2019年3月14日木曜日

渡辺靖『リバタリアニズム』


本来の自由主義

リバタリアニズムを代表する政治家として米大統領選にも出馬した経験のある元米下院議員ロン・ポール氏が現役時代の2012年、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン教授と、経済ニューステレビのブルームバーグで討論したことがある(『ロン・ポールの連邦準備銀行を廃止せよ』に収録)。

中央銀行によるインフレ政策を支持するクルーグマン教授は、金本位制の復活を唱えるポール氏に対し、百年前の世界に戻るようなものだと批判。するとポール氏はあざやかにこう切り返す。「教授の主張は一千年、二千年前に戻りたいという考えではありませんか? かつてのローマやギリシャのような国家が、自分たちの通貨を減価させたように」

ポール氏のこの発言から二つのことがわかる。一つは、あたかも最新の経済理論に基づくかのように思い込まされているインフレ政策は、はるか古代から国家が人々の財産を収奪するために駆使してきた手口にすぎないこと。もう一つは、金本位制を支えるリバタリアニズムの考えはわずか百年前まで、世界における経済政策の常識であり、過激な思想でも何でもなかったことだ。

リバタリアニズムは「自由至上主義」と訳されることが多く、本書の副題もその訳語を踏襲している。この訳語は過激な思想であるかのような誤解を与えてしまう。リバタリアニズムには国家の廃絶を唱えるラディカルな無政府資本主義もたしかに含まれるが、本書が詳しく解説するように、それがすべてではない。国家に一定の役割を認める考えも含まれる。米国では自由主義を意味する「リベラル」という言葉が左翼に乗っ取られてしまったので仕方ないが、日本では「自由主義」をそのまま使えばいい。

副題にケチをつけてしまったけれども、本書の内容はすこぶる有益である。米国を中心とした多くの活動家や研究者へのインタビューも興味深いが、見逃せないのは歴史的な考察だ。リバタリアニズムの源流をハイエクやフリードマンら現代の経済学者だとする解説をよく目にするが、実際はジョン・ロックやモンテスキューら17〜18世紀の啓蒙主義時代の欧州の政治哲学にまで遡る。

その思想は米国に受け継がれる。初代大統領ワシントンや第3代大統領ジェファーソンは、諸外国との貿易を推奨する一方で、軍事同盟など政治的なつながりを拒絶した。前述のロン・ポール氏は共和党内における反イラク戦争の急先鋒で、在日米軍を含む海外駐留米軍の撤退を訴えたことで知られるが、この姿勢はワシントンら建国の父たちの理念に「驚くほど忠実」だと著者は指摘する。

リバタリアニズムは過激な思想ではない。この百年の間に世界が自由を否定する方向に傾いてしまったために、過激に見えるだけだ。

「自由」をその名に冠する政党が戦後ほぼ一貫して政権与党であるにもかかわらず、福祉国家や軍事同盟に舵を切り続けてきた日本。野党にも本来の自由主義の復権をめざす政治勢力は存在しないに等しい。先行きに展望の見えない現状を変えたいのであれば、リバタリアニズムがそのカギを握るのは間違いない。

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