2018-12-31

アンチゴーヌの問い

東京・新国立劇場で上演中の「アンチゴーヌ」を観てきました。ソフォクレスのギリシア悲劇をフランスの劇作家アヌイが翻案したものですが、主題は共通しています。それは「法律はつねに正しいか」という問いかけです。

主人公の少女アンチゴーヌは、野にさらされた兄ポリニスの遺体にとむらいの土をかけたことが罪とされ、捕らえられます。ポリニスは外国軍を味方につけ、王位を奪おうとした反逆者だったからです。アンチゴーヌのおじで王のクレオンはポリニスの埋葬を禁じ、背く者は死刑にするよう命じていました。

クレオンの息子でアンチゴーヌの婚約者でもあるエモンは、父にアンチゴーヌを助けるよう訴えますが、法律で決められた以上、王である自分にもそれはできないとクレオンは突っぱねます。アンチゴーヌは生き埋めの刑に処され、エモンは後を追って命を断ちます。

1944年に初演されたこの作品は、 ナチス・ドイツに占領されたフランスの対独協力行為に対する批判が込められているとされます。しかしそれにとどまらず、法律と道徳の対立という普遍的な問題について考えさせられます。

欧米社会では、この作品のもととなったソフォクレスの「アンチゴネー」が古典とされ、繰り返し上演されることが示すように、法律と道徳は対立する場合があるという認識は、ある程度共有されています。

ところが日本では、そうした認識はきわめて薄いように見えます。それどころか、ほんのささいなことでも、法律に違反すること、違反しそうなことを芸能人などがやると、それだけで一斉に叩きます。

言論人やメディアも、ある政策が国会で法案として議論されている間はさかんに批判しても、法律になったとたん、何も言わなくなります。そして企業や個人がその法律に違反すると、悪法だから廃止せよと主張するのでなく、犯罪として叩きます。

法律だから何でも正しいという態度は、思考停止ではないでしょうか。法律を超える価値観を持たずに、法律が正しいかどうか判断できるのでしょうか。生き埋めにされるため洞穴を一人降りていくアンチゴーヌの姿は、私たちにそう厳しく問いかけます。(2018/01/19)=「COMEMO」での連載終了

円の裏付けはあなたの税金

裏付けのない通貨
ビットコインはユーロやドルと違って中央銀行による裏付けがないため、通貨とは呼べないとドラギECB総裁。裏付けがないのはユーロやドルや円も同じです。昔は金が裏付けだったのでお札と交換で金をもらえましたが、今は何ももらえません。
ビットコイン「私なら慎重に」 欧州中銀ドラギ総裁

なぜ市場に任せないのか
自民「一部の地域でカジノを解禁しよう」 公明「ギャンブル依存症対策法案も不可欠」 野党「カジノ解禁は許さない」……。いや、全面解禁して自由に競争し、すぐれたカジノが残ればいいのでは?
カジノ法案、対決色強まる 与党、依存症対策呼びかけ 立民は抵抗「解禁許さず」

セーフガードは守ってくれない
和牛卸値、昨年末から1割下落。高値で消費が冷え、輸入物や鶏に需要シフト。昨年8月のセーフガード発動で関税率を引き上げたにもかかわらず、外国産牛肉の需要は引き続き拡大。セーフガードで守られるのは政治の利権だけ。
和牛卸値1割下落 昨年末比、輸入物や鶏に需要シフト 店頭価格に波及も

円の裏付けはあなたの税金
今の法定通貨には普通の意味で裏付けはありません。ただし記事で指摘するとおり、それに近いのは国の徴税権です。法定通貨の名目上の裏付けは国債で、国債は税金で成り立つからです。つまり日本国民は円の連帯保証人なのです。
マネー革命か狂騒か 仮想通貨が問うリアルの矛盾

2018-12-30

モンテスキューと商業の精神

1月18日は仏啓蒙思想家、モンテスキューの誕生日です。主著『法の精神』で三権分立を説き、アメリカ合衆国憲法に影響を及ぼしたことで知られますが、この本では法の精神ならぬ「商業の精神」についても、現代に通じる鋭い洞察をしています。いくつか紹介します。

「民主政が商業を基礎とする場合、個人が巨富をもちながらも習俗は腐敗しないということが大いにありうることは確かである。これは、商業の精神が、質素、倹約、節度、労働、賢明、平穏、秩序および規則の精神を導くからである。したがって、この精神が存続するかぎり、それが生み出す富はなんら悪い結果をもたない」(岩波文庫版上巻、第5編第6章)

現在、富の格差がしきりに問題視されます。しかしそれが商業の精神に基づく限り、悪い結果にはならないとモンテスキューは言っています。

「商業は破壊的な偏見を癒す。そして、習俗が穏やかなところではどこでも商業が存在しているというのがほとんど一般的な原則である。また商業が存在するところではどこでも、穏やかな習俗が存在するというのもそうである」(同中巻、第20編第1章)

現代社会には民族・人種・宗教などによる偏見が根強く残っています。けれども政府が号令をかけても偏見はなくなりませんし、むしろ政府は国家間の対立を煽るような行動を取ることが少なくありません。商業によって、たとえば日本は中国、韓国、北朝鮮などと分け隔てなく穏やかに付き合うことが可能になります。政府主導の協定や制裁などでこれらの国を貿易から排除すれば、偏見を強めるばかりです。

「もしわれわれ〔=政府〕が独占企業を営むならば、誰がわれわれを抑止しうるであろうか」(同中巻、第20編第19章)

ある皇帝は妻のための商品を載せた船を見て、これを焼かせ、妻に言いました。「もしわれわれが貧者の職業を依然として営むならば、彼らはなんによってその生活の資を稼ぐことができよう」。現代流にいえば、官業による民業圧迫でしょう。モンテスキューが皇帝はさらにこうも言えただろうと付け加えたのが、引用した文章です。同様の理由から「貴族が君主政において商業を営むのは、商業の精神に反している」とも述べています。

18世紀の人々を啓蒙するためにモンテスキューが説いた商業の精神。政府が経済の自由を縛り、前近代に逆戻りしかけている今、あらためて理解を深めたいものです。(2018/01/12

消費者は根に持たない

さらばケインズ
ベルリンの壁崩壊後、マルクスの社会主義には別れを告げても、ケインズの介入主義と縁を切れないままずるずる過ごした主要国。しかしそろそろ年貢の納め時。目先の選挙のために政府がどんどんカネを使うひずみが限界に。
世界の政府債務10年で2倍 大規模緩和でひずみ拡大

宇宙開発という公共事業
米、日本も協力する国際宇宙ステーションへの資金拠出を2025年までに打ち切り、民間に移転へ。なぜ7年後でなく今すぐやらないのでしょうか。というか、そもそも最初から民間に任せておけば、宇宙開発はもっと効率よくできたのでは。
ISSを民間移転へ トランプ政権予算、月探査優先

消費者は根に持たない
謝罪が遅いとか謝り方がなってないとか、そんなことを消費者はいつまでも気にしません。良い商品・サービスを納得できる値段で提供すれば、戻ってきます。企業に求められる社会的責任とはそれに尽きます。マクドナルド最高益に乾杯。
マクドナルド最高益 前期最終4.5倍 単価上げ、客数も増

固有の領土って何?
新設高校指導要領の改訂案、竹島、尖閣諸島を「我が国固有の領土」と教えることを初めて明記。それなら「固有の領土」が国際法では認められていない、政治的な用語であることもきちんと教えてもらいたいものです。
「歴史総合」「公共」を新設 高校指導要領の改訂案

2018-12-29

自由放任主義へのぬれぎぬ

国家による経済への介入を排除し、個人や企業の自由競争に任せて経済を営むべきだという思想や体制を「自由放任主義(レッセフェール)」といいます。今の世界に、完全な自由放任主義の国は存在しません。比較的自由な米国ですら、多くの産業に規制の網がかけられています。

ところが知識人の中には、そんな影の薄い自由放任主義があたかも世界中で猛威を振るっているかのように受け止め、政府の介入や規制の強化を求める意見が少なくありません。

1月4日付日経「経済教室」に掲載された、経済学者・岩井克人さんの論説はその一例です。この文章には腑に落ちないところがいろいろあるのですが、一番奇妙なのは、市場経済はハイパーインフレの危機に常にさらされているという部分です。

考えてもみてください。現在、深刻なハイパーインフレで国際ニュースをにぎわせている国といえば、ベネズエラです。ベネズエラは社会主義の国です。もし岩井さんが言うように、自由放任的な市場経済がハイパーインフレの犯人なら、自由放任とは正反対の社会主義国でハイパーインフレが起こるはずはありません。一方、最も自由放任に近いとみられている米国でハイパーインフレが起こったことはありません。

ハイパーインフレの原因は自由な市場経済ではありません。ウィキペディア「ハイパーインフレーション」の項にもあるように、米経済学者サージェントは第一次世界大戦後にハンガリー、オーストリア、ポーランド、ドイツの4カ国で生じたハイパーインフレを分析し、共通の原因は財政赤字の急膨張であり、不換紙幣である政府紙幣の発行による、財政赤字のファイナンスと結論づけています。これはベネズエラやジンバブエにも共通します。

つまりハイパーインフレの原因は、政府の放漫財政と、それによって生じた財政赤字を埋めるため行った政府紙幣の大量発行です。一言でいえば、ハイパーインフレの犯人は政府なのです。それなのに政府の介入を排する自由な市場経済を犯人呼ばわりするとは、とんだぬれぎぬです。

岩井さんは、市場経済が安定的に機能するには、政府や中央銀行の規制や介入が必要だと主張します。しかし実際には、国民が飢えや病に苦しむベネズエラの悲劇が物語るとおり、政府が規制や介入を強めるほど、経済は不安定になり、人々を不幸にします。自由放任で滅んだ国はありません。(2018/01/08

バレンタインデー礼賛

美しい日本のTPP
数年内に無料で読めるはずだった三島由紀夫や川端康成の作品、著作権期間の20年延長でお預けへ。TPP受けた措置。自由を拡大し、文化の発展を促すはずの協定の一つの結果。政治家・官僚任せの自由化を信じる人、まだいますか?
小説や音楽の著作権、作者の死後70年に 20年延長方針

バレンタインデー礼賛
バレンタインデーは菓子メーカーが考えた日本だけの奇祭? だったら何? 宝石のように美しいチョコの数々。アートが彩る箱に包み紙。背景には日本古来の恋愛文化。カカオ生産国を潤すグローバル貿易。これこそ世界に誇る文化でしょう。
チョコレートバブる 女子爆買い

悪いことは考えない
米予算教書、長期金利を2018年平均で2.6%、19年も3.1%と見込む。しかし足元ではすでに2.8%に達し、市場では19年末には3.5%を上回るとの見方も。都合の悪い予測は決してしないのはどの国の政府も同じです。
米財政赤字9840億ドルに悪化 19年度予算教書で見通し

補助金ビジネス2018
「事業をSDGs (持続可能な開発目標)と絡めることで、政府の補助金が出たり、国際機関の資金協力を得られたりとお金がつきやすい」と専門家の正直すぎるコメント。補助金のために増税されたら、経済の発展は持続できません。
「持続可能な開発」で巨大市場誕生、商機のつかみ方

2018-12-28

ピケティ氏の矛盾

前回の投稿で紹介したように、富の格差を論じる際にその前提としてはっきりさせなければならないポイントの一つは、格差がもたらす問題は正確には何かということです。もし貧困が全体として減っていて、個々人にも貧困を抜け出すチャンスがあるなら、そもそも格差を問題視する理由はないはずだからです。

ところが格差を正面から扱う著作ですら、この肝心な点がすっぽり抜け落ちている場合が少なくありません。その一例は、数年前に世界的ベストセラーとなった仏経済学者トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本』です。

日本語訳で本文600ページを超すこの大著を最後まで読んでも、不思議なことに、そもそもなぜ格差が悪いことなのかという理由は見当たりません。

それもそのはず、訳者の一人である山形浩生さんがインターネット上で公開した「訳者解説」でも、「格差が拡大すると何がいけない?」という問いに対する明解な回答は「本書にはない」とはっきり述べられています。

代わりにピケティ氏が記すのは「民主主義的、能力主義な価値観と相容れない」「バルザックやオースティンを使った情緒的な議論」「各種革命や動乱は格差拡大で生じた」といった、「定性的、情緒的な話」でしかありません。

また山形さんは、格差と貧困は違うと正しく指摘したうえで、ピケティ氏がそれをどう考えているか紹介します。それによれば、ピケティ氏は、底辺層が豊かになれば格差があってもいいかもとインタビューなどで述べ、格差がある程度あれば競争促進になるとも述べています。つまり「格差それ自体は問題じゃない」と考えているといいます。

けれどもピケティ氏が格差それ自体を問題視していないとしたら、「r > g」(資本収益率が経済成長率を上回る)などという数式を掲げ、富裕層への富の集中を問題視するかのような分厚い本を書くのは矛盾です。ようするに、なぜ格差が問題なのかという本質を突き詰めないまま書いたり話したりしているうちに、筋が通らなくなってしまったというのが真相ではないでしょうか。

本質をあいまいにしたまま、格差問題という言葉が独り歩きし、それを口実にピケティ氏が主張するように富裕層・中間層への課税が強化されるとしたら、憂慮すべきことです。(2018/01/05

どこかで聞いた話

ゴールドの再評価?
金は希少さ、美しさ、利便性を備え、数千年にわたり代替通貨の役割を担ってきたとシラー教授。ビットコインとの対比とはいえ、主流派経済学者が金をほめるのは異例。ただし代替通貨とは不正確です。歴史上、金こそが通貨でしたから。
ビットコイン永続性疑問 エール大教授 ロバート・シラー氏

どこかで聞いた話
政治エリートが企業の後ろ盾となり、見返りとして、利益を吸い上げる。監督省庁は分け前(税金)と引き換えに、保護を提供する。政府とつながりのある企業が勢力を拡大し零細企業を駆逐--。やれやれ。えっ、北朝鮮の話なの?
力つける北朝鮮の"民間"企業

投票方法で解決できない問題
選挙の際、記号式やマークシート、電子投票は簡単で正確性が高いとか。それによって民意はより正確に反映されるかもしれません。でも、国民の大多数がナチスを支持したらどうするかという、より深刻な問題の答えにはなりません。
投票用紙お国事情映す ○×や電子化… 早さ正確さ工夫

輸出が増えるのは良いことか?
経済的に重要なのは、農産物をどれだけたくさん輸出できたかではありません。その農産物を作るために費やしたコストよりも収入が大きいかどうかです。もしコストのほうが大きければ、しゃかりきに輸出を増やしても意味はありません。
農水産物輸出8073億円 昨年最大、牛肉・緑茶けん引

2018-12-27

格差問題、4つのチェックポイント

格差問題に関する議論は、明確な論理に基づかなければならないと前回の投稿で述べました。これについて参考になる記事があります。

米経済学者のスティーブン・ホーウィッツ氏は、各種データに照らすと格差拡大の議論はその多くが誤りか誇張、あるいは反証を無視していると指摘します。そのうえで、格差を論じる際には、その前提として以下の4点を明確にしなければならないと述べます。

第1に、議論の対象が格差と貧困のどちらなのかということです。格差を懸念する人たちはしばしば、豊かな人がより豊かになるから貧しい人がより貧しくなると思い込んでいます。つまりこの人たちにとって経済とはゼロサムゲームであり、豊かになるには他人から富を奪わなければならないのです。

しかし、もし格差でなく貧困に関する話ならば、議論の余地はありません。世界でも米国内でも、このおよそ四半世紀で絶対的貧困は劇的に減少しているからです。

第2に、問題としている格差が所得、財産、消費のどれなのかということです。財産は資産と負債の差、つまりストックです。所得は特定の期間における財産の変化、つまりフローです。両者は別々の概念ですから、財産は多くて所得は少ないケースも、その逆のケースもあります。

一方、消費の格差は所得や財産ほど大きくありません。とくに米国ではそうです。個人にとって究極的に重要なのはどれだけ消費できるかですから、このポイントははっきりさせておく価値があります。

第3にはっきりさせておかなければならないのは、ある所得階層から別の所得階層への移動です。格差を問題にする人たちは、豊かな人と貧しい人はあたかも毎年同じ顔ぶれであるかのように話します。しかし実際には個人は階層間を移動するものです。

ある年に貧しかった人の所得が何年後かにどの程度増えるかは、経済学者の間で意見が分かれます。しかし間違いなく、階層間の移動は存在します。その度合いに関する議論抜きに、格差を論じることはできません。

最後の第4点は、以上の点を踏まえ、格差がもたらす問題は正確には何かということです。もし貧困が減っていて、貧困を抜け出すチャンスがそこそこあるなら、格差拡大のいったい何が問題なのでしょう。

よくある意見は、もし貧困が減っているとしても、金持ちが超大金持ちになれば、政治に不当な影響力を及ぼしかねないというものです。それはもっともな心配ではありますが、超大金持ちと政治の癒着は縁故主義や再分配政策の問題で、格差自体が原因ではありません。

以上がホーウィッツ氏のきわめて論理的な指摘です。格差について議論する際は、まずこれらの前提を確認することが必要でしょう。(2018/01/03

簡素な納税、遠慮します

自業自得の市場混乱
株式市場の混乱に揺さぶられる米欧中銀。けれどもそもそも株価を急速に押し上げ、反動を招いた原因は、中銀自身による野放図なマネーの供給。つまり自業自得です。一段のマネー供給で混乱を鎮めようとすれば逆効果。
金融正常化ゆらぐ土台 米欧中銀、市場安定とジレンマ

共和党は小さな政府というウソ
共和党は小さな政府、民主党は大きな政府などという俗説をいまだに信じている人がいます。けれども現実は共和党は国防、民主党は福祉と名目は違えど、どちらも求めるのはより多くの国民のカネ。結果は政府債務の膨張と衰退への道です。
米歳出上限3000億ドル上げ 上院指導部合意、債務膨張

経済操作のツケ
幕を開ける米国債の「大増発」時代。FRBは過去の量的緩和で買い込んだ米国債を圧縮し、長期金利に一段と上昇圧力。緩和再開などで時間稼ぎはできるでしょう。しかし経済を操作してきたツケは、いつか払わなければなりません。
米国債「大増発」時代へ 長期金利に再び上昇圧力

簡素な納税、遠慮します
スウェーデンが簡単なチェックだけで申告が完了する仕組みを導入したのは、高い税負担への理解を得るためだとか。それなら納税が面倒なままで結構。なんならサラリーマンも戦時に導入された源泉徴収をやめ、確定申告に戻してください。
電子納税にカードの壁 「3000円」が普及阻む

2018-12-26

格差論の混乱

所得や富の格差は、2018年も経済ニュースをにぎわすテーマの一つになりそうです。ところが、これほど話題になるにもかかわらず、格差をめぐる議論にはしばしば混乱が見られます。

人が富を手に入れる方法には二つあります。一つは自発的な交換で、もう一つは強制的な収奪です。

資本主義は自発的な交換で成り立ちます。世界有数の富豪であるマイクロソフトのビル・ゲイツ氏やアマゾンのジェフ・ベゾス氏は、人々から強制的にお金を奪って富を築いたのではありません。便利な製品・サービスを提供し、それを多くの人々が自発的に購入したことで、富を手にしたのです。売り手と買い手の双方が得をするプラスサムゲームです。

一方、資本主義以前の社会では、強制による収奪が一般的でした。諸侯や領主は税や賦役、貢ぎ物の義務を負う奴隷や農奴を犠牲にして生活しました。競争はギルドによって制限され、特権を得た一部の生産者が利益を独占しました。奪う者が奪われる者の犠牲によって潤うゼロサムゲームです。こうした政治力による富の収奪は、現代でも民主主義の名の下に続いています。

