2023-01-31

今回の戦争は違う

元米陸軍大佐、ダグラス・マクレガー
(2023年1月26日)

ウクライナでロシアの存亡にかかわる軍事的脅威を突きつけることを決めるまで、米政府は軍事力の行使を、ベトナムからイラクに至る途上国の弱い相手との戦争で、米軍や米領土に存亡の危機をもたらさない、米国が負けても大丈夫な紛争に限定していた。今回のロシアとの代理戦争は、それとは異なる。
ロシアは米内外の期待に反し、内部崩壊もしなければ、西側諸国による政権交代の要求にも屈しなかった。米国はロシアの社会的な結束力、潜在的な軍事力、欧米の経済制裁に対する相対的な免疫力を過小評価していたのである。

その結果、米国の対ロシア代理戦争は失敗しつつある。オースティン米国防長官は1月20日、ドイツのラムシュタイン空軍基地で同盟国に対し、ウクライナ情勢について珍しく率直に語り、「我々には今、春までの間にチャンスがある」と述べ、「それは長い時間ではない」と認めている。

ゼレンスキー・ウクライナ大統領の顧問で、最近クビになった非公式の「広報官」アレクセイ・アレストビッチ氏は、より直接的だった。同氏は、ウクライナがロシアとの戦争に勝てるかどうか、そしてウクライナが戦争を生き残れるかどうかさえも疑問視している。ウクライナの損失は、少なくとも15万人(3万5000人の行方不明者と推定死亡者を含む)で、ウクライナ軍は壊滅的に弱体化し、脆弱な防衛態勢をとっているため、今後数週間のうちにロシア軍の攻撃の圧力で粉々になりそうである。

ウクライナの物資の損失も同様に深刻である。戦車や装甲歩兵戦闘車、大砲システム、防空施設、あらゆる口径の武器など、数千台が失われた。この中には、ジャベリンミサイルの7年分の生産量も含まれている。ロシアの砲兵システムは、ロケット弾、ミサイル、ドローン、硬質弾薬などあらゆる種類の弾丸を1日に6万発近く発射できるため、ウクライナ軍は毎日6000発の弾丸でロシアの攻撃に応えなければならず、大変な負担となっている。ウクライナに新しい防衛施設や弾薬を提供することは、米政府の仲間内を豊かにするかもしれないが、この状況を変えることはできない。

予想どおり、西側諸国が一丸となってウクライナの敗北を食い止められなかったことに、米政府のいら立ちは募るばかりである。実際、そのいら立ちは急速に自暴自棄になりつつある。

ブッシュ政権の元閣僚で、米国が中東とアフガニスタンで永久に紛争を続けることを熱心に支持しているマイケル・ルービン氏は、防衛ニュースサイト「1945」の記事で不満を爆発させた。「もし世界がロシアを単一国家として存続させ、プーチン主義を存続させるならば、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するかどうかにかかわらず、ウクライナも独自の核抑止力を維持できるようにすべきだ」と主張している。表面上は無謀な提案だが、この発言は、ウクライナの敗北は避けられないというワシントン界隈の不安を正確に反映している。

NATOの加盟国は、ロシアを徹底して弱体化させるという米政府の聖戦の下で決して強く団結しているわけではない。ハンガリーとクロアチアの両政府は単に、欧州の大衆がロシアとの戦争に反対し、予見可能なウクライナの敗北を先送りしようとする米政府を支持していないことを認めているにすぎない。

ドイツでは、ウクライナ国民に同情はしても、ウクライナのためにロシアとの全面戦争を支持することはなかった。今ドイツ人は、ドイツ軍の壊滅的な状態にも不安を感じている。

NATO軍事委員会の元委員長であるハラルド・クヤート元ドイツ空軍大将(4つ星相当)は、数十年にわたりドイツの政治指導者が同国の武装解除を盛んに進め、ドイツから欧州における権威や信用を奪ったと指摘。米国によるドイツとロシアの衝突を許していると厳しく非難している。ドイツ政府やメディアはこの発言を抑え込んだが、ドイツの有権者に強く響いている。

ロシアとの代理戦争で勝利を得ようとするあまり、米国は歴史の現実を無視している。13世紀以降、ウクライナはリトアニア、ポーランド、スウェーデン、オーストリア、ロシアなど、大きく強力な国家権力に支配された地域であった。

第一次世界大戦後、ポーランドが共産主義ロシアを弱体化させるために考えたのが、ウクライナの独立国家を目指すという頓挫した計画であった。今日、ロシアは共産主義ではないし、1920年にトロツキー、レーニン、スターリンとその追随者が行ったようなポーランドの破壊を目指してはいない。

では、米国はロシアに対する代理戦争でどこに向かおうとしているのだろうか。この質問には答えが必要である。

1941年12月7日の日曜日、アベレル・ハリマン米大使は、ウィンストン・チャーチル英首相とともにチャーチル宅で夕食をとっていた。そのとき、BBCは日本軍が真珠湾の米国海軍基地を攻撃したというニュースを放送した。ハリマンは目に見えてショックを受けた。ハリマンはただ、「日本軍が真珠湾を攻撃した」という言葉を繰り返した。

ハリマンが驚く必要はなかった。ルーズベルト政権は1941年夏の石油禁輸を頂点とする一連の敵対的な政策決定によって、日本が太平洋の米軍を攻撃するよう、事実上あらゆる手段を講じていたのだ。

第二次世界大戦では、米国はタイミングと同盟国に恵まれていた。しかし今回は違う。米国とNATOの同盟国は、ロシアに対する本格的な戦争、ロシア連邦の荒廃と解体、ロシアとウクライナにおける何百万人もの生命の破壊を提唱している。

米政府は感情的である。思考せず、経験主義や真実にあからさまに敵対している。米国民も同盟国も、地域的にも世界的にも、ロシアと全面戦争をする用意はない。ようするに、もしロシアと米国の間で戦争が起こっても、米国人は驚くべきではないということだ。バイデン政権とワシントンの超党派の支持者は、それを実現するために可能な限りのことをしている。

(次を全訳)
This Time It’s Different - The American Conservative [LINK]

2023-01-30

言論の封殺、帝国への転落

内部告発者、ダニエル・エルズバーグ
(2023年1月22日)

ダニエル・エルズバーグです。民主主義、共和制を掲げる米政府の礎石の一つが憲法修正第1条です。この条文は、議会や州によって言論や報道の自由、宗教、集会の自由を制限するいかなる法律も禁じており、ほとんどの国が制定している英国のような公務機密法の成立を阻みました。
他のほとんどの国には、憲法修正第1条によって報道が自由として保護されると明記した法律がありません。行政府が保護する情報の開示をすべて犯罪とする英国式の公務機密法では、国民や報道機関、議会、国会への情報開示でさえも犯罪とされ、懲役刑の対象となります。

米国には憲法修正第1条のおかげで、このような法律は存在しません。実際、2000年に議会でうっかり可決されそうになりましたが、クリントン大統領によって、明らかに修正第1条に違反するとして拒否権が発動されたのです。

その際、クリントン大統領はその意見の中で、半世紀前のペンタゴン・ペーパーズ裁判における意見を引用しました。ペンタゴン・ペーパーズ事件とは、当時私が政府の請負業者として所持を認められていた情報を公開したことに端を発します。それはベトナムにおける米国の意思決定の経緯に関する、7000ページにも及ぶ最高機密文書でした。4人の大統領によって嘘が繰り返され、事実上、憲法や条約に違反し、とくに戦争の費用について議会を欺いていたことが明らかになりました。私は115年の禁固刑に直面しましたが、それは米国にない公務機密法に違反したからではありません。

これはニクソン大統領による試みで、スパイ活動法を利用したものです。スパイ活動法は、とくに戦時中、外国政府にひそかに情報を提供する米国のスパイを対象としたものでした。ニクソン氏のように使われたことはありませんでした。私の場合、公務機密法の代わりに、一般への情報公開を理由に、私の意図を示すことなく、単に公開は違反としたのです。

これは私に対する政府の犯罪性を理由に却下されました。現在〔内部告発サイト、ウィキリークス創設者〕ジュリアン・アサンジ氏が直面しているように、英国から米国に身柄を引き渡させようとする試みの根拠としてスパイ活動法を用いることが合憲かどうか、最高裁の判断は一度も出ていません。

何十件もあったのに、判断は出ていないのです。私の事件以来、スパイ活動法はまるで公務機密法のように使われ、事実上、政府が国民に知られたくない情報、それも膨大な量の情報を非公開にするために頼る代物となっています。

しかしアサンジ氏が起訴されるまで、スパイ活動法は、私のように情報を持っていて、それを公開した情報源以外には、公務機密法代わりに使われたことはありませんでした。

アサンジ氏のようなジャーナリストに対して使われたことはなかったのです。もちろんこのような情報公開やリークには、何らかの形でメディアが関与しており、多くの人が関わっています。しかしこれまで一度も起訴されたことはありませんでした。

実は、ジャーナリストや報道機関の行為を議会が犯罪とすることを認めない憲法修正第1条の規定にあからさまに違反して、ジャーナリストに対してスパイ活動法を使おうとするならば、憲法修正第1条は事実上なくなってしまうのです。

米国民が初めて手にしたのが憲法修正第1条だといわれます。我々は独立戦争を戦い、憲法を制定しました。だから憲法修正第1条があるのです。アサンジ氏がいる英国にはありません。英国には公務機密法があり、米国にはありません。

もし米国に公務機密法ができたら、独立戦争の大きな成果をあきらめることになります。つまり、もはや共和国でも民主国家でもないということです。米国は正式に君主国家や帝国となります。あらゆる帝国が必要とするのは、帝国の地位保全に必要な暴力行為を隠蔽するための秘密保持です。それまでの政府とは様変わりになります。

事実、スパイ活動法は英国の公務機密法よりさらに広範囲であり、だからこそ議会、つまり秘密を守りたい議員らは、正式な公務機密法を通すことを諦めたのです。

スパイ活動法が好まれるのは、 この法律の文言のためです。これまでのところ、アサンジ氏まではジャーナリストに対して使われていないし、ジャーナリスト以外に、単に情報を受け取ったり、情報を所管官庁に渡すことなく所有・管理した者に対しても使われていません。しかしそれらにはスパイ活動法の文言が適用されるのです。

この問題に挑戦するために、私は1年前、1958年の台湾海峡危機に関する最高機密文書を公開しました。かなり昔の話ですが、米国は中国大陸から台湾を守るために、核兵器を使用する寸前まで追い込まれました。これは今年、私たちが直面する重要な問題です。

私は長年、所管官庁に情報を渡すことを拒んできた者として、挑戦しました。スパイ活動法の文言が憲法修正第1条を支配し、無効とするのかどうかを初めて法廷で問うたのです。

さらに今年、アサンジ氏の身柄引き渡しに関連して、自分が2010年からずっと、アサンジ氏と同じように起訴されていた事実も明らかにしました。なぜならアサンジ氏が新聞に公開した情報を、私はアサンジ氏が公開する前に持っていたからです。アサンジ氏は、マスコミ向けの予備として、事前に私にそれを伝えてきたのです。

スパイ活動法の文言にそのまま従えば、情報を所有し、権限のある人物に開示せず、情報を保持した者として、私だけでなく、情報を受け取り公表した新聞社(ニューヨーク・タイムズ、ガーディアン、エルパイス、ルモンド)や、実のところ、その世界中の読者すべてが対象となります。

私は事実上、アサンジ氏と同様、必要であれば最高裁まで行ってスパイ活動法の検証に立ち合い、共和国としての地位を回復する用意があります。

私はバイデン大統領に対し、アサンジ氏らとともに私を起訴するか、同氏を引き渡そうとする憲法違反の試みをやめるか(私は引き渡される必要はありませんが)、私たちのどちらかを法廷で起訴するか、いずれかを求めます。大統領が共和国および民主国家としての地位を回復するには、それしかありません。

(次を全訳)
Ellsberg: Losing 1st Amendment Reverses War of Independence [LINK]

2023-01-29

【コラム】ロシアはなぜ侵攻したのか?

木村 貴

朝日新聞デジタルの「そもそも解説」コーナーに、「ロシアはなぜ侵攻したのか? ウクライナ危機の背景」という解説記事(2022年3月23日)がある。親ウクライナ、反ロシアの偏った見方が目立つが、その後の大手メディアの常軌を逸した報道ぶりに比べると、まだしもバランスが取れている。ポイントとなる北大西洋条約機構(NATO)に関する記述を中心に、説明しよう。

How the West Brought War to Ukraine: Understanding How U.S. and NATO Policies Led to Crisis, War, and the Risk of Nuclear Catastrophe (English Edition)

ロシアのウクライナ「侵攻」開始(同年2月24日)から約1カ月後に公開されたこの記事は、ウクライナという国の成り立ちについて説明した後、「ロシアはなぜウクライナを攻撃したのか?」という問いを立てる。この中で、次のように答える。

ロシアは、東西冷戦の時代からの西側諸国の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)が自分たちを敵とみなしてきた、と主張してきました。/ウクライナはかつてロシアを中心とするソ連の構成国でしたが、ソ連が崩壊したことで独立。いまのウクライナのゼレンスキー政権は親欧米で、NATOへの加盟を目指しています。

ここまではとくに問題ない。問題はこの後だ。

ロシアにとって、これはがまんがならない。そのため、いろんな理由をつけてゼレンスキー大統領を何とか武力で排除し、ロシアに従順な国に変えてしまいたいのです。

「がまんがならない」とは、ウェブリオ類語辞典によれば、「堪え難い」「たまったものではない」「シャレにならない」「納得できない」といった意味だ。しかしロシアにとってウクライナのNATO加盟は、そんな生やさしいものではない。プーチン大統領が同年2月24日、攻撃開始を宣言する演説で述べたように、過去約20年にわたりNATOが進めてきた東方への拡大はロシアにとって「根源的な脅威」と受け止めている。もしウクライナが加盟すれば、その脅威が国境まで達することになる。

朝日の記事は続けて、「そのため、いろんな理由をつけてゼレンスキー大統領を何とか武力で排除し、ロシアに従順な国に変えてしまいたいのです」と述べるが、これを読んだ読者がロシアに良い印象をもたないのは確実だ。しかしかりにこの記述が事実だとしても、それによってロシアを一方的に非難するのはフェアではない。西側が同じことをしているからだ。

2014年2月、ウクライナで親露派の指導者を倒し、親米派を据えるクーデター(マイダン革命)が発生した。倒されたのは選挙で選ばれたヤヌコビッチ大統領であり、後釜にはオリガルヒ(新興財閥)出身のポロシェンコ大統領が据えられた。クーデターには米国が関与していた。ウクライナの親露派をそれこそ「武力で排除」し、米国に「従順な国」に変えてしまったわけだ。

朝日の記事は、このクーデターに触れてはいるものの、米国が関与したことには言及がない。そしてあたかもロシアだけが暴力に訴える身勝手な国だという印象を読者に植え付ける。公平な解説だとはいえない。

朝日の記事はNATOについて、「NATOって何? なぜロシアと対立している?」という問いを立てている。これについて、まずこう答える。

ロシアはウクライナへの侵攻を、NATOの脅威に対する自衛措置だとも説明しています。プーチン氏は2月24日の演説で「NATOはロシアを敵と見なしてウクライナを支援している。いつかロシアを攻撃する」と言い切っています。

これは問題ない。この後、西側陣営によって結成されたNATOの成り立ちを述べ、冷戦終結後も存続したことや、1999年以降の加盟国拡大について説明する。さらに「2008年には、ウクライナやジョージアが将来的な加盟国と認められました」と述べている。続いて、次のように記す。

不信を募らせたロシアは「東方拡大しないという約束をNATOが破った」と主張し、ロシアへの直接的な脅威だとして対立姿勢を強めています。プーチン氏には「NATOにだまされた」との怒りがあるとも言われますが、ロシア側が主張する「約束」は文書に残っておらず、欧米側は否定しています。

これは今でもよく議論になる点だ。ロシアは「東方拡大しないという約束をNATOが破った」として西側に対し不信感を募らせ、これに対し西側は、そんな約束は文書に残っていないと否定する。一見、どっちもどっちの水掛け論のようだが、そう考えると本質を見失ってしまう。

この点について、国際安全保障の研究者で医学の専門家でもあるベンジャミン・エイブロー氏がその著書『西側はどのようにウクライナに戦争をもたらしたか』(2022年、未邦訳)で適切な指摘をしている。

エイブロー氏はNATOの東方拡大に関する西側の「約束」について、「正式な条約上の義務がない以上、実際の約束はなされていない、あるいは、約束はなされたが法的拘束力はない、と主張する人もいる。また現実問題として、NATOは今後数年の間にウクライナに加盟を持ちかけるつもりはなく、ウクライナの加盟問題はすべて無意味だとの主張もある」と分析する。そのうえで、「ここで二つの点が重要である」として、次のように論じる。

第一に、NATOの東方拡大が条約上の正式な義務に違反しているかどうかにかかわらず(明らかに違反していない)、欧米がロシアへの保証を無視したことは、プーチン氏らロシア指導者が騙された、恥をかかされた、軽蔑されたと感じたかどうかという問題に直結する。このような欧米の行動は、基本的な不信感をもたらし、その後の欧米の行動がそれをさらに悪化させた。

文書に残されていたかどうか、法的拘束力があるかどうかにかかわらず、ロシアがあると信じた「保証」を西側が守らなかったこと自体、不信感をもたらしたという指摘だ。エイブロー氏は続ける。

