいは、狂信的な指導者の危険な野望を実現するために、各国は戦争を起こすのかもしれない。むさぼり、競争し、争い、破壊し、殺すという、人間のDNAに刻まれたものなのかもしれない。

もちろん紛争の起源に関するこうした「深い」解釈は、危険でもある。戦争を許容することにもなりかねない。紛争や戦争に宿命的なもの、定められたものがあることはまずない。人間にはつねに選択肢があり、指導者には主体性がある。

戦争は必然なのか。かつてイギリスとフランスが不倶戴天の敵同士であり、13世紀から19世紀にかけて23回もの戦争を繰り返していたことは「よく知られて」いた。しかしある日突然、両者は戦争をしなくなった。そして両国は16世紀から第二次世界大戦の終わりまで、地政学的に険悪な敵同士であったことも「よく知られて」いた。現在では、両国は緊密な協力関係にある。

「歴史の教訓」は、ロシアと中国が東シベリアの権力と影響力をめぐって避けられない競争をしている、つまり「天敵」であるということだ。しかし時代は変わり、突然今日、ロシアと中国が緊密で戦略的な協力関係にあることがわかった。

つまり、これらの対立に「必然性」はないのである。時代は変わりうるし、実際に変わる。指導者も変わる。和解の機会は生まれるし、生み出すこともできる。中国がイランやサウジに対して行ってきたことは、その一部である。

では政府や指導者は、長期にわたる敵対関係をどうしたらたやすく変えることができるのだろうか。興味深いのは、2000年から2016年にかけてのトルコの外交政策の劇的な変化である。レジェップ・タイップ・エルドアン大統領のかつての理論家であり外相であったアフメト・ダウトオール氏の知的指導のもと、トルコは外交政策の転換点を宣言した。地域諸国との関係が悪かった約50年間の後、ダウトオール氏は「敵ゼロ」という新たな外交ビジョンを宣言した。ほぼ一夜にして、トルコはほぼすべての近隣諸国との長年の摩擦に対処し始めたのである。これは政策的な選択であった。もちろん万能薬にはなりえない。そして残念ながら、トルコはシリア内戦でこうした政策の一部を放棄してしまった。

人間が「もう戦争はしない」と決めれば戦争が終わると考えるのは、ナイーブである。個人、国家、国際のあらゆる人間関係には、ある程度の摩擦や競争がつきものである。問題は、摩擦に対してどのように行動するかということだ。いつ、誰にとって、戦争が望ましいものになるのか。

当然のことながら、米国の政策立案者は、ダウトオール氏の外交政策ビジョンに不満を抱いていた。米国が主導する北大西洋条約機構(NATO)のゲームプランに従い、他のすべての国に米国の敵国認識を認めさせ、支持させることを望んでいたのである。

しかし今、中国は、相互利益の得られるすべての国とビジネスを行うことを宣言している(台湾は現在進行形の難問だ)。米国とは対照的に、中国は戦争状態にあるあらゆる国々と取引することができると考えている。イランやイスラエル、パレスチナの指導者たち、戦争中のサウジやイエメンとも対話する。

これとは対照的に、米国が真剣に関われない国の数はますます増えている。キューバとも、イランとも、パレスチナの重要政党ハマスとも対話しないし、ベネズエラやシリアの政府にも関わらない。これは米国自身の外交的な機動力を事実上制限する、自業自得のようなものである。ロシアや中国との関係が危機に瀕するのに、国務長官はどちらの国の担当者とも長期にわたり、ほとんど個人的な接触を保つことはない。幹部外交官らは、外交の意味や目的を理解していないようだ。他国との対話を拒否したり、他国を脅したりすることが強さにつながると信じているのかもしれない。しかし、それは米国から影響力を奪うことでもある。

中国は、米国が世界を見ているイデオロギー的な色眼鏡なしに行動する能力によって、信頼を得ることができる。イランとサウジアラビアの国交回復を監督することで、それを実現しようとしている。しかし米国は、この危険な地域紛争からの脱却を歓迎するどころか、和解に狼狽しているように見える(中国が次にアフリカで何をするのか注目したい)。