自発的な交換によって生じる富の格差は、経済的にも倫理的にも、何ら問題はありません。ゲイツ氏やベゾス氏が億万長者になったからといって、私たちは何の不利益も被っていません。むしろ私たちが両氏から便利な製品・サービスという大きな利益を得たから、彼らは豊かになったのです。富の格差を問題にしなければならないのは、強制的な収奪の場合です。

ところがこの区別をきちんとしない、乱暴な議論が少なくありません。フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、マーティン・ウルフ氏は「民主主義脅かす格差拡大」と題する記事で、富裕層優遇とされる米税制改革を、前近代の農業社会における収奪と同列に論じています。

かりに米税制改革が富裕層優遇だとしても、それは減税によるものです。富裕層は自分の富の一部を取り戻すにすぎず、他人の富を不当に奪うわけではありません。富裕層からいくらの税を取るのが適正かという意見はさまざまでしょうが、少なくとも減税を正反対の収奪と一緒くたにするのは正しい議論ではありません。

格差問題に関する実のある議論は、明確な論理に基づくことから始めたいものです。(2018/01/01

ああ社会主義医療

自動取引は悪玉か
自動取引は今は株の売り手でも、上昇局面では買い手だったはず。悪玉扱いはできません。90年代のバブル崩壊で裁定取引の売りが悪玉扱いされましたが、それまでの株高局面では買い手で、誰も批判しませんでした。
自動取引、株安を増幅 世界連鎖、日経平均1071円安

良い陰謀論、悪い陰謀論
ある事件が米CIAの陰謀だというと「陰謀論だ」と嘲笑されますが、ロシアや北朝鮮の陰謀だというと、確かな証拠がなくても騒ぎになります。記事によれば、コインチェック流出の北朝鮮関与説には懐疑的な見方もあるとのこと。
コインチェック流出、北朝鮮が偽メール攻撃か 官房長官「国際社会と連携」

ああ社会主義医療
かかりつけ医に800円の初診料上乗せ。大病院の要件を500床以上から400床以上に。「患者7人に対して看護師1人」から「患者10人に対して看護師1人」へ移行。需要と供給を反映しない机上の計算。ああ社会主義医療。
かかりつけ医の普及促す 診療報酬、初診料を上乗せ 介護との連携も進める

ルール整備の名を借りて
エアビーも政府には勝てず。合法な民泊物件は年間営業日数が180日までに限定され、民泊の営業をやめる貸し手が増える可能性もあるとか。毎度おなじみ、ルール整備の名を借りた既得権益の保護にしか見えません。
エアビー、違法物件を排除 民泊法施行にらむ

2018-12-25

守銭奴は悪くない

クリスマスの季節になると、英作家ディケンズの名作『クリスマス・キャロル』がよく話題にのぼります。先日も監督リドリー・スコットと俳優トム・ハーディがタッグを組み、同作をドラマ化すると報じられました。

残念なのは、しばしば映画やドラマで、いや原作そのものでも、主人公の商人スクルージが社会にとって迷惑でしかない、金の亡者として描かれることです。たしかにスクルージは金の亡者かもしれません。しかし見えない形で、社会に恩恵をもたらしています。

まず、スクルージが長年商売を続けられているということは、多くの取引相手を満足させていることを意味します。取引相手はスクルージの性格を嫌っているかもしれませんが、それでも取引を続けるのは、商売相手として信頼できるからです。スクルージは取引相手を満足させることで、間接的に取引相手の顧客も満足させ、社会全体の満足向上に貢献しています。

また、スクルージは稼いだお金を貯め込んでいることから、守銭奴と非難されますが、お金を貯め込む人は社会に貢献しています。銀行に預け、あるいは株式や社債を買えば、お金は企業の投資に使われ、生産力を高め、社会を物質的に豊かにするからです。

もし金融機関を信用せず、稼いだお金をすべてタンス預金にしたらどうでしょう。この場合も社会に貢献します。世間に出回るお金の量が減り、物価が安くなるからです。

今の世の中では、物価が下がること(デフレ)は悪いことで、物価安をありがたがるのは無知の証拠だという迷信が広められています。けれども実際には、物価安は個人にとっても社会全体にとっても、良いことです。

そしてスクルージは、なんといっても、争いを好まない平和的な人物です。暴力は振るいませんし、他人の物を奪うこともありません。カッとなって「死ねばいい」と口走ってしまうことはあっても、行動に移しはしません。死者から物を奪い手柄を誇る盗人に対し、怒りを燃やす正義感もあります。

社会に平和的な人物が一人でも増えれば、社会はそれだけ平和になります。スクルージはその意味でも、社会に貢献しています。

おそらく作者ディケンズの意図とは裏腹に、この小説を読んでいくと、スクルージが悪い人間ではないことがわかります。光文社古典新訳文庫版の訳者あとがきで、池央耿氏が「人が何と言おうと誹(そし)ろうと、スクルージは断じて悪人ではない」と書いているとおりです。

それはディケンズが正直ですぐれた作家だったあかしでもあるでしょう。商人というものの姿を、不自然な嘘を交えず活き活きと描いた結果、それは暴力を振るわず、略奪もせず、争いを好まない人物にしかならなかったのです。政治家ではこうはならないでしょう。

スクルージに対する誤解を解いたうえで、平和を祈るクリスマスにふさわしい作品として、読み継がれていってほしいものです。(2017/12/25

政府に依存する科学

リーマン・ショックの再来?
米国株急落。カネ余りが市場を動揺させた点で、2008年のリーマン・ショックと相似。当時資金が向かったのはサブプライムローン関連商品。今回は仮想通貨。カネ余りがもたらした問題をさらなるカネ余りで解決できないことは確か。
株急落、歴史繰り返すか 金利逆風、頼みは低PER

安心安全のコスト
納豆の値上げ相次ぐ。非遺伝子組み換え大豆の値上がりが響く。安全イメージのある非組み換え農産物を消費者が選ぶのは自由ですが、それも値段とのかね合い。組み換え食品の表示ルールが厳格化されれば調達コストはさらに上昇の恐れ。
大豆の割増金、3割高 北米の18年産非組み換え、2年連続の上昇 製品価格に転嫁の動きも

補助金で地方の魅力を高める?
学生が来たがる大学は定員を増やしてはならないという、世にも不思議なお達し。その一方で「魅力を高める」計画を作った自治体には相変わらずの交付金。そういう社会主義的政策こそが地方の活力と魅力を失わせているのに。
23区大学 定員増10年禁止 法案決定、人口の一極集中是正

政府に依存する科学
かつて科学研究の多くは民間企業が担いました。量子論の父、ボーアの研究所はビール会社カールスバーグが建てたもの。民間なら資金の出し手を選ぶことができます。しかし政府に依存した科学者は政府のしもべになるしかありません。
ノーベル賞の梶田氏ら、国立大共同拠点の予算減に危機感

2018-12-24

クリスマス休戦の奇跡

クリスマスが間近に迫った先週末、国連安全保障理事会が北朝鮮に対する追加制裁決議を全会一致で採択しました。石油精製品の北朝鮮向け輸出を9割削減します。これを受け安倍晋三首相は「安保理理事国として、決議の完全な履行を全ての国連加盟国に強く働きかける」との談話を発表しました。

経済制裁で飢えや寒さに一番苦しむのは北朝鮮の庶民です。対外的な憎しみを募らせ、和平実現には逆効果としか思えません。政府に紛争防止を委ねれば、こうなってしまうのでしょう。しかし個人同士であれば、争いをやめることはもっと簡単なはずです。

第一次世界大戦中の1914年12月24日から25日にかけて、英独の兵士たちが対峙する西部戦線で一時的な停戦状態が生じました。政府の命令によるものではなく、自然発生的に生まれた非公式の「クリスマス休戦」です。

英作家マイケル・モーパーゴは児童文学『世界で一番の贈りもの』(評論社)で、架空の英国将校の目を通し、クリスマス休戦の様子を描きます。

英独両軍の兵士たちは間の無人地帯に向かって歩み寄り、真ん中で一緒になります。互いが持ってきた酒をくみ交わし、ソーセージやケーキを食べ、語り合い、サッカーに興じます。夜になりそれぞれ地下壕に引き揚げた後も、クリスマスキャロルを歌い合います。

教師出身の英国将校は故郷の妻にこう書き送ります。「来年のクリスマスには、この戦争も、ただの遠い思い出話になっていることだろう。今日のできごとで、どちらの軍の兵士も、どんなに平和を願っているかがよく解った」

残念なことに、第一次大戦は1918年まで終わらず、その後も2度目の大戦をはじめ、世界では何度となく戦争が繰り返されてきました。今も新たな戦争の恐れは消えません。

けれどもクリスマス休戦という奇跡のような出来事が実際にあったという事実は、一筋の希望の光を投げかけます。政府に外交交渉を任せきりにせず、個人が直接接したり、商取引で間接的につながったりすることで、悲惨な戦争を避ける可能性は高まるはずです。(2017/12/24

殺された側の記憶

今年最大のリスク
先週末に急落した米国株について「インフレ率が予想を上回り、金利が跳ね上がることが今年最大のリスク」と専門家。米国以上に金融緩和に頼ってきた日本経済に金利上昇が及ぼすリスクはさらに大きいと覚悟しておきましょう。
大論戦 米国株はバブルか

経済優先の中身
民意は「基地」よりも「経済」を優先との見方。けれどもその中身は、政府と協調した福祉や経済振興の推進。つまり普段なら批判にさらされるバラマキ政策です。補助金頼みの経済は市場経済ではなく、地域の自立につながりません。
名護市長選、辺野古移設容認派の渡具知氏が初当選

今度は大丈夫?
石油や天然ガスから再生エネにかじを切るアフリカ。日照時間が長く、風力も強いことから設備稼働率を高く維持しやすいとか。それはいいのですが、世界銀行はこれまで石油・ガス関連の資金支援をしてきたと。それって無駄遣いだったのでは。
アフリカ、再生エネ加速 エジプト、豊田通商が風力発電 エチオピア、伊電力大手が太陽光

殺された側の記憶
米南北戦争と同時代に繰り広げられた血みどろの内戦。官軍による市民への残虐行為。敗れた側に対する戦後の徹底した差別。戊辰戦争の歴史を知れば、日本人の絆などという都合のよい言葉を軽々しく口に出せなくなります。
「明治維新」より「戊辰150年」? 会津と長州、雪解け進むか

2018-12-23

フェニキア人の栄光

秋田県立金足農業高校の活躍が話題を集めた100回目の夏の甲子園、2018年全国高校野球選手権大会では、12年ぶりに出場した高知商業高校がベスト16入りを果たした。「鵬程万里果てもなき」で始まる高知商の校歌は、ユニークなことで知られる。

2番の歌詞はこうだ。「天にそびゆる喬木を/レバノン山の森に伐り/舟を造りて乗り出でし/フェニキア人のそれのごと」(竹村正虎作詞)

フェニキア人とは、古代地中海に栄えた商業民族。シドンやティルスなどの海港都市国家を建設し、レバノン杉を用いた優れた造船技術や航海術を使って、地中海交易を営んだ。キプロス島やギリシャといった東地中海から、さらに西地中海に進出し、有名な北アフリカのカルタゴをはじめ、遠くはイベリア半島に至る多くの植民地を築く。前8世紀まで地中海交易の中核を担った。

ティルスでは、前8世紀ころまでに西アジアや地中海各地の商品が扱われるようになった。近隣からは穀物、メソポタミア地方からは織物、アルメニア地方からは馬、ラバ、エーゲ海のロドス島を経由して象牙や黒檀(こくたん)、キプロス島とサルデーニャ島からは銅、イベリア半島南部からは銀をはじめとする鉱物資源がもたらされた。

高知商の校歌に歌われたフェニキア人は、商機を求め、危険を冒して荒海に乗り出す勇者である。しかし世界最古の商業民族の一団である彼らは歴史上、必ずしも好意的な目で見られてこなかった。

旧約聖書「エゼキエル書」によれば、フェニキア人の都市ティルスは、その富ゆえにバビロニアの王ネブカドネザル2世に破壊される。エゼキエル書はフェニキア人を「お前は取引に知恵を大いに働かせて富を増し、加え、お前の心は富のゆえに高慢になった」と非難する。古代ギリシャの詩人ホメロスはフェニキア人を容赦なく批判し、彼らは海賊に違いないとほのめかす。

ティルスの植民者が築いたカルタゴに対しては、ローマと軍事的に対立したからか、さらに手厳しい。ローマ時代の歴史家アッピアノスは「カルタゴ人は隆盛なときには冷酷で傲慢であり、ひとたび逆境に陥ると卑屈になる」と非難した。伝記作家プルタルコスも「楽しみやこの世の快適さには、あまり関心をもたない」と評する。

ある研究者はプルタルコスに同意し、こう記す。「ギリシャ人にとって、カルタゴの町は何ともつまらぬ退屈な生活の場に映ったことだろう。劇場もなければ、競技場も見られない。催しものといえば、宗教的な祭りぐらいなもので、彼らを愉しませるものといったら何ひとつなかった。お祭りだけがどんちゃん騒ぎだった。この商人社会では芸術などというものは役にも立たぬものとみなされ、当然、さかんになりようがなかった」

古来、商業に対する蔑視論は少なくない。古代ギリシャの哲学者プラトンは利得のために行う商業の禁止を論じ、その弟子アリストテレスは、利潤目的の商業と高利貸しは富の獲得に限度を知らず、非難に値する職業と指摘した。

古代ローマでも遠隔地方との通商に対する偏見はきわめて強く、高利貸しの高い利潤とともに、商業の高い利潤を非難した。古代キリスト教神学者アンブロジウスは、商人の利得の性質を多く詐欺的だとみなした。

古代世界におけるフェニキア人に対する非難は、こうした商業蔑視論の系譜に属する。しかしそれは他の商業蔑視論と同じく、不当な偏見といわざるをえない。

2018-12-22

お金は上手な使い手に

成長産業を政府が判断する国
何が未来の成長分野なのかを政府が判断するという発想は、市場経済とは縁遠いものです。自動車や家電など、戦後日本を支えた産業はいずれも政府が当初見向きもしなかったもの。成長戦略に入れられたIoTやフィンテックの先行きが心配です。
成長戦略法案30本提出へ  政府会議了承、働き方など柱

お金は上手な使い手に
アマゾン、法人減税の増益効果7億8900万ドル(約863億円)。これを投資し、さらに便利なサービスを提供してくれるでしょう。何をやらせても非効率な政府に税金を使わせるのとどちらが社会にとってプラスか、言うまでもありません。
アマゾン最終益2.5倍、売上高も最高 10~12月

実力か、徒花か
金融緩和政策の問題の一つは、企業収益が上向いたとき、どこまでが企業の実力で、どこからがカネ余りによる徒花かわからなくなることです。サププライム問題前夜、空前の好決算を謳歌していた日本企業がダブって見えます。
上場企業7割が増益 17年4~12月、幅広い業種で

TPPという打ち出の小槌
TPPなどの発効をにらみ、国内農業対策に3465億円。もしTPPのおかげで輸入品が多少安くなっても、農業対策のために取られる税金と差っ引いてマイナスになるのではたまりません。もしかして米国が加わったらまた取られるの?
補正予算が成立 人づくり革命や災害復旧など2.7兆円

2018-12-21

中小企業衰退の犯人

中小企業衰退の犯人
税軽減はニュースですが、それとともに知ったのは、政府が問題視する中小企業の廃業による雇用や技術の喪失は税制が一因であること。しかも今回の税軽減も、生産性の向上や財務の改善という基準をクリアしないとダメだとか。やれやれ。
M&A、自社株活用促す ベンチャー成長後押し

大統領の朝三暮四
大型減税で中間層や小規模事業者に大きな安心と効果を力説。でも目玉である巨額のインフラ投資の原資の一部が国債だとしたら、それは将来の増税につながります。「朝三暮四」という言葉、英語では何と言うのでしょうか。
「米インフラ投資163兆円」 トランプ氏一般教書演説

M&Aとナショナリズム
日本企業が海外の名門を買収。もし逆のパターンだったら、ナショナリズムによる反発や危機感を煽る声が国内にあふれることでしょう。しかしどの国の企業がどの国の企業を買収しようと、成功すれば消費者にはプラスです。
富士フイルム、世界展開へ主導権 米ゼロックス買収

体力低下で高まるリスク
マイナス金利で貸出金利の低下に拍車、銀行の体力を蝕む。メガバンクはまだしも、地方金融機関は深刻です。もし国債・株式相場の急落に襲われたらどうなるか。投資信託の販売拡大で乗り切れる話ではありません。
大手銀決算、体力低下鮮明に 2年で利ざや14%減る

2018-12-20

ネット投票の代償

雇用は多ければよいのか
雇用は多ければよいというものではありません。極端な話、政府が日本中でピラミッドの建設を計画し、全労働者数を上回る求人をすれば求人倍率は大きく上昇しますが、暮らしは豊かになりません。重要なのは仕事が消費者を豊かにするかどうかです。
有効求人倍率、17年平均は1.50倍 44年ぶり高水準

ベーシックインカムの夢物語
フィンランドで実験されているベーシックインカム(UBI)を実行に移すと、財政赤字が5%増加するとの指摘。仕事でいくら稼ごうと関係なく月7万円以上もらえるとか。少なくとも深刻な財政難の日本には縁のない夢物語でしょう。
[FT]最低所得保障を試すフィンランド、経過はいかに

匿名コインつぶしが始まった
心配していた方へと風向きが怪しくなってきました。匿名コインつぶしです。金融庁はマネーロンダリング(資金洗浄)などに使われる可能性があるといいます。もしそうだとしても、匿名性は個人のプライバシーを守る大切な手段です。
「匿名コイン」悪用されやすく コインチェックが取り扱い 金融庁、監視体制を調査

ネット投票の代償
若者の一部にも賛成意見のあるネット投票。けれどもその実現は、プライバシー侵害につながりかねないマイナンバーの存在が前提です。グーグルやアマゾンの個人情報把握を気持ち悪いと感じても、政府には無抵抗な人が多いのはなぜでしょうか。
ネット投票、マイナンバー合憲が前提

2018-12-19

楽にたくさん納税しよう?

