2023-12-28

メディアの表現、パレスチナの苦しみを矮小化

ミドルイースト・アイ
(2023年12月25日)

世界的な出来事を報道する場合、言葉の使い方や用語の選択は重要な意味を持つ。言葉には、意見を動かしたり変えたり、イメージを暗示したりほのめかしたりする力があり、時には起きていることの程度を軽く見せることもある。
イスラエルとパレスチナの関係に関しては特にそうであり、活動家や人権運動家は、言葉の選択や受動態の使用について、報道機関にたびたび苦言を呈している。

10月7日にパレスチナ自治区ガザで新たに戦闘が始まって以来、さまざまな報道機関、解説者、記者が報道で使用する用語に、注目が集まっている。

米在住の言語学者でジャーナリストのアブドゥルカダー・アサド氏は、イスラエルのガザ攻撃に関する現在の報道について、言語は意味や意見を歪めるために操作することができるという。

「言語は戦場の外では最も強力な道具であり、西側メディアはそれを知っていて、イスラエルに有利になるようにうまく使っている」とアサド氏はミドルイースト・アイに語った。

同氏によれば、語彙の選択は、ニュースやその他のメディア報道の読者や視聴者に心理的、感情的な影響を与え、その人たちの意見に影響を与える可能性があるという。

「西側メディアがイスラエル占領軍によるガザへの戦争について報道する際、見出しや冒頭の段落を『フレーミング』するのは、意図的に意見を揺さぶり、ガザとその住民全体が『武装勢力』であるという認識を定着させるためだ。こうして砲撃と殺害が正当化される」という。

ガザに対する戦争は、10月7日にハマス主導でイスラエルが攻撃され、約1200人が死亡した後に始まった。

これに対し、イスラエル軍はそれ以来、攻撃で2万人以上のパレスチナ人を殺害してきた。その過程で、住居の建物、礼拝所、学校は空爆によって破壊され、イスラエルは10月9日以来、包囲された飛び地であるガザへの燃料、水、食料、電気の供給をすべて遮断している。

アサド氏によれば、英語学でいうところの「フレーミング」とは、意思決定に影響を与えるために特定の情報を提示する方法を指す。

例えば、12月20日付のウォールストリート・ジャーナル紙の記事だ。「ハマス、イスラエルとの戦争終結に向けた計画を開始」という見出しである。この見出しはその後編集された。

「この見出しは、ハマスがイスラエルに対して『戦争』を始めたという概念を伝えるために、ウォールストリート・ジャーナル紙によって強力にフレーミングされている」とアサド氏はいう。

同氏はまた、この見出しは「言葉の偏見」の一例だともいう。

「これはハマスがイスラエルとの戦争を始め、それを終わらせるつもりだと読者に信じ込ませるためのものだ」

これはイスラエルを戦争の受動的な犠牲者として見せ、現在2カ月以上続いている不当な反撃を伝えていないため、問題があるという。

パレスチナ人の人間性を奪う


主流メディアの報道のもう一つの問題は、受動態の使い方だと言語学者らはいう。

エジプトを拠点とする作家で言語学者のララ・ギブソン氏は、受動態はしばしばパレスチナ人の犠牲者の人間性を奪うという。

「西側の報道機関では、パレスチナ人が受動態で描写され、被害者の自主性を奪うことで人間性を奪っているのを何度も目にしてきた。同時に、イスラエルは一般的に能動態で記述され、西側の読者にイスラエルの言い分を支持し、その行動を正当化することができると思わせる」。ギブソン氏はミドルイースト・アイに語った。

アサド氏も同意見で、パレスチナの苦しみを軽視するだけでなく、イスラエルの犯罪を軽視することにもなりかねないという。

西側メディアは意図して「婉曲表現」を使い、イスラエルの戦争犯罪行為を表す厳しい言葉の真実を覆い隠している。

「西側メディアが受動態を使う際、情報を完全なものにするために必要な『誰が』『誰に』『何を』したという原則をわざと無視する」

「メディアは受動態を使って真実から逃れ、イスラエルの戦争犯罪を疑わしく見せている」

アサド氏はロイター通信の一例を挙げ、10月13日に同通信のフォトジャーナリスト、イッサム・アブダラ氏が殺害された事件を報じた際、「イスラエル軍を無罪放免にした」という。