中国は米国の弱点を皮肉に利用しようとしているだけで、米国が主張する人権や民主主義の価値には何の関心もない、と言う人もいるかもしれない。その同じ米国は、民主主義と人権を都合によって支持し、これらの価値を友人への贈り物ではなく、敵に対する武器として利用することで悪名高いと、別の人は言うだろう。

もし米国が突然、過去10年間のトルコのような政策を採用し、安全保障の不可分性、つまり、地域のすべてのプレーヤーが安全だと感じない限り、真の地域の安全保障はありえないという考えを盛り込んだらどうなるだろうか(ウクライナを考えてみてほしい)。あるいは、今日の中国の現実的な政策を採用するとしたら。自分たちが気に入らない相手、さらには海外で制裁を実施しない友好国に対して、効果のない制裁を延々と繰り返すのではなく、もっと大きな柔軟性を得ることができるのではないだろうか。

トルコや中国の外交政策が理想的だと言っているわけではない。たとえば、南シナ海における中国の強引な政策には、批判すべき根拠が多々ある。しかし全体として、中国は経済発展と紛争減少を最優先課題としており、このメッセージは南半球で非常に効果的に響くものである。

これはかつて米国が理想としたものだったが、ソ連が崩壊し、米国は「世界唯一の超大国」という考えに酔ってしまった。それ以来、世界が変化しても、その地位を維持するためにできる限りのことをすることに執着してきた。こうして米国はきわめて不健全としか言いようのない地政学的ビジョンを採用している。すなわち、中国やロシアが世界に及ぼす影響を阻止するのに必要なことを行い、自分たちがまだ主導権を握っていることを証明しようと必死になっているのである。これに対して中国は、欠点はあるにせよ、より現実的で、観念的でないグローバルな外交官として活躍できる土壌を見いだしつつあるようだ。

これは米国に深い再考を促すべきものではないだろうか。

In great power diplomacy, is China beating US at its own game? - Responsible Statecraft [LINK]

2023-03-20

平和は異常、戦争は正常?

ジャーナリスト、ケイトリン・ジョンストン
(2023年3月12日)

オーストラリアの主要メディアにおける対中国戦争プロパガンダの激化という驚くべき事態について、今週ずっとわめき散らしていたのだが、この汚物を国民の意識に押し込んでいる最低の変人たちに対する罵詈雑言が尽きることなく、もう数カ月間叫び続けることができるような気がしている。原子時代の世界大戦への道を公然と開こうとする人々に対しては、本当にいくら言っても言い足りない。少しでもまともな世界であれば、このような怪物は人間の文明から追い出され、血の渇きだけを頼りに荒野で冷たく孤独に死んでいくことだろう。
この最新のプロパガンダの推進中に語られた最も不愉快なことの一つは、シドニー・モーニング・ヘラルド紙とエイジ紙が、公式っぽい記者会見でいんちきなタカ派意見を共有するために採用した5人の「専門家」(帝国が資金提供した対中タカ派という意味)による共同声明にある。この文章を初めて読んだときから、頭の中でこの段落がグルグルと回っている。

オーストラリアは覚悟を決めなければならない。最も重要なのは、心理的な変化である。自己満足に代わって、緊急性が必要だ。ここ数十年の平穏は、人類にとって当たり前のものではなく、異常なものだった。オーストラリアが歴史から逃れるための休暇は終わったのだ。オーストラリア国民は恐怖を感じるのではなく、我々が直面する脅威、我々が下すべき厳しい決断に注意深くなり、自分には権限があることを知るべきである。このような考え方の動員は、中国との対決を成功させるための不可欠な前提条件である。

連中が何をやっているか、おわかりだろうか。このプロの対中タカ派は、平和を奇妙で「異常なもの」とし、戦争を通常の状態であると明確に位置づけようとしているのである。オーストラリア人に必要なのは、平和が正常で健全だという考え方から、戦争が正常で健全だという考え方への「心理的な変化」と「考え方の動員」だと言っているのだ。