AI麻雀の人間臭さ
AI、囲碁の次は麻雀。機械学習で強いプレーヤーをまねるだけでなく、鳴いて早上がりしたり、安い手でも2番手確定させたりするなどの要素を組み込んでいくとか。なんとも人間臭い! 寝なくても平気なところ以外は……。
AI、麻雀でも5年以内にトッププロより強く

楽にたくさん納税しよう?
税や社会保険の手続きが簡単になるのは、一見良いことのようですが、本当にそうでしょうか。いくら楽な手続きでも、税や保険料をがっぽり取られたら全然うれしくありません。減らしてほしいのは手続きの負担ではなく、払う負担のほうです。
税・社会保険、オンライン一括申請 企業の負担軽く

特許の副作用
特許の目的は「産業の発達に寄与すること」(特許法第1条)のはずですが、実際にはむしろ足かせになっているのではないでしょうか。バイオ薬の場合、従来型の低分子薬と比べ、特許の権利の幅が広く、後発薬の販売を大きく妨げています。
バイオ後続薬、特許が「壁」 先行海外勢が相次ぎ提訴

適温相場のコスト
米国株高にストップをかけた長期金利の上昇。FRBが再びマネーの供給ピッチを上げれば、しばらくは長期金利の一段の上昇を抑え、株の「適温相場」は続くかもしれません。けれどもそれが続くほどドルの価値は毀損し、米経済を蝕んでいきます。
金利上昇で揺らぐか適温の構図

2018-12-18

ピラミッドと重税国家

東日本国際大エジプト考古学研究所は、エジプトにあるクフ王のピラミッド内部に存在するとされる巨大空間の有無を調査する。吉村作治学長らが2018年7月5日、福島県いわき市の同大で記者会見し、プロジェクト概要を説明した。年内にも現地に機材を運び込み、調査に着手する。

ピラミッド研究で有名な吉村学長は「ピラミッドの探査は予測がつかないこともありますが、ぜひ結果を出して、いわきのエジプト研究所はすごいと、名をとどろかせるよう力を尽くしてまいります」と決意を述べた。

古代エジプト文明の象徴ともいえるピラミッドは、今でも多くの謎に包まれる。その一方で、調査や研究の進展により、次第にわかってきたこともある。

その一つが、ピラミッドの建造に直接携わった人々の労働環境である。

100基を超すエジプトのピラミッドで最も大きいクフ王のピラミッドは、使われた石の数が約300万個。建設機械などない約4500年も前のエジプトで、このような大規模な建造物がどうやってつくられたのだろうか。

ハリウッド映画などでは、灼熱の太陽の下で多数の奴隷たちがむち打たれながら大きな石を苦しそうに運ぶ様子が描かれる。これは古代ギリシャの歴史家、ヘロドトスがその著書『歴史』に書き残した「クフ王のピラミッドは、10万人の奴隷が20年間働いてつくった」という記述が広まったためとされる。

現在では、こうしたイメージは誤りとわかってきた。

1988年、クフ王のピラミッドの近くで発見された「ピラミッド・タウン」と呼ばれる遺跡から、パンをこねて焼いたとみられる場所が見つかった。その後の調査でパン以外にも肉やニンニク、玉ねぎなどさまざまな食料が配給されたことがわかり、労働者はかなり高カロリーの食事にありついたと推測される。

エジプト考古学者の河江肖剰氏は、ピラミッド建造に携わった人々は奴隷ではなく「大量生産による大量消費を享受していた労働者たち」だったと指摘する。

このように近年のエジプト考古学は、ピラミッドが奴隷の過酷な労働で建造されたという旧来のイメージ払拭に一役買っている。それ自体は学問の進歩として興味深い。

しかし経済的な視点で注意が必要なのは、ピラミッド建造で働く人々が好待遇を享受していたとしても、当時のエジプトの人々すべてが幸せだったとは限らないことだ。むしろピラミッドでの労働条件が恵まれている分、その背後には庶民の苦しみがあったと見なければならないだろう。ピラミッド労働での好待遇は庶民から取り立てる税に支えられていたからだ。

2018-12-17

TPPという政治ゲーム

TPPという政治ゲーム
自由貿易とは、どの国と取引するかを政府が決めたり、何百ページもの協定で細かい条件を決めたりせず、自由に行える貿易のことです。だからTPPは自由貿易ではありません。それに加盟するかどうかには政治的意味しかありません。
「米、多国間協議の用意」 トランプ氏、TPP参加国と

安全を生むのは規制より競争
仮想通貨に限らず、官庁の規制によって金融市場の不正をなくすのは無理な話。むしろ利用者に不便やコストを強いたり、官庁のお墨付きがあれば大丈夫という誤解を招いたりしかねません。競争によって優れた取引所が残ればよいのです。
仮想通貨に精通の人材、金融庁でも一握り

根拠なき金融政策
日銀のマイナス金利導入から2年。国内景気回復を狙ったものの、銀行のお金が向かったのは不動産と海外。最近「根拠に基づく政策立案」が日本でも流行ですが、現実には根拠のない金融政策が堂々とまかり通っています。
マネー向かった先は 企業、成長投資伸び悩み

長期金利の不気味な上昇
米主要株価指数が軒並み過去最高値を更新する陰で、不気味な長期金利の上昇。減税の穴埋めに国債が増発されれば上昇に弾みがつき、株式相場も無傷ではいられないと指摘。もちろん日本株もです。
ダボス会議があぶり出したリスク

2018-12-16

ロボット化に万歳三唱

科学政策のひずみ
巨額の国費がつぎ込まれ、研究者へのプレッシャーが大きいiPS研究。特に任期付き雇用の若手には焦りも強く、論文捏造・改竄を招いた可能性。世間の注目を浴びやすい分野に偏った予算を配分し「結果」を求める、科学政策のひずみです。
iPS論文不正が問うもの

ギグ・エコノミーという朗報
グローバルな規模で安い労働供給が増え、賃金や物価が上がりにくい経済構造に。デフレは悪いという神話をふりまく中央銀行や評論家にとっては不愉快な現実でしょう。しかし働くチャンスを求める普通の人々にとっては、朗報でしかありません。
国をまたぐ雇用が急成長 ネットで請負37兆円市場へ

ロボット化に万歳三唱
AIの普及で経済は完全にロボット化しかねないと専門家。かりにその予測が正しいとして、一体何が問題なのでしょう。ロボットに労働させ、人間が働かずにその成果を享受できる世界は天国です。労働は幸福になる手段にすぎず、目的ではありません。
AI普及 余剰労働者の未来は

仮想通貨のリスク
仮想通貨を取引所に預けておくと盗難されるリスクはかねて指摘されていました。取引所の責任は問われなければなりませんが、利用者は万が一に備え過大なリスクを取らないこと。損をしても税金では助けてもらえません。
仮想通貨流出、安全性「話が違う」 利用者憤り

2018-12-15

号令がもたらした混乱

低金利頼みのツケ
高成長なら歳出抑制を一切しなくても財政健全化が順調に進む、と内閣府の試算。でも記事にあるように、高成長なら日銀は緩和縮小という出口を探り、長期金利はおのずと上がるはず。そのショックに経済は耐えられるのでしょうか。目先の景気を最優先する低金利政策のツケを払うときが近づいています。
危うい発射台(下)債務残高GDP比が急低下? 超低金利頼み、失敗続き

一番得をしたのは政府?
仮想通貨取引で年20万円以上の利益を上げるとその最大55%が課税されます。株や外国為替証拠金(FX)は損失を向こう3年の利益と相殺して税金を減らせますが、不公平なことに仮想通貨にこの仕組みはないそうです。ビットコインバブルで一番得をしたのは政府かもしれません。
ビットコインバブル(5)得したのは誰だ

号令がもたらした混乱
気象庁などが「早めの帰宅」を促した結果、主要駅には家路を急ぐ会社員らが殺到。夜まで帰らず待っていれば混乱は避けられたのに。官庁やその意を受けた企業が一斉に帰宅を促すことのデメリットが浮き彫りに。こういう仕事、人工知能(AI)に任せたほうがうまくいくのでは? お役所の号令に従う時代ではないでしょう。
早めの帰宅 混乱拍車? 大雪で呼びかけ 駅に殺到、行列100メートル

信頼できないのはビットコインだけ?
仮想通貨には「信頼できる機関が必要だ」とスウェーデン中央銀行副総裁。通貨の発行量を過大でも過小でもなく適切に管理することが重要と。でもバブルの歴史を振り返れば、発行量を適切に管理できないのは中央銀行が管理する法定通貨も同じでは?
ビットコイン、値上がり期待に警鐘 ダボス会議で議論

2018-12-14

会計が文字を生んだ

2018年9月3日まで東京・六本木の国立新美術館で開催された「ルーブル美術館展」で、入場してまもなく目に入ったのは、小瓶を抱えて座る小さな女性の像だ。

高さ20センチのこの石像は、「アリュバロス(小瓶)を持つ女性」と呼ばれ、メソポタミア(現イラク)から出土した紀元前2200〜同2000年ごろの作品。下ろした髪をヘアバンドで固定し、「カウナケス」と起毛した毛織物で作られた丈の高いワンピースを見に着けている。誰を表しているかは不明だが、神殿に仕える女祭司との見方もあるようだ。

メソポタミアはティグリス・ユーフラテス両川流域の沖積地帯で、人類最古の文明が成立した地域の一つとして知られる。灌漑農業にもとづく村落文化が発展し、前3000年ごろになると、シュメール人によってウルク、ウル、ラガシュなどの都市国家がつくられた。都市は城壁で囲まれ、中心に固有の守護神を祭る神殿があった。ルーブル展の女性像もどこかの神殿の祭司かもしれない。

古代メソポタミアでは数学、占星術、暦法などの学問が発達したが、最も注目すべきは、文字の誕生である。

メソポタミア文明の文字といえば、楔(くさび)の形をした楔形文字が有名である。しかしウルクの遺跡で発見された最古の粘土板文書には、楔形文字の原型となった絵文字が多く記されている。これが現在わかっている最古の文字である。

ところが近年、この最古の文字のさらに前身が明らかになってきた。

2018-12-13

政府という暴力

政府という暴力
「政府が何かを得るには暴力を用いるしかない」「政府が人を自由にするという考えは馬鹿げている」「政府の力を弱め、人の暮らしに暴力で介入させないようにしない限り、個人が生まれながらにして持つ自由を行使することはできない」。作家ローズ・ワイルダー・レインの名言。
Rose Wilder Lane: 19 Choice Quotes on Liberty, Government, and Force - Foundation for Economic Education

自由とは平和
自由とは、自分から最初に物理的な暴力を振るう者がいないことである。これは平和が自由の当然の帰結であることを意味する。自由のあるところ、平和がある。なぜなら暴力が使用されないからだ。暴力を自分から最初に振るう者がいなければ、防衛や復讐に暴力を使う必要がない。
13 Illustrations of the Benevolence of Capitalism | Mises Institute

公的部門は強制部門
「民間部門とは自発部門。公的部門とは強制部門」「政府が何かを与えることができるのは、何か他のものを奪ったときだけである」「すべての自由は一体である。経済の自由を否定すれば、結局すべての自由を破壊することになる」。ジャーナリスト、ヘンリー・ハズリットの名言。
Henry Hazlitt on Liberty: 21 Choice Quotes - Foundation for Economic Education

政府のデジタル通貨
政府が現金を廃止しデジタル通貨を発行したら、支配力は絶大だ。税金の滞納や犯罪の容疑によって、保有する通貨を無効にされるかもしれない。金融危機時にオンライン口座を一斉に凍結されるかもしれない。あらゆる購入履歴が把握され個人データが吸い上げられるかもしれない。
Sweden Is on the Verge of Going Completely Cashless - LewRockwell

2018-12-09

ブラック企業は救命ボート

経済介入が失敗する理由
政治家が市場経済への介入を成功させるには、能力以上のことを知らなければならない。市場における知識は一カ所に固まっておらず、散らばり、一様でない。市場では多数の参加者が試行錯誤で誤りを正せるが、政治家は政策の誤りを認めるより、それを続けるほうがましと考える。
Ten Reasons Why Governments Fail | Mises Wire

政府は短期志向
株主が所有するのは将来利益の現在価値で、単なる現在の利益ではない。だから現在価値を高める長期投資に反対しない。短期の好業績で株価が上昇するのは、投資家が目先の利益しか考えないからではなく、将来の好業績への期待から。落選で地位を失う政治家のほうが近視眼的だ。
Politicians Who Accuse Business Leaders of Being "Too Short-Term Focused" Have It Backwards - Foundation for Economic Education

グローバル化の恩恵
取引を通じて暮らしを良くしようとする人が増えたからといって、害を被る人は誰もいない。グローバル化と自由貿易には恩恵しかない。天然資源のない香港はほとんどすべての物資を輸入しなければならないが、社会問題を起こしてはいない。むしろ香港市民は繁栄を謳歌している。
When Conservatives Bemoan Globalization, They Embrace Victimhood | RealClearMarkets

ブラック企業は救命ボート
救命ボートに乗って海の真ん中で過ごしたいとは誰も思わない。飢え、暑さ、サメの群れ、見渡す限り島一つなく、狭苦しい舟の上。どう考えても海を楽しむ理想の方法ではない。だからといって救命ボートを廃止すべきだろうか。ブラック企業の廃止を唱えるのはそれと同じことだ。
"Sweatshops" Are Like Lifeboats for the Poor — Don't Sink Them | Mises Wire

2018-12-08

国営医療の教訓

医療版ウーバーが来る
Qured(キュアード)という人気のアプリを使えば、ロンドンの住民は2時間以内に医師を自宅まで呼べる。公営の医療サービスだと料金こそ無料だが、診察まで2週間も待たされる。昨年発売されたばかりにもかかわらず、3万人以上がダウンロードし、450人の医師が登録している。
An Uber-Like Service Might Help Patients Escape Britain’s Socialist Health System | Mises Wire

国営医療の教訓
1918年、ソ連は世界で初めて公的医療の終身提供を宣言し、憲法に「健康への権利」を定めた。市場競争の無駄をなくせば実現可能という。実際には不潔な病院に悪臭が立ち込め、猫がうろつき、職員は酔っ払い、石鹸にもこと欠いた。汚れた注射針から多くの人がエイズに感染した。
The Lesson of Soviet Medicine | Mises Institute

デンマークが豊かな理由
デンマークが豊かになったのは福祉国家になるより前、今から40-60年前のことだ。1960年代まで税収の対GDP比は米国と同水準で、英国より低かった。福祉政策を導入したから豊かになったのではない。逆にまず豊かになった後で、政府が富の一部を再分配する政策を始めたのである。
Paul Krugman Learns the Wrong Lesson from Denmark | Mises Wire

女性幹部が少ない理由
スウェーデン政府は夫婦に子育ての責任を分担させるため、所得税を引き上げ官営のデイケアを提供し、共働きを促した。労働市場で女性が急増したが、企業の幹部以上に昇進する例は少ない。女性の多くが選ぶ教育やヘルスケアの仕事は巨大な公的セクターに独占されているからだ。
https://mises.org/wire/why-scandinavia-isnt-exceptional

2018-12-07

鉤十字と槌と鎌

多様性の強制
文化マルクス主義はどんな意見も認める思想ではなく、人々の意見を監視する思想である。重要なのは「文化的な豊かさ」が人々自身によって自由に選ばれたものか、それとも少数の文化的一派やメディア、政府と関係を強める経済エリートらによって押しつけられたものかどうかだ。
Yes, PC is Real. Yes, it is Illiberal | Mises Wire

文化マルクス主義の戦略
文化マルクス主義は実体のない陰謀論ではない。社会主義者ラクラウとムフは1980年代、民族・人種・性における少数派を社会主義運動に組み入れる戦略を訴えた。お得意の搾取論で、女性は男性に搾取され、同性愛者は異性愛者に搾取され、若者は老人に搾取され……というわけだ。
Why Marxism Shifted from Economics to Culture | Mises Wire

鉤十字と槌と鎌
鉤十字を見ると、人々はナチスドイツの悪を思い出し、嫌悪感を抱く。欧州の多くの国では鉤十字の表示は犯罪ですらある。ところが共産主義はホロコーストと同じく多数の命を奪ったにもかかわらず、象徴である槌と鎌のマークは禁じられていないどころか、マルクスの像まである。
Why the Hammer and Sickle Should Be Treated Like the Swastika - Foundation for Economic Education

慈善の強制
政府の社会保障とは、自由な社会とは正反対の、強制に基づく仕組みである。それは慈善の強制という発想に基づく。政府がある人の金を力づくで取り上げ、他の人に与える。マルクス主義の「各人からはその能力に応じて、各人にはその必要に応じて」という発想がその根底にある。
Few Dare Call it Socialism: Social Security and Medicare | Mises Wire

2018-12-06

アイスクリームの資本主義

アイスクリームの資本主義
わずか350年前、アイスクリームを味わえるのは王侯貴族だけだった。科学技術の発達で誰もが口にできるように。ガラスの容器を不潔な布で拭くのをやめ、コーンに。贅沢品が日常食に変わる進歩は、ほとんどの食品に共通する。残り物を捨てないのも冷蔵庫があるからできること。
From palace to parlour, the story of ice cream is the story of capitalism - CapX

贅沢は敵か
貧しい人がいるのに、ペットにハロウィンの服を着せるのは許されない贅沢か。そのお金を政府が再分配すべきか。そのためには政府は誰が贅沢品を買ったか把握し、所得のどれだけを誰に再分配するか決めなければならない。得をする人、損をする人が生じ、官僚だけが確実に潤う。
It's OK To Buy Your Pet a Halloween Costume (and Other Luxuries) | Mises Wire

ハロウィンとグローバル経済
ハロウィンの衣装が劇的に見栄えよくなったのは、分業がグローバルに広がったからだ。才能ある中国の人々が自分で縫うのでなく、会社を興してデザインし、アフガニスタンで大量生産している。分業拡大のおかげでブラック企業労働者が起業家となり、すべての人が恩恵を受ける。
Why Halloween Costumes Used to Be Terrible - Foundation for Economic Education

不合理だって構わない
経済にとって重要なのは、個人の意思決定の過程やその背後にある動機、能力ではなく、利潤である。利潤を生み出すのは競争に優れた者であり、最も知的な者でも、最も合理的な者でもない。知性や個人の合理性はどうでもいい。無知な者しかいない社会でも利潤は存在するだろう。
The Problem with Prescriptive "Rationality" in Economics | Mises Wire

2018-12-05

ヒトラーの経済学

右と左の共通点
右翼と左翼は互いをどれだけ嫌っていても多くの共通点がある。どちらも人間関係をゼロサムゲームとみなす。人は属する集団(人種、性別、国籍、階級)で決まると考える。生活に対する人々の不満につけ込んで栄える。人をまるで将棋の駒のようにみなし社会を組織しようとする。
You're not a centrist. You're a liberal - CapX

便利なファシズム
抜け目ない社会主義者は、完全な社会主義ではなくファシズムを選ぶ。生産手段を国有化し中央管理する完全な社会主義が存続できないと彼らは知っている。規制や課税、財政支出で目的の大半は達成でき、経済の破綻を防げる。何か問題があれば資本主義のせいにすることもできる。
Astute Socialists Opt for Participatory Fascism in Practice

個人の傲慢、集団の傲慢
集団的な傲慢は、個人的な傲慢よりタチが悪い。集団的傲慢に対する社会的制裁は、個人的傲慢に対する社会的制裁よりもずっと弱いからだ。あなたが「私は偉大だ」と言えば、親や親友でさえあきれるだろう。ところが同じ集団内で「私たちは偉大だ」と言えば、逆に友人ができる。
Why People Should Stop Appealing to Their Identity to Win Arguments - Foundation for Economic Education

ヒトラーの経済学
ヒトラーは歴史上最も憎まれている人物だが、その経済政策は各国が採用している。高速道路など巨額の公共事業、保護貿易、金融緩和、雇用対策、価格と生産への行政指導、軍備増強、資本規制、家族計画、喫煙禁止、国民医療、失業保険、教育基準の強制、そして多額の財政赤字。
Hitler's Economics | Mises Institute

2018-12-04

消えた行商人

道路は民間で
米国史上、最初の主要道路は民間の有料道路だった。企業は株式を発行して開発資金を賄い、通行料で得た利益を株主に配当する。商品を市場に運ぶ商人が通行料の大半を支払い、その分を商品の値段に含めた。その意味であらゆる人が道路の建設と維持を支えた。税金は不要だった。
Before Public Roads - LewRockwell

アイデアは民間から
経済の発展にとって最も重要なアイデアは、政府の支援を受けない民間の個人によって生み出されてきた。コンピューター、電気、ラジオ、テレビ、自動車、航空機などはそのほんの一部。政府の補助金は市場メカニズムをすり抜けて希少な資本の利用をゆがませ、経済成長を妨げる。
Is Technological Know-How the Key to Economic Growth? | Mises Wire

消えた行商人
かつて企業は行商人から出発した。百貨店、鉄鋼業、自動車会社。小さな商売から始め、勤勉に働き、倹約し、貯めたお金を投資した。今では様変わりだ。起業家が貯蓄を使う前に所得税で吸い上げられてしまうからだ。野心や意欲のある人々の起業を妨げ、貧しさに縛り付けている。
Cheers to the Peddler Class | Mises Institute