第二に、かりに頭の体操として、西側が意図を偽っていなかったと仮定しても、つまり議論のために、保証がなかったと仮定しても、より重要な問題であるNATOと西側の事実上の軍事侵攻に変化はない。

つまり百歩譲って、そもそもNATOが東方拡大しないという「保証」は、たとえ口約束でも存在しなかったと仮定しても、より重要な問題が何か変わるわけではない。重要な問題とは、ロシア国境に迫る「西側の事実上の軍事侵攻」である。エイブロー氏は議論をこう締めくくる。

結局のところ、〔冷戦終結直後の〕1990年から1991年にかけて保証がなされたかどうかは決定的な問題ではない。軍事的な脅威がNATO経由で生じたのか、それともNATOの外でウクライナと欧米諸国との二国間あるいは多国間の行動によって生じたのかも決定的な問題ではない。以前どのような言動があろうと、どのような経路で発生しようと、脅威は脅威なのである。

過去にどんないきさつがあろうと、今そこにある脅威は脅威であり、ロシアとしてはそれに対応せざるをえない。エイブロー氏自身は著書の他の箇所で、ロシアが戦争という手段を選んだことを批判しているが、西側がロシアをそこまで追い詰めた経緯を見逃さず、一冊を費やして詳しく述べている。西側に不利な事実を無視したり隠したりする西側メディアとは大違いだ。

朝日の記事は「NATOが拡大を続けることの是非については、欧米でも議論があります」と一言触れており、それなりにバランスが取れている。しかしそれに続く、「一方で、NATO側に全ての非があるとするロシアの主張にも無理があり」というコメントはしっくりこない。

もちろん、あらゆる外交問題でロシアの主張がすべて正しいとはいえないだろう。しかし、ことNATOの東方拡大に関する限り、ロシアの抗議にもかかわらず、あれこれ理由をつけて一方的に推し進めてきたのはNATO側であり、ロシア側に何か「非」があったとは思えない。朝日の記事からは、ロシアに非のない点、しかもきわめて重要な点について、ロシアにも何か責任があるという印象を受けてしまう。

2023-01-28

NYタイムズという真理省

ライター、エドワード・カーティン
(2023年1月23日)

「〈イングソック〉。〈イングソック〉の聖なる原理。ニュースピークに〈二重思考〉に過去の可変性。」
- ジョージ・オーウェル『1984年』

今日夜明けとともに、凍った地面に小さな雪が散らばる、冷たい灰色の世界を窓から眺めていた。小雪が降り始めたとき、深い悲しみを感じた。1972年のやはり雪の日、リチャード・ニクソン〔米大統領〕が北ベトナムにクリスマス爆撃を行い、100機以上のB52爆撃機が次々とハノイをはじめとする北ベトナムに死と破壊を落としたというニュースで目が覚めたからである。米国が今、ウクライナを経由してロシアに対して行っている戦争のことを考えた。そして米国のベトナム戦争のときのように、手遅れになるまで、気にかける米国人はほとんどいないようだと思った。憂鬱になった。
その直後、ニューヨーク・タイムズ紙の社説、「ウクライナ戦争に残酷な新局面」が目に飛び込んできた。あからさまな嘘を信じようと必死な人だけが笑い転げるような、わかりやすいプロパガンダである。しかし笑いごとではない。ニューヨーク・タイムズは戦争の拡大、ウクライナへの殺傷力の高い兵器提供、核戦争の危険を伴う戦闘の激化を主張しているのだから。つまり、同紙の見出しは残虐性を助長しているから、適切なのである。これには腹が立った。

タイムズの社説は、プーチン大統領はヒトラーのように狂っていると伝えている。「前回の欧州戦争と同様、今回の戦争はほとんど一人の男の狂気だ 」と。ロシアとプーチンは「残酷」であり、民間人を標的にしたミサイル攻撃で「定期的な恐怖」を与え、「必死」であり、プーチンの「妄想」を追求している、「ひどい、役に立たない戦争」をしている、「残虐行為」をしている、「殺人、強姦、略奪」に責任がある、等々である。

一方、「英雄的なウクライナ」は「ロシア軍に繰り返し決定的な勝利を収めている」。ロシアは「10万人をはるかに超える死傷者を兵に出している」と、「信頼できる」情報源である米統合参謀本部議長のマーク・ミリー元帥は言う。このバラ色の報告に付け加えると、ニューヨーク8番街の居心地の良い本社でキーボードを叩くタイムズの論説委員が何も言わないのだから、ウクライナ人は何の犠牲も被っていないのだろう。政府の速記者であるタイムズのいつもの手口でわかるように、米国の戦争を支持するなら、帝国主義の夢を達成するために使われた捨て駒に言及するのは悪いマナーである。それらの勢力によって行われた残虐行為も同様に省かれている。ネオナチ、アゾフ大隊? 彼らもまた、言及されない以上、存在しなかったに違いない。

しかし尊敬する論説委員によれば、これは米国と北大西洋条約機構(NATO)がウクライナ経由で「ロシアから運命と偉大さを奪うために」行った、米国の代理戦争ではないそうだ。ファシズムと堕落した勢力に対するロシアの英雄的な闘いについて誤った物語を作り出した、「クレムリンのプロパガンダ装置」によって支えられている、単なるロシアの侵略なのだ。噴飯物だが、米国とNATOは「第二次世界大戦後の秩序が乱暴に侵害されるのにぞっとした」から、ウクライナを守ることにしたという。「プーチン氏の反応は、ウクライナにこれまで以上の命、資源、残酷さを投げつけるものだった」

タイムズのプロパガンダ委員会によるこの放言のどこにも(そしてここで、少し歴史感覚のある人なら誰でも、このゲームの全体像がわかる)、2014年に米国が仕組んだウクライナのクーデターについて言及されていない。それは起こらなかっただけだ。決して起こらなかった。不作為による魔法。タイムズによれば、米国は、傀儡である「ウォロディミル・ゼレンスキー大統領」が「率いる」ウクライナ政府とともに、完全に無実の当事者である(この4ページにわたるたわごとのどこにも、プーチン大統領の肩書きがないことにも注意。まるで「プーチン氏」は違法の存在で、ゼレンスキーが本物だと言っているかのようだ)。

すべての問題は、「プーチン氏がクリミアを占領し、2014年にウクライナ東部の分離独立紛争をあおった」ときに発している。

米国・NATOが何年も前からロシアの国境近くまで軍隊と武器を移動させていること、ジョージ・W・ブッシュ〔元米大統領〕が対弾道ミサイル条約から米国を脱退させたこと、トランプ〔前米大統領〕が中距離核戦力条約で同じことをしたことには、どこにも触れていない。ブッシュが対弾道ミサイル条約から米国を脱退させ、トランプが中距離核戦力条約から脱退させたこと、米国がポーランドとルーマニアにいわゆる対弾道ミサイル拠点を設置し、核の先制攻撃の権利を主張したこと、ロシアとの約束に反し、NATOの東方拡張に年々多くの国が加わったこと、ウクライナ東部に住む、おもにロシア語を話す1万5000人以上の人々が2022年2月以前の数年間、ウクライナ軍によって殺されていること、ミンスク合意はウクライナに武装化の時間を与える計画の一部であること、米国は国境と統合を尊重するというロシアの要求をすべて拒否したこと、米国・NATOはロシアを軍事基地で囲んでいること、クーデターの後にクリミアで住民投票があったこと、米国が制裁を通じてロシアに経済戦争を何年も行ってきたことなども触れていない。ようするに、ロシアが何十年にもわたって攻撃を受けていると感じていたこと、国家存亡の脅威について交渉してほしいというロシアの訴えに米国が耳を貸さなかったことが、すべての理由なのである。もしすべてが逆で、ロシアがメキシコとカナダに軍隊と武器を置いていたら、米国は強力に対応するだろうということは、天才でなくてもわかる。

ニューヨーク・タイムズの社説は不作為によるプロパガンダであり、自発的な愚かさである。

社説はすべての事実が「間違っている」のだが、それは偶然ではない。同紙は、論説委員の主張は報道部門のものとは別だと言うかもしれないが、その主張は同紙の一面からの毎日の虚偽の連打に呼応するもので、次のようなものである。

  • ウクライナは戦場で勝っている。
  • 「ロシアは戦争がすぐに終わっても数十年の経済停滞と衰退に直面する」
  • 1月14日、ロシアのミサイルがドニプロのマンションを攻撃し、多数の死者を出した。
  • この戦争を止められるのはただ一人、プーチンだけだ。彼が始めたのだから。
  • これまで米国とその同盟国は、「この紛争が全面的な東西戦争に拡大するのを恐れて」ウクライナに重火器を配備することを渋っていた。
  • プーチンが「自分の妄想」を追求しているため、ロシアは絶望している。
  • プーチンは「その権力に真実を語る勇気のある誰からも孤立している」
  • プーチンは2014年、ウクライナの国境を力づくで変えようとし始めた。
  • この11カ月、ウクライナはロシア軍に対して繰り返し決定的な勝利を収めてきた。……戦争は膠着状態にある。
  • ロシア国民は、「偽りの物語を作り出す」クレムリンのプロパガンダ機械に服従している。

これは専門家が愚か者のために書いた意見だ。作家ハロルド・ピンター氏がノーベル賞受賞記念講演で述べたように、嘘の巨大なタペストリーのようなものである。社説の執筆者らが推進する戦争拡大は、その言葉を借りれば、「今回は西側の武器を絶望するロシアに突きつける」ものだ。あたかも米国やNATOがウクライナに米中央情報局(CIA)や特殊部隊を配置せず、武器だけを持っているかのような言い方だし、「今回」とは、米国がこの戦いのためにウクライナの軍隊と武器を構築していた、過去少なくとも9年間はそうではなかったような言い方でもある。

この戦いは今後、米国・NATO側が負けることになるだろう。ロシアは過去も現在も将来も、勝利を収め続けるだろう。

社説に書かれていることは、すべて不誠実だ。単純なプロパガンダである。善玉対悪玉。プーチンはもう一人のヒトラー。善人が勝っている。ベトナム戦争がそうであったように、現実が明らかになり、事実は異なる認めざるをえなくなるまで、これは続くだろう。歴史は繰り返している。

1972年のクリスマスにニクソンとキッシンジャー〔大統領補佐官〕が行った残虐な行為を思い出し、朝から嘆いたのは適切だった。当時も今も、米国が世界を支配しようと不毛な努力を続けるなか、私たちは、企業メディアによってそのボスのために語られる膨大な嘘のタペストリーにさらされている。今絶望しているのはロシアではなく、この荒唐無稽な社説を書いたようなプロパガンディストらである。目を覚ます必要があるのは、プロパガンディストらがいうようなロシア国民ではなく、米国民と、ニューヨーク・タイムズ社が真実の機関であるという神話にいまだにしがみついている人々である。ニューヨーク・タイムズ社は、ニュースピーク、二重思考、過去を変えようとする努力によって、真理省となっている。

ハロルド・ピンター氏に最後の言葉を語ってもらおう。

米国の犯罪は組織的で、絶え間なく、悪質で、無慈悲であるが、実際にそれについて語る人はほとんどいない。米国は普遍的な善の力を装いながら、世界中できわめて巧妙な権力操作を行ってきた。それはみごとで、機知に富んだ、非常に成功した催眠術のような行為だ。

(次を全訳)
The New York Times Is Orwell's Ministry of Truth - Antiwar.com Blog [LINK]

2023-01-27

不換紙幣が支える戦争福祉国家

マット・レイ
(2023年1月19日)

お金の出現は市場現象である。市場性の低い商品を高い商品と交換することで、個人は最終的に消費したいが直接交換では手に入らない商品に近づくことができる。最も市場性の高い財が共通の交換媒体(つまりお金)になる。
お金が取引の片方にあることで、関連する価格の数が減り、分業が拡大し、生産段階での専門化が可能になる。つまりお金の基本的な機能は、交換を容易にすることである。この目的に反して、各国の紙幣が商品貨幣に取って代わったことで、貿易は困難になった。

経済学者ハンス・ヘルマン・ホッペは、これを「部分的物々交換の体系」と表現している。このように考えると、グローバルな不換紙幣の目的は、まったく別のところにあるといえるかもしれない。

金のような商品貨幣本位制のもとでは、国家の権力は制限される。経済学者ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスは次のように説明している。

金本位制の卓越性は、通貨単位の購買力の決定を政府や政党の政策から独立させるという事実にある。さらに金本位制は、支配者が代表議会の財政的・予算的権限から逃れることを防ぐ。

しかしいったん政府が通貨制度を管理すると、独自の紙幣を発行することができる。紙幣が受け入れられるのは、それが購買力の確立した商品貨幣への請求権を表しているからである。政府は紙幣を償還する義務があるが、そのインフレ能力は表向き制限されている。

不換紙幣の目的は、この制限を取り払い、政府の支出を増やすことにある。これを説明するために、米国が限定的で分権的な連邦国家から大規模で中央集権的な国家に変貌した主要な出来事をいくつか見てみよう。後述するように、これらの出来事は純粋な不換紙幣への歩みと重なる。

経済学者トーマス・ディロレンゾは、リンカーンの大統領就任が現代の福祉・戦争国家の基礎を築いたと説得力のある主張をしている。最も重要なのは、「州間戦争」(南北戦争)によって分離独立の権利が潰され、州が連邦権力を抑制する手段が失われたことである。しかし戦争資金を調達するためには、新たな歳入源が必要であった。このため1861年と1862年の歳入法は、米国人に最初の連邦所得税を課し、内国歳入庁(国税庁)を設立した。

しかし市民が納得する直接税は限られている。その結果、1862年に法貨条例が制定され、財務長官が兌換性のない「グリーンバック」(ドル紙幣)を発行することができるようになった。1863年と1864年の全国銀行法では、全国的に公認された銀行の制度が作られた。このような制度は本質的にインフレを招き、グリーンバックは急速に価値を下げた。

結局、所得税は1872年に失効し、1875年の正貨支払再開法が金本位制への道を開くことになった。しかし所得税と紙幣国有化という前例ができたのである。さらに1862年に制定された太平洋鉄道法によって、大陸横断鉄道の建設に連邦政府が直接補助金を出すことになった。

政府の補助金は多くの汚職や非効率を引き起こし、ミーゼス学派が予想したように、さらなる介入を求めることになった。こうして1887年の州間通商法で米国史上初の連邦規制機関〔州際通商委員会〕を設立し、その三年後にはシャーマン反トラスト法(独占禁止法)が制定された。

このように経済に対する規制が強化された結果、進歩主義時代が到来し、1913年に中央銀行と所得税が恒久制度として確立され、その頂点に達したのである。最高税率は6%で始まったが、米国の第一次世界大戦参戦に伴い、1918年には77%まで高騰した。戦時中のインフレに続いて1920年には恐慌が起こったが、わりあい自由放任主義的な対応により、1921年半ばには急速に回復した。

しかし1922年初頭、連邦準備理事会(FRB)は再びインフレ政策に乗り出し、1928年末にようやく横ばいとなる。このためインフレ景気が起こり、1929年10月の株価暴落に至った。

暴落から一年後、経済危機は1920年恐慌と変わらないほど深刻なものになっていた。しかしハーバート・フーバー大統領は、高賃金と投資の拡大、農業補助金、公共事業、金融緩和と信用拡大政策という前代未聞の介入策を進めることになる。フーバーの介入は恐慌をさらに悪化させ、1932年の選挙でフランクリン・ルーズベルトに敗れた。

しかしルーズベルトのニューディール政策は、前任者(フーバー)の政策を発展させたものであり、その後、金本位制から離脱することになった。米国民がドルを金と交換できなくなったことで、連邦政府によるインフレを抑える大きな歯止めがなくなったのである。

ルーズベルトはその後、産業と農業をカルテル化し、労働組合に力を与え、公共事業に何十億ドルも費やし、社会保障、最低賃金法、全国失業保険などの制度によって、連邦福祉国家を確立することになる。エコノミスト、ロバート・ヒッグスが指摘するように、これは「(20)世紀の平時における最大の連邦政府権力の拡大」であった。

しかしルーズベルトの権力拡大は平時にとどまらず、第二次世界大戦によって米国は世界の覇権を握ることになった。戦争末期の1944年、ニューハンプシャー州のブレトンウッズで、米国を基軸通貨とする新しい世界通貨体制を確立するための会議が開かれた。ブレトンウッズ協定では、ドルを金と交換できるのは外国政府と中央銀行のみとされた。米国は金の上にドルを乗せ、欧州諸国はドルの上に自国通貨を乗せるというピラミッド型であった。

米国は戦後、過小評価されたドルと大量の金のストックをもって時代を迎えた。しかし米国がインフレ政策を続けたため、ドルの購買力が低下し、金が米国から流出した。1960年代半ばになると、ブレトンウッズ体制は崩壊し始める。ベトナム戦争と同時に、リンドン・ジョンソン大統領の「偉大なる社会」構想による福祉国家の拡大が始まった。この支出を賄うために、政府は前例のないインフレに走った。

しかしドルの量が急増すると、欧州各国政府は過大評価されたドルへの支援に不満を持ち、ドルを金で償還することを選択した。このため米国からの金の流出が加速し、1971年8月、米国はドルと金との最後の結びつきを断ち切った。

ブレトン・ウッズ体制は1971年12月、スミソニアン協定に取って代わられたが、この制度は機能しないことが判明した。一年余り後、純粋な不換紙幣と変動する為替レートの制度に取って代わられ、今に至っている。このとき、現在の福祉・戦争国家は確立されていたのである。

