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「反インフレ経済勉強会」開講のお知らせ

インフレは税の一種です。しかも普通の税よりも悪質な税です。ところが、この事実はよく理解されていません。それどころか、多少のインフレはむしろ良いことだという嘘が、現在主流の国家主義的な、誤った経済学(ケインズ経済学)や、そこから派生した極端な説 (MMT=現代貨幣理論など) によっ...

2025-06-06

大量虐殺戦争の起源

トーマス・ディロレンゾ(ミーゼス研究所所長)

シャーマン将軍は平原インディアンに対する米政府の25年にわたる大量虐殺戦争の司令官を務めた。攻撃する際には男性だけでなく、女性や子供も多く虐殺するよう事前に許可を与えた。ガザで起きている21世紀のホロコーストは、19世紀アメリカ帝国主義の戦争方法にルーツがある。
The American-Israeli Nineteenth-Century Ways of War | Mises Institute [LINK]
南北戦争後の米経済成長に重要な政策は金本位制の存在、所得税がなかったこと、規制がわずかなことだった。貿易は経済に占める割合が小さかったため、輸入品への関税が繁栄の一因であったはずがない。関税の多くは米企業の製造工程で使われる投入物に課され、成長を阻害した。
The Tariff Tax Statistic the Trump Fanboys Don’t Want You to Know About | Mises Institute [LINK]

経済学には「輸入への課税は輸出への課税でもある」という格言がある。米国の貿易相手国が保護主義的な関税で困窮すれば、貿易で米国製品、特に農産物を購入するドルが減るからだ。これは明らかに米輸出業者や従業員、地域社会に損害を与える。関税ほど反人民的なものはない。
Trump’s False Tariff “Fairness” Argument | Mises Institute [LINK]

政府が資金を提供する国家主義のプロパガンダは不道徳で、専制的で、非アメリカ的だ。米公共放送に対するトランプ大統領の直感どおり、自由社会には政府出資の国家プロパガンダの役割はない。それは旧ソ連の特徴であり、歴史上のすべての抑圧的な全体主義体制の特徴でもある。
The American Pravda Sues the Trump Administration | Mises Institute [LINK]

米国の社会主義的な法科大学院で教育を受けた、傲慢で全体主義的な連邦裁判官は、トランプ大統領が選挙公約を実行するのを阻止しようとする独裁的な「裁定」を何十回も出している。トランプ大統領にはそれらを無視する権利があり、自由で独立した州の知事たちもそうすべきだ。
Gangsters, Terrorists, and Deep State Judicial Tyranny | Mises Institute [LINK]

2025-06-04

戦争の偽りの大義

ワンジル・ンジョヤ
(ミーゼス研究所ウォルター・ウィリアムズ研究員)

暴力を正当化するために利用される「正義の大義」は、平和と自由にとって重大な脅威となる。道徳的主張は、しばしば破廉恥な侵略行為を正当化するために使われる。民主主義や人権といった価値を守るには戦争が必要だという主張を支持する人たちは、見かけの道徳に惑わされる。
The Tragedy of War | Mises Institute [LINK]
ロスバードは、アメリカ独立戦争や南部独立戦争(南北戦争)の正義を擁護した「正義の戦争」の講義で、どちらの当事者が加害者かを特定するために、正義の問題を決定する必要性を真剣に受け止めた。正義は自由の付属物ではなく、むしろ自由の根幹にある道徳的・倫理的概念だ。
Understanding The Importance of Justice | Mises Institute [LINK]

リンカーンの南北戦争の目的は、奴隷制の廃止ではなかった。南部諸州を連邦に残すことだった。リンカーン自身、奴隷廃止論者ではなかった。同胞である米国人に対する略奪と大量殺戮という非道な戦争に対する北部の口実は、連邦という実在しない、神秘的な存在への忠誠だった。
Abolitionist Hypocrisies | Mises Institute [LINK]

平等思想は正義の未来像を熱望するが、それは達成不可能で、コストがかかり、結局有害である。有害な影響の一つは、異なる集団の間に敵意と憤りを引き起こすことだ。「社会正義」という言葉はねたみの高貴な別名にすぎず、集団間で不健全な比較を絶えず行うための隠れみのだ。
Make-Believe Equality Is Unattainable, Costly, and Harmful | Mises Institute [LINK]

人間の経験を物質的条件によって決定される 「集合意識」の一部として理解しようとするのではなく、人間一人一人が意思決定を行う主体性と能力をもつことを認識すべきである。人間の経験は、人種や階級などの集団的アイデンティティによって本質的に決定されるものではない。
Marxist Theories of Oppression | Mises Institute [LINK]

2025-06-02

経済への無知を恐れよ

ホルヘ・ベサダ(コンピューター・プログラマー)

部族間の争い、強要、強姦、弱肉強食は、人間が何百万年も前からしてきたことで、直感的に理解できる。私有財産を尊重する自由市場の仕組みはここ数千年の間に生まれ、直感的ではない。だから人間は、政府を介した温情主義的な暴力と富の再分配に直感的に引っかかってしまう。
Relearning the Lessons We Never Learned from World War I | Mises Institute [LINK]
経済学者ミーゼスはユダヤ人知識人であり、ナチズム・社会主義の最大の知的敵対者だった。だがナチスの暴政にかかわらず、ミーゼスは世界に対する深い理解によって、ヒトラーや「悪」や「反ユダヤ主義」や「狂気」ではなく、ナチスの暴政を招いた過ちと経済への無知を非難した。
Mises’s “Fight Against Error” | Mises Institute [LINK]

ヒトラーは、自由と新興の民間企業とその競争が果たす重要な役割を理解せず、消費よりも生産される富が多くなるように社会を秩序づけるために損益計算を行う結果、利益を生むことを理解していなかった。これはもちろんヒトラーを社会主義者、国家社会主義者(ナチス)にした。
The Economic Fallacies Underpinning Hitler’s Disastrous Views | Mises Institute [LINK]

私有財産がなければ、起業家が経営する競争企業、情報を創造し広める民間企業は存在しない。企業の競争は、専門家が率いる、競争のない政府官僚機構が取って代わる。計画経済は、人々が進んで資金を提供せず、命令に従わなければ機能しない。だから大規模な強制が必要となる。
How Austrian Economists Repeatedly Saved Civilization | Mises Institute [LINK]

軍事費が経済成長につながるなら、旧ソ連や北朝鮮は繁栄したはずだ。軍事支出が経済に悪影響を及ぼすなら、全面戦争はなおさらだ。多くの人が市場商品の生産を止め、経済のパイを減らしてまで武器の量を増やし、富や人命やインフラを破壊することが、どうして良いことなのか。
Osama bin Laden’s Secret Weapon: Economic Literacy | Mises Institute [LINK]

2025-05-30

お金は市場で生まれた

ジョシュア・モーホーター
(ミーゼス研究所公式サイト アシスタント・エディター)

米国人が政府が作ったさまざまな紙幣を受け入れたのは、それが本物の貨幣や適切な貨幣(例えば金、銀、交換媒体として認められている他の商品)と交換できる(あるいはそうなる)と信じていたからだ。そうでなかったら、政府の不換紙幣が容易に受け入れられたとは考えにくい。
MMT and US History: Redefining Chartalism | Mises Institute [LINK]
植民地時代のアメリカでは物々交換を通じて財と財が交換されたが、やがて人々は、財はより取引しやすい財、つまりお金となる財を間に挟んで交換することもできることに気づいた。そこでその商品が交換の媒体となった。いくつかの商品、特にタバコが交換媒体として役に立った。
MMT, Chartalism, and the Colonial Experience | Mises Institute [LINK]

19世紀後半、米政府が黒字だった時期もある。政府は支出を上回る歳入を得ていた。大きな政府の共和党は政府の支出増を望み、民主党は関税の引き下げを望んだ。当時クリーブランド大統領(民主党)はこう訴えた。政府が支出を上回る収入を得ているのなら、税金を下げればいい。
Tariffs Did Not Make America Great and Won’t Make America Great Again | Mises Institute [LINK]

関税は結局雇用を守らない。せいぜい他の人の犠牲の上に一部の雇用が守られる程度であり、多くの場合そのような雇用すら守られない。雇用は創出されるのではなく、転換されるのだ。物価が上昇し実質賃金は低下する。国際競争力のない産業を保護することで、効率性も低下する。
Tariffs Mean Lost Jobs | Mises Institute [LINK]

大恐慌克服を目指したルーズベルト米大統領のニューディール政策は人々に希望を与えたといわれるが、失業率、GNP、個人消費、民間投資など主要な経済指標を検証するだけでも、ニューディールが失敗だったことは明らかだ。失敗どころか逆効果であり、景気回復の妨げとなった。
No, FDR Did Not Give People “Hope” | Mises Institute [LINK]

2025-05-28

トランプ氏の赤字財政

ライアン・マクメイケン(ミーゼス研究所編集主任)

トランプ大統領の歳出政策によって多額の財政赤字が続き、今後4年以内に年4兆ドルに達するだろう。米政府は今後数年間、莫大な量の国債を市場で売り出す必要がある。利回りの大幅な上昇を防ぐだけの需要が投資家から得られるだろうか。FRBと政府は心配する十分な理由がある。
Interest Rates Rise Again as Treasury Auction Comes Up Short | Mises Institute [LINK]
共和党指導部が独自に算出した数字によると、同党の下でトランプ大統領が承認した予算は今後数年間、各年度の財政赤字を増大させる。マッシー下院議員(共和党)は同党の予算案に反対票を投じると述べ、最善のシナリオでも赤字は拡大し、連邦債務の総額は増加すると指摘した。
Federal Spending in 2025 Is on Track to be the Highest Ever | Mises Institute [LINK]

トランプ氏が賢かったら、過去15年間の通貨膨張で生じた悪しき投資を一掃するために、厳しい景気後退を望むだろう。そうすれば次の大統領選挙の前に、バブルではない本当の経済の基礎を固める時間ができる。しかし、どうやら短期的に聞こえのいい政策しか考えていないようだ。
No, Powell Is Not "Keeping Interest Rates High" | Mises Institute [LINK]

物価上昇率が再び拡大する懸念がなければ、FRBは過去3カ月間に少なくとも1回は目標金利を引き下げていただろう。しかし、パウエル議長の確約にもかかわらず、物価上昇率がFRBの勝手な目標である2%に戻る兆しはない。FRBはスタグフレーションのリスクの高まりに閉口している。
The Fed Leaves Fed Funds Rate at 4.5% as Economic Storm Clouds Gather | Mises Institute [LINK]

FRBの資産保有総額は依然として2019年時点の水準をはるかに上回っている。もしFRBが金融緩和政策で経済に与えたダメージを一部でも元に戻すことを真剣に考えるなら、金利上昇を認めると同時に、積極的に資産を圧縮する必要がある。明らかにそのどちらにもほとんど関心がない。
The Money Supply Keeps Growing as the Fed Backs Off Monetary "Tightening" | Mises Institute [LINK]

2025-05-26

シンプルなインフレ対策

クリストファー・ムステン・ハンセン
(ミーゼス研究所フェロー)

インフレに対する最も単純かつ即座に実施可能な改革は、中央銀行の廃止だ。インフレの原因も本質も通貨供給の増加なのだから。改革の第二段階はすべての法定通貨法と、ある通貨を他の通貨より優遇する規定を廃止することだ。アルゼンチンのドル化政策は何の足しにもならない。
Will Dollarization Work in Argentina? | Mises Institute [LINK]
中央銀行の資産と、中央銀行が発行した通貨との間には、歴史的なつながりしかない。資産と負債の間に現在の結びつきはない。不換紙幣の価値は、中央銀行の資産の価値とはまったく無関係である。資産を購入する以外に、自分のお金をこれらの資産に変える方法はないからである。
Hoppe versus Milei on Central Banking: Breaking Down the Differences | Mises Institute [LINK]

1912年のミーゼス『貨幣及び流通手段の理論』以来、オーストリア学派は、銀行理論の重要な問題は信用膨張の過程でお金が「無から」生み出されることだと強調してきた。過去百年の貨幣理論における重要な進歩は全てミーゼスの原理を一貫して適用するためのさらなる一歩だった。
About That Nobel: Deconstructing Banking Theories of Diamond and Dybvig | Mises Institute [LINK]

関税の主な犠牲者は外国人ではなく、外国人との貿易によって才能と資源をもっと効果的に活用できたはずなのに、国内の代替品に頼らざるをえなくなった国内居住者である。「再工業化」は起こるかもしれないが、資本と労働力が劣悪で高価な商品の生産に使われることを意味する。
The Fallacy of Optimal Tariffs | Mises Institute [LINK]

欧州のエネルギー市場は無数の介入で成り立つ。大陸全域に及ぶ送電網の統合と自然エネルギー利用の大幅な伸びを説明する重要な介入のひとつが、料金制度だ。EUは再生可能エネルギーが最も低コストの供給源であるとして、事業者に再生可能エネルギーの受け入れを強制している。
The Spanish Blackout and the Costs of Renewable Energy | Mises Institute [LINK]

2025-05-23

債務に基づくお金

ロバート・マーフィー(ミーゼス研究所シニアフェロー)


純粋に経済学的に言えば、減税は平均的にはつねに有益だ。一般に、税額控除は個人に財産を保持する選択肢を増やすという点で、良いことだ。しかし税額控除の導入をめぐる議論においては、リバタリアンは一時的な控除を求めるのではなく、幅広い税率の引き下げを訴えるべきだ。
Private Business and State Power in an Age of Bailouts, Censorship, and Easy Money | Mises Institute [LINK]
狭義のマネーは、納税者が負う公的債務を増やすことで生まれる。民間銀行はそれを使って広義のマネーを作り出し、民間負債を増やす。もし民間部門の人々が借金をすべて返済し、米政府が国債をすべて返済すれば、米ドルの供給は事実上なくなる。ひどく不合理なお金の仕組みだ。
Is Our Money Based on Debt? | Mises Institute [LINK]

(預金の一部に対してしか払い戻しの準備金を用意しない)部分準備制度により、銀行は無からお金を生み出し、収入を得る。人々が銀行からの新たな借り入れを止め、未払いのローンを完済すれば、お金の総量は激減するだろう。部分準備は景気変動を生じさせ、本来違法でもある。何の問題もないと思う人は、一度ゆっくり考えたほうがいい。
The Fractional-Reserve Banking Question | Mises Institute [LINK]

すべての人が借りた元本をすべて返せばドルは存在しなくなるから、利子を返せないという説がある。これは誤りだ。人々が利息を負う場合、これは一定期間にわたって発生するフローの概念である。対照的に、マネーサプライの総量は、特定の瞬間に適用されるストック概念である。
What Does "Debt-Based" Money Imply for Interest Payments? | Mises Institute [LINK]

百貨店がお客に「在庫を売る」というのは間違いだろうか。顧客が店から出ると「在庫」は「商品」に変わるが、百貨店が在庫を消費者に売ったと言っても、経済的には何の問題もない。同様に、商業銀行が新たな融資を行う際、準備金の一部を貸し出したと言っても何ら問題はない。
Do the Textbooks Get Money and Banking Backwards? | Mises Institute [LINK]

2025-05-21

反戦の古典的自由主義

ライアン・マクメイケン(ミーゼス研究所編集主任)