介入政策の代償
政治家は最低賃金や関税を支持する際、これらの政策がほとんどすべての人に恩恵をもたらすと言う。しかし実際には、ほぼすべての人に害を及ぼし、利益を得るのはほんの一部の人だけである。しかもその利益はせいぜい短期的で、長期で見ればむしろマイナスとなる可能性もある。
Why Bad Economics Makes Such Good Politics | Mises Wire

2018-12-03

民主主義と自由は別物

「政府は我々」の嘘
民主主義では政府は国民自身だといわれる。一部の者を潤す支出のせいで政府が多額の負債を負っても「国民が自分自身に借金しているだけ」。政府が国民を徴兵しても、自分の意思によるとみなされる。極論すれば、ナチスドイツによるユダヤ人市民の殺害は自殺ということになる。
What the State Is Not | Mises Wire

選挙の悪用
選挙の本当の利点は、権力者をその地位から引きずり下ろすことにある。有権者はしばしばそれを実行する。対照的に、支配階級は選挙を利用して政府の規模を拡大し、税で集めた富をばらまき、仲間にほうびを与え、身内の天下り先を用意する。多数の委員会では官僚が高給を食む。
Exploiting Elections to Expand Government Power

毎日できる投票
投票すると、民主主義に積極的に参加したと感じるかもしれない。しかし選挙は社会を変える最善の方法ではない。個人として一番有効な行動の機会は、何年かに一度の選挙ではなく、財布を開いて買い物をするたびに訪れる。選挙と違い、消費者の主権は一年中いつでも行使できる。
Consumers Should Be Voting Every Day—with Their Wallets - Foundation for Economic Education

民主主義と自由は別物
民主主義が重要なのは、自由を守るのに役立つ場合のみである。あいにく民主主義は自由に役立つとは限らない。多くの人は民主主義と自由は同じものだと考えるが、民主主義は自由を破壊する政策と完全に両立しうる。選挙が終わって政府ができたら、自由の重要性を再認識しよう。
Economist Explains the Greatest Threat to Liberty in the Modern World - Foundation for Economic Education

2018-12-02

シリコンバレーの変容

顧客満足より政治癒着
政府が経済に介入する国で企業の成功にとって一番重要なのは、顧客を最善かつ最安価な方法で満足させることではない。国を支配する政治勢力と「良好な関係」を築き、介入が事業に利益をもたらすようにすることだ。企業トップには官僚や政治家との付き合いのうまい人物が就く。
The Myth of the Failure of Capitalism | Mises Institute

シリコンバレーの変容
大手テック企業が政府から享受する特権は現実に存在し、その特権は自由な市場経済から生まれたものではない。フェイスブックと政府系シンクタンク大西洋評議会との連携や、テック企業と軍産複合体との友好関係は、シリコンバレーが自由な市場経済から遠ざかったことを物語る。
How to Solve the Social Media De-Platforming Problem | Mises Wire

アマゾンを誘致する理由
アマゾンを政治家が誘致するのは、地元企業が成長する環境を整えるより大企業の求めに応じるほうが重要だという考えに基づく。よその知事や市長に自慢できるし、大物ぶれる。マスコミに取り上げられ、票にもつながるかもしれない。多くの雇用や税収を創出したとも言いやすい。
Why Politicians Love the Amazon Deal | Mises Wire

データプライバシーを守るには
ネット企業はデータ収集で利用者にお好みの商品を勧めてくれる。データ取得は利用者の同意に基づく。責任は企業側だけでなく利用者にもある。プライバシーを守りたければ、ネット企業を批判する前に、やみくもに承認ボタンを押さないこと。解決策は規制ではなく消費者教育だ。
Why Data Privacy Is a Controversy That Shouldn’t Exist - Foundation for Economic Education

2018-12-01

課税・徴兵・戦争

課税・徴兵・戦争
あらゆる政府は課税や徴兵、戦争という大量殺戮を通じ自国市民を攻撃する。だから戦争に参加する政府が増えるほど、罪もない市民が命を奪われ、税を強いられ、徴兵される。これをなくすには世論に訴え、政府が戦争を始めたり加わったりしないよう圧力をかけなければならない。
Our Anti-Imperialist Heritage - The Libertarian Institute

財産権はなぜ重要か
財産権は国家に先立つ個人の権利であるという考えと、政府はその権利を社会や「より大きな善」のために侵害できるという考えは両立しがたい。そうした議論は集団虐殺、社会主義、優生学などの正当化に利用される。そこでは何が社会にとって「より大きな善」かは政府が決める。
Property Rights: The Individual Over the State | LIFE Philosophy

参戦の代償
米国が第一次世界大戦に参戦したことにより、戦争を外交交渉で終わらせる可能性が断たれた。これは戦後の混乱につながり、ファシズム、ナチズム、共産主義の興隆と恐ろしい第二次世界大戦をもたらした。それだけではなく、米国内で国家主義の台頭と市民の自由の抑圧を招いた。
Why Cass Sunstein Prefers Pro-War "Experts" to Pro-Peace Populists | Mises Wire

治安維持のアウトソーシング
中世イタリアの商業都市国家ジェノバは、軍隊と治安維持を外国人にアウトソーシングした。内乱鎮圧を自国の総督に任せず、フランスから知事を招いた。市民は政治の主権より経済の自由を尊び、外国人の支配より、同胞を食い物にする権力者を恐れた。秩序は回復し都市は栄えた。
Private Government in Genoa - The Future of Freedom Foundation

2018-11-30

「証拠に基づく政策立案」の限界

最近、データ分析を活用した「証拠に基づく政策立案(EBPM)」が注目されています。NIKKEI STYLEの記事によれば、欧米では近年、この考えが浸透し、日本でも今年8月から政府がEBPM推進委員会を開き、これを導入する動きが出てきました。

政府の政策担当者はこれまで、どれだけの予算を自分の部署の政策に支出できたかという「支出の大きさ」を主眼に政策形成をしてきました。いまさらながらそれをやめ、政策がどれだけの効果を生み出したかという「政策効果の大きさ」を物差しとして政策立案を行おうというわけです。

統計学を駆使したデータ分析には、たしかに興味深いものがあります。2008年、リーマン・ショックに襲われた米政府は景気を刺激する政策として、低燃費車を高燃費車に買い替えたら約40万円の補助金を与える「ぽんこつ車買い替え支援プログラム」を行いました。

この政策について、車販売数の推移を分析した米国の経済学者は「一時的に駆け込み需要を生んだだけで、結果的には需要の総計を増加させはしなかった」と結論づけたそうです。経済学者の伊藤公一朗氏は著書『データ分析の力』で、日本のエコポイント政策についても米国と同様のデータを収集して分析を行うことは可能なはずだと指摘します。

もし専門家が期待するようにデータ分析が税金の無駄遣いを減らすことに役立つのであれば、おおいに結構なことです。実際、海外ではデータ分析の結果を一つの根拠として学校でパソコン無償給付が停止された例などもあるそうです。

しかし、長い目で無駄減らしに役立つかといえば、懐疑的にならざるをえません。データ分析の専門家が重要なことを見落としているからです。それは政府を動かす政治家たちは欲望をもつ生身の人間であり、自分の利益にならないことはやらないという事実です。

データ分析の結果、ある政策に効果がないと言われても、政治家は自分の利益になる政策であれば、あれこれ言い訳をつくってやめないでしょう。あるいは、やめる代わりに別の新しい政策をより大きな規模でやるでしょう。それは政治家と親しい一部の専門家が不十分な検証のままお墨付きを与えた政策かもしれません。

かつて米ジャーナリストのH・L・メンケンは、政治家にとって最大の関心事は「役得にありつくこと」だと喝破しました。政策の決定権を握る政治家たちが聖人君子でない以上、証拠に基づく政策立案には限界があり、悪用される恐れさえあります。(2017/11/30

2018-11-29

違法民泊は悪か

違法な民泊への監視を強める旅館業法改正案が今国会で成立する見通しになりました。行政側に立ち入り検査の権限を与え、罰金の上限額も3万円から100万円に引き上げるそうです。

日経電子版によると、訪日外国人が増加するなか、観光客の新たな受け皿となる民泊の健全な普及を後押しするのが狙いとのことです。

しかし民泊に限らず、「健全」なサービスを普及させるのに政府の規制強化は必要ありません。むしろ逆効果ですらあります。

無許可の違法民泊を問題視する際によく持ち出されるのは、犯罪です。6月に東京で民泊を悪用した覚せい剤密輸事件、7月に福岡で民泊を利用した外国人女性旅行者への性的暴行事件が起き、そのたびに違法民泊は犯罪の温床とのイメージが強調されました。

けれどもこれらの犯罪は例外にすぎません。もし違法民泊の大部分が犯罪の温床なら、政府が規制を強化するまでもなく、怖がって誰も利用しなくなるはずです。

しかし実際には、自治体が許可した正規の民泊の10倍を超える違法民泊があるとみられています。大半の違法民泊は犯罪と無縁であり、だからこそ多くの利用者がいるのです。

そもそも違法民泊が生じる大きな原因は、建築基準法で定める住宅地域の多くで民泊が禁止されているといった規制にあります。建築基準法の地域区分は住宅地に介護老人施設を建てられないなどの問題を引き起こしていますが、民泊の場合も硬直的な規制が家主を法令違反に走らせているといえます。

違法民泊を営むのはいかがわしい一部の業者で、厳しく取り締まろうと自分には関係ないと思うかもしれません。しかし一般市民が違法民泊を敵視し、規制強化に賛成すれば、自分自身が民泊の提供者や利用者として便益を得る自由を狭めるだけです。

法令違反は「悪い」ことです。しかしそれは本当に悪いことでしょうか。住宅など自分の財産を自由に使う財産権は、憲法で保障された権利です。本当に悪いのは規制を破る側なのか、それとも過度な規制の側なのか。違法民泊の問題はそれを問いかけています。(2017/11/29

2018-11-28

不寛容な社会

近ごろ「ダイバーシティ(多様性)」を合い言葉に、互いに寛容な社会をつくろうという運動が盛り上がっています。もし真の寛容をめざしているなら喜ばしいことです。けれども実際には、きわめて不寛容な社会に向かっている気がしてなりません。

ファミリーレストラン大手のサイゼリヤは、再来年9月までに全国のすべての店舗を原則として禁煙とする方針を固めました。

厚生労働省が2020年の東京五輪までに受動喫煙対策を強化する法改正を検討しています。NHKの報道によれば、サイゼリヤでは、客席の禁煙化には改装などに費用や時間がかかるため、国の規制が正式に決まる前に対応方針を固めたものとみられます。

一方、コンビニ大手のミニストップは先週、成人向け雑誌の取り扱いをやめると発表しました。12月1日から本社のある千葉市内の43店でとりやめ、来年1月1日から全国の約2200店に広げます。

ミニストップの発表によると、成人誌の陳列対策に取り組んでいた千葉市からの働きかけをきっかけとして、取り扱いの中止を判断したといいます。

全面禁煙にせよ、成人誌の販売中止にせよ、個々の企業が自主的な判断で実行するのであれば、問題ではありません。喫煙したい利用客は喫煙できる他のレストランに行けばいいし、成人誌を買いたい消費者は売っている他のコンビニに行けばいいからです。

しかし実際にはそうではありません。サイゼリヤやミニストップの例が示すように、背後に政府・自治体の方針や圧力があります。そうだとすれば、1社や2社でとどまる話ではなく、すべての同業他社に広がる恐れがあります。実際、外食産業ではすでに全面禁煙が広がりつつあります。

喫煙や成人誌を不快に感じる人もいるでしょう。いや、むしろそう感じる人が社会の多数派でしょう。しかし、不快に感じても少数派の存在を認めることが、真の寛容のはずです。

もし日ごろ「ダイバーシティ」を声高に唱える人やメディアが本当に寛容や多様性を大切だと考えるのなら、愛煙家や成人誌愛読者の権利を脅かす動きに反対の声を上げるはずです。

けれども残念なことに、そうした声は聞こえません。日本で叫ばれる寛容のすすめとは、しょせんその程度の底の浅いものなのでしょう。(2017/11/28

2018-11-27

企業が現預金を抱える理由

企業の現預金が大きく積み上がっています。政府はこれを問題視し、賃上げや投資に回させようと躍起です。それにしても企業はなぜ、現金を抱えたままなのでしょうか。

現在、金融機関を除いた全産業が保有する現預金は過去最高の191兆円にのぼります。そこで安倍晋三首相は経済界に3%の賃上げを要請し、政府も税制改正などで後押しする構えです。

企業が現預金を抱える理由はいくつかあるでしょう。しかし少なくともその一つは、こうした政府自身の姿勢にあります。そして政府はそれに気づいていません。

日経電子版の記事によれば、企業の「賃上げ倒産」が目立ち始めています。深刻な人手不足の中、人材確保のために賃上げしても業績が伸びず、経営が傾く一因となっています。

人手不足が労働市場の自然な需給に基づくものなら、対応できない企業が淘汰されてもやむをえません。しかし実際には、東京五輪や防災、老朽インフラ対策などを名目とした公共事業の増加や、不動産価格を押し上げる日銀の金融緩和により、特定の産業の求人が膨らんでいます。他産業の人手不足はそのしわ寄せを食っています。

一方で政府は最低賃金の引き上げ、労働時間の短縮、非正規と正社員の格差是正など労働コストの増大につながるさまざまな政策を推進しています。一見、労働者のためになりそうな政策ですが、企業が競争力を失い、最悪の場合「賃上げ倒産」してしまっては元も子もありません。

政府が企業の負担を増すような政策を次々と繰り出し、そのせいで下手をすれば倒産しかねないような状況で、積極的な経営をやれと言われても、土台無理な話でしょう。内閣支持率がまた下がったりすれば、人気テコ入れのため新たにどんな政策が飛び出すかわかったものではありません。

こんなとき経営者としてはできるだけ慎重に構え、リスクに備えて現預金を蓄えておくに限ります。経済への勝手気ままな介入を当然と考える、資本主義国とは思えない政府自身の行動が、企業の警戒心を呼び起こし、現預金を抱え込ませているのです。(2017/11/27

2018-11-26

著作権保護は正しいか

著作権が力を持たなければ、創造的な活動の活気は失われ、芸術家たちは貧しくなってしまう——。政府や業界団体はこう強調し、多くの人々もそう信じています。けれども、それは本当なのでしょうか。

文明の歴史からみれば、著作権が登場したのはごく最近のことです。芸術は文明の始まりまでさかのぼり、少なくとも三千年にわたり、どんな種類の著作権保護もそこにはありませんでした。それにもかかわらず、文学、美術、音楽などの作品がほとんどの社会で多数作られてきたのです。

著作権なしで、たとえば小説家はどうやって稼いだのでしょう。経済学者ボルドリンとレヴァインの共著『〈反〉知的独占』によれば、19世紀の米国では、合法的に売られている本を購入する代金以外、著者にまったく支払いせずに誰でも海外出版物を自由に再版できました。それでもディケンズら英国の作家たちは利益を手にします。

英国の作家たちは新作が自国で出版される前に、原稿を米国の出版社に売ったのです。原稿を買った米国の出版社は、良書をできるだけ早く求める読者の需要に応え、売り上げを伸ばすことができました。英国の作家たちが米国の出版社から前払いで受けた収入は、英国で何年もかけて稼ぐ印税を上回ることがしばしばあったといいます。

著作権保護を強く支持する米ディズニーのアニメ映画の多くは、「白雪姫」「眠れる森の美女」「アラビアンナイト」から、最近製作中止が発表された「ジャイガンティック」の元となった「ジャックと豆の木」に至るまで、著作権のないすぐれた昔話を素材とします。この事実自体、ボルドリンとレヴァイン両氏が指摘するとおり、著作権がなければすぐれた作品は生まれないという同社の主張が正しくないことを示しています。

日経電子版によれば、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)で著作権の保護期間が著作者の死後70年に延長され、しかも外務省はその事実をウェブサイトでひっそりと明らかにしただけでした。文化の発展を妨げかねない重大な決定が、国民の目を盗むように行われることに憤りと危うさを覚えます。(2017/11/26

2018-11-25

技術革新と画家たち

技術革新はしばしば社会に軋轢をもたらします。政治家・官僚や大企業経営者、古い産業の労働者など、既得権益を脅かされる人々が反発・抵抗するからです。

しかし政治力で技術の進歩を妨げれば、社会は停滞し、物質面だけでなく、精神面でも貧しくなります。

話題の「怖い絵展」を監修した中野京子氏の本『印象派で「近代」を読む』によれば、印象派絵画に決定的な影響を与えた発明品があります。チューブ入りの既製絵の具です。

19世紀になるまで、画家は使うだけの分量の絵具を工房内でそのつど調合して作らなければならず、戸外に出て絵を描くことはできませんでした。携帯しやすい既製絵の具や金属製チューブ、ネジ式キャップなどの発明によって、画家は外へ飛び出し、自然光の下で絵を描けるようになったのです。

ここで中野氏は興味深い事実を明かします。既製絵の具の販売を始めたのは「画家になれなかった人たち、あるいは画家として生活してゆけない人たち」だったといいます。

18世紀の終わり頃、創作を断念した元画家や画家志望者は、自分たちであらかじめ練って作った、さまざまな色の絵の具を売り出します。これは今でいう「起業」だと中野氏は指摘します。

写真技術も絵画に大きな影響を及ぼします。写真が肖像画家に与えた打撃は深刻でした。フランスの画家で新古典派の大家、アングルは政府に写真禁止を求めたほどです。

けれども一方で、画家たちは写真を参考に斬新な表現を切り開きます。ドガは写真術を学び、その知見を生かして、踊り子の絵などで斬新な動きのイメージを醸し出しました。

写真の登場という衝撃をきっかけに、印象派もそのライバルであるアカデミー派も真剣に道を模索し、それがかえって絵画の質を高めたと中野氏は言います。もし写真を禁止していたら、この進歩はなかったでしょう。

技術革新による変化を恐れず、むしろ飛躍のばねにする起業家精神こそ、社会を豊かにする原動力です。印象派時代の絵画の歴史は、そのことをあらためて教えてくれます。(2017/11/25

2018-11-24

ノーベル経済学賞を取る法

経済は機械にあらず
経済は、複雑で変化をやめない取引関係から成り立つ。多数の個人の好みと欲望に基づき、生産・売買の精巧で入り組んだパターンが生じる。このパターンは絶え間なく移り変わる。何か一つの目的を果たすために作られた機械とは異なり、経済の目的は一つではなく、何十億もある。
Why the "Economy Is an Engine" Metaphor is So Wrong | Mises Wire

経済学者に予測はできない
同じ刺激に対しても人によって反応は異なる。人間の行動に量的な規則性はない。だから経済学によって人間の未来の行動を予測することはできない。経済学にできるのは(「価格が下がれば需要は増える」のように)一定の条件の下で起こる人間行動の結果を定性的に述べることだ。
Economists Won't Predict the Next Crash — Because They Can't | Mises Wire

進化と市場経済
進化生物学者ドーキンスいわく、良い突然変異より悪い突然変異が多いのは、生命の複雑な仕組みをいじれば改善より改悪の可能性が大きいから。経済も同じ。改悪を避けるには、意思決定を個人に委ねよう。判断を誤っても社会への悪影響は限られ、改善に再挑戦する気持ちも強い。
Richard Dawkins, Biological Complexity, and the Market - Foundation for Economic Education

ノーベル経済学賞を取る法
科学や知識の進歩は経済成長と密接な関係があるといった、昔から知られていたことを数式で表し、新古典派経済学の枠組みに組み込むと、ノーベル経済学賞をもらえる。しかしすでに存在する知見を別の言語で表したからといって、それ自体は科学的知識の大きな進歩とはいえない。
Old Wine in Old Bottles? A Nobel for Clever Packaging? | Mises Wire

