2020-04-08

国際紛争に平和的なケリをつける手段としての「決闘」

世界は国際的な緊張が絶えない。最近では南米ベネズエラのマドゥロ大統領に対抗して暫定大統領就任を宣言した野党指導者のグアイド国会議長を米国が強力に支援。トランプ大統領は軍事介入もちらつかせる。中国は貿易問題や南シナ海の領有権、台湾の独立問題などをめぐって、米国と激しく対立する。日韓関係悪化も然りだ。

国家間の緊張は、戦争に発展するリスクをはらむ。多数の人命を奪い、国土を破壊する戦争が悲惨であることは言うまでもない。外交交渉でも国家間の争いごとをうまく解決できない場合、なんとか戦争以外の方法でケリをつけられないだろうか。

絶大な麻雀力を秘める女子高校生が繰り広げる世界史


そのヒントになるマンガがある。大和田秀樹『ムダヅモ無き改革 プリンセスオブジパング』(竹書房)だ。出版元から想像できる通りの麻雀マンガだが、ただの麻雀マンガではない。ほとんど実在の人物そのままの国家首脳たちが、あらゆる争いをなぜか麻雀の勝敗でカタをつけるという、奇想天外すぎる物語なのだ。


主人公は絶大な麻雀力を秘める女子高校生、御門葩子(みかどはこ)。彼女はその姓が示すとおり、ミカド(天皇)の血を引く皇室系女子である。物語の初めでは、昭和の終戦直後、そのミカドが連合国軍総司令部(GHQ)のマッカーサー元帥と自ら交渉し、日本国民の安全を保障させた舞台裏を描く(第1巻)。交渉手段はもちろん、麻雀だ。


GHQ本部地下の闘牌場(麻雀部屋)で運命の一戦が始まる。親のマッカーサーが配牌で早くもテンパイし、ダブルリーチをかけたのに対し、ミカドはただちに三種の神器にちなむ役満の大三元を相手からアガり、逆転勝ちする。

このマンガでは大きな役をアガられて点数上のダメージを受けると、同時に電流に打たれたり壁に叩きつけられたりして、物理的にも打撃を被る。マッカーサーは文字通り叩きのめされ、日本国民の安全を約束する。なるほど、そうだったのか。

米大統領選でドナルド・トランプがヒラリー・クリントンを破った内幕も知ることができる(第1巻)。じつはアメリカ合衆国で大統領を決める手段は、麻雀だった。

天王山となったフロリダ州での勝負で、トランプは引いた九萬を場に叩きつける。切ったものだと思ったクリントンは喜んでロンを宣言し「わたしの勝ちよ!!」と叫ぶが、これは勘違い。トランプはアガり牌をツモり、勝利を収めたのだ。大統領になれなかったクリントンは結果を受け入れることができず、憔悴しきって呆然と日々を過ごす。

ちなみに現実の世界でも、クリントン氏や彼女に近いエリート層は今でも結果を受け入れられず、大統領選はロシアがトランプ陣営と共謀して操作したと主張するキャンペーンに乗り出したものの、いまだに確たる証拠を示せないままだ。

多数の流血をもたらす戦争の代わりに、決闘でカタをつける 


このマンガの世界では、政治上の争いはあくまで政治家個人が1対1で決着をつける(麻雀は4人でやるので、正確にはそれぞれ補佐役を従えての2対2)。政治家自身は激しいダメージで命の危険を冒すものの、対外戦争や内戦を起こして一般市民を巻き込み、多数の流血をもたらすことはない。戦争の代わりに、決闘でカタをつけるのだ。

この仕組みを現実の世界でも採用できないだろうか。こう言うと、きっと多くの人が「ばかばかしい」と笑うことだろう。けれども歴史を振り返ると、決闘は紛争解決の手段として長く、公式に認められていたし、ごく最近、国際紛争を解決する手段として大まじめに提案されたことさえある。

山内進『決闘裁判』(講談社現代新書)によれば、中世の欧州では「決闘裁判」がごく自然に行われていた。決闘裁判とは、争いの当事者またはその代理人が1対1で決闘し、その結果に従って紛争に決着をつける裁判である。戦いは一方が死ぬか降参するまで行われる。重い刑事事件では、敗れた当事者は生命と財産を失うのが普通だった。

決闘裁判は暴力的だが、中世社会においてはきわめて賢明な方法だった。集団的な争いよりも犠牲が少なくて済むからだ。

当時は自力救済のための私戦(フェーデ)や戦争が横行し、騎士たちは戦いに明け暮れた。この集団的争いを裁判の中に閉じ込め、神聖で公的な個人戦に転化させ、自力救済を復讐の連鎖から断ち切ろうとしたのが決闘裁判である。

戦ってばかりいることに倦怠感と恐怖を覚える騎士にとっても、願わしい制度だった。「戦争を集団で行い大量の血を流すよりも、1対1の争いで少量の血を流すほうがより平和的なのはたしかである」と山内氏は述べる。

近代になり決闘裁判はなくなったが、名誉を重んじる政治家の間で決闘は盛んだった。アメリカ建国の父の一人で、初代財務長官となったアレクサンダー・ハミルトンは政敵アーロン・バーと拳銃で決闘し、命を落とす。鉄血宰相として知られるドイツのビスマルクは連邦議会のプロイセン代表だった頃、他の議員にからかわれたのに腹を立て、拳銃で決闘する。幸いどちらもケガはなかった。ビスマルクは若い頃、非常に決闘好きで、ゲッティンゲン大学に在籍した1年半の間に25回も行ったという。

現実に決闘を挑んだ国家のリーダーたち 


国家間の戦争の代わりに決闘を提案した例もある。アフリカのウガンダとタンザニアは1978年から1979年にかけて交戦したが、その最中、ウガンダのアミン大統領がタンザニアの大統領に対し、素手の殴り合いによる1対1の決闘を申し込んだ。

アミン大統領はボクシングの元ヘビー級チャンピオン。タンザニア側がそれでは不利だと言って拒否し、アミンは片腕を背中に縛って闘おうと提案したが、結局実現しなかった(マルタン・モネスティエ『図説 決闘全書』〈原書房〉)。

イラク戦争突入前夜の2002年10月、イラクのラマダン副大統領は米国に対し、戦争の代わりにブッシュ大統領がイラクのフセイン大統領と、チェイニー副大統領が自分とそれぞれ決闘してカタをつけようと提案した。そうすれば米国とイラクの人々を救えるという理由からだ。

もちろん米国は、まじめに答えるに値しないと無視した。ラマダン副大統領がどこまで本気だったのかはわからないが、イラク戦争がもたらした多数の死者や今も続くイラクの混乱、難民危機、テロ組織イスラム国(IS)の台頭といった甚大な犠牲からすれば、まじめに考える価値は大いにあったといえる。

日本と韓国は歴史問題や領土問題で関係が悪化し、2月22日に松江市で開いた「竹島の日」には式典会場近くで右翼団体や韓国人グループが詰めかける騒ぎとなった。

日韓問題がどうしても解決しないなら、安倍晋三首相と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が決闘し、その勝敗でケリをつけてはどうだろうか。万が一、軍事的紛争に発展するより、はるかに平和的だ。血を流す決闘ではなく、麻雀でもいい。
wezzy 2019.03.04)

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