第二次世界大戦後、米国の保守運動はひどいことに、古典的自由主義をその歴史的ルーツである反戦・非干渉の外交政策から切り離そうとした。ロック、ジェファーソン、バスティア、コブデン、スペンサーの思想は、外交でも内政でも、あらゆる領域で国家権力に一貫して反対した。
The Classical Liberals Were Radical Opponents of War and Militarism | Mises Institute [LINK]
イスラエル政府はガザでの無差別殺害を正当化するため、 「自衛権がある」と主張する。米国も同様の行動をしてきた。日本、朝鮮半島、ベトナム、イラクで、「日本人の子供は日本人に生まれたのだから爆撃されて当然」といったいい加減な主張に基づき、非戦闘員を標的にした。
Is There Such a Thing as a "Just War" in the Modern World? | Mises Institute [LINK]

国家が常に新たな戦争を追求していると考えるのは誤りだ。戦争が国家に領土や権力の拡大という利益をもたらすのは事実だが、しくじれば悲惨な結果を招くこともある。したがって国家は多くの場合、支配層が国家の存続を維持する最善の戦略だと認識すれば、現状維持を選択する。
Rothbard’s Theory of International Relations and the State | Mises Institute [LINK]

国家、特に米露のような大国は絶大な強権を有し、いずれも「善玉」ではない。一方、米国は、現状維持を旨とするロシアと違い、民主主義とテロとの戦いを掲げ、いつも多くの国を空爆している。核戦争に対する気まぐれな態度は、自国の重要な国益とは無関係で、特に危険である。
What Motivates Russian War Making? | Mises Institute [LINK]

メディアと米政府は連携したプロパガンダでロシアゲートデマを流し、ウクライナでの米国の干渉を曖昧にし、ベネズエラ、ロシア、リビア、シリアなどで政権転覆を図った。イスラエル政府の戦争犯罪を曖昧にし、国連にイラクの架空の「大量破壊兵器」を既成事実として提出した。
How War Propaganda Has Fueled American Foreign Policy for a Century | Mises Institute [LINK]

2025-05-19

人生は競走ではない

ジョシュア・モーホーター
(ミーゼス研究所公式サイト アシスタント・エディター)

人生を競走に例えることは、人生がはっきりした、共通のゴールを持つ有限の競技だと仮定しているが、人生はゼロサムでも一直線でもない。人は異なる主観的な目標を持ち、異なるものに価値を見出す。人生は競走ではない。その例えには、すべての例えと同じく、元々限界がある。
The Race/Starting-Point Fallacy | Mises Institute [LINK]
差異を前提とする「多様性」が擁護される一方で、それと矛盾する理想だと気づかず、平等主義的な「平等」「公平」も推進されている。あらゆる分野における平等が正しい規範とされ、逆にあらゆる不平等や格差が不公正の結果だとされれば、政府がその状況を利用するチャンスだ。
Skin Tone Products, Markets, and “White Privilege” | Mises Institute [LINK]

政治家が平等を好む理由は、明白な正義で、定義が曖昧で、達成不可能だからだ。法の支配や法の下の平等は、不完全な人間が到達することはないが、正義であり、程度によっては達成可能だ。一方、平等主義は、結果の平等はもちろん、機会の平等ですら、法の支配とは相容れない。
Egalitarian Interventionists: Why Politicians Love "Equality" | Mises Institute [LINK]

社会カーストを見分ける方法の一つは、政府を通じた集団間の収入の移転だ。差し引きでみて誰が税金を納め、誰が税金を消費するのか。それが真のカーストだ。課税で最大の利益を得るのは、その収益によってフルタイムで生活する人々、例えば政治家や官僚であることは明らかだ。
A Caste of Characters: Net Taxpayers versus Net Tax Consumers | Mises Institute [LINK]

対外援助は貧しい国々を貧困から救わない。むしろ逆効果だ。援助と成長には相関関係がない。政策環境が悪いと援助は役に立たず、債務を増やす。一方、経済的自由と成長には強い関係がある。援助機関は政府に融資し、貧しい国の民間部門を犠牲にして、政府部門を拡大している。
P.T. Bauer’s Reminders on Foreign Aid | Mises Institute [LINK]

景気後退の主な原因は消費不足にあるという、ケインズ以前からあった考えによって、景気後退期の政府の仕事は投資を刺激し、貯蓄を抑制し、総支出を増やすことだとされてきた。この誤りのせいで人々は「消費が経済を動かす」という、よくある、しかし誤った考えに従ってきた。
A Review of Some GDP Problems | Mises Institute [LINK]

2025-05-16

お金は政府の創造物?

ジョナサン・ニューマン(ミーゼス研究所フェロー)

MMT(現代貨幣理論)論者は、お金は政府の創造物だと考えている。MMT論者にとって、お金は政府のおもちゃだ。経済学者メンガーが唱えたような市場の産物ではなく、政府の所有物であり政府が責任をもつ。政府は民間の市場経済から資源を奪うために、お金を劣化させ、紙幣を増刷しても構わない。
MMT Is Wrong about the History of the Origins of Money | Mises Institute [LINK]
新たなお金の流入が物価の大きな変化を即座にもたらさないことは明らかだ。それでも直接の影響はある。偽金作りと同じく、直ちに他の買い手に競り勝つことができる。次に新札を受け取った者も同様だ。このように、お金が変化すると、最終的に統計に現れる作用が即座に始まる。
The Myth of Long and Variable Lags | Mises Institute [LINK]

人々が一斉に現金をため込むのは、今の価格で売られている商品よりも、お金を持ち続けることを好むからだ。これは企業家が、消費者がどんな商品を買いたいと思うかを勘違いしていたことを示す。物価や生産計画は変わる可能性があり、総支出に後押しが必要なことを意味しない。
Opposing the Keynesian Illusion: Spending Does Not Drive the Economy | Mises Institute [LINK]

お金が独特なのは、交換媒体として使われるからだ。他の財とは異なり、消費や生産で使い果たすために需要されるのではない。他の人々が求めるから需要が生まれる。だからといって、お金は実体経済の外で孤立した、単なるデータではない。使わずに保有することにも意味がある。
Elon Musk Is Wrong About Money | Mises Institute [LINK]

経済学は経済官僚に任せておくには重要すぎる。官僚は経済学をねじ曲げ、壊し、踏みにじり、介入政策を正当化する。ミーゼスによれば、経済学を学ぶことは、すべての分別ある人間にとって最優先の市民的義務だ。経済学を理解しなければ間違った考えが蔓延し、勝利してしまう。
What Economists Do and Why They Do It | Mises Institute [LINK]

2025-05-14

ミレイ氏のインフレ政策

オスカー・グラウ(音楽家)

通貨膨張(インフレーション)はすぐにではなくとも本来、物価上昇をもたらす。アルゼンチンのミレイ政権下で物価上昇率は下がったものの通貨膨張は止まらなかった。通貨膨張は富の生成過程を損なう。無と有の交換を引き起こし、価格と生産の構造を歪め、富を生む者から生まない者に富を移転する。
Quantity and Quality of the Argentine Peso, by Oscar Grau - The Unz Review [LINK]
戦争は、高価なスーツを着て権力と不正蓄財をむさぼる小集団によって起こされる。だから世界平和に関心をもつなら、政府がコストを他人に押しつける独特で悪質な能力に気づき、対抗する方法を考えなければならない。政府が武装して戦争を行う力と富を絶えず減らす必要がある。
To Promote Peace, You Must Fight Statism | The Libertarian Institute [LINK]

イスラム過激主義の主因は米シオニスト帝国主義にある。米軍やイスラエルのシオニストが中東で罪のない人々に不当な攻撃を行うたびに、多くの人がイスラム過激派への参加を熱望するようになる。 双方が血の渇望をあおる。その主な犠牲者は互いの指導者ではなく、一般市民だ。
U.S.-Zionist Imperialism and the Middle East | The Libertarian Institute [LINK]

政府は自由と許可、正義と法律を混同させる。立法を通じ紛争や不安を生み、政府がなければ起こらない争いを引き起こす。 文化や宗教をめぐる思想上の争いで異なる集団を対立させる。つまり権力者は政府という制度を通じ、必要性に応じて、支持を得るために臣民を分裂させる。
The State is Nothing But Appetite | The Libertarian Institute [LINK]

政府はしばしば一定の要件を満たす教育課程と学校教育を強制し、親に子供の通学を強制し、カリキュラムの自由な選択を妨げている。教育バウチャーを導入すれば、新たな財源と仲介組織が加わることで政府の介入が強化される。また例によって官僚がバウチャーの運営を任される。
The Economics and Ethics of Vouchers and Free Market Education | Mises Institute [LINK]

2025-05-12

冷戦の真実

ルーウェリン・ロックウェル(ミーゼス研究所会長)

ケネディ米大統領はCIAなど米情報機関を深く疑っていた。情報機関はキューバについてケネディに誤った助言を与え、ソ連と核戦争になりかけた。ケネディはベトナム戦争の激化を止めようと、国防総省を牛耳る戦争屋たちを憎んだ。そのため、ディープステートは暗殺を決意した。
Kennedy Assassination Mysteries | Mises Institute [LINK]
経済学者マレー・ロスバードは、米国の第二次世界大戦参戦を批判した。政府権力の不必要な拡大とみなし、海外への介入主義は国内での政府の統制を必ず強めると考えた。また冷戦は軍事費と介入主義の継続を正当化するために、米国の政治エリートが作り出したものだと主張した。
The Great Murray Rothbard | Mises Institute [LINK]

米国の大統領は世界有数の悪である。イラクやセルビアでは無意味な戦争で罪のない人々の命を奪い、爆撃で民間インフラを破壊し、計画的に病気を引き起こした。ドレスデン爆撃、広島の原爆投下、ウェーコの虐殺、ルビー・リッジの悲劇に至るまで、政府による殺人実践の典型だ。
Why We Need the Rule of Law | Mises Institute [LINK]

トランプ氏は歳出削減を公約に掲げ、選挙戦を展開したが、その支持する予算案はオバマ大統領をはるかに上回った。予算案は1兆6580億ドルの支出権限を与えている。オバマ氏の最後の予算より47%も多い。政府効率化省が節約したとされるわずかな金額も、事実上すべて帳消しだ。
The Great Tom Massie | Mises Institute [LINK]

トランプ政権や保守系の知事は、有害な教育課程の廃止などで問題を解決しようとしている。それがどれほど良い結果をもたらそうと、真の問題、「公」教育そのものの存在に対処することはできない。政府が運営する学校は本来、政府が子供に学ばせたいことを宣伝する機関なのだ。
The Menace of “Public” Education | Mises Institute [LINK]

2025-05-09

人は利益を求める企業家

ハンス・ヘルマン・ホッペ(経済学者)

私たちは皆、つねに利益を求める企業家である。私たちの行動はすべて企業家精神を表し、成功と利益を目的とするのだから、企業家精神と利益には何の問題もない。間違っているのは失敗と損失のみであり、それゆえ、私たちはすべての行動において、つねにそれを避けようとする。
The Ethics of Entrepreneurship and Profit | Mises Institute [LINK]
資本主義の事業にはリスクが伴う。 生産コスト、つまり支出する金銭が、受け取る収益を決めるわけではない。生産コストで価格と収益が決まるのなら、資本家がしくじることはないだろう。予想される価格と収益こそが、資本家がどの程度の生産コストを許容できるかを決定する。
How Entrepreneurs Make Society Better | Mises Institute [LINK]

物があふれていれば、争いは起こらない。欲望を満たすものが十分にあるからだ。異なる利害や考えが紛争を生むには、財が希少でなければならない。紛争とは、ひとまとまりの同じ財をめぐる物理的な衝突だ。人が衝突するのは、同じ財を異なる、相容れない方法で使いたいからだ。
Of Common, Public, and Private Property and the Rationale for Total Privatization | Mises Institute [LINK]

所有者間の財産の自発的な交換はすべて、社会の幸福を増大させる。財産の交換は、所有者双方が、放棄するものよりも取得するものを好み、交換による利益を期待する場合にのみ可能である。財産の交換のたびに、2人の人間が幸福を手に入れ、他のすべての人の財産は変化しない。
The Ethics and Economics of Private Property | Mises Institute [LINK]

人は自宅で誰が食事するかを決める権利がある。同様に、経営者は自分の食堂で誰が食事するかを決める権利がある。政府は商業施設から決定の権利を奪うことで、財産への攻撃を始めるのがたやすい。そうすれば、私有財産の最後の砦である家庭を徐々に侵略していくことができる。
The Private Property Order: An Interview with Hans-Hermann Hoppe | Mises Institute [LINK]

2025-05-07

立ち去る強さを

ロン・ポール(元米下院議員)

トランプ大統領の「ビッグ・ビューティフル」法案のどこにも歳出削減は見当たらない。大統領は国防費の半減を示唆したが、実際には軍事費を増加させた。帝国は逆襲に転じ、毎月10億ドル以上をかけてイエメンで戦争を始め、イランを威嚇し、タカ派は中国と対決したがっている。
The Empire Strikes Back - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]
米国がイランと戦争を始めるとは、昨秋トランプに投票した人々は思いもよらなかったろう。新たな戦争を防ぐために米国が世界中で威嚇をするとは奇妙な論理だ。平和を築き保つために必要な真の強さとは、ただ立ち去る強さだ。米国と関係のない紛争に干渉するのをやめる強さだ。
Standing at the Edge of the Iran War Cliff - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

トランプ大統領はイエメンにさらに武力を行使すると脅し、イランも脅した。ブッシュ、オバマ大統領のように、前政権の好戦政策や世界大戦の瀬戸際外交の後に平和を約束し、当選したが、残念なことに、大統領となった今、ブッシュやオバマと同じく、別の道を歩んでいるようだ。
President Trump: Stop Bombing Yemen and Exit the Middle East! - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

トランプ大統領の関税政策は貿易戦争を引き起こし、米消費者は外国・国内製品の価格上昇に苦しむことになる。輸入原材料に依存する製造業など米企業は、多くの代金を支払わなければならなくなる。米輸出企業は、海外市場における米製品に対する需要の減少に苦しむことになる。
Liberation or Obliteration? - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

関税は保護される企業に短期の利益をもたらすかもしれない。しかし本来なら破綻してもいいはずの事業を存続させ、経営者や労働者がその才能を、経済全体により大きな利益をもたらす他の事業に生かせなくなる。またすべての税金(インフレ税を含む)と同様、関税は盗みである。
Tariffs are Theft - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

2025-05-05

トランプ氏の大きな政府

ライアン・マクメイケン(ミーゼス研究所編集主任)

トランプ大統領と共和党多数の米議会が承認した新予算には、今後数年間で連邦政府支出全体が減少することをうかがわせるものは何もない。予算削減は盛んに語られるが、結局のところ、連邦政府の支出は常に絶え間なく増加し、多くの場合、肥大化した軍事予算がその先頭に立つ。
Federal Spending Is Only Going Up: Trump Pushes Trillion-Dollar Defense Budget | Mises Institute [LINK]
トランプ大統領就任後2カ月間の米財政赤字は、前年同期の5320億ドルから4670億ドルに縮小した。これは歳出の減少ではなく税収の増加による。歳入源が国債による将来の課税から現在の課税にシフトした。これは政府が課税で富を吸い上げることに、より成功したことを意味する。
The Federal Government Is Still on Track for a $2-Trillion-Plus Deficit | Mises Institute [LINK]

政府債務に取り組む戦略は2つしかない。第1は、政府支出を削減する。この戦略は「無償」に慣れ親しんだ有権者には人気がない。第2は、債務の履行拒絶に真剣に取り組む。現在の納税者は、何年も前に政治家が戦争その他の大失策のために負った赤字を返済する義務はないはずだ。
Don’t Pay Down the National Debt. Just Stop the Deficit Spending | Mises Institute [LINK]