2018-11-23

資本主義の主役

今の日本で大企業のトップといえば大半がサラリーマン社長で、自分で会社を起こし、大株主であり続けるオーナー社長は少数派です。まだ若いスタートアップ企業の創業者は別として、オーナー社長は時代遅れで野暮ったいという見方をされがちです。一方、サラリーマン社長のほうが現代的で洗練された印象を与えます。

けれども経済を発展させる原動力となるのは、サラリーマン社長ではありません。オーナー社長です。両者はその本質が異なります。オーナー社長が会社の大部分を所有する資本家であるのに対し、サラリーマン社長はせいぜいわずかな自社株を持つ程度だからです。

その名が示すとおり、資本主義において、資本家かそうでないかは決定的な違いを意味します。資本家は事業に取り組む際、自分の財産を危険にさらします。いきおい、投資には細心の注意を払う半面、十分な見返りがあると判断すれば大胆に資金を投じます。

もし判断を誤って損失を出せば、財産を失って投資する余裕がなくなり、事業の縮小・撤退を迫られます。その一方、洞察力に富む資本家兼起業家は、他人が気づかなかった消費者のニーズを発見してすばやく満たし、増えた財産をさらに投資に回し、社会を便利で豊かにしていきます。経済発展の原動力と呼ぶゆえんです。

これに対しサラリーマン経営者は、事業の成功や不成功で報酬が多少増減する程度で、財産が大きく増えることも失われることもありません。そのため、先行例のない事業はリスクが大きいとして避け、後追いで無難な経営をしがちになります。

厄介なのは、サラリーマン経営者がストックオプション(株式購入権)などで財産を大きく増やしたり、名声や名誉といった財産以外のリターンを手にしたりするチャンスに恵まれた場合です。失敗しても財産を失う恐れがないので、オーナー社長ならやらないような無鉄砲な投資に走ることがあります。

もちろん後追いの経営であっても、経済には貢献しています。けれども原動力とはいえません。政府が資産課税や株式譲渡益(キャピタルゲイン)課税などで企業オーナーという資本家をしいたげ続ければ、資本主義は活力を奪われ、豊かさは失われるでしょう。

今週話題をさらった、DMMグループが70億円を投じる「CASH」買収は、同グループ創業者の亀山敬司氏がメッセージで直接持ちかけて以来、口頭ベースでは合意まで5日ほどのスピードだったといいます。成否はこれからですが、資本主義の主役は資本家だとあらためて認識させられた出来事です。(2017/11/23

2018-11-22

伝統文化はグローバル

伝統文化とグローバル化は相容れないと信じる人が少なくありません。だから「グローバル化は日本の伝統文化を破壊する」という主張をよく耳にします。けれども文化とは、つねに海外の異なる文化を吸収し進化していく、本質的にグローバルなものです。

日本の伝統文化も例外ではありません。今でこそ日本古来の伝統の町とされる京都は、桓武天皇が都を遷した当時、朝鮮半島や中国から移住してきた渡来人であふれていました。大塚ひかり『女系図でみる驚きの日本史』によれば、7世紀の畿内の人口のほぼ30%が渡来人だったといいます。

朝鮮半島と日本の関係は古く、3世紀半ば、百済から多くの技術者や物資が渡来したとされます。さらに5世紀後半、秦の始皇帝の末裔と称する秦氏が嵯峨野・太秦周辺に居住。7世紀後半、百済と高句麗が滅亡すると、日本と特に深い関係にあった百済から亡命者が大挙して渡ってきました。

天皇の御所である大内裏自体、渡来人の秦河勝の邸宅だったという伝承もあり、広隆寺、伏見稲荷、松尾大社など秦氏の関わる寺社は京都に少なくありません。

桓武天皇はそんな京都に長岡京、平安京を造営・遷都します。この造営・遷都も渡来人と関わりが深く、責任者だった藤原種継、藤原小黒麻呂はそれぞれ秦氏の母や妻がありました。

桓武天皇が旧都・奈良から離れた渡来人の街、京都に都を遷した最大の理由も、母が百済の王族の末裔である渡来人だったことと大塚氏は指摘します。桓武天皇は渡来人の血へのこだわりが強く、百済系や漢系など渡来人を6人も妻に迎えました。

その妻の1人、百済永継はもともと藤原内麻呂の妻として真夏や冬嗣を生んだ後、桓武天皇に女官として仕えるうちに愛されて皇子を生みます。歌人の僧正遍昭はその息子です。冬嗣は藤原道長の先祖にあたります。

小倉百人一首で有名な僧正遍昭、文学を愛好し紫式部、和泉式部などの女流文学者を庇護した藤原道長には、ともに百済系の渡来人の血が流れていたわけです。

もし古代の日本が国境を閉ざし、朝鮮半島や中国からの渡来人を排除していたら、魅力ある伝統文化は生まれていなかったでしょう。

先月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に、群馬県高崎市の古代石碑群「上野三碑(こうずけさんぴ)」が登録を認められました。朝鮮半島からの渡来人が伝えた技術で作られ、仏教の広がりや東アジアの文化交流を示す資料とされます。昔から、文化はグローバルだったのです。(2017/11/22

2018-11-21

市場による格差、政府による格差

所得格差は不幸か
殺人や自殺などの社会問題は所得格差(income inequality)が原因といわれる。実際には、貧困層同士の競争よりも富裕層の存在が大きなストレスを与える証拠はない。むしろ所得格差は活発な社会的移動を示し、幸福に寄与する。最新の研究によれば、人は本来、平等な所得再分配を求めるわけではない。
Income equality is no measure of human progress - CapX

市場による格差、政府による格差
経済格差の研究で重要なのは、格差の原因が市場の自由か、市場に対する政府の介入かの区別だ。市場の自由による格差は、たとえ個人差はあっても、社会全体が豊かになる副産物として生じる。政府が起こす格差は、規制や特権による富の再分配というゼロサムゲームの一部である。
Yes, Inequality Is a Problem — When Caused by the Government | Mises Wire

官民癒着による格差
格差問題で真に重要なのは、格差の原因だ。レントシーキング(利権を求める圧力)や政府へのロビー活動で特定の利害集団に有利な規制を実施させ、その結果生じる格差は悪い。大手金融機関の救済、農家への補助金、国内産業を保護する関税、一部の資産家を潤す量的緩和などだ。
3 Problems with How the Media Looks at Inequality | Mises Wire

量的緩和と格差拡大
米連邦準備銀行による量的緩和は富の格差を広げる。人々は超低金利の預貯金を取り崩し、株式などの金融資産を購入する。連銀は資金が預貯金から貸し出しに回るよう望んだが、期待外れ。資金は企業の自社株買いや投資家の信用取引に流れ、経済成長を支える投資には向かわない。
The Fed's Easy-Money Policies Aren't Helping Income Growth | Mises Wire

賃上げ圧力の害悪

政府・与党が企業に対し賃上げの圧力を強めようとしています。日経電子版によれば、賃上げに前向きな企業の法人税の実質的な負担を下げる一方で、高収益にもかかわらず賃上げをしない企業はペナルティーとして特別な減税措置を外すとのことです。

しかし政治の力で無理に賃金を引き上げると、労働コストの上昇を受けて企業が雇用に慎重になり、労働者は職を得るチャンスが小さくなってしまいます。悪くすると、多数の失業者が生じかねません。労働もサービスの一種である以上、価格と需要の法則からは逃れられません。

賃上げ圧力は経済史上、最悪の事態の一因となったことがあります。有名な大恐慌です。

大恐慌当時、米国の失業率が25%にも達したことはよく知られます。この原因について、当時のハーバート・フーバー大統領が自由放任主義者で、必要な不況対策を何も打たなかったからとよく説明されます。しかし近年、事実は逆であることがわかってきました。

大恐慌の発端となったニューヨーク株暴落から1カ月後の1929年11月21日、不況の色が濃くなる中で、フーバー大統領はホワイトハウスに自動車王ヘンリー・フォードをはじめとする米産業界の大物たちを集め、こう提案しました。

「苦しい企業は最悪でも労働時間を削減して雇用を共有してほしい。しかし、一般的な方向は高賃金を維持しつつ雇用を押し上げることにある」(シュレーズ『アメリカ大恐慌』上巻、田村勝省訳)

強制ではありませんでしたが、大統領の要請を受け、会議に出席した経営者らは賃下げをしないと誓い、全米の経営者に同調を呼びかけます。

その結果、米失業率は急上昇していきます。なかでも技能や経験の乏しい労働者は、高い賃金では雇ってもらえず、もろに打撃を受けました。1931年1月時点で、デトロイトでは黒人女性の失業率が約75%(全国平均は14%)に達します。

けれどもフーバーは、自らの賃上げ圧力のせいで大量の失業が発生し、不況が深刻になったことを理解しませんでした。1932年秋、再選を目指す大統領選での演説で、政策の成果を誇らしげにこう強調します。「不況の歴史上初めて、企業の配当、利益、生活費が減少しても、賃金は下がりませんでした」。もちろん再選は果たせませんでした。

賃上げ圧力は、好景気だと弊害が目に見えにくいかもしれません。けれども将来景気が悪化したとき、賃金が柔軟に下がらないと経済的な惨事をもたらしかねません。(2017/11/21

2018-11-20

科学に政府予算はいらない

科学技術の基礎研究は短期の利益に結びつかないので、民間には無理で、政府でなければ担えないという意見をよく耳にします。けれども歴史を振り返ると、それが思い込みにすぎないことがわかります。

原子力を例にとりましょう。初期の原子力研究の大半は政府の予算に頼らず、民間財団や大学の資金で賄われていました。

原子物理学の父と呼ばれ、1908年にノーベル化学賞を受賞したアーネスト・ラザフォードが研究に携わったのは、英国のマンチェスター大学。現在は他の大学と統合して国立大学となりましたが、もとは19世紀半ば、地元の繊維商ら実業家の寄付により設立されました。マンチェスターは産業革命後、綿織物工業の中心地として発展した商工業都市として有名です。

ラザフォードに学び、量子力学を確立したニールス・ボーアが母国デンマークに設立した研究機関、ニールス・ボーア研究所は、1920~30年代に原子物理学研究の中心地となります。この研究所の財政を支えたのも、ビール醸造大手カールスバーグの財団を中心とする民間の資金です。

一方、1940年代になると第二次世界大戦に伴い米国やドイツの政府が原爆開発に乗り出し、研究資金が政府予算で賄われるようになります。これは原子力の平和利用研究をかえって妨げました。厳しい秘密主義により、研究者間の自由な情報交換が規制されたためです。

原子力研究に対する政府の介入は、科学全般にも悪影響をもたらします。米政府は戦後も原子力に過剰な期待を抱き、他分野の研究者や技術者まで動員したため、それらの分野で人材不足を招きました。

政府が特定の技術に肩入れすると、人材や物資が他の産業分野に回らず、健全な経済発展ができなくなります。

極端な例が、かつてのソ連の宇宙開発です。1957年、ソ連は人類初の人工衛星の打ち上げに成功し、先を越された米国など西側諸国に「スプートニク・ショック」と呼ばれる衝撃を与えます。しかし食料品や日用品を作ったり輸入したりする経済力は育たず、結局、国は崩壊しました。

日経ヴェリタスの記事「量子コンピューター革命」で、東京工業大学教授の西森秀稔氏は、政府の予算が乏しい中、民間金融の活力を生かすことが重要だと指摘します。苦肉の策かもしれませんが、政府に頼らない民間主導の研究はむしろ量子コンピューターの未来を明るくするはずです。(2017/11/20

2018-11-19

国家、このあいまいなるもの

私たちは普段、国家を非常に確かな存在と考えています。しかし世界にある風変わりな小国にまで視野を広げると、国家ほどあいまいで奇妙なものはないと思えてきます。

一般に国家が成立するための3要素は「領土、国民、主権」とされます。ところが十字軍時代のカトリック修道会を発祥とするマルタ騎士団は、領土がないのに100以上の国および欧州連合(EU)と外交関係を結び、国連にもオブザーバーとして参加しています。

高級ブランド店が軒を連ねるローマの通りのビルを本拠とし、イタリアに治外法権を認められています。カトリックの頂点に立つローマ法王率いるバチカンとも政治的には対等に渡り合います。

報道などでは、国家ではなく「主権実体」とされますが、国家との区別がよくわからない主権実体という概念を持ち出さざるをえないこと自体、国家というもののあいまいさを示しています。

マルタ騎士団とは対照的にきわめて浅い歴史ながら、劣らず興味深いのは、英国沖の公海上にあるシーランド公国です。今年9月2日、「建国」から50年を迎えました。

1967年、第二次世界大戦中に英軍が築いた人工島の海上要塞を、元英軍少佐で漁師のパディ・ロイ・ベーツが占拠。ロイ・ベーツ公を名乗って独立を宣言します。

2006年に火災が起こり、国土は壊滅状態となりますが、ロイ・ベーツ公夫妻が私財をなげうって再建します。他人の税金に頼ってばかりの他国の政治家は見習ってほしいものです。

ロイ・ベーツ公は2012年10月に91歳で死去。摂政を務めていたマイケル・ベーツ公太子が父の後を継ぎ、2代目シーランド公に即位しました。ハフポストの記事によると、シーランド公国は「ジョークということは全然なく、100%真剣」。いいですね。

地震で大西洋に没したとされる伝説の島、アトランティス。その名を付けた国を建国した人々がいました。1917年、デンマーク人のグループが戦乱の欧州を逃れて米フロリダ沖の群島に移住し、アトランティス公国を宣言します。

NIKKEI STYLEの記事によると、1930年代から1950年代にかけての米国務省の行政記録には、公国元首が同省に宛てて「いずれかの島または国内への不法侵入はすべて懲役刑に相当する犯罪にあたる」と警告を発した文書があるといいます。惜しいことに、今ではもうこの国はないようです。

11月16日の投稿「海上国家へようこそ」で書いたように、太平洋に人工島を浮かべ、新しい国を作る構想もあります。国家とは何か、考えさせられる機会が増えそうです。(2017/11/19

2018-11-18

税軽減は補助金にあらず

税について議論するとき、陥りやすい誤った考えがあります。税の軽減や免除を特別な恩恵のように受け止め、一部の人だけがそれを享受するのは不公平で、許してはならないという考えです。

日経電子版の記事によれば、政府は中小企業の廃業増加を食い止めるため、税制を見直します。これに対し読者の間で、税金を投入してまで中小企業主を助けるのはおかしいと異論が出ています。

もし本当に税金が投入されるのであれば、たしかにおかしなことです。けれども記事を読んでみると、どうもそういう話ではありません。

記事によれば、今は親族内で会社を引き継ぐ場合、相続税や贈与税の支払いを猶予する制度があります。しかし、雇用の8割以上を維持しないと全額納付を迫られ「使い勝手が悪い」と不評です。政府はこうした要件を見直します。

これは税金を投入する話ではありません。税負担を軽くする話です。二つは似ているようで、まったく違います。

中小企業主を助けるために補助金を与えるのであれば、それは税金の投入です。ただし、その税金は他人のお金です。だから使い道が適切かどうか問題になります。

一方、中小企業主を助けるために税金の負担を軽くする場合、その税金は他人のお金ではありません。中小企業主自身のお金です。税軽減は自分のお金を返してもらうにすぎません。補助金ではありません。

それでもサラリーマンなど他の納税者は、中小企業主だけが税軽減の恩恵にあずかるのは不公平で許せないと思うかもしれません。もともと自営業者はサラリーマンに比べ課税所得の捕捉率が低いという恨みもあります。けれどもそれは悪平等の思想です。

税軽減を受けられない納税者が、自分の負担が重くなったと感じ、不公平だと非難したくなる気持ちはわかります。しかしそれはたとえるなら、奴隷が自由になった仲間をねたみ、憎むようなものです。悪いのは自由になった奴隷ではありません。他の奴隷に自由を許さない奴隷主です。

同じように、税を減免される納税者は悪くありません。悪いのは無駄な支出を削ろうともせず、他の納税者に負担を押しつける政府です。

しかも中小企業主の相続税や贈与税は減免されるのではなく、支払いを猶予されるだけです。これでは多少見直すくらいでは廃業は止まらないでしょう。税は国民同士の憎しみを煽り、国を滅ぼします。(2017/11/18

2018-11-16

スイスという希望

スイスという希望
「経済はあまねく、政治は影もなし」。19世紀スイスを表した言葉。その姿は今も健在。連邦国家で中央政府の権限は小さい。税の大半は地方税で、連邦税の割合は約20%。不満なら他の町の選択肢が多い。住民投票で政治に意思を直接反映でき、軍や兵役はあるが戦争を避けてきた。
Economics Everywhere, Politics Nowhere: Switzerland's Six Pointers Towards Hope For Western Civilization. - Center for Individualism

スイス銀行業の深慮
スイスの銀行は一部を除きオープンバンキングはリスクが大きいとして懐疑的だ。慎重さよりも便利さ、信頼できる経験よりも目新しさ、文化的伝統よりも市場の流行を重視するような銀行業には批判的だ。自動資産運用サービスは安い手数料にもかかわらず顧客獲得に苦労している。
FinTech, Robo Advisers, and the Soul of Swiss Banking | Mises Wire

銀行秘密の砦
スイス銀行業の秘密保持に対し風当たりが強いが、脱税と重大犯罪を除けば今なお健在だ。銀行の秘密保持は、法の支配が滅びたり風前の灯だったりする国に住む個人や家族を保護する。スイス政府は繰り返し、正当な顧客のデータを犯罪者や悪辣な政府から守る決意を表明している。
The Death of Swiss Bank Secrecy - LewRockwell

向上心と嫉妬心
貧困を解決する方法は、貧困層が勤勉と自己改善により豊かになる機会を妨げないこと。こう考える社会は向上心型社会である。今の向上心型社会には香港、シンガポール、韓国、スイス、チリなどが含まれる。米国はかつて向上心型社会だったが、最近は嫉妬型社会に変わってきた。
Why Aspirational Societies Are Better Than Envious Ones - Foundation for Economic Education

海上国家へようこそ

優れた起業家は、政府が定める時代遅れの規制や理不尽な課税を賢くかいくぐり、便利で安価な製品・サービスを消費者に届けます。けれども、既得権益を侵された政府やその関係者から目の敵にされ、規制や課税を強化される場合があります。そんなとき、どうすればいいでしょうか。

世界的に著名な起業家が出した答えは「それなら自分たちの国をつくり、そこに移り住めばいい」という大胆極まるものです。

米決済大手ペイパル創業者で大富豪のピーター・ティール氏らが創設した非営利団体、海上居住研究所(Seasteading Institute)は2020年、南太平洋のタヒチ沖に世界初の海上国家を建設する予定です。

同研究所は今年初め、仏領ポリネシア政府から人工島建設の同意を得ました。建設はまもなく始まります。ニューヨーク・タイムズの記事によれば、2020年までに新国家の核となる10を超す島をつくって住宅やホテル、オフィス、レストランを建て、人が住めるようにする計画です。

およそ6000万ドル(約68億円)の費用は、仮想通貨技術を使った資金調達(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)で集めるそうです。

同研究所所長のジョー・カーク氏は「2050年には島を数千に増やし、それぞれが都市として独自の統治を行えるようにしたい」と話します。同氏は既存国家の政府について「改善がない」と批判します。「過去数百年、進歩がない。土地は暴力で独占したくなるからだ」

まるでSF小説のような海上国家が成功するかどうかはまだわかりません。けれども、世界を根底から変える可能性を秘めた試みであることは間違いありません。起業家の使命が旧来の発想を疑い、代替案を提示することだとすれば、まさにその王道を行く挑戦といえます。

海上国家が出現する2020年といえば、東京五輪が開かれる年です。五輪もいいでしょう。けれどもスポーツを既存国家の枠にはめ、あわよくば政治や利権に利用しようとする発想から新しい世界が生まれるとは思えません。(2017/11/16

