2024-11-23

俳句(2024年11月)



いなびかり凍てつく果ての闇夜かな

暗きよりせせらぎ聞ゆ返り花

この先に行くところなし狂ひ花

戦争は今日も終はらず狂ひ花

読書の秋賢くなったためしなし

2024-11-22

主流派経済学の嘘

トーマス・ディロレンゾ(ミーゼス研究所所長)
2024年11月9日

経済学者ミーゼスは、1880年代に設立された米経済学会に一度も参加しなかった。その理由については、同学会の設立文書にヒントがある。「政府は教育・倫理的な機関であり、その積極的な支援は人類の進歩に不可欠な条件である」と、その文書はうたっている。一方、「自由放任の教義」は「政治的には危険であり、道徳的には不健全である」と、同学会を設立した国家主義的な道学先生は述べている。
典型的な経済学入門の教科書は、ほとんどのページを「市場の失敗」に関する果てしない話(フリーライダー問題、外部性、独占と寡占、独占的競争、非対称情報など)に割いており、資本主義の礎である起業家精神についてはほとんど触れていない。

米国で産業革命が進んだ1880年代に「独占化の横行」を理由に独禁法が必要になったというのは大嘘だ。私は「法と経済学の国際論集」誌の記事で、当時独占行為で告発された業界が、米国で最も競争力があり、ダイナミックで、値下げを行い、革新的で、生産拡大を続ける業界だったことを示した。独禁法の目的は競争を妨げることであり、競争の「保護」ではなかった。

経済学の学生に教えられてきた最も馬鹿げていることの一つは、フリーライダー問題のせいで、米国は「国防」に費やす費用が少なすぎるというものだった。「効率性」は課税の強制を必要とするらしい。国防費を拡大しているからという理由で、国防総省の汚職や不正を擁護する経済学者もいる。国防費の拡大はフリーライダー問題によって妨げられているはずだという。一体誰が、国防総省の支出を「効率的」だと決めるのだろうか。

ノーベル経済学賞は、その後の研究で偽物であることが証明された「市場の失敗」に関する数多くの理論に対して授与されてきた。ジャネット・イエレン(米財務長官、元米連邦準備理事会議長)の夫であるジョージ・アカロフは1970年、「情報の非対称性」によって中古車市場がまもなく消滅するという論文で、ノーベル賞を共同受賞した。自動車の買い手が不良品を買わされたかどうかを判断できるようにする30日間の保証制度については、まったく知らなかったようだ。

デビッド・カードは、最低賃金法が失業の原因ではないとする論文でノーベル賞を受賞したが、全米経済研究所がその研究を再調査した際には、論文には「重大な欠陥がある」とされた。このようなたぐいのエピソードは数多くある。

財政学では、課税の「抜け穴」は非効率的だと教えられている。なぜなら、それは「人為的な」市場の歪みを生み出すからだ。政府官僚が国民の税金をより多く使う方がはるかに効率的だと教えられている。そしてケインズ経済学の要である「節約のパラドックス」という俗説がある。これは、貯蓄が消費を減らし、それが国内総生産(GDP)を減らし、結果として貯蓄が減るという主張だ。この理論は何十年にもわたって、貯蓄の利子所得に対する没収的な課税を「正当化」してきた。

主流派経済学の精神的指導者といえば、おそらくポール・サムエルソンを挙げることができるだろう。その著書『経済学』は40年間にわたり教科書販売のトップを独走し、その間、他の教科書のほとんどはその模倣だった。この本やそのたぐいの本に浸透している国家主義的な偏見は、1988年版でサムエルソンが書いた内容に集約されている。2000年までにソ連のGDPが米国を上回るだろうという予測である。

(次を抄訳)
All States are Empires of Lies | Mises Institute [LINK]

【コメント】今の経済学の教科書で正しい部分は、せいぜい全体の4分の1といったところだろう。まず、ケインズが創始したマクロ経済学はほぼすべて間違っている。残ったミクロ経済学のうち半分は、ディロレンゾ氏が批判するように、「市場の失敗」をいいかげんな根拠で躍起になって非難し、政府の失敗はなぜか無視される。政府は自分を正当化するために嘘を振りまき、御用学者にごほうびを与えるが、経済学はそれがとくにひどい。

2024-11-21

政府効率化省にロン・ポール氏を!

