2022-11-30

NYタイムズなど、米政府にアサンジ告訴の取り下げ要請

アンチウォー・ドット・コム、デイブ・デキャンプ
(2022年11月28日)

欧米の主要報道機関5社はついに、ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジのために発言し、米政府にアサンジに対する告訴を取り下げるよう求めた。

米紙ニューヨーク・タイムズ、英紙ガーディアン、仏紙ルモンド、独誌シュピーゲル、西紙エル・パイスの編集者・発行人は米政府への書簡で「出版は犯罪ではない」とし、米国は「機密公開を理由としたジュリアン・アサンジの起訴を終わらせるときだ」と述べている。

5つの報道機関はウィキリークスが公開した文書から多大な恩恵を受け、同組織と協力して「ケーブルゲート」と呼ばれる報道で国務省の公電を公開した。書簡では、それらのリークと内部告発者チェルシー・マニングからイラクとアフガニスタンの戦争記録を受け取ったことで、アサンジは「きわめて厳しい事態」に直面したと説明している。

書簡にはこう書かれている。「2019年4月12日、アサンジは米国の逮捕状によりロンドンで逮捕され、現在、通常はテロリストや組織犯罪集団のメンバーに使用される英国の警備厳重な刑務所に3年半拘束されている」

何の容疑もなくベルマーシュ刑務所で拘束されている間、アサンジは精神的な拷問を受けていると、国連の特別報告者は断定している。米国に引き渡された場合、アサンジは最大限の警備が施された刑務所で最長175年の刑期に直面する可能性がある。

アサンジは、公開した情報を受け取るために通常のジャーナリズムの手法を用いたにもかかわらず、米司法省はスパイ活動法により起訴した。書簡によれば、オバマ政権は前例となりうることを理由にアサンジの起訴を求めず、トランプ政権が起訴を決定した。

「しかしドナルド・トランプ政権下では立場が変わった。司法省は、出版社や放送局を起訴するために使われたことのない古い法律である1917年スパイ法(第一次世界大戦中、スパイ容疑者を起訴するために作られた)に頼った」。報道機関各社はそう述べている。

トランプ政権がアサンジを起訴することを決めたのは、米中央情報局(CIA)のハッキング計画を詳細に記した「ボルト7」と呼ばれる文書をウィキリークスが公開したことと関係がありそうだ。公開に違法性はないし、アサンジはそれとは無関係のリークで起訴されているわけだが、ボルト7の件はCIAとマイク・ポンペオ長官(当時)を激怒させた。

昨年、ヤフーニュースは衝撃的な報道で、ポンペオ監督下のCIAがボルト7の公開をめぐってアサンジの誘拐を企て、暗殺を検討していたことを明らかにした。この報道は、アサンジを米国に引き渡すという英国の前内務長官の決定への異議申し立てで弁護団に引用され、現在控訴中である。

(次を全訳)
Major News Organizations Finally Urge US to Drop Charges Against Julian Assange - News From Antiwar.com [LINK]

2022-11-29

ハイテク企業と政府を切り離せ

元米連邦下院議員、ロン・ポール
(2022年11月28日)

エド・マーキー上院議員(民主党、マサチューセッツ州)は最近、まるで暴力団のように、ツイッター社の新しいオーナーであり、電気自動車会社テスラ、宇宙ベンチャー企業スペースXの最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスクを脅迫した。マーキーはマスクに対し「お前の会社を何とかしろ」、さもなければ「議会がやるぞ」と言った。脅しの一環としてマーキーは、テスラの自動運転システムに関し現在進んでいる国家道路交通安全局(NHTSA)の調査や、ツイッターが2011年に連邦取引委員会(FTC)と締結した同意協定に言及した。

マーキー議員は脅しをかけるだけでは済まない。同議員はツイッターの新オーナーであるマスクの行動が同意協定や消費者保護法に違反していないかどうかを調査するよう、FTCに手紙を出した民主党上院議員グループの1人である。FTCのリナ・カーン委員長はできるだけ多くの企業を調査したいと考えており、上院議員の書簡に好意的な反応を示すと思われる。

バイデン大統領も、マスクのツイッター買収の資金調達に外国人投資家が果たした役割について調査を行うことを支持している。バイデンは、マスクがハンター・バイデン(大統領の息子)のビジネス取引に関するツイートを禁止する可能性がないことを懸念しているのだろう。

バイデン政権にとって恥ずかしい(あるいはもっと悪い)情報を含むツイートをマスクが許すのではないかという懸念は、多くの民主党の政治家や左派の作家や活動家がマスクを攻撃している本当の理由を示している。この人々は、ソーシャルメディアにおける保守派、リバタリアン(自由主義者)ら「社会正義に目覚めていない者」の言論を弾圧する取り組みを支持している。「目覚めた」暴徒や民主党の体制に異を唱える人々を黙らせることを拒否する大手プラットフォームの登場を、自分たちの権力に対する脅威とみなしているのだ。マスクは、多くの民主党議員(とリズ・チェイニー〔反トランプ派の共和党議員〕)にとって究極のヘイト犯罪である、ドナルド・トランプ前大統領のツイッター復帰を許可することで、さらに左派を怒らせた。

マスクに対する脅しは、自由に対する脅威が単に大手ハイテク企業からでなく、大手ハイテク企業と大きな政府の同盟関係から生じることを示している。

保守派の中には、ソーシャルメディアに対する政府の力を強めることが、ハイテク大手に言論の自由を尊重させる正しい方法だと考えている人もいる。しかしソーシャルメディアに対する米政府の力を強めれば、マーキー議員のような、政府の脅威の背後にある力を強めることになりかねない。ソーシャルメディア企業のビジネス手法に対する政府の支配が拡大すれば、企業は連邦政府と協力して言論の自由を封じ込めるよう、さらに動機付けされる恐れがある。

政府が規制強化に踏み切れば、ソーシャルメディア上のやり取りに対する政府の管理も強化される危険がある。問題はその統制の行使を誰が指示するかということだ。その結果、ソーシャルメディア企業に対し、保守派やリバタリアン、学校で人種差別撤廃論やトランスジェンダーを教えることに反対する人々、コロナワクチンの安全性や有効性に疑問を呈する人々を黙らせる、リベラルあるいは「目覚めた」圧力が高まるのか。それとも保守派や共和党が好む言論制限に従えというような、新しい種類の圧力が支配的になるのか。いずれにせよ、自由は失われる。

大手ハイテク企業は、しばしば政治家や官僚の「後押し」を受けて、政治家や官僚の機嫌を取るために利用者を黙らせている。したがって、ハイテク企業の検閲を終わらせるために、米国人は大統領を含むすべての政府関係者が憲法修正第1条(言論の自由)に違反しないよう要求すべきだ。政府関係者がソーシャルメディアのプラットフォームに圧力をかけ、あるいは「奨励」して、意見を理由に米市民を黙らせたり、ニュース記事を目立たなくしたりもみ消したりするのをやめさせなければならない。オンラインでの言論の自由を守るには、大手ハイテク企業と政府を分離しなければならない。

(次を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Separate Tech and State [LINK]

2022-11-28

感謝祭の嘘と真実

作家、リチャード・メイベリー
(2014年11月27日)

毎年この時期になると、全米の子供たちは感謝祭について公式の物語を教わる。新聞、ラジオ、テレビ、雑誌は膨大な時間とスペースを割いて、この話を取り上げる。それはとても華やかで魅力的だ。

しかしそれは欺瞞に満ちている。この公式の物語は、実際に起こったこととは似ても似つかない。それはおとぎ話であり、感謝祭の本当の意味から注意をそらす、半分だけの真実をとりつくろった、無味乾燥な作り話の寄せ集めである。

公式の物語では、ピルグリム・ファーザーズ(信仰の自由を求めて現米国のマサチューセッツ州プリマスに入植した人々)はメイフラワー号に乗り込み、アメリカにやってきて、1620年から21年の冬にプリマス植民地を築くということになっている。この最初の冬は厳しく、入植者の半数が死んでしまう。しかし生き残った人々は勤勉で粘り強く、先住民から新しい農法を学ぶ。1621年の収穫は豊かなものだった。ピルグリム・ファーザーズは祝宴を開き、神に感謝する。神が新たに与えてくれたすばらしい豊かな土地に感謝を捧げる。

その後、ピルグリム・ファーザーズは多かれ少なかれ幸せに暮らし、毎年、最初の感謝祭を繰り返すというのが公式の物語である。他の植民地でも最初は苦労したが、やがて繁栄し、アメリカというこの豊かな新天地に感謝する習慣を毎年取り入れるようになった。

しかしこの公式の物語の問題点は、1621年の収穫が豊かでなく、植民地の人々が勤勉で粘り強かったわけでもなかったことである。1621年は飢饉の年で、植民者の多くは怠惰な盗人だった。

植民地の総督であったウィリアム・ブラッドフォードは『プリマス農園の歴史』の中で、植民地の人々が畑仕事をしないために何年も空腹を我慢していたと報告している。人々は食べ物を盗むことを好んだ。ブラッドフォードによれば、植民地は「腐敗」と「混乱と不満」に満ちていた。収穫が少なかったのは、「夜も昼も多くのものが盗まれ、食べられるものが少なくなったから」である。

1621年と1622年の収穫祭では、「皆、空腹を満たした」が、ほんの短い間だけであった。この時期の状況はたいてい、公式発表でいわれているような豊かなものではなく、飢饉と死であった。最初の「感謝祭」は、祝宴というより、死刑囚の最後の食事だったのである。

しかしその後の年、何かが変わる。1623年の収穫は違っていた。突然、「飢饉の代わりに、神は彼らに多くのものを与えた」とブラッドフォードは書き、「物事の様相は変わり、多くの人々の心は喜び、神を祝福した」と述べた。その後、「今日に至るまで、一般的な欠乏や飢饉は起こっていない」と書いている。実際、1624年には多くの食糧が生産され、植民地の人々はトウモロコシの輸出を開始することができた。

何が起こったのか。1622年の不作を受け、ブラッドフォードは「どうすればできるだけ多くのトウモロコシを育て、より良い収穫を得ることができるかを考え始めた」と書いている。人々は、自分たちの経済組織のあり方に疑問を持ち始めた。

植民地の経済組織は、「貿易、交通、運搬、労働、漁業、その他の手段によって得たすべての利益と恩恵」を植民地の共有財産とし、「この植民地のすべての人々は、肉、飲み物、衣服、すべての食料を共有財産から得る」ことを義務づけていたのである。人はできるだけのものを共通在庫に納め、必要なものだけを手にすることになっていた。

この「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」は、社会主義の初期の形態であり、ピルグリム・ファーザーズが飢餓に苦しむ理由でもあった。ブラッドフォードによると、「最も有能で労働と奉仕に適した若者たち」は、「他人の妻や子供のために時間と体力を使って働く」ことを強いられることに不満を抱いていた。また、「強い者、つまり体の大きな者は、弱い者よりも食料と衣服の分け前が少なかった」とも書いている。そのため若い人や強い人は働くことを拒否し、生産される食料の総量は決して十分ではなかった。

この状況を改善するために、1623年、ブラッドフォードは社会主義を廃止した。各家庭に一区画の土地を与え、生産したものはそのまま持っていてもいいし、適当に売買してもいいと言った。つまり、社会主義から自由市場へと転換し、飢饉をなくしたのである。

初期の植民地主義者たちは、社会主義政府を設立したが、どれも同じようなひどい結果を招いた。1607年に設立されたジェームズタウンでは、毎回の航海で到着した入植者のうち、アメリカで最初の12カ月を生き延びることができたのは半数以下であった。 ほとんどの仕事は5分の1の人たちによって行われ、残りの5分の4は寄生することを選んだ。1609年から10年にかけての冬は「飢餓の時代」と呼ばれ、人口は500人から60人に減少した。その後ジェームズタウンの植民地は自由市場に移行し、プリマスと同じように劇的な変化を遂げた。

(次を全訳)
The Great Thanksgiving Hoax | Mises Institute [LINK]

2022-11-27

米政府、闇の同盟の系譜

ウクライナにおける米国のネオナチの盟友は、米政府がロシアに対し利用してきた忌まわしい協力者の最新版


ユダヤ人襲撃犯からヒトラー崇拝者、イスラム過激派まで、米国は一世紀以上にわたって憎むべき相手と協力してきた


ジャーナリスト、トニー・コックス
(2022年11月13日)

ソ連の指導者ヨシフ・スターリンは、第二次世界大戦の同盟国であるはずの米国が、自分に隠れてドイツのナチスと交渉していたことを1945年3月に知り、激怒した。実際、米国のスパイで後に中央情報局(CIA)の長官となるアレン・ダレスが、ヒトラー政権の崩壊が迫るなか、親衛隊のカール・ウォルフ将軍と秘密会談を行い、冷戦を事実上開始したとする歴史家もいるほどである。

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スターリン、米大統領フランクリン・ルーズベルト、英首相ウィンストン・チャーチルは、ヒトラー政権の異常な犯罪を理由に、ナチスの無条件降伏しか認めないことで合意していた。ダレスとウォルフの会談が明るみに出た際、ルーズベルトはスターリンに「誰もドイツと交渉していない」と繰り返し、虚偽の報告をした。スターリンは納得せず、西側の同盟国である米国がソ連を封じ込め、ソ連軍が手に入れるかもしれない領土を占領するために策略を巡らせていると疑った。

ソ連が疑念を抱くのは当然である。ダレスを含む米政府は、ソ連を米国の長期的な最大の脅威とみなしていたのである。

ナチスを救う


半世紀以上経ってようやく機密解除された文書で確認されたように、米国の情報機関はまもなく1000人以上のナチスを冷戦時代のスパイとして雇うことになった。

その頃すでに米国は、ソ連に対抗するために、いかがわしい同盟国と共通の大義名分を見出した歴史があった。ソ連がよく覚えているように、米国は1918年にロシアに侵攻し、〔社会主義革命を起こした〕ボルシェビキ政権の打倒に失敗したのである。当時、米国は反革命派の白軍と同盟を結んでおり、その中にはポグロム(ユダヤ人襲撃)などの残虐な殺戮を好んでいた者もいた。

当時のウッドロウ・ウィルソン米大統領は、世界の指導者たちに民族自決と対外侵略の禁止について道徳を説いていたが、この原則は何世代も先の米国の自己利益に従ってのみ適用されるものであった。ウィルソンは、ドイツから中央アジア、現在のウクライナ危機と、今日まで続く前例を作ることになったのだ。それは米国を自由の擁護者として崇高に描く一方で、ロシアを傷つけたいという米政府の熱い思いを共有できる相手であれば、その行為や見解がいかに忌まわしいものであっても、誰とでも協力するというものであった。

1945年、ダレスはハインリヒ・ヒムラー〔ナチス親衛隊(SS)隊長〕の右腕だったウォルフと手を組んだ。ウォルフとSS将校のグループは「黒の騎士団」と呼ばれ、北イタリアを連合軍に降伏させることに同意した。この取引はドイツの全面降伏のわずか6日前に行われたため、米国にとってはあまり効果がなく、ソビエトや他の同盟国に不信の種をまいてしまった。

歴史家によれば、ウォルフはニュルンベルク検事団から不思議なことに主要戦犯リストから外され、加害者ではなくナチスの残虐行為の「目撃者」として扱われたので、絞首台は免れた。ダレスは、ウォルフの別荘がイタリアのパルチザンに包囲された際、救助隊を派遣してウォルフを救出したほどである。

米国の情報機関、国防総省、連邦捜査局(FBI)は、戦後採用したいナチスの記録を隠蔽することに手を貸した。悪名高い戦争犯罪者が米国の同盟国から隠されていたケースもある。そのような有用な悪党の一人がクラウス・バービーで、〔ナチスドイツに協力した〕ビシー政権下のフランスでゲシュタポ(秘密警察)の将校としてユダヤ人とレジスタンス戦士を拷問し、「リヨンの虐殺者」として知られた。バービーは占領下のドイツで米国のスパイとして働き、フランスが戦犯として引き渡しを要求した後、1951年に米国はバービーをボリビアに逃がした。

1983年に米国の調査によってようやく明らかになったように、米国はバービーの居場所について同盟国のフランスに嘘をついていた。米軍はバービーと他の反共産主義工作員を、ファシストのクロアチア人司祭クルノスラフ・ドラガノビッチが運営する「ネズミの回線」を通して欧州から避難させるために金を払っていた。米国調査官アラン・ライアンによれば、「米政府の役人は、フランス政府から犯罪容疑で指名手配されている人物を保護し、法から逃れるよう手配する直接の責任を負っていた」。

CIAは多くのナチスを直接雇用することに加え、かつてヒトラーの東部戦線情報主任であったラインハルト・ゲーレンが運営する大規模なスパイ網を利用するために数百万ドルを支払ったと伝えられる。このドイツ人将軍は、戦争犯罪容疑での訴追を免除され、逮捕を避けるためにナチスの仲間の何人かを欧州から逃亡させる手助けをした。

米政府がナチスを雇ったのは、単なるスパイ行為だけではなかった。科学者やエンジニアを含む1600人以上が、「ペーパークリップ作戦」の下、冷戦に勝つためにその技術力を買われ、米国に連れて来られたのである。例えば、国防総省はロケット科学者のウェルナー・フォン・ブラウンを新妻、両親、弟とともに米国に呼び寄せた。フォン・ブラウンは、ドイツでヒトラーのために奴隷労働を使ってV-2ロケットを作ったチームを率いた人物で、米国では宇宙開発計画の英雄となり、ディズニー映画やタイム誌のカバーストーリーの題材となった。

しかし、ナチスからの移植者のすべてが順調であったわけではない。航空医学の経験を買われてテキサス州の軍事基地に連れて来られたコンラッド・シェーファー博士は、米軍当局の印象が悪く、ドイツに送り返された。作家のエリック・リヒトブラウが2014年の著書『隣のナチス』(邦題『ナチスの楽園』)で書いているように、米国側はシェーファーが医療残虐行為に関係があるというニュルンベルク検察の主張を見逃したが、「科学的才覚」が欠けていることには我慢できなかったのだ。

米国対ユダヤ人


ナチスは戦後、第三帝国下でユダヤ人が虐殺されたのとまったく同じ収容所を運営する仕事にもありついた。米陸軍大将ジョージ・パットンは、ダッハウやベルゲン・ベルゼンなどの米占領地にあった避難民(DP)収容所の責任者となり、ユダヤ人生存者を「解放」後数週間から数カ月、強制収容していたのである。

ヒトラーの死の収容所を監督した看守や、残虐な医療行為を行ったナチスの医師が、DP施設のスタッフとして働いていたのである。収容所では、ユダヤ人は相変わらず縞模様の制服を着て、わずかな食料を与えられていた。より多くの食料を手に入れるため闇取引に走ると、シュトゥットガルトやランズベルグのDP施設にドイツ警察が派遣され、取り締まりを行うようになった。当時のトルーマン米大統領が派遣した調査官アール・ハリソンは、次のように書いている。

抹殺しないことを除けば、ナチスがユダヤ人を扱ったのと同じように扱っているように見える。

パットンはこの批判的な報告書に「激昂」したと、リヒトブラウは2014年11月のNPRのインタビューで語っている。「ハリソン一派は避難民を人間だと信じているが、それは違う」と、米国の戦争の英雄〔パットン〕は日記に書いている。「とりわけユダヤ人はそうだ。獣にも劣る」

ペーパークリップ作戦の科学者と同様に、CIAのナチス・スパイの多くは米国に移された。この新しく入り込んだ米国人の中には、ロシアのクラスノダール地方出身で北コーカサスの総統とあだ名されたチュチェリム・ソブゾコフや、アドルフ・アイヒマンの最側近でドイツの「ユダヤ人問題」への対処についてナチの方針を作り上げたオットー・フォン・ボルシュビングが含まれる。リヒトブラウはCIA将校の言葉を引用し、「我々はソビエトを倒すのに役立つ男なら、どんな男でも、ナチスの記録がどうであろうと雇い入れる」と書いている。

ウクライナのナチス協力者ニコライ・レベドは、戦時中のユダヤ人とポーランド人の大量殺戮に関係しているとされ、1949年に米国に連れて来られた。レベドの素性は謎に包まれてはいない。米陸軍はレベドを「有名なサディスト」と呼び、CIAは「悪魔」とコードネームで呼んだと伝えられている。しかしレベドは反ソ工作員として貴重な存在とみなされ、数年後、米移民管理当局が調査に乗り出すと、CIAは国外退去を阻止した。レベドは米国の保護下で生き続け、89歳でピッツバーグで亡くなった。

2022-11-26

産業革命は奴隷制のおかげ?