紙幣を発行して政府の支出を増やすことができたからこそ、米政府の権力が大きく拡大したことは明らかであろう。しかし商品に裏打ちされた国家通貨は、依然として国家によって管理されている。そのため、国家は財政上の必要性があれば、いつでも商品本位制を停止することができる。したがって古典的な金本位制は、現代のリバイアサン(巨大国家)の確立を防ぐことができなかった。実際、ミーゼス研究所のライアン・マクメイケンは、通貨制度に対する国家の管理を強固にすることで、古典的金本位制は変動不換紙幣の舞台を整えたと主張している。

私的商品貨幣に戻れば、20世紀を終わらせることができる。もしそうできなければ、政府の権力を制限するという希望は、幻想のままであろう。

(次を全訳)
The Modern State Cannot Exist without Fiat Money | Mises Wire [LINK]

2023-01-26

いわれなきイラク侵略

自由の未来財団(FFF)創設者・代表、ジェイコブ・ホーンバーガー
(2023年1月23日)

土曜日(1月21日)の米ワシントン・ポスト紙の社説は、ロシアのウクライナ侵攻に言及し、ウクライナの「闘いは欧州にとっての試金石でもあり、西洋システムが拠って立つ最も基本的な原則、いわれのない侵略戦争を許さないことに対する攻撃だ」と強調している。
続きとなる今日(1月23日)の社説でポスト紙は、ウクライナに対し「侵略戦争」を行ったとして、プーチン露大統領とその「子分」を裁く国際法廷を要求している。ポスト紙はニュルンベルク裁判を引用する。「侵略戦争を始めることは……国際犯罪であるだけでなく、他の戦争犯罪とは異なり、それ自体が全体の悪の蓄積を含んでいるという点で、最高の国際犯罪である」

当惑するのは、なぜポスト紙がジョージ・W・ブッシュ大統領とその「子分」たちのいわれのないイラク侵略を非難しないのか、さらに、なぜポスト紙がブッシュ氏とその「子分」たちのニュルンベルク式法廷を要求しないのか、ということである。結局のところ、この種の戦争犯罪に時効はないのである。ロシア、ドイツ、その他の国々だけが、いわれのない侵略戦争で非難され、裁判にかけられるのだろうか。なぜ米国の高官がニュルンベルクの原則から免除されなければならないのだろうか。

イラクが米国を攻撃したことがないのは、議論の余地のない事実である。この紛争は最初から米国が侵略者であった。ブッシュとその子分たちは、父親のジョージ・H・W・ブッシュ大統領がペルシャ湾戦争でサダム・フセイン大統領を政権から追放しなかったことに憤慨していた。そして父ブッシュの重大な間違いを正そうとした。

ブッシュ氏とその子分は、いわれのないイラク侵攻を正当化するために、サダムが大量破壊兵器を保有しているという嘘をでっちあげた。結局、大量破壊兵器が発見されなかったことでその嘘が明らかになったが、ブッシュ氏はその「間違い」を謝罪することも、ただちにイラクからの米軍撤退を命じることもなかったのは紛れもない事実だ。それどころか、ブッシュ氏は軍隊をイラクに残し、自分とその子分が権力を握った新政権に反対する者は誰でも殺すように命じたのである。

ブッシュ氏の大量破壊兵器に関する主張が嘘でなかったとしても、ある国民国家が大量破壊兵器を保有しているという事実は、その国民国家に対する侵略戦争を法的にも道徳的にも正当化するものではない。さらに、大量破壊兵器に関する決議を執行する権限を持つのは、米政府ではなく国連のみであり、国連がイラクへの侵攻と侵略戦争を認めないことを選択したのは明白である。

父ブッシュが湾岸戦争で政権交代を実現できなかったことに憤慨したのは、息子ブッシュだけではない。1990年代、ビル・クリントン大統領は在任中、史上最も残忍な制裁措置の一つを実施し、イラク国民に対して戦争を仕掛けた。その結果、何十万人もの罪のないイラクの子供たちが命を落とすことになった。

実際、1996年にクリントン政権の国連大使だったマデリン・オルブライト氏は、制裁による50万人のイラクの子供たちの死は「それだけの価値がある」と断言した。その「価値」とは、イラクの独裁者サダム・フセインを追放し、米国が承認した別の独裁者に取って代わらせるという体制転換のことであった。

イラクの子供たちが死ぬことで、サダムは良心の呵責にさいなまれ、政権を手放すだろうというものだった。この手段を選ばぬ計画はうまくいかなかった。サダムは権力の座にとどまり、制裁はさらに5年間、罪のないイラクの子供たちを殺し続け、ブッシュ息子が大統領に選ばれた後もそれが続いた。

なぜクリントン氏、ジョージ・W・ブッシュ氏、その子分たちは、イラクの子供たちをいわれのない形で殺害することに加担したとして、刑事告発されるべきではないのか。なぜ「侵略戦争」は爆弾、弾丸、ミサイル、兵士、戦車、ドローン、飛行機だけに適用され、故意に、意図的に、無実の人々を殺す経済制裁には適用されないのか。

このすべてにおける一つの皮肉は、米当局が「新しいヒトラー」と呼んでいたサダム・フセインが、イランに対していわれのない侵略戦争を行っていた1980年代には、米当局の協力者であり同盟者であったということである。米当局は、サダムの軍隊がイラン人を殺害しているという事実が気に入っていたので、サダムの侵略戦争を支持していたのだ。その理由は、1953年の米中央情報局(CIA)のイランに対する政権交代作戦でイランの国王に据えた残忍な独裁者〔パーレビ国王〕をイラン国民が追放したことを、まだ許していなかったからである。

今日、ロシアは少なくとも、ウクライナに軍事基地、戦車、兵士、ミサイルを配置するために北大西洋条約機構(NATO)を利用する米国の脅威を、ウクライナへの「いわれのない」侵略の理由として挙げることができる。米国が自らのいわれのないイラク侵攻を正当化するために指摘できるのは、存在しない大量破壊兵器に関する自らの嘘だけである。

結論として、きわめて重要な点を繰り返すことを許してほしい。イラクを攻撃したのは米国である。この紛争を通じて、米国は侵略者であり、イラクは防衛側であった。

なぜワシントン・ポスト紙はこの根本的に重要な点を認識し、認めないのだろうか。なぜニュルンベルク原則を米国ではなく、ロシアに適用するのだろうか。

(次を全訳)
What About the Unprovoked U.S. Aggression Against Iraq? – The Future of Freedom Foundation [LINK]

2023-01-25

債務上限騒動の偽善

元米下院議員、ロン・ポール
(2023年1月23日)

今週、米政府は31.4兆ドルの借入限度額(通称「債務上限」)に達した。このため下院共和党、バイデン大統領、議会民主党の間で対決が繰り広げられた。
下院共和党は、バイデン大統領と上院民主党に対し、債務上限の引き上げに歳出削減を含めることに同意するよう要求している。しかしバイデン大統領と議会民主党は、共和党との交渉を拒否している。むしろ大統領らとその仲間である主要メディアは、債務上限引き上げに歳出削減を含めるよう求める共和党を「無責任」だと非難している。

米国の国家債務は国内総生産(GDP)の約122%で、国民が生産する以上の借金を抱えていることになる。国債の利払いは、他の連邦予算の大きな支出分野である社会保障、医療保険、「国防」に次ぐ規模である。利払いが行われている間にも、国の借金は毎年増え続けている。

政府の支出は民間部門から資源を奪う。したがって民間企業が成長し、新しい雇用を生み出すために利用できる資本は少なくなる。政府支出はまた、連邦準備理事会(FRB)の財政ファイナンスにより、物価上昇とドルの価値下落の一因となる。FRBが金利を自由市場の水準に近づけることを許さない理由の一つは、連邦政府の利払いが維持できない水準に上昇することになるからである。これらの事実を考慮すると、無責任なのは、政府が支出を削減せずに信用限度を引き上げるべきだと考えている人々であることは明らかだろう。

ケビン・マッカーシー下院議長のような旧来の共和党員が財政抑制の英雄であるとは言わない。むしろマッカーシー氏は多くの共和党員同様、ドナルド・トランプ氏が大統領になった際、歳出増にも債務上限措置の停止にも反対しなかったのである。さらに共和党のどの支出計画も、軍産複合体への支出を増やし続ける一方で、社会保障とメディケア(高齢者向け公的医療保険)の迫り来るコスト問題への対処を拒否する可能性が高い。

一部の共和党員は社会保障とメディケアの改革を議論することに前向きだが、大半は依然として高齢者ロビー団体を恐れるあまり、制度変更を支持しない(たとえその変更が現在の受益者に損害を与えないものであっても)。その結果、議会が有意義な制度改革を可決する可能性は低い。少なくとも、メディケアと社会保障の信託基金が資金不足に陥り、そうするしかなくなるまでは、動かないだろう。メディケア信託基金は5年後、社会保障信託基金は12年後に債務超過に陥ると予測されている。もちろんFRBがインフレ税によって政府給付を削減し、労働者の賃金や貯蓄の価値を下げる可能性が高いので、議会は厳しい選択を避けることができるかもしれない。

下院共和党の指導部が軍事費の削減を支持する姿勢を示したという初期の報道を受けて、共和党のタカ派からは、軍事費の削減は米国とその同盟国を敵に対して脆弱な状態に置くことになるという予想どおりの声が上がっている。しかし限られた額の削減を検討しても、米国は次に軍事費の大きい9カ国の軍事費の合計を上回る軍事費を維持することになる。軍産複合体の支持者や宣伝担当者から圧力を受けた後、ほとんどの共和党議員は国防費の削減を支持することから退いた。

多くの財政保守派の問題は、福祉・戦争国家主義の前提を受け入れていることである。そのため彼らは支出削減を支持したり、支出増加に反対したりする一貫した原則に基づく議論を行うことができない。自由な社会を取り戻すカギは、国家主義を拒否する個人が一定以上に増えることにある。

(次を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Debt Ceiling Hysteria and Hypocrisy [LINK]

2023-01-24

ウクライナ戦争と国際法の衝突

コラムニスト、テッド・スナイダー
(2023年1月19日)

ウクライナでの戦争は、さまざまな原因が絡み合っている。ニコライ・ペトロ氏が論じたように、それは同時にロシアと米国の紛争であり、ロシアとウクライナの紛争であり、ウクライナ国内の紛争でもある。しかしその核心には、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナに門戸を開くべきかどうかをめぐる対立と、ドンバス地方がウクライナの一部か、自治区か、ロシアの一部であるべきかをめぐる対立の二つがある。
そしてこの二つの対立それぞれの核心にあるのが、NATO問題とドンバス問題にかかわる二つの国際法の対立である。いずれの場合も、それぞれの法は正当なものであり、米国は一方を、ロシアはもう一方を信奉している。リチャード・サクワ氏が論じたように、「この二つの論理の間の緊張が、後の紛争の種を含んでいた」のである。

ウクライナのNATO加盟をめぐる対立の核心は、米露が合法だが相容れない国際法に賛同していることである。この議論は、ケント大学のリチャード・サクワ教授(ロシア欧州政治学)が、少なくとも次の二つの場で展開している。一つは論文「愚行の行進の再開——ロシア、ウクライナ、米欧」、もう一つはアンドレイ・クリコヴィッチ氏との共同論文「ウクライナの戦争——規範と存在論の衝突」である。

NATO拡大問題で米国は、国家が自らの安全保障体制を選択する自由で主権的な権利という原則を挙げている。一方、ロシアは、安全保障の不可分性の原則、すなわち、ある国の安全保障を他の国の安全保障の犠牲の上に成り立たせてはならないという原則を挙げている。どちらの原則も国際法および国際協定に明記されている。どちらも正当なものであるが、両者は矛盾している。それゆえ対立するのだ。

米国は、NATOがウクライナに門戸を開いていることを正当化するため、国家が自らの安全保障上の立場を選択する権利を主張している。すべての国家が安全保障体制を選択できるのであれば、ウクライナにもNATO加盟を選択する主権的権利がある。ロシアは、NATOが国境まで拡大し、殺傷兵器をウクライナに送り込むことに反対する正当な理由として、安全保障の不可分性を主張している。どちらの原則も正しい。しかしサクワ氏が指摘するように、「それらは矛盾することがわかり、結局、双方の平和的共存の能力を損なった」。

ロシアは、平和はすべての国の利益が尊重される力の均衡によって達成されると考えている。覇権国家が自国の安全保障を確保するために、他国の安全保障を無視することはありえない。米国は、自らを覇権国とする貿易と民主主義の体系が広がることで、平和を保つ共通の領域ができると考えている。米国の主張は、その広がりが他国にとって脅威となりえないことを暗示している。

西側諸国は、選択の自由と、同盟を選択する権利という概念に非常に精通している。ロシアはさまざまな場面で、その自由を文脈の中に位置づけることを試みてきた。同国のセルゲイ・ラブロフ外相は、2022年1月27日の報道機関へのコメントを含め、関連するすべての国際協定は「不可分の安全保障とそれを必ず守ること」を国家に義務づけていると、たびたび主張している。同外相は、国家が自らの同盟を選択する主権的権利は、「他国の安全を犠牲にして自国の安全を強化しない義務」と釣り合うという法的含意を指摘する。

2021年12月7日のバイデン米大統領との対話で、プーチン露大統領は「すべての国は、自国の安全を確保するために最も受け入れやすい方法を選ぶ権利があるが、これは他の当事者の利益を侵害せず、他の国の安全を損なわないように行われるべきである。……安全保障の確保はグローバルなものであり、誰もが平等にカバーされるものでなければならないと考えている」と述べた。12月30日、プーチン氏は再びバイデン氏と会談し、「不可分な安全保障の原則が厳格に守られない限り、いかなる国の安全も確保することはできない」と強調した。

侵攻前の2月1日、プーチン氏は記者会見で同じ原則を表明し、「この過程のすべての関係者、すなわちウクライナ、他の欧州諸国、ロシアの利益と安全を確保する方法を見つける必要がある」と述べた。

アナトリー・アントノフ駐米ロシア大使は2021年12月30日付の評論でこう書いている。「NATO加盟国によるウクライナの軍事調査は、ロシアにとって存立の危機である。……平等かつ不可分の安全保障の原則を取り戻さなければならない。これは、いかなる国家も他国を犠牲にして自国の安全保障を強化する権利を持たないことを意味する」

サクワ氏が伝えるように、ロシアの指摘によれば、米国がウクライナの同盟選択権を主張することは、「1991年6月6〜7日のコペンハーゲン外相会議で『欧州情勢の変化から一方的な利益を得ない』『他国の正当な利益を脅かしたり孤立させない』『大陸に新しい分断線を引かない』とした」NATO自身の原則と矛盾する。

NATOのウクライナに対する門戸開放をめぐる対立と同様、ドンバス地方の危機に関しても、米露は正当だが相容れない二つの原則を引き合いに出している。

9月27日、ドンバス地方のドネツク、ルハンスク両共和国、ヘルソン、ザポロジエ両州で、ロシアへの加盟を問う住民投票が実施された。米国は国連憲章にある既存国家の領土保全の原則を理由に住民投票を拒否し、ロシアは同じく国連憲章にある民族自決権の原則を理由に住民投票を承認した。

プリンストン大学のリチャード・フォーク名誉教授(国際法)は「このような対立は、国際的に承認された国家の境界線内で権利を侵害された異なる民族の権利を強調し、主権国家の完全性と自己決定権の範囲という一般的な問題を提起している」と述べている。フォーク氏は筆者に対し「国家や国連の活動は矛盾しており、法律や道徳よりも権力や地政学的な優先順位によって動かされている」と述べた。

10月4日、ラブロフ露外相は新領土のロシアへの吸収に関する発言で、自決の原則を持ち出した。東部地域の決定は「住民投票による自由な意思表明に基づく」とし、「これらの共和国と地域の市民は、自己決定権に基づく意識的な選択をした」と主張したのである。

NATOの原則と同様に、領土保全の原則は自決の原則と矛盾せず、バランスがとれている必要があるとラブロフ氏はあらためて主張した。1970年の国連宣言(友好関係原則宣言)では、「人民の平等な権利と自決の原則を遵守し、領土に属する全人民を代表する政府を有すること」を条件に、「国家の領土保全の尊重を国家の義務として定めている」と主張したのである。ラブロフ氏は、領土保全は住民投票で行使された自決を尊重していないと両論を展開した。

米露が互いの立場を理解し、その相違を解決することができないのは、等しく正当でありながら相容れない国際法に固執していることが根底にある。

(次を全訳)
War in Ukraine: When International Laws Collide - Antiwar.com Original [LINK]

2023-01-23

異論許さぬダボス会議

ジャーナリスト、ジョーダン・シャクテル
(2023年1月20日)

今週〔スイス東部の〕ダボスで開かれている世界経済フォーラム(WEF)の支配者層会議を見ていると、そこにいる金持ちや権力者たちの間に意見の相違がないことに驚くかもしれない。ダボス会議の各討論は強化された共鳴室として機能し、そこには一つの問題、一つの目的、一つの解決策しかない。ダボス会議の討論や講演の参加者が、企業メディア、政府関係者、企業経営者の誰であれ、反対意見や異論が出ることはない。
世界経済フォーラムが、世界の支配階級のための物語と発想の場として最もよく理解されていることを考えると、ダボス会議は健全で強固な議論の場であるとの印象を持つかもしれない。そのためダボス会議の新しい参加者の多くは、このスイスの隠れ家〔=ダボス〕で講演者や参加者が示す信じられないほどの意見の一致に困惑している。

