若い人はなぜ政治に関心を持たないのか。著者は、政治が「ややこしくてむずかしい」からだという。しかし複雑で難しい情報技術、法律、会計、外国語などを熱心に学ぶ学生は少なくない。それ相応の見返りがあるからだ。
若者に限らず政治に無関心な市民が多いのは、関心を持ち取り組んでも、コストに見合う見返りがほとんどないからだ。一方、農家、労組、規制産業、宗教団体など有形無形の見返りが見込める関係者は政治に熱心である。
著者は、棄権者は「政治に参加する義務」を放棄していると非難する。だが政治参加は権利であって義務ではない。時間の無駄でしかなければ、パスするのは当然だし賢明である。税金の分捕り合戦に参加しないのは、むしろ道徳的に立派といえる。
著者は、選挙に行こうと言いつつ、都合の悪いことは無責任にはぐらかす。選びたい政治家がいなかったらという問いに、「選びたいような人が生まれて来る世の中にする」。生まれて来るまで棄権してもいいということか。
国家は暴力的で、だから領土問題が起こると重要な主題に触れても、著者はそれ以上踏み込まない。暴力なら投票でお墨付きを与えず、棄権で拒絶してもいいはずだ。国家について「ちゃんと考えなければいけない」のは著者自身である。