デビッド・ゴルノスキー(作家)
2024年11月20日

ほとんどの米国人は、スリムで効率的な政府、すなわち憲法に従い、財政的に誠実な政府を切望する心を持っている。この追求において過去60年間、これほど象徴的で執拗な人物は、元下院議員のロン・ポール氏をおいて他にいない。最近(次期米大統領)トランプ氏が発表した、イーロン・マスク氏とビベック・ラマスワミ氏が率いる「マンハッタン計画」政府効率化省(DOGE=ドージ)にまつわる興奮をよそに、必要な削減を実現するうえで、ロン・ポール氏ほど誠実な推進役はいないだろう。伝説のドクター・ノー〔訳注・医者であり、新たな支出や増税に対して一貫して反対票を投じたことからついたあだ名)をテーブルにつけ、DOGEのリーダーシップを完璧なものにすべきだ。
ロン・ポール氏は、真実と財政保守主義に対するお手本ともいえる献身の姿勢をもたらす。憲法と自然法の原則に基づく生涯にわたる政府縮小の提唱は、同氏を唯一無二の適任者としている。1970年代にさかのぼる警告と努力により、米国を財政破綻から救おうとするうえで、ロン・ポール氏ほど信頼に足る人物はいない。

ポール氏は、政府の運営に積極的に関与することを望んでいないと表明している。DOGEは非政府組織だと宣言しているから、これは好都合だ。しかしポール氏が実際に出向いたり日々関与したりする必要はない。ポール氏は、DOGEプロジェクト内で自身の理想や優先事項を代弁する人々を簡単に派遣することができる。この役割は、権力を振りかざすことではなく、揺るぎない原則に基づいて政策を導くことだ。

ロン・ポール氏の哲学によると、削減の最初の対象となるのは、多くの人が思い込んでいるのとは逆に、貧困層を支援する福祉事業ではない。代わりに同氏が優先事項として挙げるのは、企業への助成金廃止と、縁故主義にまみれた莫大な軍事費の削減である。これらの分野は、財政の無駄遣いであるだけでなく、米国の価値観と資源に対する裏切り行為である。米国は、世界の警察官、代理戦争、政権転覆作戦といったカネのかかる網に絡め取られすぎており、これらは国益に資するものではなく、また、我が国の子供たちを破産から守るものでもない。有権者がトランプ氏に託した「米国第一主義」の命題を達成するには、国内外で歴史的な政府の規模の縮小を実現しなければならない。さもなければ、破局が待ち受ける。

次期副大統領のJ・D・バンス氏が最近述べたように、ロン・ポール氏による連邦準備理事会(FRB)に関する洞察は非常に貴重だ。この違法な機関と、その悪用やインフレによる貧困層や中流階級からの収奪に対するポール氏の闘いは、耳を傾けるべきものだ。FRBとの存亡を賭けた対決にすぐに直面する可能性があるトランプ、マスク両氏にとって、ロン・ポール氏の視点は極めて重要になるかもしれない。ポール氏の金融政策に関する理解は、米国の経済状況を再定義するような決断を下す際に、両氏を導くことができるだろう。

DOGEの物語は自らを正当化する。 ポール氏との交流は、マスク氏だけにとどまらない。ポール氏と多くの価値観を共有し、選挙戦中にはポール氏の支持者を積極的に取り込もうとしていた人物、ラマスワミ氏ともポール氏は対談している。このつながりは、米国の建国250周年記念日まで、ポール氏の助言を常に得ておくことの重要性をさらに強調している。財政保守主義と自由の代弁者の声が単に聞かれるだけでなく、影響力を持つことを確実にするためだ。

