2018-08-04

株主資本主義を擁護する

経済問題に対する論評でよく、「株主至上主義」や「株主資本主義」が批判されます。「米国流の株主至上主義は労働者や地域社会を切り捨てる」とか、「株主資本主義は短期の利益ばかりを追い求める」とかいった具合です。

記事にあるように、企業の稼ぐ力を測るモノサシの一つである自己資本利益率(ROE)に対し「従業員など他の利害関係者を犠牲にしてでも株主利益を追求する『株主至上主義』に陥りかねない」という批判もあります。

これらの批判の背景にあるのは、企業の意思決定における株主の発言力を弱め、代わりに従業員や取引先、消費者、地域社会など他のステークホルダー(利害関係者)の発言力を強めなければならないという考えです。しかしそうした考えは、むしろすべての利害関係者を不幸にします。

市場経済において、従業員など株主以外の関係者を大切にすることは、株主の利益に反しません。逆に株主の利益にプラスになります。

たとえば従業員を大切にする企業には、多くの労働者が入社を希望し、優秀な人材を雇いやすくなります。これは株主の利益にプラスです。地域社会を大切にする企業には、多くの地域が立地を求め、事業に適した土地に進出しやすくなります。これは株主の利益にプラスです。

企業は収支が悪化すると、一部の従業員をリストラする場合もあります。リストラされた従業員にとっては不幸なことです。しかしリストラしなければ、企業の経営はますます悪化し、最悪の場合、倒産してしまうかもしれません。そうなればすべての従業員が職を失い、不幸になります。株主も損失をこうむります。株主と従業員の利害は一致しています。

また、この例から、株主が短期の利益ばかりを追い求めるという批判が正しくないこともわかるでしょう。リストラは短期の利益のためというより、むしろ長期の利益のために行うのです。株価は長期の利益見通しを反映して動くので、長期の利益を無視した経営は株価を下落させます。

もし法律で企業統治における従業員の発言力を強化したら、どうなるでしょう。リストラは従業員側の反対でなかなか実行できず、できるころにはすでに手遅れとなる恐れが大きくなるはずです。

株主による経営判断はときに冷たく見えるかもしれません。しかしそれは多くの人々を不幸にしないための、いわば必要悪です。憎まれ役である株主を擁護しようではありませんか。(2017/08/04

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