2022-09-16

個人主義と文明

経済学者、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス
(1958年)

西洋の社会哲学の特徴は、個人主義である。それは個人が国家という強制と抑圧の社会装置による干渉に縛られることなく、自由に考え、選択し、行動することができる領域の創造を目指すものである。西洋文明の精神的、物質的な達成は、すべてこの自由の思想の営為の結果であった。

自由の思想と、個人主義・資本主義の信条、その経済問題への応用は、弁明や宣伝を必要としない。その成果は自ずから明らかである。

資本主義と私有財産制の正しさは、他の事情とともに、その比類ない生産効率の高さによっても証明される。資本主義での企業活動はこれほど効率が高いからこそ、急増する人口を絶えず向上する生活水準で支えることができる。

その結果、大衆はしだいに豊かになり、それによって生み出される社会環境では、並外れた才能のある個人が、自分が与えることのできるすべてを他の市民に自由に与えることができる。私有財産と小さな政府からなる社会制度だけが、自分らしく生きる能力をもつすべての人々を野蛮から解き放つことができる。

大きくて速い自動車、セントラルヒーティング、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、テレビを備えた家よりも、人類にとって必要なものがあると考え、資本主義の物質的な成果をけなすのは、安上がりな気晴らしだ。たしかに、もっと高尚な趣味はある。しかし、それが高尚なのは、うわべの努力では到達できず、個人の決意と努力を必要とするからだろう。

資本主義をこのように非難する人々の見方は、かなり粗野かつ唯物論的で、政府によって、あるいは生産活動の見直しによって道徳的・精神的文化を築くことができると考えている。外的要因によって達成できるのは、個人が自己の完成と啓発のために働く機会を与える環境と能力をもたらすことである。

大衆がギリシャ悲劇の上演よりボクシングの試合を、ベートーヴェンの交響曲よりジャズ音楽を、詩よりマンガを好むのは、資本主義のせいではない。しかし資本主義以前には、世界の大半で高尚な芸術をごく少数の人々にしか提供できないのに対し、資本主義が多くの人々にそれらを楽しむ便利な機会を与えているのは確かである。

資本主義をどのような角度から見ても、古き良き時代といわれるものが過ぎ去ったことを嘆く理由はない。ナチスドイツであれソ連であれ、全体主義のユートピアに憧れることは、正しいとはいえない。

今夜、モンペルラン・ソサエティー(経済学者ハイエク、ミーゼス、レプケらによって1947年に創設された自由主義者の団体)の第9回総会を開催する。この種の会合で、同時代の大多数の人々や政府と反対の意見を述べることは、西洋文明の最も尊い特徴である自由の風土においてのみ可能であり、それをこの機会に思い出すのはふさわしいことだ。反対意見を表明するこの権利が決して消え去らないよう願おう。

(次より抄訳)
Individualism and Civilization | Mises Wire [LINK]

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