2018-11-15

起業という革命

衆院選が終わった後も、政治の世界はなにやかやと騒がしい毎日です。しかし政治がどうなろうと、その間に社会では静かな革命が日々進行しています。起業家という革命家たちによってです。

国政選挙をはじめ、政治に関する出来事は派手で目を引きます。あたかも政治が社会の変化をリードしているかのように見えます。そう信じて政治の世界に飛び込む人もいます。

しかし政治は社会の変化を先取りするのでなく、せいぜい後追いするものでしかありません。最初に変化するのは経済であり、政治ではありません。政治は受け身です。もし人々が新しい製品やサービスを支持し、経済のしくみが変われば、社会は変わり、政治も変わらざるえなくなります。その変化を起こすのが起業家です。

起業によって社会や政治を変える方法はたくさんあります。最近でいえば、ライドシェアはタクシーの地域独占を揺さぶります。民泊は政府の都市計画に再考を迫ります。仮想通貨は中央銀行に操作される国営通貨や高コストの古い決済制度に挑戦します。ホームスクールやオンライン教育は政府の教育制度を根底から問い直します。

日経産業新聞で始まった連載「Startup X」によれば、貧富や地域による格差を情報技術(IT)でなくすエドテック(Education Tech)が急成長しています。スマホを使って授業を無料配信する葵(東京・新宿)は、登録者数が30万人を超えたそうです。創業者が保険の営業マン時代、娘の教育に悩むシングルマザーと出会い、今の教育に疑問がわいたのが、起業のきっかけだったといいます。

あらゆる起業は、規制で守られ税で維持される既得権益に対する革命です。暴力でなく、人々を満足させることによって実現される革命です。創造的破壊とも呼ばれます。スタートアップ企業はすべての政治運動を合わせた以上に、創造的破壊によって社会のより良い変化に貢献していくことでしょう。(2017/11/15

2018-11-13

アジア資本主義の未来

「資本主義は終焉しつつある」という暗い見通しをときどき見かけます。たしかに、欧米主導の資本主義は衰退の危機に瀕しているかもしれません。けれども、それだけで資本主義の終焉を語るのは時期尚早でしょう。資本主義の未来を拓く原動力が勢いを増しているからです。アジアです。

国際政治経済学者の進藤榮一氏は著書『アメリカ帝国の終焉』で、アジアにおいて「もう一つの資本主義が誕生し、蘇生し、興隆しつづけている」と強調します。

これまで後発国の発展は、先進国を追い上げるのがせいぜいとされてきました。しかし最近は生産のモジュール化で、一気に追い抜く戦略が可能になりました。先端技術を選択的に利用しながら後発技術をフル稼働させ、膨大な人口のニーズを満たすのです。

代表は中国の山寨(さんさい)企業です。広告や流通にお金をかけず、先端技術は日本企業から部品として入手。特許の縛りを巧みに回避し、庶民に商品を安く早く売り込みます。精巧だけれど値段が高く、巨大な途上国市場に食い込めない日本製品とは対照的です。

勃興するアジアを牽引する中国の躍進は、中華帝国の再来ととらえられがちです。しかし、それは正しくないと進藤氏は異を唱えます。中国の興隆は単独の力によるものではなく、アジアの他の国々と相互に連鎖・依存・補完することで可能になっているからです。

中国で人民解放軍と資源エネルギー産業との軍産複合体が生まれ、南シナ海での膨張主義的行動につながっているのは事実だと進藤氏は認めます。けれども資源開発を日本など周辺諸国とともに進めれば、膨張主義の拡大を防ぐ抑止力になると論じます。

日経電子版の記事によれば、日本は東南アジア諸国連合(ASEAN)と経済連携協定(AJCEP)で最終合意しました。日本自身が衰退への道を脱するためにも、軍事力ではなく、経済の力でアジアの平和と繁栄に貢献してほしいものです。(2017/11/13

2018-11-11

言論の自由は守れるか

神奈川県座間市のアパートで9人の遺体が見つかった事件を受け、菅義偉官房長官は10日、再発防止策としてツイッターの規制について検討の対象になるだろうという見通しを述べました

しかしツイッターを規制すれば、自殺願望に関するやり取りは規制されない地下サイトなどに移り、かえって異常を発見しにくくなるだけです。

ツイッターをはじめとするインターネット上でも「意味がない」「事件を利用し言論の自由を剥奪しようとしてる」「殺人者が死体の解体にのこぎりを使ったら、のこぎりの使用を規制するのか? 」と批判の声が相次いでいます。きわめてまっとうな反応といえます。

多くの人々がネット上で自由な発言を楽しむようになった結果、規制に反発する意見が増えたと感じます。心強いことです。

実際、政府側もこうしたネット世論を無視できなくなっています。菅官房長官の言い回しは「ツイッターの規制について、検討の対象に今後はなるだろうと思いますけれど、現段階で予断を持ってお答えすることは控えたい」と慎重なものでした。

けれども、これだけで言論の自由が安泰だとはいえません。残念ながら市民の中には、別の場面では規制を求める人々も少なくないからです。

その典型は今年9月、同じツイッターに対し行われた抗議活動です。差別表現を伴う投稿を放置しているとして、市民らが東京都内の日本法人前に投稿を印刷した紙を敷き詰め、「ヘイトツイートは表現の自由にあたらない」などと書かれたポスターを掲げました。

ヘイトスピーチやヘイト投稿が言論・表現の自由にあたらないという主張は海外でも一部支持を集めていますが、善意に発したものだとしても、あやうい考えといわざるをえません。何をヘイト表現とするかは線引きが難しく、自由の抑圧に悪用されかねないからです。

本来、言論のプロであるメディアは規制を求める市民をたしなめ、それを機に議論を深める役割があるはずです。ところがツイッターへの抗議活動に関しては、皮肉なことに、いつもは言論の自由を守れと叫ぶリベラルなメディアほど、市民側に同調した報道ぶりでした。

言論の自由は本当に守れるのか、心もとないといわざるをえません。(2017/11/11

2018-11-10

自由が失われるとき

定価1000円の古本をアマゾンに出品し、5700円で売れたら詐欺罪で逮捕され、有罪に——。さいわい、本の世界ではそんな悪夢のような話はありません。ところがコンサートやイベントの世界では、現実になっています。

今年9月のことですが、人気ロックバンド、サカナクションのコンサートの電子チケットを転売目的で取得したなどとして詐欺罪に問われた男性に対し、神戸地裁は懲役2年6月、執行猶予4年を言い渡しました。

男性は今年2月、インターネットのチケット販売サイトを通じて、サカナクションの電子チケット2枚(販売価格計1万3000円)を転売目的で購入。入場券となる二次元コードを表示するスマートフォンを貸し出すことで2枚を計7万4000円で転売したそうです。

チケットの高値転売を非難する人々はよく、「異常な高値」といいますが、この事件の場合、転売価格は販売価格の約5.7倍。絶版になった古本だとこれくらいの値段はざらですから、もしチケットと同じルールが導入されたら、逮捕者が続出することでしょう。くわばらくわばら。けれども笑いごとではありません。

あらゆる転売を禁止したら市場経済が成り立たないことは明らかなので、チケット転売を批判する人々も、転売そのものは認めます。その代わり、「高値転売」を非難します。「異常な高値」がよくないというのです。

しかし「異常」の基準は何でしょうか。そんなものはありはしません。売り手と買い手が互いに納得して取引し、そこで成立した価格は、すべて正当なものです。他人から見て「異常」だからといって取引を否定したら、市場経済は成り立ちません。

音楽ファンの中には、チケット転売をなりわいとする転売屋が厳しい摘発でいなくなれば、一般のファンに回るチケットが増えると期待する人がいます。けれどもこれまで転売屋を通じて買っていた人が一般販売に回りますから、買えずに悔しい思いをする人は減りません。

日経電子版の記事によれば、ヤフーが「ヤフオク」のガイドラインを改定し、転売目的とみられるチケットの出品を禁止しました。ヤフーがそう判断し、実行するのは自由です。しかしそれは本当に利用者のメリットになるのでしょうか。2020年東京五輪を控え、政府がチケット転売規制を強める気配があるのも気がかりです。

自由が失われるとき、それは大衆の支持を得やすい、ささいなところから始まるものです。古本転売の悪夢が現実にならないことを祈ります。(2017/11/10

2018-11-09

ロシア革命の亡霊

11月7日はロシア革命からちょうど100年でした。1917年にレーニン率いる急進的な社会主義勢力が帝政ロシアの当時の政権を奪取し、世界初の社会主義国家、ソビエト連邦(ソ連)の樹立につながった革命です。

資本家に搾取されず、労働者が豊かな生活を送るはずだったソ連は、飢饉や弾圧などで膨大な犠牲者を出した末、1991年に崩壊しました。

けれども「ソ連は社会主義だから滅びた。資本主義の日本には関係ない」と考えたとしたら、それは誤りです。ソ連が滅びたのは、政府が市場経済の原理に無知だったからです。日本に無縁の話ではありません。

松戸清裕『ソ連史』によれば、ソ連の最高指導者だったフルシチョフは1957年、3〜4年のうちに国民1人あたりの食肉・牛肉・バターの生産量で米国に追いつき、追い越せと号令しました。これは非現実的でした。畜産物の政府買付価格は安くて生産コストに満たず、農民が生産増大に積極的に取り組もうとしないからです。

農民の生産意欲を高めるには、買付価格の引き上げが必要です。それには小売価格を上げざるをえません。平均30%引き上げたところ、肉製品の不足が続いていた不満もあって、国民は強く反発しました。ある州では数千人が抗議し、軍の発砲で数十人が死傷します。

またフルシチョフは、安価で供給されるパンを餌に家畜を飼う都市住民が少なくないことが、パン不足を招いているとみて、都市住民による家畜の飼育を禁止しました。この結果、都市は食肉不足に陥ります。農家の付属地削減で野菜も不足しました。

環境破壊は資本主義の病だという俗説に反し、社会主義のソ連で環境は大規模に汚染されていました。利潤の最大化への無関心が罰金や悪評をいとわぬ態度につながったとも、生産計画達成のため環境対策を後回しにしたともいわれます。

今の日本はソ連のような独裁国家ではありませんし、ソ連ほど厳しい経済統制を行なっているわけでもありません。けれども財政危機に瀕しているにもかかわらず、政府の規模拡大をやめようとせず、市場経済への介入を改めない傾向は、ソ連と同じ道をゆっくりたどっているように見えます。ロシア革命の亡霊はそばにたたずんでいます。(2017/11/09

2018-11-08

代表民主制の虚構

政治のまやかし
「選挙とは盗品を前もって売り出す競りのようなもの」「善良な政治家なんてものは正直な強盗と同様ありえない」「政治の目的は大衆を怖がらせ、安全を求めさせること。そのために怪物を次々に登場させるが、すべてまやかしにすぎない」。ジャーナリスト、H.L.メンケンの名言。
12 Naughty Quotes from H.L. Mencken on Government, Democracy, and Politicians - Foundation for Economic Education

代表民主制の虚構
代表民主制の虚構。政治家がたとえ選挙区の有権者を誠実に代表しようとしても、不可能である。有権者全員の考えを知ることはできないからだ。有権者が多様化すればするほど、全員に平等に役立つ法律の制定はできなくなる。少なくとも有権者が何十万人もいる選挙区では無理だ。
No Matter How You Vote, The New Congress Won't Represent You | Mises Wire

政治のカネを減らす法
政治にかかる金を本気で減らしたければ、良い方法がある。地方分権を進め、行政区を小さくすることだ。米国での研究によれば、大きな選挙区の議員がマスメディアでの宣伝活動に巨費を投じる一方、小さな選挙区の議員は催し物や説明会で有権者と対面で交流し、安い費用で済む。
Get Rid of Campaign Finance Laws — Decentralize to Make Campaigns Cheaper | Mises Wire

政府への同意にあらず
選挙で投票しても、政府のすることすべてに同意したことにはならない。中小企業に高い税をかける公約を掲げる候補者Aと、それより低い税を公約する候補者Bしかいないときに中小企業主が投票したからといって、そんな選択肢しか与えない政治制度を支持したことにはならない。
No, Voting Doesn't Mean You "Support the System" | Mises Wire

経済に「反日」はない

歴史認識や領土問題で何かにつけて反目し合う日本と韓国。けれどもそれは所詮、政治の話です。経済には大昔から国境はありません。

高田貫太『海の向こうから見た倭国』によれば、早くも弥生時代後半から、日本列島と朝鮮半島の間で交易が本格化していました。その主役は日朝の沿岸や島々に住む、漁労をなりわいとし、優れた航海技術をもつ人々(海民)です。

かつて交易の対象はおもに青銅とみられていましたが、近年の研究により、鉄も対象だとわかったそうです。

韓国・釜山のトンネネソン遺跡からは鉄器を作る当時の工房が発見されましたが、そこから出土した土器の多くは、日本列島の弥生土器やそれをまねて現地で作られた土器でした。これらを弥生系土器と呼びます。大半は北部九州でみられる壺や甕(かめ)です。

工房で使っていた土器が弥生系土器ということは、そこで鉄器を作っていた人々の中に北部九州から渡ってきた弥生人が含まれていた可能性が高いと高田氏は指摘します。

弥生人は沿岸にある港町を利用し、鉄を求めて海峡を往来していたとみられます。さらに沿岸にとどまらず、鉄鉱石を産出する半島南部の内陸にまで鉄器を求めてやってきた形跡があるといいます。

一方、この交易ネットワークを利用し、朝鮮半島南部からも北部九州に盛んに人々が渡ってきていました。その活動は両地域の間にとどまらず、紀元前108年に中国前漢によって楽浪郡が設置された後には、中国から半島南部、北部九州から、西日本の内陸、驚くことに東日本まで及びます。

たとえば神奈川県海老名市の河原口坊中遺跡では、朝鮮半島中南部で製作されたとみられる、全長28.5センチの長大な板状の鉄斧が出土しています。

このように古代の日本列島と朝鮮半島は交易でつながり、盛んに人々や物が往来していました。

今も庶民は変わりません。日本人は韓国製のスマートフォンや韓流ドラマを楽しみ、韓国人は日本の化粧品や医薬品を愛用する。「反日」「反韓」とは無縁のこのつながりがある限り、両国関係は大丈夫です。(2017/11/08

2018-11-07

規制は弱者を助けない

政府の規制は弱者を守るためにあると信じられています。けれども実際には、政治力のある企業や団体の既得権を守るために導入される規制もあります。弱者を守るために導入された規制であっても、結果的に弱者を苦しめる場合が少なくありません。

日経電子版の大幅刷新を機に連載が始まった産業内幕ルポによると、フリマアプリ大手、メルカリが年内に計画していた東京証券取引所への上場の延期が濃厚になりました。金融庁や警察庁が難色を示しているといいます。

記事には、規制について興味深い指摘があります。資金決済法が定める資金移動業者に登録すると、ユーザーが口座を開設するときに免許証のコピーなど身分証明書を郵送して本人確認をしなければなりません。

なんとも時代遅れで面倒な手続きですが、記事によれば、法制化の過程で銀行からの圧力があり、無意味な規制がかけられたそうです。政治を動かせる強者の既得権を守るための規制です。

実際、2012年に日本でスマホ決済サービスを始めたペイパルが4年後に撤退したのは、資金移動業者に登録した結果、本人確認の手続きが煩雑でユーザーが集まらなかったのが一因といいます。

メルカリはペイパルの二の舞にならないよう、資金移動業者の登録を避けようとしています。しかし物品を販売して得た売上金を預けておくことができるメルカルのしくみは、資金移動業者にあたるとの指摘があるそうです。

記事では触れていませんが、メルカリのこのしくみは、生活保護受給者の助けになっているともいわれます。売上金を出金しなければ、銀行口座を定期的にチェックするといわれる役所に収入を知られず、生活保護を打ち切られる恐れがないからです。

ルール違反かもしれません。けれども、生活費の不足を補うためやむをえずという場合も少なくないでしょう。

メルカリでは以前、額面以上の現金が出品され、問題とされました。借金に苦しむ人がクレジットカードで現金を購入し、急ぎの返済に充てているといわれました。今は禁止されています。

企業がさまざまに工夫するサービスは、法的には微妙な逃げ道を含め、弱者を助けます。何か弊害があっても市場の自律的なルールで解決できる場合が大半です。政府の画一的な規制はむしろ弱者を苦しめかねません。(2017/11/07

2018-11-06

クールジャパンの真の教訓

官民ファンドのクールジャパン(CJ)機構で、損失リスクを抱える事例が相次いでいます。日経電子版の記事によると、発足から丸4年の投資24件中、決定後1年を超す事業の過半が収益などの計画を達成できていないそうです。

誰もがその経営判断の甘さと不効率にあきれることでしょう。けれども、CJ機構や官民ファンドだけが悪いのではありません。政府のかかわる事業すべてに共通する問題であることが、記事を注意深く読めばわかるはずです。

記事では「まず投資ありき」の姿勢がCJ機構の戦略なき膨張を招いていると指摘します。正しい指摘です。けれども、「まず投資ありき」はCJ機構や官民ファンドに限った話ではありません。政府の公共事業はすべて、「まず投資ありき」で決まっています。予算を消化しなければならないからです。

経済学者ケインズを教祖とするマクロ経済学では、公共事業は雇用を生むから正しいと主張します。たしかに公共事業は雇用を生みます。しかしそれをいうなら、CJ機構などの官民ファンドだって、伝統工芸の食器や衣類、食品などを作るため、それなりの雇用を生んでいます。

もし雇用を生むという理由で公共事業を擁護するなら、CJ機構だって擁護しなければならないはずです。そんなことにならないのは、CJ機構の損失リスクが国民に伝わり、納税者のコストが意識されるからです。

一方、一般の公共事業は官民ファンド以上に採算が不透明で、納税者のコストが意識されません。むしろ納税者にコストを意識させないよう、わざと採算をわからなくしているふしがあります。その結果、官民ファンドほど批判されないにすぎません。

記事では、CJ機構の投資先決定に経営陣の不透明な関与があると指摘します。これまた官民ファンドに限った話ではありません。一般の公共事業では、政治家が陰に日に大きく関与しています。

CJ機構は日本の経済政策の例外ではありません。縮図です。世耕弘成経済産業相は「CJ機構の抜本的な見直しを指示した」と5月の国会で答弁しましたが、抜本的見直しが必要なのは、政府が当然のように市場に介入する姿勢そのものです。(2017/11/06

2018-11-04

愚かな税の大迷惑

観光庁が出国税の導入を検討しています。訪日外国人の増加を背景に、国内の観光資源を整える財源に充てるのが狙いだそうです。ところが実際には、日本人の海外旅行や出張の旅客も対象といいます。来日客でもないのにどうして払わなければならないのか、理解に苦しみます。

1人あたりの徴収額は1000円を見込むそうです。観光庁はこれくらいなら大丈夫と考えているようですが、格安航空会社(LCC)の利用客や若者の旅行者には無視できない金額でしょう。肝心の来日客が減ってしまったら元も子もありません。

出国税は欧米にもあるそうですが、税金の場合、欧米でやっているからまともだとはいえません。歴史上、日本顔負けの愚かな税を数多く導入してきたからです。英ニュースサイト、キャップXで英国史上有数の愚かな税を紹介しています。

1712年に導入された「壁紙税」。当時、上流・中産階級の間で人気となった、色や模様付きの壁紙を標的にしました。

税導入の結果、非課税の無地の紙を買い、自分で彩色・彩画する人が続出。税は壁紙作りに余計な時間を取らせ、経済全体の効率を悪化させました。

1696年に導入され、150年以上も続いた「窓税」。これも富裕な市民が標的です。窓が10個以上ある建物が課税の対象となりました。税を逃れるため、多くの家が窓をれんがで塞ぎます。

