2024-11-20

トランプ氏はイランと和平を結べるか?

ロン・ポール(元米下院議員)
2024年11月18日

次期米大統領のトランプ氏が選挙後の勝利宣言演説で述べた、最も勇気づけられる、最も期待できる言葉のひとつは、「私は戦争を始めるつもりはない。戦争を終わらせるつもりだ」というものだった。選挙が終われば、選挙公約の寿命は短いものになることが多いことは誰もが理解しているが、トランプ陣営が繰り返し戦争よりも平和を訴えてきたことは、少なくとも、それが米有権者に対する勝利のポイントだとトランプ氏が考えていることを示している。
トランプ氏の次期政権で、特に外交政策の要職にタカ派を指名していることを踏まえると、この平和への呼びかけは行動に移されることになるのだろうか。それはまだわからないが、先週、イランの国連大使と会談させるためにイーロン・マスク氏を派遣したという報道は、事実であれば良い兆候である。イラン側はこのような会談が行われたことを否定しており、また、トランプ次期大統領とプーチン(ロシア)大統領やその他の世界の指導者との会談の噂が飛び交っているため、単なるメディアの作り話である可能性もある。

しかし、かりにトランプ次期大統領がイラン側との会談にマスク氏を派遣したという事実がなかったとしても、そうすることは良い考えである。なぜマスク氏なのか。マスク氏はトランプ次期政権で正式な役割を担うことは期待されていないため、次期大統領の非公式なアドバイザーや友人として見られる可能性がある。さらに、実業家であるイーロン・マスク氏は、政府の外交官とは異なる言語を話す。

なぜイラン人と会うのか。何を話すというのか。取り上げるべき重要なトピックのひとつは、バイデン政権の米連邦捜査局(FBI)が主張している、当時大統領候補であったトランプ氏を暗殺しようとしたというイランの陰謀だろう。ラリー・ジョンソン元米中央情報局(CIA)分析官を含む多くのコメンテーターが主張しているように、FBIの起訴状に記載されているこの陰謀はありそうもない。ディープステート(闇の政府)のタカ派が、トランプ大統領が就任したあかつきにイランとの国交正常化に走らないよう、この疑わしい陰謀をでっち上げた可能性はあるだろうか。FBIはテロ計画をでっち上げた歴史があるだけに、残念ながら、この可能性を否定することはできない。

イランの否定を信用すべきだという意味だろうか。もちろん、そうではない。しかし、議論する価値はある。

トランプ大統領は2期目には、1期目の「最大限の圧力」政策に戻ると見られている。その判断は誤りである。トランプ氏はホワイトハウスに戻っても同じ世界に身を置くわけではない。ウクライナにおける代理戦争は、外交政策の手段としての制裁や圧力の無益さをこれまで以上に明らかにしている。米国の制裁対象国は、米国抜きで貿易や外交を行う独自の道を歩み始めている。

つまり、米国は制裁を次から次へと課すことで、ロシア、中国、イランを孤立させたわけではない。米国が自らを孤立させたのだ。(有力新興国で構成する)BRICSのような組織の出現を見れば、このことは明らかである。

米国が繁栄するためには、外国貿易の拡大が必要だ。(仏経済学者)フレデリック・バスティアは「商品が国境を越えなければ、兵士が越えることになる」と述べたとされる。近年、その状況をすでに十分見てきた。ある人が最近書いたように、もしニクソン氏(元米大統領)だけが(国交正常化のために)中国に行けたのであれば、おそらくトランプ氏だけがイランに行くことができるだろう。イランと和平を結べば、中東全域とそれ以外にも影響を及ぼす成果となるだろう。イスラエルにとっても、イランとの戦争状態を回避することは有益だ。戦争はすべてを破壊するが、平和は築き上げる。新たな取り組みに期待しよう。

(次を全訳)
If Trump Didn’t Send Musk to Talk with the Iranians…He Should! - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

【コメント】タカ派のネオコン色を強めるトランプ次期政権だが、これは明るいニュース。米紙ニューヨーク・タイムズによれば、イランの国連大使との面会はイーロン・マスク氏が要請し、両者は米国とイランの緊張緩和についてニューヨークで協議した。会談は「建設的」だったという。リバタリアンのロン・ポール氏も素直に評価している。過度な楽観は禁物だが、トランプ、マスク両氏というビジネスマンの「新たな取り組み」により、和平という「ディール」がうまく成立するよう願おう。