研究者、リプトン・マシューズ
(2022年9月30日)

大西洋横断の奴隷貿易と英国の産業発展との関連は、公的な議論において繰り返し取り上げられるテーマである。奴隷貿易の利益によって、奴隷制度がある種の産業を豊かにしたので、英国はアフリカ人の子孫に補償する必要があるという思い込みが広まっているのである。たしかに奴隷貿易は利益を生んだが、経済への貢献はわずかなものであった。産業革命を推進したのは、奴隷貿易ではなく、技術革新であった。

奴隷貿易の収益性を検証する研究は、英国の人的資本や制度革新が奴隷貿易の存続に及ぼした影響について説明できていない。奴隷貿易は歴史上どこでも行われてきたが、非西洋人がどのように人的資本を投入して奴隷貿易の実行可能性を高めたかについては、あまり知られていない。もし人的資本や制度が活用されなかったら、大西洋横断貿易は英国や欧州の同業者にわずかな利益しかもたらさなかっただろう。

すべての地域が世界規模の貿易を効率的に行うことができると考えるのは、経済学者の間違いである。18世紀以前の欧州では、海運はすでに質の高い労働力を使用するハイテク産業であった。海事労働者は人的資本が高いことで知られており、とくに英国人は優秀であった。欧州は高度な船舶を建造するだけでなく、船員の質も相対的に高かった。

スティーブン・ベーレント氏は、〔英港湾都市〕リバプールが最終的に英国の奴隷貿易で優位に立つためには、人的資本が重要な要素であったと論じている。経験豊富な人材がいれば、商人たちはアフリカでの事業を組織し、市場の選択肢を広げることが容易になったのである。人的資本の不足は、奴隷貿易の生産性を著しく低下させる可能性がある。たとえば、ロンドンで訓練を受けた人材が不足していたため、アフリカでの貿易量は年間15〜25航海に制限されていた。

奴隷貿易の成功は、人的資本と組織と表裏一体であった。アフリカ人とアラブ人は何世紀にもわたって奴隷貿易を行ってきたが、欧州人と異なり、競争力を無視できない水準以上に高めることができる正規の構造を構築することができなかった。オランダ東インド会社、オランダ西インド会社、王立アフリカ会社などの組織は、欧州の貿易効率化を支援するために設立された。欧州人は搾取のビジネスに経済的な手法を適用し、英国は最も成功した。

オランダ、デンマーク、フランスの奴隷貿易に関する文献によると、これらの国の商人たちは奴隷貿易に関連する問題を最小限に抑える能力が低かったことがうかがえる。フランスは、最も近い競争相手である英国と異なり、17世紀から18世紀にかけて起業や銀行業務の近代化を行わず、その結果、金融部門の革新が進まず、産業の拡大が妨げられた。しかし、英国は奴隷貿易の業績を上げるためにいくつかの戦略を追求した。

ニコラス・ラドバーン氏は、英国の奴隷貿易が成功したのは「ボトム手形」という信用供与の仕組みのおかげだと考えている。これは「1750年代にリバプールの商人が初めて導入したもので、商人は捕虜を引き渡す船(ボトム)で米国奴隷売買の代金として、農産物や農園主自身の債券の代わりに、この手形を受け取ったのである。これらの手形は、英国の銀行家が引き受け、保証したもので、船長と農園主や仲買人との間のみだったそれまでの信用協定とは異なるものだった」

これらの手形は、家族や親戚のつながりに依存した個人的なネットワークを最小限に抑えることで、近代的な金融機関の出現につながる幅広い協力関係を育んだ。ラドバーン氏は、ロビン・ピアソン氏とデビッド・リチャードソン氏の研究を引用しながら、このような手形の使用が、フランスと英国の業績の差を説明するものだと主張する。

ピアソン氏とリチャードソン氏によれば、ボトム手形は1750〜1807年に(英奴隷貿易の)前例のない拡大を促し、1730年代に貿易を阻害した植民地債務保証の落とし穴から英国の奴隷商人が逃れることを可能にした。それに比べてフランスの奴隷商人は、18世紀を通じて「三角貿易」という送金方法を採用し、奴隷商人の船長は売り上げの一部を熱帯産品として持ち帰り、残りは直接農園主に信用供与するという方法であった。

保険もまた、英国の奴隷貿易を活性化させる重要な仕組みの一つだった。船舶や人間の荷物に保険をかけることで、損失が生じた場合のリスクを軽減し、奴隷貿易を奨励したのである。英国の奴隷貿易は、人身売買を可能にする仕組みを取り入れることで利益を得ていた。奴隷貿易の議論は感情に訴えるが、それは商業活動でもあり、ビジネスにおいては、より組織化され、より賢い人々がライバルに勝ることは明らかである。

たしかに奴隷貿易はひどいものだったが、論理で感情を抑えなければならない。この問題を分析すると、奴隷貿易が利益を生んだのは、英国と欧州の同業者の人的資本と制度的優位性によるものであることが明らかになる。奴隷貿易は欧州に特有のものではなかったが、欧州の人的資本のおかげで比較的成功した。さらに、もし人々が過去の残虐行為に対して謝罪を求めるのであれば、アフリカ人やアラブ人が奴隷制や奴隷貿易に参加したことに対しても償いを求めなければならない。

欧州の成功は奴隷貿易や植民地主義のような搾取活動に由来すると主張し、自らを慰める人もいるかもしれないが、じつは欧州の繁栄は、人的資本と欧州の制度に負うところが大きいのである。

(次を全訳)
What Drove the Industrial Revolution in Britain? It Wasn't Slavery | Mises Wire [LINK]

2022-11-24

ケネディ暗殺はなぜ今も重要か

自由の未来財団(FFF)創設者・代表、ジェイコブ・ホーンバーガー
(2022年11月22日)

今日がジョン・F・ケネディ元米大統領(JFK)暗殺から59年目であることを考えると、「何が違うのか」と問うのは当然である。結局のところ、それは遠い昔のことなのだという疑問も当然あるだろう。

私の答えは断じて「ノー」である。JFK暗殺事件は、わが国の歴史上、大きな政治的断絶であった。1953年にイランで行われた米中央情報局(CIA)の政権交代作戦の結果を、イラン国民がいまだに引きずっているように。もし私たちがこの国をより良い方向に向かわせようとするならば、1963年11月22日に起こったことに向き合い、なぜそれが起こったのかを理解し、私たちの国を正しい軌道に戻すために何をすべきかを認識することが不可欠なのである。

わが国の歴史上、2番目に大きな変革は、福祉国家への転換である。社会保障制度は、ドイツの社会主義者の間で生まれた概念であり、連邦政府の主要な役割は、米国民の世話をすることになった。この新しい福祉国家の役割は、制御不能の大規模な連邦支出、負債、貨幣価値の低下(すなわちインフレ)に道を開いた。

しかし、最も大きな変化は第二次世界大戦後に起こった。連邦政府が、建国時の政府体制である最小限の政府による共和制から、安全保障国家という政府体制に転換されたのである。国防総省(ペンタゴン)、巨大な軍産複合体、増大し続ける「防衛」請負業者、CIA、国家安全保障局(NSA)が誕生したのである。この新しい戦争国家の役割は、福祉国家がすでに生み出していた巨額の支出、負債、貨幣価値の低下(すなわちインフレ)に加わった。

安全保障国家は、暗殺の権限を含む全能の力を持つようになった。CIAは当初から、外交政策上の手段として暗殺を志向していた。それは審査不可能な権力であった。議会も最高裁も、CIAの暗殺にあえて干渉することはない。

私は何年か前から、タフト大学の法学部教授を務めるマイケル・グレノン氏の『国家安全保障と二重政府』という本を推薦している。グレノン氏は上院外交委員会の顧問弁護士も務めた。その説は不穏なものである。政府を実際に動かしているのは国家安全保障部門であるというのが、グレノン氏の主張だ。他の3つの部門、つまり行政、立法、司法は、支配しているように見せかけることが許されている。国防総省、CIA、NSAにとって外見は重要ではない。彼らにとって重要なのは、とくに外交問題に関して、現実に支配しているのは自分たちであるということだ。

もしグレノン氏のいうことが正しい(私はそう確信している)なら、だからこそわが国は今、ロシアとの命を奪う核戦争に危険なほど近づいているのである。ペンタゴンとCIAは北大西洋条約機構(NATO)を通じて活動し、私たちをこの道に導いてきた。アフガニスタンとイラクで致命的・破壊的な戦争を果てしなく続けながらである。いうまでもなく、いつまでも続く「テロとの戦い」は、中東における介入主義者の愚かな行為が直接招いたものだ。

連邦政府の支出、負債、インフレが急増する一方で、米国の役人は何十億ドルもの納税者や新たに印刷された連邦準備理事会(FRB)のドルを、世界で最も腐敗した政府の一人として広く知られるウクライナ政府の金庫に送り続けている。その金の多くがスイスの銀行口座に流れ込んでいるのは間違いないだろう。

これでは生きていけない。しかし、私たちはこのような生き方をする必要はない。自由、平和、繁栄、調和のある生活を送ることはできる。しかしそれに欠かせない前提条件は、国家安全保障型の政治形態を解体し、私たちの国に最小限の政府しか持たない共和制を回復することである。

ケネディ大統領はキューバ危機が終わるころには、安全保障国家が私たちの国に与える深刻なダメージを理解していた。当時、国防総省とCIAがキューバへの侵攻を主張したために命を奪う核戦争の危機に瀕したケネディは、国を別の方向に向かわせることを決意したのだ。反ロシアの敵意はもういらない。反キューバの敵対はもうやめよう。反中国の敵対はもうしない。冷戦はもうしない。反共十字軍はもういらない。ロシア、キューバ、中国、北ベトナム、北朝鮮、世界各国と平和的・友好的に共存しよう。

ケネディと安全保障関係者の戦争は、ピッグス湾事件〔1961年4月、米国がカストロ政権転覆を狙ってキューバに侵攻〕の後、すでに始まっていた。ケネディはCIAを解体し、風前のともしびにしようとした。CIAは、ケネディが裏切り者で臆病者で無能であり、米国を共産主義者の支配に導こうとしていると確信していたのである。(自由の未来財団が刊行した、『JFKと国家安全保障体制の戦い——なぜケネディは暗殺されたのか』も参照されたい。暗殺記録審査委員会の委員を務めたダグラス・ホーン氏の著書だ)

1963年6月、ケネディがアメリカン大学で平和演説を行うと、戦いは全面戦争になった。それは10年後にチリの国家安全保障機構が、ペンタゴンとCIAの全面的な支援を得て、チリの大統領サルバドール・アジェンデに対して行った戦争と何ら変わりはなかった。

ケネディもアジェンデも、国家安全保障機関の全能の力にはかなわないことがわかった。どんな大統領でもそうだ。それが、安全保障国家が危険である理由の一つである。ひとたび安全保障国家が誕生すると、それを排除することは事実上不可能である。

そう、お決まりのセリフはわかっている。ペンタゴンとCIAがケネディを殺したという考えは「陰謀論」だというものだ。暗殺後の最初の数十年間は、このセリフが有効だったかもしれない。しかし1990年代、軍が行った大統領の死体解剖に不正があったという決定的な証拠を暗殺記録審査委員会(ARRB)が発見すると、「陰謀論」という考え方は事実上、通用しなくなった。なぜなら、解剖の不正に無罪はありえないからだ。不正な検死は、暗殺における有罪を必然的に意味する。それを回避する方法はない。拙著『ケネディ検死』『ケネディ検死2』『悪との遭遇』を参照されたい。

私たちは明らかに、きわめて機能不全の社会に生きている。定期的に起こる大規模な殺人事件。致命的で破壊的、人種差別的な麻薬戦争。社会主義的な移民管理制度は、私たちの国に死と移民警察国家をもたらした。何百万人もの人々が、他人の所得を奪うために政府を利用している福祉国家。政治目標を達成するために、罪のない人々を死と苦しみの対象にする経済制裁と禁輸。クーデター。独裁政権との同盟。外国との戦争に若者の命を捧げるような、絡み合った同盟関係。生命を奪う核戦争に再び危険なほど近づこうとしている対外介入主義。

ケネディはこの状況を打開する道筋を見いだした。残念ながら、少なくとも外交問題に関しては、わが国を正しい道に戻す前に、彼らはケネディを消し去った。私たちには選択肢がある。ペンタゴン、CIA、NSAが作った道を進むか、最小限の政府を持つ共和国を取り戻すことによって正しい道に戻るかだ。私たちの生活と幸福はその選択にかかっている。だからこそケネディ暗殺事件は、私たちの現在と未来にとって、いまなおきわめて重要なのである。

(次を全訳)
The 59th Anniversary of the JFK Assassination – The Future of Freedom Foundation [LINK]

2022-11-23

ロックダウンはまた来る

ブラウンストーン研究所創設者・所長、ジェフリー・タッカー
(2022年11月14日)

新型コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)を行った支配者たちは、かろうじて最悪の運命、すなわちこの話題が本来そうあるべき、国内外でのスキャンダルの種になることを免れた。ワクチン接種の義務化もここに加えておこう。たとえそれが道徳的に正当化されたとしても(正当化されなかった)、実用的な理由はまったくない。

公衆衛生のために何かを成し遂げた証拠はまったくなく、その一方、無数の人々の生活の質を台無しにした証拠は膨大にある。一年の間にこの両方を行ったとは、時代を超えたスキャンダルと呼ぶにふさわしい。米国だけでなく、数カ国を除く世界のほぼすべての国で行われたのである。

これは政治的に大きな意味を持つのだろうか。そう思うかもしれない。しかし今日、真実と正義はこれまで以上に遠ざかっているようだ。ロックダウン反対派の州知事の中で最も情熱的な人たち、つまりロックダウンをしなかった人たち、他の州より早く街を開放した人たちは、その勝利を刻んだ。残りの大半の知事は政治体制全体と一緒になって、すべて問題ないかのように装っている。悲劇的なことに、この戦術は必要以上にうまくいったようである。

一方で、いくつか考えておくべきことがある。

米政府は運輸保安局(TSA)を通じて、ワクチン未接種の外国人旅行者の入国禁止を2023年1月8日まで延長する命令にまたもや署名した。つまり予防接種をなんとか拒否している人は、いかなる理由があっても米国に来ることはできない。世界人口の30%が自費で米国に入国することさえ禁止されたことになる。三年前なら信じられないほど自由主義に反するとして、大きな論争と怒りを巻き起こしただろう。今日、この措置延長はほとんどニュースになっていない。

バイデン政権は、コロナ緊急事態宣言を再び九十日間延長した。議会の承認なしに、政府に膨大な権限を与え続けるものだ。非常事態のもとでは、米国の憲法構造は事実上停止され、国は相変わらず戦時下の状態にある。この延長発表は議論を呼ばず、やはりほとんどニュースにならなかった。

多くの大学、その他の学校、公的機関は、「2価ワクチン」接種を承認する確かな科学的根拠も、接種を推進する真の理由もないのに、接種を義務づけ続けている。ほとんどの人がとっくに自然免疫を獲得しており、さらに、ワクチン接種では誰も感染から守れず、感染も止められないことが非常によくわかっているにもかかわらず、とにかくやり続けている。

マスクが問題視されないのは、感染を防げなかったことを素直に認めるようなことがなかったからだ。現在でも、何割かの人はトラウマを抱えている。旅行先で見かけるのは10〜20%だが、東北部のいくつかの都市では、普通にマスクをしているところもある。マスクが政治的な法令順守や美徳の象徴となったことで、文化は様変わりした。今私たちは、政府が必要と判断すればいつでもマスクを義務付けるという脅威に直面している。運輸保安局が裁判所からゴーサインを出されたからだ。

生活のほとんどの分野でワクチン接種の義務化が終わり、その結果、清潔な人とそうでない人を区別するパスポートを求める動きもなくなってきたのは良い兆しだ。しかし今も義務化の基盤は整備され、より洗練されてきている。最終的な勝利とは言いがたい。すべての野望が残っている間は、一時的な休息にすぎないかもしれない。

それ以上に、バイデン政権(および同政権が代理人を務める世界経済フォーラム、世界保健機関、その他いわゆる体制すべてを含む)は、独自のパンデミック対策を実施している。その考えは、義務を縮小することでも、冷静になることでもない。その逆で、サウスダコタ、ジョージア、フロリダ各州のような〔ロックダウンに反対する〕試みを次回はできなくするために、すべてのパンデミック計画を一元化することだ。また、さらに数百億ドルの資金を費やす。

コロナ対策を推し進めた諸機関、知識人、政治家の間で、次のような原則が生まれたようである。何をするにしても、大きな失敗をしたことは絶対に認めない。私たちの周りにある経済、文化、健康、教育の惨状を、2020年や2021年に政府が行ったことと決して結びつけてはならない。それは陰謀論以外の何物でもない。

パンデミック騒動は現時点では非常に巨大で、暗号資産(仮想通貨)交換業大手FTXの破綻さえ巻き込んでいる。同社前最高経営責任者サム・バンクマン・フリード氏の弟ゲイブ氏は、バイデン政権がパンデミック計画に割り当てた300億ドルを「支援」する目的だけのために、実際に非営利団体を設立した。この「パンデミック対策」という名の団体は、どう見ても資金調達の隠れみのとなっており、当選した多くの民主党候補者から公式の支持を受けている。

一方、パンデミック対策の多くの部分に対して、裁判での異議申し立てが成功しているのは事実だ。しかし十分ではあるまい。ウイルス対策という名目で自由と財産を奪った機構の主要部は、その本質のすべてにおいてまだ残っている。米疾病対策センター(CDC)は今日でも、政府が必要と判断すればいつでも展開できる検疫の強大な権限を誇っている。それは何も変わっていない。

大局的かつ哲学的にいえば、人類は自らの過ちから学ぶ能力を失ってしまったようだ。もっと厳しい言い方をすれば、パンデミックによって支配者層の利害関係者の多くが経済的・権力的な利益を得たために、真剣に反省し、改革することができなかったということである。

いずれにせよ、反省と改革は後回しにされた。人類と人類が築いた文明の未来を真剣に考えるならば、真実と理性を求める長期にわたる戦いに身を投じなければならない。そのためには、残された言論の自由と、公の場における誠実さと説明責任への熱望を、とことん行使する必要がある。私たちが「彼ら」と呼ぶようになった集団は、意気消沈した国民と、沈黙した公共の場を望んでいる。

それを許すわけにはいかない。

(次を全訳)
They Will Lock You Down Again ⋆ Brownstone Institute [LINK]

2022-11-22

ウクライナ支援の闇、解明のとき

元米連邦下院議員、ロン・ポール
(2022年11月21日)

先週、世界は核戦争寸前の状況に立たされた。米国から資金援助を受けているウクライナのゼレンスキー大統領が、ポーランドに着弾したミサイルについて北大西洋条約機構(NATO)に軍事行動を促したからだ。「これは集団安全保障に対するロシアのミサイル攻撃だ。これは本当に重大な事態の拡大だ。行動が必要だ」と、ミサイルが着弾した直後にゼレンスキー氏は述べた。

しかし、問題があった。ミサイルはウクライナから発射されたものだった。戦争の混乱のなかで起きた事故であろう。もしロシアのミサイルだったら、もちろん第三次世界大戦になりかねない。しかしゼレンスキー氏は、その無謀な暴言から察するに、世界が吹き飛ぶことを気にしていないようである。

ゼレンスキー氏は米国のメディア、バイデン政権、議会の両党から聖人君子として扱われてきたが、今回バイデン政権が反発するという前代未聞のことが起きた。報道によれば、ゼレンスキー氏がバイデン大統領あるいはその上級スタッフに何度か電話をかけたが、つながらなかったという。

サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)がようやくゼレンスキー氏に電話をかけたとき、サリバン氏はポーランドへのミサイル着弾の背後にロシアがいるという主張について、「慎重に行動しろ」と言ったと伝えられている。バイデン政権は、ロシアがNATO加盟国のポーランドにミサイルを撃ち込んだというゼレンスキー氏の主張に公然と反論するようになった。自分の主張に対するワシントンでの2日間の反対運動の後、ゼレンスキーはついに、ある意味、引き下がったのである。

バイデン大統領が、ゼレンスキー氏の際限のない物乞いと、米政府から支払われた約600億ドルに対する恩知らずな態度に不満を抱いているという噂は聞いていたが、これはバイデン政権が「ゼレンスキー問題」を抱えていることを公然と認めた最も明確な例といえるだろう。

ゼレンスキー氏は、米国や欧州連合(EU)がロシアのミサイルでないことを知っていると理解していたに違いない。あの戦場での米国の膨大な情報能力を考えれば、米政府はミサイルがロシアのものでないことをリアルタイムで知っていた可能性が高い。違う主張をするゼレンスキー氏は、ほとんど動揺しているように見えた。そしてこのとき初めて、米政府は気づいたのである。

その結果、この危険な出来事に対し、米議会の保守派の間で小さな、しかしうまくいけば拡大していくような反乱が起きている。ジョージア州選出のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は、ウクライナに送られた数百億ドル(おそらく500億ドル以上)の監査を要求する法案を提出した。この法案には現在11人の共同提案者がいる。

マット・ゲッツ下院議員は、ウクライナにこれ以上1ドルでも支払うことに賛成しないと公言している。ポール・ゴーサー下院議員(アリゾナ州選出)のように、さらに踏み込んだ意見もある。同議員は最近のツイートで、米国のウクライナ支援は「腐敗したマネーロンダリング作戦」だと呼んだ。最近のFTX暗号取引所の崩壊が政治腐敗の可能性を指摘しているように、ゴーサ―議員の主張は正確であることが証明されるかもしれない。

ランド・ポール上院議員がウクライナへの大規模な支援策に対し、資金の監査人を求める修正案を提出した際、嘲笑・攻撃された。それから7カ月が経ち、ポール議員の立場ははるかに受け入れられているように見える。そしてそれは良いことだ。