政府の意図に反し、窓税で一番苦しむことになったのは借家人として入居する貧困層でした。小さい家、窓の少ない家が増えた結果、暗くて狭い住環境を強いられたのです。

「帽子税」もあります。1784年から1811年まで、特別売上税の対象になったのです。当時、帽子は壁紙や窓と同じく、金持ちの贅沢品とみられていました。

帽子屋は課税を逃れるため、帽子の呼び名を「かぶり物(headgear)」に変えました。政府は帽子の法的な定義を見直さざるをえなくなります。法律専門家が大まじめで帽子の定義に貴重な時間を割かなければならないとは、どうみても無駄です。

日本の出国税にも、海外旅行は贅沢だから課税するという時代錯誤な感覚を感じます。愚かな税として社会に迷惑を及ぼし、将来恥をかかないよう、今のうちに撤回してはどうでしょうか。(2017/11/04

第3の道はない

農業支援策の欺瞞
トランプ米政権は、米国の高関税措置への報復で中国などが米農産物にかけた関税の影響を和らげるため、農業支援策を講じる。これは問題解決にならない。支援額は農家が貿易戦争で被る損失には満たないし、大手の農業関連企業を潤すばかりで、小規模な農家の助けにはならない。
Protectionism Abroad and Socialism at Home | Mises Wire

幼稚産業を保護するな
将来有望な「幼稚産業」を自由貿易から保護せよとの意見がある。しかし将来どの産業・企業が成長するかは、政治家や官僚にもわからない。かりにわかったとして、その産業が成熟したとき政治家が保護をやめるとは思えない。建前がどんなに立派でも、保護主義は腐敗をもたらす。
'Infant Industry' Argument Does Not Justify Trade Barriers | Competitive Enterprise Institute

介入政策の末路
もし政府が命じ、より安全に運転できる自動車を造らせたなら、人々は安全運転をしなくなり、その結果、交通事故の死亡率は期待したほど下がらないだろう。一見正しそうな政府の介入政策に賛成するのは賢明でない。この警告を繰り返し発することがエコノミストの重要な役目だ。
Economics Is the Best Mythbuster in History - Foundation for Economic Education

第3の道はない
金融緩和は経済危機と不況をもたらす。信用膨張はあらゆる商品とサービスの価格を高騰させる。市場実勢を上回る水準に賃金を無理やり上げれば、大量の失業が続く。価格に上限を設けると商品の供給が落ち込む。だから資本主義と社会主義を混ぜ合わせた「第三の道」は失敗する。
The Bigotry of the Literati | Mises Wire

2018-11-03

王道の企業、邪道の企業

企業には2種類あります。一つは、魅力ある商品・サービスで顧客を満足させ、その対価で自分も富を築く企業。もう一つは、権力と結託して不公正な取引で潤う企業です。いうまでもなく企業としては前者が王道、後者は邪道です。厄介なことに、同じ企業が王道から邪道に道を踏み外す場合もあります。

昔からそうでした。清水廣一郎『中世イタリア商人の世界』によれば、イタリア商人は13世紀、フランドル特産の上質毛織物やイングランドの羊毛をフランスのシャンパーニュの市で取引し、台頭していきます。欧州各地に支店網も巡らしました。

その一方で、王侯貴族ら権力者と結びつきます。権力者にとって、イタリア商人は資金力だけでなく、優れた事務能力や金融の知識も大きな利用価値がありました。

イタリア商人は宮廷の財政を管理する財務官のような役割を担い、貨幣の発行にも知恵を貸します。フランス王フィリップ4世がしばしば行った貨幣の悪鋳の責任は、イタリア商人にあると非難されたほどです。

こうして当初は市場で頭角を現したイタリア商人は、清水氏が述べるように、権力者に密着してさまざまな特権を獲得する典型的な「特権商人」の道を歩みます。

経済力に加え、政治力まで手中にしたのですから、イタリア商人の地位は盤石に見えます。しかし、むしろもろさが潜んでいました。14世紀半ばに英仏間で百年戦争が起こり、両国の王から資金を求められたイタリア商人は、多額の貸し付けを余儀なくされます。その原資には各地の顧客から預かったお金も含まれていました。

結局、英国王に対する過度の貸し付けは取り立て不能となります。一方でフランス王からは敵の英国王に貸し付けを行ったかどで社員が逮捕され、商品は没収、信用が失墜しました。栄華を誇ったイタリア商人は相次いで破産します。

最初は王道を歩んでいた企業が、規模が大きくなるにつれ権力と癒着し、規制や補助金で守られる邪道に陥る例は、近現代の日本でも少なくありません。しかし最後に残るのは、政治に頼らず、顧客に支持される王道の企業です。(2017/11/03

男女格差の真実

CEOと囚人
男性はノーベル賞受賞者、著名企業CEOのそれぞれ95%、STEM(科学・技術・工学・数学)専攻学生の68%を占める。だが一方で囚人の93%、自殺者の80%弱、ホームレスの70%を占める。男性が囚人になるのは本人のせいだとしたら、CEOになるのも本人のおかげと言わなければならない。
Your "Privilege" Level: How Much We Can Steal From You in the Name of Equality | Mises Wire

男女格差の真実
男女の賃金格差の原因は差別ではなく、おもに家事と育児に割く時間の違いによる。だから結婚せず子供のない男女の間に賃金格差はほとんどない。男女の能力は平均すれば同等だが、男性は女性よりばらつき(ノーベル賞、チェス名人、ホームレス、犯罪、精神疾患など)が大きい。
Racism, Sexism, and Slavery - LewRockwell

選択とは差別
料金が安くて評判も良い庭師に仕事を発注せず、代わりに高い報酬で友人に頼む人は、高いコストという罰を市場から受けているのか? そんなことはない。自分が取引したい相手以外を「差別」することで得られる、より大きな利益のために進んで追加の金銭コストを払うのだから。
The Market Isn't a Schoolmarm: The Austrian School versus Chicago | Mises Wire

女性のきこりを増やそう?
女性の割合が低いのはテック企業だけではない。むしろ他の職業の男女差が大きい。きこり(男性94.9%)、屋根職人(98.3%)、ごみ収集人(91.4%)、製鉄所工員(98%)、鉱夫(99.9%)、漁師(99.9%)、トラック運転手(94%)など。なぜか女性の割合を高める運動はないようだ。
7 Non-Tech Jobs That Underrepresent Women (And the Story They Tell) - Foundation for Economic Education

2018-11-02

少子化対策に大幅減税を

安倍晋三首相は第4次安倍内閣の発足を受けた記者会見で、少子高齢化の克服に向けた新たな政策パッケージを来月上旬に取りまとめるとともに、待機児童の解消などを目的に今年度の補正予算案を編成する考えを表明し、政策の推進に全力をあげる考えを強調しました。

政府はこれまでも少子高齢化を食い止めようと、結婚・妊娠・出産・育児などの支援策をあれこれと打ち出してきました。しかし効果は疑問ですし、私生活への干渉になりかねません。歴史を振り返ると、もっとスマートな人口増加策が見えてきます。それは市場経済の拡大です。

鬼頭宏『人口から読む日本の歴史』によれば、日本は過去1万年に人口の波が4つあります。①縄文時代②弥生時代以降③14~15世紀以降④19世紀~現代――です。①②④の時期はそれぞれ気温上昇、水稲農耕、工業化を支えに人口が増えました。

興味深いのは、室町時代に始まる③の波です。人口成長を支えた原動力は「市場経済の展開」だと鬼頭氏は指摘します。具体的には、隷属農民の労働力に依存する名主経営が解体し、家族労働力を主体とする小農経営への移行が進んだことです。

室町時代には貨幣の普及とともに利潤獲得の機運が高まり、農民はより良い生産方法を求めて選択的に行動するようになります。隷属農民に依存する旧来の名主経営は、衣食住などの費用がかさむうえ、勤勉な労働が期待できず、生産効率が悪かったのです。

晩婚や生涯独身の多かった隷属農民が自立することで、社会全体の有配偶率が高まり、出生率が上昇しました。一方で、食生活の充実や住生活の向上により死亡率も改善します。この背景にも、生産力向上や流通の拡大など市場経済の発展がありました。

現代の隷属農民といえば、稼ぎの多くを税金(社会保険料を含む)で取り上げられる企業家や労働者でしょう。新内閣には市場経済を活性化する規制緩和とともに、大幅な減税を期待します。小手先の少子化対策よりも、はるかに効果が大きいはずです。(2017/11/02

2018-11-01

政府が格差を是正できない理由

「政府は富の格差拡大を是正しなければならない」という意見を毎日のように目にします。けれども、いくつか疑問があります。

まず、そもそも格差は本当に拡大しているのかどうか。次に、かりに本当だとして、是正が必要なのかどうか。特に見落とされやすいのは3点めの疑問です。それは、政府に富の格差拡大を是正するインセンティブ(誘因)があるかどうかです。

考えてもみましょう。政府を動かす政治家・高級官僚の多くは、富のピラミッドの上位に入る金持ちです。だとすれば、わざわざ自分の富を減らすような格差是正策を実行したがるでしょうか。むしろ逆ではないでしょうか。

日経電子版の記事によれば、安倍晋三首相が表明した3~5歳の保育所の無償化に対し、与党内から「所得再分配に逆行する」との批判があるそうです。高所得者層への恩恵が大きいからです。

無償化が全額補填を意味するなら、高額所得世帯は年間100万円以上もの負担減になります。金額にして、年収約1130万円以上の世帯は年収約260万円未満の世帯の17倍もの恩恵を受けるそうです。一方、生活保護世帯では恩恵はゼロです。

格差拡大を批判する人たちは、自己の利益を追求する市場経済では格差は是正されないので、政府に任せるべきだといいます。しかし政府を動かす政治家や官僚は、聖人君子でも天使でもありません。やはり自己の利益を追求する生身の人間です。

著名な知識人でも、この当然の事実を忘れがちです。英文記事にあるように、米哲学者のジョン・ロールズは、自由放任的な資本主義は公正な機会の平等などを受け入れないとして、政府の介入を求めます。ところがその一方で、金持ちは教育で培った知性や財産を利用して政治権力を手に入れ、法体系を作って経済を支配するとも述べます。

おかしな意見です。金持ちが政府を支配していると認めながら、政府は金持ちに不利な政策を実行せよと求めるのですから。(2017/11/01

2018-10-31

社会主義は救世主か

英国で空前の社会主義ブームが巻き起こっています。最大野党労働党のジェレミー・コービン党首の支持率はメイ首相の保守党と逆転し、次期首相の座も現実味を帯びてきたようです。

コービン氏は行く先々でロックスターのような歓迎を受け、若年層の圧倒的な支持を集めています。今月初めの日経電子版によれば、イニシャルの「J・C」にちなみコービン氏を「ジーザス・クライスト(イエス・キリスト)」とまで呼ぶ支持者もいるというから驚きます。

英国は金融危機後の格差拡大や緊縮財政を背景に、中低所得層の不満が蓄積しているといいます。けれども、英国であれ他のどの国であれ、社会主義は救世主にはなりえません。

今年はマルクスの主著『資本論』第1巻刊行から150年、レーニンが率いたロシア革命から100年にあたります。世界で社会主義の誤りをあらためて記憶に刻む好機のはずです。ところが英国の熱狂的なコービン人気が示すように、社会主義の誤りは忘れられ、むしろ美化が進もうとしています。

マルクスは『資本論』で、あらゆる価値は労働者が生み出すという「労働価値説」をもとに、利潤はすべて資本家による労働者の搾取から生まれると主張しました。

労働価値説は、近代経済学の父といわれる英国のアダム・スミスも信じていた説です。けれどもその後、誤りだとわかりました。同じ労働力をかけて作った製品でも市場で価値が異なる事実を説明できないからです。

しかしマルクスは誤った労働価値説をもとに『資本論』第1巻を書き、その後、考えが行き詰まったのか、なかなか続きを出さないまま死んでしまいました。第2巻、第3巻はマルクスの死後、遺稿をもとに盟友エンゲルスが編集・刊行したものです。

土台から間違ったマルクスの経済学は、現実を説明できなくなります。マルクスの思想をロシア革命で実現しようとしたレーニンですら、各国で資本家が労働者を搾取するという考えは誤りだと認めました。工業国の多くで労働者の生活水準が向上する事実に反したからです。

社会主義はかつて民衆を熱狂させ、その民衆を苦しめて終わりました。歴史の悲劇を繰り返さないためには、熱狂でなく理性が必要です。(2017/10/31

2018-10-30

脱デフレ政策の疑似科学

相関関係と因果関係が別物だというのは統計学のイロハです。AとBという現象が同時に起こった(相関関係)からといって、AがBの原因(因果関係)だとは限りません。ところが過去5年近く、政府・日銀は両者を混同し、脱デフレ政策の根拠としてきました。

たとえば、内閣官房参与としてアベノミクスを支える浜田宏一エール大名誉教授は「世界経済の奇跡といわれる日本の高度成長は、緩やかなインフレとともに達成された」(『アメリカは日本経済の復活を知っている』)として、白川方明前日銀総裁時代の末期に始まった物価目標政策を支持してきました。

しかし、ある時期に物価上昇と経済成長という2つの現象が同時に起こった(相関関係)からといって、物価上昇が経済成長の原因(因果関係)だとはいえません。それはたとえば、米国で資本主義が急速に発展した1870〜80年代、物価がほぼ一貫して下落した(デフレだった)ことからも明らかです。

昔から、科学を表面的にしか理解しない人々は相関関係と因果関係を混同し、的外れな主張をしていたようです。鋭い批評家でもあった英作家チェスタトンは、名探偵ブラウン神父を主人公とする短編推理小説シリーズの中で、そうした疑似科学の思考を批判しています。「機械のあやまち」という作品です(『ブラウン神父の知恵』所収、中村保男訳)。

ネタバレになるので詳しくは書きませんが、導入部にこんな場面があります。心臓の反応を利用した新しい精神測定法が米国で評判になっていると聞かされたブラウン神父は、あきれてこう叫びます。「それじゃまるで、女の人が顔を赤くしたからおれはその人に愛されているんだと考える男とちっともかわらないセンチメンタリストだ」

女性が男性を見て顔を赤くした(相関関係)からといって、それが恋愛感情によるもの(因果関係)だとは限りません。男性のズボンのファスナーが開いていたからかもしれません。

ブラウン神父は、科学を自称する測定法についてこんな含蓄ある言葉も発します。「なにかをぴたりと指しているステッキには一つ不便な点がある。ステッキの反対の端が正反対の方向を指すということだ」

脱デフレを唱える人々は、インフレだから経済成長できたといいます。けれども実際は、インフレにもかかわず経済成長できたのかもしれません。だとすればステッキの意味を正反対に解釈したことになります。

2018年4月に任期が切れる黒田東彦日銀総裁の後任は、黒田氏続投が本命視されるそうです。疑似科学に基づく金融政策がさらに続くのでしょうか。(2017/10/30

2018-10-29

中国経済を笑えるか

ナショナリズムは理性を曇らせます。その一例は、中国経済に対する日本人の見方です。中国経済の先行きに黄信号がともると、ざまあみろとばかりに喜ぶ人たちがいます。けれども中国経済が抱える問題の本質は、日本にも共通したものです。

日経の連載記事「習近平の支配」によれば、中国の習近平総書記は1期目の当初、「資源配分で市場が決定的な役割」を果たす改革を進めると公言したにもかかわらず、実際は国有企業を大きくする道を選びました。

1~8月の製造業などの利益は国有企業が46%増に対し、民営企業は14%増にとどまっています。効率を高める改革は滞り、借金や投資に過度に頼る「古い中国」がゾンビのように温存されているといいます。

別の海外記事で、スウェーデン出身の若手経済学者、ペール・ビュールンド氏は最近中国を訪問した経験を踏まえ、中国経済は国家プロジェクトに依存し、入居者のいない高層ビルなど大きな無駄が生じていると指摘します。そして最近の中国経済の奇跡とは「根本から偽物」と厳しく批判します。

中国政府が推進する「一帯一路」構想も、同様の国家プロジェクトです。どれほど無駄な政府支出でも経済成長にカウントする国内総生産(GDP)の仕組み上、当初は成功とみなされるかもしれません。しかし市場経済に基づかないため、結局は悲惨な失敗に終わるだろうとビュールンド氏は予測します。

けれども、これらは決して日本経済と縁遠い話ではありません。

ビュールンド氏は、中国経済とは「とんでもない規模のケインズ流雇用政策」だと表現します。経済学者ケインズの主張に従い、雇用を生み出すため、無駄でもいいので政府が公共事業をどんどん行うというものです。

これは日本のアベノミクスによる「機動的な財政政策」と変わりません。日本の保守政権と中国共産党の経済政策が同じとは、皮肉な話です。

中国経済が臨界点に向かっているとしたら、笑いごとではありません。日本経済も同様の困難が待ち受けるでしょう。(2017/10/29

2018-10-28

人はみな起業家

起業家支援のおせっかい
経済の自由度が大きな国ほど、起業家活動は盛んになりやすい。起業を増やしたければ、起業家活動を妨げる政策をなくさなければならない。米国では起業支援に熱心な州ほど起業は低調という調査結果。政治がしゃしゃり出るほど起業は衰える。たとえ政府にそのつもりはなくても。
Don't Mix Politics and Entrepreneurship | Mises Wire

起業家と経営者
起業家と経営者は違う。経営者の役割は経費を下げ、赤字にならないようにすることだが、起業家の役割は消費者に提供する価値とその価格を考えることだ。経費節減のことばかり考える起業家は経営者であり、起業家ではない。価値と価格を確立する前に経費を気にする余裕はない。
Most Entrepreneurs Are Bad Entrepreneurs | Mises Wire

人はみな起業家
経済学者ミーゼスによれば、起業家の本質は、すでに存在して他人が気づかないものを発見することではなく、不確実な未来に目を凝らすことにある。広い意味で、あらゆる人間は起業家である。自分の努力が望むとおりの結果をもたらすかどうか、決して確実にはわからないからだ。
Entrepreneurial Discovery: Who Needs It? | Mises Wire

規制より賢い方法
「ながらスマホ」を法律で規制せよという意見がある。しかし法律が正しい解決策とは限らない。UXデザイナーは政治家よりはるかに人間行動を理解している。政治家は特定のやり方を人に押しつける。UXデザイナーは人の求めに注意を払い、それをより良くかなえるやり方を考える。
A Better Way to Reduce Texting-Related Driving Deaths - Foundation for Economic Education

ケネディはなぜ死んだのか

陰謀論と聞くと、それだけで冷笑する人が少なくありません。たしかに、陰謀論には荒唐無稽なものもあります。けれども、すべてを頭から「トンデモ」と決めつけるのも理性的な態度とはいえません。

ジョン・F・ケネディ大統領の暗殺事件を巡る機密文書の一部が米国立公文書館のウェブサイトで公開され、話題となっています。

日経電子版が伝えるように、ケネディが米テキサス州ダラスでのパレード中に狙撃され、死亡したのは54年前の1963年11月。米政府の調査委員会(ウォーレン委員会)は元海兵隊員のリー・オズワルド容疑者(移送中に射殺)による単独犯行と断定しましたが、証拠は乏しく、外国政府や米情報機関が黒幕との陰謀論が今も絶えません。

暗殺の真相をめぐっては議論が百出し、謎解きに挑戦した本は数えきれないほどです。その中で興味深いのは、2014年に邦訳が出たジェイムズ・ダグラス『ジョン・F・ケネディはなぜ死んだのか』です。

学生の反戦運動に参加しハワイ大学神学教授の職を辞した異色の経歴の持ち主であるダグラス氏が焦点を合わせるのは、冷戦の頂点でケネディが踏み出した外交政策の転換です。

ケネディは冷戦の戦士として登場し、大統領就任演説では、共産主義陣営に対抗するには十分な武力が必要との考えを表明しました。しかし核戦争寸前までいったキューバ危機を経て、軍縮と平和に方向転換します。