現時点で、トランプがインフレを抑え込む健全通貨派になるという期待がまったくの希望的観測にすぎなかったことは明らかだ。トランプが好む金融政策は、バイデン、オバマ、ブッシュと変わらない。これら政治家にとっての「解決策」は、いつも金融緩和であり、金利引き下げだ。
Trump the Inflationist: He Wants More Easy Money from the Fed | Mises Institute [LINK]

インフレ政策は資産家の富裕層を優遇する一方で、物価高と所得減少を裕福でない人に押し付ける。トランプの低金利政策は、自由な市場で生じるよりもはるかに大きな不平等をあおっている。低金利政策は、低所得層よりも高所得層の可処分所得をはるかに急速に増加させるからだ。
Trump's Inflationist Monetary Policy Favors Wall Street over Main Street | Mises Institute [LINK]

2025-05-02

税控除をなくすな

マレー・ロスバード(経済学者)

所得税率を一律10%に引き下げるフラット課税を導入するなら、現行の控除や免税をすべて維持しよう。原則は明確でなければならない。税率の引き下げであれ控除の拡大であれ、すべての減税を支持し、税率の引き上げや免税の縮小には反対しよう。課税の弊害をつねに取り除こう。
Rothbard: The Myth of Tax "Reform" | Mises Institute [LINK]
政府が望む支出に税収がいつも足りないなら、どうやってその差額を補うのか。通貨供給の操作である。はっきりいえば、通貨偽造だ。偽造者は経済に偽札を持ち込むことによって、すべての人から通貨の価値を奪い、盗むことができる。その盗みは、追いはぎよりも経済を破壊する。
Rothbard: Essentials of Money and Inflation | Mises Institute [LINK]

公共部門は民間部門を補完するどころか、民間部門を養分とすることしかできず、民間経済に寄生する。これは社会の生産資源が消費者の欲求を満たすのではなく、無理やり遠ざけられることを意味する。経済の資源は消費者から、寄生虫のような官僚や政治家が望む活動へと流れる。
The Fallacy of the “Public Sector” | Mises Institute [LINK]

官僚の成功は、自分の長所について上司、議員、国民を説得するためにプロパガンダを用いるのが最も得意な者、そして大統領や高級官僚が聞きたいことを伝えれば出世すると理解している者にもたらされる。したがって、官僚の階級が上がれば上がるほど、イエスマンが増えやすい。
Why the Bureaucracy Keeps Getting Bigger | Mises Institute [LINK]

カルト思想は無神論的で反宗教的であっても、カルト宗教と同じ特徴を備えうる。ヒトラー、ムッソリーニ、スターリン、トロツキー、毛沢東のカルトは明白な無神論であるにもかかわらず、本質は宗教的だ。指導者崇拝、階層構造、忠誠心、心理的・物理的制裁などに明らかだろう。
The Sociology of the Ayn Rand Cult | Mises Institute [LINK]

2025-04-30

法人税は労働者の敵

ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス(経済学者)

資本主義は賃金労働者の生活水準をかつてないほど向上させた。この幸福はすべて、貯蓄と資本蓄積の増加によってもたらされている。したがって、所得税や法人税のように、資本の蓄積を妨げ、資本の消耗さえも目的とするすべての政策は事実上、反労働者的であり反社会的である。
Wages, Unemployment, and Inflation | Mises Institute [LINK]
私有財産を制限し自由の尊重を拒む性癖は、政府機構を支配する人々の心理に深く根付いている。彼らが自発的にそれに抵抗することはできない。自由主義的な政府とは、形容矛盾である。政府は国民の一致した意見の力によって、自由主義を強制的に採用させられなければならない。
Governments Never Give Up Power Voluntarily | Mises Institute [LINK]

今日、多くの人がインフレと呼ぶのは、通貨供給の増加ではなく、その結果、つまり物価の上昇だ。インフレの結果にすぎない物価上昇と闘うという、無益で望みのない試みに取り組む人々は、インフレとの闘いを装っている。単に症状と闘うだけで、悪の根元と闘うふりをしている。
The Real Meaning of Inflation and Deflation | Mises Institute [LINK]

介入主義の本質は、没収と分配である。その根底にある考えによれば、豊かな人々の所得と富は、豊かでない人々の状況を改善するために自由に使うことができる財源である。それは永遠に搾り取ることのできる無尽蔵の泉だ。この泉が枯渇すれば、介入主義の教義はすべて崩壊する。
Mises Explains the Santa Claus Principle | Mises Institute [LINK]

企業家や資本家は、資本主義が繁栄していた時代には自由主義で特別な利益を守っていたが、今は介入主義で利益を守っているというのは、まったく成り立たないマルクス主義的な見解だ。企業家にはつねに、介入主義によって守られ、自由主義によって損なわれる特別な利益がある。
The Myth of the Failure of Capitalism | Mises Institute [LINK]

2025-04-28

国家は損得で動く

アーロン・ソブザック(ジャーナリスト)

対外介入論者はロシア、イラン、中国など敵対国の行動を、米国が十分に行動しなかったせいだという。国際社会の主体をおとぎ話のような善と悪に分類する。実際は、いかなる政府も利己的な考えから行動し、イデオロギーはその行動を正当化し、政治的支持を得る道具でしかない。
Realism as a Libertarian Foreign Policy | Mises Institute [LINK]
対外援助を削減しようとするトランプ大統領の試みは軍事支援に触れていない。イスラエル、ウクライナ、台湾などが主な支援先だ。大統領は最近、イスラエルに10億ドルの軍事装備と武器を送るよう命じた。この支援は米国を外国との紛争に巻き込み、政治家や国防請負業者を潤す。
Cuts to Foreign Aid Are a Good Start | Mises Institute [LINK]

トランプ大統領はウクライナの和平で私利私欲が頭にある可能性が高い。鉱物資源協定で経済的な利益を得るかもしれない。だがすべての政治家は利己的な考えを抱く。バイデン、ゼレンスキー、欧州の指導者も、どんな美辞麗句を並べようとも、公共選択の落とし穴と無縁ではない。
Russia and Realpolitik: Making Sense of the Trump-Zelensky Clash | Mises Institute [LINK]

バイデン政権最大の外交政策の失敗は、イスラエルによるガザ攻撃などを抑えられなかったことだろう。米大統領なら誰でも、テロ行為に報復するイスラエルの権利を支持しただろう。しかしバイデンは、ガザの市民が爆撃されるなか、イスラエルに記録的な額の援助と武器を与えた。
Joe Biden’s Failed Foreign Policy Legacy | Mises Institute [LINK]

中国がアジアでの影響力を自制するよう期待するのは現実離れしているし、全面戦争になれば米国自身やその他諸国に壊滅的な打撃を与える。対中攻撃をけしかけるのは危険である。経済制裁は効かないし、大国は私利私欲のために行動する。米国に中国との敵対を促すべきではない。
The Fentanyl China Bogeyman | Mises Institute [LINK]

2025-04-25

古典的自由主義は十分過激

リバタリアンと古典的自由主義者は相容れないという主張がなされる。これは歴史的な検証に耐えない。19世紀後半に自由主義の大御所だった仏経済学者モリナリは政府の必要性を否定し、英哲学者スペンサーは国家を無視する権利について無政府主義的な論文を書いたことで有名だ。
Why We’re Stuck with the Term “Classical Liberalism” | Mises Institute [LINK]

ハイエクの自由に関する法的制度の説明は、一種の英国中心主義を映している。イタリア共和国、ドイツの自由都市や、コンスタン、バスティアらフランスの自由主義者に至るまで、自由の法的伝統は英国のロック、コーク、権利章典よりもずっと以前から欧州大陸全域で栄えていた。
Beyond England: A Classical Liberal Critique of Hayek’s “The Origins of the Rule of Law” | Mises Institute [LINK]

自由主義は通常、最も広い意味での市場、つまり自発的な交換のネットワークが、持続的な制度や風俗を生むよう期待する。一方、保守主義は生命、自由、財産の単純な保護を超えた、特に宗教に対する支援を含む、不可欠な基盤が国家によって提供されなければならないと主張する。
What Is Classical Liberalism? | Mises Institute [LINK]

地方分権と権力分立は欧州史の特徴だ。ローマ帝国滅亡後、大陸を支配する帝国は現れなかった。欧州は競合する国家、公国、都市国家の複雑なモザイクとなった。支配者は互いに競争した。略奪的な課税や恣意的な財産没収に手を染めれば、生産性の高い市民を資本とともに失った。
The Rise, Fall, and Renaissance of Classical Liberalism | Mises Institute [LINK]

古典的自由主義の柱の一つは平和だ。戦争が好きであってはならないし、戦争が起こったとしても、英雄視してはならない。戦争は経済に良いといわれるが、実際はつねに資源の配分を誤り、破壊する。勝者でさえも敗北する。ランドルフ・ボーンいわく、戦争は国家の健康法である。
An American Classical Liberalism | Mises Institute [LINK]

2025-04-23

戦争の隠された代償

戦争経済で中央当局は敵を全滅させるため不換紙幣に頼る。不換紙幣は、戦争の真の代償を個人から隠す完璧な道具である。国の資本を流出させ、国を破滅に追い込む。戦争はつねにマイナスサムゲームだ。戦勝国も含め、誰もが失う。自由だけでなく、将来の繁栄を唯一確かにする資本主義の構造も失うのだ。
The True Cost of War | Mises Institute [LINK]
インフレは、戦争の莫大なコストを政府が国民から隠蔽する第一歩である。インフレによって現実の経済作用が覆い隠されることがなければ、国民は金利高騰、株式・債券相場の急落、企業倒産や銀行経営不振の拡大によって、戦争の栄光なるものへの熱意を急激に冷ますことになる。
War and the Money Machine: Concealing the Costs of War beneath the Veil of Inflation | Mises Institute [LINK]

戦争の大きな代償の一つは、勝者も敗者も同様に長期にわたり自由を失うことだ。死傷者数という明白で直接のコスト以外に、悪夢や負傷とともに生きる退役軍人の生涯の苦闘。インフレ、借金、税金といった長期の隠れたコスト。そして文化、道徳、文明一般にもたらす損害である。
The True Costs of War | Mises Institute [LINK]

米国の戦争は、すべて自由を守るために行われてきたとされる。実際には、政府権力を拡大させてきた。経済の自由を侵食し、通貨を劣化させ、政府債務を増大させ、アメリカ共和国本来の政治構造を根本的に変えてきた。戦争の結果、米国人の自由は守られるのではなく、失われた。
Costs of War, The | Mises Institute [LINK]

議会は増税して財政赤字を避けることもできるが、政治家はそれを好まない。一方、財政赤字による支出は、政治的に実行可能なことが多い。真のコストは将来に繰り延べられるか、インフレのベールに隠されるからだ。政治家は多額の赤字支出のため、中央銀行の助けを必要とする。
How the Fed Is Enabling Congress's Trillion-Dollar Deficits | Mises Institute [LINK]

2025-04-21

国債は自由主義に反する

将来の納税者は、今できた政府の借金を増税やインフレによって返済するよう強いられる。したがって国債は事実上、まだ生まれていない国民を奴隷化し、彼らが同意していない義務を強いる。これは自発的交換や財産権不可侵など自由主義の根本原則に反する。
Mises and Rothbard Understood the National Debt | The Libertarian Institute [LINK]

有権者や納税者には、政府をデフォルト(債務不履行)に追い込むよう脅す道徳的義務がある。将来世代や、戦争などの大盤振る舞いのために積み上げられた、昔の借金を返済するために大金を支払う、すべての人々に対する義務なのだ。政府はもっと頻繁に身の丈にあった生活を強いられるだろう。
Defaulting on the Debt Is the Moral Thing to Do | Mises Institute [LINK]

国債発行は本質的に不道徳である。権利侵害であり、支払いを拒否すべきだ。お金を納税者から政府の債権者へ無理やり移転させる。債権者は、返済が納税者からの不本意な移転であることを十分承知している。返済する道徳的義務はない。債権者は政府と同じく道徳的な責任がある。
Should Local Municipalities Default on Their Debts? Seems Like a Good Idea | Mises Institute [LINK]

政府のデフォルトは、社会の生産的メンバーに対する税金を減らし、有益である。国債に多額の投資をしている人々は損失のリスクがあるが、政府資産を移転し軽減できる。年金を通じ国債を保有せざるをえない人々の失われた所得を補償することは、道徳的な理由から否定できない。
The Economics and Ethics of Government Default, Part II | Mises Institute [LINK]

トランプ大統領と共和党が承認した新たな予算案には、今後数年間で政府支出全体が減少することを示唆するものは何一つない。確かに共和党は「10年間かけて」支出を削減すると約束しているが、過去30年間の状況を少しでも注視してきた人なら誰でも、それが決して実現しないことはわかっている。
Federal Spending Is Only Going Up: Trump Pushes Trillion-Dollar Defense Budget | Mises Institute [LINK]

2025-03-28

ミレイ氏、リバタリアンの評判を台無しに

経済学者、ハンス・ヘルマン・ホッペ
(2025年3月21日)

*米アラバマ州オーバーンのミーゼス研究所で開催された「オーストリア学派経済研究会議 2025」での講演より抜粋。


(ミレイ・アルゼンチン大統領に)妥協が必要なのはわかる。しかし、最終的な目標に反するような妥協をしてはならない。

もちろん彼(ミレイ大統領)のやったことのいくつかが改善だったことは否定しない。けれど一方で、アルゼンチンはあまりに悲惨な状況で、何の改善もしないのは難しい。(会場笑)

彼(同)は、中央銀行を廃止すると言いながら、しなかった。そればかりか、金融担当の政権幹部は中央銀行出身者ばかりだ。

彼(同)は、中央銀行をなくしたら前より大幅なインフレになるといった。それを聞いて、私は心中、彼は経済学について何も知らないなと思った。

彼(同)の就任以来、マネーサプライは2倍になった。経済に無知な彼のファンにとってはまったくどうでもいいことだろう。1年間に増やした債務は前任者の誰よりも多い。

彼(同)は増税はしないと言った。増税するくらいなら腕を切り落とすと言った。今、いくつかの税を引き上げ、そこらを走り回っているが、腕はついている。(会場笑)

オーストリア派リバタリアンの外交方針は、中立と不干渉だ。しかしミレイ氏が就任して最初に言ったのは、NATO(北大西洋条約機構)にぜひ入りたい、だった。たとえアルゼンチンが北大西洋になくてもだ。(会場笑)
*東アジアにあるのにNATOに入りたがっている日本人はこれを笑えない。

ミレイ氏の一番の友人はネタニヤフ(イスラエル首相)だ。ネタニヤフはもちろん大量虐殺者でジェノサイドに関与している。彼のような人間を、どんなリバタリアンであろうと、擁護できるとは理解できない。

ミレイ氏はリバタリアンの評判を台無しにした。リバタリアンはネタニヤフ、ゼレンスキー(ウクライナ大統領)、トランプ(米大統領)の友人に違いないと思われるようになってしまった。我々は彼ら全員に反対しているのに。

(次より抜粋)
Considerations and Reflections of a Veteran Reactionary Libertarian | Hans-Hermann Hoppe - YouTube [LINK]

