国債と借入金、政府短期証券を合計した「国の借金」が2023年6月末時点で1276兆円に達し、過去最大を更新した。新型コロナウイルス対策や物価高対応の財政支出を賄うための債務の膨張が続く。
「国の借金」という言葉を使うと、「国の借金は負担ではない。なぜなら国民自身が貸しているからだ。政府の負債は国民の資産だ」と反発する人がいる。おめでたい話だ。もし受け取る利子や元本の価値が減らないのなら、優良資産を保有していると喜んでいいかもしれない。しかし実際には、日銀が国債残高のほぼ半分を買い入れるために新たな円を発行しているから、円の価値が薄まり、円で受け取る国債の利子や元本の価値も薄まる。とても優良資産とはいえない。
日本経済新聞が伝えるように、2022年度の税収は71兆円と3年連続で過去最高を更新した。ところが新型コロナ対策や物価高対策など歳出の拡大が税収の伸びを上回り、借金が膨らむ構図が定着している。税収不足を埋め合わせるために発行する国債を「赤字国債」という。
じつは赤字国債は、法律で発行を禁止されている。第二次世界大戦時の野放図な国債発行が軍備拡張と戦後の激しいインフレを招いたとの反省から、戦後、政府が安易に国債を増発しないよう、財政法第4条第1項で国債発行を原則禁止し、同項但書でインフラ整備の財源にあてる「建設国債」の発行のみを認める。つまり財政法上、国債は原則発行を認められておらず、とりわけ赤字国債は厳しく禁止されている。
もちろんこれは建前にすぎず、実際には石油ショックによる景気低迷で税収が大幅に落ち込んだ1975年以降、特例法の制定によって、赤字国債はほぼ毎年発行されてきた。赤字国債は特例国債とも呼ばれるが、今では「恒例国債」といいたくなるくらい、発行が当たり前になっている。財政規律は失われたも同然だ。
このまま国債残高の野放図な膨張と事実上の日銀引き受けが続けば、遠くない将来、限界を迎えるだろう。対策として、野党の国民民主党は、日銀保有国債の一部を償還期限のない永久国債にするよう提案している。これにより、政府債務の一部を帳消しにできるという。
しかし、かりに一時的に債務が帳消しになったように見えても、関東学院大学教授の島澤諭氏が指摘するように、歳出・歳入構造に変化がなければ、いずれまた政府債務が積み上がるのは確実であり、根本的な解決策にはなりえない。「結局、財政健全化に奇策はなく、歳出削減によるスリム化で最適な政府規模を実現」(島澤氏)するしかない。
だが今のように赤字国債を事実上、出し放題の状態では、とても歳出削減などおぼつかない。財政法の原則どおり、建設国債を含めすべての国債発行を禁止したいところだが、少なくとも赤字国債はきっぱり廃止すべきだ。国債の新規発行額のうち赤字国債は約8割を占めるから、国債発行の大半がなくなる。
赤字国債をなくすのは無理だというなら、いっそのこと、こうしてはどうだろうか。財政法を根本から見直し、税収の不足分は日銀が円を発行し、直接政府に渡すようにするのだ。日銀が国債を買い取るワンクッションを省くだけだから、お金のやり取りは今と実質変わらない。けれども、このやり方にはメリットがある。日銀が財政ファイナンス(財政赤字の穴埋め)を行っているという不都合な事実が、誰の目にも明らかになることだ。
国債という制度のよくない点の一つは、日銀が政府の打ち出の小槌として奉仕する姿がわかりにくくなり、カモフラージュされてしまうことだ。税不足をせっせと穴埋めする日銀の役割が誰にでもわかるようになれば、その行為によって円の価値が薄まり、物価高を招く事実を理解しやすくなる。それは日銀を縮小・廃止し、インフレ税(通貨価値の希薄化)という不透明な税をなくす第一歩になるだろう。
<参考資料>
- What Mises Would Say About Austria's New 70-year Bond | Mises Wire [LINK]
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