2023-09-12

原発、官民癒着が諸悪の根源

本来の資本主義が政府の介入を許さない、自由放任の経済体制だとすれば、日本の原子力産業は資本主義ではない。政府と企業が利権で結びついた「縁故主義」の典型である。「官民癒着」と言い換えることもできる。原発の問題の大半は、この官民癒着に発している。


NHKニュースデスクの山崎淑行氏は、情報量豊かな共著『エネルギー危機と原発回帰』で、「原子力業界の特異な成り立ち」を指摘する。すなわち「国策民営」という体制だ。核燃料サイクルの政策は国策であり、電力会社をはじめ原発の事業に関わる民間企業、自治体なども「すべてはこれに沿って動いている」。

国策民営は国の力によって、普通の民間企業にはない特権が認められる。たとえば「総括原価方式」だ。今でこそ電力市場の自由化が進み、事情が変わっている部分もあるが、原材料費や人件費などのコストを必ず電気料金で吸収できるような方法が認められてきた。売電エリアが電力会社ごとに決まっている、いわゆる地域独占的な市場も特徴だ。

さらに重要な特徴は、関係先が膨大なことであり、そこには民間企業だけでなく、政府、与党、野党、自治体といった政治関係者のほか、経済産業省、文部科学省、原子力規制庁、環境省、内閣府など官庁も含まれる。

山崎氏は「多数のプレーヤーが関わっているということは、逆に言うと責任の所在をあいまいにしやすい環境」と述べる。この指摘は必ずしも正確ではない。自動車や電機といった普通の民間産業も下請けなど多数のプレーヤーが関わっているが、無責任体制に陥ってはいない。もしそうなれば、厳しい競争でたちまち落伍してしまうだろう。

原子力産業で責任の所在があいまいになりやすいのは、多数のプレーヤーが関わっているからではなく、政府が関わっているからだ。政治家や官僚は職務上、よほどの落ち度がない限り、いやあったとしても、民間企業のようにその結果が収入減やリストラ、経営責任などの形で身に降りかかることがない。東京電力をはじめとする電力会社も政府から特権を与えられ、ほとんど役所と化している。

福島原発事故を検証した民間の独立検証委員会(民間事故調)は2012年の報告書で、国策民営の問題点に触れ、「安全性向上に対する国の責任が不明瞭となり、実際に事故が起こった際の責任の所在があいまいになり、事故への対応が混乱するといった状況がみられた」と指摘している。

福島第一原発の廃炉に向けた今回の処理水問題がこじれた背景にも、国策民営の無責任体制がある。原子力規制委員会の田中俊一委員長(当時)は2017年、海洋放出をめぐり、「東電の主体性が見えない」と同社を批判した。しかし評論家の池田信夫氏によれば、「今の東電は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構から出資を受ける政府の子会社のようなもの」であり、「半国営」の東電の主体性は、すでに失われている。東電の経営と廃炉を切り離し、廃炉について意思決定を行い責任を負う「主体」を明確にすることが必要だと、池田氏は主張する

経営主体と責任の明確化は必要だ。しかしその方法として、池田氏や他の論者の唱えるような、東電の一部または全部を国有化するやり方はよくない。国有化とは税金による尻ぬぐいであり、モラルハザード(自律の喪失)を生み、将来の事故再発を誘発しかねない。

なすべきことは国有化ではない。その逆に、電力産業と政府を完全に切り離し、諸悪の根源である官民癒着を断つことだ。東電は国の支援を失い、経営破綻が避けられないだろう。破綻した東電は、純粋な民間企業となった他の電力会社が買収するかもしれないし、規制撤廃により異業種が参入するかもしれない。

損害賠償や廃炉のコストは、国と東電で責任を按分したうえで、国の責任分については増税ではなく、国有資産の売却でまなかわせよう。もちろん電力業界への天下りは禁止だ。

廃炉は、東電の今の計画のようにデブリ(溶融燃料)をわざわざ取り出せば8兆円かかるとされるが、チェルノブイリ原発のように原子炉建屋全体をコンクリート製の構造物「石棺」で封じ込める方法なら、それでも小さな額ではないが、1兆円くらいで済む

原発は、事故時に自然停止と自然冷却が自律的に作動する、安全性の高い次世代原発が登場している。完全民営化でイノベーションが加速すれば、賠償や廃炉のコストをまかなう以上に稼ぐチャンスが広がるだろう。

使用済み核燃料棒以外の「核のごみ」は放射線量が小さく、実用化も可能だ。ジャーナリストの吉野実氏によれば、除染土の中のセシウムは植物に取り込まれる可能性がきわめて低いとのデータが積み上がりつつあり、ミニトマトなど農作物を栽培できる(『「廃炉」という幻想』)。元電力中央研究所名誉特別顧問の服部禎男氏は「放射性廃棄物を薄めて道路に敷き詰め、軽い放射線が出るようにすれば、みんなが健康になるでしょう。まさにラドン温泉の発想です」(『遺言』)と提案する。

道に核のごみを敷き詰めるとはとんでもない暴論に聞こえるかもしれないが、人々が放射線に対する過剰な恐怖心から解かれれば、冷静に検討できるだろう。原発の官民癒着を断ち、自由なイノベーションを可能にすることは、そのための第一歩だ。

<参考資料>
  • 水野倫之・山崎淑行『徹底解説 エネルギー危機と原発回帰』NHK出版新書、2023年
  • 福島原発事故独立検証委員会『調査・検証報告書』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2012年
  • 吉野実『「廃炉」という幻想 福島第一原発、本当の物語』光文社新書、2022年
  • 服部禎男『遺言 私が見た原子力と放射能の真実』かざひの文庫、2017年

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