【コメント】オーストリア学派経済学の重鎮ホッペ氏による、再度のミレイ氏批判。75歳となったホッペ氏は、多少の言い間違いはあるものの、ユーモアを交え、彼らしい視野の広さと骨太な論理で、ホッペ氏の師でもあるマレー・ロスバード氏を尊敬するというミレイ氏の欺瞞を暴いていく。ミレイ氏がリバタリアンの評判を台無しにしたという怒りは、真のリバタリアンなら誰もが共有する思いだろう。一方、ミレイ氏を英雄として担ぎ回る日本のいわゆる自由主義界隈は、ホッペ氏の指摘するような、ミレイ氏の内政・外交の問題点から目をそらし続けている。深い失望を禁じえない。

2025-03-18

また会う日まで

◾️自由主義研究所の山本勝市読書会に参加させていただき、多くの交流をもてたことに感謝しています。参加者も人柄の良い方々で、これが自由主義という原理原則にかかわる集まりでなければ、わだかまりなく、お付き合いを続けることができたでしょう。しかし、自由主義研究所がアルゼンチンのミレイ大統領を熱烈に支持し始めてから、私の中で当惑と失望が広がっていきました。
 ミレイ大統領の政策には多くの問題があります。内政に限っても、選挙活動中は中央銀行を廃止すると言っていたのに、就任後はそれをひるがえし、あれこれ言い訳をしています。それどころか、マネーの量を大幅に増やすインフレ政策を行っています。インフレは私有財産の侵害です。自由主義に反します。
 内政以上に問題なのは外交です。ミレイ大統領は、女性や子供を含むパレスチナの一般市民を大量殺害する、イスラエル政府を熱狂的に支持しています。イスラエルとパレスチナの間にどんな対立があろうとも、イスラエルの行為が人道に反するのみならず、生命・身体・財産の権利を擁護する自由主義に反することは、火を見るよりも明らかです。
 ミレイ大統領の政策には評価すべきものもあるでしょう。それなら、評価すべき点とそうでない点を冷静に分析するべきです。それがいやしくもシンクタンクを名乗る組織の役割でしょう。ところが実際には、ミレイ氏個人を英雄のように祭り上げ、「自由万歳!」と叫ぶ。その自由に、パレスチナで殺される子供の自由、徴兵されるイスラエル人の自由、税金をイスラエル向けの兵器に使われる米国民の自由は、入っているのでしょうか。そういうことを、考えたことがあるのでしょうか。
 これらの批判は、ミーゼス研究所やその関連のリバタリアン系サイトの記事にありますし、私もそのいくつかを翻訳し、自分のブログに載せてきました。しかし、自由主義研究所はそんな批判には無頓着です。あらゆることに目を配ることが難しいにしても、ある政治家個人を応援するのなら、お祭り騒ぎに興じる前に、最低限の調査と分析は必要でしょう。シンクタンクとしてのあるべき道に立ち返ることを願います。

◾️地元の神奈川減税会には勉強会の講師を任せていただくなど、お世話になりました。飲み会などで交流するメンバーは感じの良い方々で、自治体の無駄遣いに憤るなど、価値観も共通するものがありました。しかし、あるときから、インフレ政策を主張する金子洋一元参議院議員を強く支持するようになりました。インフレは税の一種ですから、「すべての増税」に反対する減税会であれば、本来なら反対すべきものです。インフレは現預金の価値を奪いますから、私有財産を擁護する自由主義にも反します。
 この問題について、神奈川減税会の中でどのような議論があったのか、知りません。おそらく、インフレが税であり、それを続ければ増税になるという認識が、十分浸透していないのでしょう。それは一般の人も同じだと思います。今回私が、インフレ批判に主眼をおく経済勉強会を立ち上げたのは、それを痛感したからでもあります。私は神奈川減税会を去りますが、私の発信が何らかの形で届き、インフレという税について認識を深めてもらえればと願います。

◾️神奈川減税会を通じて知り合った、大和市の星野翔議員は、まじめで偉ぶったところがなく、好感を抱いていました。それだけに、昨年、X(旧ツイッター)で岩倉竜也さんを侮辱する投稿をしたときには、非常に驚きました。岩倉さんの主張が気に食わないなら、小学生のような悪口を書き連ねたり、チェリー(童貞の意味)の画像を貼り付けたりするのでなく、理路整然と反論するべきだし、そのほうが減税に対する人々の理解を深めることにもなります。
 その後(今年1月)、あるパーティーで直接会う機会がありましたが、岩倉さんの一件については、あえて話しませんでした。和やかに言葉を交わすことができ、これならもう、私の友人である岩倉さんに対し、あんなことはしないだろうと安心しました。ところが、またやったのです。これはショックでした。
 信者でもない私がクリスチャンの星野さんにこんなことを言うのは不遜かもしれませんが、相手のことがどんなに気に食わなくても、口汚く罵るのではなく、和解を求めるのがイエスの教えではないでしょうか。
 今でも私は、星野さんが悪い人間だとは思えません。けれども、しばらく時間をおいたほうがよさそうです。いつの日か、気持ちよく再会できることを願っています。

2025-03-17

「反インフレ経済勉強会」開講のお知らせ

反インフレ経済勉強会のマーク

インフレは税の一種です。しかも普通の税よりも悪質な税です。ところが、この事実はよく理解されていません。それどころか、多少のインフレはむしろ良いことだという嘘が、現在主流の国家主義的な、誤った経済学(ケインズ経済学)や、そこから派生した極端な説(MMT=現代貨幣理論など)によって広められています。

この勉強会で、そもそもインフレとは何か、インフレはなぜ税なのか、なぜ悪質なのか、インフレをなくすにはどうすればいいか、インフレから暮らしをどう守ればいいか、といったテーマについて、自由主義的な、正しい経済学(オーストリア学派)に基づいて、学びましょう(投資のノウハウを教える場ではありませんので、ご注意ください)。

勉強会は週1回(原則、火曜夜9〜10時)のオンライン形式です。代表・木村が自分のYouTubeチャンネルの動画を教材に、参加者の質問や感想を聞きながら、わかりやすく解説します。経済学の知識がなくても大丈夫です。毎回独立した内容ですから、休んでもついていけなくなる心配はありませんし、時々出るだけでも楽しむことができます。入退会は自由、参加は無料です。

勉強会はビデオ会議サービスのZoomを使いますので、参加の際は、使える環境を整えてください。ライブ配信やアーカイブ配信は参加者の同意があれば検討しますが、今のところ予定はありません。顔出しせず、ニックネームでの参加、聞くだけ参加もOKです(状況次第で見直す可能性はあります)。

勉強会のルールは一つだけ、「参加者が互いを尊重し、快適に学べる環境をつくる」。具体的には、「他の参加者の意見や質問を否定せず、ていねいに耳を傾ける」「異なる意見が出ても攻撃的な態度を取らず、建設的な対話を心がける」などです。このルールに度々違反した人は退会してもらいます。また、木村がソーシャルメディアなどで目にした言動から、このルールを守ることが難しいと判断した人は、かりに入会の申し込みがあっても、お断りします。

入会を希望される方は、下記の登録フォームから手続きをお願いします。承認後、参加方法や日程、当面のカリキュラムなどをお知らせします。

それでは、ぜひ参加をお待ちしています!

2025年3月
反インフレ経済勉強会代表
経済ライター・木村貴

2025-02-10

墨子の侵略戦争批判

墨子は、姓は墨、名は翟。その生涯については不明なところが多いが、魯に生まれ、手工業者階級の出身と伝えられる。若いころは儒学を学んだが、後に墨家の祖となった。

墨攻(ぼっこう)(1) (ビッグコミックス)

墨子は天の意志に基づく博愛主義である「兼愛」を説いたが、戦争が兼愛主義と相容れないことは言うまでもない。その著書とされる『墨子』には「非攻」の篇があって、戦争、とりわけ侵略戦争が道徳上の罪悪であることを詳述している(以下、原則として和田武司訳を参照)。

墨子はまず、次のように説く。ここに男が1人いる。この男が他人の果樹園に忍び入って、桃や季を盗んだとする。もしこの事実を知れば、誰もがこの男を非難するだろう。役人は男を捕らえて処罰する。自分の利益のために、人に害を与えたからである。

墨子は以下、「もしこの男が、他人の犬や羊、鶏や豚を盗んだとしたら、どうか」「他人の厩舎に押し入って、馬や牛を盗んだらどうか」「罪もない人を殺して、着物や剣を剥ぎとったとしたら、どうか」と問いを重ねていく。後になるほど、男の罪は重くなり、「以上のような場合、天下の君子は、いずれもみなこの男を非難し、不義と認めるだろう」と述べる。誰もが墨子の主張に同意するだろう。

しかし、と墨子はここで指摘する。「そういう君子であっても、他国を侵略するという大きな不義については、非難しようとしない。それどころか、かえって称賛し、他国侵略を「義」とみなしている。いったい、かれらは、本当に義と不義との区別をわきまえているのであろうか」

墨子は他国への侵略を最大の犯罪として、日常的に起こる犯罪の延長線上に位置づけ、その不当性を主張している。これは現代西洋の徹底した自由主義哲学であるリバタリアニズムに通じるものがある。

米経済学者ウォルター・ブロック氏は、リバタリアニズムの原則は「誰の権利も侵害していない者に対する権利の侵害(暴力の行使)は正当化できない」ということだとしたうえで、この原則を世の中のありとあらゆる場面に適用させようとする点にリバタリアニズムの特質があるという(『不道徳な経済学』)。たとえば、徴税は国家による暴力的な権利の侵害として批判される。戦争も同様だ。

墨子は続けて、同様の主張を別の表現でたたみかける。人ひとりを殺せば、不義であるとして、必ず死刑に処せられる。もしこの論理に従うとすれば、人を10人殺したときには、不義を10回犯したのだから、10回死刑に処すべきである。100人を殺せば、100回死刑に処すべきである。こういう犯罪については、天下の君子は、いずれもこれを非難し、不義と認める。

ところが、と墨子は再び指摘する。「他国侵略という大きな不義については非難しようとしない。それどころか、かえってこれを「義」とみなしている」

ここでの墨子の論理は、チャップリンの映画『殺人狂時代』の有名な場面を思わせる。チャップリン扮するベルドーは勤めていた銀行をクビになり、金持ちと結婚しては殺し、保険金を奪うようになる。逮捕され、裁判長に向かって言う。「なるほど、私は7人の女を殺した。生活のために……。だが、戦争で100万人の人間を殺した者は、罰せられない。勲章をもらい、英雄と呼ばれる。なぜです、なぜですか」

『墨子』非攻篇には、2つの「兵」が説かれている(湯浅邦弘『諸子百家』)。1つは肯定される「兵」であり、もう1つは否定される「兵」である。否定される「兵」は、「大いに非(不義)をなして他国を攻める」「季節や民情を無視していたずらに戦争を起こす」「無実の国を攻伐する」などで、要するに侵略戦争である。

これに対して、肯定される「兵」は、「誅」と「救」の語によって端的に示される。「誅」とは古の聖王が天命を受けて不義の暴君を罰するための誅罰であり、「救」とは大国から攻伐から弱小国を救済するための防衛戦である。このうち「救」の防衛戦が、まさしく墨者の活動にあたる。

墨家は、兼愛と非攻の理想を実力行使によって実現しようとした。単に戦争反対を叫ぶのではなく、軍事集団を組織して、弱小国の防衛にあたったのである。その実践体験の中から、城の防衛に関する様々な技術も編み出した。前述したように、墨家の非戦論は侵略に反対するもので、絶対平和主義ではない。正当防衛であれば実力行使を認め、その手段として外部の民間組織を活用する点は、やはりリバタリアニズムと共通する。

フィクションだが、墨家の防衛活動を具体的に描いた作品がある。漫画『墨攻』(作画・森秀樹、原作・酒見賢一)は、大軍にたった1人で立ち向かった墨者の物語だ。中国の戦国時代、趙の1万5000の大軍は燕の小さな梁城を落とそうと迫る。梁は墨家に救援を要請したが、やって来たのは革離というみすぼらしい、たった1人の墨者だった。革離は、様々な守城技術を駆使し、趙の攻撃を見事に跳ね返す。

あるとき、死を覚悟した革離は部下に対し「今度の戦でもし拙者が死んでも、拙者のなきがらは野ざらしにしといてくれ」と頼む。「そんな失礼なことは出来ません」と驚く部下に、革離は「いや、それが一番うれしいのだ」と答える。「何の報酬も望まず、他人に奉仕する墨者にとって、薄葬(手厚い葬式の反対の意)こそ最高の礼であった」と作者は説明する(単行本第3巻)。

中国哲学研究者の湯浅邦弘氏によれば、墨家は、ひたすら「天下の利」のために、侵略戦争を実力で阻止しようとする。一国の王に殉ずるのではなく、あくまで天下のために奔走するのである。彼らを支えるのは、墨者の「義」であり、王から与えられる褒賞ではない。

墨家は、儒家と天下の思想界を二分するほどの勢力を築き上げたが、秦帝国の成立以降、歴史上から忽然と姿を消す。秦帝国が法家思想に基づいて導入した中央集権的な郡県制と、封建体制の下、諸国家が平和に共存する世界を理想とする墨家思想の対立が原因だとみられている。

墨家は思想活動のためには武装を伴い、治外法権的集団を必要とするうえ、常に全世界的視野にのみ立ち、個人的信条としてはほとんど意味をなさないゆえに、漢代以降、諸学派が形を変えて復興する中にあって、ひとり墨家だけは、再生することなく絶学への道をたどることになった(浅野裕一『諸子百家』)。

戦争という国家の暴力が世界で頻発する現在、墨子の思想は再評価の価値がありそうだ。

2025-02-03

トランプ就任演説の光と影

ミーゼス研究所創設者・会長、ルーウェリン・ロックウェル
(2025年1月27日)

ドナルド・トランプが2期目の任期を開始するにあたり、私たちは当然、今後を予想したくなる。確かに、マルクス主義者のカマラ・ハリスが、脳死状態の「大統領」ジョー・バイデンの後任にならなかったことは喜ばしいが、その残念な大失敗者と比べて、トランプ大統領はどれほど改善されるのだろうか。今週のコラムでは、就任演説からいくつかの手がかりを得ようと思う。
トランプは非常に楽観的な口調で次のように述べている。「アメリカの黄金時代は今始まる。今日から、わが国は再び繁栄し、世界中で尊敬されるようになる。すべての国がうらやむ存在となり、これ以上、つけこまれることはない。わが国の主権は回復する。安全は回復する。正義の天秤は再び均衡する。司法省や政府による悪質で暴力的で不公平な武器化は終わる。そして、私たちの最優先事項は、誇り高く、繁栄し、自由な国家を築くことだ。アメリカは、まもなくこれまで以上に偉大で、強力で、はるかに卓越した国となるだろう。私は、自信と楽観的な見通しを持って大統領職に復帰する。なぜなら、私たちは国家的な成功のわくわくするような新しい時代の始まりに立っているからだ。変化の波が国を席巻し、世界全体に陽光が降り注いでいる。そして、アメリカには、この機会をこれまでにないほどつかむチャンスがあるのだ」

ここで強調されているテーマは「強さ」である。アメリカは他国から尊敬され、羨望の的でなければならない。そして、この目標を達成するには、これまで以上に強くなる必要がある。ロスバード派にとって、これは間違っている。私たちは、他国とどちらが強いかを競い合うべきではない。むしろ自分のことに専念し、他国と平和的な関係を築くべきだ。一方で、この幕開けには良い点もある。特に、「悪質で暴力的かつ不公平な司法省の武器化」との戦いについてはそうだ。私たちの真の戦いは、「目覚めた」左派との戦いであるべきだ。

