2023-01-28

NYタイムズという真理省

ライター、エドワード・カーティン
(2023年1月23日)

「〈イングソック〉。〈イングソック〉の聖なる原理。ニュースピークに〈二重思考〉に過去の可変性。」
- ジョージ・オーウェル『1984年』

今日夜明けとともに、凍った地面に小さな雪が散らばる、冷たい灰色の世界を窓から眺めていた。小雪が降り始めたとき、深い悲しみを感じた。1972年のやはり雪の日、リチャード・ニクソン〔米大統領〕が北ベトナムにクリスマス爆撃を行い、100機以上のB52爆撃機が次々とハノイをはじめとする北ベトナムに死と破壊を落としたというニュースで目が覚めたからである。米国が今、ウクライナを経由してロシアに対して行っている戦争のことを考えた。そして米国のベトナム戦争のときのように、手遅れになるまで、気にかける米国人はほとんどいないようだと思った。憂鬱になった。
その直後、ニューヨーク・タイムズ紙の社説、「ウクライナ戦争に残酷な新局面」が目に飛び込んできた。あからさまな嘘を信じようと必死な人だけが笑い転げるような、わかりやすいプロパガンダである。しかし笑いごとではない。ニューヨーク・タイムズは戦争の拡大、ウクライナへの殺傷力の高い兵器提供、核戦争の危険を伴う戦闘の激化を主張しているのだから。つまり、同紙の見出しは残虐性を助長しているから、適切なのである。これには腹が立った。

タイムズの社説は、プーチン大統領はヒトラーのように狂っていると伝えている。「前回の欧州戦争と同様、今回の戦争はほとんど一人の男の狂気だ 」と。ロシアとプーチンは「残酷」であり、民間人を標的にしたミサイル攻撃で「定期的な恐怖」を与え、「必死」であり、プーチンの「妄想」を追求している、「ひどい、役に立たない戦争」をしている、「残虐行為」をしている、「殺人、強姦、略奪」に責任がある、等々である。

一方、「英雄的なウクライナ」は「ロシア軍に繰り返し決定的な勝利を収めている」。ロシアは「10万人をはるかに超える死傷者を兵に出している」と、「信頼できる」情報源である米統合参謀本部議長のマーク・ミリー元帥は言う。このバラ色の報告に付け加えると、ニューヨーク8番街の居心地の良い本社でキーボードを叩くタイムズの論説委員が何も言わないのだから、ウクライナ人は何の犠牲も被っていないのだろう。政府の速記者であるタイムズのいつもの手口でわかるように、米国の戦争を支持するなら、帝国主義の夢を達成するために使われた捨て駒に言及するのは悪いマナーである。それらの勢力によって行われた残虐行為も同様に省かれている。ネオナチ、アゾフ大隊? 彼らもまた、言及されない以上、存在しなかったに違いない。

しかし尊敬する論説委員によれば、これは米国と北大西洋条約機構(NATO)がウクライナ経由で「ロシアから運命と偉大さを奪うために」行った、米国の代理戦争ではないそうだ。ファシズムと堕落した勢力に対するロシアの英雄的な闘いについて誤った物語を作り出した、「クレムリンのプロパガンダ装置」によって支えられている、単なるロシアの侵略なのだ。噴飯物だが、米国とNATOは「第二次世界大戦後の秩序が乱暴に侵害されるのにぞっとした」から、ウクライナを守ることにしたという。「プーチン氏の反応は、ウクライナにこれまで以上の命、資源、残酷さを投げつけるものだった」

タイムズのプロパガンダ委員会によるこの放言のどこにも(そしてここで、少し歴史感覚のある人なら誰でも、このゲームの全体像がわかる)、2014年に米国が仕組んだウクライナのクーデターについて言及されていない。それは起こらなかっただけだ。決して起こらなかった。不作為による魔法。タイムズによれば、米国は、傀儡である「ウォロディミル・ゼレンスキー大統領」が「率いる」ウクライナ政府とともに、完全に無実の当事者である(この4ページにわたるたわごとのどこにも、プーチン大統領の肩書きがないことにも注意。まるで「プーチン氏」は違法の存在で、ゼレンスキーが本物だと言っているかのようだ)。