2024-11-19

減税を求め、政府支出には無関心——サプライサイド経済学批判

マレー・ロスバード(経済学者)
2024年11月16日

[編集者注:1984年10月に最初に発表されたこの記事で、マレー・ロスバードは共和党と保守派の経済学の問題点を批判している。つまり、その支持者は、税率を引き下げて政府支出を増やすことで、巨額の赤字を何とか増やさずに両方の利益を得ることができると考えている。その多くは、(減税で税率を最適水準に下げれば税収を増やすことができるという)いわゆるラッファー曲線の考え方に基づいているが、ロスバードはこれを懐疑的に見ている。さらにロスバードは、ほとんどの保守派が「金本位制」について話す際、意味するのは本物の金本位制の代用品である、政府に規制された金本位制だと指摘している。その根底にあるのは、巨大な米国の福祉国家について何もしないことだ。当時、この種のものは「サプライサイド(供給側)経済学」と呼ばれていた。残念ながら、今日のMAGA(トランプ次期米大統領のスローガン「米国を再び偉大に」)経済学は多くの点で、失敗した昔のサプライサイド経済学の焼き直しであり、ロスバードの批判は依然として重要な資料である。]
サプライサイド学派の中心となる主張は、限界所得税率の大幅な引き下げは、労働と貯蓄、ひいては投資と生産への意欲を高めるというものである。そうだとすれば、異論を唱える人はほとんどいないだろう。しかし、そこには他の問題も絡んでいる。少なくとも有名なラッファー曲線の国では、所得税の引き下げは財政赤字の万能薬として扱われていた。大幅な税率引き下げは、税収を増加させ、均衡予算をもたらすとされていた。

しかし、この主張を裏付ける証拠はまったくなく、実際、可能性はまったく逆である。所得税率が98%で、90%に引き下げられた場合、おそらく税収が増加するというのは事実である。しかし、これまでのはるかに低い税率では、この仮定を正当化する根拠はない。実際、歴史的に、税率の引き上げは収入の増加につながり、その逆もまたしかりであった。

しかし、サプライサイドにはラッファー曲線の誇張された主張よりももっと深刻な問題がある。サプライサイド派全員に共通するのは、総政府支出、ひいては財政赤字に対する無関心である。緊縮財政であれば民間部門に回るはずだった経営資源が公共部門に取られることを気にしない。

彼らが気にするのは税金だけだ。実際、財政赤字に対するその姿勢は、古いケインズ派の「我々は自分から借金をしているだけ」という考えに近い。それよりも悪いことに、サプライサイド派は現在の膨れ上がった政府支出の水準を維持したがっている。自称「ポピュリスト」として、その主張の基本は、国民は現在の支出レベルを望んでおり、その期待を裏切るべきではないというものだ。

支出に対するサプライサイド派の姿勢よりもさらに奇妙なのは、お金に対する見方だ。一方では(金などの裏付けのある)ハードマネーを支持し、「金本位制」に戻ることでインフレを終わらせると主張している。他方、ポール・ボルカーの連邦準備理事会(FRB)を、インフレ政策が過ぎるからではなく、「過度に引き締めた」金融政策を実施し、それによって「経済成長を阻害している」として絶えず攻撃してきた。

要するに、これらの自称「保守派ポピュリスト」は、インフレと低金利を熱愛する点において、まるで昔ながらの(左派)ポピュリストのように思えてくる。しかし、それは金本位制の擁護とどのように整合するのだろうか。

この質問の答えの中に、新しいサプライサイド経済学の一見矛盾する問題の核心へのカギがある。サプライサイド派が望む「金本位制」は、実質のない金本位制の幻想を提供するだけだ。銀行は(預金を)金貨で払い戻す必要はなく、FRBは経済を微調整する手段として、金ドルの定義(交換比率)を自由に変更する権利を持つことになる。要するに、サプライサイド派が望んでいるのは、昔のハードマネーの金本位制ではなく、インフレとFRBの通貨管理に屈して崩壊した、ブレトンウッズ時代の偽りの「金本位制」なのだ。

サプライサイド理論の核心は、ベストセラーとなった哲学的マニフェスト、(経済ジャーナリスト)ジュード・ワニスキー著『世界の仕組み』で明らかにされている。ワニスキーの見解は、人々、つまり大衆は常に正しく、歴史を通じて常に正しかったというものだ。