ロイターの見出しはこうだ。「ロイターの映像カメラマン、イッサム・アブダラ氏がレバノン南部で勤務中に殺害された」

「こうすれば、読者は誰がイッサムさんを殺したのかわからないし、もちろん、イスラエル軍がジャーナリストを殺したという事実を隠蔽するのに最も適している。この見出しを見た読者は、ジャーナリストが殺されたという事実を『記憶』するが、それをやった犯人を記憶することはない」とアサド氏はいう。

あいまいな言葉 


今回の報道では、イスラエル軍とハマスが同列であることをほのめかしたり、あいまいな表現を使って責任をなすりつけるような言葉遣いが問題視されている。

「ガザに対する壊滅的な攻撃については、いくつかの大手メディアが意図してあいまいな表現を使っているが、それとは対照的に、10月7日のイスラエルに対する攻撃については、信じられないほどはっきりとした描写で、暗にイスラエルの大義を支持している」とギブソン氏はいう。

「『戦争』といった用語は、イスラエルによる大量虐殺ではなく、対等な争いをほのめかしている」と同氏はいう。

オックスフォード・ランゲージズによる戦争の定義は、「異なる国または国内の異なる集団間の武力紛争状態」である。 

米ニュースサイト、アクシオスの今年初めの報道によれば、イスラエルは年間200億ドルを超える軍事予算があり、米国の最新鋭の軍備を利用できる。イスラエルはまた、領土周辺の空と海の大部分を支配している。

イスラエルは「ハマス排除」のためにガザにいると主張している。しかし、兵士たちは無誘導爆弾、無人爆撃機による空爆、ブルドーザーなどを使って民間人を標的にしている。

一方、ハマスの武装組織であるカッサム旅団は、ロケット弾、狙撃手、自家製爆薬を使ったゲリラ戦法に頼っている。

したがって、「戦争」という言葉を使うと、カッサム旅団もイスラエルも同じような力を持ち、ガザは包囲された飛び地ではなく国であることを意味し、起きている暴力の本質をあいまいにしてしまう、とギブソン氏は主張する。

「『ハマスの武装勢力』という言葉は、イスラエルがパレスチナ市民の虐殺を正当化するために自由に使っていることから、イスラエルによってさらに武器化されている」と同氏はいう。

また、一部の報道機関は「ガザの武装勢力」という言葉を使うことにしているが、これは包囲された飛び地の住民と攻撃を行っている人々を混同させ、そこにいる市民と否定的な関連付けをする危険性がある。

アサド氏は、これは婉曲表現になりうると考えている。

「これは不快な話題を和らげる言葉や表現だ。比喩的な言葉を使うことで、ある状況に正面から向き合うことなく、言及するのだ」と同氏は言う。

広く使われている例としては、「殺される」の代わりに「死ぬ」という言葉を使うことだという。これは12月19日の英BBCの見出しにあった。

不正確な用語


今回の報道では、不正確な用語や言い回しが使われていると指摘する声もある。

そのひとつが、死傷者に関するさまざまな報告を引用する際に、パレスチナ保健省を「ハマス保健省」と呼んでいることだ。

この呼称は正確ではない。ハマス組織は同省の文書作成には関与していないし、パレスチナ保健省はカイラ保健相を含め、占領下のヨルダン川西岸の都市ラマラを拠点に報告書を監督する、他の当局者と緊密に連携しているからだ。

ハマスによるものということで、バイデン米大統領を含む一部の人々は、同省が発表する数字の妥当性や信頼性を疑問視している。

アメリカ・イスラム関係評議会は、バイデン大統領がこの数字は信用できないと発言したことを受け、「衝撃的で非人間的な発言」に対して謝罪するよう求めた。

パレスチナ保健省は、公表文書に関し信頼できることが証明されている。イスラエルがアルアハリ・アラブ病院を爆撃した後、殺害された人々のフルネームと詳細を記載した、殺害された人の数が疑問視された。

文書に記載された情報は、各人の識別情報を含む内訳を示していた。

報告書には、7028人の名前と性別、年齢、ID番号が記載されていた。

多くの専門家は、パレスチナ保健省が提供した数字は、その入手方法、情報源、過去の発表の正確さから、信頼できると考えている。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのイスラエル・パレスチナ担当ディレクター、オマール・シャキール氏はワシントン・ポスト紙に対し、同省の数字は「一般的に信頼できることが証明されている」と語った。
 
「特定の攻撃に関する数字を独自に検証したことがあるが、大きな食い違いがあったことはない」と同氏はつけ加えた。

War on Gaza: How language used by media outlets downplays Palestinian suffering | Middle East Eye [LINK]

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