2018-09-24

政治の虚構

第5回日経「星新一賞」の作品が9月30日まで募集されています。同賞は日本で初めて創設された「理系文学」の賞で、SF作家、星新一氏にちなみます。

1997年に死去した星氏は、生涯に1000篇を超えるショートショート(超短編)を生み出しました。子供にもわかるやさしい言葉で書かれていますが、ユーモアに包み、理系らしい明晰な論理で政治の虚構を暴く作品が少なくありません。

「マイ国家」はその一つです。預金勧誘の銀行員がある家を飛び込みで訪ねると、家の主人からしびれ薬を飲まされ、お前は捕虜だと言い渡されます。とまどう銀行員に主人は宣言します。「ここは独立国なのだ」

主人は大まじめに語ります。「領土とはこの家、国民とはわたし、政府もわたし。小さいといえども、立派な国家だ」

主人は銀行員に日本の最近の国情を尋ねます。政府は生活保護や健康保険、年金などに金を出していると答えると、主人は「まったく、ばからしくてならない」と言い、社会保障の不効率と偽善をこう暴きます。

「政府とは、ていさいのいい一種の義賊なんだな。しかも、おっそろしく能率の悪い義賊さ。大がかりに国民から金を巻きあげる。その親分がまずごっそりと取り〔略〕末端まで来る時には、すずめの涙ほどになる。それを恩に着せながら、貧民や病人や気の毒な人にめぐんでやるというしかけだ」

そのうち主人は刃物を持ち出します。銀行員がぶっそうな凶器などしまってくださいと懇願すると、こう答えます。「凶器とはなんだ。軍備と言え。自衛権は国家固有のもので、そのためには必要な軍備の所持と行使とがみとめられている」

国民の代理にすぎない政府が武力を独占し、国民自身が丸腰を強いられる矛盾を衝いています。

この「マイ国家」、あながち現実離れした話でもありません。国際的に国家と承認されてはいないものの、欧州の北海に浮かぶ「シーランド公国」は人口4人。1967年、英国の退役軍人が公海上にある英国の海上要塞を占拠し、独立を宣言した「国家」です。

文系の代表格である法学部出身の官僚たちが作り上げた政治の虚構を暴く。そんなスケールの大きい「理系文学」の出現を心待ちにしています。(2017/09/24

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