2024-02-28

領土問題で対立を煽るな

2月は領土問題にまつわる出来事が相次いだ。1日には、尖閣諸島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内に中国が設置したとみられるブイを先月発見したと政府が発表した。7日は「北方領土の日」、22日は「竹島の日」だった。保守派の産経、読売新聞がそれぞれ社説でこれらの話題の全部または一部を取り上げたが、その多く、とりわけ北方領土については、相手国との対立を無用に煽り立てるものだ。
北方領土について、産経新聞は7日の社説を「ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵略を始めてから2度目の「北方領土の日」を迎えた」と書き出し、北方領土とウクライナを同列に論じた。「ウクライナはロシア軍に侵攻され、領土を占領されている。北方領土とウクライナは同じ構図の問題といえる」としたうえで、「領土を取り戻すために日本とウクライナは連帯を強め、侵略者ロシアに立ち向かいたい」と勇ましく主張する。読売新聞の8日の社説も同様の趣旨だ。

ロシアのウクライナ侵攻は、戦争という手段に訴えたことが良いとはいえないものの、ウクライナ政府から暴力による迫害を受けたロシア系住民を救うという目的があった。ロシアが侵略者だとすれば、ウクライナは自国民を殺傷した迫害者だ。産経は岸田文雄政権に対し「日本はウクライナと同様に、ロシアに領土を不法に奪われている被侵略国だ―という事実を内外に強く発信する」よう求めるけれども、グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国を中心として、ロシアを一方的に侵略者と非難する米欧の主張を信じない国は多い。産経が政府に求めるような「発信」は、世界で失笑を買うだろう。

たしかに、ソ連時代のロシアが第二次世界大戦の末期、降伏交渉に入った日本に対し、中立条約に反して攻撃を加え、北方四島を占領したり、日本がサンフランシスコ講和条約で、連合国の「領土不拡大原則」に反する千島列島の放棄に同意させられたりしたことは、日本のアジア侵略の問題とは別に、不当きわまりない。

もっとも、ソ連の占領や千島列島放棄の起源は、米国がソ連の対日参戦の見返りに千島列島を引き渡すとひそかに約束した「ヤルタ密約」にある。侵略をそそのかした米国には何も言わず、ロシアだけを居丈高に非難するのは、これまた世界の笑い物だ。

なにより、相手国と対立すれば問題の解決はむしろ遠ざかるし、最悪の場合、武力行使に発展すれば、たとえ小さな島を手に入れたとしても、犠牲ははかりしれない。戦争は高くつく。紛争は平和的に解決しなければならない。

領土問題は国民感情を揺さぶり、ナショナリズムを高揚させやすい。だからこそジャーナリズムによる冷静な議論が必要だ。売るために対立を煽るメディアはいらない。

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