経済学では、大衆は大規模な福祉国家、大幅な所得減税、均衡予算を望んでいるとワニスキーは主張する。これらの矛盾した目的をどうやって達成できるのか。ラッファー曲線の巧妙な手法によってである。そして金融分野では、大衆が望んでいるのはインフレと低金利、金本位制への回帰であるように思われる。それゆえ、大衆は常に正しいという公理に支えられ、サプライサイド論者は、インフレ政策をとり、金融を緩和するFRBに加え、偽りの金本位制による安定の幻想を与えることで、大衆の望むものを与えようと提案するのだ。

(次を抄訳)
A Walk on the Supply Side | Mises Institute [LINK]

【コメント】現在の日本の減税運動の一部にも、かつてのサプライサイド派や今のトランプ派と似た欠点が見受けられる。減税を求めることには熱心だが、政府支出の削減は後回しにする傾向だ。政府支出は結局、何らかの形で国民が負担するしかないから、もし減税で税収が減れば、支出を減らしたくない政治家や官僚は、これまで同様、不足分を赤字国債の発行と、それを日銀に事実上引き受けさせることで穴埋めするだろう。それはお金の価値を薄め(インフレ税)、物価高を招き、産業の新陳代謝を妨げ、暮らしを苦しくする。政府支出の削減を伴わない減税は、担保を取らずに金を貸すようなもので、あとで痛い目にあう。

2024-11-18

トランプ氏のネオコン人事

ライアン・マクメイケン(ミーゼス研究所編集主任)
2024年11月12日

トランプの最初の大統領任期は、同氏が任命した数えきれないほどのお粗末な人選で注目を集めた。これは政治任用と政策任命の両面でいえた。政治任用では、トランプは自分をいつも政治的におとしめようとする人々を任用した。トランプ自身が任用した人々の多くは、2020年と2024年にトランプに反対するキャンペーンを展開することになった。トランプの無知な支持者たちは、これがすべてどういうわけだか、「4次元チェス」(凡人には到底認識できない長期的で壮大な知略)なのだと請け合った。もちろん、そうではなかった。4次元チェスという表現は、子供たちが言うように、いつだって「妄想剤」(現実を受け入れられない時に使う架空の薬)だった。
政策任命では、トランプ大統領の人事はさらにひどいものだった。ニッキー・ヘイリー(元国連大使)、ジョン・ボルトン(元大統領補佐官)、マイク・ポンペオ(元国務長官)といったネオコン(新保守主義)の好戦派、そして数え切れないほどのネオコン寄りの下級官僚が政権の要職に就いた。さらに、多くの連邦省庁で要職に就いた戦争推進派は、政権を弱体化させ、ロシアとの戦争を推進しようと露骨に画策する軍部の面々を守ることができた。卑劣な軍国主義者、アレクサンダー・ビンドマン(バイデン大統領に関するウクライナ不正疑惑を巡ってトランプ氏と対立した元陸軍中佐)が思い浮かぶ。

今、トランプは以前の悪癖に戻ったように見える。次期政権は公式には同じ過ちは繰り返さないと述べているが、新たな証拠は逆を示唆している。すでにトランプは、国連大使にエリス・ステファニク(下院議員)、国家安全保障担当の大統領補佐官にマイク・ウォルツ(同)を任命している。

もちろん、またしてもトランプ支持者の騙されやすい一部から、すべては4次元チェスだとの声が聞こえてくる。

そうだろうとも。

ウォルツは、(ネオコンの)ドナルド・ラムズフェルド(元国防長官)、ディック・チェイニー(元副大統領)の信奉者であり、ある動画の中でトランプ氏を称賛しているが、それはトランプが「イランを崩壊させる」「イスラエルとともに立つ」「中国に代償を支払わせる」など、ネオコンの主張するお決まりのテーマをすべて支持しているからだ。ウォルツは「同盟国とともに立つ」ことを称賛しているが、おそらくこれには、2017年のリヤド訪問でトランプを操ったサウジアラビアも含まれるだろう。ウォルツがイスラエル国家について正しいことは言うまでもない。トランプのホワイトハウスは常にイスラエルに占領された領土だった。「米国第一」(のスローガンが偽りであること)については、これで十分だろう。