トランプは、私たちに警戒を促すべきもう一つの発言をしている。彼は自分自身に対して無限の信頼を寄せており、神が彼を「偉大さ」を取り戻すためにアメリカに呼び寄せたと主張している。「ほんの数か月前、ペンシルベニア州の美しい野原で、暗殺者の銃弾が私の耳を貫通した。しかし、私はそのとき、そして今ではさらに強く、自分の命は理由があって救われたのだと感じている。私はアメリカを再び偉大にするために神によって救われたのだ」。ロスバード派はリーダーを望んでいない。重要なのは政府の権力を減らすことであり、増大させることではない。ロン・ポールは決してこのようなことは言わない。

このスピーチで最もすばらしいのは、トランプが、私たちが「目覚めた」左派と戦う必要があることを認識している点である。彼は、マイノリティを優遇する連邦政府の雇用要件を廃止し、伝統的な家族を破壊することを目的としたトランスジェンダー政策に対する政府の支援を打ち切るだろう。「今週、私はまた、公私にわたるあらゆる側面で人種やジェンダーを社会的に操作しようとする政府政策を廃止する。本日をもって、今後はアメリカ政府の公式政策として、性別は男性と女性の2つだけであるとする。そして、勤務中に過激な政治理論や社会実験の対象となることを、我が国の戦士たちに止めさせる命令に署名する。即座に終了させる」

また、トランプが外国での戦争に関与しない意向を示していることも、私たちを勇気づけている。「私たちは、勝利した戦いだけでなく、終結させた戦争によっても、そして、おそらく最も重要なのは、参加しなかった戦争によっても、その成功を測るだろう。私の最も誇らしい遺産は、平和の使者であり、調停者であることだ。それが私のなりたい姿だ。平和の使者であり、調停者なのだ」。しかし、他国に平和的解決を押し付けるのは私たちの仕事ではない。トランプがプーチンにウクライナ戦争を終わらせろ、「さもなければ」とメッセージを送ったのは良いニュースではない。

トランプは、インフレ対策、政府支出の削減、グリーン・ニューディールの終了が必要だと正しく言っている。もう一度言うが、トランプがカマラ・ハリスを破ったことを喜ぶべきだ。「インフレ危機は、大規模な浪費とエネルギー価格の高騰によって引き起こされた。私の今日の行動により、グリーン・ニューディールは終了する。つまり、自分の好きな車を購入できるようになる」。しかし、インフレを終わらせるには、さらなる紙幣の印刷を止め、連邦準備理事会(FRB)を廃止し、金本位制を復活させることだ。

インフレを終わらせるには、アメリカの消費者を傷つける関税や貿易制限を課さないことだ。関税は価格を吊り上げる。関税は、アメリカが他国に税金を支払わせる魔法の公式ではない。私たちは自由市場が妨げられることなく機能することを許容するべきであり、アメリカの製造業の雇用を増やそうとする産業政策を課すべきではない。トランプはこのことを理解していない。「我々は、ほんの数年前までは誰も想像できなかったようなペースで、再びアメリカ国内で自動車を生産する。私は、アメリカの労働者と家族を守るために、貿易制度の改革を直ちに開始する。他国を潤すために自国民に課税するのではなく、自国民を潤すために外国に課税するのだ。マッキンリー大統領は関税によって我が国を非常に豊かにした」。とはいえ、トランプが、いわゆる「貿易協定」の多くは政府管理の貿易であり、真の自由貿易ではないと指摘しているのは正しい。そして、私たちはそれらの協定から脱退すべきである。

私たちが、トランプが言うように平和を望むのであれば、アメリカの領土を拡大しようとしたり、パナマ運河を乗っ取ろうとしたり、それに関して中国と戦争をしたりすべきではない。「アメリカは、つまり、考えてみてほしい。これまでにないほど多額の資金を投じ、パナマ運河の建設で3万8000人の命を失った。決して行うべきではなかった愚かな贈り物によって、私たちはひどい目に遭わされた。パナマが私たちに約束したことは破られた。私たちの取引の目的と条約の精神は完全に踏みにじられたのだ。アメリカの船は、あらゆる面で厳しく過剰請求され、公平に扱われていない。それにはアメリカ海軍も含まれる。そして何よりも、パナマ運河は中国が運営している。私たちは中国にそれを与えたわけではない。私たちはパナマにそれを与えたのだ。そして、私たちはそれを取り戻す」。1世紀前に私たちがプロジェクトに資金を提供したからといって、現在それを所有しているという主張は有効ではない。

また、トランプが「今日はキング牧師の日だ。彼の名誉を称え、我々はともに彼の夢を現実のものとするために努力する。我々は彼の夢を実現させる」と述べたことにも落胆した。キング牧師は親共産主義の扇動家であり、彼の「夢」はアメリカを社会主義国に変えることだった。

問題はあるものの、トランプのスピーチには多くの優れた点がある。私たちは、彼がこれらの政策を実施するよう全力で働きかけ、自由市場と不干渉主義の外交政策を支持するよう強く促すべきだ。

野望は偉大な国の活力の源であり、今、私たちの国は他のどの国よりも野心に満ちている。私たちの国のような国は他にない。

(次を全訳)
A New President Takes Office - LewRockwell [LINK]

【コメント】故マレー・ロスバードとともにミーゼス研究所を設立したロックウェル氏による、バランスの取れたトランプ新大統領評。全体としてはトランプ氏に期待を寄せながらも、リバタリアンとして批判すべき点はしっかり批判している。これがシンクタンクや言論人の果たすべき役割だろう。トランプ氏やアルゼンチンのミレイ大統領の問題点に目をつぶり、ひたすら持ち上げるのは、シンクタンクではなく応援団である。

2025-01-26

ミレイ氏は債務支払いを拒絶せよ

オスカー・グラウ(音楽家)
2025年1月20日

ハビエル・ミレイがアルゼンチン大統領に就任した2023年12月、アルゼンチンの公的債務は約3700億米ドルで、アルゼンチンの国内総生産(GDP)のほぼ60%を占めていた。この債務は、公的部門、民間部門、二国間組織、多国間組織(国際通貨基金=IMFもそのひとつ)に分かれる。実際、21の協定の歴史を持つアルゼンチンは、IMF最大の債務国である。そして、ミレイ政権がいくらかの融資を受けた最後のIMFプログラムは、2022年に始まった。


公的債務

融資取引が行われるとき、債権者は、一定期間内に利息をつけて返済するという約束と引き換えに、債務者に金額を振り込む。しかし、債務者が取引を完了せず、期限内に返済しなかった場合、債務者は債務不履行となり、債権者は元本と利息を回収するために契約上の救済手段を用いることができる。しかし、政府が借金をする場合、政府当局者は自らの資金を担保にするわけでも、自らの名誉をかけて返済を約束するわけでもない。政府は債権者からお金を受け取り、そのお金は納税者の懐から返済されることを両者は知っている。

したがって、公的な債権者は、後で税金の分け前を受け取るために、今すぐお金を渡すことをいとわない。他人の財産について契約を結ぶことは、両当事者が財産権の侵害に加担することになる。これは正当な契約ではない。そして、契約の当事者でない者が果たすべき義務を伴う契約は無効であり、そのような 「債務者」に対して強制することはできないというのが、民法とローマ契約法の共通の原則である。したがって、私有財産と契約の枠組みを公的信用に適用することはできない。しかし、この問題で私有財産と正義が勝利するためには、人々は単純に私法の原則を守り、公的債務に対してもそれを守るよう要求すべきである。

それにもかかわらず、政府は資金を調達するために金融市場を利用し、債券を発行する。政府が自国民から金をむしり取る可能性は事実上無限にあるため、これらの証券の買い手にとってリスクは通常非常に低く、政府に金を貸し、利子から利益を得てリターンを得る個人にとって、国債は安全な投資形態となっている。さらに、政府が支配する中央銀行は、同じ政府から国債を購入し、公的債務を直接マネタイズ(財政ファイナンス)することもできる。したがって、通常、国債市場で流動性が低下するという問題は起こらない。それでも、国債はリスクがないわけではない。政府がその債務を拒絶することもあれば、政権が変われば、借金の存在を証明する文書の尊重を拒否することもある。それはともかく、すべての国債の満期のための現金は、税金かインフレからしか得られない。結局、国債市場には不正しかないのだ。

矛盾と混乱した思考

ミレイが長年にわたって問題視してきたように、公的債務の問題は、将来の黒字、つまり将来の税金で、将来の世代を犠牲にして返済しなければならないことであり、それは不道徳であり、将来の世代に対する詐欺であると彼は考えた。しかし、大統領選の月(2023年10月)、ペソ建ての債務不履行の可能性について質問されたミレイは、IMFとの話し合いと、「契約と財産権」が尊重されることを保証し、債務を「尊重する」と約束したことに言及した。それなのに、2024年6月、ミレイは、債務を負うことは 「絶対に不道徳な対処法 」だと言って、公的債務に再び反対を表明した。

第一に、最低限、現世代はすでに様々な政府債務の年利を日常的に支払っている。第二に、ミレイは、公的債務の契約は不道徳だが、返済は契約と財産権を尊重することだから、不道徳ではないと主張しているように見える。しかし、これは矛盾している。すなわち、確かに、合法的な融資取引は当事者が自発的に契約条件に同意することで成立するのだから、返済とは、まさに融資契約において財産権を尊重することで始まった取引の完了にすぎない。しかし、公的な融資契約においては、財産権は尊重されず、したがって公正な契約は成立しない。したがって、公的債務の履行を道徳的義務と考えることは、その契約を不道徳なものと考えることと衝突する。

債務と債務負担

ミレイの債務に対する道徳的抵抗が本物かどうかは別として、アルゼンチンは2024年7月に米州開発銀行(IDB)から融資の承認を受け、2024年10月にも融資が確定した。ミレイ政権下の財政黒字にもかかわらず、対外債務は2024年第3四半期までに50億ドル減少したものの、総公的債務は2024年6月までに720億ドル増加していた。この月、ミレイはアルゼンチンが近代史上最大の債務不履行国になったと振り返ったが、それを変えようとしていると指摘した。そして実際、ミレイ政権はそれを変えているだけでなく、納税者の​​犠牲のもとで少数の利益のために金融市場を支え、資本と外貨の義務を含めて、アルゼンチン国民が長年拒否してきた通貨の相対的な再評価に資金提供するよう納税者に強いている。

実際、アルゼンチンでは慢性的なインフレと社会危機が何十年も続いてきたため、国民は貯蓄や計算にはドルを好むようになっていた。そのため、2023年末には、国内金融システム外に約2780億ドルが存在するようになっていた。

確かに、公的債務総額の増加は、中央銀行の債務の大半が財務省に移管され、中央銀行が商業銀行への債務返済のために新たにペソを大量に印刷する必要がなくなったことで、かなりの程度説明できる。また、両政府機関の債務を考慮した場合、2024年10月とミレイが着任する前月の2023年11月を比較すると、債務総額は190億ドル減少した。しかし、それでも財政黒字で返済される見込みである財務省の債務負担は増加している。一方、ミレイ政権の財政均衡のやり方は、何よりもまず債務債務の利子と元本を支払う能力を確保する点に重きを置いている。

少し前にミレイは、2024年はアルゼンチン史上初めてデフォルト(債務不履行)を伴わない財政黒字の年になると強調し、最後に財政収支がプラスになったのが2014年だったことを思い起こさせ、これは債務の満期金を支払わないことで達成されたと強調した。それなのに、アルゼンチンがこれほど頻繁に危機と社会不安に見舞われているのは、デフォルトのせいではなく、そもそも政治指導者が借り入れを求めるようになった政策のためであり、経済と納税者をさらに苦しめるのは債務と返済なのである。

ミレイと支払い拒絶

ミレイが長年にわたって政府に反対し、経済学者でリバタリアンであるマレー・ロスバードの言葉を引用してわめき散らしてきたことを考えれば、ミレイは大統領選中、公的債務に関するロスバードの教えを適用し、広め、少なくとも何らかの意味のある政府債務の拒絶を提案したと考えるのが自然だろう。それなのに、ミレイの公約である債務の支払いと銀行システム内のペソの救済(彼は「市場救済」と呼んだ)は、彼が無政府資本主義者として憎んでいるはずの政府が発行した債務から利益を得た、公的債権者の支援を含んでいた。加えて、公的債務の外国人および民間所有が、信用低下と過去のデフォルトによってすでに抑制されていたとすれば、ミレイの公約がアルゼンチンの納税者のためにならないことは明らかだろう。

2025-01-19

ミレイ氏のインフレ政策

サイファディーン・アモウズ(エコノミスト)
2025年1月10日

アルゼンチン経済の奇跡に興奮する人々は、あらゆる政府統計に基づいてそのように考えているが、そこから除かれている最も重要な統計がある。マネーサプライ(通貨供給量)の測定と公的債務の増加だ。

自由市場派で(リバタリアンの経済学者)マレー・ロスバードの信奉者とされる(ハビエル・ミレイ)新大統領の下、2024年のアルゼンチンのマネーサプライは、以下の驚くべき割合で増加した。

M0:209%
M1:133%
M2:93%
M3:123%

大局でとらえるために、これらの数字が、アルゼンチンが世界最悪の機能不全に陥った不換通貨の国としてその名を轟かせた、以前の数年をはるかに上回っていることに注目してほしい。

2020〜23年の4年間、アルゼンチンのマネーサプライが示した年平均増加率は以下のようだった。

M0:50%
M1:77%
M2:90%
M3:86%

ミレイ大統領領の就任後6カ月で、公的債務は3700億ドルから4420億ドルへと、驚異的な19.4%の増加となった。6カ月で720億ドルの借金をすれば、どんな経済統計も良く見えるが、もちろん問題は長期の影響である。お金を印刷して借り入れをすれば、短期の成長、貧困、失業、インフレの数値を良く見せることができる。こうして、目先の利益を追求する代償を将来に転嫁し、法外な金利を支払うことになる。事態がこれ以上悪くなることはないだろうと考えていた人々は、考え直す必要があるかもしれない。

ミレイ氏が選挙運動中、中央銀行の廃止を公約に掲げ、それは譲れないとまで述べていたことを思い出してほしい。それなのに就任するとすぐに、そのような話はすべて無視され、中央銀行を閉鎖することは政治的に非常に不人気であるという手の込んだ話に置き換えられた。この点において、ミレイ氏は政府がインフレを正当化する際に用いる常套手段である、国家主義の巧みな言い回しを余すことなく取り入れている。すなわち、インフレを止めることによる短期の痛みが非常に大きいので、インフレ路線を継続し、長期の影響を無視するほうがいいというのである。実際にはアルゼンチン中央銀行は破綻しており、この現実を早く認識すればするほど、克服も早くなる。中央銀行を救おうとしても、債務を積み上げることでしかできず、それは将来の問題をさらに悪化させる。この点において、ミレイ氏は将来を犠牲にして目先の救済を求める、これまでのすべての前任者たちと何ら変わりはない。

ミレイ氏はまた、公的債務の不履行(デフォルト)も拒否している。これは国民を、前任大統領たちの乱費による永遠の債務奴隷状態から解放する、ロスバード流の解決策となっただろう。対外債務の不履行と中央銀行の閉鎖は、数カ月の苦しい調整を余儀なくさせるだろうが、その後アルゼンチン経済は、政府がインフレを引き起こしたり、国民に負債を負わせたりする可能性もなく、堅実な基盤の上に回復するだろう。そのような経済では、おそらく外貨とビットコインが支配的になるだろう。そして政府は必然的に、通貨を印刷できないという事実によって制限されることになる。