米国が政府の無駄を大幅に削減する必要があるという主張は目新しいものではないが、DOGEとポール氏の関与による取り組みは、新鮮で、潜在的に変革をもたらす見解をもたらす。これは単にコスト削減を意味するのではなく、政府の行動を建国の父たちが掲げた生命、自由、幸福の追求という理念に沿うようにすることを意味する。

トーマス・ジェファーソン(第3代大統領)は中央銀行に警告を発した。ジョン・クインシー・アダムズ(第6代大統領)は「米国は怪物を滅ぼすために外国へ出向くことはない」と述べ、ジョージ・ワシントン(初代大統領)の意見を繰り返した。トランプ氏の個人的なヒーローであるアンドリュー・ジャクソン(第7代大統領)は、米国で2番目に設立された中央銀行を廃止したことが自分の最大の功績だと述べた。ロン・ポール氏と建国の父たちとの共鳴は尽きることがない。ポール氏の助言に従うことは、トランプ氏に建国の父たちを国の意思決定に再び呼び戻す機会を与えることになる。

(次を抄訳)
For DOGE to Hunt Waste, It Needs Ron Paul to Sic It - LewRockwell [LINK]

【コメント】「ドージ(Doge)」は「犬(Dog)」を意味するスラングで、インターネットミーム(ネット上の面白ネタ)として話題になった柴犬を由来としている。ここから「ビットコイン」をまねて2013年にジョークとしてつくられた仮想通貨がドージコインで、イーロン・マスク氏が愛好することで知られる。同氏のトランプ政権入りにより、ついに「政府効率化省」の略称にまで出世を遂げた。狩りの名人ロン・ポール氏のかけ声とともにワシントンの沼地に飛び出し、米政府の無駄を食い尽くしてもらいたいものだ。もともと柴犬だし、ぜひ日本にも来てほしい。

2024-11-20

トランプ氏はイランと和平を結べるか?

ロン・ポール(元米下院議員)
2024年11月18日

次期米大統領のトランプ氏が選挙後の勝利宣言演説で述べた、最も勇気づけられる、最も期待できる言葉のひとつは、「私は戦争を始めるつもりはない。戦争を終わらせるつもりだ」というものだった。選挙が終われば、選挙公約の寿命は短いものになることが多いことは誰もが理解しているが、トランプ陣営が繰り返し戦争よりも平和を訴えてきたことは、少なくとも、それが米有権者に対する勝利のポイントだとトランプ氏が考えていることを示している。
トランプ氏の次期政権で、特に外交政策の要職にタカ派を指名していることを踏まえると、この平和への呼びかけは行動に移されることになるのだろうか。それはまだわからないが、先週、イランの国連大使と会談させるためにイーロン・マスク氏を派遣したという報道は、事実であれば良い兆候である。イラン側はこのような会談が行われたことを否定しており、また、トランプ次期大統領とプーチン(ロシア)大統領やその他の世界の指導者との会談の噂が飛び交っているため、単なるメディアの作り話である可能性もある。

しかし、かりにトランプ次期大統領がイラン側との会談にマスク氏を派遣したという事実がなかったとしても、そうすることは良い考えである。なぜマスク氏なのか。マスク氏はトランプ次期政権で正式な役割を担うことは期待されていないため、次期大統領の非公式なアドバイザーや友人として見られる可能性がある。さらに、実業家であるイーロン・マスク氏は、政府の外交官とは異なる言語を話す。

なぜイラン人と会うのか。何を話すというのか。取り上げるべき重要なトピックのひとつは、バイデン政権の米連邦捜査局(FBI)が主張している、当時大統領候補であったトランプ氏を暗殺しようとしたというイランの陰謀だろう。ラリー・ジョンソン元米中央情報局(CIA)分析官を含む多くのコメンテーターが主張しているように、FBIの起訴状に記載されているこの陰謀はありそうもない。ディープステート(闇の政府)のタカ派が、トランプ大統領が就任したあかつきにイランとの国交正常化に走らないよう、この疑わしい陰謀をでっち上げた可能性はあるだろうか。FBIはテロ計画をでっち上げた歴史があるだけに、残念ながら、この可能性を否定することはできない。

