2015年5月24日日曜日

浅ましき排外主義

経済について的外れなことを書く論者の多くは、経済の競争がまるで暴力的な争いや戦争と同じようなものだと思い込んでいる。作家・橋本治の本、『その未来はどうなの?』(集英社新書)に、その典型例がある。

橋本は環太平洋経済連携協定(TPP)加入について論じた第七章で、「輸出で物を売りつけるということは、相手国の競合する業種に攻撃を仕掛けるということ」と書く。まず「物を売りつける」という表現がおかしい。暴力をちらつかせた押し売りででもない限り、売買は売り手、買い手双方の自発的な合意に基づいておこなわれるものである。

かりに貿易自由化が外国政府の圧力によるものだとしても、日本人消費者に外国製品を無理やり買わせることはできない。もし日本で外国製品が売れたとしたら、それは日本人がその製品を欲しがったからであり、売った側を非難するような表現は不適切である。

外国業者が日本に製品を輸出すると、国内業者に「攻撃を仕掛ける」ことになるという表現もおかしい。国内業者が外国業者との競争に敗れたとしたら、その結果をもたらしたのは外国製品を選んだ消費者であり、外国業者をあたかも侵略者のように書くのは不適切である。

もしそのような表現が正当ならば、たとえば橋本が書いた本が多く売れ、他の作家の本がそれほど売れなかった場合も、同様に表現してよいということになる。この『その未来はどうなの?』は発売翌月、インターネット書店アマゾンの「イデオロギー」という分類で百冊中一位だったから、さしづめ橋本は他の九十九冊の著者を殱滅せんばかりの勢いで、大々的に「攻撃を仕掛け」たわけである。好戦的なことよ。

また橋本は第八章で「相手に勝つためにはぎりぎりまで経費を削減する」企業の行動を槍玉に挙げ、「儲かるのは、経営者と投資家くらい」と述べる。しかし企業が経費を削る最大の理由は、少しでも製品の値段を安くし、消費者が買いやすくするためである。だから経営者と投資家が儲かるためには、まず消費者が得をしなければならない。経営者と投資家だけが儲かるなどというのは嘘である。


企業の目的は軍隊と違い、「敵」を打ち倒すことではない。消費者により良く奉仕することである。競争相手が「敗れる」のは結果にすぎない。ところが多くの人は経済競争を戦争と混同し、外国企業を「鬼畜米英」のごとく憎悪する。

それは人間心理に根強い排外主義の現れである。日頃は排外主義やその近代的発露であるナショナリズムに批判的な言論人までが、経済が絡むとたちまち本性を現すのは、何とも浅ましい。
 (2012年9月)

0 件のコメント:

コメントを投稿