ミレイ氏は中央銀行を閉鎖せず、マネー増発を容認することで、アルゼンチンの将来に通貨危機の種をまいている。デフォルトを宣言せず、前政権で国に災厄をもたらしたのと同じ銀行家たちを雇うことで、国際通貨基金(IMF)からの新たな救済を熱望しているように見える。それはアルゼンチン国民を世代を超えた負債の奴隷にし、さらなる財政危機を将来にわたって背負わせることになるだろう。驚くことではないが、ミレイ氏は大幅な増税をしようとしており、オーストリア学派経済学に対するその理解は、テレビで陳腐な決まり文句を繰り返す以上のものはないことを示している。政府の借金を増やすために増税することは、国際銀行カルテルとIMFの犯罪者たちを利する、アルゼンチン国民に対する犯罪である。これはIMFのケインズ主義者たちが推し進める専制的な処方箋であり、真の経済学者が支持するものとはまったく関係がない。

ミレイ氏が財政赤字を削減したことは大々的に取り上げられたが、これはそれほど重要なことではない。アルゼンチンの問題は、財政赤字が大きかったことではない。赤字はたいてい、国内総生産(GDP)の4%以下とかなり低く抑えられていた。これは大きなインフレや財政問題のないヨーロッパ諸国と同じ範囲である。問題は常にマネーサプライの増加と公的債務にあり、ミレイ氏の下で、この両方が前例のないほど加速した。

ミレイ氏はさらに追い打ちをかけるように、アルゼンチンに残されたわずかな金(ゴールド)を、いくばくかの収益を求めてロンドンに送った(訳注・借り入れの担保にしたとみられる)。カウンターパーティーリスク(取引先の破綻リスク)のない、政治的に中立な通貨資産(金)を質入れして、小銭を稼ごうとする姿勢は、信頼感を呼び起こすものではない。歴史家のニール・ファーガソン氏は著書『マネーの進化史』の中で、アルゼンチンの経済問題がどのようにして始まったかを詳しく説明している。1946年に当時のペロン大統領が中央銀行を訪問し、そこに大量の金塊が眠っていることに驚いたのがきっかけだった。当時、アルゼンチンの金準備高は1000トンを超えており、ペロンとその後継者は、本来は国民の通貨を裏付けるべき金準備を切り崩して、支出を賄うという誘惑に抵抗することができなかった。その結果、過去80年にわたる惨事が起こったのである。何十億パーセントものインフレと数え切れないほどの債務不履行を経て、アルゼンチンの金準備高は現在では61トンにすぎない。ミレイ氏は最後の準備資産を質入れし、目先の利益を手に入れ、借金返済を続けてIMFからの新たな融資を受けられるようにしたことで、ペロンのインフレ政策の遺産を論理的に完結させた。アルゼンチンは今、自国の資金を持たず、政治的・経済的リスクをはらんだ外国銀行からの負債だけが膨れ上がっている。このペロン主義者(=ミレイ氏)が自らの行動を正当化するためにロスバードを引き合いに出すたびに、ロスバードは墓の中で顔をしかめていることだろう。

このデータは驚くべきものであり、誇張とは正反対のものである。しかし、このデータがなぜ間違っているのかを証明できる人がいるのでない限り、ミレイ氏は自由主義や自由市場の美辞麗句を声高に主張するにもかかわらず、長期のインフレと負債によって短期の人気を得ようとする、典型的なラテンアメリカのポピュリスト的インフレ主義者であり、ペロン以降のアルゼンチンの指導者たちと本質的には何ら変わらない。ミレイ氏の自由市場に関する大げさな言い回しが達成したとみられることは、アルゼンチンの貧しい人々をだまして、ビットコインのような有効な代替策を見つける代わりに、機能しなくなった中央銀行を再び信頼させることだけだ。ミレイ氏の反社会主義的な美辞麗句は耳に心地よく、そのヒステリックな行動、絶え間ない感情的な叫び、勝利を誇示するような芝居がかった態度は、一部の人にとっては面白いかもしれない。しかし、勝利を祝う人々に運命が残酷な仕打ちを与えるのは、よくあることだ。

私的な意見を述べさせてもらえば、ミレイ氏が最近(経済学者)ハンス・ヘルマン・ホッペ氏に対して行った攻撃は馬鹿げていると思う。ホッペ氏の主張はまったく正しい。すなわち、ミレイ氏は中央銀行の閉鎖も、(政府債務の)デフォルトもしていない。これらは経済を理解し、権力よりもアルゼンチン国民の幸福に関心のある人であれば、正しい行動だっただろう。ミレイ氏は単にホッペ氏を侮辱し、経済を理解していない愚か者呼ばわりしただけだ。それにもかかわらず、ミレイ氏は中央銀行を維持するための実際の経済論を提示するのではなく、ケインズ派の教科書からそのまま引用した政治論を展開した。これは歴史上のあらゆる社会主義者やケインズ派の政治指導者が用いてきた議論と同じものだ。すなわち、インフレは今、短期的に必要である。なぜなら、それを止めることによる政治的コストはあまりにも壊滅的なものとなるから、というものだ。

これを経済学に関する深い洞察であるかのように装うのは馬鹿げている。これは単に、ミレイ氏が権力を維持するための政治戦略論にすぎない。ミレイ氏やその同僚の社会主義者、ケインズ主義者が正しいかどうかはさておき、中央銀行制度を擁護する最も単純で愚かな政治的論拠を理解していないという理由で、ホッペ氏を経済学に無知だと呼ぶのは馬鹿げている。ホッペ氏が学者であるのに対し、ミレイ氏は現実世界の指導者として成果を上げているという理由で、ホッペ氏が経済を理解していないとほのめかすのもまた、無意味である。ホッペ氏、あるいは16歳の少年の誰かでも、アルゼンチンに6カ月で720億ドルの負債を負わせ、1年で通貨供給量を2倍に増やせば、ミレイ氏がアルゼンチンで達成したのと同じ成果を上げることができる。

それよりも、ミレイ氏自身が選挙運動中、なぜ中央銀行の閉鎖が不可欠であり、譲歩できないと主張していたのかを説明したほうが、はるかに有益だったろう。ミレイ氏もまた、経済を理解していない愚か者だったのだろうか。それとも、自分が攻撃の標的にして名を馳せたような、嘘つきで日和見主義のインフレ政治家たちと同じような人物だったのだろうか。

(次を全訳)
Javier Milei One Year Assessment [LINK]

【コメント】筆者アモウズ氏は『ビットコイン・スタンダード』(邦訳あり)などの著書のある、オーストリア学派エコノミスト。リバタリアンを自称するミレイ・アルゼンチン大統領の1年間の政策運営をデータに基づき検証したうえで、看板に偽りありとして厳しく批判している。データが示すところによれば、ミレイ氏の政策は、通貨供給量と政府債務を膨らませ、それによって目先の景気回復を演出するインフレ政策である。ミレイ氏の政策には一部評価するべき点があるかもしれないが、財政・金融政策でケインズ主義的な悪政を繰り広げるようでは、そんなプラス面は吹き飛ぶ。日本ではアベノミクスというインフレ政策によって引き起こされた経済の疲弊が深刻になり、それをごまかすために、一部の政治家がさらなるインフレを主張するという、末期的な様相を呈している。一部のリバタリアンが熱狂的に支持してきたミレイ氏も、それに似た徒花にすぎなかったのだろうか。政治家は勇ましい演説ではなく、結果によって評価されなければならない。真実は時とともに明らかになるだろう。

2025-01-12

孫子、戦わないことが最善

『孫子』は中国・戦国時代の兵法書として名高い。武人で兵法家の孫武(孫子)が著し、後継者たちによって徐々に内容が付加されていったと考えられている。合理的な哲学に貫かれ、時代を超えた普遍性を持つ。その最大の特色は、戦争の方法を説いた書でありながら、戦わないことを最善とすることにある。

孫子 (講談社学術文庫)

孫子の軍事思想の原則の一つは、「戦いに勝利を収めることを論ずる兵法書でありながら、なるべく実際の戦闘をしないよう説くことにある」と中国史学者の渡邉義浩氏は指摘する。それを象徴する言葉が「百戦して百勝するは、善の善なる者にあらざるなり」(謀攻)である(引用は原則、渡邉『孫子』による。表記を一部変更。カッコ内は篇名)。

諸子百家と呼ばれる古代中国の思想家のうち、王道政治を理想とする儒家の孟子は、覇者の行う戦争を否定した。無差別平等の愛である兼愛を説いた墨子は、侵略戦争を絶対的な悪と考え、侵略された者を守ることで「非攻」を貫こうとした。

これらに対し孫子は、戦いを善悪により判断しない。戦いはすでに現実として存在するものとしてとらえる。そのうえで、相手を自分に従わせることを戦いの目的と考え、相手をなるべく傷つけずに自分に従わせようとする。それを「戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり」(同)と表現している。

戦わずに敵の軍を屈服させるための具体的な弊の用い方を4種に分類して、その優先順位を述べる。①上策は、外交策や離間策などの奇策をめぐらし、戦わずに勝利を収めることだ。②次善の策として、戦いがちょうど始まろうとする出端を討つ。③整った陣の兵を討つことは、もはや勧められることではなく、④城を攻めることは下策である。城攻めのような包囲策は、敵の10倍の兵力が必要だという。

孫子の大きな特徴は、勝敗を事前の計算で予測するような合理性にある。古代の君主は宗廟の前で戦争の吉凶を占った。これに対して、孫子は宗廟で占いをするのではなく、軍議を開いて敵軍と自軍の有利・不利な条件を比較して、数え上げていくべきだとする(始計)。「勝算」という言葉はこれを起源とする。

孫子の合理性は、戦争が多額の資金を費やし、国を経済的に滅亡させることを説くところにも表れる。用間篇によれば、10万の兵を起こして、1000里の彼方に遠征すると、1日ごとに1000金を費やすという。前出の渡邉氏によれば、漢代では「中家」、すなわち中産階級の総資産は10金とされる。現代の総資産の中央値を1000万円とすると、1000金は10億円となる。100日間にわたり戦争をすれば、1000億円が吹き飛ぶ。

戦争の負担は直接的なものに限らない。孫子によれば、10万の兵を起こして1000里の彼方に遠征すると、耕作に携われない者が70万家にも及ぶという。漢代では一家は平均5人より構成され、2人を働き手とするから、140万人分の働きを奪われることになる。出兵の規模が増え、遠征地が遠くなれば、負担はさらに大きくなる。

莫大な費用がかかることは、戦争に勝ったとしても同じである。このため謀攻篇では、すでに触れたように、「百戦して百勝するは、善の善なる者にあらざるなり」と述べ、すべての戦いに勝利したとしても、それが最善ではなく、避けられる戦いは避けるべきだと主張するのである。

それでも、たとえば侵略戦争を仕掛けられた場合、戦わなければ国家は滅亡する。このような場合、孫子は孟子や墨子のように反戦を主張するのではなく、戦争に莫大な費用がかかることを踏まえたうえで、どのように戦うべきかを実践的に示す。それは、とにかく戦いを長引かせないことだ。

作戦篇によれば、「戦争には(巧みでなくとも速さで勝つ)拙速は聞くことがあるが、巧みであっても長期にわたる(巧遅という)ものはない」。「拙速」は、現代の日本語では悪い意味でしか使わないが、兵は「拙速」であることが求められ、巧みでも遅い「巧遅」は求められない。長期間の戦争を行うことが不利であることは、経済的な負担の大きさだけではない。勝利はしたものの、力も財も尽きたことを見た他国が、自国に攻め込んで来ることも、警戒しなければならないのである。

孫子の合理性を示すもう一つの主張は、情報の重視だ。綿密な情報分析を客観的に行うことができれば、実際に戦う前に勝敗は決していよう。

敵の情報を得るために中心となるものは、間(間諜、スパイ)である。『孫子』は、最後にスパイの重要性を説いた「用間篇」が置かれているのが、非常に大きな特徴となっている。今では常識とされているが、当時において、戦争における情報の大切さを説いたのは画期的だった。

中国哲学研究者の湯浅邦弘氏によれば、それまでの戦争とは、事前の情報収集に腐心するというよりは、とにかく現場に行って奮闘してみようというものだった。ところが孫子は、情報こそが勝敗を決める、情報の収集と分析によって勝敗の8割がたは決まってしまうと喝破したのだ(『老子x孫子』)。

「彼を知り己を知らば、百戦してあやうからず」(謀攻)という有名な一節は、現代風にいえば「インテリジェンス」、つまり諜報活動、情報収集などをきちんとすべきだということを、すでに2500年前に言っているのだから、「大変な驚き」だと湯浅氏はいう。

古来最も代表的かつ最もすぐれた兵書と目される『孫子』を読み進めていくと、孫子は「戦争に勝つ」ことを至上の目的とは考えていないこと、少なくとも正面切った戦闘で敵を打ち破ることを至上の目的とは考えていないことがわかってくる。孫子の兵法の真髄は「戦わずして勝つ」ことであって、それはスパイや謀略などによって達成すべきものなのだ。

スパイや謀略というと、卑劣な手段であるかのように軽視・侮蔑されがちだ。だがそれでは勝利はおぼつかないし、無謀な戦闘によって多大な人命・財産を犠牲にすることになる。中国哲学研究者の浅野裕一氏は「陰謀や裏切り、虚偽や冷酷が渦巻く諜報の世界にこそ、戦争の惨禍を最小限に押さえ、国家と民衆を救済せんとする、高貴な精神が脈打っている」(『孫子』)と指摘する。

2024-12-28

木村貴の経済の法則!(2024年)