元CNNの司会者だったブライアン・ステルター氏は報道の自由の重要性を主張したが、ある共同パネリストが言論の自由に対し悪意ある攻撃をした際、微笑んでうなずいていたことに多くの人が気がついた。

元ニューヨーク・タイムズ紙編集主幹のジル・エイブラムソン氏は、この問題に関して臆することなく、独自の論評〔ニューヨーク・タイムズ紙と同紙発行人アーサー・グレッグ・サルツバーガー氏のダボス会議参加を批判〕を展開した。

作家のウォルター・カーン氏は、「意見の相違の少なさ」が不思議だとツイートしている。

問題の真実は、世界経済フォーラムとその指導者たちは、議論よりも一致を好むということだ。実際、議論はあまり奨励されず、一線を越えるようなこと、つまり物語(ナラティブ)違反は、クラブ・ダボスから永久に追放される根拠となる。

クラウス・シュワブ氏は、その悪名高い『グレート・リセット』シリーズの二冊目である『グレート・ナラティブ』という本で、まさにこの話題を論じている。

シュワブ氏は世界経済フォーラムの目標について、自分の組織はあらゆる思想・政治的視点に開かれていると主張することから始めている。しかし、シュワブ氏のいう「あらゆる思想・政治的視点」とは、自分が正当と考えるものだけを指していることがすぐにわかる。

ある特定の人々は、例外なく否定される。それはもちろん、世界経済フォーラムの気候変動に関する物語や、気候問題に対する非常に具体的な「解決策」を受け入れない個人や団体である。

「気候変動対策、持続可能性、包摂性、国際協力、心身の健康」は、「いま最も重要」だとシュワブ氏は書いている。「いますぐ断固とした行動を起こさなければ地球の生物圏は生存に適さないものとなり、世界経済の成長を妨げ……政治や社会の安定をさらに危険にさらすことになる」

ようするに、シュワブ氏の物語によれば、世界は火の海であり、この問題には議論の余地はなく、人類の進歩を後退させることが唯一の解決策なのだ。

外交的なシュワブ氏は、コンプライアンス(規範遵守)に反するこうした振る舞いを行う人々を完全に軽蔑しており、そうした人々はおもに米国にいると苦々しげに指摘している。

シュワブ氏は非協調的な人々を憎み、非協調的な人々は陰謀論者であり、世界のあらゆる悪の元凶であると決めつけている。同氏は、これらの「科学的な知見をかたくなに否定する運動」が「COVID-19のパンデミックの収束を遅らせている」とし、「公衆衛生の改善と、より根本的には私たちが集団として危機に対処することの両方を妨げている」と付け加えている。

世界経済フォーラムはすべての大項目について、すでに完全な合意が得られている課題として取り組んでいる。同フォーラムにとって重要なことはすべて、何らかの形で「緊急事態」として分類され、ダボス会議ではこれらの問題に議論の余地はないと主張している。この「緊急事態」は、ダボス会議の発言者にとってあまりにも深刻であり、その物語に挑戦することはできない。すでに問題は確定し、解決策も合意されている。残されたのは、この問題と解決策をどれだけ早く進めるか、その過程で個人の権利をどれだけ激しく踏みにじろうとするか、という議論しかない。

(次を全訳)
At Davos, conformity is required, and debate is a cancel-worthy sin [LINK]

2023-01-22

アサンジ迫害とバイデンの偽善

アイスクリーム製造会社「ベン&ジェリーズ」共同創業者、ベン・コーエン
(2023年1月18日)

バイデン米大統領は、報道の自由に関する自らの言辞に応えるべきときが来た。

2020年大統領選の候補者として、バイデン氏は報道の自由の重要性について力強い声明を発表し、こう書いた。

 

国境なき記者団によると、現在、世界で少なくとも360人がジャーナリズムの仕事を理由に投獄されている。私たちは皆、このジャーナリストたちと連帯する。トーマス・ジェファーソンが1786年に書いたように、「我々の自由は報道の自由にかかっている。報道の自由を制限すれば、それは必ず失われる」からだ。

バイデン氏が無視したことがある。投獄された人々の一人がウィキリークスの発行人ジュリアン・アサンジ氏であり、アサンジ氏がロンドンの最大警備の刑務所で独房に閉じ込められているのは、米政府が彼を見せしめにしたいからだという事実だ。

アサンジ氏はトランプ政権によって、ジャーナリストや人権団体から広く非難された、前例のない攻撃的な動きで起訴された。バイデン大統領とメリック・ガーランド司法長官は、約二年の間に正しいことを行い、この危険な起訴を取り下げることができたはずだ。

ところがバイデン政権は、報道の自由と偽情報について世界に説教を続けている。バイデン氏とその仲間たちは、権威主義的な政権が報道を検閲し、反対意見を取り締まり、真実の公表を犯罪としていることを正しく非難している。国境なき記者団は、イラン、中国、ミャンマーなどにおける報道の自由の侵害を非難している。しかし報道の自由の侵害はこのような体制に限ったことではないとも述べている。国境なき記者団は、フィリピンにおけるノーベル平和賞受賞者マリア・レッサ氏の迫害を非難し、16のジャーナリズム擁護団体の連合を率いて、英政府に対してアサンジを解放するよう求めている。

こうした事例は、不正行為を暴露し、不快な現実を国民に知らせ、政府のプロパガンダに反発することのできる、自由で独立した報道機関の重要性を明確に示している。言い換えれば、自由な報道は、米政府が私たちを欺いたときに、私たちが真実に近づけるよう守ってくれる。

私はジュリアン・アサンジ氏の知人であることを誇りに思っている。ロンドンのエクアドル大使館でアサンジ氏と会ったとき、私はその知性と思いやり、嘘と戦争プロパガンダの毒に対する解毒剤としての真実に対する信念に、最も感銘を受けた。アサンジ氏が言ったように、「戦争が嘘によって始められるのなら、平和は真実によって始められる」。

アサンジ氏は三年以上にわたって、「英国のグアンタナモ」と呼ばれる最高警備の刑務所に独房で拘束されている。その大半は、刑務所で新型コロナ感染症が発生し、生命が脅かされた期間である。この原稿を書いている今も、アサンジ氏ははコロナで24時間隔離されている。昨年、同氏は軽度の脳梗塞に見舞われた。国連特別報告者ニルス・メルツァー氏は、アサンジ氏の監禁状態が拷問にあたると判断している。

殺人犯のいる最大警備の刑務所に収監される前、アサンジ氏はエクアドル大使館に何年も監禁され、適切な医療を受けられないまま過ごしていた。その間、米政府は弁護士や面会者(私を含む)、家族、医師を監視した。アサンジ氏が逮捕された際には、書類やメモまで押収された。なぜか。アサンジ氏のウィキリークスでの活動は、政府に世界で恥をかかせるものだったからだ。

オバマ大統領は「ニューヨーク・タイムズ問題」を理由に、アサンジ氏の起訴を拒否した。もし真実の情報を公開したアサンジを起訴したら、ニューヨーク・タイムズ紙も起訴しなければならなくなるからだ。しかしバイデン氏は今回、真実を公表することは犯罪だというトランプ氏の主張を肯定した。アサンジ氏は1917年のスパイ活動法に基づいて起訴されている。この法律は、検察が内部告発者を標的に使用するのも大いに問題含みだが、出版者に対してはこれまで一度も成功したことがない。バイデン氏がアサンジ氏を起訴することで本当に言いたいことは、米政府は国民に嘘をつくし、犯罪行為を隠しもするし、あえて真実を追求しようとする人々を滅ぼすこともできるということだ。

司法省は、内部告発者チェルシー・マニング氏〔元米陸軍上等兵〕が漏らした、真実でニュース価値のある情報を受信し公開したことでアサンジ氏を起訴したが、不正行為を暴露された軍や政府の高官は誰一人として起訴していない。

21世紀版の使者殺し〔悪い知らせをもたらした使者を殺害する王の話〕である。

法律違反や嘘、不正隠しが発覚した政治家の評判を傷つけたことを除けば、アサンジ氏の報道で被害を受けた者はいない。英法廷手続きで証言した専門家によれば、アサンジ氏は、情報源と、機密情報の公開によって損害を受ける可能性のある人々の双方を保護するために、最大限の努力をした。政府は、ウィキリークスが暴露した不正行為を調査したり、法を犯した者や隠蔽した者を罰したりするのではなく、内部告発者とそれに協力するジャーナリストの攻撃に力を入れている。

なぜか。政府の不正行為を国民に知らせる誘惑に駆られかねない他の人々に、メッセージを送れるからだ。政府はお前の人生を破壊することができる、と。

トーマス・ジェファーソンは正しかったし、大統領候補時代のジョー・バイデン氏がジェファーソンの言葉を引用したのも正しかった。政府の責任を追及する自由な報道機関なくして、民主主義はありえない。国境なき記者団が米国の報道の自由について懸念するのは正しい。そのファクトシートは不吉な一行で始まっている。「かつて報道と言論の自由の模範とされた米国で、報道の自由に対する侵害が驚くべき速さで増加している」

ジュリアン・アサンジ氏の自由なくして、報道の自由はない。公益のために真実の情報を公開したアサンジ氏を政府が起訴できる限り、バイデン政権の人権、「フェイクニュース」、プロパガンダに関する物言いは偽善の極みである。

(次を全訳)
Killing the messenger: Joe Biden's disturbing hypocrisy on Julian Assange | Salon.com [LINK]

2023-01-21

新たな終わりなき戦争

ジャーナリスト、ジョセフ・ソリス=ミューレン
(2023年1月16日)

米国はウクライナ紛争について政策を変更し、ウクライナ政府が要求する限りの資金や武器を提供するのではなく、交渉に入る働きかけを始めるのかと尋ねられるたびに、バイデン政権は一貫して「今やっていることを必要なだけ続けるつもりだ」と繰り返してきた。
何に必要なだけか。

ウクライナがロシアとの戦争に「勝利」し、2014年以降にロシアに占領・併合されたすべての土地を取り返すのに必要なだけだ。

これが可能かどうかは明らかではないし、そのような最大主義的な結果を追求することが米国の国益にかなうかどうかはもっと明らかではないが、ジョー・バイデン大統領とその政権関係者は、米政権が戦争を終わらせることができるという考えに対し絶えずとぼけている。あるいは、終戦の決定はウクライナだけではできないとか、バイデン政権はその決定に何ら影響を及ぼすことができないし及ぼすべきでもないとかいう指摘に対し、不快感を装っている。——結局、戦争に関する公約を掲げるゼレンスキー氏を選出したのはウクライナ人だったのだ。

もちろん、ゼレンスキー氏が掲げたのは平和の公約だったことを除けばの話だが。

今や公然と認められているように、ゼレンスキー大統領がウクライナ東部の超国家主義者らを中央政府に服従させ、ウクライナ、ロシア、フランス、ドイツの四カ国政府が交渉したミンスク合意を履行するため、「シュタインマイヤー方式」(ウクライナによるドンバス地方の特別地位の承認と欧州監視下のドンバスでの完全選挙を前提とする)に基づく選挙に同意させようとした際、米トランプ政権はゼレンスキーを支援するのでなく、肩をすくめ、「失せろ」と言ったのである。ゼレンスキー氏に「地獄に落ちろ」と言った最前線の超国家主義者は、米政府が2014年から協力し、2017年から重火器で武装させている連中である。

誰も驚かなかったように、すべての武器がウクライナに届いているわけではないし、それどころか資金もあまり届いていない。状況は受け入れがたくなっており、ワシントン・ポスト紙は、ウクライナのために計上されたすべての新しい予算が急いで可決されることをまだ支持しているものの、ウクライナに届かない武器と資金がどこに行くのかをあえて公然と質問している。CBSテレビはウクライナ支援策に批判的なドキュメンタリー番組を制作したが、圧力によってすぐに一部撤回した。企業メディアに言わせれば、政策批判は「大問題」なのだ。

米国防総省はこうした正当な反対意見に応え、支援を止めたり遅らせたりするのではなく、10月に米軍をウクライナに派遣し、監督することにした。

え、何だって?

しかし死者が出て膠着状態が続く間、米国人はこれがすべて計画の一部であることを心に留めておくべきだ。他人を殺すことで、米政府はロシアを弱め、中国を威嚇することができる。少なくとも政府はこの計画がうまくいっていると考えている。たしかなことを言うのは難しい。ロシアは長い目で経済的・技術的に弱体化するだろうし、誰も米財務省の逆鱗に触れることを好まない。しかし明らかにロシアと中国を接近させるように思える。これも計画の一部だったのだろうか。もしそうなら、それは良い計画だったのだろうか。

前からわかっていたこと、つまり先進国中、最も腐敗した国の一つである、地球の裏側にあるブラックホール〔=ウクライナ〕に武器を流すのは悪い考えだということをようやく認めた以外、いわゆる第四勢力(言論界)は実にひどい失敗をしてきた。ウォールストリート・ジャーナル紙やワシントン・ポスト紙が掲載しているのは、裸の戦争ポルノだ。北大西洋条約機構(NATO)がオデッサを封鎖するロシア船を爆破する夢や、中国に対し優位に立って台湾海峡を軍事化、いや、一段と軍事化して、アンクル・サム〔米国〕が脅かされることはないと中国に示す夢などである。

だって、キューバ・ミサイル危機はそうやって〔ソ連に対するこわもての強硬策で〕、世界を吹き飛ばさずに解決したんだから。


それから、その名に全然ふさわしくない「シンクタンク」だ。たいてい、外国のお金と、ロッキード・マーチン社やノースラップ・グラマン社〔いずれも大手兵器メーカー〕のような利害関係のない第三者からの親切な寄付の組み合わせで資金を供給されており、そのすべてがまったく、明らかに合法的である。ミュンヘン会談〔ナチスの東欧侵略を容認する宥和政策が第二次世界大戦への道を開いたと批判される〕の二の舞になる危険や、米国の安全保障の信頼性を維持する必要について息を切らして叫ぶとき、利益相反を表明する必要はない。たとえその安全保障が、以前は考えが浅く、あいまいで、現在の状況の変化に照らして明らかに不適切であってもだ。

たとえトム・コットン上院議員(共和党、アーカンソー州)が、七十年前にまったく異なる状況下で立案された安全保障政策に疑問を呈するべきでないと考えていたとしても、それは賢明な判断であると思われる。

この戦争は何のためなのか。ウクライナが参加する資格もなければ、強化もされない、すでに半分以上大きくなりすぎていて、もう米国の利益に具体的に貢献することさえない安全保障同盟のためか。それとも民主主義のためか。欧州の片隅の最も腐敗した国の一つで、ロシア並みの評価しかない国で民主主義が失われれば、世界中の民主主義が危機にさらされるのだろうか。

一か八か、やってみよう。

新たな終わりなき戦争に「ノー」と言おう。終わりなき対テロ戦争は、数兆ドルの追加費用と数千人の(米国人の)命を静かに費やしながら、放置されたままくすぶり、視界から安全に消えていく可能性がある。対テロ戦争は、NATOとロシアの間で起こりうる直接交戦の本質的な危険に近づくことはなかった。その影響は、世界中の多くの人々の飢餓と貧困をもたらすものでもなかった。

対テロ戦争はもう十分長く続いている。

間違いがあったのは事実だが、それは仕方がない。誰もそれを認めようとしない。予測可能なことではあったが、それももうほとんど重要ではない。

重要なのは、多極化が事実であること(フォーリン・アフェアーズ誌へのショルツ独首相の寄稿を参照)と、米国自身のお粗末な行為が何よりも「自由なルールに基づく国際秩序」を損なったこと(過去三十年間の相次ぐ侵略を参照)である。米政府が事実に抵抗する能力は、事実をでっち上げる能力と同じくらい伝説的だが、米国民が自分たちの政府を抑制できる時間と希望はまだ残っている。大多数の人々はまだ地図でウクライナを見つけることができないし、白紙委任が良い政策でないことを知っているし、ウクライナが勝利するとは思っていない。

新しい道を切り開くのに必要な勇気と展望を備えた米国の政治的リーダーシップの見通しは暗いかもしれないが、だからといって現在の政策に反対する人たちが反対の声を上げるのを止めるべきでない。

それどころではない。

米国防総省がウクライナによるロシア内奥への攻撃を「黙認」しているという英タイムズ紙の報道が明らかにしているように、現在の交戦国間の不安定な均衡は突然崩れ、恐ろしい結末を迎える可能性がある。

ロシアとNATOの戦争に進展し、人類の文明が滅亡する可能性を除けば、この戦争を終わらせる唯一の方法は、交渉による解決だ。銃ではなく、ペンによる領土分割が望ましい。

ロシアのウクライナ侵攻によって明らかになったことが他にあるとすれば、欧州の他地域には何の危険もないことだ。20世紀最大の大量殺人者であるスターリンや毛沢東と取引ができ、スハルト、ソモサ、モブツ、李承晩〔それぞれインドネシア、ニカラグア、ザイール、韓国の独裁者〕など抑圧的な独裁政権に直接支援ができるなら、ロシアの現支配者ともきっと取引できるに違いない。

(次を全訳)
Just Say No to the New Forever War | Mises Wire [LINK]

2023-01-20

ウクライナ戦争と米タカ派政策

マグネット・スクール卒業生、ジョン・ケネディ
(2023年1月13日)

12月21日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、米政府からさらなる財政・軍事支援を得るため、議会で演説を行った。ゼレンスキー氏はウクライナの戦いの主な目標として平和、自由、連携を挙げ、ウクライナには米国の決意が必要だと話した。ゼレンスキー氏はこう述べた。
米国から中国まで、欧州から中南米まで、アフリカからオーストラリアまで、世界はあまりにも相互に結びついており、このような戦いが続くと、誰かが傍観していると同時に、安心していられなくなる。私たち両国は、この戦いにおける同盟国であり、来年は、ウクライナの勇気とアメリカの決意が、私たち共通の自由の未来を保証しなければならない、転換点となるであろう . . . 

