若きリバタリアン蘇峰
明治から昭和にかけて活躍したジャーナリスト、徳富蘇峰は国家主義の鼓吹者として悪名高いが、青年時代は徹底した自由主義者(リバタリアン)だった。『将来の日本』は、論壇で注目され郷里熊本から上京するきっかけとなった出世作。
アダム・スミス、リチャード・コブデン、ジョン・ブライト、ハーバート・スペンサーらの自由主義思想を自家薬籠中の物とし、軍事力に物を言わせる「武備主義」から平和な市場経済を基盤とする「生産主義」への転換を理路整然と説いた本書を上梓したとき、まだ23歳だったというから驚く。
日清戦争後の三国干渉をきっかけに、蘇峰は強硬な国家主義者へと転じていった。それでも、『将来の日本』の価値は減じない。国際情勢の不安定化をもたらす軍事的覇権主義や、市場経済を窒息させ財政危機を招く福祉国家の誤りが内外で明らかになりつつある今こそ、読まれるべき書といえる。
<抜粋とコメント>
"かの常備軍はもとより防御の精神より設けたるものなりといえども、敵を防ぐの刀剣は一転して敵を攻むるの刀剣たるがごとく、また一変して攻略の精神となすを得るものなり。"
# 防衛を目的とした軍も、たやすく侵略に転用されうる。
"英国…をして海上の王たらしむるゆえんのものは海軍あるがためにあらず。商船あるがためなり。"
# 覇権国の力の源泉は軍備でなく経済。経済が衰えれば軍備は保てない。
"それ貿易の主義は平和の主義なり。しからばすなわち富のますます進歩するに従い平和主義のいよいよ進歩するはあにまたうべならずや。"
# 貿易は国境を超えた協力関係を築く。それを壊し国際対立を深めるのは政治。
"かの武備の社会なるものは必ずその武士をしてその主人をして驕奢に導くものなり。文弱に導くものなり。なんとなれば彼らは自家の労力によりて生活するものにあらざればなり。"
# 武士も人の子、税という他人の金を大切にはしない。
"それいかに国権を拡張し、外国を侵掠したりとて一己人民の権利をば蹂躙し去らば国家の目的いずくにある。"
# 政府の建前は「国家は個人を守るために存在する」。本音は「国家を守るために個人は存在する」。
*アマゾンレビューにも投稿。
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