すべての問題は、「プーチン氏がクリミアを占領し、2014年にウクライナ東部の分離独立紛争をあおった」ときに発している。

米国・NATOが何年も前からロシアの国境近くまで軍隊と武器を移動させていること、ジョージ・W・ブッシュ〔元米大統領〕が対弾道ミサイル条約から米国を脱退させたこと、トランプ〔前米大統領〕が中距離核戦力条約で同じことをしたことには、どこにも触れていない。ブッシュが対弾道ミサイル条約から米国を脱退させ、トランプが中距離核戦力条約から脱退させたこと、米国がポーランドとルーマニアにいわゆる対弾道ミサイル拠点を設置し、核の先制攻撃の権利を主張したこと、ロシアとの約束に反し、NATOの東方拡張に年々多くの国が加わったこと、ウクライナ東部に住む、おもにロシア語を話す1万5000人以上の人々が2022年2月以前の数年間、ウクライナ軍によって殺されていること、ミンスク合意はウクライナに武装化の時間を与える計画の一部であること、米国は国境と統合を尊重するというロシアの要求をすべて拒否したこと、米国・NATOはロシアを軍事基地で囲んでいること、クーデターの後にクリミアで住民投票があったこと、米国が制裁を通じてロシアに経済戦争を何年も行ってきたことなども触れていない。ようするに、ロシアが何十年にもわたって攻撃を受けていると感じていたこと、国家存亡の脅威について交渉してほしいというロシアの訴えに米国が耳を貸さなかったことが、すべての理由なのである。もしすべてが逆で、ロシアがメキシコとカナダに軍隊と武器を置いていたら、米国は強力に対応するだろうということは、天才でなくてもわかる。

ニューヨーク・タイムズの社説は不作為によるプロパガンダであり、自発的な愚かさである。

社説はすべての事実が「間違っている」のだが、それは偶然ではない。同紙は、論説委員の主張は報道部門のものとは別だと言うかもしれないが、その主張は同紙の一面からの毎日の虚偽の連打に呼応するもので、次のようなものである。

  • ウクライナは戦場で勝っている。
  • 「ロシアは戦争がすぐに終わっても数十年の経済停滞と衰退に直面する」
  • 1月14日、ロシアのミサイルがドニプロのマンションを攻撃し、多数の死者を出した。
  • この戦争を止められるのはただ一人、プーチンだけだ。彼が始めたのだから。
  • これまで米国とその同盟国は、「この紛争が全面的な東西戦争に拡大するのを恐れて」ウクライナに重火器を配備することを渋っていた。
  • プーチンが「自分の妄想」を追求しているため、ロシアは絶望している。
  • プーチンは「その権力に真実を語る勇気のある誰からも孤立している」
  • プーチンは2014年、ウクライナの国境を力づくで変えようとし始めた。
  • この11カ月、ウクライナはロシア軍に対して繰り返し決定的な勝利を収めてきた。……戦争は膠着状態にある。
  • ロシア国民は、「偽りの物語を作り出す」クレムリンのプロパガンダ機械に服従している。

これは専門家が愚か者のために書いた意見だ。作家ハロルド・ピンター氏がノーベル賞受賞記念講演で述べたように、嘘の巨大なタペストリーのようなものである。社説の執筆者らが推進する戦争拡大は、その言葉を借りれば、「今回は西側の武器を絶望するロシアに突きつける」ものだ。あたかも米国やNATOがウクライナに米中央情報局(CIA)や特殊部隊を配置せず、武器だけを持っているかのような言い方だし、「今回」とは、米国がこの戦いのためにウクライナの軍隊と武器を構築していた、過去少なくとも9年間はそうではなかったような言い方でもある。

この戦いは今後、米国・NATO側が負けることになるだろう。ロシアは過去も現在も将来も、勝利を収め続けるだろう。

社説に書かれていることは、すべて不誠実だ。単純なプロパガンダである。善玉対悪玉。プーチンはもう一人のヒトラー。善人が勝っている。ベトナム戦争がそうであったように、現実が明らかになり、事実は異なる認めざるをえなくなるまで、これは続くだろう。歴史は繰り返している。

1972年のクリスマスにニクソンとキッシンジャー〔大統領補佐官〕が行った残虐な行為を思い出し、朝から嘆いたのは適切だった。当時も今も、米国が世界を支配しようと不毛な努力を続けるなか、私たちは、企業メディアによってそのボスのために語られる膨大な嘘のタペストリーにさらされている。今絶望しているのはロシアではなく、この荒唐無稽な社説を書いたようなプロパガンディストらである。目を覚ます必要があるのは、プロパガンディストらがいうようなロシア国民ではなく、米国民と、ニューヨーク・タイムズ社が真実の機関であるという神話にいまだにしがみついている人々である。ニューヨーク・タイムズ社は、ニュースピーク、二重思考、過去を変えようとする努力によって、真理省となっている。

ハロルド・ピンター氏に最後の言葉を語ってもらおう。

米国の犯罪は組織的で、絶え間なく、悪質で、無慈悲であるが、実際にそれについて語る人はほとんどいない。米国は普遍的な善の力を装いながら、世界中できわめて巧妙な権力操作を行ってきた。それはみごとで、機知に富んだ、非常に成功した催眠術のような行為だ。

(次を全訳)
The New York Times Is Orwell's Ministry of Truth - Antiwar.com Blog [LINK]

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