演説の後、議会は1兆7000億ドルの支出計画を可決し、450億ドルがウクライナに支払われることになった。この資金はウクライナの戦費に充てられることになっているが、バイデン米大統領は、ウクライナに米軍の戦闘部隊を派遣するつもりはないと主張している。

歴史の中の類似性


第一次世界大戦、第二次世界大戦、ベトナム戦争と同様、決して軍事支援だけではない。ウィルソン、ルーズベルト、ジョンソン各米大統領も、米国人を戦争に巻き込まないよう約束した。ウィルソン大統領は「彼のおかげで戦争に巻き込まれずにすんだ」という選挙スローガンを作った。ルーズベルト大統領は「中立」を維持しながら、英国や後のソ連を武装させるために武器貸与法を作成した。ケネディ、ジョンソン両大統領は、トンキン湾事件後に米国が戦闘部隊を派遣するまで、南ベトナム政府を支援するために軍事援助と顧問を派遣した。これらの政治家の約束とは裏腹に、戦争は結果的に起こってしまった。

欧米の政府高官の計画はわからないが、過去の計画や政策を分析することはできる。約束違反、条約違反、制裁、クーデターなどが東西間の不信を築き、今日見られるような有害な結果を招いたのである。

西側の東方拡大


最初の侵攻からわずか数時間後の2022年2月24日、プーチン露大統領はテレビに出演し、次のように侵攻の理由を述べた。

北多西洋条約機構(NATO)の東方拡大についてだ。NATOは軍事インフラをロシア国境にどんどん近づけている。過去三十年間、我々がNATOの主要国と辛抱強く協定を結ぼうとしてきたのは事実だ。それに対し、つねに皮肉なごまかしや嘘、圧力や恐喝の試みに直面してきた。

NATOの拡大は1991年のロシア連邦発足以来、ロシアにとってつねに懸念事項だった。このとき米国、英国、フランス、ドイツの外交官はNATOを拡大しないと約束していた。しかしこの約束は守られなかった。元米陸軍士官学校戦略研究部長のアラン・サブロスキー氏は次のように述べる。

まあ、我々にもできるようなことではあった。ロシアの大統領にはエリツィンという酔っぱらいのチンピラがいたが、我々ができないことはほとんどなかった。ロシアを経済的に、政治的に略奪したのだ。エリツィンはNATOが国境を越えて拡大することに対して、うまい対応をすることがまったくできなかった。我々はNATOを拡大できたし、実際拡大したのだ。

ビル・クリントン〔米大統領〕は以前の約束を破ってポーランドやハンガリーといった国々をNATOに加盟させたが、2000年にはロシアのNATO加盟要請を拒否している。ブッシュ大統領は2004年にバルト諸国とスロバキアに加盟を拡大し、2008年にはグルジアとウクライナを加盟させる方向で動いている。しかしこれはウクライナ戦争の始まりではない。始まったのは2014年、NATOの支援によるウクライナ政府の転覆によってだ。

マイダン革命として知られるNATO支援のクーデターは、ウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領を転覆させた。これがNATOの支援によることは、エストニアのウルマス・パエト外相が欧州連合(EU)の外交政策責任者であるキャサリン・アシュトン氏にかけた電話の録音からわかっている。この電話でパエト外相は、新政府の連立政権の怪しげなメンバーが、独立広場でデモ隊と警察をともに殺害した銃撃を指示したと語っている。実際、マイダン活動家のイワン・ブベンチクはこの虐殺の際、ウクライナの警察官を射殺したと告白している。このクーデターの後、ロシアはクリミアを併合し、分離独立派の反政府勢力はウクライナからドンバス地方を奪取し、今日まで続く内戦の火種となった。

この怪しげなメンバーは、アゾフやスボボダといったネオナチ団体出身で、警察との激しい衝突を引き起こしたのと同じ集団である。2014年に記録文書が流出した電話で、ビクトリア・ヌーランド国務次官補とジェフリー・パイアット駐ウクライナ米大使は、野党新政府で誰を優遇するかを話し合い、バイデン副大統領〔いずれも当時〕が彼らを 「激励」するべきだとの意見で一致した。その記録にはこうある。

パイアット では、クリチコ〔キエフ市長〕については私に任せて、あなたはただ . . .こちらでは海外で名の売れた誰かを呼び寄せ、この件の仲介役を務めてもらいたいと考えています。もう一つの問題は、ヤヌコビッチ〔元ウクライナ大統領〕に対する何らかの働きかけですが、これについては明日、物事がうまく回り始めるのを見ながら、再度検討することになるでしょう。

ヌーランド そのことだけどジェフ〔パイアット大使〕、サリバン〔米副大統領補佐官(国家安全保障担当)〕にメモを書いたら、直接、バイデンが必要だと言ってきたの。明日にでも、激励と詳細説明をお願いしますと言ってあげたわ。バイデンはご機嫌よ。

この通話でヌーランド氏とパイアット氏は、オレハ・タヤニボック党首とそのネオナチ政党スボボダとの協力についても話している。スボボダやアゾフ大隊のメンバーは、再び警察への攻撃の先鋒となった。ヌーランド氏はこの電話で、タヤニボック氏は「問題」だが、オレクサンドル・シチ氏のようなスボボダ党員は新政府の内閣で地位を得るだろう〔シチ氏は副首相に就任〕と述べた。

まとめ


ウクライナ戦争から生まれた最高のたとえの一つは、反戦ニュースサイト、アンチウォー・ドットコムのスコット・ホートン氏の言葉だ。「ロシア政府がカナダ政府を転覆させ、反米になった政府が米国の海軍基地をアラスカから追い出すと脅し、ブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバーで分離主義者と戦争を始めたら、米国は数時間で政権交代を目論むことになるだろう」

この戦争は、米国のタカ派政策が直接招いた結果である。米国はウクライナに反露政権を据え、ロシアの目前まで軍事同盟を拡大し、ロシアが支援するドンバス分離主義者との戦いに数十億ドル相当の武器を与え、ミサイル廃棄条約を破棄してポーランドとルーマニアにサイロを設置し、制裁を通じてロシア国民に経済戦争をしかけた。私たちは今、米政府の行動がもたらした結果を目の当たりにしている。

(次を全訳)
Make No Mistake, War Hawk American Policy Helped Start This War in Ukraine | Mises Wire [LINK]

2023-01-19

キング牧師、軍事介入への警告

クインシー研究所上級研究員、ウィリアム・ハートング
(2023年1月15日)

マーティン・ルーサー・キング牧師の誕生日〔1月15日〕は、彼の人生と仕事の意義について一歩下がって考える機会を与えてくれる。人種差別が拡大し、冷戦の雰囲気が漂う今年は、とりわけそのことが重要である。

キング牧師は、暗殺される一年前の1967年4月4日、ニューヨークのリバーサイド教会で行われたベトナム戦争反対の演説で、米内外の苦境の関連について深い理解を示した。
キング牧師は、ベトナムが米国の軍事的冒険主義における孤立した事例ではないことを理解していた。

ベトナム戦争は、米国人の精神が抱える深い病の徴候にすぎない。もしこの深刻な現実を無視するならば……次の世代のために、(ベトナム戦争に反対するような)「聖職者と信徒のための」委員会を組織することになるだろう。この委員会はグアテマラ、すなわちグアテマラとペルーについて関心を抱くだろう。タイとカンボジアに関心を抱くだろう。モザンビークや南アフリカにも関心を抱くだろう。米国の生活と政策に、重大で深遠な変化がない限り、私たちはこれらや他の多くの〔国の〕名前のために行進し、集会に参加し続けるだろう。

米国がどこに介入するかというキング牧師の予測は正確ではなかったが、その述べた経過は、アフガニスタンからイラク、リビア、ソマリア、シリア、そしてそれ以降と、悲しくも実現してきた。

これらの直接的な介入は、世界有数の武器貿易国としての米国の役割を考慮していない。サウジアラビアやアラブ首長国連邦などの国に軍備を供給し、それがイエメンでの残忍な戦争で使われ、直接・間接的に40万人に迫る死者を出している。ストックホルム国際平和研究所によると、米国が2017年から2021年の間に武器を供給した国は103カ国にのぼり、これは世界の国々の半数以上にあたる。世界の多くの市民にとって米国との最初の関わりは、自国政府や敵対国が手にした、米軍や米国が供給した武器である。

このような米国の広範な軍事介入と武器売却の記録は、バイデン政権が公約に掲げた「外交第一」の外交政策とはかけ離れたものである。バイデン政権は、アフガニスタンでの二十年にわたる悲惨な交戦から米国を解放するという公約を守ったことは評価できる。またウクライナのように、ロシアの残忍な侵略をかわすために防衛目的で米国の武器が提供されたケースもある。しかし米国は依然として、五十年以上も前にキング牧師が警告したような、軍国主義的な外交政策に固執している。

クインシー研究所の非常勤研究員でタフツ大学教授のモニカ・トフト氏は、フォーリン・アフェアーズ誌の最近の記事で、米国の軍事力依存がもたらす広範な影響について指摘している。

これは不幸な傾向である。アフガニスタン、イラク、リビアへの米国の悲惨な軍事介入を見ればわかるだろう。武力行使に過度に依存すれば、世界における米国の正当性をも損なう。米国の外交団と海外における米国の影響力が縮小する一方で、米国の軍事的な足跡は増える一方である。

トフト氏は、米国の介入主義が世界における米国の評判に与える影響も指摘している。2013年から2018年にかけて行われたピューリサーチの世論調査では、米国を脅威と考える外国人の数は、その期間に25%から45%へとほぼ倍増した。

キング牧師はまた、横行する介入主義がもたらす国内の影響についても強調した。

数年前、闘争の中で輝く瞬間があった。貧困対策を通じて、黒人も白人も含め、貧しい人々の希望が本当に約束されているかのように思えた。実験があり、希望があり、新しい始まりがあった。その後、ベトナム戦争が勃発し、この政策が壊され、まるで戦争に熱狂した社会の怠惰な政治的おもちゃであるかのように解体されるのを見た。ベトナムのような冒険が、悪魔のような破壊的な吸引管のように、人と技術とお金を引き寄せ続ける限り、米国が貧困層の立ち直りに必要な資金やエネルギーを投資することはないと思った。

軍国主義がもたらす国内の犠牲は今日、痛ましいほど明白である。先月バイデン米大統領が署名した予算は、国防総省とエネルギー省の核兵器関連業務に8580億ドルを提供している。これは連邦政府の裁量予算全体の半分をはるかに超える額である。裁量予算には、社会保障やメディケア(米高齢者向け公的医療保険)のような強制的な給付政策以外に、環境保護、公衆衛生、司法行政、職業訓練、教育など、政府が行うほぼすべての業務が含まれる。一方、議会はコロナ対策に追加資金を得ようとする政権の試みに抵抗し、貧困をなくす最も効果的な手段の一つである児童税額控除を打ち切った。

キング牧師は、戦争国家の根は深く、「人種差別、極端な物質主義、軍国主義という巨大な三つ子」によって動かされていることを理解していた。キング牧師に影響を受け、ウィリアム・バーバー牧師とリズ・セオハリス牧師が共同議長を務める「貧しい人々のキャンペーン」のような団体は、これらの問題に取り組むよう呼びかけている。米国と世界の安全保障、自国の繁栄と平等に多大な利益をもたらす、真の「外交第一」の外交政策を育むには、より多くの団体や個人がそうする必要がある。

(次を全訳)
MLK's anti-war views are more relevant than ever - Responsible Statecraft [LINK]

2023-01-18

ウクライナの偽りの民主主義

ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年1月9日)

ウクライナの米欧応援団は、恥を知らないようだ。事実は異なるという証拠が次々と出てきているにもかかわらず、ウクライナを自由を愛する民主主義国として描き続けている。12月下旬、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領のワシントン公式訪問と議会での演説に伴う政治とメディアの熱狂は、その最新の例である。
ボイス・オブ・アメリカは、ゼレンスキー大統領の演説を、1941年12月に行われたウィンストン・チャーチル英首相の議会演説と比較して、その英雄的な調子と実質的な意義について論じる記事を掲載した。ニューヨーク・タイムズ紙は、ワシントンでゼレンスキー氏が「英雄として歓迎」されたことによって、ウクライナ国民の士気が大いに高まったと主張した。米安全保障関連シンクタンク「19fortyfive」のシニアエディター、マット・スキュ氏は、コロラド州のローレン・ボーバート議員とフロリダ州のマット・ゲーツ議員が「先週行われたゼレンスキー・ウクライナ大統領の議会演説で拍手とスタンディングオベーションに加わることを拒否した」と非難し、ロシアのメディアが彼らの反対意見を強調したと指摘した。評論家デビッド・フラム氏はアトランティック誌に寄稿し、ゼレンスキー氏は「我々を自分自身に立ち返らせ」、民主主義の価値を思い出させたと主張した。フラム氏は、ウクライナの大統領が「ウクライナを支援してくれている私たちに感謝するために米国に来た。感謝すべきは米国人だ」とほめちぎった。

ゼレンスキー氏の演説は、ウクライナはロシアの攻撃から自由の城壁を守る勇敢な民主主義国だという神話を永続させた。バイデン米大統領は、ロシア・ウクライナ戦争の初期に、この紛争は一方では自由と民主主義、他方では権威主義との間の世界的な闘争の一部だと主張し、その態度を象徴していた。ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、ジャーマン・ロペス氏は、「ウクライナに関する西側の永続的な結集は、将来の世界の出来事に影響を与えうる2022年の重要な傾向を例証している」と論じた。ジャナン・ガネッシュ氏がフィナンシャル・タイムズ紙に書いたように、「今年は自由民主主義が反撃した年だった」のである。

複雑な世界をこのように痛々しいほど単純化することは、たとえウクライナが本物の民主主義国であったとしても、十分に悪いことである。しかしウクライナはロシアの侵攻以前からその地位に値しなかったし、同国政府の組織的抑圧への傾斜は、この紛争の勃発以来、はるかに悪化している。今日のウクライナは腐敗し、権威主義的な国家である。最も寛大な定義に照らしても、民主主義国とは言えない。残念ながら、西側諸国のウクライナ支持者はゼレンスキー政権の抑圧的な行動を無視・軽視し、正当化し続けている。

真の民主主義国は、複数の野党を禁止したり、野党系メディアを閉鎖したりはしない。また、存続を許したメディアを厳しく検閲する(政府の厳しい管理下に置く)こともない。真の民主主義国は、政府が嫌う政策を主張する教会を非合法化することもない。政権に反対する者を投獄することもなく、ましてや意味のある正当な手続きなしに、政治犯の拷問を容認することもない。真の民主主義国は、国内外の批評家の「ブラックリスト」を公表し、それによって背中に標的を置くようなことはしない。しかしウクライナ政府はこれらの行為を一つや二つではなく、すべて行っている。

国内批判者の息の根を止める努力は、マイダン革命〔米国に支援された民族主義者が親露派政権を倒した2014年のクーデター〕のわずか数カ月後に明らかになり、この一年ほどで劇的に加速している。ウクライナ当局は早くから、政治的反体制者への嫌がらせ、検閲措置の採用、政府やその政策に対する批判者とみなした外国人ジャーナリストの出入りを禁止していた。こうした攻撃的な行為は、アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、欧州安全保障協力機構などの独立した監視団体から批判を浴びた。

ロシアの侵攻が始まる前から、ゼレンスキー政権下の国内弾圧の度合いはひどくなっていた。今回の戦争以前の民主主義と市民的自由に関するウクライナ政府の実績は、立派だったとはいえない。フリーダムハウスの2022年の報告書では、ウクライナは100点満点中61点を獲得し、「部分的自由」のカテゴリーにリストアップされている。ヒューマン・ライツ・ウォッチの2021年のウクライナに関する報告書も、政府軍による虐待を挙げ、「恣意的な拘束、拷問、虐待を含む」と、好ましいものとは程遠いものであった。ジャーナリストやメディア関係者は「報道に関連した嫌がらせや脅迫に直面」している。2021年2月、ウクライナ政府は、いくつかの野党系メディアをロシアのプロパガンダの道具であるという申し立てに基づき閉鎖した。

2022年秋にロシア系の正教会が直面したように、宗教機関さえも政府の嫌がらせや弾圧から安全なわけではない。12月2日、ゼレンスキー氏はロシアと関係のあるすべての宗教の禁止を目指すと発表し、この動きは「ウクライナに精神的独立を保証する」ために必要だと主張した。この禁止令は、特にロシア正教徒を自認する数百万人のウクライナ人に影響を与えるだろう。実際、ウクライナ政府はすぐに特定の正教会の宗教家に対して制裁を課した。西側諸国の典型的な態度は、あるゼレンスキー擁護者の「この問題は非常に複雑だ」という反応だった。信教の自由を守るための積極的な姿勢とは言いがたい。