ウクライナ戦争ヒステリーが、新型コロナヒステリーがその前に沈静化したように、やがて沈静化すれば、この件全体がまったくの大失敗だったことが、多くの米国民に明らかになるだろう。願わくは共和党が来年1月に下院を占拠した際に、この過程を加速させたいものだ。早すぎるということはあるまい。

(次を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Is Washington’s Dangerous Ukraine Boondoggle Starting to Unravel? [LINK]

2022-11-21

グレート・リセットと言論の自由の終焉

研究者、ビルセン・フィリップ
(2022年6月29日)

政府、企業、エリートはいつも自由な報道機関の力を恐れてきた。なぜなら報道機関はその嘘を暴き、慎重に作られたイメージを破壊し、その権威を弱体化させることができるからだ。近年オルタナティブ・ジャーナリズムが発展し、多くの人々がニュースや情報のソースとしてソーシャルメディアに依存するようになった。これに対して企業国家、デジタル複合企業、主流メディアは年々、ほとんどの問題で政府のシナリオに挑戦するオルタナティブ・メディアや声を黙らせ、検閲することを支持するようになってきた。

最近スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムで、オーストラリアのeセーフティー監督官であるジュリー・インマン・グラント氏は「言論の自由と万人の自由は同じではない」と述べ、「言論の自由から... オンライン暴力からの自由まで、オンラインで展開されている、あらゆる人権の再調整が必要になるだろう」と述べている。一方、カナダ政府は、スポティファイ、ティックトック、ユーチューブ、ポッドキャスト上のコンテンツを含むインターネット上のすべてのオンライン視聴覚プラットフォームを規制できるようにする法案C-11の実施を通じて、独立メディアと表現の自由を制限しようとしている。

同様に、英国はオンライン安全法案の導入を目指し、米国は反発を受けて情報統制委員会の設立を「一時停止」し、欧州連合は独自のデジタルサービス法を承認したが、これらはすべて言論の自由を制限することを目的としている。エリートや政治家が反対意見や批判的な思想家を黙らせようとするのは、何も新しいことではない。事実、歴史は「科学者を迫害し、学術書を燃やし、被差別人種の知識人の組織的抹殺を図った」(ハイエク『隷従への道』)例であふれている。

しかし自由主義的とされる政府が言論・報道の自由を抑制しようとする現状は、次の指摘に照らすと、やはりどこか皮肉なものだ。「すべての教会のなかでもっとも不寛容なローマ・カトリック教会ですら、すぐれた人物を聖人の列に加えるかどうかを決めるさいには、その人をあえて非難してみせる『悪魔の代理人』を招き入れ、その言い分を辛抱強く聞く。どんなにすぐれた聖者でも、悪魔に浴びせられると思われる非難がすべて並べられ、検討されつくすまで、死後の栄誉は認められないらしい」(ミル『自由論』)

企業国家、デジタル複合企業、主流メディアは、洗練されたプロパガンダ技術によって、人々の意見、要望、選択を決定する独占的な権限を確保したいのである。そのために、虚偽を真実に変えるという手段さえとっている。事実、真実という言葉はすでにその本来の意味を変えてしまった。あるテーマについて真実を語る者は、今や決まってヘイトスピーチ、誤報、偽情報を流布していると非難されるからだ。

現在、真実はもはや「 個人が自らの判断力に基づき、証拠または証言者の適格性に裏付けられているかどうかを吟味するもの…ではない。真実は当局が定め、国民に信じさせ、社会の組織的活動に役立てるものになっている。だから、必要とあらば都合よく手を加えるといったことも行われる」(ハイエク前掲書)。

しかし真実の定義を変更することは、大きな危険を伴う可能性がある。なぜなら真実の追求は、それが最終的に社会全体に利益をもたらす発見につながるという意味で、しばしば人間の進歩に貢献するからである。自由、正義、法律、権利、平等、多様性、女性、パンデミック、ワクチンなど、最近プロパガンダの道具として意味を変えられた言葉は、決して真実だけではないことに注意しなければならない。なぜなら、このような「言葉をねじ曲げる」試み、支配階級の理想を表現する「言葉の意味の変更」は、全体主義体制の一貫した特徴であるからだ(ハイエク前掲書)。

多くの自由民主主義的な政府が全体主義に向かってますます前進するなかで、政府は人々に対し、「ある意見が、いかなる反論によっても論破されなかったがゆえに正しいと想定される場合と、そもそも論破を許さないためにあらかじめ正しいと想定されている場合とのあいだには、きわめて大きな隔たりがある」(ミル前掲書)という事実を忘れてもらいたいのである。政府によれば、「公の批判はもちろんのこと、疑念を提出するだけでも国民の支持を揺るがしかねないから、弾圧しなければならない」(ハイエク前掲書)。

政府はむしろ、疑義を投げかけ、迷わせるような意見は、あらゆる分野、あらゆるプラットフォームで制限される必要があると考える。なぜなら「当局の公式見解の正当性の立証だけ」が支配階級の唯一の目的となったとき、「真理の公正な追究は許されない」からである(ハイエク前掲書)。つまり、全体主義的な支配のもとでは、あらゆる分野で情報統制が行われ、見解の統一が強要される。

報道、言論、表現、思想の自由の抑圧は、現在および将来の世代が「間違いを改めるチャンスを奪われたことになる。その意見が間違っている場合にも、同じくらい大きな利益を失う。なぜなら、間違いとぶつかりあうことによって、真理はますますクリアに認識され、ますます生き生きと心に刻まれるはずだったからである」(ミル前掲書)。また「 ひとつのテーマでも、それを完全に理解するためには、さまざまに異なる意見をすべて聞き、ものの見え方をあらゆる観点から調べつくすという方法しかない」(同)という事実に無知になる危険もある。つまり現在と将来の世代は「他人の意見と対照して、自分の意見の間違いを正し、足りなう部分を補う」という地道な習慣が、「意見を実行に移すときも、疑念やためらいが生じないどころか、意見の正当な信頼性を保証する、唯一の安定した基盤」であることを知らないでいる。

現在大衆は、報道、言論、表現、思想の自由をとくに重視していないようだ。なぜなら「 大方の人は誰かの意見を鵜呑みにするものだし、自分が生まれ育った環境を支配する思想や幼少時に教え込まれた思想から抜け出せないもの」だからだ。だからといって、思想、啓蒙、表現の自由を与えるべき人々を選別する権力や権威を、誰も持ってはならないのである。

実際、英哲学者ジョン・スチュアート・ミルは「一人の人間を除いて全人類が同じ意見で、一人だけ意見がみんなと異なるとき、その一人を黙らせることは、一人の権力者が力ずくで全体を黙らせるのと同じくらい不当である」とまで主張している。さらに、意見の発表を封じるのは本質的に「人類全体を被害者にする」と付け加えた。たとえ弾圧する側が、ある時点の人々の真実を否定することができたとしても、「どの時代にも、後の時代から見れば間違った意見、馬鹿げた意見がたくさんあった。過去において一般に正しいとされた意見の多くが現在では間違いとされているように、現在一般に正しいとされる意見の多くが、将来においては間違いとされるにちがいない」(ミル前掲書)。

もし現在、報道、言論、表現、思想の自由を抑圧する努力が成功すれば、真理の探求はやがて放棄され、全体主義の当局が「どの学説を発表しどの理論を教えるか」を決定する(ハイエク前掲書)ことになるだろう。意見の統制はあらゆる分野のすべての人に及ぶので、沈黙させられる人は際限がないだろう。したがって現代の独裁的な政策立案者は、言論、表現、思想の自由の重要性を再認識する必要がある。このことは、米最高裁が1957年のスウィージー対ニューハンプシャー州裁判において、次のように判決を下したことで認識されている。

大学の知的指導者に拘束衣を着せることは、国の将来を危うくするものである。教育のいかなる分野も、人間が完全に理解し、新たな発見がなされないということはない......。教師と学生はいつも自由に探求し、研究し、評価し、新たな成熟と理解を得ることができなければならない。わが国の政治形態は、すべての国民が政治的表現と結社に関与する権利を有するという前提のもとに築かれている。この権利は、権利章典の修正第1条に明記されている。米国におけるこれらの基本的自由の行使は、伝統的に政治的結社という手段を通じて行われてきた......。歴史が証明しているように、少数派、反体制派の政治活動は、民主主義思想の先駆けであり、その方針は最終的に受け入れられてきた。単に異端であるとか、一般の常識に反しているというだけで、非難されてはならない。反対意見がないのは、この社会が深刻な病を抱えている証拠だろう。

(次を全訳)
The Great Reset in Action: Ending Freedom of the Press, Speech, and Expression | Mises Wire [LINK]

(参考文献)
  • ミル(斉藤悦則訳)『自由論』光文社古典新訳文庫
  • ハイエク(村井章子訳)『隷従への道』日経BPクラシックス

2022-11-20

英雄ロックフェラー

事業家、ダニエル・コワルスキー
(2022年10月16日)

ジョン・D・ロックフェラー(1839〜1937年)は歴史上、不公平な論争にさらされる人物である。米国初の正統な億万長者であるロックフェラーは、死亡時に国内総生産(GDP)の1.5%に相当する14億ドル(2022年換算で2700億ドル)の資産をもち、米国史上最も裕福な人物となった。

ロックフェラーはスタンダード石油の創業者として、手頃な価格の石油製品を通じて一般庶民の生活の質の向上を促し、財を成した自営業者だった。そのビジネス手法は、今日でも有効な大企業の構造と手法の土台を築いた。

しかしジャーナリストのアイダ・ターベルが『スタンダード石油の歴史』を出版し、ロックフェラーを冷酷な略奪者、自分に挑戦しようとする競争相手をつぶすために汚い手を頻繁に使う人間として描き、その評判は著しく損なわれた。じつをいえば、ターベルの父親はスタンダード石油に敵対する石油事業者であり、スタンダード石油と互角に戦えず、事業から撤退させられていた。ターベルは、正直な男たちが、悪のロックフェラーが現れて奪うまでは、いい暮らしをしていたというストーリーを披露した。これは真実味のない、不公平な描写であった。

産業の発展


ターベルの本は、ロックフェラーが企業をいじめるか、戦うかの話が中心ではあるが、石油産業の初期の歴史が詳しく紹介されている。19世紀以前、石油は理解されず、地面から湧き出し、淡水を汚染する厄介な存在とみなされていた。やがて誰かがこの物質を研究所に持ち込んで研究することを思いつき、簡単に燃やすことができることが発見された。そしてこの黒い物質が多量に存在するペンシルべニア州西部に最初の掘削業者が現れ、石油産業が誕生したのである。

石油産業の初期は、黒い金塊(石油)が信じられないほど簡単に手に入り、どんな新しいビジネスでも今よりずっと参入障壁が低かった時代である。当時は無駄が多く、非効率的な時代だった。多くの人が一攫千金を狙い、ビジネスモデルを改善する理由もなかった。石油採掘業者は採掘が終わる前に樽を使い果たし、余分な石油を流し、環境にダメージを与えながら、製品を無駄にすることがよくあった。精製業者は石油を灯油にすることに特化していた。この工程では元の石油の量の60%は残るが、残りの40%は廃棄物として捨てられ、また環境を破壊していた。1860年代、石油産業は新しく、南北戦争と戦後の好景気による石油の需要で、この職業に就く人は簡単に儲かるようになった。しかしすべての好景気がそうであるように、長続きしなかった。ついに破綻したとき、生き残ったのは強い事業家だけだった。

垂直統合


石油業界には多くの有力な実業家がいたが、ただ一人、ジョン・D・ロックフェラーだけが、今日巨人として記憶されるほど、この業界を支配した。ロックフェラーの成功にはさまざまな要因があるが、なかでも重要なのは、コスト削減のために垂直統合をビジネスに取り入れたことである。まず製油所の配管工を下請けではなく、直接雇用することでコストダウンを図った。また樽の製造も外注ではなく、自社で直接行うことにした。これによって自分のニーズに合った製品を作ることができるようになり、その分コストも60%ほど削減できた。ロックフェラーはこのような工夫により、コスト削減と同時に、自分の管理の及ばない他人や企業への依存を減らし、効率を高めたのである。

無駄を省く


他の精製業者が灯油の副産物を捨てている間、ロックフェラーはこれらの製品がどのように役に立つか懸命に考えた。その結果、ガソリンや石油ゼリー(軟膏として販売)など、これまでにない製品が誕生した。そしてこれら新製品を自分のビジネスに生かすと同時に、消費者に販売した。灯油の製造にかかる費用はすでにほぼ賄われていたため、これによって収入が増え、さらに利益も増えた。

支配力の強化


ロックフェラーの経歴の中で最も議論を呼んだのは、1872年の南部改善会社に関するものだ。現代ではロックフェラーがこの計画のメンバーとして最もよく知られていると思われるが、南部改善会社は主要鉄道会社のトップによって構想され、道路や近代的な乗り物が存在する以前の産業輸送を分担するために結託したものである。この計画ではスタンダード石油をはじめとする大企業はリベートや割引を受け、小企業は割高な運賃を支払わなければならなかった。

この計画は公にされ、暴露された後は、政府当局が歯止めをかけるために動くことになる。ロックフェラーはこの計画で利益を得る一方で、鉄道会社の誠意はあまり信用していなかったようである。自分のビジネスの成功を鉄道会社の力に依存させたくないという思いから、石油パイプラインの技術革新を進め、自分たちの手で製品を輸送できるようにした。

ウィンウィンの関係


南部改善会社のスキャンダルがロックフェラーの評判に大きな傷をつけたのは、クリーブランドの二十四の製油所のうち二十二を買収する「クリーブランドの大虐殺」と呼ばれる事件を起こしたからである。ロックフェラーはこの事件をきっかけに、商売をするときによく使うパターンを身につけた。競合他社に会い、自分の帳簿を見せるのである。ロックフェラーがあまりにも大きく効率的な企業であることを知った競合他社は、選択肢を与えられた。一つ目は、自分の会社をスタンダード石油に売却する。大組織で役員クラスの仕事を提供され、より多くの金を稼ぐことができるが、もはや自分がボスではなくなる。二つ目はその取引を拒否し、ロックフェラーと競争するかだ。

アイダ・ターベルの父親のように、取引を拒否した者はしばしば廃業に追い込まれ、一方、取引をした者は金持ちになった。

消費者の勝利


ロックフェラーは国内の競合他社よりも規模が大きく、価格競争力を武器にビジネスを展開していた。ときには双方が赤字で販売し、倒産しなかった方が勝者となるような激しいビジネスバトルもあった。しかし本当の勝者は、灯油を安く買えるようになった消費者である。

スタンダード石油は独占企業だと私たちは教えられる一方で、「独占企業は安売りの心配をせずに客から金をむしり取ることができるから悪だ」とも信じ込まされている。しかしスタンダード石油の場合、現実は逆だった。たしかに大きな利益を上げてはいたが、その利益の大部分はコスト効率によるものであり、価格の引き上げによるものではなかった。実際、1870年から1897年の間に、灯油の価格は1ガロン26セントから6セントにまで下落した。

ロックフェラーは競争相手には容赦なかったが、その義務は競争相手を助けることではなかった。勤勉と効率へのこだわり、イノベーションによって、業界のリーダーとなったのである。

そうすることで、何千万人もの人々の生活の質を向上させ、何十万人もの雇用を生み出した。ロックフェラーは悪人ではなく、英雄として記憶されるべき存在である。世の中をより良く、より豊かな場所にしたのだ。

(次を全訳)
Why John D. Rockefeller Is a Hero Worth Celebrating, Not a Villain - Foundation for Economic Education [LINK]

2022-11-19

経済計算とグレート・リセット

ソフトウェア技術者、ロバート・ブルーメン
(2022年11月15日)

世界経済フォーラム(WEF)が壮大な計画を進めている。その名も「グレート・リセット」。その多くの大胆な目標に含まれるのは、「世界関係の将来像、国民経済の方向性、社会の優先事項、ビジネスモデルの本質、グローバル・コモンズの管理について、それらを決定するすべての人々への情報提供に資する洞察」の提供である。

見たところ良いことずくめだ。しかしその具体的な中身はどのようなものだろうか。多くの異なる研究者(ジェームズ・コーベット、キャサリン・オースティン・フィッツ、パトリック・ウッド、ホイットニー・ウェブ、テッサ・レナ、ジェイ・ダイアー)が、詳細なレベルにおいてきわめて一貫した構想を打ち立てている。グレート・リセット計画には三つの柱がある。小さなエリート集団による技術社会主義、マルサス的な人口観、トランスヒューマニズムである。

この社会主義計画は、すべての私有財産を世界経済フォーラム自身かその代理人が所有することから始まる。一般市民は必要に応じて同フォーラムから短期で商品を借りることになる。それにはリビングルームや交通機関、会議室など一般的に使われるものが含まれる。熟練した人間は、さらに熟練したロボットや人工知能(AI)に取って代わられるため、賃金労働は不要になる。

この計画で奇妙なことのひとつは、エリートたちが、壁のコンセントからの電力や広い居住空間といった普通の品物だけでなく、ホテルや飛行機、スマートフォン、現在私たちが家電と呼ぶもののような贅沢品も、現在と同じように利用し続けることができると考えていることだ(これらの商品はエリートだけが持つことになるため、もはや「消費(者の)財」とは呼ばれない)。

このようなテクノクラート(技術官僚)的な社会の書き換えのなかで、ぽっかりと穴が開いたように見えるのが経済計算である。これはこれまでのあらゆるタイプの共産主義にとっての問題だった。中央計画委員会をテクノクラシー(技術官僚による支配)に置き換えても、それは解決しない。競争によって決まる価格がなければ、さまざまなものの生産に資源を配分する方法はない。これは大量生産にもエリート商品にも等しく当てはまる。大量消費者層なしに、高級品が少量生産されるような世界はない。

エリートが直接個人で消費する商品だけの問題ではない。電力網制御に必要とされる高度なテクノロジーは、高度な市場経済を必要とする。テクノクラート的な電力網制御は、ハイテクインフラに大きく依存する。私有財産と競争的な価格体系がなければ、6Gネットワーク、データセンター、パワーグリッド、携帯電話、埋め込み型チップ、ブレイン・マシン・インタフェース、その他グレート・リセットが描くテクノクラート的なガジェットは存在しなかっただろう。

これらテクノロジーは、資金調達側と、新興・既存企業を通じた起業家側の両方において、自由な交渉と価格発見が行われる起業家的な競争市場の産物である。製品を作る人々は、自由な労働市場なくしてはありえない。そして最終製品である消費財の競争市場がなければならない。

グレート・リセットは労働力のスキルアップを促進することができない。複雑な技術を生産する人々は、何十年もかけて労働市場に参加することで技術を習得する。チップや携帯電話を作るような会社(インテルやアップル)を経営できるスキルを持って労働市場に参入してくる人はいない。人々は一連の仕事を転々とすることでスキルを身につけていく。このプロセスには何十年もかかり、出張や転勤もあり、時には業界や役割を変えて前進するために一歩下がることも必要である。これらの企業の幹部は、他の管理職と競争しながら、管理職の階層をゆっくりと進むことで、何年もかけて管理能力を身につける。

鉱山技術や半導体設計のような複雑な分野で技術を移転する人や機関のネットワークは、人々が出会い、交流し、互いに学び合うオープンさを必要とする。コロナ対策による移動・交流制限は労働市場全体の技能開発を遅らせてしまった。

古いタイプの共産主義では、中央の計画委員会や委員会を想定していた。テクノクラートが描くグレート・リセットでは、中央計画者はAIである。世界経済フォーラムは「ポスト成長経済」についてのビデオ(不気味なBGM付き)を投稿した。現在あるすべてのものを生産するのに十分な資源がなくなったら、経済は「必要性が低いと思われるものの生産を縮小」しなければならないだろう。しかし、このことは別の問題を提起する。何が必要でないかを決めるのは誰なのか。意見の対立は避けられないが、それをどう解決するのか。本当に産業全体をなくしてしまうことができるのだろうか。このビデオは、AIシステムへの呼びかけで終わっている。AIがそうした決定を下すことができると暗示しているのである。

経済学者ミーゼスは中央集権的な計画を批判するなかで、さまざまな起業家による競争の必要性を強調した。起業家はそれぞれの生産資源に異なる価値を見いだし、その資源をどう使うかについて自らの最善のアイデアに従って競争する。そのためには、いろいろな考え方が必要である。中央計画の問題点は、多くの人々の間の競争を単一の計画で置き換えようとすることだ。中央計画はそれ自身に対して競争することができないので、金銭交渉や提案の競争を通じて別の方法を比較評価することは、計画から外されてしまう。ミーゼスは、一人の頭脳が生産のための中央計画を立てることはできないとして、こう主張した。

一人の人間の心だけでは、いかに賢明であったとしても、数え切れないほど多くの生産財のうちから一つの財の重要度を把握するには、あまりにも非力である。一人の人間が無数にある生産の可能性をすべて把握し、何らかの計算体系の助けを借りずに、価値判断を即座に明らかにできるような状態になることはありえない。経済財を生産する労働に参加し、経済的な利害関係をもつ人間の共同体において、経済財に対する管理統制を多数の個人の間で分配することは一種の知的分業を伴うが、これは生産の計算体系や経済なしには不可能であろう。

