2018-09-17

文化に国籍はない

近代以前、国と国の境は今ほどきっちりしていませんでした。国が国境の内と外をはっきり分けて管理する発想がなかったからです。ところが今では世界が国境線によって明確に区切られ、人々はおおむね特定の国に籍を置き、「日本人」「中国人」などと国の名前で呼ばれます。

国民に国籍があるのは事実ですから、国籍に基づいて呼ぶのは間違いではありません。しかし、文化はどうでしょう。

もちろん文化には、国民のような法で定められた国籍はありません。だから、さまざまな有形・無形の文化財を機械的に「日本文化」「中国文化」などと切り分けることはできません。

「そうはいっても、その国に典型的な文化というものはあるだろう」と思うかもしれません。本当にそうでしょうか。

シャトル大聖堂といえば、最もフランス的とされる歴史的建造物の一つです。ところが作家のジャン・ジュネは、むしろきわめて非フランス的な産物だと指摘しました。聖堂の建設者たちは今のドイツやベルギーからやって来た外国人で、当時スペインを統治していたイスラム教徒の貢献もおそらくあったからです(早尾貴紀『国ってなんだろう?』、平凡社)。

日本の法隆寺も、南北朝時代の中国や朝鮮半島の高句麗、百済の文化の影響を多く受けたものです。遣隋使が持ち帰った技術や、渡来人によって作られました。政府が国際文化交流の必要性を叫ぶまでもなく、文化とは大昔からグローバルなものだったのです。

文化のこうした歴史を知ると、文化を特定の国家と結びつけ、「これは○○文化」「あれは△△文化」などとレッテルを貼るのが、いかに文化の本質に反するかわかります。

経済産業省が提供するウェブサイト「FIND/47」では、日本各地の自然や歴史的建造物、祭りなどの地方文化を写真で紹介し、「まだ見ぬ日本の美しさを、あなたに、世界に届ける」とうたっています。しかし自然はともかく、文化はもともと世界からやって来たものです。

そのことを知れば、国と国との文化の優劣などという意味のないこだわりから解放され、世界の中の「日本文化」にさらに深い興味がわくことでしょう。(2017/09/17

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