ウォルツはウクライナでの紛争激化を繰り返し呼びかけてきた。つまり、選挙戦の大半を通じてトランプ氏が支持基盤に語りかけてきたことの正反対を主張しているのだ。

ステファニクの経歴は、親イスラエルの非政府組織(NGO)を推進し、ジョージ・ブッシュ(子、元大統領)やポール・ライアン(下院議長)といった典型的な保守派の政治家を支援するディープステート(闇の政府)工作員として長年働いてきたことで特徴づけられる。外交政策エリートへの貢献が認められ、議員になって数カ月で、国防政策に関する重要な委員会にすぐに任命された。彼女はワシントンの現状に何ら脅威をもたらさない。

ステファニク、ウォルツがプライバシーと財産権の敵であることは周知の事実である。〔訳注・外国情報監視法=FISA=による令状なしの国民監視に賛成〕

トランプ次期大統領の人事に関する最新ニュースは、マルコ・ルビオ(上院議員、共和党)を国務長官に指名する予定であるというものだ。おそらくディック・チェイニーは無理だったのだろう。ルビオは、いつでもどこでも世界中で軍事介入の継続を推進する外交族政治家のトップに立つ。ランド・ポール(上院議員)にならって、「ヒラリー・クリントン(元国務長官、民主党)とマルコ・ルビオは同じ人間だ」といってもいい。〔訳注・政党は違っても同じタカ派のネオコンという意味〕

これがトランプの示すベストの人選なのか。今のところトランプは、外交政策の役割を担うのにふさわしく、自分のために熱心に選挙運動をしたトゥルシー・ギャバード(元民主党下院議員)に対して何も提示していない。もし彼女が政権で得るポストが些細なものであれば、それはトランプがアメリカ帝国の機能を根本から変えるつもりなどなかったことが急速に明らかになっている政権を象徴するものとなるだろう。〔訳注・その後、ギャバード氏は国家情報長官への起用が決定〕

一方、(保守派評論家)ベン・シャピロは非常に満足している。

(次を全訳)
Here Come the Awful Neocon Trump Appointments | Mises Institute [LINK]

【コメント】ヘイリー、ポンペオ両氏が外れてホッとしたのも束の間、ルビオ氏が外交を仕切る国務長官に起用されるなど、トランプ次期米政権の顔ぶれは急速に好戦的なネオコン色を濃くしている。そのトランプ氏が大統領選の勝利後、最初の会談相手に選んだ外国首脳が、同じくネオコン路線で、イスラエルのガザ攻撃を支持するアルゼンチンのミレイ大統領だった意味を、ミレイ氏の明るい面だけに注目する日本のリバタリアンはよく考えておくべきだろう。

2024-11-17

木村貴の経済の法則!(2024年、随時更新)