  1. 株高をもたらす最大の要因は? 「ファンダメンタルズ」ではない(2024/1/12
  2. お金の量の変化で株価の先行きを占う 注意が必要なポイントとは?(2024/1/19
  3. インフレに最も強い運用手段は? 実質課税に対抗しよう(2024/1/26
  4. ハイパーインフレとは何か? そのとき株価はどうなる?(2024/2/2
  5. 米大統領選、誰が勝てば株高に? 民主・共和政権のパフォーマンスを点検(2024/2/9
  6. 長期の株高をもたらす政治指導者とは? 米大統領ランキング、上位は意外な顔ぶれ(2024/2/16
  7. 日本株、バブルの轍を踏まない3条件【日経平均、一時最高値】(2024/2/22*臨時解説
  8. 景気って何だろう? 株価との関係は?(2024/3/1
  9. 不況は買い、好況は売り 株と景気の奇妙な関係(2024/3/8
  10. 財政出動で株は買い? 判断のポイントはここ(2024/3/15
  11. 日本株、ここから始まる「正常化相場」 創造的破壊にかじを切れ【日銀、マイナス金利解除】(2024/3/19*臨時解説
  12. 財政危機は株投資のチャンス インフラ整備、「官から民へ」加速へ(2024/3/22
  13. 独禁訴訟、GAFA株の重しに? 競争を促すというけれど…(2024/3/29
  14. ロックフェラーに学ぶ投資の極意 石油王を襲った悲劇とは?(2024/4/5
  15. 世界経済の未来が明るい理由 グローバル資本主義の「静かな革命」は続く(2024/4/12
  16. 金が買われる本当の理由 不換紙幣への信頼揺らぐ(2024/4/19
  17. 戦争は経済にとって有益か? 第二次世界大戦や朝鮮戦争で検証(2024/4/26
  18. 円の凋落、放蕩政治のツケ【一時1ドル160円台】(2024/4/30*臨時解説
  19. お金って何だろう? ロビンソン・クルーソーに学ぶ基本のキ(2024/5/10
  20. 金と銀がお金になったのはなぜ? ピノッキオが理解しなかったその理由(2024/5/17
  21. 民力奪う国債の供給過剰、市場が警告【長期金利、11年ぶり1%到達】(2024/5/23*臨時解説
  22. 金本位制って何だろう? マネー乱造に歯止め、復権機運も(2024/5/24
  23. インフレという言葉の謎 本当は「物価上昇」ではない?(2024/5/31
  24. 産業育成は政府の仕事か? むしろ発展を妨げた戦後の歴史(2024/6/7
  25. 「五公五民」じゃ豊かになれぬ 経済復活のカギは減税(2024/6/14
  26. ウクライナ発、経済危機の足音(2024/6/21
  27. 金融危機はなぜ起こる? 名作映画に学ぶシンプルな解決法(2024/6/28
  28. 金利を決めるホントの要因 のび太もジャイアンも得する取引とは?(2024/7/5
  29. マイナス金利のファンタジー 現実逃避のツケはこれから?(2024/7/12
  30. 無税社会は「北斗の拳」の暗黒世界か? 国税庁の偏ったメッセージ(2024/7/19
  31. 「金本位制」復活は時代錯誤か? あの「マエストロ」が金融政策のお手本に(2024/7/26
  32. 南米の豊かな国をなぜハイパーインフレが襲ったのか? 経済を四半世紀で破綻させた介入政策(2024/8/2
  33. 大恐慌への道を避けるには? 政府の「景気対策」にご用心(2024/8/7*臨時解説
  34. フランス革命、恐怖政治生んだ高インフレ 不換紙幣の大量発行が破滅もたらす(2024/8/9
  35. 巨大帝国はインフレで滅びる ローマと米国、経済失政そっくり(2024/8/23
  36. 中央銀行が金を爆買いする理由 揺らぐドルの信認、1万ドル目指す? (2024/8/27*臨時解説
  37. ハイパーインフレになったらどうするか? ジンバブエに学ぶサバイバル術(2024/8/30
  38. ルパン三世はなぜ偽札を捨てたのか? 「カリオストロの城」が示す不換紙幣の罪(2024/9/6
  39. 東京海上アセット・平山氏「インフレ時代、株の選別投資強まる」(2024/9/10*臨時解説
  40. 経済学者ケインズ、5つの「迷言」 その主張はなぜインフレと財政危機を招いたのか?(2024/9/13
  41. インフレ税を知っていますか? お金の価値を奪う見えない税金(2024/9/20) 
  42. 税金は「社会の会費」ってホント? 貧しい人を助ける効果は…(2024/9/27
  43. 日本政治、危機目前でも針路変わらず 約80年前のハイパーインフレと預金封鎖が鳴らす警鐘(2024/9/30*臨時解説
  44. 最初のノーベル平和賞はなぜ経済学者だったのか? 自由貿易は戦争のリスクを減らし、繁栄をもたらす(2024/10/4
  45. 経済対策が経済停滞を招く ノーベル賞経済学者ハイエクはYouTubeで何を警告したか?(2024/10/11
  46. デフレは経済問題じゃない、国語問題だ! いまだに続く「不況」との混同(2024/10/18
  47. ハイパーインフレと預金封鎖、そのときどうする? 終戦直後の日本に学ぶサバイバル術(2024/10/25
  48. 総無責任だった総選挙 亡国の「財政ファイナンス」に歯止めかからず(2024/10/28*臨時解説
  49. 減税は「バラマキ」という嘘 政府の施しではない!(2024/11/1
  50. ドルは再び偉大になれるか 米、トランプ次期政権でも債務膨張の恐れ(2024/11/7*臨時解説
  51. 赤字国債はもうやめよう 禁止のはずが今や「恒例」(2024/11/8
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  53. ポピュリズムとは何だろう 大衆迎合か、民主主義への警鐘か?(2024/11/22
  54. 自由より「安心安全」が大切か? 「カラマーゾフの兄弟」が突きつける問い(2024/11/29
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  58. 金融市場関係者が選ぶ、2024年10大ニュース 首位はやはりあの出来事!(2024/12/23*臨時解説
  59. 小さな政府で大きな自由を 国債頼みの「減税」は偽り(2024/12/27

2024-12-21

ミレイ大統領とホッペ氏の亀裂

ラ・ナシオン誌
(2024年12月12日)

アルゼンチンのミレイ大統領がかつて影響を受け、今では「リベルタクレイジー(古典的)リベラル」と呼ぶハンス・ヘルマン・ホッペ氏とは何者か?
ホッペ氏は、ミレイ大統領に影響を与えたドイツの古典的自由主義者であり、無政府資本主義の哲学者である。同大統領の属するオーストリア学派のもう一人の指導者、マレー・ロスバード氏の親しい共同研究者であった。

ミレイ大統領は、ストリーミング番組でゴルド・ダン氏と行ったインタビューで自政権の要点を分析し、アルゼンチンの「デフレ」や原発「アトゥチャ3」建設の進捗状況など現在の問題に言及した。しかし、影響を受けた一人でありながら最近距離を置いているホッペ氏を厳しく批判した。

同大統領は対談中、古典的自由主義と無政府資本主義のドイツの経済哲学者ホッペ氏に言及した。ホッペ氏はミレイ氏の師匠だったが、2か月前、両者の間に意見の相違が生じた。75歳のホッペ氏が「財産自由協会」で講演した際、ミレイ大統領の政権運営を分析して批判を展開するとともに、同大統領の米政府への忠誠を疑問視したためだ。

ミレイ大統領は(ホッペ氏の)講演について次のように語った。「恥ずかしいことだった。彼は哲学についてよく知っていて、哲学的には優れた無政府資本主義者かもしれないが、政治と通貨理論に関しては愚か者だ。彼は(インフレは)中央銀行を閉鎖するだけの問題だと言ったが、それが最も簡単な改革だと言うこの人は、通貨問題が負債であることを理解していなかった。負債は90日以上も前のもので、セルジオ・マッサ氏(前経済相)は辞任する前にそれを1日分に減らした。つまり、マネタリーベース(資金供給量)の規模によって5倍に増加するリスクがあったということだ」

ミレイ氏は続けた。「彼らは、我々がリバタリアン・リベラルではなく、ホッペ氏のような「解放された」リベラルだと思っていた。彼の本が役に立たないと言っているわけではないが、経済について語るとなると、かなりひどい人だ」。そして彼を「愚か者」と呼び、「彼はアルゼンチンについて何も知らないことを認めた」と述べた。「彼はまるで私が公権力を握っているかのように、私を批判する分析を徹底的に行った。滑稽だ」

一方、ホッペ氏は、まさに古典的自由主義と無政府資本主義の分野でミレイ氏に影響を与えた人物の一人である。ネバダ大学ラスベガス校の経済学教授であり、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス研究所の特別研究員でもある。ザールブリュッケンのザールラント大学とフランクフルトのゲーテ大学で社会学、政治学、経済学を学び、1974年にゲーテ大学で哲学の博士号を取得した。

経済と政治の分析に関する著書を多数出版しており、その中には『君主制、民主主義、自然秩序』(2021年)、『私有財産の経済学と倫理学』(1993年)、『社会主義と資本主義の理論』(1988年)、『リバタリアニズムを正しく理解する』(2019年)などがある。

オーストリア学派に属するミレイ氏のもう一人の指導的人物、マレー・ロスバード氏の優秀な弟子でもある。ミレイ大統領はロスバード氏を非常に尊敬しており、飼い犬の一匹にロスバード氏の名をつけている。ホッペ氏は1986年に米国でこの正統派経済学者に師事し始め、1995年にロスバード氏が死去するまで親しい協力者であり続けた。ホッペ氏は、ニューヨーカー誌(訳注・ニューヨーク大学出版部の誤りか)の『自由の倫理学』の序文も執筆している。

ホッペ氏のミレイ氏評


講演中、ホッペ氏はこう語った。「ミレイ氏は、国家をギャング組織とみなす自由主義者で無政府資本主義者であると自称した。税金を窃盗とみなし、それをゼロにしたい。それが彼の公言した綱領だ。彼が影響を受けた源は、第一に、私の師であり指導者であるロスバード氏、そして私自身である。だから、私からも影響を受けたと思われるこの男について、私はコメントする権利があると感じている」

「私は明らかに他の人(政治家)よりもミレイ氏が好きだ。しかし、彼が自身の哲学的信念だと主張する無政府資本主義の観点から見ると、彼は大失敗だ」とホッペ氏は説明し、さらにこう付け加えた。「彼を英雄に仕立て上げようとするリバタリアン集団には同意しない。彼は英雄ではない」

ホッペ氏はとりわけ、ミレイ大統領の米国との連携を批判した。「ミレイ氏と、世界の悪に責任を負うすべての機関との間には、一種の恋愛関係がある。彼は、最も帝国主義的な米政府を愛し、同調している」

(次を全訳)
Who Is Hans-Hermann Hoppe, the Former Inspiration of Javier Milei Whom He Has Now Called a 'Libertacrazy (Classic) Liberal' - LewRockwell [LINK]

【コメント】この記事を読む限り、ミレイ氏のホッペ氏批判は意味不明だ。インフレを鎮めるには中央銀行の廃止が最もシンプルな方法だし、それはミレイ大統領自身、就任前に主張していたことだ。もし大統領が「公権力を握って」いないとしたら、一体誰が握っているのだろうか。ミレイ氏を支援したアルゼンチンのユダヤ財閥だろうか。批判された途端、かつて尊敬していたはずの人物を愚か者呼ばわりするとは、立派な態度とはいえない。そして帝国主義的な米政府への同調。ホッペ氏のいうとおり、ミレイ氏は英雄に仕立て上げるような人物ではない。個別の政策を冷静に評価すべきだ。

2024-12-16

荘子の自由放任主義

荘子は、姓は荘、名は周。中国の戦国時代、宋の蒙(河南省)に生まれた。蒙の漆園の番人をしていたという。楚の国王が宰相の地位を与えようとしたが固辞し、悠々自適の自由人としての生活を選んだと伝えられる。老子とともに道家を代表する思想家だ。小国寡民の政治を理想とした老子に対し、荘子は一切の政治的配慮を捨て、超然として実存的な自由を説く違いがある。

荘子 内篇

著書とされる『荘子』(引用は原則、池田知久訳による。表記を一部変更。カッコ内は篇名)は、奇想天外な比喩や寓話に富む。とりわけ巻頭に置かれた「大鵬」の寓話は、はなはだスケールが大きく、大いなる自由を説く荘子にふさわしい。

「北の彼方、暗い海に魚がいる。その名を鯤(こん)と言う。鯤の大きさのほどは、何千里あるのか計り知ることができない。やがて変身して鳥となり、その名を鵬(ほう)と言う。鵬の背平は、何千里とも計り知ることができないほどだ。一度奮い立って飛び上がると、広げた翼は天空深く垂れ込めた雲のよう。この鳥が、海のうねりそめる頃、南の彼方、暗い海に渡っていこうとする。南の暗い海とは、天の果ての池である。……鵬が南の暗い海に渡っていくありさまは、三千里に及ぶ海面を激しく羽撃ち、つむじ風を羽ばたき起こして九万里の高みに舞い上がり、ここを去って6カ月飛び続け、そうして初めて一息つくのである」

蝉と小鳩がこれを笑って言う。「俺たちは勢いこんで飛び立ち、楡(にれ)・枋(まゆみ)に止まろうとするけれど、そこまで届かず地面に引き戻されてしまう時だってある。九万里もの高みに舞い上がり、さらに南を目指すなんてことをして、何になるのだろう」(逍遥遊)

これに対し、荘子は「小さな知恵は大きな知恵に及ばない」とコメントする。愚者は「飛ぶことにどんな利益があるか。疲れるだけ損だ」と言うが、賢者にとっては、力を尽くして飛ぶこと自体が生きることなのだ。

そんな荘子は政治について、政府が人々の生活に介入せず、自由に任せるよう説いた。「もしも君子が、やむをえず天下に君臨するようなことになった場合、無為(何もしない)でいるのが最もよい。為政者が無為であって、初めて人々はそれぞれの性命の自然な形に落ち着くことができるのである」(在宥)。中国思想学者の池田知久氏は「前漢初期のレッセ・フェール政策を述べた文章」だと指摘する。

近代経済学の祖とされる英国のアダム・スミスは『国富論』(1776年)で、個人が自分の利益に従って行動すれば、「見えない手」に導かれて社会の利益が促進されると説いた。荘子は近代西洋のスミスにはるかに先立つ古代東洋で、同様のレッセフェール(自由放任主義)思想を抱いていた。

経済・社会の自由な発展をこざかしい人為によって妨げれば、深刻な弊害を招く。そう解釈できる寓話がある。「南の海を治める帝を儵(しゅく)、すなわちはかない人のしわざと言い、北の海を治める帝を忽(こつ)、すなわち束の間の命と言い、中央を治める帝を渾沌、すなわち入り乱れた無秩序と言う。ある時、儵と忽が、渾沌の治める土地で思いがけず出会ったが、渾沌は彼らを大変手厚くもてなした」

そこで儵と忽は、渾沌の好意にお礼をしようと相談した。「人間は、誰にも七つの竅(あな)が具わっていて、視たり聴いたり食ったり息したりしているのに、独り渾沌だけに竅がない。一つ竅を鑿(ほ)ってやろうではないか」。こうして、一日に一竅ずつ鑿っていったところ、「七日目に渾沌は死んでしまった」(応帝王)。

自由に任せるのとは逆に、人民を重税などで苦しめる権力者に対しては、荘子は厳しい目を向けた。そうした権力者は泥棒と変わらないとして、「帯の止め金を掠め取った程度のかっぱらいは、死刑に処せられるが、国を盗んだ大泥棒となると、諸侯までのし上がる」(胠篋)と断じる。

権力者を盗賊と同一視する考えは、他の思想家にもある。たとえば、古代キリスト教最大の神学者アウグスティヌスが著書『神の国』に記した逸話によれば、アレクサンドロス大王が捕らえた海賊は、大王に対し「私は小さな舟で荒らすので海賊と呼ばれ、陛下は大艦隊で荒らすので皇帝と呼ばれるだけ」と答えたという。アウグスティヌスは「この答えはまったく適切で真実を衝いている」と評した。荘子と同意見だ。経済学者マレー・ロスバードは「荘子はおそらく、国家を巨大な盗賊とみなした最初の理論家だった」と述べる。

冒頭で述べたように、荘子は政治権力に仕えることを嫌った。あるとき川のほとりで独り釣り糸を垂れていると、楚の国王が二人の使者を立て、国の政治を司る宰相になってほしいと頼んだ。すると荘子は釣竿を手にしたまま、振り向きもせず、こう尋ねた。「聞くところによると、その国には死んで三千年にもなるという神聖な亀がいて、王はこれを袱紗(ふくさ)で包み竹箱に収めて、先祖の廟堂(みたまや)の中に大切にしまっておられるとか。ところでお尋ねするが、この亀にしてみれば、殺されて甲羅を残して大切にされたかっただろうか、それとも生き長らえて尻尾を泥の中に引きずっていたかっただろうか」

