2020-12-25

毎日がクリスマス

筑摩書房の公式ツイッターで、『ムーミン谷のクリスマス』を勧めていたのを見かけて、買ってしまった。「人間関係に戸惑っている人へのクリスマスプレゼント」におすすめらしい。自分で読むんだけどね。


ツイートに、良い文があった。「相手も自分も幸せになる、そんな視点にぜひ触れてみてください」

筑摩の人はもしかすると、「相手も自分も幸せになる」という表現に、プレゼントを贈ることによって相手も自分も幸せになる、という意味も込めているのかもしれない。そうだとすれば、買い手の心理にさりげなく訴える、心憎い文章術と言わねばならぬ。

ところで最近、「贈与」がちょっとした流行語になっている。何事もギブアンドテイクで割り切る冷たい市場経済と違い、贈与(贈り物)は一方的に与えるものだから、人間らしい温かみがある、といった議論でこの言葉をよく見かける。

けれどもこの議論は残念ながら、経済の仕組みをよく知らない人が考えたものだ。

自由な市場経済で、Aさんが千円を払ってBさんから本を買うとき、Aさんはその本に千円の価値があると思っているわけではない。もし本と千円の価値が等しいなら、わざわざ千円を手放して、それと同じ価値しかない本を手に入れる理由はない。

同じくBさんのほうも、もし本に千円の価値があるのなら、わざわざ本を手放して、それと同じ価値しかない千円を手に入れる理由はない。

二人の間で売買が成立するのは、Aさんは「本の価値は千円より大きい」と考え、Bさんは逆に「本の価値は千円より小さい」と考えるからだ。同じ物でもその価値は人によって異なり、だからこそ売買が発生するのだ。

ということは、売買が成立するとき、売り手と買い手はともに、自分が手放した価値よりも大きな価値を手に入れる。その差し引き分は言ってみれば、相手からの贈り物だ。

贈り物というと、多くの人はクリスマスや誕生日にしかあげないものだと思っている。けれども実際には、何でもない普通の日でも、ショッピングで品物を買ったり、仕事でお客さんに商品を売ったりするたびに、私たちは相手に価値という贈り物をしている。毎日がクリスマスのようなものだ。

ムーミン谷の仲間のように「相手も自分も幸せになる」ためには、特別なことをしなくてもいい。コンビニやアマゾンで買い物をするだけだっていい。そう考えれば、人間関係も少しは楽になるかもしれない。

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