  1. 株高をもたらす最大の要因は? 「ファンダメンタルズ」ではない(2024/1/12
  2. お金の量の変化で株価の先行きを占う 注意が必要なポイントとは?(2024/1/19
  3. インフレに最も強い運用手段は? 実質課税に対抗しよう(2024/1/26
  4. ハイパーインフレとは何か? そのとき株価はどうなる?(2024/2/2
  5. 米大統領選、誰が勝てば株高に? 民主・共和政権のパフォーマンスを点検(2024/2/9
  6. 長期の株高をもたらす政治指導者とは? 米大統領ランキング、上位は意外な顔ぶれ(2024/2/16
  7. 日本株、バブルの轍を踏まない3条件【日経平均、一時最高値】(2024/2/22*臨時解説
  8. 景気って何だろう? 株価との関係は?(2024/3/1
  9. 不況は買い、好況は売り 株と景気の奇妙な関係(2024/3/8
  10. 財政出動で株は買い? 判断のポイントはここ(2024/3/15
  11. 日本株、ここから始まる「正常化相場」 創造的破壊にかじを切れ【日銀、マイナス金利解除】(2024/3/19*臨時解説
  12. 財政危機は株投資のチャンス インフラ整備、「官から民へ」加速へ(2024/3/22
  13. 独禁訴訟、GAFA株の重しに? 競争を促すというけれど…(2024/3/29
  14. ロックフェラーに学ぶ投資の極意 石油王を襲った悲劇とは?(2024/4/5
  15. 世界経済の未来が明るい理由 グローバル資本主義の「静かな革命」は続く(2024/4/12
  16. 金が買われる本当の理由 不換紙幣への信頼揺らぐ(2024/4/19
  17. 戦争は経済にとって有益か? 第二次世界大戦や朝鮮戦争で検証(2024/4/26
  18. 円の凋落、放蕩政治のツケ【一時1ドル160円台】(2024/4/30*臨時解説
  19. お金って何だろう? ロビンソン・クルーソーに学ぶ基本のキ(2024/5/10
  20. 金と銀がお金になったのはなぜ? ピノッキオが理解しなかったその理由(2024/5/17
  21. 民力奪う国債の供給過剰、市場が警告【長期金利、11年ぶり1%到達】(2024/5/23*臨時解説
  22. 金本位制って何だろう? マネー乱造に歯止め、復権機運も(2024/5/24
  23. インフレという言葉の謎 本当は「物価上昇」ではない?(2024/5/31
  24. 産業育成は政府の仕事か? むしろ発展を妨げた戦後の歴史(2024/6/7
  25. 「五公五民」じゃ豊かになれぬ 経済復活のカギは減税(2024/6/14
  26. ウクライナ発、経済危機の足音(2024/6/21
  27. 金融危機はなぜ起こる? 名作映画に学ぶシンプルな解決法(2024/6/28
  28. 金利を決めるホントの要因 のび太もジャイアンも得する取引とは?(2024/7/5
  29. マイナス金利のファンタジー 現実逃避のツケはこれから?(2024/7/12
  30. 無税社会は「北斗の拳」の暗黒世界か? 国税庁の偏ったメッセージ(2024/7/19
  31. 「金本位制」復活は時代錯誤か? あの「マエストロ」が金融政策のお手本に(2024/7/26
  32. 南米の豊かな国をなぜハイパーインフレが襲ったのか? 経済を四半世紀で破綻させた介入政策(2024/8/2
  33. 大恐慌への道を避けるには? 政府の「景気対策」にご用心(2024/8/7*臨時解説
  34. フランス革命、恐怖政治生んだ高インフレ 不換紙幣の大量発行が破滅もたらす(2024/8/9
  35. 巨大帝国はインフレで滅びる ローマと米国、経済失政そっくり(2024/8/23
  36. 中央銀行が金を爆買いする理由 揺らぐドルの信認、1万ドル目指す? (2024/8/27*臨時解説
  37. ハイパーインフレになったらどうするか? ジンバブエに学ぶサバイバル術(2024/8/30
  38. ルパン三世はなぜ偽札を捨てたのか? 「カリオストロの城」が示す不換紙幣の罪(2024/9/6
  39. 東京海上アセット・平山氏「インフレ時代、株の選別投資強まる」(2024/9/10*臨時インタビュー
  40. 経済学者ケインズ、5つの「迷言」 その主張はなぜインフレと財政危機を招いたのか?(2024/9/13
  41. インフレ税を知っていますか? お金の価値を奪う見えない税金(2024/9/20) 
  42. 税金は「社会の会費」ってホント? 貧しい人を助ける効果は…(2024/9/27
  43. 日本政治、危機目前でも針路変わらず 約80年前のハイパーインフレと預金封鎖が鳴らす警鐘(2024/9/30*臨時解説
  44. 最初のノーベル平和賞はなぜ経済学者だったのか? 自由貿易は戦争のリスクを減らし、繁栄をもたらす(2024/10/4
  45. 経済対策が経済停滞を招く ノーベル賞経済学者ハイエクはYouTubeで何を警告したか?(2024/10/11
  46. デフレは経済問題じゃない、国語問題だ! いまだに続く「不況」との混同(2024/10/18
  47. ハイパーインフレと預金封鎖、そのときどうする? 終戦直後の日本に学ぶサバイバル術(2024/10/25
  48. 総無責任だった総選挙 亡国の「財政ファイナンス」に歯止めかからず(2024/10/28*臨時解説
  49. 減税は「バラマキ」という嘘 政府の施しではない!(2024/11/1
  50. ドルは再び偉大になれるか 米、トランプ次期政権でも債務膨張の恐れ(2024/11/7*臨時解説
  51. 赤字国債はもうやめよう 禁止のはずが今や「恒例」(2024/11/8
  52. 国債デフォルトという選択 世界の終わりか、健全な市場経済への転機か?(2024/11/15