二人の使者は口をそろえて、「それは、やはり生き長らえて尻尾を泥の中に引きずっていたかったでしょう」と答えた。すると荘子は言った。「帰って下さい。私も尻尾を泥の中に引きずっていたいと思うのです」(秋水)。自由を愛する荘子らしいエピソードだ。

あるとき荘子は夢の中で、ひらひらと舞う胡蝶(蝶)となった。荘周(荘子の本名)であることを忘れ、ふっと目が覚めると、きょろきょろと見回す荘周である。荘子は言う。「荘周が夢見て胡蝶となったのか、それとも胡蝶が夢見て荘周となったのか。真実のほどはわからない」(斉物論)

この寓話が物語るように、人生とは、もしかすると大いなる夢かもしれない。そうだとすれば、死を恐れる必要はない。『荘子』の巻末に近い列御寇篇によれば、荘子は臨終の際、手厚く葬りたいという弟子たちの申し出を退け、葬礼に必要な品々はこの天地や日月に星々、地上の万物などで十分だと答えたそうだ。

2024-12-04

ミレイ氏の正体と国連演説

オスカー・グラウ(音楽家)
2024年11月4日

2024年9月、アルゼンチンの大統領ハビエル・ミレイ氏がニューヨークの国連総会で演説を行った。多くの人々が、国家主義的な現状に対する自由主義的なすばらしい出来事としてこの演説を称賛したが、実際にはミレイ氏は羊の皮をかぶった狼であることを証明し続けているにすぎない。
矛盾したスタイルに忠実に、ミレイ氏は聴衆に「自分は政治家ではない」と念を押すところからスピーチを始めた。「政治をしようという野心はなかった」と。しかし、これはもはや意味をなさない。ミレイ氏は2年間下院議員を務めていた。そして、強制されたのでなければ、自ら進んで政治の世界に入り、大統領候補となった。いずれにせよ、ミレイ氏は政治家となったのだ。

国連


ミレイ氏は、この機会を利用して、国連が「本来の使命」を果たしていないのは危険だと世界中の国々に警鐘を鳴らし、国連は集団主義的な政策を推進し続けていると警告した。国連の設立、主な目的、基本原則を認めたうえで、ミレイ氏は、過去70年間の国連の指導の下、戦争の惨禍は消え去っていないものの、「人類は歴史上最も長い期間にわたる世界平和を経験し、それはまた、最大の経済成長を遂げた時期とも一致していた」と強調した。また、「全世界が商業的に統合し、競争し、繁栄することを可能にする秩序の下では、世界規模の紛争の拡大には至らなかった」とミレイ氏は述べた。

ここで、ミレイ氏に思い出させる必要があるかもしれない。世界は国家主義的な世界秩序にもかかわらず、商業的に統合し、競争し、繁栄してきたのだ。国連はその存在をすべての国民国家に負う組織として、この国家主義的な世界秩序が永遠に続くことを切望している。そして注目すべきことに、ミレイ氏が語る経済成長は、国連の指導とは何の関係もなく、自由市場と資本主義によるものだ。過去70年間、世界で税収と公共支出が大幅に増加しているという事実にもかかわらずである。

いずれにしても、ミレイ氏によると、国連は自らの原則を守らなくなった。「人類の王国を守る」ことを目的とした組織は、「何本もの触手あるリバイアサン(怪物)」へと変貌し、「各国は何をすべきか」「世界中の市民はどのように生きるべきか」を決定しようとしている。「平和を追求する」組織から、「無数の問題について、その加盟国にイデオロギー的な実施計画を押し付ける」組織へと変貌した。ミレイ氏にとって、かつて「成功を収めた」国連のモデルは、国家間の協力関係に基づいて設立されたものであり、その起源は「勝利なき平和の社会」について語ったウッドロー・ウィルソン(元米大統領)の思想にまでさかのぼることができる。そのモデルは「世界中の市民に特定の生活様式を押し付けようとする、国際官僚による超国家的な政府」に取って代わられたと指摘した。 その後ミレイ氏は、グローバル規模での新たな社会契約の定義を必要とするモデルが悪化し、(持続可能な開発のための)2030アジェンダへの取り組みが加速しているとして、次のように指摘した。

それ(2030アジェンダ)は、超国家的な政府プログラムに他ならず、社会主義的な性質を持ち、問題解決を装っているが、その解決策は国民国家の主権を脅かし、人々の生命、自由、財産の権利を侵害するものである。また、貧困、不平等、差別を法律によって解決しようとしているが、それはそれらの問題をさらに深刻化させるだけである。

またミレイ氏は、国連の「未来のための協定」も批判し、国連の数々の過ちや矛盾が「自由世界の市民の前で信頼を失い、その機能を喪失させる」結果となったと主張した。ミレイ氏は国連があたかも世界政府に近い存在であるかのように装っているが、実際には、国連が発するイデオロギーの推進を国家が口実にしたところで、国連が各国家の国民に対して持つ力は、国家よりも強くはない。もちろん、特定の利益を優遇する政策を推進する温床として、イデオロギー的な大義を掲げる利益団体が国連官僚を買収することはありうるが、それによって国連が世界中の市民に対して何かを強制するような権限が得られるわけではない。

実際、当時のアルゼンチン外相、ディアナ・モンディノ氏もミレイ氏の演説を否定した。演説から2日後、モンディノ氏は、2030アジェンダや未来のための協定といったこれらの実施計画の適用は自主的なものであると明確にし、アルゼンチンはこれらの計画に含まれるいくつかの事項に「完全に、または部分的に」従うと述べた。モンディノ氏は、アルゼンチンはこれらの計画に関連する政策や協定の類から決して離脱したことはないと述べたが、アルゼンチンは他国から「やらなければならない」と命じられたことをすべて受け入れるつもりはないと強調した。この点に関してモンディノ氏は、デジタルメディアの管理に関し、倫理的ではないと考える問題については制限を設けると断言した。

2024年10月、環境副大臣のアナ・ラマス氏は、ミレイ政権は「生物多様性を公共政策にしっかりと統合する」ことを追求していると述べた。ラマス氏は、アルゼンチンの潜在的な可能性として「エネルギー転換に必要な重要鉱物や再生可能エネルギーで世界に貢献する」ことを指摘し、国際協定から離脱するよう政府から指示されたことはないと明言した。実際、アルゼンチンはパリ協定にとどまり、環境目標を約束している。全国気候変動適応・緩和計画はアルゼンチンの気候政策を体系化し、2030年までに実施される一連の対策と手段を定めている。

それでもミレイ氏は、国連を誤った方向に導いたのは2030アジェンダの採択であったと指摘し、2020年のロックダウン(新型コロナ対策の都市封鎖)における組織的な自由の侵害の主な推進者の1つとして国連を非難した。彼はこれを「人類に対する犯罪」であると考えている。たしかに国連はロックダウンの推進役だったが、多くの国がコロナパスポート(ワクチン接種証明)を導入した時期に、国連はコロナパスポートに反対の立場を示した。しかし、もしミレイ氏が演説で国家主義的な現状と国際的な体制に本当に反旗を翻したかったのであれば、自由に対するこの恐ろしいまでの侵攻の最大の受益者と加害者、つまり製薬会社と政府の間で行われている偽りのワクチンビジネスに、もっと焦点を当てるべきだった。そして、すべての強制予防接種計画の廃止を目指す自由主義者の忘れられた闘いはどうだろうか。アルゼンチンにも存在するが、ミレイ氏はこの残虐行為と戦ったことは一度もない。

アルゼンチン


ミレイ氏にとって、アルゼンチンの変革の過程を導く原則は、アルゼンチンの国際的な行動を導く原則でもある。ミレイ氏は、政府の役割は限定的であるべきだと主張し、すべての国民は専制や抑圧から自由であるべきだと擁護した。ミレイ氏が宣言するように、これは外交的、経済的、物質的に支援されるべきであり、自由を守る「すべての国々の共同の力によって」支援されるべきである。

ミレイ氏がネオコン(新保守主義者)だと知る人々にとっては、すでに周知の事実かもしれないが、「自由を守る」ための共同戦線とは、米国と北大西洋条約機構(NATO)が世界中で不当な戦争を遂行し、イスラエルが中東で何千人もの罪のない民間人を殺害して西洋の価値観を守ることを意味する。


ミレイ氏の見解では、新生アルゼンチンの理念とは、国連の「真髄」である「自由を守るための国連の協力」である。ミレイ氏は「未来のための協定」に対するアルゼンチンの反対意見を表明し、「自由世界」の諸国に反対意見への参加と国連の新たな行動計画「自由のアジェンダ」の創出を呼びかけた。そして次のように断言した。

……アルゼンチン共和国は、これまでの特徴だった歴史的な中立の立場を放棄し、自由を守る闘争の最前線に立つ。

アルゼンチンはこの演説が行われる前から、すでにミレイ政権下で中立の立場を放棄していた。しかし、ミレイ氏が長年最も多く名前を挙げてきた思想家であるマレー・ロスバードは、この立場とは逆に、「リバタリアニズム(自由主義)は、国家間の紛争において中立国が中立を維持し、交戦国が中立市民の権利を完全に尊重するよう促すことを目指している」と書いている。一方、「自由世界」という表現は、冷戦時代に米国のプロパガンダで広く知られるようになったが、ミレイ氏にとっては目新しいものではなく、大統領就任前からすでに何度かこの表現を使用していた。

2024-12-02

老子の反戦平和思想

老子は中国古代の思想家。生没年不詳。姓は李、名は聃(たん)。その著述と伝えられる書物も『老子』と呼ばれる。『史記』では春秋時代の孔子と同時代の人とされるが、戦国時代中ごろの人というのが通説。実在の人物ではないとする説もある。孔子ら儒家の教えを否定して無為自然の道を説いた、道家の祖とされる。

老子入門 (講談社学術文庫 1574)

現代米国の経済学者で歴史家のマレー・ロスバードは、老子を「最初の自由主義知識人」と呼ぶ。同じ古代中国の思想家でも、官僚の支配を擁護した儒家とは異なり、老子は急進的な自由主義の信条を打ち立てたからだ。「老子にとって、個人とその幸福こそが社会の重要な単位であり目標だった。もし社会制度が個人の開花と幸福を妨げるのであれば、その制度は縮小されるか、完全に廃止すべきである」とロスバードは解説する。

老子の思想をその著述によって具体的にみていこう(引用は原則、金谷治『老子』<講談社学術文庫>による。かな表記を一部漢字に改めた)。

「世界を制覇するには、格別な仕事をしないであるがままに任せていくことが大切である」(第57章)と老子はいう。現代の言葉でいえば、自由放任の勧めといえる。その理由の一つは「世界中に煩わしい禁令が多くなると、人民は自由な仕事を妨げられていよいよ貧しくなる」(同)からだ。今の世の中でも、政府による規制が多くなりすぎると、個人や企業は自由な経済活動が妨げられ、その結果、社会から豊かさが失われるのは、よく知られた事実である。

それゆえ、「道」を体得した聖人はこう言っている、と老子は続ける。「私がことさらな仕業のない無為の立場を守っていて、それで人民はおのずからに感化されてくる。私が平静を好んでじっとしていて、それで人民はおのずからに正しくなる。私が格別なことを何もしないでいて、それで人民はおのずからに富んでくる。私が無欲でさっぱりしていて、それで人民はおのずからに樸(あらき)のような素朴になる」(同)

老子はさらに自由放任の勧めを説く。「政治がおおらかでぼんやりしたものであると、その人民は純朴で重厚であるが、政治がゆきとどいてはっきりしたものであると、その人民はずる賢くなるものだ」(第58章)。今日の政治は対照的に、人々の暮らしや経済活動の細々したところにまで気を配り、口を出そうとする。老子はそのような介入政策に反対する。なぜなら「災禍があればそこに幸福もよりそっており、幸福があればそこに災禍も隠れている。この循環のゆきつく果ては誰にもわからない」(同)からだ。

たとえば、現代の政府は景気が悪くなりかけると、すぐに財政・金融政策などでテコ入れしようとする。けれども、それによって目先は景気の悪化を避けられたとしても、永遠に先延ばしすることはできない。むしろ景気対策の副作用で物価が高騰したり、将来税金で返さなければならない政府の借金が増えたりして、人々を余計に苦しめる。そのために新たな対策が必要になってしまう。それならば、初めから景気対策などせず、経済が自然に回復するのを待つほうがいい。

また老子は「人民が飢えに苦しむことになるのは、お上が税をたくさん取りすぎるからであって、それゆえに飢えるのだ」(第75章)と述べ、重税で人々を苦しめる為政者に厳しい目を向けている。

老子の思想の特徴は、自由放任を説いた内政論とともに、戦争論にも表れている。老子は自衛戦争の必要は否定しないものの、その戦争論は平和主義、反戦主義に貫かれている。それが端的に示されるのは第31章だ。

老子は「武器というものは不吉な道具である。本来君子の使用すべき道具ではないのだ」と断じる。どうしてもやむをえず使わなければならないなら、執着をもたずにあっさり使うのが一番だ。「勝利が得られても、決して立派なことではない。それなのに、それを立派なこととして誉めそやすのは、つまりは人殺しを楽しみとしているということだ」。老子によれば、「敵を多く殺せば悲嘆の気が場に満ち、戦勝はまさに葬礼の場となる」。

戦争に勝ったというニュースが伝われば、銃後の国民は花火を上げ、行列してこれを喜ぶ。凱旋した将軍は、群衆の歓呼と小旗の波に盛大な出迎えを受ける。戦後はなくなったが、かつて戦争を繰り返した日本ではよくある風景だった。ところが老子はそうした熱狂に冷水を浴びせるように、戦いに勝ったら葬式のようにすすり泣けという。戦争の悲惨な本質を知る思想家でなければいえない言葉だ。

この言葉の背景について、歴史学者の保立道久氏はこう推測する。「老子は実際に戦闘を指揮する立場に立ったことがあったのではないか。敵を多く殺せば悲嘆の気が場に満ち、戦勝はまさに葬礼の場となるなどという言葉は、そうでなくてはなかなか吐けるものではないと思う」(『現代語訳 老子』<ちくま新書>)

黒人の救済に生涯を捧げ、のちにノーベル平和賞を受賞した医師シュバイツアーに興味深いエピソードがある。1945年5月7日、ドイツ軍が降伏して欧州での第二次世界大戦が終了したとき、シュバイツアーはアフリカのランバレネ(現ガボン)の病院で黒人患者の医療にあたっていた。たまたまラジオで大戦終了のニュースを傍受した欧州系の患者から聞いて、このことを知ったシュバイツアーはその日の夜、仏訳の『老子』をひもといて、心静かにこの一章を味わったという(楠山春樹『老子入門』<講談社学術文庫>)。

今日シュバイツアーに対しては、アフリカに対する西洋の植民地支配に無自覚だったという批判もなされる。それでもこのエピソードは、東西の平和思想の共鳴をよく伝えていると思う。

老子の戦争批判はこれだけではない。「軍隊が駐屯すると耕地も荒れ、大戦争のあとでは凶作が続く」(第30章)と指摘するとともに、「欲望をたくましくするのが最大の罪悪」(第46章)と述べ、戦争の原因は支配階層の私的な欲望だと喝破する。

中国思想学者の金谷治氏は、老子の思想は「一貫して反戦」だと述べる(『老子』)。世界で戦争が拡大する今日、平和を説いた老子の言葉をあらためて噛みしめたい。