イランの否定を信用すべきだという意味だろうか。もちろん、そうではない。しかし、議論する価値はある。

トランプ大統領は2期目には、1期目の「最大限の圧力」政策に戻ると見られている。その判断は誤りである。トランプ氏はホワイトハウスに戻っても同じ世界に身を置くわけではない。ウクライナにおける代理戦争は、外交政策の手段としての制裁や圧力の無益さをこれまで以上に明らかにしている。米国の制裁対象国は、米国抜きで貿易や外交を行う独自の道を歩み始めている。

つまり、米国は制裁を次から次へと課すことで、ロシア、中国、イランを孤立させたわけではない。米国が自らを孤立させたのだ。(有力新興国で構成する)BRICSのような組織の出現を見れば、このことは明らかである。

米国が繁栄するためには、外国貿易の拡大が必要だ。(仏経済学者)フレデリック・バスティアは「商品が国境を越えなければ、兵士が越えることになる」と述べたとされる。近年、その状況をすでに十分見てきた。ある人が最近書いたように、もしニクソン氏(元米大統領)だけが(国交正常化のために)中国に行けたのであれば、おそらくトランプ氏だけがイランに行くことができるだろう。イランと和平を結べば、中東全域とそれ以外にも影響を及ぼす成果となるだろう。イスラエルにとっても、イランとの戦争状態を回避することは有益だ。戦争はすべてを破壊するが、平和は築き上げる。新たな取り組みに期待しよう。

(次を全訳)
If Trump Didn’t Send Musk to Talk with the Iranians…He Should! - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

【コメント】タカ派のネオコン色を強めるトランプ次期政権だが、これは明るいニュース。米紙ニューヨーク・タイムズによれば、イランの国連大使との面会はイーロン・マスク氏が要請し、両者は米国とイランの緊張緩和についてニューヨークで協議した。会談は「建設的」だったという。リバタリアンのロン・ポール氏も素直に評価している。過度な楽観は禁物だが、トランプ、マスク両氏というビジネスマンの「新たな取り組み」により、和平という「ディール」がうまく成立するよう願おう。

2024-11-19

減税を求め、政府支出には無関心——サプライサイド経済学批判

マレー・ロスバード(経済学者)
2024年11月16日

[編集者注:1984年10月に最初に発表されたこの記事で、マレー・ロスバードは共和党と保守派の経済学の問題点を批判している。つまり、その支持者は、税率を引き下げて政府支出を増やすことで、巨額の赤字を何とか増やさずに両方の利益を得ることができると考えている。その多くは、(減税で税率を最適水準に下げれば税収を増やすことができるという)いわゆるラッファー曲線の考え方に基づいているが、ロスバードはこれを懐疑的に見ている。さらにロスバードは、ほとんどの保守派が「金本位制」について話す際、意味するのは本物の金本位制の代用品である、政府に規制された金本位制だと指摘している。その根底にあるのは、巨大な米国の福祉国家について何もしないことだ。当時、この種のものは「サプライサイド(供給側)経済学」と呼ばれていた。残念ながら、今日のMAGA(トランプ次期米大統領のスローガン「米国を再び偉大に」)経済学は多くの点で、失敗した昔のサプライサイド経済学の焼き直しであり、ロスバードの批判は依然として重要な資料である。]
サプライサイド学派の中心となる主張は、限界所得税率の大幅な引き下げは、労働と貯蓄、ひいては投資と生産への意欲を高めるというものである。そうだとすれば、異論を唱える人はほとんどいないだろう。しかし、そこには他の問題も絡んでいる。少なくとも有名なラッファー曲線の国では、所得税の引き下げは財政赤字の万能薬として扱われていた。大幅な税率引き下げは、税収を増加させ、均衡予算をもたらすとされていた。