もちろん、それは大間違いであり、正気の沙汰とは思えない。正常で健康な人は誰しも、平和を当然のことと考え、暴力は可能な限り避けなければならない、めったにない憂慮すべき異常事態だと考える。

このことは、私たち自身の私生活における通常の人間としての経験からも明らかだ。たとえば、私たちの誰もが、大半の時間を殴り合いの喧嘩に費やしているわけではない。起きている間の大半を身体的暴行に費やしている人は、おそらくとっくの昔に刑務所に収容されているだろう。もし殴り合いの喧嘩をしたことがあるなら、それはめったにない憂慮すべき出来事として経験し、体中のすべてが、これは異常で不自然なことであり、できるだけ早く終わらせなければならないとずっと叫んでいたことを思い出すだろう。健康な人の場合、暴力は異常なものとして、暴力の不在は正常なものとして経験される。

この正常で基本となる態度から、帝国は情報操作で時間をかけてすべての人を「心理的に変化」させ、代わりに絶え間ない紛争と危険を当たり前のものとして受け入れるようプロパガンダする。このような変化は、帝国、戦争利権者、プロの戦争宣伝家にとって有益であり、他のすべての人にとって完全に有害なものである。私たちは自分の利益に直接害を及ぼす物質的条件を受け入れるようになり、文明として狂気と神経症に陥る。

しかし、それはいつでも目にすることだ。たとえば、何年も駐留している中東のある地域から帝国軍を撤退させようとする動きが出たり、今年の軍事予算の引き上げを見送ろうというわずかな議論が起こったり、暴力で荒廃した海外地域への武器投入が賢明で有益だという考えに対する疑念が生じたりしたときなどだ。

絶え間ない戦争挑発と軍国主義の道から離れようとするほんのわずかな動きが始まると、評論家や政治家は「孤立主義」「宥和主義」といった言葉を乱発し、デスカレーション(紛争激化の緩和)、非軍事化、外交、デタント(緊張緩和)といった呼びかけを、核兵器の破滅に向かって全速力で疾走するという正常で責任ある現状と対照的に、異様で異常なものに見せようとする。

連中の仕事は、平和を異常化し、戦争を正常化することである。つまり、健全な人間である私たちの仕事は、その正反対のことをすることだ。戦争の恐ろしさと、無謀な瀬戸際外交によって解き放たれる底知れぬ悪夢をすべての人に理解してもらい、平和こそが健全であることを理解してもらい、それが当たり前のものとなる未来を想像してもらわなければならない。

あいにく私たちが逆らっているのは、世界中に広がる帝国の力を背景とした情報操作装置である。しかしさいわい、私たちのビジョンは真実に基づいており、誰もが心の奥底でそれを感じ取っている。平和が正常であり、戦争が異常であると人々が考えるようになるために必要なことは、人々がすでに心の中で知っていることを思い出させることである。

Imperial Narrative Managers Always Try To Make Peace Seem Unnatural – Caitlin Johnstone [LINK]

2023-03-19

【コラム】政府の戦争プロパガンダ

木村 貴

もし財政問題を取り上げるテレビの報道番組で、財務省の研究所の研究員が「専門家」として出演し、「財政再建には増税が絶対に必要」と主張したら、そのまま信じるだろうか。農業問題を扱う番組で、農水省の研究所の研究員が「農業の持続的発展には補助金が不可欠」と論じたら、信じるだろうか。産業問題がテーマの番組で、経産省の研究所の研究員が「どんなに失敗しても官民ファンドの活用は重要」と訴えたら、信じるだろうか。
政府の職員は、たとえ研究員であれ、テレビ番組で政府に都合の悪いことは言わないものだという常識とメディアリテラシーがあれば、素直に信じたりはしないだろう。むしろテレビ局に「政府のプロパガンダ(政治宣伝)はやめろ」と抗議するかもしれない。テレビ局もそれがわかっているから、そもそも政府の研究員を「専門家」として出演させることはあまりない。