1963年5月、同年末までに南ベトナムから米軍関係者1000人を撤退させる具体的な計画を作成するよう命令。さらに、核実験禁止条約締結と全面的かつ完全な軍縮政策を同時にめざすよう命じた国家安全保障行動覚書第239号を発令します。

同年6月にはワシントンのアメリカン大学で卒業式のスピーチを行い、「軍事力によって米国が世界に強制するパクス・アメリカーナ」を拒否し、事実上、冷戦終結を提案します。凶弾に斃れたのはその5カ月後でした。

ケネディが敵である共産主義者との和平に向かったため、米中央情報局(CIA)や統合参謀本部、軍産複合体の反発を買い、これら国内勢力から暗殺されたというのがダグラス氏の考えです。

ダグラス氏は、具体的に誰が暗殺を計画し、命じたかまで特定はしていません。政府が情報をすべては明らかにしていない以上、やむをえないことです。重要なのは仮説をやみくもに否定せず、事実に基づき検証することです。今後の究明が待たれます。(2017/10/28

2018-10-27

一番大事な金融リテラシー

政府の暴力性は日常ではあまり目立たちません。しかし財政破綻という非常事態に直面すると、それがむき出しになります。終戦直後に強行された預金封鎖、通貨切り替え、財産税といった緊急措置がまさにそれでした。しかも政府はぎりぎりまで、財政は大丈夫と嘘をつきました。

法政大学教授の小黒一正氏は著書『預金封鎖に備えよ』で、一連の緊急措置を詳しく記します。ハイパーインフレに直面した日本政府は1946年、預金封鎖と通貨切り替えに着手。5円以上の旧銀行券をすべて銀行など民間金融機関に預けさせ、生活や事業に必要な額だけを新銀行券で引き出させました。

新たな税も導入します。柱の一つが財産税です。国内に在住する個人を対象に、一定額を超える財産(預貯金、株式などの金融資産及び宅地、家屋などの不動産)に課税。最低税率25%で、1500万円超の財産には実に90%も課税されました。

政府は太平洋戦争開戦前夜の1941年に作成した小冊子で、「国債がこんなに激増して、財政が破綻する心配はないか」という問いに対し「全部国民が消化する限り、すこしも心配は無いのです」と答えています。小黒氏が言うとおり、なんとも「強烈な嘘」です。

私たち国民にとってせめてもの慰めは、こんな非道な政府の暴力からも、多少は逃れる余地があったことです。預金封鎖を事前に察知して預貯金を大量に引き出して株券などに替えておき、新銀行券に切り替わって安定してから現金化した人々もいたようです。財産税による資産没収も、貴金属なら隠せないことはありませんでした。

最近、金融リテラシーに対する関心が高まっているのはよいことです。ただし今から学ぶのであれば、運用商品の利回りがどうこうという細かい話ではなく、非常時に政府から資産を守る知恵こそ一番大事でしょう。政府は教えてくれそうにありませんしね。(2017/10/27

2018-10-26

規制を疑わない国

規制は何らかの目的を達成するための手段です。だから、ある規制が目的の達成にふさわしくなければ、変更や廃止を考えるのが当然のはずです。ところが日本では不思議なことに、そういう意見がほとんど出てきません。

日産自動車の不正検査が問題になっています。無資格の従業員が新車の完成検査をしていたためです。日産はこれまでに約120万台のリコール(回収・無償修理)を決め、車両の出荷を一時停止。テレビコマーシャルや新車キャンペーンも中止しました。大変なことです。

ところが報道では申し訳程度にしか触れられないのですが、これはすべて国内向けの車だけの話です。同じ工場で、同じように無資格者が検査していても、海外向けの車なら何の問題もありません。現に日産は海外向けの車の生産は続けています。

なぜなら、海外では安全性を審査する制度が異なるため、無資格者が検査しても問題とされないからです。

これはおかしな話です。もし有資格者による完成検査が安全のためにそれほど重要なら、海外でも必要とされるはずです。

この点についてジャーナリストの井上久男氏が現代ビジネスで詳しく解説しています。それによると、完成検査とは「儀式」の工程にすぎず、何のノウハウもないといっても過言ではないといいます。

そのうえで同氏は、国土交通省が主管の「型式認証制度」は一部が時代遅れになりつつあり、安全上問題がないのであれば、有資格者による検査制度は廃止にすればいいし、逆に問題があるのならば、今はあいまいな有資格者を厳密に定義せよと述べます。今回の問題の本質は、まさにこういうことでしょう。

お上の決めた規制を金科玉条のように奉って時代遅れになろうと疑わず、破った者はけしからんと有無を言わさず叩く。日本人の一番醜い姿ではないでしょうか。(2017/10/26

2018-10-25

北朝鮮の資本主義

市場経済は世界に平和と繁栄をもたらします。これは環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の最中、日本政府も盛んに強調した真実です(政府によってガチガチに管理されたTPPが市場経済かどうかは別として)。そうだとすれば、朝鮮半島の緊張が緩和に向かうかもしれない良い兆しがあります。北朝鮮で市場経済が成長しつつあるのです。

北朝鮮経済は社会主義経済と経済制裁で壊滅状態かと思っていましたが、日経「経済教室」で三村光弘・環日本海経済研究所調査研究部主任研究員は「たびたび訪問して肌で感じる変化からすれば、ここ5年程度は毎年3~7%〔略〕ぐらいのプラス成長だったように思われる」と述べています。

北朝鮮は公式には社会主義計画経済のままです。しかし黙認ベースで存在する非国営部門や、国営部門と非国営部門の協働などから成長が生まれていると三村氏は推定します。

金正恩時代に入り、全国の協同農場で自らが担当する田畑の収穫高が分配に大きく反映されるなど、市場経済的な改革が実施されています。国営企業でも生産ラインごとに様々な工夫がなされ、さながら「社内起業ブーム」の様相を呈している企業も多いというから驚きます。

北朝鮮にひそかに生まれつつある資本主義はまだ小さなものかもしれません。しかしその成長を邪魔せず、「国全体を変える原動力」(三村氏)にすれば、朝鮮半島と周辺地域の平和と繁栄に道を開くでしょう。報復を招くだけの軍事圧力や経済制裁よりもずっと賢明な方法です。(2017/10/25

2018-10-24

右翼と左翼は変わらない

インターネットの世界では日々、ネット右翼とネット左翼がののしり合っています。国政選挙ともなると大変です。なんだかばかばかしくなってきます。だって、右翼と左翼が正反対に見えるのは表面だけの話で、本質は同じなのですから。

右翼と左翼に共通する本質を一言でいえば、国家主義です。どちらも社会のさまざまな問題は国家権力によって解決できるし、解決しなければならないと信じています。

右翼と左翼の同質性を象徴する人物がいます。安倍晋三首相の祖父、岸信介元首相です。岸氏はタカ派の保守派政治家として知られます。けれども姜尚中・玄武岩『大日本・満州帝国の遺産』が述べるように、政治思想は社会主義の強い影響を受けていました。

戦前、企画院を根城として軍部幕僚層と結びつき、国家改造をめざす「革新官僚」と呼ばれる官僚グループがいました。商工省出身の岸氏はその有力メンバーです。彼らに共通するのは、若い頃、当時インテリの間で流行していたマルクス・レーニン主義的な社会科学の影響を受けたことです。

一方で岸氏は東京帝国大学の学生時代、日本の国家社会主義者である北一輝に心酔していました。北の著書『国家改造案原理大綱』を夜を徹して筆写したといいます。

官僚として出世し満州国に渡った岸氏は、ロシア革命で誕生したソ連の統制経済をモデルに、国家建設の実験に取り組みます。けれども企業の利潤追求を制限したため、開発は思うように進みませんでした。

敗戦でA級戦犯となった岸氏はやがて政界に復帰し、戦後も国家社会主義的な政策の実現に努めます。第二次岸内閣のときに最低賃金法や国民年金法が成立し、社会保障制度の充実が図られたのはその表れです。

現在、社会保障が弱者に満足のゆくサービスを提供できず、財政を危機状況に追い込んでいることを考えると、岸氏の国家社会主義的な経済政策は厳しく評価されなければならないでしょう。右翼と左翼のもう一つの共通点は、経済の道理に無知なことです。(2017/10/24

2018-10-23

棄権したら政府に文句はいえない?

衆院選の投票率は小選挙区、比例代表ともに約54%で、台風の影響もあってか、戦後2番目の低さでした。有権者の半分近い約46%の人々が棄権したわけです。

ところで、棄権は悪いことだとよくいわれますが、それは正しいでしょうか。

棄権を批判する人はよく、「投票しなければ政府に文句はいえない」といいます。けれども、これはどうみてもおかしな意見です。

第1に、もしこの意見を大まじめに法的な意味に取れば、政府を批判する人は、投票した証明書をいつも首からぶら下げていなければなりません。もちろん、そんなことをする人はいません。投票したかどうかにかかわらず、政府に文句をいう自由は誰にでもあります。

第2に、「投票しなければ政府に文句はいえない」が法的な意味ではなく、「投票した人だけが政府に文句をいう倫理的な資格がある」という意味だとしたらどうでしょう。これも成り立ちません。

むしろ逆ではないでしょうか。政府が何か問題を起こしたら、その政府を選んだ有権者こそ、文句をいう倫理的な資格がないはずです。だって、自分が良いと思って選んだ政府なのですから。一方で、政府を選ばなかった棄権者は堂々と文句をいえるはずです。

参政権は読んで字のごとく、国民の権利です。権利である以上、行使しない選択肢もあるはずです。投票を強いるような世論はよくありません。そして棄権しても、政府を批判する資格はあるのです。(2017/10/23

2018-10-22

仮想通貨の官営化

先日、ロシアが独自の仮想通貨「クリプトルーブル」の発行を決めました。GIGAZINEによれば、プーチン大統領が非公開の政府閣僚会議で指示し、ニキフォロフ通信情報相が明らかにしたとのことです。

プーチン大統領はかねて、ビットコインなどの仮想通貨はマネーロンダリング(資金洗浄)や脱税、テロ資金の調達に利用されるとして批判していました。それが今回、みずからその発行に乗り出すわけです。

クリプトルーブルは通常の通貨であるルーブルといつでも交換できますが、出所が証明できない場合、13%の税を課されるもようです。マネーロンダリングなど不正行為の手段として使われないようにするためです。

ニキフォロフ通信情報相によれば、仮想通貨導入を決めた一つの理由は「もしロシアがやらなければ、ユーラシア経済共同体に加盟する近隣諸国が2カ月後に行うため」といいます。同共同体はロシアのほか、ベラルーシ、カザフスタン、ウズベキスタンなどが加盟しています。

ロシアによる政府公認の仮想通貨導入は、中国に続く動きです。中央銀行である中国人民銀行は7月、政府公認の仮想通貨の導入を検討すると表明しました。サンケイビズによると、同銀系の金融時報は9月19日付で、政府公認での早期発行を期待するとの評論を掲載し「ビットコインなどが国家の通貨発行権に挑戦することは許されない」と断じています。

日本ではロシアや中国の経済政策というと、「社会主義」「全体主義」と馬鹿にする声が多いのですが、仮想通貨に関する限り、考えに大差はありません。1円でも多く税金が欲しいときに国民に財産上のプライバシーは許したくないでしょうし、誰もがビットコインしか使わなくなればリフレ政策などできなくなります。

中ロにならって仮想通貨が政府の管理下に置かれる日は、そう遠くないかもしれません。(2017/10/22

2018-10-21

共産主義のファンタジー

市場から暴力へ
社会主義の経済政策の誤りは、資本主義に取って代わった後も変わらず事業を運営できるという考えにある。党員を役員に送り込んでも、正しい経営判断はできない。私有財産に基づく価格体系がもはや存在しないからだ。市場の導きがなければ、財の配分は力づくで決めるしかない。
4 Reasons Why Socialism Fails | Mises Wire

ここにある社会主義
米国人はベネズエラの社会主義の失敗に騒ぎながら、トランプ大統領が1.3兆ドルもの歳出法案に署名しても何の心配もしない。これはベネズエラが想像すらできない規模の社会主義だ。この額だけで同国GDPの3倍にもなる。この戦争福祉国家社会主義に米国で誰か抗議しただろうか?
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Venezuela's Socialism...And Ours

共産主義のファンタジー
あなたが一番好きなファンタジー作家は『ハリー・ポッター』のJ・K・ローリング? 『指輪物語』のJ・R・R・トールキン?『ナルニア国物語』のC・S・ルイス? 『氷と炎の歌』のジョージ・R・R・マーティン? それとも『資本論』のカール・マルクス? 共産主義を笑うジョーク。
8 Funny Memes that Skewer Communism

労働者の友?
歴史家ポール・ジョンソンによれば、カール・マルクスは工場や鉱山など労働現場を生涯一度も訪れたことがなく、誘いを受けても断った。金のために働くことを拒否したので金がなく、金をくれない者を呪った。母親いわく、「資本を少しは集めればいいのに。書くだけじゃなく」。
A Historian Explains Perhaps the Biggest Lesson of the 20th Century - Foundation for Economic Education

2018-10-20

仮想通貨に監視の影

ビットコインなど仮想通貨のメリットの一つは、お金に関するプライバシーが守られることだといわれてきました。政府や銀行に預金残高や取引記録を把握されないからです。けれども、それが将来も続く保証はなさそうです。

金融情報サイト、マーケットウォッチの動画で、ブロックチェーン技術会社ノード40の最高経営責任者(CEO)、ペリー・ウッディン氏が解説するように、米トランプ政権は仮想通貨に強い関心を示しています。

行政管理予算局長となったミック・マルバニー下院議員は、仮想通貨とその中核技術であるブロックチェーンの熱心な支持者として知られます。しかし民間で発達したサービスが政府の関心の的となるのは、利用者にとって必ずしもいい兆しではありません。

日経電子版が報じたように、仮想通貨技術を使った資金調達(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)について、米証券取引委員会(SEC)が7月、条件次第で証券法上の有価証券にあたるとの見解を出したのに続き、米国商品先物取引委員会(CFTC)も今月、ICOで発行される「トークン」が監視対象になる可能性があるとの見解を示し、ビットコイン相場が一時急落しました。

動画の解説によれば、日本の国税庁にあたる米内国歳入庁(IRS)はブロックチェーンの分析に力を入れ始めています。税務調査に利用するためです。税当局がブロックチェーンの分析ノウハウを習得すれば、仮想通貨を利用する個人のプライバシーには脅威となります。

ウッディン氏は、ブロックチェーンは透明性が高いだけに、政府にとって現金よりも規制がたやすいと指摘しています。(2017/10/20

2018-10-19

輸出奨励の勘違い

政治家は盛んに輸出を奨励します。まるで輸出は良いことで、輸入は悪いことだと言わんばかりです。一般の人にも政治家に影響されて「輸出は善、輸入は悪」と漠然と信じている人が少なくありません。

けれども、以前(6月30日付投稿「輸入を許したら『負け』なのか」)も書いたように、その考えは正しくありません。

米経済学者でジョージ・メイソン大学教授のドナルド・ブードロー氏がウォールストリート・ジャーナル紙に投書し、輸出を奨励するトランプ大統領の貿易政策を次のように批判しています。

トランプ大統領によれば、米国民が貿易から多くの利益を得るには、輸出を増やし、輸入を減らせばいいという。しかし、それは誤りである。

輸出とは、製品やサービスを輸入する代償である。トランプ大統領が得意の交渉術で米国の輸出を増やし、輸入を減らせば、それはわざわざ米国民の支払いを増やし、受け取るものを減らすことを意味する。

嘘だと思う人は、家財道具をすべて海外に売り払い、受け取った外貨をマットレスに詰め込んで一切使わないでみてほしい。それで貧しくなるのが嫌なら、トランプ大統領の貿易政策はおかしいということだ——。

わかりやすい解説です。政府が輸出をやたらに奨励し、輸入を制限するのは、貿易の目的を見失った勘違いなのです。ブードロー氏のこの解説から、たとえば輸出を増やすために自国通貨を安くする政策がおかしいこともわかるでしょう。

経済の正しい知識を身につけるコツが一つあるとしたら、それは経済に関する政治家の言葉を真に受けないことかもしれません。(2017/10/19

2018-10-18

宴が終わるとき

経済の状態には好景気と不景気があります。好景気は良いことで不景気は悪いことだと、たいていの人は思っています。でもそうではありません。好景気には悪いものもありますし、不景気には良いものもあります。

景気が良いことと、経済が健全であることは、必ずしも一致しません。マネーの注入によって人為的に演出された好景気は、経済の健全な発展をむしろ妨げます。逆に、人為的な好景気が限界を迎えた後に訪れる不景気は、経済が健康を取り戻す過程です。

だから不景気を和らげるために市場にマネーを注入するのは、せっかくアルコールを断とうとしているアル中患者に酒を飲ませるようなもので、経済の正常化を遅らせます。

経済学者ハイエクは「強制的な信用拡大によって不況に対処することは、その災害をもたらしたまさに同じ手段によってそれを治療しようとすることである」と批判しました。信用拡大とは金融緩和のことです。そのうえで「そのような方法は、信用拡大が終わるやいなや、もっと深刻な恐慌を導くにすぎない」と指摘しています(古賀勝次郎他訳『貨幣理論と景気循環/価格と生産』)。

しかし今、ハイエクの言葉に耳を貸す政府はありません。経済を元気に見せたい政治家にとって、マネーは強壮剤のように便利です。中央銀行にしても、かつては「パーティーが盛り上がっているときにパンチボウルを片づけるのが仕事」といわれ、バブルの歯止め役を期待されましたが、最近ではパーティーが盛り下がる気配を見せると景気づけに新しいシャンパンの栓を抜くのが仕事のようです。

いつになるかはわかりませんが、宴は終わります。しかし、悲しむ必要はありません。それは経済が健全さを取り戻す第一歩だからです。(2017/10/18

2018-10-17

政治家は信頼できるか

国政選挙になると、「信頼できる人を選ぼう」「日本を導くにふさわしいリーダーを選ぼう」といった呼びかけをよく目にします。政治家が自分のことをそのように売り込むのは商売上当然です。けれどもそれを真に受けるのは、危ういことです。

政治の本質をよく知っていた昔の思想家は、政治家には立派な人物がいるなどという甘い見方をしませんでしたし、信頼もしませんでした。その一人、英哲学者ジョン・スチュアート・ミルは著書『自由論』でこう書いています。

「社会の弱者たちが無数のハゲタカの餌食になるのを防ぐには、並はずれて獰猛な一羽のハゲタカが、ほかのハゲタカたちを抑えつけてくれるとありがたい。しかし、このハゲタカの王様もやはりハゲタカであり、弱者の群れを餌食にしようとすることに変わりはない。その鋭いくちばしや爪にたいして、民衆はたえず防御の構えをとりつづけねばならない」(斉藤悦則訳)

ミルはまず、社会の弱者を餌食にする無数のハゲタカがいるといいます。これは犯罪者のことです。犯罪者を抑えつける仕事は、並はずれて獰猛な一羽のハゲタカにやらせればいい。このハゲタカの王は、権力を持つ政府です。

ミルが偉いのは、ハゲタカの王もまたハゲタカであり、「弱者の群れを餌食にしようとすることに変わりはない」ことを忘れないところです。ハゲタカの王は人格が立派だとか、一国のリーダーにふさわしいとかいう幻想を抱きません。

ハゲタカ呼ばわりとは失礼極まると、政治家の皆さんはさぞ腹を立てることでしょう。しかし彼らが権力という「鋭いくちばしや爪」を持つ以上、ミルの叡智に従うのが賢明です。獰猛なハゲタカを信頼はできないし、立派な人格も期待できません。(2017/10/17