グレート・リセットのトランスヒューマニズム構想では、人間が人間と機械のハイブリッドに置き換わるとされる。これは埋め込み型の無線コンピューターチップを体内に埋め込むことによって実現される。埋め込まれたチップは、脳を人々のインターネットに直接接続し、無線ユビキタスネットワークのノード(結節点)のような存在になる。チップの目的は、心の監視と制御の両方にある。

人の社会的な信用度を高めるような思考が、ウェブ検索時の入力補完のような形で提案される。もし埋め込みチップが期待どおりに機能し、受信者の思考や信念を制御するならば、人間はロボットになってしまうだろう。ロボットは自らの意志を持たず、AIという中央計画者のたった一つの心の延長線上にある。

たしかに、ある種の作業では人間はソフトウェアに置き換えることができる。しかしさまざまな選択肢の中から、どのように資源を配分するのか。希少な資源を効率的に使うために、生産方式はどのように選択されるのだろうか。生産する価値のある商品とそうでない商品を誰が決めるのだろうか。脳のチップによって誘導される、マインドコントロールされた奴隷は、中央計画者のたった一つの心のコピーでしかない。

前出の研究者たちは、サイコで経済に無知な億万長者の小集団が、全人類を機械に置き換える計画を立案していることを明らかにした。もしエリートたちがその計画を実行に移そうとしたら、どうなるだろうか。その日、私有財産と市場経済、有用なものの生産はすべて停止するだろう。どうなってしまうのか。しかしエリートたちの描く別世界は不可能だとわかっている。不可能なことは起こりえないが、実現しようとすると甚大な破壊が引き起こされる。

(次を全訳)
Economic Calculation and the Great Reset | Mises Wire [LINK]

2022-11-18

政治家でなく理念を信じよ

英ジャーナリスト、ジェス・ギル
(2022年11月14日)

リズ・トラス前英首相は、党首選を通じて、自分の政権は自由市場に徹するという印象を強く植え付けた。「自由、低税率、個人の責任」を掲げ、選挙に臨んだ。新聞は、トラス氏を過激な自由主義者、将来のマーガレット・サッチャー氏と評した。

さっそくトラス首相はミニ予算を発表し、1997年のトニー・ブレア首相以来の「過保護国家」路線からの方向転換を表明した。この予算では、増税計画の中止、採掘規制の解除、そして最も議論を呼んだ銀行員のボーナス上限の撤廃と最高税率の引き下げを約束した。自由市場主義者は、この予算をサッチャー氏以来最も過激なものとして擁護した。反対派は金持ちのための予算と中傷した。

しかし英ポンドが対米ドルで史上最低水準まで下落し、イングランド銀行が介入したため、トラス氏はたちまち圧力をかけられ、予算の主要な公約を覆すことになった。「行きすぎた、早すぎた」と謝罪し、数日のうちに辞任し、英国史上最も在任期間の短い首相となった。

英国のリバタリアン(自由主義者)たちが失望と恥ずかしさで頭を垂れるなか、自由市場の敵たちは、トラス氏がいかに自由市場の哲学を破壊したかについて、にこやかにコメントした。

作家でアドバイザーのニック・ティモシー氏はこうツイートした。「リバタリアンの思想が、保守党と政府の信用を粉々に打ち砕いた」

ノース・ダウン選出の議員スティーブン・ファリー氏はこうツイートした。「トラス氏のリバタリアン的な極右政策が有害であることは明らかだった」

過激? そうだろうか?


ミニ予算は、それを嫌う人たち、好きな人たちが言うほど自由主義的だったのだろうか。現実には、そうではない。

減税はきわめて不十分なものだった。労働党政権時代よりも高い税負担を残すものだった。この予算が過激に見えたのは、英国民が過去数十年にわたり、大きな政府の締め付けを徐々に強め、水の中でゆでられる蛙のように、それに気づかなかったからである。

さらにトラス首相は、納税者に1500億ポンドの負担を強いることになるエネルギー価格の上限を導入しようとしていた。首相就任時に、価格機構を自由に運用させることでエネルギー危機に対処すると約束したにもかかわらず、いざとなると急激な国家介入に走ったのである。

また、トラス首相のミニ予算にパニックが起こったのは、減税が原因ではない。政府支出を削減しなかったために、経済が混乱したのである。インフレで財政赤字を補填しようとしたことが原因であり、自由市場政策を導入したことが原因ではない。

にもかかわらず、英国のリバタリアンの多くは、たとえわずかでも自由市場の政策を切望していたので、トラス氏を喜んで迎え入れたのである。ああ、何ということだろう。

自由主義的でなかった英自由党


残念ながら、「リバタリアン」とされる政治家が、国家という箍(たが)を緩めると約束しながら、規制と課税で有権者をひそかに窒息させるのは、英国政治では何も新しいことではない。

政治家が自由の名のもとに政府の権限を拡大するのは、今回が初めてではない。19世紀の英自由党は、自由貿易と自由放任の資本主義の党としてスタートした。この時点で自由主義は、哲学者ジョン・ロックと経済学者アダム・スミスを思想の柱として、自由な商業と自由な人々を支持する思想として知られるようになった。

しかし自由党は生命・自由・財産の原則からかけ離れた立法を推し進めた。同党のもと、議会は物価の決定、労働時間の規制、検査の義務付けなど、国家の権限を強化した。

自由党のもと、ロイド・ジョージ首相は第一次世界大戦に参戦し、戦争社会主義が実施された。1916年に兵役法を制定して徴兵制を導入したほか、価格統制、家賃統制、配給制、没収的な課税などを導入し、経済への支配を強めた。

国家の役割を英国史上前例のない水準にまで拡大したため、時が経つにつれ、自由党が名ばかりの自由主義になったことは明らかである。

鉄でなかった「鉄の女」


英国史におけるリバタリアンのもう一人の重要人物は、自由市場資本主義を唱えたマーガレット・サッチャー首相である。しかしサッチャー氏は「国家を後退させる」という力強い言葉を発し、公共支出を削減しようとしたが、うまくいかなかった。英財政研究所(IFS)によれば、サッチャー首相の時代には、二年を除いて、支出はすべて実質増加していた。

また、サッチャー氏が経済の規制緩和を行ったというのも神話である。英経済研究所(IEA)は、サッチャー首相の在任中に規制当局の数が増加したと伝えている。金融業に従事する人々に対する規制当局者の割合は、1979年の1万1000人に1人から2010年には300人に1人へと増加した。さらに、1986年に制定された金融サービス法によって、投資と金融市場が規制された。これらの措置は明らかに反自由主義的である。

政治家より理念


政府不信に基づく思想を唱える人の多くが、政治家に全幅の信頼を置くのは皮肉なことだ。サッチャー氏の脱国有化政策や自由党の自由貿易改革など、政治家が自由市場を支援しなかったわけではない。言いたいのは、政治家が腐敗、反対意見、制度、「オバートンの窓」(多くの人に尊重すべきのものとして受け入れられる政治的な考えの範囲)によって縛られているという事実だ。適切な人物を政権に就けようとする試みが失敗した例は数知れない。

トラス氏が失敗し、サッチャー氏が成功した理由のひとつは、サッチャー氏が単なる政治家ではなく、教師でもあったからだろう。サッチャー氏は行動だけでなく、理念を擁護したことでも知られる。しかし数十年にわたる過保護国家の結果、今では「利益」という言葉さえ、英国民の語彙の中で汚い言葉になってしまった。トラス氏の予算が失敗したのは、英国に自由市場思想の基盤がなかったからであり、そのせいで、予算による変化が不自然で不要なものに思えたのである。

自由市場政策は、国民が資本主義や自由の力を理解しなければ実行できない。経済教育財団(FEE)の創設者レナード・リード氏が主張したように、リバタリアンは政治家を好ましい変化の担い手としてではなく、世論の温度を測る体温計として扱うべきだ。

リード氏は書く。「温度を変えれば、自然と表に出てくるものが変わってくる。温度計を見続ける唯一の目的は、温度が何度であるかを知ることだ。もし社会の底流にある有力な世論、つまり温度が介入主義を支持するならば、公職に就くのは介入主義者だろう。政治家がどのような政党のレッテルを貼って自分を飾り、世間にアピールしようともだ」

一方、リード氏が続けたように、「もし影響力のある世論(温度)が自由主義を支持すれば、自由主義の代表を公職に就かせることができるだろう。マザーグースの歌ではないが、王様の馬と家来が束になろうと、(世論が変わらなければ)温度計の示す温度(政治家)を変えることはできない。

政治家をかばったら、英国のリバタリアン運動は斃れるだろう。自由の原則を裏切る政治家のために言い訳をするのではなく、自由の原則を守るほうがよほど有益だ。そうしなければ、政治家が自分の価値観を自由に合わせようとするのではなく、自由主義者が自らを犠牲にし、自分の価値観を政治家に合わせるはめになるだろう。

(次を全訳)
Why Liz Truss Failed While Margaret Thatcher (Partly) Succeeded - Foundation for Economic Education [LINK]

2022-11-17

ウクライナ指導者は世界の脅威

政治アナリスト、アンドリュー・コリブコ
(2022年11月16日)

ウクライナの指導者たちは事の次第をよく理解していたが、第三次世界大戦を引き起こそうと、歴史上最も危険な陰謀論を広めることにしたのである。西側諸国民はこのことをよく考えておく必要がある。なぜならそれは、客観的にみて文字どおりの終末論的カルト集団と表現できるものに、政府から補助金を出すよう強制されたことを意味するからだ。

北大西洋条約機構(NATO)とロシアは、ウクライナがポーランドを誤って爆撃した後、火曜日(11月15日)の夜、第三次世界大戦の瀬戸際に一時立たされた。この事件は、ロシアの特別作戦でこれまでで最も激しいといわれる攻撃(噂される停戦交渉の失敗と同時だったともいわれる)のなか、ウクライナ軍がロシアのミサイルを迎撃しようとしていたときに起こった。ウクライナの「S-300」ミサイルはロシアのミサイルを撃墜する代わりに、誤作動を起こしてポーランドに落下し、2人が死亡した。

ウクライナの指導者は、何が起こったかをよく知っていたが、文字どおり第三次世界大戦を引き起こそうと、歴史上最も危険な陰謀論を広めることにしたのだ。ゼレンスキー大統領は、自軍のポーランドへの誤爆を「集団安全保障に対するロシアのミサイル攻撃」と表現し、NATOに「我々は行動する必要がある」と伝えることで、世界に嘘をついた。ウクライナの〔クレバ〕外相は、この事件に関してウクライナ側に責任があるというすべての主張は、「ロシアのプロパガンダ」にすぎないと主張し、言葉を巧みに操った。

バイデン米大統領は感心にも、ロシアに責任があるかという質問に次のように答えた。「そのことに異議を唱える予備の情報がある。ロシアから発射されたとは、軌道の線からして考えにくいが、どうだろう」。AP通信はバイデン大統領の言葉を報じた同じ記事で、「予備的な判断によれば、ミサイルは、飛んでくるロシアのミサイルに対してウクライナ軍が発射したものと考えられる」とする3人の匿名の米政府関係者の言葉も引用している。

バイデン氏の判断も、これら3人の匿名の米政府高官の判断も疑う理由はない。結局のところ、もし彼らの誰かが、ロシアがNATOの同盟国であるポーランドを爆撃したと疑うに足る根拠があれば、それが偶然であろうとなかろうと、北大西洋条約第5条の集団安全保障の約束によって、まるで違う反応をしただろう。明らかに、英米枢軸によって実行された可能性が高い「ノルドストリーム」パイプラインへのテロ攻撃と同様に、NATOはロシアの責任を本気で追及してはいない。

この客観的な結論は、他でもない米大統領によって共有された公的判断に基づくものであり、したがって、いわゆる「ロシアのプロパガンダ」とはどう考えても言えない。ウクライナ政府は、NATOを騙して第三次世界大戦を開始させようと実際に共謀していたことが証明された。米国率いる西側の「黄金の10億人(選民)」の国民は、ウクライナが「勝利」しているという誤った印象を抱いているため、ウクライナがNATOを騙して第三次世界大戦を開始させようとしたというこの認識は、これまでのウクライナ紛争のいわゆる「常識」と矛盾している。

もし本当にウクライナが紛争に勝っているのなら、同国の大統領と外相は、自国軍がポーランドを誤って爆撃した後、ロシアを非難するという嘘を世界につかなかっただろう。これは明らかに、NATOを操って、ほぼ確実に武力行使で直接反応させようとしたものだった。NATOによるロシアへの通常攻撃は、それが一般に認められた2014年以前の国境内であろうと、その後ロシアと再統一した旧ウクライナ地域であろうと、より大規模な戦争の火種になっただろう。

ウクライナの高官たちが文字どおり共謀してこの終末論的なシナリオを動き出させたという事実は、ウクライナ側が公に主張するほどには、新たに得た地上での利益〔南部ヘルソン州の州都ヘルソンをロシアから奪還したこと〕に自信を持っていないことを示唆している。むしろ、先週から噂されているロシアと米国の停戦交渉や、NATO加盟国の軍産能力が限界に達し、軍事支援の範囲・規模・速度を保てなくなっていることを背景に、ロシアと妥協するようにという耐えがたい圧力がかかることを恐れているようである。

超国家主義的な指導者や、この紛争における自国の目的(ロシアに再統合されたクリミア、ドンバス、ノボロシア地域の奪還)の最大限の達成を期待するよう洗脳されてきた国民にとって、ロシアとの妥協は受け入れがたい。奪還が達成できなければ、ゼレンスキー大統領とその一派は民衆の抗議に直面し、権力の座を維持できなくなるだろう。ウクライナ保安局(SBU)の超民族主義分子がカラー革命〔政権転覆〕のシナリオを支持するなら、なおさらだ。

ポーランドを故意に爆撃したのはロシアであり、敵のミサイルを撃墜しようとして誤って爆撃したのは自国軍ではないと同盟国に嘘をつき、NATOを騙して第三次世界大戦を起こさせようと企んだのは、純粋にゼレンスキー大統領自身とその一派の政治的利益を念頭に置いてのことであった。簡単にいえば、ウクライナの指導者は、SBUに支えられた民衆の反乱によって打倒される危険よりも、自分たちの陰謀論が引き起こす核の黙示録の危険を冒すことを望んでいるのである。

西側諸国民はこのことをよく考えた方がいい。というのも客観的にみて、文字どおりの終末論的カルト集団といえるものに、政府から助成金を出さざるをえなくなったということだからだ。ウクライナの指導者は、自国民やロシアにとってだけでなく、全世界にとって危険な存在である。手遅れになる前に、ウクライナの支援諸国が一刻も早く停戦に応じさせなければならないのは間違いない。

(次を全訳)
Ukraine Tried To Trick NATO Into Starting World War III After It Accidentally Bombed Poland [LINK]

2022-11-16

食の破壊と偽りの資本主義

研究者、ビルセン・フィリップ
(2022年11月5日)

2022年7月、カナダ政府は、2030年までに肥料の散布による排出量を2020年比で30%削減する方針を発表した。その前月には、オランダ政府が2030年までに一部地域の窒素汚染を最大70%引き下げる施策を実施すると発表した。欧州グリーンディールの規定を満たすためだ。欧州グリーンディールでは、欧州連合(EU)の気候、エネルギー、交通、税制の政策について、2030年までに温室効果ガスの純排出量を1990年比で少なくとも55%削減するのに適したものにすることを目的としている。

これに対し、オランダの農業・農村団体は、目標が現実的でないとして抗議を呼びかけ、農民とその支持者が全国で立ち上がった。人為的に作られたグリーンディールは、2015年に国連加盟193カ国で採択された「2030アジェンダ」の目標の一つだ。

2030アジェンダは、国連以外にも、EU、世界経済フォーラム(WEF)や、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)からなるブレトンウッズ機関など、多くの国際機関・組織が支持している。またBASF、バイエル、ダウ・ケミカル、デュポン、シンジェンタなど、世界で最も強力な農薬の多国籍企業によって支持されており、これら企業は合わせて世界の農業投入材市場の75%以上を支配している。近年では、中国化工集団(ケムチャイナ)によるシンジェンタの買収、バイエルとモンサントの合併で世界の種子産業が再編された。さらに、2017年にダウ・ケミカルとデュポンが合併してデュポン・ド・ヌムールが誕生した。しかし合併後わずか 18カ月で、農業はコルテバ、材料科学はダウ、特殊製品はデュポンと、三つの上場企業に分割された。

近年、これらの企業はいずれも、農業分野は今後30年の間に大きな変化を遂げるとし、いわゆるグリーン政策への移行を加速するために、それぞれの役割を果たすことを約束する声明を発表している。そして政府に対し、従来の農業から、再生農業や昆虫農法、実験室飼育の食肉などの代替タンパク源に公的資金を振り向けるよう提唱している。

さらにBASF(ドイツ)、シンジェンタ(スイス)、バイエル(ドイツ)は「欧州炭素農業連合」のメンバーである。この同盟にはコパ・コジェカ、クロップイン、欧州保全農業連盟(ECAF)、欧州革新技術研究所(EIT)食品、HERO、プラネット・ラボ、スイス再保険、グラスゴー大学、ヤラ、チューリッヒ保険、世界経済フォーラムといった、「食のバリューチェーンにかかわる組織やステークホルダー」が参加している。もともとこの連合は、世界経済フォーラムの「1億人の農民プラットフォーム」と「欧州グリーンディールのためのCEOアクショングループ」との連携によって生まれたものだ。

欧州炭素農業連合の目的は、農業と農法の転換を加速させることで、欧州の食料生産を脱炭素化することだ。具体的な目標としては、2025年までに食料生産の耕作地の総面積の拡大をゼロにし、2030年までに畜産に使用する総面積を約3分の1に削減する。それにより、同時期までに5億ヘクタール近くの土地を自然生態系の回復のために解放する。世界経済フォーラムによると、このような変化は環境に恩恵をもたらすだけでなく、経済的にも有利になる。食料の生産と消費の方法を変えることで、年間4.5兆ドルの新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があるからだという。

BASF社は今後数十年にわたる農業の変革を加速させるため、農家が環境への影響を減らすよう求め、作物1トンあたりのCO2排出量を30%削減し、4億ヘクタール以上の農地にデジタルテクノロジーを採用するよう呼びかけている。また同社は、農家が炭素効率を高め、不安定な天候に強くなるように、窒素管理製品、除草剤、新しい作物品種、生物学的接種剤、革新的デジタルソリューションなど、多くの新製品を広く使用することを支持している。このような変化は、2025年までに売上高220億ユーロというBASFグループの目標に大きく貢献すると推測されている。

一方、中国の国有企業ケムチャイナが出資する世界第2位の農薬企業シンジェンタ社は、気候変動対策と称して「カーボンニュートラル農業」に注力している。具体的には、農家への技術、サービス、訓練の提供と、CO2排出量を抑える遺伝子組み換え新種子の開発を支援している。シンジェンタ社によれば、遺伝子組換え作物は2050年までに世界中で広く使用され、栽培されるようになるとのことである。

シンジェンタ社はまた、再生農業への転換を推進し、より少ない土地でより多くの食料を栽培し、農業による温室効果ガスの排出を減らし、生物多様性を高め、土壌の健康を増進すると主張しているが、これらの主張を裏付ける科学的証拠や長期データはほとんど存在しない。しかし同社は、できるだけ多くの農家が再生農法を広く採用するよう、政府やメディアが後押しする必要があると主張している。

バイエル社も再生農法について、農家が排出する温室効果ガスの量を大幅に削減し、大気中の炭素を除去するのに役立つと主張している。さらに、再生農法に移行し、気候の影響に強い作物を作ることが必要だと主張している。さらにシンジェンタ社と同様に、世界の農業の環境負荷を減らすために、新しい遺伝子編集技術の開発を支援している。バイエル社の予測によれば、農業においてバイオテクノロジーは重要な実現手段となる。それは2050年までに地球上に存在する100億人の人々を養うと同時に、気候変動の影響と戦うために使用される。

バイエル、BASF、シンジェンタと同様に、デュポン社も化石燃料への依存を減らし、生命と環境を守ることに貢献しようとしている。その対応はおもに、肉繊維の食感と外観を再現し、肉や魚の延長または代替に使用できる代替タンパク源の生産・消費を促すことに重点を置いている。デュポン社によれば、2016年、米国人は1人当たり約26キロの牛肉を消費し、その少なくとも半分はハンバーガーの形で食べられる。米国のハンバーガー肉のわずか半分を、乳製品や肉のタンパク質に比べてカーボンフットプリント(総排出量)が最大80倍も低い「SUPRO MAX タンパク質」で置き換えれば、1500万台以上の中型車を道路から取り除くことに相当するという。

世界で最も強力な多国籍農薬企業の一部は、食料・農業分野の変革に関し、中小農場や大衆の利益よりも多国籍企業自身の利益を優先する国際貿易協定から多大な利益を得てきた。とりわけ1994年に採択された世界貿易機関(WTO)の知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)は、多くの農民の生活を破壊する一方で、BASF、バイエル、ダウケミカル、デュポン、シンジェンタなどの農薬大手を有利にするうえで大きな役割を果たした。これはおもに、TRIPS協定が種子や植物の特許取得を可能にしたためである。