ところが不思議なことに、ある問題に限っては、政府の研究員が報道番組に頻繁に招かれ、政府見解に沿った主張を巧みに展開する。そして多くの視聴者が「さすがは専門家だ」と感心し、賛同する。それは軍事問題だ。

1年余り前にウクライナでロシアの軍事行動が始まって以来、防衛省の研究機関である防衛研究所の研究員がテレビをはじめとするメディアに連日登場するようになった。とりわけ登場回数が多く、視聴者らの人気も高いのが、防衛政策研究室長の高橋杉雄氏だ。

高橋氏はなかなかのイケメンで、語り口もソフト。サッカーやフィギュアスケートのファンでスイーツ好きというキャラクターも人気の理由のようだ。個人としては「いい人」なのかもしれない。しかし、そういう人であっても、いやそういう人だからこそ、発言には注意しなければならない。

高橋氏の発言をいくつか見ていこう。まずはウクライナ戦争が始まってまもない昨年3月18日に放送された、「報道ステーション」(テレビ朝日)だ。戦火を避けてウクライナからポーランドに逃れ、サッカー選手になる夢を奪われた少年らへの取材映像に続き、黄色のシャツにブルーのネクタイというウクライナカラーに身を包んだ高橋氏は、声を詰まらせながら、次のように切々と訴えた。

人間として、専門家であるとかジャーナリストであるとか、そういうことではなくて、この時代に生きた人間として、我々は今ウクライナで起こっていることから目を背けてはいけないし、見届けなければいけない。そしてそれを忘れてもいけない。忘れずにいて、この惨劇を引き起こしたウラジーミル・プーチン(露大統領)という人間を、歴史の法廷に立たせ続けなければいけない。僕たちにできることは何もないですけれども、それぐらいのことはできる。そう思いますね。

視聴者の反響は大きかった。この発言部分をシェアした報道ステーションのツイッター公式アカウントには、「全く同感です。私もこの時代に生きる一人の人間として訴えたい、いかなる理由があろうとも主権国家であるウクライナに侵攻するなど決してあってはならないこと」「とても心に刺さりました。専門家の方が専門家としての意見ではなく、憤りを抑えながらひとりの人間として本心からでた言葉だと思いました!」「心に訴える言葉とはこういう言葉だなと感じました。歴史の法廷に立たせ続けるそれくらいのことは出来る、考える夜にしよう」などと絶賛するコメントが付いている。

いつもは冷静な高橋氏が珍しく感情をあらわにしたことで、視聴者の心を強くとらえたようだ。しかしよく考えると、腑に落ちないことがある。

高橋氏は「歴史の法廷」を重視する。それならばまず、今回の戦争の歴史について、正しく踏まえたうえで発言しなければならないはずだ。

ウクライナ戦争は、テレビ視聴者の多くが信じているのとは違い、昨年2月に始まったのではない。9年前の2014年に始まったのだ。これは怪しい陰謀論などではなく、やはりメディアで引っ張りだこの国際政治学者・東野篤子氏や、ロシアの「侵略」を非難する北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長も認める事実である。

ただし、その具体的な内容が語られることは少ない。現在主流メディアを支配する「ウクライナは善、ロシアは悪」という一方的でわかりやすい図式にとって、都合が悪いからだ。

ウクライナでは2014年2月、米国の支援するクーデターで親露派政権が崩壊し、国粋的な親米派政府がロシア語を公用語から外すなど差別政策を打ち出した。このためロシア系住民の多い東部・南部で抗議デモが広がり、ウクライナ政府は武力でこれを弾圧。内戦となり、2021年末までに民間人3400人を含む1万4000人が死亡した。今でも大手メディアの過去記事を探せば、この経緯を伝える当時の報道が残っている。

民間人死者の大半は2014〜2015年に集中し、2016〜2021年は減少したものの、ウクライナ軍によるロシア系住民、つまり自国民への攻撃は断続的に続いた。ウクライナ政府に対しては、オバマ、トランプ、バイデンの米歴代政権が多額の軍事支援を行ってきた。その支援によって東部のドンバス地方などに砲撃が加えられ、女性や子供を含む人々の命を奪った。

