2016年4月23日土曜日

〔翻訳〕『アメリカの縁故資本主義』


ハンター・ルイス『アメリカの縁故資本主義』
(Hunter Lewis, Crony Capitalism in America: 2008-2012)

資本主義の汚名

資本主義は評判が悪い。それでいて定義があいまいだ。とくに日本語の文献はひどい。ウィキペディア日本語版で「資本主義」をみると、こう書かれている。「経済の仕組みの一種で、資本の運動が社会のあらゆる基本原理となり、利潤や余剰価値を生む体制である」

さて、これで理解できるだろうか。「剰余価値」とはマルクス経済学の用語である。 このことからわかるように、ウィキペディア日本語版の解説は、マルクス主義の教義でゆがめられ、読者を混乱させるものとなっている。

その点、英語版の記述ははるかによい。capitalism の定義はこうだ。"Capitalism is an economic system based on private ownership of the means of production and their operation for profit."(資本主義とは、生産手段を私有し、それを使って利潤を求める経済の仕組みである)

ポイントは生産手段(原材料、機械、建物など)の私有である。たとえば原子力発電所は、名目的には電力会社の所有物だが、政府の厳しい規制により、勝手に売り払うことはできない。つまり実質的には政府の所有物である。

したがって原発問題の責任は資本主義にあるとして非難するのは、的外れである。原発とは、かつて経済学者の加藤寛が指摘したように、政治家、官僚、企業が結託し、市場競争を通さない政治的決定によって利益を得る事業である。

このような政府と企業の癒着は、日本だけの現象ではない。資本主義の総本山といわれる米国でも同様の傾向が強まっており、それは「縁故資本主義」と呼ばれる(本来の資本主義とまぎらわしいので、たんに「縁故主義」のほうがよいかもしれない)。

本書で著述家のハンター・ルイスは、米国にはびこるさまざまな縁故主義の実態を次々に暴いていく。ウォール街の大手金融機関を資本主義の権化のように呼ぶのがいかに的外れか、本書を読めばわかるだろう。あれほど政府と癒着し、厳しく規制され、事実上の国営ともいえる業界は他にないからである。

経済と社会を疲弊させ、破壊する元凶は、資本主義ではなく、縁故主義である。資本主義の汚名を晴らさなければならない。

<抜粋>
1990~2000年代に登場した超大金持ちの多くは、政府とのコネに物を言わせるか、政府のやり口を知り尽くすことによって、その富を得た。とくに目立ったのは、ウォール街の金融業者である。
"Many of the new mega rich of the 1990s and 2000s got their wealth through their government connections or by understanding how government worked. This was especially apparent on Wall Street..."

縁故資本主義の下では、ごく少数の者が多数の人々の犠牲によって巨万の富を得る。…マルクスが描いたのは縁故資本主義で、自由価格制度ではなかった。皮肉にもマルクスの熱心な信奉者たちがソ連に築いた制度は、徹底して縁故主義だった。
"This was all the more regrettable because, in a crony capitalist system, the huge gains of the few really do come at the expense of the many. There was an irony here. Perhaps Marx had been right all along! It was just that he was describing a crony capitalist, not a free price system, and his most devoted followers set up a system in the Soviet Union that was cronyist to the core."

自由価格制度は経済学でいうゼロサムゲームではない。逆に、新たな富を大量に生み出し続け、誰もがその恩恵にあずかりうる。一方、縁故制度はマイナスサムゲームである。今ある富を破壊し、それを埋め合わせる新たな富は生まない。
"A free price system is not what economists call a zero sum game, in which existing wealth simply changes hands. On the contrary, it continually creates new wealth, large amounts of new wealth, and everybody potentially benefits. A cronyist system by contrast is a negative sum game; it destroys what wealth exists without creating much new wealth to replenish it."

ガイトナーがオバマ政権の財務長官になるという情報が漏れるや、彼と親しいとされる企業の株価は平均15%急騰した。…彼はNY連銀総裁時代、破綻した保険会社AIGに対する損失を銀行が負う案に反対し、代わりに納税者にツケを回した。
"When word of Timothy Geithner’s selection to be President Obama’s treasury secretary leaked, the stocks of companies considered close to him immediately jumped by an average of 15%...Geithner had already saved many of these companies billions of dollars when, as president of the New York Fed, he had quietly vetoed a plan for banks to take losses on their contracts with failed insurer AIG, and had instead decided that the government, that is the taxpayers, would absorb the loss."

ウォール街の金融業者がオバマ政権発足以来3年で得た利益は、それに先立つブッシュ政権の8年より大きい。
"Wall Street made as much profit in the first three years under Obama as in the prior eight years under Bush."

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