2024-01-01

「米国による平和」の嘘

朝日新聞は元日の社説で「紛争多発の時代に」と題し、国際紛争の多発について論じている。一読して驚いた。紛争多発の原因に関する認識が、事実とあまりにかけ離れているからだ。
朝日が引用するスウェーデンのウプサラ大学の分析によれば、冷戦終了後に着実に減りつつあった武力紛争は、2010年を境に増加に転じた。直近の集計では世界で進行中の紛争は187に達しているという。

問題はここからだ。まず、朝日はこう書く。「2010年といえば、米国はオバマ政権の1期目。リーマン・ショックによる不況が尾を引き、米国の対外政策が一気に内向きに転じた年である。パックス・アメリカーナ(米国による平和)の陰りは隠しようもなく、一方で中国が大国志向を強めた」

2010年から米国の対外政策が「内向きに転じた」と朝日は批判し、それによってそれまでの「パックス・アメリカーナ」が乱れたと嘆いている。しかし世界の平和はすでにそれ以前から、アフガニスタン戦争(開始は2001年、以下同)やイラク戦争(2003年)といった「対テロ戦争」によって乱されていたし、その軍事介入を主導したのはほかならぬ米国だ。「内向きに転じた」という2010年以降も、米国はリビア(2011年)やシリア(2014年)で軍事介入を主導してきた。

「米国による平和」どころか、「米国による戦争」である。朝日はこうした事実を無視したうえで、さらにこう述べる。

かくして冷戦後の国際秩序は根底から揺らぎ、「警察官」を失った世界は不安定化した。抑え込まれてきた緊張関係や、先進諸国から忘れ去られていた地域紛争が、相次いで「着火」した。

国際情勢が不安定になり、紛争が多発するようになったのは、米国が世界の「警察官」の役割を果たさなくなったからだというのだ。しかし、これまで述べた事実に照らせば、実際は正反対だろう。米国が世界の警察官気取りで、各国で軍事介入を繰り返したことこそが、国際情勢を不安定にしたのだ。日本もその誤った対外政策に追随してきた。

今この瞬間も、米国は北大西洋条約機構(NATO)を通じてウクライナを支援し、ロシアとの紛争を長引かせているし、イスラエルに武器・資金を供与し、パレスチナ自治領ガザに人道危機をもたらしている。どちらも、遠く離れた米国の自衛に必要な介入だとは思えない。

自衛に無関係な軍事介入はしないのが、米国の伝統のはずだ。第6代大統領ジョン・クインシー・アダムズは「諸外国が米国の志向する理念や理想に反する内政を行っても、他国の問題に干渉するのを慎んできた」と述べ、「米国は倒すべき怪物を探しに海外へ行ったりしない」と戒めた。

大統領選を控える2024年、米国がなすべきは、朝日があおるような、世界の警察官として張り切るのではなく、多数の人々を不幸にするおせっかいな軍事介入をやめることだ。

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