「プーチンという人間を、歴史の法廷に立たせ続けなければいけない」と高橋氏は言う。しかし、なぜ「歴史の法廷」に立つのはプーチン氏だけなのか。なぜ2014年からの戦争でロシア系住民の命を直接・間接に奪ったウクライナや米国の歴代首脳は、除かれているのか。国外避難でサッカーの夢を奪われた少年には強く同情し、プーチン氏には怒りを燃やすのに、なぜドンバスの子供たちの命を奪ったウクライナや米国の政治家は、「歴史の法廷」に立たせようとしないのか。

2023-03-18

嵐の到来

米陸軍退役大佐、ダグラス・マクレガー
(2023年3月14日)

米国の国力の危機が始まっている。経済が傾き、欧米の金融市場が静かにパニックに陥っている。金利が上昇し、住宅ローン担保証券や米国債の価値が低下している。市場の「波動」、つまり感情、信念、心理的な嗜好が、米経済の暗転を示唆しているのである。
米国の国力は、経済的な可能性や成果と同様に、軍事力によって測られる。米国や欧州の軍需産業がウクライナの弾薬や装備の需要に追いつけないという認識が広がっていることは、米政府が、ウクライナの代理人が勝っていると主張する代理戦争中に送る不吉な信号である。

ウクライナ南部におけるロシアの戦力節約作戦は、ロシアの生命と資源の支出を最小限に抑えながら、攻撃してくるウクライナ軍を追い詰めることに成功したようだ。ロシアの消耗戦は見事に成功したが、ロシアは予備兵力と装備を動員して、1年前より数段大きく、殺傷能力の高い軍隊を編成した。

ロシアはロケット、ミサイル、ドローンを含む大規模な砲撃装備で、上空の監視装置と連動し、ドンバス地方の北端を守るために戦うウクライナ兵を、飛び出す標的にしてしまった。ウクライナ兵の死者数は不明だが、最近のある推定では、開戦以来15万~20万人のウクライナ人が戦死したとされ、別の推定では約25万人だという。

北大西洋条約機構(NATO)加盟国の地上軍、航空軍、防空軍の弱さは目に余るものがあり、ロシアとの不要な戦争は、NATOの東の辺境であるポーランド国境に数十万人のロシア軍を容易に送り込むことになる。これは米国が欧州の同盟国に約束した結果ではないが、今や現実的な可能性である。

ソ連がイデオロギーに振り回されながら外交政策を立案・実行していたのとは対照的に、現代のロシアは中南米、アフリカ、中東、南アジアで自国の目的に対する支持を巧みに培ってきた。欧米の経済制裁が米欧経済にダメージを与え、ロシアルーブルを国際社会で最も強い通貨のひとつに変えたことは、米国の世界的地位を向上させるものではあるまい。

NATOを無理やりロシアの国境に押しやるバイデンの政策は、ロシアと中国の間に安全上の利益と貿易上の関心という強い共通性を生み出し、インドのような南アジアの戦略的パートナーや、中南米のブラジルのようなパートナーを引き寄せている。新興のロシア中国軸と上海協力機構(SCO)の約39億人のために計画された産業革命がもたらす、世界経済への影響は甚大である。

要するに、ロシアの弱体化、孤立化、破壊を目指す米国の軍事戦略は大失敗であり、この失敗によって米国のロシアとの代理戦争は本当に危険な道を歩むことになった。ウクライナが忘却の彼方への転落に直面しても、めげずに邁進することは、三つの拡大する脅威を無視することになる。①経済の弱さを示す持続的な高インフレと金利の上昇(2020年以降初の米銀の破綻は、米国の金融の脆弱性を思い起こさせる)②望まれない難民・移民の数波にすでに動揺している欧州社会内部の安定と繁栄への脅威③広範な欧州戦争の脅威――。