政治・メディアによる抑圧の雰囲気はますます濃くなり、政権反対派に対する勝手な投獄や拷問さえも報告されている。しかしウクライナ支持者の中には、同国の政権がネオナチに媚びを売っていることを非難する気さえないように見える人もいる。特にひどいのは、ウクライナ防衛におけるアゾフ大隊(現アゾフ連隊)の役割についてである。アゾフ大隊はロシアの侵攻以前から、極端な民族主義者と完全なナチスの拠点として悪名高い存在だった。

そのため、アゾフ連隊がマリウポリ市の戦いで重要な役割を果たした際、米欧のウクライナ崇拝者にとっては問題となるはずだった。しかしほとんどの報道は、マリウポリの住民の苦しみ、ロシアの侵略者の冷酷な悪意、街の勇敢な守備隊の粘り強さに焦点を当てるだけだった。これらの記事は通常、防衛側にアゾフの戦闘員が目立つことを無視し、そのイデオロギー的な血統を明らかにすることができなかった。しかしアゾフ隊員との共謀は、ウクライナの政治エリートがネオナチ分子やその活動を長年にわたって全面的に許容してきたことの一つの表れでしかない。

おそらく民主主義の規範を軽んじていることが最もよく分かるのは、ゼレンスキー氏とその親しい同僚らが、国内外を問わず最も平和的な反対者たちに対してさえ寛容でないことだろう。外国の批判者を標的にし、威嚇しようとする意欲は2022年の夏、ウクライナ政府の情報対策センター(一部は米国の納税者が出資)がそうした反対者の「ブラックリスト」を公表した際、はっきりと明らかになった。そのリストには、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授、FOXニュースの司会者タッカー・カールソン氏、元下院議員トゥルシー・ギャバード氏、ケイトー研究所上級研究員で元レーガン大統領補佐官のダグ・バンドウ氏ら、多数の著名な米国人が名を連ねていた。

ブラックリストの脅威的な性質は、9月下旬に同センターが上位35人の標的の住所などを修正した名簿を発表した際にさらに明確になった。このブラックリストは、「情報操作テロリスト」「戦争犯罪人」と糾弾している。批判者をテロリストや戦争犯罪人と表現すれば、狂信者が危害を加えるために直接行動を起こすよう奨励することになる。ブラックリストは簡単に殺害リストとなり得るが、ウクライナ政府は自らが煽った危険に対してせいぜい無関心でしかない。

こうした警告のサインにもかかわらず、西側諸国のウクライナ熱烈擁護派はプロパガンダに固執している。その典型的な例が、ブレット・スティーブンス氏によるニューヨーク・タイムズ紙のコラムで、米国人が「ゼレンスキー氏を賞賛するのは、自由世界の理念を本来の位置に回復させたからだ」と主張した。スティーブンス氏によれば、「自由世界の一員とは、国家権力は何よりもまず個人の権利を守るために存在するという考えに賛同する、すべての国である」。スティーブンス氏が言っているのはどの国のことなのだろうか。ウクライナはそのような表現には当てはまらない。

ウクライナを賞賛する西側諸国は、自分たちの大切な外国顧客に関する不愉快な現実に直面する必要がある。ウクライナは民主主義国ではないし、ゼレンスキー氏は民主主義的価値観の高貴で悩める擁護者でもない。ロシアとウクライナの戦争は、自由と権威主義の存亡をかけた戦いの一部ではない。腐敗した抑圧的な両政府間の醜い縄張り争いである。米国をはじめとする西側社会は、この戦いに利害関係を持たない。少なくとも持つべきではない。

(次を全訳)
False Democracy - The American Conservative [LINK]

2023-01-17

ディープステートは目の前に

陰謀を一切信じなくても、ディープステートと呼べるものが本当に存在することは理解できる。本当のディープステートは、陰謀や秘密の会議などとは何の関係もない。白昼堂々、公然と活動している。それは政府の行政部門だ。秘密の陰謀団という物語よりも、はるかに大きな脅威である。
Yes, Virginia, There IS a Deep State—and It Is Worse than You Think | Mises Wire
CIAはMKウルトラ作戦の下で、自組織の職員を含む米国人に対し、知らせないまま実験を行っていた。チャーチ委員会が明らかにしたように、この実験の目的は、ソ連圏に対して使用する洗脳薬の開発、ソ連のスパイ容疑者を尋問するための完璧な自白剤の製造、その他の洗脳の可能性を探ることだった。
JOHN KIRIAKOU: CIA Should Get Out of the Laboratory

CIAはMKウルトラと呼ばれる邪悪な(洗脳実験)作戦が明るみに出た時点で、廃止されるべきだった。ケネディ大統領は国防総省、CIA、国家安全保障局(NSA)とは異なる方向に国を動かそうとしたために、米国の国家安全保障機構によって暗殺された。この結論に多くの米国人が達する日は近い。
A Major Shift in the JFK Assassination – The Future of Freedom Foundation

戦後、米国の安全保障国家への転換を正当化するために使われた公式の敵は共産主義だ。米当局者は、ソ連を拠点とする共産主義者の国際的陰謀が存在すると国民に告げた。この陰謀には共産主義中国も含まれるという。米国内で共産主義者のシンパを探し出し、排除するための十字軍の行進が行われた。

外交政策シンクタンクが資金提供者から受ける影響力について調べた最近の研究によると、シンクタンクはいずれも、核大国の関係組織から寄付を受けていた。調査対象にはブルッキングス研究所、戦略国際問題研究所(CSIS)、大西洋評議会など世界有数の外交政策シンクタンクが含まれる。

今日の米軍上層部に、デビッド・シャウプ(ベトナム戦争に反対した海兵隊将軍)はどこにいるのか。大量殺戮を伴う核戦争に反対を表明する指導者はどこにいるのか。中国やロシアとの新たな冷戦を拒否する指導者はどこにいるのか。戦争ではなく、平和を提唱する勇気のある指導者はどこにいるのか。
The Madness of US Militarism - Antiwar.com Original

米連邦総利払費は2022年5月31日までの12カ月で計6660億ドルだった。短期国債と満期を迎える中期国債の差し迫った追加利息を含めると、その数字は8630億ドルに上る。これは驚異的なコストだ。過去12カ月の国の軍事費は7460億ドル、メディケア(高齢者向け公的医療保険)支出は7000億ドルである。
When Federal Interest Payments Come To Exceed the Military Budget: Time To Stop Defending the Rest of the World - Antiwar.com Original

政府はせいぜい必要悪

社会は交流を促し、政府は区別を生み出す。社会は人間を庇護し、政府は人間を罰する。いかなる形のものであれ、社会は望ましい。しかし政府は、たとえ最良のものであっても、必要悪にすぎない。最悪のものにいたっては、耐えがたい害悪である。
- トマス・ペイン『コモン・センス』
Common Sense (1776) - Foundation for Economic Education
米国民の祖先は、政府が法の正当な手続きなしに人々の財産を奪うことをはっきりと禁止する憲法修正第5条の制定を要求した。この条項の対象は米国人だけではない。すべての人だ。祖先は連邦政府の役人が、外国人を含む誰からも、法の正当な手続きなしに財産を取り上げることを望まなかった。
The U.S. Stealing of Russian Yachts – The Future of Freedom Foundation

「他人の権利を侵害することで、誰の権利も守ることはできない」
「世界一小さなマイノリティは個人だ。個人の権利を否定する者は、マイノリティを守ると言うことはできない」
「個人の権利は国民の投票に左右されない。……権利の役割は、多数派の抑圧から少数派を守ることにある」
- アイン・ランド
35 of Ayn Rand’s Most Insightful Quotes on Rights, Individualism, and Government - Foundation for Economic Education

植民地時代のインドでコブラが大量発生し、政府がコブラに賞金をかけたところ、コブラが減った。すると人々は起業し、自宅でコブラを飼育し、殺して賞金を得るようになった。政府が賞金を廃止すると、コブラを家で飼っていた人々は、すべて路上に放した。結局コブラ問題は、前より大きくなった。
The Cobra Effect: Lessons in Unintended Consequences - Foundation for Economic Education

なぜ女性は男性より収入が少ないのか。市場における生産性が平均して男性よりも低いからだ。有力な根拠は「夫婦の非対称性仮説」だ。既婚の女性は家事、育児、料理、掃除、買物などの大半を担う。彼女たちの関心が向くのは家庭であり、ビジネスではない。だからビジネスの領域では生産性が低い。
Can Wage Transparency Fix the Pay Gap? - LewRockwell

欧米では、主流派のジャーナリストが他の主流ジャーナリストの虚偽の報道、プロパガンダの助長、ジャーナリズムの不正行為について責任を問うのは非常にまれだ。欧米のジャーナリストは、仲間からの承認を得ることに人生のすべてを費やす、価値のない卑屈な臆病者だからだ。
Western Journalists Are Cowardly, Approval-Seeking Losers

2023-01-16

ゼレンスキーの胸像

ウィルソン米下院議員(共和党)は米議事堂にゼレンスキー・ウクライナ大統領の胸像を置く法案を提出し、保守派の共和党議員から批判を浴びた。批判の理由は「ウクライナは米国の51番目の州ではない」「同国は汚職まみれ。民主主義を守る戦いではない」「納税者の支援なのに監視が皆無」など。
House Republican Introduces Resolution to Place Bust of Zelensky in the Capitol - News From Antiwar.com

ウクライナのゼレンスキー大統領はゴールデン・グローブ賞で演説し、ウクライナはロシアとの戦争に勝ち、紛争が第三次世界大戦に発展することはないと述べた。ゼレンスキー氏は事前に録画したビデオ演説を行い、ロシアの侵攻以来何度もウクライナを訪れている俳優のショーン・ペン氏が紹介した。
Zelensky Addresses Golden Globes, Says There Will Be No 'World War III' - News From Antiwar.com

ウクライナは汚職にまみれた抑圧的な独裁国家であり、たとえ「民主主義」の最もゆるい定義を使ったとしても、自由を愛する民主主義国家ではない。また、ロシアとウクライナの戦争は、ありふれた利害関係をめぐる厄介な縄張り争いであり、善と悪の存在をかけたグローバルな対立の一部ではない。
Using Ukraine as a Bloodied Pawn - Antiwar.com Original

米NPOのフリーダムハウスはバイデン大統領への公開書簡で、ゼレンスキー・ウクライナ大統領の言論抑圧に対し強い姿勢を取るよう促した。「ゼレンスキー氏はデマとの戦いを口実に、司法審査なしで行政権を行使し、メディア、プラットフォーム、ジャーナリスト、ウェブサイトを制裁し続けている」
President Zelensky Has A History Of Crushing Press Freedom

ミンスク協定でプーチン露大統領のパートナーだった3カ国(独仏ウクライナ)は最近、同協定が平和的解決を約束してロシアを停戦に導き、ウクライナに軍備増強の時間を与える意図的な欺瞞だったと認めた。これは欧州がロシアに嘘をつき、外交の隠れ蓑の下で軍事的解決の準備をしたということだ。
Did Europe Lie to Russia About Peace? - Antiwar.com Original

ロシアとウクライナは、基本的かつ重要な問題で公に合意した。ロシアがウクライナで戦っている相手は誰かという問題だ。ウクライナのテレビ局とのインタビューで、同国のレズニコフ国防相は、ウクライナは「すでに事実上NATO同盟の一員となった」と答えた。
Ukraine And Russia Agree - Russia Is Fighting NATO - LewRockwell

最近公開されたカナダ軍の機密文書によると、ボスニア紛争時、米国は戦争を長引かせ、ユーゴスラビアを瓦礫の山にし、セルビアを暴力で屈服させようと画策した。CIAの闇作戦、違法な武器輸送、イスラム過激派戦闘員の投入、疑われる偽旗作戦、残虐行為の演出などによってボスニア側を支援した。
Declassified intelligence files expose inconvenient truths of Bosnian war - The Grayzone

中国軍が2026年に台湾へ上陸作戦を実行すると想定した米戦略国際問題研究所(CSIS)の机上演習によると、大半の結果は中国の勝利を予測しないものの、どのシナリオでも台湾、中国、米国、日本に甚大な損害を与える。米軍は中国との戦闘が始まって3週間で3200人の兵力を失うと試算している。
War with China over Taiwan won't end well for anyone - Responsible Statecraft

米下院が創設を決めた「中国特別委員会」は、中国がもたらす課題にうまく焦点を当てるのか、それともすでに危険な状態にある米中対立をさらに激化させるのか。新冷戦の構図は両経済大国の互恵的な協力の機会を絶ち、反中排外主義を煽り、悲惨な「熱い戦争」に転化する危険を増大させかねない。
House creates controversial new select committee on China - Responsible Statecraft

所得税を廃止せよ

所得税は単に「改革」するのではなく、廃止しなければならない。政府が私たちの所得に対して第一の権利を有するという考えに根ざしているからだ。この考えは自由な社会とは相容れない。国税庁の暴力は、中央銀行の詐欺とともに、自由と繁栄を侵食する福祉戦争国家の二つの基盤のうちの一つだ。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Trump’s Tax Returns Show Evil of the Income Tax [LINK]
合衆国憲法は承認からわずか73年後、流血の内戦(南北戦争)を防げなかった。(憲法採択と連邦政府の強化を主張した)連邦党の約束は誤りだった。自由の保障はさらにお粗末だ。第二次世界大戦中の日系人の強制収容や国民監視など、憲法は自由に対する無数の攻撃を正当化するために使われてきた。
The Constitution Failed. It Secured Neither Peace nor Freedom. | Mises Wire [LINK]

民主主義の正統性が、十分な情報を得た国民の同意に基づくものならば、米国の2020年の選挙もブラジルの2022年の選挙も、正統なものとはいえない。特定の政治目的を達成するために、政治家によって明らかに操作されたものである。「民主主義」はエリートが望む結果をもたらすときのみ神聖なのだ。
America, Brazil, and the Illegitimacy of Weaponized Democracy | Mises Wire [LINK]

独占について気にしなければならないのは、国家による特権だけだ。独占とは、ある特定の個人または集団に、ある生産分野を確保することだ。その分野への参入は他者には禁止され、その禁止は国家によって強制される。新たな競争に対し法的な障害がない限り、市場は自由かつ競争的であり続ける。
Again the Government Is Taking Antitrust Action against Microsoft. Again This Is Wrong. | Mises Wire [LINK]

米食品医薬品局(FDA)元長官のゴットリーブ氏は2021年8月、自然免疫はワクチンによる免疫より優れているというイスラエルの研究結果を知らせるツイートに苦言を呈した。同氏は当時ファイザー社に勤務。同社は数十億ドルの補助金を得て製品を製造して特許を取得し、製造物責任免責の恩恵も得ていた。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : The Censorious Scott Gottlieb Was a Major Influence on Lockdowns [LINK]

コロナ「ワクチン」が大量虐殺でなければ、以下をどう説明するのか。著名な医学者がmRNA「ワクチン」について事前に警告を発していたのに、検閲を受け処罰された。PCR「検査」の発明者が、この検査はウイルスの存在を示さないと述べていたのに、無視された。「ワクチン」の有害な影響の証拠が、ファイザー社とFDAによって秘密にされた。
The Covid 'Vaccine' Is an Intentional Effort at World Genocide - LewRockwell [LINK]

中南米のような潜在力の高い地域が、なぜスタグフレーションに見舞われるのだろう。コロンビア、チリ、ブラジルでポピュリスト政権が台頭し、投資の安全、財産権、金融規律に対する懸念が高まったからだ。これらの国の政策は国民を依存させることを目的としており、成長を実現するものではない。
Latin America's Descent into Interventionism Continues | Mises Wire [LINK]

2023-01-15

【コラム】獣というレッテル貼り

木村 貴

ノーベル賞作家、スベトラーナ・アレクシエービッチ氏の朝日新聞インタビュー記事第1回のタイトルは「人から獣がはい出したウクライナの戦争」である。これはアレクシエービッチ氏の「ウクライナ侵攻では人間から獣がはい出しています」という発言から取られている。獣という言葉は印象的だ。同氏は別の箇所で、「ドストエフスキーやトルストイは、人間がなぜ獣に変貌するのか理解しようとしてきました」とも述べている。
人間に潜む獣性は、たしかに文学でも扱われる深刻な問題だ。しかしその前提となるのは、獣はあらゆる人間に潜むという普遍的な事実である。ある特定の国民や民族だけの特殊な問題ではありえない。

ところが今回のインタビューを読む限り、アレクシエービッチ氏の目に映る獣は、ロシア人だけである。これまで同氏が語ったエピソードはどれも、信憑性はともかく、ロシア人の残虐さを示すものばかりだ。こういうのもある。「彼ら〔ウクライナ人〕は絶望の淵に立たされています。街が破壊され、人々が拷問を受け、殺されているからです」

ロシア兵による反人道的行為はデマの可能性があることはすでに触れたが、かりに事実としても、それと同様の行為はウクライナ側も行なっている。ウクライナ軍は親ロシアのウクライナ市民に砲撃を加えているし、ソーシャルメディアは規制もあるものの、ウクライナでロシア系市民が「スパイ行為」などへの制裁として柱に縛られ、顔にペンキで落書きをされたり、下半身をむき出しにされたりする映像が流れている。

ウクライナによるこれらの野蛮な行為は、まさに獣の所業としか言いようがない。ところが人間に潜む獣に深い関心を抱くはずのアレクシエービッチ氏は、ウクライナ側の反人道的行為については一言も語らない。「ウクライナ=善」「ロシア=悪」という政治的図式に反し、都合が悪いからだ。

