獣医学部問題の真相
2017〜18年にメディアをにぎわせた加計問題。安倍晋三首相の友人が理事長を務める学園が、52年間どこの大学にも認められていなかった獣医学部を新設する国家戦略特区の事業者に選定され、特別の便宜を疑われた。文部科学次官を退任した前川喜平氏が「行政が歪められた」として会見を開き、一気に批判が高まった。
だが国家戦略特区ワーキンググループの委員を務め、獣医学部をめぐるここ数年の政策決定プロセスに直接当事者として関わってきた著者によれば、「真相は全く異なる」。
一般に大学や学部は、文部科学省の認可プロセスを経て、適正な計画ならば認められる。ところが獣医学部の場合、すでに存在する16学部しか認めず、新設は一切門前払いする規制があった。これほど露骨で極端な規制はあまり例がない。しかも国会で議決された法律ではなく、文科省が独自に定めた告示に基づく「異様な規制」である。
獣医学部新設禁止の理由について、文科省は「獣医師の需給調整が必要なため」と説明する。獣医学部の数がこれ以上増えると、将来獣医師が余ってしまうという。けれども10年後、20年後にペットや家畜の数がどうなるかわかるはずもない。現実には獣医師不足が問題となっている。
一方、既存の獣医学部の入試倍率はおおむね10倍以上。獣医師になりたい若者たちの職業選択の自由が合理的な理由もなく妨げられ、「憲法違反といってもよい状態」だと著者は指摘する。
獣医師の需給調整が必要という文科省の説明は、表向きの建前にすぎない。実際には、新規参入を排除したい獣医師会が規制維持を求め、政治力を発揮し、行政もそれに従ってきたというのが真相である。
加計学園に対する獣医学部の新設認可は行政の歪みではない。著者が述べるとおり、むしろ新設を許さなかった行政こそ、利権構造のために歪められていたのである。加計問題に関する洪水のような報道で、その本質を指摘するものはほとんどなかった。政府による規制を当然と考える、自由な社会にそぐわない固定観念がメディアに蔓延しているためだろう。
新規参入に対する規制は、大学学部に限らず、運輸、宿泊、エネルギー、通信、放送、農林漁業、医療、介護などさまざまな分野に残る。これら「岩盤規制」を打破しない限り、世界的に低い日本の労働生産性は上がらず、貧しくなり続けるという著者の警告を重く受け止めなければならない。
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