大統領府の内部では、つねに特定の行動をとるよう大統領に求める派閥が対立している。しかしバイデン政権には、ウクライナへの関与から脱却しようとする人々がいる。ロシアとの代理戦争を熱烈に支持するアントニー・ブリンケン国務長官でさえ、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がクリミア奪還への協力を西側に求めることは、プーチンにとってレッドライン(越えてはならない一線)であり、ロシアからの劇的な攻撃拡大につながるかもしれないと認めている。

和平交渉の前にロシアがウクライナ東部から屈辱的な撤退をするという、バイデン政権の悪意ある愚かな要求を撤回することは、米政府が拒否しているステップである。しかし、それは実行されなければならない。関心が高まれば高まるほど、そして米国がウクライナでの戦争を遂行するために国内外で支出を増やせば増やすほど、米国社会は政治と社会の内部混乱に近づいていく。これはどの国にとっても危険な状態である。

この2年間のすべての混乱と破壊から、一つの否定できない真実が浮かび上がってきた。米国人の多くが米政府に対して不信感を抱き、不満を抱くのは当然であるということだ。バイデン大統領は、政権内のイデオロギー的狂信者、つまり行政権とは政治的な反対勢力を封じ、連邦政府を永久に支配し続けるための手段だと考える人々の代弁者であり、厚紙の切り抜きであるように思える。

米国民は馬鹿ではない。議会議員が内部情報をもとに株取引を行い、ほとんどの国民が刑務所行きになるような利益相反行為を堂々と行っていることを知っている。また1965年以来、政府が一連の軍事介入に失敗し、米国の政治、経済、軍事力を著しく弱体化させてきたことも知っている。

あまりにも多くの米国人が、2021年1月21日以降、自分たちには真の国家指導者がいないと信じている。バイデン政権は、ロシアに対するウクライナの代理戦争から米政府を脱出させるために設計された降車路を見つけるべき時が来ている。しかしそれは容易なことではないだろう。リベラルな国際主義、あるいはその現代的な装いである「道徳化するグローバリズム」は、慎重な外交を困難なものにしているが、今こそその時なのだ。東欧では、春の雨がロシアとウクライナの地上軍に泥の海をもたらし、移動に大きな支障をきたしている。しかしロシア軍最高司令部は、地面が乾いてロシア軍地上部隊が攻撃するとき、明確な決定を下し、米国とその協力国がウクライナの瀕死の政権を救う見込みがないことを明らかにするために、準備しているのである。それ以降、交渉は不可能ではないにせよ、極めて困難なものとなるだろう。

The Gathering Storm - The American Conservative [LINK]

2023-03-17

代理戦争の過酷なコスト

ジャーナリスト、スティーブン・キンザー
(2023年3月9日)

戦争をするのは危険だから、誰かが代わりにやってくれると助かる。それが代理戦争である。敵同士が直接戦うのを嫌がる場合、代理人、つまり自分たちの関心に応え、敵を弱体化させる現地の勢力を利用する。安上がりの戦争なのだ。
代理戦争は大昔から行われてきた。今日もいくつかの戦争が繰り広げられている。最も激しいのはウクライナでの戦いである。欧米の指導者たちがウクライナに兵器を投入しているのは、ウクライナが地政学上の仇敵であるロシアを傷つけていることが主な理由だ。共通の敵に直面した私たちは、過酷な取引を行う。米欧は資金と武器を提供し、ウクライナは戦い、死ぬ兵士を提供する。この取引はあらゆる代理戦争の一部である。

マーク・ワーナー上院議員は最近、「ロシア軍はウクライナ軍に食い荒らされている」と指摘した。「我々は今まさに、ウクライナにそれをやらせている。--ある意味、我々のために」

もう一つの代理戦争はイエメンを荒廃させている。サウジアラビアは7年間、米国から提供された武器でイエメンを空爆している。しかしどちらの国もイエメンのことはあまり気にしていない。イランが支援する一派と戦争しているのだ。米国とサウジは、イランとの全面的な衝突を避け、代わりにイランの同盟国を空爆している。