その結果、それまで何世代にもわたって農業を営んできたさまざまな国のハーブや植物が、強力な農業を営む多国籍企業の独擅場となった。特許を取得された植物やハーブは、農家が伝統的に行ってきた種子の保存や植え替えを禁じられ、代わりに特許料を支払わなければならなくなった。

農薬に依存する多国籍企業は、食品産業の研究開発にかつてない影響力を行使し、自らの利益と課題を追求してきたが、一方で、そのビジネス手法が自然環境に有害であることを示すいかなる知見も無視してきた。とくに遺伝子組み換え作物の研究、強力な農薬や合成肥料の開発、これら製品の性能の擁護に力を注いできた。

また、遺伝子組み換え作物の栽培には、合成肥料や農薬が大量に使われ、土壌や水源を大量の有害物質が汚染することを知りながら、その普及を支援してきた。つまり、2030アジェンダで緊急に解決しなければならない環境問題の多くは、こうした農薬関連企業の責任なのである。

2030アジェンダの社会改革によって推し進められている食品産業と食習慣の急激で大規模な変革は、大衆を生活水準の劇的な低下へ導いている恐れがある。20世紀の全体主義の教訓から明らかなように、大規模な社会改革計画による過ちを修正するのは非常に困難である。なぜなら哲学者カール・ポパーの言葉を借りれば、それにはしばしば大きな社会変革や改造を必要とするし、予期せぬ結果や出来事、大規模な破壊という結果、多くの人々の不便を広く引き起こす恐れがあるからだ。

 2030アジェンダに基づく、世界の食品産業に人為的な変革を促す懸命な国際協調は、多くの先進社会で文明の振り子が逆回転している事実の証左だ。快適な生活を実現する取り組みは、低い生活水準で必要最低限のものを求める闘いに急速に取って代わられる恐れがある。

大衆は気づかなければならない。2030アジェンダに基づき社会を改造しようとする専門家は〔人を欺く〕偽預言者である。この偽預言者は大衆を誤った方向に導き、餓死させかねない。社会における和解しがたい不和が生じ、食糧をめぐる暴動、紛争、暴力が発生し、経済学者ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスがいうように、すべての社会の絆が根こそぎ失われることになりかねない。

(次を全訳)
Multinational Agrichemical Corporations and the Great Food Transformation | Mises Wire [LINK]

2022-11-15

自由主義運動が将来を決める

元米連邦下院議員、ロン・ポール
(2022年11月14日)

今年の米中間選挙で、共和党が議会で大勝する「赤い波」が来なかった理由を知りたい人は、今年の選挙を2010年の中間選挙と比較してみるとよいだろう。2010年、共和党は下院で63議席を増やした。上院では支配権を獲得しなかったが、6議席を増やした。

2010年の共和党の勝利は、茶会党(ティーパーティー)と自由主義運動が推進したものだった。これらの運動はブッシュ政権末期に顕著になった。自由主義運動は、2008年の私の大統領選挙運動を草の根的に支援した人々によって進められた。自由主義運動の焦点は、あらゆる分野で立憲政治を回復し、介入的な外交政策をやめ、連邦準備制度(中央銀行)の監査と廃止、代替通貨の合法化によって金融政策を変えることにあったし、現在もそうだ。初期には、ティーパーティーは2008年の銀行救済への反対におもに焦点を合わせていた。

自由主義運動とティーパーティーの間には重なる部分があり、両運動の多くのメンバーは、連邦準備制度の監査と廃止、企業救済の廃止、議会による医療保険制度改革法(オバマケア)の成立を阻止するために闘った。

2010年の共和党の候補者の多くがティーパーティーの有権者に訴えたのは、オバマケア廃止の約束だけではない。あらゆる分野で、権限の小さい、憲法を尊重し財政に責任ある政府を取り戻すために働くことを約束した。これに対し2022年の共和党の平均的な候補者は、具体的な政策をほとんど示していない。 実際、バイデン大統領の大幅な歳出増を撤回するよう求めた共和党議員はほとんどおらず、ましてや連邦政府に憲法上の制限を課すよう求めた議員はほとんどいなかった。公立学校における新手の「批判的人種理論」やトランスジェンダー関連の政策をめぐって論争が起きているにもかかわらず、教育省を廃止しようという動きが再燃しているわけではない。

2022年の中間選挙における共和党候補者の多くは、民主党の対立候補がマスクやワクチンの義務付けなど、新型コロナの専制政治を支持していることも問題にできなかった。フロリダ州のロン・デサンティス知事や私の息子のランド・ポール上院議員(ケンタッキー州)など、コロナ暴政に反対した人たちが地滑り的な勝利を収めた。

ティーパーティーが共和党に対し、自由を尊重する、小さな政府を目指すよう強いることに成功したのは束の間だった。2010年の選挙が終わるとすぐに、共和党の支配層は再び巨額の支出を行うようになった。トランプ大統領と共和党議会の下で、歳出と債務は増加し続けた。共和党はオバマケアの廃止という看板公約すら果たせなかった。

2010年の中間選挙でわかったのは、国民は自由を守るまじめな考えや政策を提供する候補者に反応することだ。しかしティーパーティーの盛衰は、一つの政党と密接になりすぎたイデオロギー運動が抱える危険をも示している。こうした運動は、「我々のチーム」の一人が悪い票を投じ始めると、手のひらを返すようになる。大きな政府の共和党を支持しなければ、「本当に」大きな政府の民主党の天下になってしまうという議論だ。

幸いなことに、自由主義運動は原則に忠実であり続けた。福祉戦争国家が平和と財産を守れないこと、そして連邦準備制度が物価の安定と低失業を保証するという使命を果たせないことが明らかになるにつれ、より多くの米国民が自由主義運動に参加するようになるだろう。自由主義運動への支持は、避けられない経済破綻が起きたときに加速する。この経済破綻は、ドルの価値崩壊と世界基軸通貨としての地位の否定によって引き起こされるだろう。それは福祉戦争国家と不換紙幣制度の終焉をもたらす。願わくは自由主義運動によって、福祉戦争国家と不換紙幣制度の代わりに、小さな立憲政府、個人の自由、平和を確実に取り戻してほしい。

(次を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : A Tale of Two Midterms [LINK]

2022-11-14

経済の自由は女性を解放する

ケイトー研究所アナリスト、チェルシー・フォレット
(2018年8月24日)

経済の自由とその結果としての競争市場は、少なくとも二つの互いに関連したやり方で女性に力を与える。

第一に、市場主導のイノベーションは、女性の生活を男性以上に向上させた。例えば、自由な企業活動がもたらした繁栄を資金源に健康が増進し、そこから女性はより大きな恩恵を受けてきた。女性の平均寿命は男性よりも早く延び、今日ではほとんどすべての地域で女性が男性よりも長生きしている。女性は出産で死亡する確率も低くなった。

省力化された家庭用器具は、女性を家事の負担から解放した。台所用品のおかげで、米国では料理にフルタイムの仕事と同じ時間を費やしていたのが、1日1時間程度で済むようになった。また、洗濯機のおかげで、豊かな国々では、毎週丸1日かかっていた洗濯が、平均して週に2時間未満で済むようになった。このような女性の時間の解放は、家電製品が世界中に普及するにつれて、ますます進んでいる。市場競争と利潤追求が家庭用省力化機器の発明を促し、発展途上国の新しい顧客への販売に駆り立て続けている。経済が自由化された国では、経済が急速に発展し、より多くの家庭が現代的な便利さを手に入れることができるようになることが多い。中国は1978年に経済自由化政策を導入して以来、経済が劇的に成長した。1981年、中国の都市部の家庭で洗濯機を所有していたのは10%未満だった。2011年には97%以上が洗濯機を所有するようになった。女性が家事に費やす時間が減り、より多くの人が有給労働を選択するようになった。

第二に、労働市場への参加は、女性に経済的自立と社会的交渉力の向上をもたらす。19世紀の米国では、工場労働は評判が悪かったにもかかわらず、女性の経済的自立と社会的変化の実現に貢献し、女性の力を高めた。また、女性が有給労働に従事することに対する意識も和らいだ。今日、発展途上国でも同じようなことが繰り返されている。

中国とバングラデシュを考えてみよう。中国では、工場労働が農村部の女性に、故郷の村の悲惨な貧困と性役割の縛りから逃れる機会を与え、かつては世界で最も高かった農村部生まれの若い中国人女性の自殺率を劇的に低下させた。社会的流動性が高く、経済移民のほとんどは永久に田舎に戻らない。自分が選んだ都市に定住するか、最後には故郷の村に近い町に移り住み、店やレストラン、美容院や仕立て屋などの小規模事業を立ち上げている。多くはホワイトカラーになる。農作業に戻る人はほとんどいない。同様に、バングラデシュでは、工場労働によって女性は文化規範の制限を見直させることができるようになる。女性が中心となるこの国の縫製産業は、女性が家の外で働くこと、男性の保護者の同伴なしに外を歩くこと、無関係の男性の前で話すことさえ伝統的に禁じていた「プルダ」(隠遁生活)の規範を一変させた。現在、ダッカやその他の工業都市では、女性は外を歩き、親戚以外の男性と交流している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの社会経済学者ナイラ・キャビアの研究によると、「工場で働く決定は、多くの場合、他の家族からかなりの抵抗を受けながらも、女性自身が言い出した」ことがわかった。(2013年に起こった)ダッカ近郊ビル崩落事故のような悲劇は多くの報道を集めるが、衣料品産業がバングラデシュの女性の物質的な幸福や社会的な平等に及ぼす広範な影響はあまり注目されない。他の先進国でも同じことが言える。

女性の時間を家事から解放し、新たな雇用機会に伴う経済的な交渉力を提供することで、市場経済は女性の物質的な生活水準を向上させ、文化的な変化を促す。多くの発展途上国における女性のエンパワーメント(活躍機会の拡大や地位向上)はまだ初期段階にあるが、適切な政策によって、世界中の女性が、今日の裕福な国の女性が享受しているのと同じ繁栄と自由への道を歩むことができる。

(次を全訳)
How Economic Freedom Has Benefited Women - HumanProgress [LINK]

2022-11-13

悲観論の歴史

ケイトー研究所アナリスト、チェルシー・フォレット
(2016年2月5日)

生活を向上させる可能性のあるテクノロジーに対する悲観論は、新しいものではない。ツイッターのアカウント「悲観論者の記録集」(インターネットの第一人者マーク・アンドリーセンのお気に入り)は、古い新聞の抜粋を使い、絶え間なく続く悲観論の流れを記録している。

悲観的な反応には、単に疑わしいもの(ガス灯のアイデアに対する1809年の反応や、麻酔のコンセプトに対する1839年の反応など)から、完全に警戒すべきもの(電子商取引は「創造するよりも多くを破壊する恐れがある」という1999年の警告など)まで、さまざまなものがある。

悲観論者は、古い技術の方が新しい技術より優れていると主張するケースもある。たとえば、そろばんはコンピューターやポケット計算機より優れていると主張する人もいれば、馬は危険な「恐怖の自動車」よりも長持ちすると主張する人もいる。

新しい技術が既存のビジネスや習慣にダメージを与えると主張する人もいる。特に1918年の記事では、自動車が馬小屋のビジネスを破壊し、「映画ショー」とともに、ロマンチックな馬車に乗る伝統を終わらせ、デートを永遠に変えてしまうという、感情に訴える表現があった。

新しい技術は富裕層が最初に取り入れがちなため、不平等を悪化させるという不満もよく聞かれる。1914年のある記事は、「無線電話は特権階級にしか恩恵がない」と嘆いている。この記事は、当時開発されていた初期の無線電話のことを指し、軽い携帯ではない。もちろん、今日では無線電話はポケットに入り、多くの機能を持ち、どこにでもある。結局、自由な市場は技術のコストを下げ、より多くの人々が利用できるようにする傾向がある。

新しい技術に対する悲観的な反応で最も注目されるのは、悲観論者が国家の力を使い、技術の進歩を止めようとすることがいかに多いかだろう。

1930年代、悲観論者はラジオが民主主義を脅かすものだと恐れ、この機器が子供時代をダメにするのではと心配した。1936年には、ラジオは気が散って消防車のサイレンが聞こえなくなる恐れがあるとして、米国の多くの都市で車内ラジオを禁止することに成功した。

悲しいかな、技術に対する悲観論者は、じつにさまざま技術の禁止や一部禁止に成功している。「馬なし馬車」(自動車)、「自動昇降機」(エレベーター)、自転車(1881年のニューヨーク・タイムズの記事によれば、「生命と財産にとってこれまで発明された最も危険なもの」)などがそうである。最近ではビデオゲーム、ヘッドフォン、ホバーボードなども含まれている。

日々新たな進歩が続くなか、過去の人々がどのように進歩を非難し、戦ってきたかを振り返ることは、現在の技術・科学に関する議論を整理するのに役立つ。

(次を全訳)
Pessimism Viewed in Historical Perspective - HumanProgress [LINK]

2022-11-12

政治の主戦場は地方に

ミーゼス研究所編集主任、ライアン・マクメイケン
(2022年11月10日)

米中間選挙の投票はまだ終わっていないが、ひとつだけはっきりしていることは、この選挙の後、米国の中央政府にはほとんど変化がないだろうということだ。

下院は共和党が支配することになりそうだが、下院で共和党が享受する過半数はわずかなものになるだろう。このため、バイデン政権が推し進める最悪の法案に対して拒否権を行使することができるが、共和党はたんに法案をつぶすのではなく、民主党政権と妥協して「協力」するよう望んでいることは、これまでの歴史がよく物語っている。

米上院に関しては、ネバダ州とアリゾナ州の結果を待っているところだ。ジョージア州は決選投票に向かう。しかし、上院は再び五分五分に近い状態になることは明らかだ。もし共和党がなんとか過半数を確保すれば、最悪の法案や大統領任命の人物を阻止することができるだろう。しかし、政策の方向性が根底から変わることはないだろう。

結局のところ、連邦政府の政策の多くは行政府によって決定されており、議会で党の指導者が多少変わったところで、環境保護庁(EPA)、内国歳入庁(IRS)、連邦捜査局(FBI)といった国の行政機関の方針が変わることはほとんどない。これら行政機関は無数の米国人の日常生活に対し絶大な権力を持っているが、保守派と呼ばれるかなりの多数派でさえ、この権力を抑制する気概は見られない。確かに、現在下院に向かっている共和党の少数派は、ほとんど何もしないだろう。

地球温暖化、通貨発行、外交政策、ほとんど変化なし


これらのことを総合すると、連邦レベルの政策にはほとんど変化がないことが予想される。たとえば、化石燃料の害については、今後もよく耳にすることになるだろう。政権は石油やガスの掘削を減らすよう圧力をかけ続けるだろうし、石炭に対する戦争も続くだろう。「地球温暖化と戦う」ための新たな指令が出され続けるだろう。当然、生活コストを押し上げることになる。

外交政策については、議会で「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」派が圧倒的な勝利を収めない限り、何も変わらないことは明らかである。しかしそれは実現しなかった。だから、現在と同じような対外介入主義が続くと予想される。米政府はウクライナにすでに送った650億ドルをさらに増やし、最近ウクライナ国境付近に米軍を配備したように、この地域への関与を継続的に強めていくだろう。さらに悪いことに、米国は核戦争に翻弄され続けるだろう。政権の新しい国家防衛戦略文書が、国防総省に核兵器使用の自由裁量権を与えているからだ。米国は、現在シリアで地域占領を行っている約900人の米軍をすぐに撤収させることはないだろう。

当然、社会保障支出に関しても、変化はゼロと予想される。ドナルド・トランプ〔前大統領〕の下で、共和党は新たな大規模な支出増に署名し、2020年以前にも兆単位の赤字を承認する方向に向かっていた。もちろん、新型コロナではさらに支出は爆発的に増え、疑問を表明した共和党員はほんのひと握りだった(このわずかな反対にも、トランプ氏は当然ながら癇癪を起こした)。今後二年間、連邦議会で見られる唯一の意見の相違は、次の巨額の年間赤字を具体的にどのように積み上げるかということだろう。

実際、もし経済が現在のように悪化し続ける(今週にはハイテク産業で何千人もの解雇があり、不動産価格も下落している)のであれば、連邦政府ではさまざまな新しい「刺激策」を求める、超党派の新たな合意が生まれるだろう。民主・共和どちらの党も緊縮財政の党と見られたくはないだろう。

大きな変化は州レベルで


連邦政府は相変わらず悲惨な政策を続けるだろうが、本当の変化は州レベルで起こる。今回の選挙で共和党は州レベルでとくに良い結果を出せず、少なくともミシガン、ニューハンプシャー、ペンシルバニアの三州で議会の主導権を失った。一方、フロリダ州では上下両院で、ノースカロライナ、ウィスコンシン、アイオワ各州では上院で共和党が超過半数を占めた。さらに、ネバダ州の州議会は共和党に傾きつつある。共和党は依然として州議会の過半数を支配しており、2022年以前の最近の選挙サイクルでも共和党が支配する州の数を増やしている。

このことは、ワシントン特別区、ニューヨーク州、カリフォルニア州と、フロリダ州、テキサス州、オハイオ州との間で今後も乖離が続くことを意味していると思われる。中絶、学校、移民、銃、エネルギー政策などの問題で、この両陣営の違いは大きくなる一方だろう。新型コロナのおかげで、州レベルの政策の重要性と、共和党が強い「赤い州」と民主党が強い「青い州」の間に実際に存在する非常に異なった法的環境が理解できた。このことは忘れられておらず、多くの州の政策立案者は、自分たちが連邦政府の権力に対する最後の防衛手段だと考えるようになっていくだろう。ある共和党の運動員は政治サイト「ポリティコ」の記事でこう述べている。「連邦レベルでは最小限の利益しか得られないので、昨夜各州で獲得した共和党の力は、ジョー・バイデン〔大統領〕の悲惨な政策を阻止するために、より一層重要なものとなるだろう」

CNNテレビのロナルド・ブラウンシュタイン氏は、連邦政府の政治動向から自らを切り離そうとする赤い州の努力を明らかに否定しているものの、「赤い州は国家の中に国家を築く」と題するコラムで、こう指摘した。

共和党が任命した裁判官に支えられた赤い州は、民主党がホワイトハウスを押さえ、上下両院を名目上支配する中でも、国策の主導権を握るために多方面にわたる攻勢に出ている。中絶からLGBTQ(性的少数者)の権利、教室での検閲に至るまで、赤い州は社会政策を自国内で大きく右傾化させ、同時に連邦政府や米国の最大都市圏が異なる方針を打ち出す能力を妨げるような動きをしている。

十年前には想像もできなかったほど、この幅広い攻勢は、国家の中に国家を作ろうとする活動の様相を呈してきた。米国の他の地域とは異なるルールや政策で運営される国家だ。これまでのどの時代よりも、そうした試みが活発である。

ブラウンシュタイン氏は、これを左派お気に入りの利益団体に対する邪悪な陰謀と決めつけているが、その規模を誇張していることは間違いない。しかし同氏の言うとおり、赤い州の政府は連邦政府の政策を妨害する力がある。連邦政府が何か新しい譲歩を要求すれば、州政府はそれに従うだけだった時代は終わった。その一例が、国境警備をめぐる最近のバイデン政権とアリゾナ州政府の対立である。アリゾナ州政府は国境沿いに輸送用コンテナを置き、その場しのぎの壁を作っていた。バイデン政権はコンテナの撤去を要求したが、州に拒否された。

国家間の「離婚」は避けられない


連邦政府の政策に従うことを拒否する州政府は、さらに増えると予想される。もちろん、民主党が支配する州政府は長年、移民のための「聖域都市」の創設や娯楽用大麻の合法化(後者は州レベルの抵抗のおかげで事実上主流にはなっていない)などの政策によって、連邦政府の政策を実行してきた。

しかし、州政府には連邦政府の政策立案者に反撃する力があるのも事実である。州は連邦政府の教育政策に干渉することができる。州は連邦銃刀法の執行を拒否することができる。州は独自の中絶政策を作ることができる。州は言われたことを拒否することができる。

新型コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)やマスク着用の義務化が州間の違いを明確にしたように、時が経てば、州間の文化的・法的な違いがさらに大きくなっていくだろう。その違いが明らかになればなるほど、住民は自分の政治的な好き嫌いに合った場所に引っ越すようにさえなるだろう。たとえば、米国の左翼が、左翼の飛び地であるテキサス州オースティンを離れつつあるとさえ言われるようになった。オースティンはテキサス州の真ん中にあり、同州はある人々にとって、あまりにも「赤く」(共和党寄りに)なりすぎたことが判明したからだ。もちろん、このようなケースが実際にどれくらいあるのか推測するのは難しいが、政治的な理由による引っ越しは、以前よりはるかに意味があるように思われる。

今後このような文化格差が拡大し、事実上の政治的分裂が起こることは必至だろう。〔アメリカ合衆国の国章に書かれた〕「エ・プルリブス・ウヌム(多州から成る統一国家)」は、政治スローガン以上のものではなかった。日に日に説得力を失いつつある。「国家間の離婚」は、やがて現実になるだろう。