しかし、この主張を裏付ける証拠はまったくなく、実際、可能性はまったく逆である。所得税率が98%で、90%に引き下げられた場合、おそらく税収が増加するというのは事実である。しかし、これまでのはるかに低い税率では、この仮定を正当化する根拠はない。実際、歴史的に、税率の引き上げは収入の増加につながり、その逆もまたしかりであった。

しかし、サプライサイドにはラッファー曲線の誇張された主張よりももっと深刻な問題がある。サプライサイド派全員に共通するのは、総政府支出、ひいては財政赤字に対する無関心である。緊縮財政であれば民間部門に回るはずだった経営資源が公共部門に取られることを気にしない。

彼らが気にするのは税金だけだ。実際、財政赤字に対するその姿勢は、古いケインズ派の「我々は自分から借金をしているだけ」という考えに近い。それよりも悪いことに、サプライサイド派は現在の膨れ上がった政府支出の水準を維持したがっている。自称「ポピュリスト」として、その主張の基本は、国民は現在の支出レベルを望んでおり、その期待を裏切るべきではないというものだ。

支出に対するサプライサイド派の姿勢よりもさらに奇妙なのは、お金に対する見方だ。一方では(金などの裏付けのある)ハードマネーを支持し、「金本位制」に戻ることでインフレを終わらせると主張している。他方、ポール・ボルカーの連邦準備理事会(FRB)を、インフレ政策が過ぎるからではなく、「過度に引き締めた」金融政策を実施し、それによって「経済成長を阻害している」として絶えず攻撃してきた。

要するに、これらの自称「保守派ポピュリスト」は、インフレと低金利を熱愛する点において、まるで昔ながらの(左派)ポピュリストのように思えてくる。しかし、それは金本位制の擁護とどのように整合するのだろうか。

この質問の答えの中に、新しいサプライサイド経済学の一見矛盾する問題の核心へのカギがある。サプライサイド派が望む「金本位制」は、実質のない金本位制の幻想を提供するだけだ。銀行は(預金を)金貨で払い戻す必要はなく、FRBは経済を微調整する手段として、金ドルの定義(交換比率)を自由に変更する権利を持つことになる。要するに、サプライサイド派が望んでいるのは、昔のハードマネーの金本位制ではなく、インフレとFRBの通貨管理に屈して崩壊した、ブレトンウッズ時代の偽りの「金本位制」なのだ。

サプライサイド理論の核心は、ベストセラーとなった哲学的マニフェスト、(経済ジャーナリスト)ジュード・ワニスキー著『世界の仕組み』で明らかにされている。ワニスキーの見解は、人々、つまり大衆は常に正しく、歴史を通じて常に正しかったというものだ。

経済学では、大衆は大規模な福祉国家、大幅な所得減税、均衡予算を望んでいるとワニスキーは主張する。これらの矛盾した目的をどうやって達成できるのか。ラッファー曲線の巧妙な手法によってである。そして金融分野では、大衆が望んでいるのはインフレと低金利、金本位制への回帰であるように思われる。それゆえ、大衆は常に正しいという公理に支えられ、サプライサイド論者は、インフレ政策をとり、金融を緩和するFRBに加え、偽りの金本位制による安定の幻想を与えることで、大衆の望むものを与えようと提案するのだ。

(次を抄訳)
A Walk on the Supply Side | Mises Institute [LINK]

【コメント】現在の日本の減税運動の一部にも、かつてのサプライサイド派や今のトランプ派と似た欠点が見受けられる。減税を求めることには熱心だが、政府支出の削減は後回しにする傾向だ。政府支出は結局、何らかの形で国民が負担するしかないから、もし減税で税収が減れば、支出を減らしたくない政治家や官僚は、これまで同様、不足分を赤字国債の発行と、それを日銀に事実上引き受けさせることで穴埋めするだろう。それはお金の価値を薄め(インフレ税)、物価高を招き、産業の新陳代謝を妨げ、暮らしを苦しくする。政府支出の削減を伴わない減税は、担保を取らずに金を貸すようなもので、あとで痛い目にあう。