2024-11-16

ミレイ氏の政治ゲーム

オスカー・グラウ(音楽家)
2024年9月24日

「私は政府を内部から破壊する者だ」 「国家は犯罪組織だ」「課税は窃盗だ」「国家は何もかも間違っている」。 これらはお上品な政治言説の壁を破り、2021年に下院議員となった後、2023年にアルゼンチン大統領の座を射止めたハビエル・ミレイが口にした多くの反国家主義的(あるいは無政府資本主義的)せりふのほんの一部にすぎない。
左派であれ右派であれ、国家主義者が権力を握れば国家主義は前進し続け、あるいは守られる。多くの人々は国家主義と徹底して闘うミレイに期待を寄せていた。しかし、その政治的冒険は、正しい方向への変化を超えて、国家主義に有利な政治ゲーム以上のものではないことが明らかになった。

2024年5月のインタビューで、ミレイは自身の計画に関するおおまかな考えを示した。その説明によれば、「不潔」な税金があり、他に消えなければならない税金、地方に依存し改革が必要な税金がある。ミレイが示した歳出凍結案では、経済が立ち直り成長し始めると、国内総生産(GDP)に占める支出の規模は減少する。そして無数にある税金は、「支払うべき」「理解できる」税金が4つ程度という簡素な制度に移行し、政府規模はGDPの25%となる。ミレイはかつて増税したら自分の腕を切り落とすと約束したが、インタビューでは税は上がったと認めていた。

(リバタリアン思想家)ロスバードの伝統に従えば、歳出を凍結するだけで、さらに削減しない理由はない。ミレイは「簡素な税」論者の1人にすぎないかもしれないが、どの税も望ましいとほのめかし、どの税が「支払うべき」「理解できる」税かを決めるのは独断的であり、反国家主義の精神に反する。政府規模に対する妥当な比率として25%という考えを提案するのは、反国家主義者としては不適切だし、実質経済成長に対する非現実的で貧弱な尺度に基づくことはいうまでもない。

課税が窃盗であるならば、ミレイの増税が「一過性」であることを理由に容認するのは、泥棒がすぐに盗みを減らすと約束したからといって路上強盗の増加を進んで容認するのと大差ない。

ミレイは何年もかけて敵対政党の福祉政策を批判してきたにもかかわらず、2024年6月、ミレイ内閣の経済相はさまざまな福祉政策への支出増を自慢する一方で、「最も弱い立場の人々を念頭に置いて達成された 」歴史的な財政収支について語った。

たしかにミレイの均衡予算には歴史的な削減が含まれている分野もあるが、福祉政策のように支出を増やした分野もあるし、今後もそうする予定である分野もある。したがって、すべては新しい風が吹くかどうかにかかっている。たとえば、北大西洋条約機構(NATO)と米シオニスト帝国主義に味方するミレイの外交政策と、24機のF16戦闘機の購入である。さらにミレイは2024年7月、国防と治安サービスの予算をほぼ倍増させた。また、軍の威信を回復し、近代化を図りたいとして、軍事費は今後8年間でGDPの1.5%増加すると予測されている。

ミレイは就任と同時に、省庁の数を22から9に減らした。この措置は象徴的なものだった。一部の省庁に他の省庁の吸収を命じただけだったからだ。そして2024年6月、ミレイは女性・ジェンダー・多様性省の廃止を完了した。これと国立差別・外国人排斥・人種差別研究所の閉鎖は、税金を財源とする革新主義との闘いとして称賛に値する。

いずれにせよ、2024年7月までに約3万1000人がミレイ政権で雇われなくなった。一方、新規採用者は6月までに3000人近くに上った。政府契約の不更新は珍しいことではなく、ミレイの数字はまだささやかだが、この分野での努力は評価されるべきだ。

(次を抄訳)
Milei’s Political Game | Mises Institute [LINK]

【コメント】グラウ氏は本職はミュージシャンだが、オーストリア学派経済学とリバタリアン政治理論の理解に基づき、ミレイ大統領の負の側面を厳しく批判し続けている。多くのリバタリアンがミレイ礼賛に終始する中で、その分析は非常に有益だ。ミレイ氏の内政は、好戦的な外交政策に比べればましであり、評価すべき点もあるが、現時点で手放しで称賛できるものではない。政治家は演説の美辞麗句ではなく、結果で評価しなければならない。