世界で最も複雑な代理戦争がシリアで繰り広げられている。シリア政府はイランやロシアと同盟を結んでいる。そのため米国の代理戦争の標的として、格好の存在となっている。シリアを攻撃し、弱体化させることで、米国の主要な敵対国2カ国に対して間接的に打撃を与えることができる。米国がクルド人民兵を含む代理勢力を使ってシリアの3分の1を占領しているのはそのためだ。さらに問題を複雑にしているのは、隣国のトルコもシリアの一部を占領し、地元の代理人を通じて支配していることだ。シリア人が苦しみ、死んでいく一方で、よそ者は自分たちの土地で優位に立とうと競い合っている。

冷戦時代は代理戦争の黄金時代だった。米国とソ連の両超大国は、直接対決すれば核兵器による大虐殺につながることを認識していた。その代わりに、世界各地で戦争に参加させ、そこに住む人々に銃を送って戦わせ、死なせた。

最も激しかったのは、アンゴラでの出来事だ。ソ連とキューバが一方を支援し、米国と南アフリカが他方を支援した。戦闘が始まったのは1975年。四半世紀後に終結したときには、50万人以上のアンゴラ人が死んでいた。

1980年代には、ニカラグアの代理戦争も取材した。米国の冷戦時代の宿敵であるキューバとソ連が、サンディニスタ政権を武装させたのである。この侵略を容認できない米国は、反政府勢力「コントラ」を武装させた。内戦は6年間続き、数万人の命を奪った。終結後、驚くべきことに、両者は和解した。コントラの最大指導者であるアドルフォ・カレロは、かつて没収された家に戻り、議員になった。

ニカラグアの戦争は外部の権力者によって煽られたものであり、その権力者が和平を結ぶと、それを中止させたのだと、私が現地に赴いたときにカレロは言った。

「サンディニスタは時代の旗印を掲げた。それがマルクス主義だった」とカレロは言った。

「西側と同盟を組んだ。彼らはソ連から、我々は米国から資金と銃を手に入れた。しかし今、我々を分断していたものは消滅してしまった。……何が起こったかのか。冷戦が終わったのだ」

ウクライナは、代理戦争の魅力、そして恐ろしさのすべてを体現している。

ロシアと戦いたい国は、自国の兵士を送ることなく戦うことができるので、世間からの反発も少ない。ウクライナ人の死への意欲には拍手を送るが、それを共有したいとは思わない。代理戦争のもう一つの大きな危険は、それを終わらせるのが難しいということだ。代理戦争は「凍りついた紛争」、あるいはさらに悪いことに「永遠の戦争」になりかねない。

アフガニスタンは何十年もの間、そのような代理戦争の場であった。米国もソ連も、この国にはさほど関心を持っていなかった。しかし地政学上有利になるように、アフガンを荒廃させた。よそ者がようやく去ったとき、廃墟となった国と何百万人もの苦しむ戦争犠牲者が残された。ニカラグアやアンゴラでも同じようなことが起こった。今日のシリアやイエメンでの戦争は終わりがなく、一日一日、国を破壊しているように見える。ウクライナの運命もまた、そうかもしれない。

ウクライナの泥沼の戦いを表現するために、すでに「肉挽き機」という言葉を使う人もいる。ひどい言葉だが、まさにそのとおりである。第一次世界大戦のように数カ月間、陣地に潜り込んだまま、数百ヤードも進まず戻らず、戦線はゆっくりしか変化しない。どちらの側にも決定的な打開策があるとは誰も思っていない。

バイデン米大統領は就任早々、アフガンから米軍を撤退させ、長い代理戦争に終止符を打った。現在シリア、イエメン、ウクライナを襲っている代理戦争は多くの点で異なるが、アフガン戦争と同様に、大国が疲弊するまで続くだろう。その間、これらの国々の土壌は血に染まり、息子や娘たちが死に続けるだろう。

The incalculable moral cost of proxy wars - The Boston Globe [LINK]

2023-03-16

サウジで体制転換が起こる日

社会活動家、ギャビン・オライリー
(2023年3月11日)