アレクシエービッチ氏は人間に潜む獣という深遠なテーマを掲げてみせるが、結局その背後にあるのは、とにかくロシアを邪悪なものとして描きたいという、政治的な意図でしかない。文学ではなく、プロパガンダである。議論に箔を付けるために名前を出されたドストエフスキーやトルストイにしてみれば、迷惑千万だろう。

獣という言葉によって、アレクシエービッチ氏の議論がなにやら高尚に見える読者もいることだろう。しかし実際は逆だ。特定の国民・民族に獣というレッテルを貼り、非人間的な存在と決めつけることは、過去のさまざまな人種差別を持ち出すまでもなく、きわめて卑劣で危険な行為だ。相手が人間でなければ、どんなに残酷な扱いをしようと正当化されてしまう。

獣というレッテル貼りは、とりわけ戦争中には悪い影響を及ぼす。戦争をやめる和平交渉には互いに妥協が必要だが、相手は獣のように邪悪な存在だという見方がプロパガンダによって国民の間に広まっていればいるほど、妥協は許されず、相手が破滅するまで戦いをやめないという強硬ムードが強まってしまうからだ。

しかし、もし和平交渉を拒み、戦争を長引かせることこそ目的であれば、獣のレッテル貼りは役に立つ。そして事実、アレクシエービッチ氏はインタビュー記事の第2回で、妥協による平和ではなく、あくまでもウクライナの勝利に対する希望を表明するのである。

「今、何がウクライナの人々のよりどころになっているのでしょう」という記者の質問に対し、アレクシエービッチ氏はこう答える。

私はベルリンで大勢のウクライナ難民と会っています。彼らは皆、まもなくウクライナが勝利すると信じています。なぜなら、国民全員が立ち上がったからです。全てのウクライナ人があらがい、故国を守っています。おそらく、これこそがいま、ウクライナ人が(絶望に)打ち勝ち、耐え抜くためのよりどころなのでしょう。

アレクシエービッチ氏は「国民全員が立ち上がった」「全てのウクライナ人があらがい」とぬけぬけと語るが、これほど露骨な事実の無視はない。すでに説明したように、ウクライナ東部にはロシア系住民がいて、政府から迫害されており、そのためロシアに助けを求めている。これがそもそも2022年2月にロシアが「侵攻」に踏み切った理由の一つだ。けっしてウクライナの「国民全員」がロシアに対して「立ち上がった」わけでもなければ、「全てのウクライナ人があらが」っているわけでもない。

つづいてアレクシエービッチ氏は、「この戦争はどのように終わると思いますか」という記者の質問に対し、こう答える。

私はウクライナが何らかの勝利を収める形で終わると考えています。世界が団結し、ロシアのファシズムに立ち向かうのです。ロシアのファシズムは危険で、ウクライナで止まるとは限りません。プーチンは(ソ連から脱退した)バルト3国やモルドバのことも惜しんでいます。ソ連の全ての断片を惜しんでいるのです。ウクライナが戦っているのは自らのためだけではなく、全世界のためです。

ウクライナとロシアが交渉によって妥協の道を探り、早期に平和を実現するべきだという考えは、アレクシエービッチ氏の頭にはかけらもない。あくまでも「ウクライナが何らかの勝利を収める形で終わる」という道しかない。つまり戦争を続けるということだ。同氏の代表作のタイトルは『戦争は女の顔をしていない』だが、ひたすらウクライナの勝利を念願するアレクシエービッチ氏は、間違いなく戦争の顔をしている。

たんにウクライナが戦争を続けるだけではない。「世界が団結し、ロシアのファシズムに立ち向かう」ことが必要だという。「団結」とは具体的には、すでに西側諸国が実行しているように、武器をふんだんに提供することだろう。さらに踏み込んで、米欧(あるいは日本も)がロシアと直接交戦することも含むのかもしれない。少なくともアレクシエービッチ氏はそれを否定していない。そうなれば核戦争も現実味を帯びる。チェルノブイリ原発事故の遺族の声に耳を傾けてきたというアレクシエービッチ氏が、核戦争につながりかねない紛争激化は容認するのである。

ロシアは「ファシズム」で、ソ連時代の領土の回復をたくらんでいるという。根拠のあやふやなこうした主張をもとに、アレクシエービッチ氏は全世界がウクライナとともに戦わなければならないという。ロシアがファシズムかどうかはさておき、ウクライナでネオナチというファシズム勢力が政府に組み込まれているのは紛れもない事実だ。もしファシズムがそれほど問題なら、西側によるウクライナ支援は即刻停止しなければならないだろう。しかしもちろん、アレクシエービッチ氏はそんなことは一切言わない。

アレクシエービッチ氏は最後まで、「ウクライナ=善」「ロシア=悪」のプロパガンダを、事実を無視して読者に刷り込もうとする。記者から「ウクライナ、ロシア、ベラルーシの3国は、これからどうなるでしょうか」と問われ、「民主的な道を歩み始めたウクライナは、今後もその道を行くでしょう」と答える。

ウクライナは「民主的」だろうか。そうは思えない。今回の戦争が始まる前から、世界で最も腐敗した国の一つといわれ、汚職が横行している。反体制者への嫌がらせ、検閲、批判的とみなした外国人記者の出入りを禁止し、国際人権団体などから批判された。複数の野党系メディアを「ロシアのプロパガンダの道具である」という疑惑のもとに閉鎖した。戦争が始まるとさらに悪化し、ゼレンスキー大統領は野党を非合法化し、いわゆる偽情報を防ぐために全国のテレビ局を一つの組織に統合した。

これらの事実をアレクシエービッチ氏や、インタビューした朝日の記者が知らないはずはない。それにもかかわらず、何も触れず、ウクライナを「民主的」と持ち上げる。こうした欺瞞と偽善に満ちた記事が、正月の目玉企画として日本の代表的新聞の紙面を飾る。文学者とメディアの堕落に対する絶望は深い。(この項おわり)

ロシア「侵攻」の理由

なぜロシアは2022年にウクライナで戦争をする決断をしたのか。米国とNATOが約束を破り、ロシア国境に向かって東進して以来、20年以上。米国がウクライナのクーデターを支援し、民主的に選出された親露政権を排除してから8年。米国がウクライナに兵器をあふれさせ始めてから5年が経っていた。ロシアが2022年にウクライナ侵攻を決定した理由を説明するために、戦争に至るまでの発言や出来事を分析することは、戦争を正当化し容認することにはならない。国連安保理を迂回した戦争はつねに違法だ。しかし、第一に戦争を回避し、第二に交渉によって戦争を終結させるには、必要な分析である。
Why Russia Went to War in 2022 - Antiwar.com Original [LINK]
自国の「ルールに基づく国際秩序」を維持するために「ロシアを弱体化」させ、最終的には中国も弱体化させるという現在の米国の任務には、シリアの指導者が油田や最高の農地を利用できないようにシリアの一部を軍事占領し続けるという、偽善的で国際法の下で完全に違法な異常事態が含まれている。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Will 2023 be Worse Than 2022? [LINK]

1992年にチェイニー元米副大統領の指示で策定されたウォルフォウィッツ・ドクトリンにあるように、あらゆる競争相手の出現を阻止することがグローバル支配エリートの目標だ。後に「ブッシュ・ドクトリン」と呼ばれたこの原則は、中国と並ぶ競争相手であるロシアの弱体化に使われようとしている。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Medvedev Suggests Parking Hypersonic Missiles Near the Potomac [LINK]

米外交政策に関するいくつかの嘘。「NATOは1インチたりとも東に動かない」「イラクに大量破壊兵器がある」「トランプとプーチンの共謀」「ハンター・バイデンのノートPCはロシアの情報操作を示す特徴だらけ」「ウクライナ支援に対する一部共和党員の監査要求は、プーチンのプロパガンダの影響」
Lies, Democracy, Foreign Policy, and the Search for Peace - Antiwar.com Original [LINK]

米上院の多数派は、ウクライナでの民間人殺害にジェノサイドとレッテルを貼る。だがジェノサイドには定義がある。ある民族や宗教の集団が大量に殺害されることだ。ロシアの民間人殺害をジェノサイドと決めつけたい人々は、日本が広島・長崎への原爆投下をジェノサイドと主張したらどう答えるのか。
Against Undiplomatic Diplomacy - The American Conservative [LINK]

米軍当局は2021年8月のカブールでの無人機攻撃で、子供を含むアフガニスタンの民間人が死亡した可能性が高いことを知りながら、嘘をついていた。NYタイムズが報じた。攻撃では7人の子供を含む一家10人が死亡していた。国防総省は、今回の民間人殺害により誰も罰されることはないとしている。
Pentagon Doc Reveals US Lied About Afghan Civilians Killed in 2021 Drone Strike - Antiwar.com Blog [LINK]

イスラエルの極右党首、ベングビール国家治安相による聖地「神殿の丘」の訪問は、いわゆる現状維持を脅かすとされている。しかし今日、現状維持の合意はほとんど残っていない。イスラエル占領軍は聖地への入場を独占的に決定し、イスラム教徒の礼拝はイスラエルが決めればいつでも制限できる。
Is Ben-Gvir Preparing a Holy War Against the Palestinians? - Antiwar.com Original [LINK]

2023-01-14

軍隊社会と契約社会

英哲学者スペンサーによれば、17〜19世紀の英政治史は、二つの将来像の対立だった。一方は国を強制的な身分制の軍隊社会にしようとする。他方は自発的な契約社会にしようとした。前者は絶対主義のトーリーと大きな政府のリベラルで、後者は反絶対主義のホイッグと小さな政府の自由主義者だ。
Herbert Spencer’s Two Types of Society - Foundation for Economic Education [LINK]
経済学者ミーゼスによれば、社会的な協力には、契約(自発的な合意と互恵)に基づくものと、覇権(命令と従属)に基づくものの二種類がある。戦争好きで貧困に苦しむ野蛮な社会から、平和で豊かな文明への歴史の進歩は、命令が契約に変わり、強制的な覇権が自発的な調和に変わるなかで実現した。
It's Either Commands or Contracts - Foundation for Economic Education [LINK]

個人をその人自身の決断、行動、状況によって判断するのではなく、集団によって人を分類することは、便利かもしれないが、ほとんどの場合、表面的で誤解を招く。貧しい人々は、形のない、寄せ集めの塊ではない。金持ちも、その中間にいる集団にしても同じだ。私たちは皆、異なる個人なのだ。
 ‘Are You For the Rich or Poor?’: The Proper Way to Answer the Question - Foundation for Economic Education [LINK]

スコラ哲学のサラマンカ学派、聖トマス・アクィナス、経済学者カール・メンガーに共通するのは、理性を使って客観的な現実を理解しようとする姿勢である。その結果、神学、経済学という探求の方法は異なっても、これらの優秀な人たちは同じ結論に達する。
Learning Economics From the Catholics | The Libertarian Institute [LINK]

トランプはオバマの大統領令を取り消したことで独裁者と糾弾された。一部の反トランプ派にとって、パリ協定離脱ほどひどい話はない。だがオバマは上院の承認手続きを経ずに協定を批准した。反トランプ派の多くは、独裁者そのものに反対しているわけではなく、異なる独裁を望んでいるにすぎない。
Donald Trump Didn't Create the Dictatorial Presidency, He Inherited It - Foundation for Economic Education [LINK]

ファストファッションは環境汚染をもたらすと非難される。もしそれが本当だとしても、責任は生産者ではなく、汚染した者にある。自動車のタイヤも捨ててはまずい場所に積まれているが、タイヤメーカーは顧客が製品を使い終わった後どうするかについて、ほとんど責任を負わない。衣料品も同様だ。
Fast Fashion Is Evil? Think Again - Foundation for Economic Education [LINK]

人が手に入れるものはすべて、自然からの無償の贈り物以外、何らかの形で代価を払わなければならない。世の中にはエコノミストと呼ばれる人たちがたくさんいるが、この人たちは逆に、何もしないで何かを得る策略ばかり語る。
 - ヘンリー・ハズリット(ジャーナリスト)
 25 of the Greatest Quotes on Economics and Capitalism (That You've Probably Never Heard) - Foundation for Economic Education [LINK]

2023-01-13

国境は投票で決めよう

経済学者ミーゼスは、もし人々に自決の権利があるなら、不変の国境によって特定の政治連合(国家)に閉じ込めることはできないと考えた。ミーゼスにとって自決とは、どのような政府の下で暮らすかについて、住民が自ら投票できるようになることである。その選択は地域・村レベルでも可能である。
The Borders Between US States Are Obsolete | Mises Wire [LINK]
国政選挙に勝つよりも、必要最小限の同志が結集するほうが簡単だ。多くの小さな単位が契約に基づいて協力することは、特にデジタル時代には組織的・財政的に効率がよく、政治的な対立がなく、文化的にも自律的である。契約か協同組合で、決まった土地に意図的なコミュニティを設立するのである。
Parallel Structures Are the Only Way to Freedom | Mises Wire [LINK]

経済の繁栄やほぼあらゆる形の文化的達成という点で、米国の実験が収めた空前の成功は、個人の権利とそれに伴う小さな政府という岩盤の上に築かれた。小さな政府とは、依存心を煽るような福祉国家が存在しないことを意味し、それによって米国人は自立と強い人格の文化を維持することができた。
Running Away from Our Own Revolution - Foundation for Economic Education [LINK]

人物Xは決定論者、人物Yは非決定論者だとする。Yは自由意志を信じているが、Xは信じていない。もしXが人間には自由意志がないと信じているならば、決定論が真実だとYに説得しようとするのは不合理だ。非決定論者に自分の立場を納得させようとする決定論者は、自分の立場を否定することになる。
Objection, Professor Harari! Logic Proves the Existence of Free Will | Mises Wire [LINK]

BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)、上海協力機構(SCO)、ユーラシア経済連合は、米ドルに代わる国際貿易決済の主要な手段として、商品ベースの為替媒体を開発する作業部会を立ち上げた。ドルや米国にとっては損失となるだろうが、世界は全体として利益を得ることになる。
World Dollar Hegemony Is Ending (and That May Be a Good Thing) | Mises Wire [LINK]

『くまのプーさん』は純粋にアナーキーな物語だ。さまざまな種類の野生動物が、誰からも支配されることなく、森の中で仲良く暮らしている。とくに難しい問題をクリストファー・ロビンに相談することもあるけれど、彼は権威というよりも信頼できるアドバイザーだ。
16 Children's Books You Didn't Know Were Anti-Authoritarian - Foundation for Economic Education [LINK]

聖書「箴言」の経済の知恵。
怠惰より勤勉を
「手のひらに欺きがあれば貧乏になる。勤勉な人の手は富をもたらす」
一攫千金を狙うな
「勤勉な人はよく計画して利益を得、あわてて事を行う者は欠損をまねく」
誠実に生きよ
「うそをつく舌によって財宝を積む者は、吹き払われる息、死を求める者」
7 Financial Tips From the Book of Proverbs - Foundation for Economic Education [LINK]

2023-01-12

アゾフ連隊の正体

アゾフ連隊(元アゾフ大隊)は2014年、ウクライナ内務省管轄の国家警備隊に正式に編入された。諜報機関SBU(ウクライナ保安局)とも連携し、政府に統合されている。世界の軍隊中、唯一知られるネオファシスト構成員だ。メンバーはかつてのドイツのSS部隊と同じく、ヴォルフスアンゲル(狼用の罠)の黄色い腕章を身に着けている。
On the Influence of Neo-Nazism in Ukraine [LINK]
米国防総省とCIAは1979年、今回のウクライナ戦争と同じように、策謀でロシアをアフガニスタンに侵攻させた。陰謀論ではない。ブレジンスキー国家安全保障顧問は驚くほど正直に、意図してそれを行ったと認めていた。彼はそれを誇りにしていた。いかにしてロシア人を罠にはめたかを自慢していた。
The Evil Strategy of “Degrading" Russia – The Future of Freedom Foundation [LINK]

米国がウクライナへの支援をほのめかさなかったら、同国はロシアの要求にもっと譲歩していた可能性がある。重要なのは中立を約束し、ミンスク合意を完全履行することだったろう。米国の支援はウクライナの指導者に誤った救済の希望を与え、政治的な痛みを伴う措置を避ける理由を与えてしまった。
When courting quasi-allies like Ukraine becomes a moral hazard - Responsible Statecraft [LINK]

ソ連共産党がロシアを乗っ取る以前には、今のウクライナの国境に少しでも似た国は存在しなかった。それどころか、現在のウクライナを構成する領土の大部分は、過去3世紀の大半の間、ロシアと結合していた。だから最近ロシアに「併合」された4つの領土は、以前からロシアの不可欠な部分だった。
Ukraine Was Not Built To Last - Antiwar.com Original [LINK]

米スパイ会社アノマリー6が、クリミア大橋爆破などウクライナ紛争での危険な破壊行為に関し、英軍に情報を提供していることが流出文書で明らかになった。同社は自社の技術を精密なものとして売り込む一方で、大量の個人データを収集し、無実の個人を安全保障上のリスクと偽って標的にしている。
British-run spy tech powers Ukraine proxy war, putting civilians at risk - The Grayzone [LINK]

米国の政治指導者はいつも、敵の行動に十分力強く反応しなければ、敵は自分の軍事行動が米国の政策に決定的な影響を与え、米国とその同盟国を後退させることができると考えるのではと恐れている。そのような恐怖に駆られた紛争拡大はいつも、決定的で屈辱的な米国の敗北をもたらすだけだった。
Can NATO and the Pentagon Find a Diplomatic Off-Ramp From the Ukraine War? - Antiwar.com Original [LINK]