2024-11-15

トランプ大統領の2期目、何を意味するか

ダグ・ケーシー(作家・投資家)
2024年11月14日

ドナルド・トランプ氏の(米大統領としての)今後4年間については、前回の任期より優れた判断力を示すよう期待したい。当時はおべっか使いやディープステート一派、政治的ペテン師に取り囲まれていた。しかし今回は楽観的だ。例えば、マイク・ポンペオ氏(元国務長官)、ニッキー・ヘイリー氏(元国連大使)という恐ろしい人物を起用しないと発表した。
さらに、ロバート・ケネディ・ジュニア氏を食品医薬品局(FDA)を監督する地位(厚生長官)に就けると発表した。また、イーロン・マスク氏に連邦支出を2兆ドル削減するよう命じた。さらに、ロン・ポール氏を金融政策に意見を述べる立場に就けることも検討しているようだ。そして、ジョエル・サラティン氏(農家・作家)を農務省の役職に就けるようオファーしたようだ。

トランプ氏は哲学的な中核を持たず、行き当たりばったりで、知識も乏しく、前回は人々に対する判断力がひどく欠けていたが、今回は実際に物事を実現する人々を選ぶという点では、はるかに良い仕事をしていると思う。

トランプ氏は常に「低金利派」であり、「負債王」であると自称してきた。1期目の大統領在任中に大盤振る舞いをして、巨額の赤字を積み上げた。その額はブッシュ(子)、オバマ両大統領よりも相対的にも絶対的にも大きかった。過去4年間のバイデン氏の実績よりもさらに大きなものだ。トランプ氏は経済について真の理解がないので、経済を「支援」するために紙幣の印刷を推奨するだろうと予想している。彼に選択肢があるわけではない。紙幣の印刷を続けなければ、債務バブルは崩壊してしまうのだ。

明るい面に戻ると、トランプ氏は経済の大幅な規制緩和を望んでいる。これは非常に大きなプラスだ。また、減税を望んでいる。すばらしいことだ。しかし悪いニュースは、政府支出を削減しなければ減税などありえないということを理解していないことだ。特に今は、政府支出の3分の1が米連邦準備理事会(FRB)への債券売却によって賄われており、これは事実上の紙幣印刷に他ならない。この傾向はさらに強まるだろう。小売物価は確実に上昇するだろう。しかしすでに高値圏にある株式市場は、資金が流入することでさらに上昇するかもしれない。

イーロン・マスク氏が年間2兆ドルの予算削減を望んでいるのはすばらしいことだ。財政赤字額とほぼ同額だ。 しかし実現の可能性はゼロに近いだろう。社会保障、メディケイド(低所得者向け公的医療制度)、メディケア(高齢者向け公的医療制度)、国債利払い、軍事予算などは神聖不可侵であり、予算の90%以上を占めている。

マイナス面としては、トランプ氏はイスラエルへの揺るぎない支持を表明している。イランとの熱い戦争において米国がイスラエルの代理人となる可能性があり、そうなれば最悪だ。イスラエルは米国の51番目の州ではない。トランプ氏は戦争を回避したいと考えているが、中東版「仁義なき戦い」のような核の泥沼に米国を巻き込む可能性もある。

再び明るい面を挙げるとすれば、トランプ氏はウクライナ戦争を終わらせることができると主張している。ゼレンスキー(ウクライナ大統領)、プーチン(ロシア大統領)両氏と個人的に良好な関係にあると考えているからだ。プーチン氏のことを何と言おうと、ゼレンスキー氏はさらに危険であり、無意味な国境紛争を長引かせるために数十億ドルを米国から略奪した責任がある。唯一の勝者は、ウクライナの官僚と、同様に腐敗した軍事「防衛」企業だ。

トランプ氏が「タフ」なイメージを前面に出したいがために、ロシアを絶望的な状況に追い込もうとしないことを願おう。米国ではプロパガンダに煽られたヒステリー状態が生まれている。米国人はロシアが悪であり、末期の腐敗政権であるゼレンスキー政権は善であると信じている。第1次世界大戦の時と同様に、米国の介入は恐らく破滅的な結果をもたらすだろう。

(次を抄訳)
Trump’s Second Term: What It Means for America and Investors - LewRockwell [LINK]