2024-11-18

トランプ氏のネオコン人事

ライアン・マクメイケン(ミーゼス研究所編集主任)
2024年11月12日

トランプの最初の大統領任期は、同氏が任命した数えきれないほどのお粗末な人選で注目を集めた。これは政治任用と政策任命の両面でいえた。政治任用では、トランプは自分をいつも政治的におとしめようとする人々を任用した。トランプ自身が任用した人々の多くは、2020年と2024年にトランプに反対するキャンペーンを展開することになった。トランプの無知な支持者たちは、これがすべてどういうわけだか、「4次元チェス」(凡人には到底認識できない長期的で壮大な知略)なのだと請け合った。もちろん、そうではなかった。4次元チェスという表現は、子供たちが言うように、いつだって「妄想剤」(現実を受け入れられない時に使う架空の薬)だった。
政策任命では、トランプ大統領の人事はさらにひどいものだった。ニッキー・ヘイリー(元国連大使)、ジョン・ボルトン(元大統領補佐官)、マイク・ポンペオ(元国務長官)といったネオコン(新保守主義)の好戦派、そして数え切れないほどのネオコン寄りの下級官僚が政権の要職に就いた。さらに、多くの連邦省庁で要職に就いた戦争推進派は、政権を弱体化させ、ロシアとの戦争を推進しようと露骨に画策する軍部の面々を守ることができた。卑劣な軍国主義者、アレクサンダー・ビンドマン(バイデン大統領に関するウクライナ不正疑惑を巡ってトランプ氏と対立した元陸軍中佐)が思い浮かぶ。

今、トランプは以前の悪癖に戻ったように見える。次期政権は公式には同じ過ちは繰り返さないと述べているが、新たな証拠は逆を示唆している。すでにトランプは、国連大使にエリス・ステファニク(下院議員)、国家安全保障担当の大統領補佐官にマイク・ウォルツ(同)を任命している。

もちろん、またしてもトランプ支持者の騙されやすい一部から、すべては4次元チェスだとの声が聞こえてくる。

そうだろうとも。

ウォルツは、(ネオコンの)ドナルド・ラムズフェルド(元国防長官)、ディック・チェイニー(元副大統領)の信奉者であり、ある動画の中でトランプ氏を称賛しているが、それはトランプが「イランを崩壊させる」「イスラエルとともに立つ」「中国に代償を支払わせる」など、ネオコンの主張するお決まりのテーマをすべて支持しているからだ。ウォルツは「同盟国とともに立つ」ことを称賛しているが、おそらくこれには、2017年のリヤド訪問でトランプを操ったサウジアラビアも含まれるだろう。ウォルツがイスラエル国家について正しいことは言うまでもない。トランプのホワイトハウスは常にイスラエルに占領された領土だった。「米国第一」(のスローガンが偽りであること)については、これで十分だろう。

ウォルツはウクライナでの紛争激化を繰り返し呼びかけてきた。つまり、選挙戦の大半を通じてトランプ氏が支持基盤に語りかけてきたことの正反対を主張しているのだ。

ステファニクの経歴は、親イスラエルの非政府組織(NGO)を推進し、ジョージ・ブッシュ(子、元大統領)やポール・ライアン(下院議長)といった典型的な保守派の政治家を支援するディープステート(闇の政府)工作員として長年働いてきたことで特徴づけられる。外交政策エリートへの貢献が認められ、議員になって数カ月で、国防政策に関する重要な委員会にすぐに任命された。彼女はワシントンの現状に何ら脅威をもたらさない。