イランとサウジアラビアが7年ぶりに二国間関係を回復したという金曜日(3月10日)の発表は、ペルシャ湾における地政学的な大きな進展となった。

この地域の二大勢力として、イランとサウジは過去10年間、シリアイエメンの紛争で反対する立場をとっており、その結果、サウジによるイスラム教シーア派聖職者ニムル師の処刑を受けて、2016年1月に外交関係を解消するほどの緊張状態にあった。サウジとイランは、イスラム世界におけるスンニ派、シーア派それぞれの支配者と考えられている。
このため両国の国交回復により、過去20年間紛争が絶えなかったこの地域の安定が期待さ れる。

また、西アジアにとどまらず、中国が仲介することで、新たに多極化した世界秩序が確立されることを意味する。サウジは米国にとって重要な同盟国であり、この地域の貿易パートナーでもある。サウジが中国の勢力圏に入りつつあると感じた米国が、西アジアでの覇権を維持するためにサウジの体制転換を狙う可能性を示しているかもしれない。

実際、このような事態には歴史的な前例がある。

1979年7月、当時の米カーター政権は、米中央情報局(CIA)の極秘作戦であるサイクロン作戦を開始する。この作戦では、ムジャヒディン(イスラム聖戦士)と呼ばれるワッハーブ派の過激派に武装、資金提供、訓練を行い、1978年の四月革命後にソ連の影響下に入った、それまで西側と友好関係にあったアフガニスタンの社会主義政府に戦争をしかけようとするものであった。

サイクロン作戦が開始される5カ月前には、米国と英国が支援するパーレビ国王を倒したイスラム革命により、同じく欧米の同盟国であったイランがホメイニ師の指導下に置かれる。米国の覇権を脅かすイラン革命は、ホワイトハウスがアフガンのムジャヒディンを武装させ、西アジアにおける米国の影響力の低下を防ぐとともに、ソ連を高くつく誤った軍事行動に巻き込むことを決定した重要な要因である。

米国が、サウジが自国の勢力圏から中国の勢力圏に入りつつあると感じ、体制転換に踏み切った場合、その第一歩として、サウジの隣国イエメンに対する残虐な戦争に関する企業メディアの報道を大きく見直す可能性がある。

2015年3月、イエメンの首都サナアをアンサール・アラー(シーア派武装勢力フーシ)が占拠した後、サウジはハディ政権を復活させるために空爆を開始する。

米国と英国が供給する爆弾を使用し、両国の軍事顧問が標的の選定を支援するなか、サウジは過去8年間にわたりイエメンの農業、医療、水のインフラを破壊し、アラビア半島で最も貧しい国であるイエメンに、広範囲な飢餓と史上最悪のコレラ発生をもたらした。サウジの封鎖によって食料や医療品の入国ができなくなり、状況はさらに悪化した。

サウジの作戦は残虐であるにもかかわらず、過去8年間、企業メディアはほとんど報道してこなかった。サウジと欧米の間で有利な武器取引が行われていることや、サウジがこの地域のイランに対する防波堤として利用されており、テヘランがフーシに軍事援助を行っていると長年非難されていることが理由である。

しかし中国が仲介したサウジとイランのデタント(緊張緩和)が、米国とサウジの間に緊張をもたらし、特に湾岸諸国が米国ではなく中国から武器を購入することになった場合、西側メディアの間にイエメン情勢に対する新たな懸念が生まれるかもしれない。そこで始まる報道は、昨年2月にロシアが介入したウクライナ紛争を、それまで8年間、ほとんど報じていなかったにもかかわらず、突然報道したのと同じようなものだ。

イエメンにおけるサウジの戦争犯罪を報道することで、米国寄りの指導者を政権に就かせることを意図した、サウジにおけるカラー革命の試みに道を開くことになるかもしれない。

実際、このような試みは現在イランで行われており、米国は傀儡政権を樹立するために「イランの野党」に武器を供給している。米国の同盟国イスラエルの政府はすでにイランとサウジの協定に反対を表明しており、ペルシャ湾の反対側で同様のことが起こるのは時間の問題だろう。

The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Will Regime-Change Now Come to Riyadh? [LINK]