中央政府は短期ではほとんど変化しないので、政策の変更は、州政府が自らを(フロリダ州のように)国家エリートに反対する立場か、(カリフォルニア州のように)賛成する立場かをはっきりさせる状況で行われることが増えるだろう。ここからが本当の意味での政治行動になる。

(次を全訳)
The Election Won't Change Much in DC. The Real Battle Is Now in the States. | Mises Wire [LINK]

2022-11-11

トランプ時代の終わり

経済学者、マレー・セイブリン
(2022年11月10日)

この記事を書いている時点では、共和党が米上院を支配することはなさそうだ。 ネバダ州でアダム・ラクソルト氏が勝利し、アリゾナ州でブレイク・マスターズ氏が逆転しなければ、上院は50対50の同点になりそうだ。

共和党が上院の主導権を握るには、ペンシルベニア州で共和党から離脱したパット・トゥーミー氏の議席をメフメト・オズ氏が確保し、ジョージア州でハーシェル・ウォーカー氏がラファエル・ウォーノック氏に勝つ必要があった。 この記事を書いている時点では、ウォーノック氏とウォーカー氏は、いずれの候補者も得票率50%に達しないため、決選投票になる可能性がある。 ウォーカー氏は、2018年に続き〔民主党の〕ステイシー・エイブラムス氏をあっさり破った同州のブライアン・ケンプ知事にはるかに及ばない。ニューハンプシャー州の共和党候補ドン・ボルダック氏は、やすやすと再選を決めた同州のジョン・スヌヌ知事に及ばない。

つまり、トランプ氏〔前大統領〕推薦の上院議員候補は不振に陥った。この三つのレースでは「トランプ効果」がマイナスとなった。

ただし、オハイオ州ではJ・D・バンス氏が長年の民主党下院議員ティム・ライアン氏を惨敗させ、上院の議席を共和党陣営にとどめた。

フロリダ州では、ロン・デサンティス知事が〔民主党の〕チャーリー・クリスト氏を粉砕し、百五十万票差で再選を果たした。0.5%未満の差で辛勝した四年前とは大違いである。

ニューヨーク州では、ニューヨーク市の多数が現職に票を投じたため、鼻持ちならないキャシー・ホークル知事〔民主党〕が再選を果たした。 ニューヨーカーは、自分たちの街が犯罪にまみれ、荒廃し、さらに住みにくい大都市になったことに関心がないのだろうか。 どうやらそうらしい。 この選挙結果は、ニューヨーク州にはニューヨーク市とそれ以外の地域という二つのニューヨークがあることを示している。そろそろ分離独立だろうか。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、下院は10議席増の224議席で共和党が制すると予想されている。 過半数には218議席が必要だ。 言い換えれば、これまで中間選挙では、与党は通常30議席以上失っていたのに、今回は国がさまざまな問題に直面するにもかかわらず、共和党は10議席しか獲得できなかったということだ。

ルー・ロックウェルのブログで、デイル・シュタインライク氏が昨日の結果を簡潔にまとめている。

二ケタ近いインフレ、低迷する株式市場、ガソリン価格の上昇、犯罪の急増、よだれを垂らし徘徊する記憶障害の大統領という贈り物を手にしながら、それを一掃できないとは。 国の未来にとって厳しい前兆だ。デサンティスとマルコ・ルビオ〔上院議員〕はフロリダ州で相手を撃退したが、2024年の〔大統領〕候補者がまたぞろ、〔娘の〕イバンカと〔その夫〕ジャレド〔・クシュナー氏〕を従えたドナルド・トランプ閣下だとしたら、どう賭ける? トランプは負けるだろう。 火曜日の選挙結果から注意をそらすのは難しいが、誰かがトランプに11月15日まで〔次期大統領選への出馬表明を〕待つよう説得したのだ。 ああ、待ちきれないよ。

結論。デサンティス知事は、2024年大統領選で共和党の最有力候補である。トランプ氏は15分以上の名声を得たのだから、もう本を書き、たくさん持つリゾート地のどこかでゴルフをする頃だ。

トランプ氏の時代は終わった。そう願っている。

(次を全訳)
No Red Wave: GOP fumbles the ball - by Murray Sabrin [LINK]

バイデン家の口利き稼業

ジョージ・ワシントン大学法学教授、ジョナサン・ターリー
(2022年11月10日)

以下は、フォックスニュースのウェブサイトに掲載された私のコラムで、〔米中間選挙後の〕共和党の下院支配が〔ジョー・バイデン大統領の次男〕ハンター・バイデン氏のスキャンダルに及ぼす影響についてである。ハンター氏のノートパソコンは、米政府にとってパンドラの箱だ。そのパソコンを公に精査することで、バイデン家による優越的地位の濫用が暴かれる可能性がある。

以下がそのコラムだ。

〔ギリシャ神話の〕パンドラの箱の伝説では、パンドラは不運にも、多くの悪を世界に放つ。彼女が箱か瓶に閉じ込めることができた唯一のものは、今週ワシントンで最も高価になりそうなもの、つまり希望であった。

共和党が下院を占拠することで、今後数カ月で多くの調査が行われる可能性がある。米政府はスキャンダルを管理することで有名だ。実際、政界でスキャンダル管理は事実上、芸術の域に達している。しかし政界の有力者らにとって、パンドラの箱に最も近い捜査が一つある。ハンター・バイデン氏のスキャンダルを真剣に調査すれば、政治家やメディアのエリートは存亡の危機に陥るかもしれない。

ここで、ハンター氏に関し完全に調査が行われた場合、初めて詳細に調べられる可能性のある、おなじみの面々を紹介しよう。

バイデン家


バイデン家は、利権への扉を開く鍵のマークを家紋に付けることができるほど、長い間、優越的地位の濫用に関係してきた。バイデン家は他の一族よりも大胆かもしれないが、地位の濫用は長い間、政界のお家芸だった。何十年もの間、私はこの贈収賄法の抜け穴について書き続けてきた。影響力を得るために議員や大統領に百ドルでも渡せば違法だ。しかし議員や大統領の配偶者や子息には、棚ぼたの契約やおいしい仕事という形で、文字どおり何百万ドルも渡すことができる。

〔バイデン大統領の弟〕ジェームズ・バイデン氏は兄への口利きについて、驚くほど(さわやかでさえある)オープンにしている。〔病院運営会社〕アメリコ・ヘルス社の元幹部トム・プリチャード氏らは、ジェームズ氏が顧客への売り込みで、兄やその家族への口利きにおおっぴらに言及したと主張している。ジェームズ氏は、アメリコ社が破産する前に同社を通じて取得した個人ローンなど、不正行為の疑いでさまざまな訴訟に直面している。

ハンター氏は叔父のもとで働いたが、家業の中で独自の道を歩んできた。父親は最近、息子はどうしようもない依存症だと強調したが、その主張は、ハンター氏が数百万ドル規模の口利きの仕組みを構築していた事実と明らかに矛盾する。問題は、なぜ外国の人物(外国情報機関の関係者を含む)がハンター氏をせっつき、ロシア、ウクライナ、中国などで何百万ドルもの国際送金と複雑な取引を行わせたかである。

しかし一番心配しているのは大統領自身かもしれない。大統領は、自分がハンター氏の仲間と会っていることを示す数多くのメールや写真にもかかわらず、ハンター氏のビジネスとのかかわりに関する情報を繰り返し否定している。それには2009〜2015年、ハンター氏の相棒エリック・シュウェリン氏だけで少なくとも19回、ホワイトハウスを訪問していることも含まれる。

一方、ハンター氏のノートパソコンにある電子メールは、口利きで得たカネを受け取った可能性のある父親について、繰り返し言及している。実際、ある電子メールでは、当時ハンター氏の事業仲間だったトニー・ボブリンスキー氏が、ハンター氏の同僚ジェームズ・ギリアー氏から、バイデン家はそうした言及を避けたがっていると指示を受けている。「ジョーが関与しているとは言うな。顔を合わせたときだけだ。そんなことは承知しているのに、連中はビビっているんだ」

これら取引について議論する際、バイデン大統領は 「ケルト族」「大物」などのコードネームで言及される。その中で、「大物」は中国のエネルギー企業との取引で10%の分け前を受け取る可能性があると議論されている。また、ハンター氏が父親の経費を共有の口座から支払っているという記述もある。ハンター氏は役員報酬、ベンチャー企業取引、弁護料、美術品取引など、政界で行われたとされる汚職の手口の数々をみごとに網羅する。画家や弁護士としての手腕は疑問視されているものの、口利きの卓越した手腕は、近いうちに政界で焦点になるかもしれない。

政界の無法者たち


有力者たちにとって一番の心配の種は、これらの電子メールによって、優越的地位の濫用というお家芸が暴露されることだ。電子メールには、民主・共和両党の有力者とつながりのある子息がずらりと並ぶ。たとえば、ハンター氏の親しい仲間の一人は、ジョン・ケリー氏[元国務長官]の連れ子であるクリス・ハインツ氏だった。ジョー・バイデン大統領同様、ケリー氏もまた、息子のビジネスに関する情報を偽って否定したと訴えられている。マフィアの故ジェームズ・バルジャーの甥、ジム・バルジャー氏もハンター氏の仕事仲間だった。バルジャー家はマサチューセッツ州の有力な民主党一家だった。

コネに恵まれた子息らの周りには、民主・共和両党の上層部と結びついたインサイダーがずらりと並ぶ。これら有力者の周辺には、弁護士や政治家の一団がただちに形成され、外国との取引でカネを得ていた。捜査でハンター氏の行為を明らかにするためは、口利き産業を支えるすべての人々に光を当てなければならない。

メディア


メディアは、どのような捜査においても巻き添えを食いかねない最後の集団である。この優越的地位の濫用は、メディアがバイデン家の後ろ盾になっているという保証がなければ起こりえなかった。もし外国の政治家や有力者とのこれら取引の一つでも、トランプ氏〔前大統領〕の子供が受取人だったら、メディアがどうしたか想像してほしい。バイデン家の口利き作戦の真骨頂は、メディアを早くから活発に参加させることだった。メディアとソーシャルメディア企業は2020年の大統領選前、ほぼ例外なくハンター氏のスキャンダルを葬り去った。二年間にわたり、この話を軽んじ、否定することに没頭したのである。

バイデン家に関する汚職が明るみに出れば、メディアはわずかに残る信用を損なうことになる。ボブリンスキー氏のような人物たちとその背景にある電子メールは、2020年の選挙前にメディアに公開されていた。しかしメディアは口利きの事実を追及することに驚くほど関心を示さなかった。ボブリンスキー氏らは今後、おそらく意見を聴かれる機会があるだろう。

言うまでもなく、このスキャンダルで何が暴露されるか気をもんでいる組織・人物はこれだけではない。バイデン家の取引の捜査が始まりかけた際、それを頓挫させたか遅らせたと思われる連邦捜査局(FBI)も含まれる。また、特別検察官の任命が多数から支持されたにもかかわらず、任命を断固拒否したメリック・ガーランド司法長官もその一人である。

もちろん、ハンター氏のノートパソコンを開けるのと、パンドラの箱を開けるのとでは違いがある。政界では、パソコンの分類された中身に希望を見出す者はほとんどいないだろう。

(次を全訳)
Washington’s Pandora’s Box: The Opening of the Hunter Biden Laptop Could Expose the Cottage Industry of Influence Peddling – JONATHAN TURLEY [LINK]

2022-11-10

最低賃金上げがダメな5つの理由

エコノミスト、ジョン・フェラン
(2019年3月25日)

全米の州や市で、最低賃金の引き上げを求める運動が展開されている。通常、最低賃金は15ドルを目指している。なぜ15ドルなのか。サービス従業員国際組合のケンダール・フェリス氏の説明によると、「10ドルでは低すぎるし、20ドルでは高すぎるので、15ドルにした」そうだ。

経済学者ポール・クルーグマンが言うとおりである。

最低賃金を上げると、どのような影響があるだろうか。経済学の基本を学んだ学生なら、誰でも答えがわかるだろう。労働の需要量を減らし、その結果、失業をもたらす。

米在住の経済学者の72%が、連邦最低賃金を時給15ドルにすることに反対している理由の一つはこれである。

もう一つの理由は、実証的証拠の大勢が示唆するところによれば、最低賃金の引き上げは意図した政策目標を達成できないからである。

2008年、経済学者のデビッド・ニューマークとウィリアム・ウォッシャーは、最低賃金法の効果に関する20年にわたる研究を調査した。焦点を当てた五つの分野について、政策の影響をそれぞれ以下のように述べている。

1. 最低賃金は雇用を減らす

全体として、検討した100ほどの研究のうち約3分の2は、最低賃金の雇用へのマイナス効果について(決して統計的に有意ではないものの)比較的一貫した証拠を得た。一方、プラスの雇用効果について比較的一貫した示唆を与えているのは8つだけである。対照的に、最も信頼できる証拠とした33の研究のうち、80%以上がマイナスの雇用効果を指摘している。

2. 最低賃金の引き上げは、低賃金労働者の所得を減らす

最低賃金の上昇は平均して、影響を受ける労働者の経済的福利を低下させる傾向があることを、証拠は示している。最低賃金以上の賃金を得ている労働者への影響に関する証拠は、最低賃金の引き上げによって労働所得が減少することを示唆しており、最低賃金が雇用や労働時間に及ぼす負の効果を反映している。

3. 最低賃金の引き上げは、一部の低賃金労働者の生活を向上させ、他の労働者の生活を犠牲にする。

最低賃金の引き上げは、低所得世帯の間で所得の再分配をもたらすことがほとんどである。雇用機会の減少や労働時間の短縮の結果、得をする者と損をする者があり、正味で見れば、貧しい家庭や低所得の家庭がより悪くなる可能性があることを示している。

4. 最低賃金の引き上げは、若年労働者の技能を低下させ、将来の収入を減少させる

最近の研究では、最低賃金の上昇にさらされた10 代の若者は、20代後半で賃金や収入が低く、取得技能の低下と一致することがわかっている。

5. 最低賃金の引き上げは、製品・サービスをより高価にする

限られた実証的証拠が一貫して示すところによれば、最低賃金の引き上げは、低技能労働者によって生産される商品やサービスの価格上昇につながる。

ニューマーク氏は2018年12月、調査を更新し、「最低賃金の導入・引き上げで雇用は減るのか」と問いかけている。それによると、次のとおりだ。

最低賃金引き上げの潜在的な利点は、影響を受ける労働者の賃金が上がることであり、その中には貧困層や低所得者層がいる。一方、潜在的な欠点は、最低賃金が上がると、最低賃金で助けようとする低賃金・低技能労働者を企業が雇用しなくなる可能性があることだ。

最低賃金が低技能労働者の雇用を減らすとすれば、最低賃金は貧困層や低所得層を助ける「タダ飯」(費用なしに得られるもの)ではなく、ある人々の利益が他の人々のコストになるトレードオフ(相反)を意味する。研究結果は一様ではないが、特に米国では、最低賃金が低技能労働者の雇用を減少させることを示唆する証拠がある。

賃金を上げる唯一の方法は、労働者の生産性を上げることだ。最低賃金法によって低技能労働者の雇用を違法化しても、何の役にも立たない。

(次より抄訳)
Economist: 5 Reasons Raising the Minimum Wage Is Bad Public Policy - Foundation for Economic Education [LINK]

反動派よ、進歩派に立ち向かえ!

経済学者、ジョセフ・サレルノ
(2022年11月3日)

米国の社会的・政治的状況は激変しており、自由の勝利とリヴァイアサン(国家という怪物)の打倒を望む者は、それに応じて戦略を調整しなければならない。新しい時代には、古い、そしておそらくは時代遅れの戦略を考え直すことが必要である。——マレー・N・ロスバード

マレー・ロスバード(米経済学者、自由主義の理論家)は、1994年に早すぎる死を迎える直前に、上記の言葉を書いた。この言葉は、1990年代に彼が発表した一連のすばらしい論文の主要テーマを要約したものであり、東欧とソビエト連邦における共産主義の崩壊の後に出現した新しい政治的・社会的な現実に応じ、リバタリアン(自由主義)戦略を根本から再調整するよう呼びかけている。ロスバードはこれらの論文で、当時出現した抽象的な社会哲学と具体的な政治運動の双方が、自由と社会に対する最大の脅威だと指摘した。そして、変化した思想的・政治的文脈の中で求められる新たな戦略を表現するために、政治的枠組みの抜本的な見直しと政治用語の改訂を提案したのである。 

先に進む前に、ロスバードの論文は、その深い洞察とリバタリアン戦略への根本的な示唆にもかかわらず、いくつかの理由で敵味方関係なくほとんど見すごされてきたことを指摘したい。第一に、この論文を書いたとき、ロスバードは経済思想に関する二巻の記念すべき論説(『経済思想史におけるオーストリア学派の視点』)の執筆に懸命になっていた。当然ながら、1991年から1994年にかけての急激な変化の時期に、特定の出来事、思想、政治的展開に対する一回限りの反応として、これらの論文をすばやく書き上げたのである。そのため、ロスバードの戦略に関する新しい見解は、どうしても繰り返しや重なりを含む、異なる論文の中の断片として提示された。このため、これらの論文を総合すると、急進的な社会的・政治的変革のための体系的かつ包括的な戦略が示されているという事実が不明瞭になった。第二に、これらの記事は、社会・政治・文化の解説誌である「ロスバード・ロックウェル・レポート(RRR)」に掲載されたものである。残念なことに、RRRは非常に広範なトピックを扱っているため、多くの論文を支える深い理論的考察から読者が遠ざかってしまうことがあった。正直なところ、私は最近までロスバードの記事の意義、その統一性と視野の広さを理解していなかった。

社会民主主義――敵の正体


共産主義が崩壊し、ナチズムとファシズムが「とうに死んで葬られた」後、社会民主主義が唯一残された国家主義体制であり、その支持者はイデオロギーの独占を最大限に利用しようと躍起になっているとロスバードは主張した。「ポスト共産主義の新世界」において、ロスバードはこう書いている。

自由と伝統の敵は、今や社会民主主義であることが完全に明らかになった。社会民主主義は、そのあらゆる形態で、いまだに存在しているだけでなく、スターリン(ソ連の独裁者)とその後継者が去った今、社会民主主義者は、全権力を手に入れようとしているのである。

社会民主主義は、その多くの形態でいまだに存在しているだけでなく、「左派の被害者学やフェミニズムから、右派の新保守主義(ネオコン)まで、政治思想の分布図全体を網羅する」。ロスバードは「すべての重要問題に関し、社会民主主義者がどのように自称しようと、自由や伝統に反対し、国家主義や大きな政府を支持する立場」だと警告している。さらに、社会民主主義は「社会主義を『民主主義』と『探求の自由』という魅力的な美徳と結びつけると主張しているので、他の形式の国家主義よりもはるかに陰湿である」。社会民主主義者、米国の政治用語では左翼リベラルは、一世紀半にわたり政治状況を鋭く観察し、たしかに真剣に民主主義に関与している。ロスバードの次の説明のとおりである。

民主的な選択肢を維持することは、たとえそれが幻想であっても、あらゆる種類の社会民主主義者にとって不可欠である。一党独裁体制は、心から嫌われ、おそらく最後には、その権力構造全体とともに打倒されることを、社会民主主義者は長い間、認識してきた。

ロスバードは、現代の政治理論家ポール・ゴットフリートの洞察に基づき、社会民主主義者が民主主義に傾倒するのは、言論の自由と報道の自由の権利の「絶対的」不可侵を主張する人々に対する攻撃の口実にもなると指摘する。言論の自由に対する攻撃について、ロスバードは1991年に先見の明をもって指摘している。

(ネオコンと社会民主主義者は)「非民主的」だとする言論や表現を制限・禁止するために、いずれ国家権力を行使する。この「非民主的」とされる区分は無限に拡大しうるし、そうなるだろう。実際の、あるいはその疑いのある共産主義者、左翼、ファシスト、ネオナチ、分離主義者、ヘイト思想犯、そしていずれは昔ながらの保守主義者、昔ながらのリバタリアン、左派リバタリアンも対象になるだろう。

進歩主義――社会民主主義の社会思想


ロスバードは、社会民主主義や共産主義のすべての系統と変種の根底にある独特の社会哲学を明らかにするために、さらに深く探った。この哲学は、今ここにある社会・経済政策以上のものであり、将来の地上天国の建設を目指すユートピア的な社会哲学である。進歩主義者の核となる信念は、歴史とは人類の完成に向けた、避けようのない、つねに上昇する行進だという啓蒙神話に基づくものである。社会民主主義者の場合、完璧の定義とは、正しく、効率的で、平等主義的な社会主義国家によって支配され、設計された社会である。さらに社会民主主義的な進歩主義者は、伝統的なマルクス主義者とは異なり、歴史は階級闘争や流血の革命を通じてではなく、民主主義の容赦ない前進によって展開されると信じている。ロスバードの言葉を借りれば、

左翼はその骨の髄まで 「進歩主義者」である。つまり、ホイッグ史観(勝利者による正統史観)あるいはマルクス史観的に、歴史とは光の中へ、社会主義のユートピアへと向かって避けがたく上昇する、行進から成ると信じている。歴史は自分たちの味方であるという、進歩の必然の神話を信じている。