ステファニク、ウォルツがプライバシーと財産権の敵であることは周知の事実である。〔訳注・外国情報監視法=FISA=による令状なしの国民監視に賛成〕

トランプ次期大統領の人事に関する最新ニュースは、マルコ・ルビオ(上院議員、共和党)を国務長官に指名する予定であるというものだ。おそらくディック・チェイニーは無理だったのだろう。ルビオは、いつでもどこでも世界中で軍事介入の継続を推進する外交族政治家のトップに立つ。ランド・ポール(上院議員)にならって、「ヒラリー・クリントン(元国務長官、民主党)とマルコ・ルビオは同じ人間だ」といってもいい。〔訳注・政党は違っても同じタカ派のネオコンという意味〕

これがトランプの示すベストの人選なのか。今のところトランプは、外交政策の役割を担うのにふさわしく、自分のために熱心に選挙運動をしたトゥルシー・ギャバード(元民主党下院議員)に対して何も提示していない。もし彼女が政権で得るポストが些細なものであれば、それはトランプがアメリカ帝国の機能を根本から変えるつもりなどなかったことが急速に明らかになっている政権を象徴するものとなるだろう。〔訳注・その後、ギャバード氏は国家情報長官への起用が決定〕

一方、(保守派評論家)ベン・シャピロは非常に満足している。

(次を全訳)
Here Come the Awful Neocon Trump Appointments | Mises Institute [LINK]

【コメント】ヘイリー、ポンペオ両氏が外れてホッとしたのも束の間、ルビオ氏が外交を仕切る国務長官に起用されるなど、トランプ次期米政権の顔ぶれは急速に好戦的なネオコン色を濃くしている。そのトランプ氏が大統領選の勝利後、最初の会談相手に選んだ外国首脳が、同じくネオコン路線で、イスラエルのガザ攻撃を支持するアルゼンチンのミレイ大統領だった意味を、ミレイ氏の明るい面だけに注目する日本のリバタリアンはよく考えておくべきだろう。

2024-11-17

木村貴の経済の法則!(2024年、随時更新)