【コメント】思慮深いリバタリアンはトランプ氏の勝利を歓迎しながらも、手放しでは喜ばず、マイナス面も冷静に分析する。ケーシー氏もその1人。「政府支出を削減しなければ減税などありえない」との指摘に加え、外交面でイスラエル支持が米国を「核の泥沼」に巻き込みかねないとの警告も重要だ。

2024-11-14

米国を一夜で再び偉大にする方法

カレン・クウィアトコウスキー(退役米空軍中佐)
2024年11月13日

(ジャーナリスト)メンケンの民主主義と選挙に対する見方は正しかった。誰かのポケットから、何もせずに何かを得ることだ。選んだ行政官は毎年何兆ドルもの借りた金や盗んだ金を使うが、それは次の選挙の票を買い、自分や仲間を豊かにするためで、決して責任を負わない。
3期目のないトランプは愛国者、起業家、兵士からなる新しい並外れたチームを率いて、ホワイトハウスに復帰する。その政策は公表されており、数年前までネオコンとエリート主義の悪徳の巣窟だったヘリテージ財団のアジェンダではない。

州、地方、連邦の政府職員は、米国で最も組合化が進んだ「労働者」の集団だ。これには公立学校の教師も含まれるが、連邦レベルでの大きな政策変更に直面して、これらの組合労働者はストを起こす可能性がある。トランプは有名なフレーズ(「お前はクビだ!」)を使うだろうか。

新大統領が直ちに取る行動は、忠実で志を同じくする人々をすべての省庁および機関の責任者にすることであり、トランプはそれを実行するつもりである。新たな責任者は各省庁にゼロベースの予算を直ちに要求し、承認済みの予算を停止しなければならない。

1988〜2005年に実施された5回の米軍基地縮小では、世界中の350の施設(任務ではない)が削減され、17年間でわずか120億ドルしか節約されなかった。これはウクライナへの無駄な援助の数カ月分にすぎず、2023年10月以降、通常の額に加え、急増したイスラエル支援に遠く及ばない。

新大統領があらゆるレベルの連邦職員を削減・解雇し、就任初日から支出を削り、大幅な予算削減を約束すると、ロビー団体に支配され、憲法に無知で財政的に無能な議会が、お決まりの巨額支出で「修正」し、対抗すると予想される。トランプは何度も拒否権を発動する必要があるだろう。

やるべきことは山ほどあり、期待できることも山ほどある。トランプは(おそらく)行政府を制御できるが、下院・上院の支援を頼りにできるだろうか。もちろんできない。トランプにできる最善かつ唯一のことは、中央銀行の米連邦準備理事会(FRB)を廃止して金融システムを解放することだ。

パウエルFRB議長の公然たる頑固さは、憲法が国立銀行の設立を認めていないことを考えると驚くべきものだ。まずパウエルを解任し、別の議長ではなく、トランプの襲撃チームに交代させるべきだ。チームは監査を行い、存在するかもしれない実質資産を奪い、売却するだろう。

トランプがジャクソン大統領のように、インフレと通貨劣化の工場(FRB)を閉鎖できれば、連邦政府の人員、権限、インフラ、任務を縮小し、省庁全体を廃止するという途方もなく複雑な仕事は、もうトランプの肩の荷でなくなる。市場が決めてくれる。

政府債務のコストが負担不可能になれば、お金は正直で、現実的で、有用になる。連邦政府を小さくする方法は一夜にして、恐怖とパニックではなく、革新と解決の問題に変わる。政府支出は実力主義になり、腐敗したロビー活動、卑劣な悪徳政治、貪欲な寡頭政治をすべて一度に置き換える。

FRBを廃止することは、CIAを解体したり、国防総省の75%を廃止したりするよりも、政治家にとって物理的に危険だろうか。蛇の頭を切り落とすことは、尻尾を切り落とすよりも危険だろうか。この一つの行為(FRB廃止)は共和国を救うことになるだろうか。今こそ、その答えを知るときだ。

(次を抄訳)
MAGA in One Step - LewRockwell [LINK]

【感想】減税すれば政府の歳出は自然に減ると信じる人がいる。しかし中央銀行が存在する以上、政府は税収不足をマネーの発行(による国債購入)で補うことができる。中央銀行の廃止でその逃げ道をふさげば、税収を上回る政府事業は維持できなくなり、それこそ自然に解体される。