この避けがたく進歩する社会変革の究極目標は、伝統的なマルクス主義のような、あらゆる階級区別の根絶とプロレタリアート独裁のもとでの生産手段の集団所有ではない。むしろそれは、ロスバードの言葉を借りれば、「官僚、知識人、技術者、療法士、『新階級』全体が、平等を求める認定被害者圧力団体と協力して運営する、社会主義・平等主義の国家」である。資本家階級と企業家階級は消滅しないし、その生産手段も収奪されることはないだろう。その代わり、市場経済は維持されるが重税を課され、規制され、制限される。ロスバードによれば、

社会民主主義者は、社会主義国家にとって、資本家を残し、縮小された市場経済を規制・制限・管理し、国家の命令に従わせるほうがはるかに良いと理解している。社会民主主義の目標は「階級闘争」ではなく、資本家と市場が社会と寄生的国家機構の利益のために働く、一種の「階級調和」である。

政治思想の枠組み見直し


ネオコンが保守主義運動を乗っ取り、「民主党中道派」ビル・クリントン(元米大統領)が強硬な左翼路線を示したことから、ロスバードは、進歩派に対抗するには、米国の政治思想の枠組みとその語彙の一般概念を完全に修正することが急務だと気づいた。社会変革の進歩的・マルクス主義的構想に触発されたすべての政治党派を、再構築した政治思想分布図の左側に並べた。これらの党派はまた、進歩的な政治的・経済的目標を実現する最も確実な手段としてだけでなく、ロスバードの言葉を借りれば、「十戒や山上の垂訓を含む他のすべての道徳原則に事実上取って代わる、究極の絶対倫理としての禁忌」として、民主主義を狂信していた。ロスバードの考えでは、左派とは政府系の保守派、ネオコンから左派リベラルに及び、それらと結びついた知識人・メディアのエリート、公式被害者団体も含んでいる。

2022-11-09

政治と癒着する軍上層部、国民を危機の淵に

ジャーナリスト、カート・ニモ
(2022年11月3日)

ダグラス・マクレガー退役大佐のこの論説が怖くないとしたら、一体何が怖いだろう。マクレガー氏は、フランスの週刊誌「ルクスプレス」によるデビッド・ペトレイアス元大将のインタビュー記事を引用している。このインタビューで、元中央情報局(CIA)長官でもあるペトレイアス氏は、ウクライナのゼレンスキー大統領とその政府の敗北を防ぐために、米国政府が現場でロシアと直接対峙する時が来たと述べているのである。

マクレガー氏はこう書いている。

たしかに、この件は怪しげではあるが、ペトレイアス氏の提案は却下されるべきではない。同氏の軍事に関する専門知識が検討に値するからではない。むしろペトレイアス氏は、米政府や金融業界の有力者に言われない限り、このような提案をすることはないだろうから、注目に値するのである。ジェフリー・サックス氏(経済学者、コロンビア大学教授)が米国人に語ったように、グローバリストとネオコン(新保守主義者)のエリートは、明らかにロシアとの直接的な武力衝突を望んでいる。

マクレガー氏によれば、ペトレイアス氏は「何事もやる前に自分より上の立場の人間に確認することで出世してきた」のだという。上司を怒らせないように、歯向かわないようにして、出世の道を切り開いたという。

イラクで、ペトレイアス司令官率いる「有志連合」が、経済制裁で破壊されたイラクを難なく制圧したことを思い起こそう。ペトレイアス氏はこのような考え方に囚われているのだ。「ウクライナはイラクではないし、ロシア軍はイラクのような軍隊でもない」と、マクレガー氏は警告している。

冬が始まると、故障や離反の多いウクライナ軍にロシア軍を撃退する能力がないことは、痛いほど明らかになってくる。「過去60日から90日にかけてのウクライナの一連の反撃は、ウクライナの何万人もの命と、ウクライナ政府では補充できない軍の人的資源を犠牲にした」と、マクレガー氏は書いている。

マクレガー氏によれば、ウクライナは今、正念場である。「11月か12月、あるいは地面が凍る頃に、ロシアのハンマーがゼレンスキー政権に振り下ろされ、ウクライナ軍の残党はすべて粉砕されるだろう」

今は11月で、秋の雨でぬかるんでいることで有名なウクライナの野原は、まもなく凍りつく。ロシアは、ゼレンスキー政権と、現在ウクライナの正規軍に組み込まれている超国家主義のネオナチ連隊に終止符を打つために動き出すだろう。

ペトレイアス氏は、このタイミングが非常に重要だと考えている。大量虐殺を行ったステパン・バンデラ(第二次世界大戦中に本物のナチスに協力し、何十万人ものユダヤ人、ポーランド人、ジプシー、その他の「下等人種」を虐殺した)に敬意を表する「愛国者」たちで構成されたゼレンスキー政権とその大統領を救うには、今しかない。

ホワイトハウス、国防総省、CIA、米議会のいつもながらの戦争タカ派は、宣戦布告なしにウクライナに米軍を派遣すれば、ロシアに対し体面を保てるという主張を、おとなしい米国の有権者が信じてくれると考えているのだろう。

マクレガー氏は、「そんな考えは危険で愚かであり、米国人はこの考えを拒否すべきだが、このような誤った考えが政府中枢に蔓延していると考えるのは無理からぬことだ」と考えている。

米国民は今、多くの問題、とくにインフレと経済悪化で頭がいっぱいだ。ウクライナ人に同情はしても(ウクライナの歴史やネオナチがウクライナのロシア系住民にもたらす脅威をほとんど知らない)、直接軍事介入は政府に取り組んでほしいことのリストの上位にないことはたしかである。

ワシントンの権力中枢では、「参戦」の前提にはつねに一定の条件がある。戦争権限法を発動する責任を無視する従属的な議会、軍事行動を支える無制限の財源、軍事担当の政治家が主張するどんな馬鹿げた考えにも従う準備ができている軍の上級指導者たちである。ペトレイアス氏やその仲間には、将来の任命や金銭上の利益という形で、何らかの具体的な報酬が約束されている可能性も高い。

一言でいえば、地球上で最も多くの核兵器を保有する国(ロシア)との直接対決の可能性は、国家安全保障の舵取りをする指導者たちのことを考えれば、明らかに高まっているのである。「米国の軍事指導者たちの知的・職業的資質は嘆かわしいほどだ」とマクレガー氏は結論づける。

実際その事実は、かつて強力だった米軍が最初に負けた大規模戦争であるベトナム戦争以来、明白である。ペトレイアス氏のような身勝手な出世主義者が多く、かつての面影はない。

今、地獄の淵に立っていると警告しても大げさではない。水準が下がり政治色を強めた軍の指導者、ネオコン、少なからぬ数の議員が、ゼレンスキー政権をどう救うかについて考えを巡らせているのだから。同政権は、米政府と国務省のビクトリア・ヌーランド(国務次官)ら狡猾なネオコンによって画策された違法なクーデター(2014年のマイダン革命と呼ばれる政変)の後継者である。

バイデン政権には、「人道的介入主義者」とネオコンが多い。ダグラス・マクレガー元大佐の経験を考慮し、その見方が正しいとすれば、私たちは今、取り返しのつかない奈落の底に突き落とされようとしているのである。ミサイルが発射されたら、もう後戻りはできない。地球上の生命が絶滅する可能性は、日に日に高まっている。

(次を全訳)
Former CIA Boss Petraeus Demands US Forces Enter the Fight in Ukraine [LINK]

ばかげた反露被害妄想

自由の未来財団(FFF)創設者・代表、ジェイコブ・ホーンバーガー
(2022年11月8日)

中間選挙を控え、米当局の反露パラノイア(偏執的な被害妄想)はピークに達している。連邦政府は、ロシア人が米国の有権者に不適切な影響を及ぼし、国防総省(ペンタゴン)や中央情報局(CIA)の極端な反露感情を拒む候補者を支持させていないかどうかを見極めるために、インターネットを調べ上げている。米国の有権者は、そのほとんどが公立学校の卒業生であることから、親共産主義者や親ロシアのカモにされやすい、きわめて軟弱な精神を持っているというのだ。

たとえば昨年7月、司法省はアレクサンドル・ヴィクトロヴィッチ・イオノフ氏というロシア人を起訴した。イオノフ氏はモスクワを拠点に「ロシアの反グローバリズム運動」という組織を率いており、ロシア政府から資金援助を受けているとされる。

容疑は何か。マシュー・オルセン司法次官補は 「イオノフ氏は大規模な宣伝活動を指揮し、米国の政治団体と米国民をロシア政府の道具にしたとされる」と述べている。

この意味がわかるだろうか。公立学校で教育を受けた米国人の心はとても軟弱でプロパガンダに弱いので、連邦政府のパパによって、米国人を闇の世界に引き込もうとする邪悪なロシア人から守ってもらわなければならないのだ。

司法省刑事局のケネス・ポライト司法次官補は、オルセンが述べたことを補強した。「米国の選挙や政治団体に影響を与えようとする外国政府の秘密工作は、誤った情報を広め、不信感を醸成することで我々の民主主義を脅かす」。フロリダ州中部地区のロジャー・ハンドバーグ連邦検事は、この件に関し次のように述べた。「この犯罪行為を起訴することは、外国政府が米国の政治過程に介入しようとするときに、米国民を守るために不可欠である」

本来は知的であるはずの人たちが、このような意味不明な発言をするのを読むと、二つのことを考えずにはいられなくなる。

第一に、米国の役人が他国の政治過程に大規模に介入することをどうやって正当化するのかということだ。まずはイラン、グアテマラ、チリの民主主義体制を故意に、意図的に破壊したことを忘れてはならない。米国が支援する政権交代を狙った暗殺、クーデター、制裁、禁輸の計画は言うに及ばずである。

第二に、連邦政府を長い間動かしてきた極端な反露感情について議論するとき、ケネディ大統領(JFK)のことを考えずにはいられない。ケネディは、ペンタゴンやCIAとは正反対の方向に米国を動かそうと決意していた。ペンタゴンとCIAが米国民に植え付けた、極端な反ロシア(ソ連)感情に終止符を打とうと決意したのである。

もしケネディがテキサス州ダラスでの暗殺事件で助かり、1964年の再選に立候補していたら、どうなっていたかと考えずにはいられない。ケネディを支持し、共和党の対立候補バリー・ゴールドウォーター(国防総省やCIAと同じような考え方の持ち主)に反対するロシア市民を、国防総省とCIAは標的にしていただろうか。

そうしていたことは間違いないだろう。ケネディがソ連の手先となり、米国を破滅に導いているとも非難しただろう。実際、拙著『悪との遭遇——ザプルーダー物語』で詳述したように、それこそ暗殺前に国防総省とCIAがケネディについて語っていたことなのである。自由の未来財団(FFF)が刊行した、『JFKと国家安全保障体制の戦い——なぜケネディは暗殺されたのか』も参照されたい。暗殺記録審査委員会の委員を務めたダグラス・ホーン氏の著書だ。

何十年にもわたって米国を支配してきた国防総省とCIAの極端な反露感情は、米国民の自由と幸福に対する重大な脅威である。その理由の一つは、反露感情が(1962年のキューバ危機に続いて)再び、命を奪う核戦争の淵に私たちを追いやっていることだ。この馬鹿げた妄想を早く終わらせれば、米国民はもっと幸福になれるだろう。

(次を全訳)
The Anti-Russia Paranoia – The Future of Freedom Foundation [LINK]

2022-11-08

マスク氏対国家主義者

元ニューヨーク大学教授、マイケル・レクテンワルド
(2022年10月31日)

イーロン・マスク氏がツイッターを買収し、ただちに上層部を解雇した事実が示すのは、「社会正義に目覚めた」ハイテク大手カルテルが弱体化する可能性だ。このカルテルは情報を管理し、コンテンツを検閲し、ユーザーを非難・追放し、左翼全体国家主義者のプロパガンダ機関として機能している。左翼国家主義への協力と推進を考えると、ツイッター、フェイスブック、グーグルなどが、私が「統治性」と呼ぶ国家機関として機能してきたことは十二分に明らかである。マスク氏の買収は、「目覚めた」カルテルだけでなく、カルテルが熱心に仕えるグローバリスト国家主義者らにも打撃を与える可能性があることを意味する。

マスク氏のツイッター社での作戦が、「目覚めた」カルテルにとって重要なテストケースになると論じてきた。「世界一の富豪」を国家の代理人に対抗させるものだからだ。マスク氏の買収は、このカルテルとその支持する国家主義者が、マスク氏が自身の財産を使った行動を統制することによって、財産権をどれだけ侵害することができるかを実証することになるだろう。

すでに欧州連合(EU)は、ツイッターのコンテンツを管理するようマスク氏を脅している。マスク氏が「鳥(ツイッター)は解放された」とツイートした後、EUの産業責任者ティエリー・ブルトン氏は「欧州では、鳥はわれわれEUのルールに従い飛ぶだろう」とツイートした。ブルトン氏は、欧州全域で「違法・有害コンテンツ」の禁止を目指すEUの「デジタルサービス法」に間接的に言及したのである。

しかしデジタルサービス法は、ソーシャルメディアや検索エンジンによるコンテンツ管理を共通化し、米国では(まだ)法的に認められていない「偽情報」や「ヘイトスピーチ」に対するEUの厳格で反言論の法律が適用される恐れがある。EU圏のユーザーに対してはEUで施行されたコンテンツ規制の遵守を強いられることになるため、ツイッター社がEU発の投稿とそれ以外からの投稿を区別できるアルゴリズムを構築しない限り、デジタルサービス法の規則をすべてのコンテンツに単純適用するおそれがある。

マスク氏がツイッター買収に動いた直後、米国やEUを含む数十の国や国際統治機関が、「偽情報や誤報に対する耐性を強化し、民主的プロセスへの参加を増やす」ことなどを目的とした「インターネットの未来に関する宣言」の批准を発表した。マスク氏がツイッター買収を発表した二日後、バイデン政権は「偽情報統制委員会」の設立を発表したが、その後、少なくとも現時点では廃止された。

「目覚めた」カルテルとその支持する左翼全体主義的国家主義が、主要ソーシャルメディアの所有権に対するマスク氏の侵攻をただ黙って受け入れるとは思えない。この戦いは、「権力者一派」にとって情報統制がいかに重要であるかを示すことになるだろう。

マスク氏は決して自由市場リバタリアン(自由主義者)の模範ではないが、ツイッターの買収と再編は、目覚めたカルテルとそのが支持する国家に対する自由の闘いにおいて、重要な出来事であることに変わりはない。ツイッターで起こることは、マスク氏の誠意と決意を試すだけでなく、国家の命令と物語を強制する「目覚めた」カルテル体制の力をも試すことになるだろう。

私は最近、ツイッターによる反体制的意見の排斥の犠牲者となった。トランスジェンダー運動は新マルサス主義による人口減少政策の一環である(同時に家族を解体する手段でもある)と主張したために、追放されたのだと思う。マスク氏が指揮を執る今、アカウント回復(と認証)を願っている。しかし、期待はしていない。

(次を全訳)
Changing of the Guard: Can Musk Deliver on His Promises for Free Speech and Information? | Mises Wire [LINK]

米次期議会に3つの提案

元米連邦下院議員、ロン・ポール
(2022年11月7日)

明日は米中間選挙の投票日だ。世論調査では、米国民は民主党による上下両院の支配を覆すと言われている。政治家やメディアはいつも、今回は史上最も重要な選挙だと言う。しかし投票が終わり、煙が晴れると、たいして変化がないことがあまりにも多い。ワシントンの一党独裁が引き継ぎ、現状維持を確認するだけだ。

こんなことではいけない。たとえば、次期共和党の上下両院は、自分たちの票がワシントンの似た者同士の争いで無駄になったわけではないと支持者を安心させるために、早い段階で手を打つことができるだろう。ここでは、良いスタートを切るための三つの提案を紹介する。

まず共和党の上層部は、前議会で決められたウクライナへの巨額の資金注入を止めると宣言しなければならない。米国・北大西洋条約機構(NATO)とロシアの代理戦争を戦うために、ウクライナに600億ドルもの資金が投入されたとの見方もある。

これは共和党の支持層に強く支持される動きだろう。ウォールストリート・ジャーナル紙の最近の世論調査では、共和党員の37%しかウクライナへの援助増額を支持していない。共和党の扇動的な下院議員であるマージョリー・テイラー・グリーン氏は最近、共和党のもとではウクライナに一ペニーたりとも渡さないと述べた。党上層部がこのような動きを支持するかどうかは疑わしいが、共和党の有権者が支持するのは明らかだ。

さらに、この代理戦争を終わらせることで、世界的な核戦争の危険な可能性を減らすという利点もある。これは悪くない取引だ。

第二に、共和党は国土安全保障省の予算削減を表明することができる。この怪物が作られたとき、私は議場でこう言った。

「新しい国土安全保障省に与えられた危険で憲法違反の権限は、数え切れないほどある。令状なしの捜査、地域社会全体へのワクチン接種の強制、連邦政府の近隣密告計画、連邦情報データベース、軍事情報を使って国内市民をスパイする国防総省の不吉な『情報啓発室』の新設などは、この新しい法律の厄介な点のほんの一部にすぎない」

残念ながら、これらのことはすべて実現した……そしてそれ以上である。最近わかったことだが、国土安全保障省はソーシャルメディア企業と共謀し、政府が他人に聞かれたくない意見を米国人が言ったり投稿したりできないようにしようとしている。

国土安全保障省は私たちを安全にすると約束したが、憲法の破壊ほど私たちを危険にさらすものはない。

最後に、次期共和党の上下両院ができる三つ目の仕事は、おそらく最も簡単なものである。「連邦準備理事会(FRB)監査法案」を可決することだ。十年前、米下院は私が提案したFRB監査法案を超党派で可決したが、上院では足踏み状態に陥った。共和党が議会の両院を支配する今、幅広い支持を集め、FRBの帳簿を公開する法案が、バイデン大統領に承認されない理由はないだろう。誰もが透明性を支持しているはずだから。

インフレは制御不能で、米国の中産階級に実害を及ぼしている。バイデン政権は米国民をロシアとの命がけの戦争に導こうと決意しているようだ。国土安全保障省は米国民と憲法に対して動員される武器と化している。

共和党が支配する下院と上院は、これらの問題を解決するために実際に何かをすることができるし、その結果、米国民を安全で自由にすることができる。お手並み拝見といこう。

(次を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Hey Incoming Congress: Try These Three Simple Tricks for a Successful Start [LINK]

2022-11-07

終わりなき戦争

コラムニスト、フィリップ・ジラルディ
(2022年11月1日)

プロイセンのカール・フォン・クラウゼヴィッツ少将は、ナポレオン戦争での自らの体験をもとに、政治現象としての戦争を考察したことで有名である。1832 年の著書『戦争論』では、戦争と平和についてよく引用される簡潔な要約を示し、政治・ 軍事戦略という観点から、「戦争は他の手段による政治の継続にすぎない」と書いている。言い換えれば、戦争は、他のすべてが失敗したときに国家の政治目標を達成するために政治家に提供される道具である。

クラウゼヴィッツの戦争に関する考え方の極度の非道徳性を否定する一方で、歴史上、一部の国家が戦争を利用し、領土の拡大と外国資源の収奪を図ってきたことを認めることができる。古くはローマ共和国で、選挙で選ばれた指導者が執政軍の長を兼ねており、執政軍は毎年春になると帝国を拡大するために出兵することになっていた。最近では、英国が数世紀にわたってほぼ絶えまなく植民地戦争を行い、史上最大の帝国を築き上げたことが知られている。

米国を支配するネオコン(新保守主義者)の特徴は、自らが帝国の責任とそれに密接に結びついた戦争権力を受け継いだと考えていることだ。しかし米国を戦争によって作られ、力を得た国家に変貌させるうえで、別の側面を避けてきた。第一に、他国と交戦した後に何が起こるかは予測不可能である。米国の戦争は、朝鮮半島に始まり、ベトナム、アフガニスタン、イラク、そしてラテンアメリカ、アフリカ、アジアでの小規模な作戦に至るまで、死や破壊や負債に見合う好ましいものがほとんどなく、被害を受けた人々に悲しみだけをもたらしてきた。また、武力行使を急ぐあまり、米国民に目に見える利益をもたらすという連邦政府の存在意義が忘れられている。9・11テロ以降、いやそれ以前から、そのような利益はまったくなかった。ウクライナをめぐるロシアとの代理戦争となったものに対する米国の強硬姿勢は、さらなる痛み(おそらく悲惨なほどの)をもたらし、本物の利益は何もないだろう。

もし戦争をすることがワシントンの民主・共和両党の主たる役目になっていることを疑うのなら、この数週間に掲載されたいくつかの記事を検討すればよいだろう。第一は、共和党側からのもので、おそらく明るい展開が含まれている。共和党のケビン・マッカーシー下院院内総務は二週間前、来月の下院選挙で共和党が過半数を獲得すれば、ウクライナに「白紙の小切手」を書き続けるとは限らないと警告した。ウクライナの腐敗した政権に向けた際限のない財政支援に対し、共和党が懐疑的になっていることの表れだろう。マッカーシー議員は「国民は不況にあえぎ、ウクライナに白紙の小切手を書くことはないだろうと思う。そんなことはしない。...白紙の小切手はタダではない」