  1. 株高をもたらす最大の要因は? 「ファンダメンタルズ」ではない(2024/1/12
  2. お金の量の変化で株価の先行きを占う 注意が必要なポイントとは?(2024/1/19
  3. インフレに最も強い運用手段は? 実質課税に対抗しよう(2024/1/26
  4. ハイパーインフレとは何か? そのとき株価はどうなる?(2024/2/2
  5. 米大統領選、誰が勝てば株高に? 民主・共和政権のパフォーマンスを点検(2024/2/9
  6. 長期の株高をもたらす政治指導者とは? 米大統領ランキング、上位は意外な顔ぶれ(2024/2/16
  7. 日本株、バブルの轍を踏まない3条件【日経平均、一時最高値】(2024/2/22*臨時解説
  8. 景気って何だろう? 株価との関係は?(2024/3/1
  9. 不況は買い、好況は売り 株と景気の奇妙な関係(2024/3/8
  10. 財政出動で株は買い? 判断のポイントはここ(2024/3/15
  11. 日本株、ここから始まる「正常化相場」 創造的破壊にかじを切れ【日銀、マイナス金利解除】(2024/3/19*臨時解説
  12. 財政危機は株投資のチャンス インフラ整備、「官から民へ」加速へ(2024/3/22
  13. 独禁訴訟、GAFA株の重しに? 競争を促すというけれど…(2024/3/29
  14. ロックフェラーに学ぶ投資の極意 石油王を襲った悲劇とは?(2024/4/5
  15. 世界経済の未来が明るい理由 グローバル資本主義の「静かな革命」は続く(2024/4/12
  16. 金が買われる本当の理由 不換紙幣への信頼揺らぐ(2024/4/19
  17. 戦争は経済にとって有益か? 第二次世界大戦や朝鮮戦争で検証(2024/4/26
  18. 円の凋落、放蕩政治のツケ【一時1ドル160円台】(2024/4/30*臨時解説
  19. お金って何だろう? ロビンソン・クルーソーに学ぶ基本のキ(2024/5/10
  20. 金と銀がお金になったのはなぜ? ピノッキオが理解しなかったその理由(2024/5/17
  21. 民力奪う国債の供給過剰、市場が警告【長期金利、11年ぶり1%到達】(2024/5/23*臨時解説
  22. 金本位制って何だろう? マネー乱造に歯止め、復権機運も(2024/5/24
  23. インフレという言葉の謎 本当は「物価上昇」ではない?(2024/5/31
  24. 産業育成は政府の仕事か? むしろ発展を妨げた戦後の歴史(2024/6/7
  25. 「五公五民」じゃ豊かになれぬ 経済復活のカギは減税(2024/6/14
  26. ウクライナ発、経済危機の足音(2024/6/21
  27. 金融危機はなぜ起こる? 名作映画に学ぶシンプルな解決法(2024/6/28
  28. 金利を決めるホントの要因 のび太もジャイアンも得する取引とは?(2024/7/5
  29. マイナス金利のファンタジー 現実逃避のツケはこれから?(2024/7/12
  30. 無税社会は「北斗の拳」の暗黒世界か? 国税庁の偏ったメッセージ(2024/7/19
  31. 「金本位制」復活は時代錯誤か? あの「マエストロ」が金融政策のお手本に(2024/7/26
  32. 南米の豊かな国をなぜハイパーインフレが襲ったのか? 経済を四半世紀で破綻させた介入政策(2024/8/2
  33. 大恐慌への道を避けるには? 政府の「景気対策」にご用心(2024/8/7*臨時解説
  34. フランス革命、恐怖政治生んだ高インフレ 不換紙幣の大量発行が破滅もたらす(2024/8/9
  35. 巨大帝国はインフレで滅びる ローマと米国、経済失政そっくり(2024/8/23
  36. 中央銀行が金を爆買いする理由 揺らぐドルの信認、1万ドル目指す? (2024/8/27*臨時解説
  37. ハイパーインフレになったらどうするか? ジンバブエに学ぶサバイバル術(2024/8/30
  38. ルパン三世はなぜ偽札を捨てたのか? 「カリオストロの城」が示す不換紙幣の罪(2024/9/6
  39. 東京海上アセット・平山氏「インフレ時代、株の選別投資強まる」(2024/9/10*臨時インタビュー
  40. 経済学者ケインズ、5つの「迷言」 その主張はなぜインフレと財政危機を招いたのか?(2024/9/13
  41. インフレ税を知っていますか? お金の価値を奪う見えない税金(2024/9/20) 
  42. 税金は「社会の会費」ってホント? 貧しい人を助ける効果は…(2024/9/27
  43. 日本政治、危機目前でも針路変わらず 約80年前のハイパーインフレと預金封鎖が鳴らす警鐘(2024/9/30*臨時解説
  44. 最初のノーベル平和賞はなぜ経済学者だったのか? 自由貿易は戦争のリスクを減らし、繁栄をもたらす(2024/10/4
  45. 経済対策が経済停滞を招く ノーベル賞経済学者ハイエクはYouTubeで何を警告したか?(2024/10/11
  46. デフレは経済問題じゃない、国語問題だ! いまだに続く「不況」との混同(2024/10/18
  47. ハイパーインフレと預金封鎖、そのときどうする? 終戦直後の日本に学ぶサバイバル術(2024/10/25
  48. 総無責任だった総選挙 亡国の「財政ファイナンス」に歯止めかからず(2024/10/28*臨時解説
  49. 減税は「バラマキ」という嘘 政府の施しではない!(2024/11/1
  50. ドルは再び偉大になれるか 米、トランプ次期政権でも債務膨張の恐れ(2024/11/7*臨時解説
  51. 赤字国債はもうやめよう 禁止のはずが今や「恒例」(2024/11/8
  52. 国債デフォルトという選択 世界の終わりか、健全な市場経済への転機か?(2024/11/15