中国に対するタカ派的な姿勢は、小さなならず者国家に対するよりもはるかに深刻な危険を米国にもたらす。ウクライナを軍事上の代理人としてロシアと戦うことで、米国が抱えた大きなリスクさえも上回る。東アジアの同盟国や傀儡国家、特に台湾を守ることは、中国と直接戦争するリスクを意味する。
China: For some, where restraint ends and hawkishness begins - Responsible Statecraft [LINK]

2023-01-11

強まる検閲圧力

デマと分類されたものに対する政府の検閲は今年も強まるだろう。批判者に対する政府の攻撃は続く。政府や企業の検閲官は、危険なデマ作戦から国民を守ると主張しているが、実際は、権力エリートによる国民生活の支配に挑戦するかもしれない、「危険」な考えに先手を打つための土台を作っている。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : What to Expect from the Government in 2023? More of the Same [LINK]
いわゆる非合法な思想の検閲から真実の封殺までは、気づけばあっという間だ。やがて英作家ジョージ・オーウェルが予言したように、真実を語ることは革命的な行為になるだろう。政府が言論を統制することができれば、思想を統制することができ、ひいては市民の心を統制することができる。
From Totalitarian Paranoia to Authoritarian Madness – The Future of Freedom Foundation [LINK]

アダム・シフ米下院議員(民主党)がツイッター社に圧力をかけ、コラムニストら批判者を検閲させようとしたことがわかった。シフ議員はこれまで、悪名高いハンター・バイデン氏のノートPCがロシアのデマだとか、2016年大統領選でトランプ氏とロシアが共謀したとかいう誤った主張を押し通した。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : 'We Don’t Do This': Adam Schiff and the Underbelly of American Censorship [LINK]

公平な検閲など存在しない。ある種の言論を規制する法律を含め、法を公平に解釈し適用できる人は最高裁判所の職員に違いないと考えるかもしれない。しかしブラジルでは米国と同様、判事は大統領に指名される。最高裁判事11人のうち7人は、ルラ大統領(1期目)か次のルセフ大統領が指名した。
Brazil Is Proving That There’s No Such Thing as Unbiased Censorship - Foundation for Economic Education [LINK]

合衆国憲法修正第4条は、データを保存する機器の内容を保護する。したがってモバイル機器やパソコンの所有者は、そこに保存されているデータについてプライバシー権を有する。この条項の狭い解釈でさえ、コンピューターチップは「物品」であり、したがってその所有者はこの保護を享受する。
A Government That Assaults Liberty - Antiwar.com Original [LINK]

自由な言論を通じ真実を発見するには、何よりもまず政府の干渉を排することが必要だ。しかし反対意見や討論を敵視する文化では、うまくいかない。異論を唱える人が襲われたり職を失ったりすれば、社会で力のある人や、世間の一般的な理念と同じ考えの人しか、恐れずオープンに発言できなくなる。
Why George Orwell's Quote on 'Self-Censorship' Is More Relevant Than Ever - Foundation for Economic Education [LINK]

世の中には、特に政治など世間の関心事について、膨大な量の偽情報が存在する。主流の報道機関は、できるだけ多くの人に番組を見てもらい、記事を読んでもらうなどしてお金を稼いでいる。そのために、すべてをできるだけ怖く、刺激的で、許しがたく、ドラマチックに聞こえるようにしようとする。
3 Proofs That the Corporate Press is Complete Propaganda | The Libertarian Institute [LINK]

2023-01-10

【コラム】「ナチはいない」は真実か?

木村 貴

さて、ノーベル賞作家のアレクシエービッチ氏は、朝日新聞デジタルのインタビュー記事第1回の後半から、ロシア非難をさらにヒートアップさせる。ロシア人は「獣」だと言い出すのだ。そしてロシア人が獣になった原因について、「私はロシア人を獣にしたのはテレビだと思います」と言う。
どういうことか。アレクシエービッチ氏は続ける。「プーチンはこの数年、戦争の準備をしてきた。テレビはウクライナを敵として描き、人々を、ウクライナを憎む獣にするために働きかけてきました」

これを受け、朝日記者が付け加える。「ロシアではプーチン氏が大統領に就任した2000年以降、政府によるメディア掌握が進んできました。ウクライナ侵攻でも政府の主張に沿ったプロパガンダが展開されています」

つまり、ロシアではプーチン大統領率いる政府が、テレビを通じて自分に都合の良いプロパガンダ、つまり嘘を振り撒き、ロシア人はそれを信じ込んで、「ウクライナを憎む獣」になってしまったというのだ。

それでは、ロシア政府がテレビを通じて吹聴した嘘と、それに対する真実とは、どのようなものか。アレクシエービッチ氏は二つ例をあげる。

一つは、「ナチ」の存在だ。アレクシエービッチ氏はこう話す。

あるウクライナ兵が、(侵攻後に)捕虜にしたロシア兵に「母親に電話して実情を伝えれば解放してやる」と言いました。電話で「ママ、ここにはナチはいない」と話したロシア兵に、母親は「何を言ってるの。誰に吹き込まれたの」と叫んだ。母親が口にしたのはテレビが流す内容でした。

わかりにくいが、ウクライナ兵に捕まったロシア兵が、母親に電話で「ママ、ここにはナチはいない」と「実情」(真実)を伝えたところ、テレビに洗脳された母親はそれを信じず、「何を言ってるの」と驚いたというのだ。ここでいう「ナチ」とは、ナチスドイツの思想を信奉する、いわゆるネオナチのことだろう。

ようするにアレクシエービッチ氏はこのエピソードで、ロシア政府はテレビを通じ「ウクライナにはナチがいる」という嘘をロシア人に信じさせているが、実際には「ナチはいない」というのが真実だと言っているわけである。

ロシアが一方的に侵攻に踏み切ったというストーリーと同じく、この「ウクライナにナチはいない」という主張も、最近の大手メディアの報道にしか接しない人は、なんとなく信じてしまうかもしれない。だが以前から欧米のネオナチ問題に関心のある人なら、違和感を覚えるはずだ。

なぜなら以前は大手メディア自身、「ウクライナにナチはいる」と報じていたからだ。他ならぬ朝日新聞社が運営する言論サイト「論座」の2022年3月23〜24日連載記事で、ルポライターの清義明氏が伝えるように、2014年に設立された準軍事組織「アゾフ大隊」(その後「アゾフ連隊」)の中核メンバーはネオナチ集団であり、その事実は2017年時点でニューヨーク・タイムズ、ガーディアン、BBC、テレグラフ、ロイターなど米欧の主要メディアが取り上げていた。

「欧州の極右事情やウクライナ情勢に詳しい人ならば、この数年でウクライナの極右・ネオナチの存在が問題化していたことは常識のレベルの話である」と清氏は述べている。

その後、ウクライナからネオナチがいなくなったわけではない。昨年のロシア「侵攻」後、メディアが一斉に口をつぐんでしまっただけだ。邪悪なロシアに立ち向かう「善」であるはずのウクライナに、ナチがいては都合が悪いからという「忖度」にしか見えない。

このように言うと、「ネオナチはどの国にもいる」と「反論」する向きがある。たしかにネオナチの存在は、欧州中心に多くの国に共通した社会現象だ。しかしウクライナではアゾフは正規軍に編入され、これとは別の「国家親衛隊」という内務省管轄として特設された特殊部隊では、その中核を担う存在にまでなっている。ネオナチが正規軍に組み込まれているのは、世界でウクライナだけだ。この事実は、さきほどの「論座」記事で清氏が指摘している。ウクライナにおけるネオナチと政府権力との関係は、他の国とは比べ物にならないほど深い。

西側メディアでも報じられたそうした事実を、アレクシエービッチ氏が知らないはずはない。それにもかかわらず、ウクライナにおけるナチの存在をテレビの洗脳による妄想にすぎないと切り捨てるとは、言論人としての姿勢に不信を抱かずにいられない。

そもそも、ロシア兵捕虜に対するウクライナ兵の「実情を伝えれば解放してやる」という言葉は、明らかな脅しだ。脅されて口にした「ママ、ここにはナチはいない」という言葉は真実ではなく、むしろ解放されたい一心からの偽りではないかと疑うのが、作家の観察眼以前に、常識というものだろう。

もう一つのエピソードは、ウクライナ東部ハリコフ(ハルキウ)への爆撃だ。これはさらにわかりにくい。まずはそのまま引用しよう。

こんなロシア人女性もいました。「ええ私の姉妹はハリコフ(ハルキウ)に住んでいます」。ハリコフは何度も爆撃された街です。「それでも、私は自分の大統領を信じています」。残念ながら、テレビは大きな力です。私たちは甘く見ていました……。

すでに述べたように、ロシア人はウクライナ、とくに東部に親族が多い。このロシア人女性も、ハリコフに姉妹がいる。そのハリコフは「何度も爆撃された街」だという。誰から爆撃されたのか。この文脈からすれば、ロシアからとしか読めない。だからこのロシア人女性も「自分の大統領」、すなわちロシアのプーチン大統領がいつか爆撃をやめると信じていた。しかし残念ながら、プーチン氏はテレビで洗脳された国民の支持をいいことに、爆撃をやめようとしない——。補って考えると、こうなるだろう。

けれども、またしても疑問がわく。ハリコフはすでに述べたように、ロシア国民の親族を含む、ロシア系住民の多い東部の街だ。その街を、ロシアが「何度も爆撃」するものだろうか。

アレクシエービッチ氏の話では、「何度も爆撃された」時期は不明だが、2014年からの内戦期のことであれば、爆撃したのはおもにウクライナ政府のはずだ。日本の独立系ニュースサイトIWJが2022年6月16日付記事で伝えるように、かつてウクライナ軍が東部ドンバス地方で自国民(ロシア系住民)を攻撃していた事実は当時、NHKでさえ報じていた。

2022年2月のロシア「侵攻」後も、ウクライナ軍は東部の街や駅を爆撃し、それをロシアのせいにする「偽旗作戦」を展開しているといわれる。これらの状況に鑑みると、東部の街がロシアによって「何度も爆撃された」という話を鵜呑みにはできまい。

もちろん現在、ロシアはウクライナと戦争をしているのであり、軍事施設に攻撃目標を絞ったとしても、人命や財産が犠牲になるのは避けられない。だがその罪はウクライナ側も免れないはずだ。

いずれにしても、あやふやなエピソードを頼りにロシアだけを一方的に断罪するアレクシエービッチ氏に、事実に基づき両者の罪の軽重を見極めようとする態度は微塵も感じられない。(この項つづく)

パレスチナの希望

サッカーのパレスチナ代表チームはW杯出場権を獲得していないが、2022年カタール大会で、パレスチナの国旗が最も目立った。パレスチナの象徴であるクーフィーヤ(頭巾)は、世界の指導者、高官、著名人ら数千人のファンが身につけた。希望が、パレスチナの自由を求める闘いを可能にしている。
Culture of Hope: 2022 and the Margins of Victory in Palestine - Antiwar.com Original [LINK]
イスラエルのネタニヤフ新政権で警察と西岸地区の治安維持を統括する、国家治安相となったベングビール氏は超国家主義者だ。パレスチナ国家の建設に反対し、すべてのアラブ人の追放を主張してきた。新聞編集者から「米国の白人至上主義者と欧州のファシストの現代イスラエル版」と評されている。
Israel Faces a Reckoning - Antiwar.com Original [LINK]

欧米の政府関係者らは、ネタニヤフ新政権樹立によってイスラエルの自由民主主義が直面するという危険に警鐘を鳴らす。こうした見方は、イスラエルをユダヤ人国家と定義し、非ユダヤ人市民の権利を完全に無視する問題含みの国民国家法が成立した後も、民主主義が維持されていると認めるものだ。
Criticizing or Whitewashing Israel: Netanyahu's New Government Accentuates West's Hypocrisy - Antiwar.com Original [LINK]

イエメン紛争への関与に関するアメリカ帝国の意思決定の中核には、米兵器産業の取引上の利益がある。ロッキード・マーチン、ボーイング、レイセオンによるロビー活動は、関与を終わらせようとする最初の試み(軍事支援の停止を求める議会決議)に対するトランプ大統領の拒否権発動につながった。
Despite Broad Opposition in Congress, US Policy toward the War in Yemen Is Unchanged | Mises Wire [LINK]

CNNのコメンテーターに転じた(共和党反トランプ派の)アダム・キンジンガー前米下院議員は、選挙区を変更する前、兵器メーカーのロッキード・マーチン、ボーイング、レイセオン、ノースロップ・グラマンから多額の選挙資金を受け取っており、間違いなく議会で最も悪質な戦争屋だった。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : CNN Recruits Washington's Worst Warmonger The Instant He Leaves Congress [LINK]

ソ連崩壊後、ウクライナが国際的な非難にさらされずにソ連から受け継いだ核兵器を維持するという選択肢はなかった。保有を維持する自前の核開発計画を構築するコストは法外なものだった。当時の同国外務省によれば、「核の選択がもたらすマイナスの影響は、プラスの影響をはるかに上回る」。
What if Ukraine had kept its nuclear weapons? - Responsible Statecraft [LINK]

ドイツのビュッシェル空軍基地と欧州の他の6つの施設には、「核共有」として知られ物議を醸している米・NATO計画の下、少なくとも20発の米国製B61核爆弾(広島原爆の20〜40倍の破壊力)が配備されている。米空軍はドイツのトーネード戦闘爆撃機の乗組員向けに、この核爆弾を保守している。
John LaForge Set To Be First US Activist Jailed in Germany for Anti-Nuke Protests - Antiwar.com Blog [LINK]

2023-01-09

ヒトラーの目的と手段

ドイツの独裁者ヒトラーによれば、目的は国家の命であり、「それ以外のものは手段にすぎない」。ヒトラーの哲学が何百万人もの人々の死を招いたのは偶然ではない。個人の権利を集団の利益に従属させるような世界観は、たとえ目的が高潔で、高貴で、正しいものに見えたとしても、災いの元となる。
Hitler’s Chilling Words on Means and Ends - Foundation for Economic Education [LINK]
1978年、毛沢東の死後まもない中国は文化大革命の余韻が残り、小崗村(安徽省)は村民の半数以上が餓死していた。11月24日、18世帯の家長が密かに集まり、コミューンの土地を家族用の区画に分け、その中の一定量のトウモロコシを政府に渡し、残りは自分たちのものにするという誓約書に署名した。
How Eighteen Hungry Farmers Beat Collectivism and Helped China Succeed: Lessons from the Village of Xiaogang - Foundation for Economic Education [LINK]

1965年以降、ソ連の通貨供給量は経済の生産力を上回った。これは自由な経済ではすぐに物価上昇につながるが、ソ連政府は物価統制で抑え込んだ。賃金は上がるのに物価が上がらないと、需要が供給を上回り、品不足になる。その結果、ソ連経済といえば、長蛇の列と空の棚が連想されるようになった。
How the Soviets "Fixed" Inflation, but Ruined the Economy | Mises Wire [LINK]

キューバ人にとって、他国への渡航は選択肢にない。いかだを作ったり、飛行機以外で島を出たりしたことがばれたら、厳罰に処され、投獄されることさえある。昨年、キューバ人ジャーナリストのカルラ・ペレス・ゴンサレスは、共産党独裁政権を批判したために、島への帰還を阻まれた。
More than Sixty Years after "Liberation," Cuba Is a Communist Slave State | Mises Wire [LINK]

価格情報が消え去る結果、政府が計画によって経済を運営できなくなることを、経済計算問題と呼ぶ。この問題を発見したのは経済学者ミーゼスで、20世紀半ばに台頭した経済計画主義に対する大きな攻撃材料となった。中央政府の計画者は、経済を効率運営するのに十分な情報を得ることができない。
Socialism Is Doomed to Fail, Because It Lacks Market Prices - Foundation for Economic Education [LINK]

米国の民間企業では起業家が創造的破壊者をあえてスカウトし、画期的な製品を発売して伝統産業を脅かす。政府官僚の従順な態度は、イノベーションをうながす非正統的な思考の敵だ。中国は有能で実力主義的な公務員を擁することで知られるが、イノベーティブな環境が欠けていると指摘される。
For Now, Innovation and Entrepreneurship Still Holds a High Place in the USA | Mises Wire [LINK]

日本における産業政策の研究によれば、資源分配は政治的な活動であり、コネのある企業に利益をもたらし、腐敗した雰囲気を助長していた。新しい研究でも産業政策の効果に疑問が投げかけられ続けている。1955年から1990年の間、産業政策は日本の最も力強い産業の生産性に何の影響も与えなかった。
Industrial Policy Did Not Bring Prosperity to Asia | Mises Wire [LINK]

現代貨幣理論(MMT)の本質はケインズ主義の分派であり、政府が際限なく支出し、それに見合ったお金を刷っても何の悪影響もないとするものだ。歴史的なインフレに見舞われている現在、MMTは完全に否定された。MMTは死んだのであり、もう葬らねばならない。
MMT Is Dead. It Must Now Be Buried for Good - Foundation for Economic Education [LINK]

歴史上の大きな皮肉は、金(きん)を嫌う人々が、金を野蛮な遺物と呼ぶことだ。実際には金の放棄によって、文明は絶滅の危機に瀕している。19世紀の大半の期間、金本位制は西洋経済にみごとに貢献してきた。第一次世界大戦が始まると、金本位制は捨てられ、欧州は繁栄から破滅へ向かった。
The "Barbarous Relic" Helped Enable a World More Civilized than Today's | Mises Wire [LINK]