ウクライナに対する米国の無批判な支援は、戦闘が始まって以来、ホワイトハウスや メディアによって仕組まれたものであり、共和党員、とくにドナルド・トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」に賛同する一部の人々は、国内で記録的なインフレが起こっているときに、海外で多額の連邦支出を行う必要があるのかと異議を唱えるようになってきた。2月にロシアが侵攻を開始して以来、米議会はウクライナに対する数百億ドルの緊急安全保障・人道支援を承認し、バイデン政権はさらに数十億ドル相当の武器や軍備を軍の在庫から出荷している。その資金と武器の行き先は、ほとんど、あるいはまったく監視されていない。

しかし残念ながら、共和党はウクライナとロシアに対する取り組みで統一されているとは言いがたい。リズ・チェイニー下院議員(タカ派で知られたディック・チェイニー元副大統領の娘)は、「蛙の子は蛙」のことわざどおり、トランプ氏を吊るし上げる作業の合間を縫って、彼女のいう「共和党のプーチン派」を非難した。チェイニー議員はこう言った。「共和党はレーガン(元大統領)の党であり、冷戦に勝利した党だ。そして今、私が思うに、共和党のプーチン派は本当に大きくなっている」

チェイニー議員は、この問題に関してフォックス・ニュースが「プロパガンダを行っている」と批判し、とくにフォックスの司会者タッカー・カールソン氏を「あのネットワークで最大のプーチンのプロパガンダを行っている」と呼んだ。「この戦いでフォックスは誰の味方なのか、よく考えないといけない。ウクライナに残忍な侵略を行うプーチン(露大統領)の味方に米国がなると考える共和党の一派がいるというのは、どういうことなのか」

チェイニー議員は、そもそも米英がロシアとの外交よりも軍事力による威嚇を好んだために戦争に発展したという問題には、とくに触れなかった。なぜ米国は、米国民にとって真の国益とはいえない外交政策の問題で、核戦争の恐れの瀬戸際でビクビクせざるをえないと感じているのだろうか。チェイニー議員がどこで発言したかといえば、アリゾナ州のマケイン研究所だ。そう、それは(タカ派で知られた)故ジョン・マケイン元上院議員の遺産であり、マケイン氏は戦争であれば何でも熱心に支持した、もう一人の共和党員である。

ジョー・バイデン大統領もナンシー・ペロシ下院議長も、それがどんな意味であれ、「勝利」が得られるまで米国はウクライナから離れないと認めている。一方、他の政権幹部は、この戦闘の実際の目的はロシアの弱体化とプーチン大統領の排除だとほのめかしている。ホワイトハウスのカリーヌ・ジャンピエール報道官は、マッカーシー議員の発言について聞かれると、党の方針をあっさりと口にした。同報道官は「ロシアの戦争犯罪と残虐行為に対するウクライナの自衛を支援する」ために超党派で活動している議会指導者に感謝し、こう付け加えた。「政府は議会と協力し、これら取り組みに関する議論を注視し続け、必要な限りウクライナを支援するつもりだ。毎日戦っている勇敢なウクライナ人に、彼らの自由と民主主義のために戦うという約束を守るつもりだ」

チェイニー議員のコメントよりももっと奇妙なのは、民主党の進歩派30人が作成した、ウクライナでの戦闘を終わらせる交渉に米国の支援を促す手紙の話だろう。この書簡は6月に作成されたが、先週まで公表されず、翌日には圧力ですぐに撤回された。議会進歩派議員連盟を率いるプラミラ・ジャヤパル氏は、マッカーシー議員がウクライナへの予算削減を警告した際の「発言と混同された」ために撤回された、と述べた。ジャヤパル氏はこの書簡を「注意散漫」と呼んだが、同氏が本当に言いたかったのは、無意味に拡大しているのが明らかな紛争における戦争と平和を含め、いかなる問題でも共和党と大義をともにする気はない、ということだ。

無知なジャヤパル氏はまた、自分のグループが出したメッセージをわざわざ否定し、政権のウクライナ政策に対し民主党議員から反対はなかったと強調した。民主党は「ウクライナの人々への軍事、戦略、経済支援のすべての施策を強力かつ全会一致で支持し、賛成票を投じてきた」という。ホワイトハウスのメッセージを倍加し、ウクライナの戦争は、「ウクライナの勝利」の後にのみ、外交によって終了すると断言した。

ようするに、ワシントンでウクライナについて良識を語る者は、政党内の勢力と、現場で起きている事実をすべて誤って伝える従順な国内メディアとの協力によって、締め出されるのである。バイデン大統領が最近、世界は核の「ハルマゲドン(終末戦争)」の最も高いリスクに直面していると警告したにもかかわらず、米政権は紛争を終わらせるためにロシアとの外交を模索する気配がなく、もちろんそれをプーチンのせいにしている。これは悲劇をもたらす。これらのことを考えると、私見によれば、自国民を守ると同時に、全世界を巻き込む恐れのある核の大惨事を避ける合理的な措置を取ることができない、あるいは取る気がない政府は、根本からして悪であり、すべての正統性を失っている。退陣する前に、その事実を認識すべきである。

(次を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : War Without End [LINK]

ワクチン義務化とグレート・リセット

経済学者、フィリップ・バガス
(2021年8月25日)

ワクチン未接種者への圧力が強まる。ある国のワクチン接種者は、コロナ対策によって奪われた自由を取り戻しつつあるが、ワクチン未接種者はそれほど恵まれていない。差別の対象になっている。公共の場への出入りや移動がより難しくなっている。国によっては、いくつかの職業にワクチン接種が義務付けられているところもある。

しかし、なぜ政府にとってワクチン接種キャンペーンがそれほど重要で、これほどまでに圧力を強めているのだろうか。誰が世界的なワクチン接種キャンペーンに関心を寄せているのだろうか。

これらの問いに答えるには、流布するワクチン接種の物語を分析し、そこから利益を得ているのは誰なのかを問うことが必要である。その際、政府、メディア、製薬業界、超国家機関の間の利害の一致に注目する必要がある。

まず、製薬業界から見てみよう。製薬会社はワクチン接種キャンペーンで明らかに経済的な利益を得ている。ワクチン接種が普及すれば、莫大な利益が得られるからだ。

政府はどうだろうか。新型コロナの危機では、政治家が恐怖とヒステリーを組織的に増幅させた。政府は内外の危険から国民を守るという主張の上にその存在意義を築いているのだから、これは偶然ではなく、当然である。政府は恐怖の上に成り立っている。政府の助けがなければ、国民は飢餓、貧困、事故、戦争、テロ、病気、自然災害、パンデミックに対して無防備になってしまうというのがそのストーリーである。したがって政府は、起こりうる危険に対する恐怖を植え付け、それを解決するように見せかけて、その過程で権力を拡大することが利益になる。比較的最近の例では、9月11日の同時多発テロと第二次イラク戦争の後、テロの脅威に対応するため、米国では市民の自由が制限された。同様に、国民の基本的権利を犠牲にして平時にはありえないほど国家権力を拡大するために、恐怖を意図的に植え付け、新型コロナを特異な殺人ウイルスとして描くことは、政府の利益につながるものであった。

コロナ危機が始まったとき、このウイルスの潜在的危険性についてあまり知られていなかったので、政治家は非対称的な対価に直面することになった。政治家が危険を過小評価し、対応しなかった場合、その責任を問われる。選挙も権力も失う。とくに、死者を出したことを非難されればなおさらである。集団埋葬の写真はともかく、危険を過小評価して行動しなかった場合の結果は、政治生命にかかわる。対照的に、危険を過大評価し、断固とした行動を取ることは、政治的にはるかに魅力的である。

本当に前例のない脅威であれば、政治家はロックダウン(都市封鎖)などの厳しい措置で称賛される。そして政治家はつねに、自分たちの断固とした行動がなければ、本当に災害が起きていたと主張することができる。結局、危険はそれほど大きくなかったので、対策は大げさだったと判明した場合、その対策によって起こりうる負の結果は、大量埋葬の写真ほど政治家に直接かかわるものではなく、間接的かつ長期的なものだからである。ロックダウンの間接的かつ長期的な健康コストには、自殺、うつ病、アルコール中毒、ストレス関連疾患、手術や検診のキャンセルによる早期死亡、総じて低い生活水準が含まれる。しかしこれらの代償は厳しいコロナ対策に直接関連するものではなく、政策のせいだとされる。これらの影響の多くは次の選挙以降、あるいはそれ以降に発生し、目に見えない。たとえば、生活水準が高ければ平均寿命がどの程度伸びたかを観察することはできない。また、6年後にロックダウンをきっかけに発症したアルコール依存症やうつ病で誰かが死んだとしても、ほとんどの人はロックダウンの政治家の責任を追及しないだろうし、追及したとしてもその政治家はすでに退陣している可能性がある。したがって、脅威を過大評価し、過剰に反応することが政治家の利益になるのである。

政治家にとって魅力的なロックダウンのような過酷な手段を正当化し、擁護するためには、恐怖心をあおることが必要である。コロナ危機で政治家が恐怖とヒステリーをあおり、ロックダウンのような厳しい規制を実施した際、経済と社会構造へのダメージは計りしれないものであった。しかし社会は、コストが上昇し続ける以上、永遠にロックダウンしているわけにはいかない。どこかの時点でロックダウンから抜け出し、正常な状態に戻らなければならない。だが殺人ウイルスの脅威に対する恐怖をあおりながら、どうやって正常な状態に戻すことができるのだろうか。

その解決策がワクチン接種である。ワクチン接種キャンペーンによって、政府は自らを深刻な危機の救世主として演出することができる。政府は国民のために予防接種を計画し、国民に「無料」で予防接種を提供する。この「接種救済」がなく、永久に封鎖された状態では、市民権の制限による経済的・社会的な悪影響が大きく、国民の恨みは募り続け、最終的には不安の危機が訪れるだろう。だから遅かれ早かれ、ロックダウンは終わらせなければならない。しかしもし政府当局がそれ以上の説明なしに封鎖や制限を撤回し、結局危険はそれほど大きくなかった、制限は誇張であり間違いだったとほのめかせば、住民の支持と信頼を大きく失うことになる。したがって政府の立場からは、最も厳しい制限の中で、面目を保つ良い「出口シナリオ」が必要であり、ワクチン接種キャンペーンはそれを提供してくれる。

政府が提供するワクチン接種によって、政府は大きな脅威という物語を保持し続け、なおかつロックダウンから抜け出すことができる。同時に、ワクチン接種によって正常性を多少なりとも高めている救世主として、自らを売り込むことができる。そのためには、できるだけ多くの人口がワクチン接種を受けることが必要である。もし人口の一部しかワクチン接種を受けなければ、ワクチン接種キャンペーンをロックダウンからの開放に必要なステップとして売り込むことができないからである。したがって、人口の大部分にワクチンを接種させることは、政府の利益となる。

この戦略がうまくいけば、政府は前例を作り、権力を拡大し、市民をより依存させることになる。市民は、政府が自分たちを死活的な苦境から救ってくれた、将来は政府の助けが必要になる、と考えるようになる。その見返りとして、市民は自分の自由の一部を永久に手放すことをいとわないだろう。政府が毎年行うブースター(追加接種)が必要だという発表は、市民の依存心を永続させるだろう。

マスメディアはワクチン接種のシナリオに同調し、盛んに支持する。政府とマスメディアは密接な関係にある。有力メディアによるフレーミング(枠づけ)と、国民を標的にすることには、長い伝統がある。すでに1928年にエドワード・バーネイズがその古典的著書『プロパガンダ』で大衆の知的操作を提唱している。現代の政府では、マスメディアは、コロナの場合のような政治手段に対する大衆の支持を構築するのに役立っている。

マスメディアが政府を支持するのには、いくつかの理由がある。あるメディアは国家によって直接所有され、他のメディアは厳しく規制され、政府の免許を必要とする。またマスコミ各社は政府の教育機関の卒業生で構成されている。さらに、とくに危機の時代には、政府との良好なつながりが利点となり、情報への特権的なアクセスが可能になる。政府の恐怖物語を喜んで伝えるのは、悪いニュースや危険の誇張が注目を集めるという事実にも由来する。

コロナ危機では、ソーシャルメディアを通じて拡散した一方的な報道が批判的な声を封じ込め、恐怖とパニックを助長し、国民に大きな心理的ストレスを与えた。しかしメディアにとって魅力的なのは悪いニュースだけでなく、政府が国民を大きな危機から救うという物語もまたよく売れる。このように、ワクチン接種の物語はマスメディアの思惑にはまる。

国民国家、メディア、製薬会社に加えて、超国家的組織も世界人口のワクチン接種を実現させることに関心がある。超国家的組織は、世界的なワクチン接種キャンペーンが重要な役割を果たすような方針を活発に追求している。これら組織には世界経済フォーラム(WEF)、国連、欧州連合(EU)、国際通貨基金(IMF)、世界保健機関(WHO)などがあり、相互に密接に結びついている。

これら組織のなかには、グレート・リセット、あるいはグレート・トランスフォーメーションを目標に掲げるものもある。パンデミックや気候保護、ジェンダー、移民、金融システムの分野において、これら組織は世界中のすべての人々の利益のために協調して答えを見つけたいと考え、責任の共有とグローバルな連帯を強調している。予防接種、気候変動、金融や移住の流れの中央管理は、新しい世界秩序の特徴を帯びる。たとえば、WEFの2019年年次総会のテーマは「グローバル化4.0:第四次産業革命時代のグローバルアーキテクチャを作る」である。また超国家的な計画の例として、国連の「移民のためのグローバル・コンパクト 」がある。国家レベルでは、ドイツ地球変動諮問委員会の政策文書「移行期の世界:大きな変革のための社会契約」が示すように、過激な考え方が支持されている。

レイモンド・ウンガー氏は、この超国家的計画の推進を、アントニオ・グラムシとハーバート・マルクーゼが構想した文化戦争の一環であると見ている。とくに気候変動やコロナの分野では、新しい社会主義的な世界秩序を確立するために、意見と怒りのグローバルな管理が、恐れと恐怖の場面と組み合わされる。実際、WHO、IMF、国連は元共産主義者によって率いられている。WEFは製薬業界や大手ハイテク企業を含むグローバル企業から資金提供を受けている。WEFはその一部で、国連の2030アジェンダに多大な資金を提供している。WHOもまた製薬会社やビル&メリンダ・ゲイツ財団から多額の資金提供を受けており、世界的なワクチン接種キャンペーンを先導している。コロナ危機の際にも、製薬業界はWHOに影響力を行使している。IMFはWHOの勧告に従った場合のみ、各国を支援する。

相互に結びついたこれら超国家機関は、コロナ危機を自分たちの方針推進のチャンスととらえている。国連の政策文書「責任の共有、グローバルな連帯---新型コロナの社会経済的影響への対応」は、新型コロナを現代社会の転換点としてとらえている。その意図は、この機会をとらえ、世界的に協調して行動することである。大手ハイテク企業はこうした方針を支持している。ハイテク大手はWEFのメンバーでもあり、マスメディアと同じように、そのプラットフォーム(ツイッター、ユーチューブ、フェイスブック)でコロナに関する好ましくない情報を検閲している。とくにユーチューブでは、ワクチン接種に批判的な動画はすぐに削除される。

IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事の基調講演のタイトル「グレート・ロックダウンからグレート・トランスフォーメーションへ」も、超国家組織がコロナ危機を自分たちの目的に利用したいのだという考えを強調している。WEFの創設者であるクラウス・シュワブ氏は、コロナ危機は「経済と社会の制度に新たな基礎を築く貴重な機会」であると主張している。シュワブ氏はティエリ・マルレ氏との共著『グレート・リセット』で、決定的瞬間について語り、新しい世界が現れると主張している。シュワブ氏によれば、今こそ資本主義の根本的な改革を行うべきときである。

したがって、世界的に連携したワクチン接種政策は、グレート・リセットの超国家的戦略の構成要素であると解釈することができる。その後の世界的な予防接種キャンペーンに利用できる、世界的な予防接種の仕組みが確立されつつある。グレート・リセット提唱者の視点から見ると、世界的に連携したコロナワクチン接種は、その後「気候変動」と効果的に闘い、グレートリセットを推進するような他のグローバルな目的のために使用できる、グローバルな構造と組織の必要性を強調するものである。つまり政府、メディア、製薬業界、超国家機関が密接に絡み合い、ワクチン接種という物語に共通の利害を持っているのだ。このような観点からすれば、ワクチン非接種者への圧力が強まるのは当然のことである。

(次を全訳)
Vaccine Mandates and the "Great Reset" | Mises Wire [LINK]

言論の自由を許さない人たち

ジョージ・ワシントン大学法学教授、ジョナサン・ターリー
(2022年11月4日)

ヒラリー・クリントン氏(元国務長官)ら民主党幹部は海外の仲間に検閲法の制定を呼びかけ、イーロン・マスク氏がツイッターで言論の自由を回復するのを阻止しようとしている。欧州連合(EU)は力強く応じてマスク氏に対し、言論の自由を拡大すれば、途方もない罰金や刑事罰を受ける恐れさえあると警告を発した。ソーシャルメディア企業の代理人による検閲を何年も利用してきた民主党指導者は、古き良き時代の国家検閲を再発見したようだ。

エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党、マサチューセッツ州選出)は、ソーシャルメディアにおける言論の自由の価値を回復するというマスク氏の公約を、民主主義そのものを脅かすものだと断じ、そのような変更を阻止するために「ルールが設けられる」と約束した。ウォーレン議員だけではない。オバマ元大統領は、偽情報に対し「規制が解決策の一部でなければならない」と宣言している。

ヒラリー・クリントン氏は、その空白を埋めるよう欧州に目を向け、「手遅れになる前に世界の民主主義を強化する」ために大規模な検閲法を可決するよう欧州の対応相手に呼びかけている。

ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は最近、国連でこの世界的な検閲の呼びかけを繰り返し、外交官やメディアから喝采を浴びた。

EUの検閲官は、ツイッターのオーナーや顧客の希望に関係なく、ツイッター上で自由な言論を起こさないと米民主党の指導者に請け合っている。

欧米で最も強く言論の自由に反対する人物の一人、ティエリー・ブルトン欧州委員(域内市場担当)は、ツイッターの利用者が無修正の資料を読んだり、無許可の意見を聞いたりすることができるかもしれないと警鐘を鳴らしている。

ブルトン氏は自ら、EUの官僚が誤解を招きやすいか有害だと判断した意見を検閲する際には、ツイッターは「(EUの)ルールに従って飛ばなければならない」と脅した。ブルトン氏はマスク氏に対し、EUの許容範囲を超えるような保護を再び導入しないよう警告するために、公然と動いている。マスク氏はEUの検閲官と会談する予定であり、そうした強制的な検閲ルールに抵抗できないかもしれないと認めている。

クリントン氏のような指導者の希望は、最近EU諸国で可決された言論の自由に対する対策、「デジタルサービス法(DSA)」である。同法には強制的な「偽情報」規則が含まれ、「有害な」思想や意見を検閲できる。

ブルトン氏が公言する意見によれば、言論の自由は米国からやって来る危険であり、インターネットから遮断される必要がある。同氏は以前、EUはデジタルサービス法によって、インターネットがほとんど規制のない自由な言論の場(同氏によれば、インターネットの「未開拓時代」)に戻るのを防ぐことができると宣言している。

この発言は、EUが言論の自由そのものを存亡の危機とみなしていることを物語っている。良い言論が悪い言論に打ち勝つという言論の自由の概念を否定している。それは「未開拓時代」だとみなされている。

私たちの多くは、地下室から憎しみのこもった考えをまき散らす変人よりも、グローバルな検閲をはるかに恐れる。私は「インターネット原文主義者」を自称している。

代替案は「インターネット原文主義」、つまり検閲をしないことだ。ソーシャルメディア企業が本来の役割に戻れば、政治的な偏見やご都合主義という転落への坂道はなくなり、電話会社と同じような地位を占めるようになるだろう。有害な思想や「誤解を招く」思想から人を守る企業は必要ない。悪い言論に対する解決策は言論を増やすことであり、言論を許可することではない。

もしペロシ米下院議長が通信会社のベライゾンやスプリントに対し、人々が虚偽や誤解を招くようなことを言うのを止めるため通話を中断するよう要求したら、国民は怒り狂うだろう。ツイッターは、同意した当事者間で同じコミュニケーション機能を果たす。何千人もの人々がそのようなデジタルのやり取りに参加できるようにするだけだ。人々がソーシャルメディアで意見交換するのは、ツイッター創業者のドーシー氏らインターネット支配者に会話を監視させ、誤った考えや有害な考えから自分を「保護」するためではない。

検閲の水準が高まることの危険は、法律や科学(この場合はその両方)における不合理な主張よりもはるかに大きい。私たちにできることは、インターネット上の自由な言論と表現を最大限に生かし、自由な言論そのものが偽情報の究極の消毒剤になるようにすることである。

(次を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : EU Warns Musk Not to Restore Free Speech Protections After Calls from Clinton and Other Democratic Leaders [LINK]