2015年7月12日日曜日

押売りの経済学

不景気の原因は、国民がカネを使わないことである。だから景気を良くするには、政府が国民になり代わってカネを使ってやればよい――。ケインズ経済学に毒された政治家や言論人はこう主張する。しかしこれは大きな勘違いである。欲しくないものを無理に買わせても人間は幸せにならないし、社会も豊かにならない。

「日本のケインズ」として最近人気を集める高橋是清は、政府の国防費についてこんなことを書いている。「国防のためには、材料も要る、人の労力も使はれる。それらの人の生活がこれに依つて保たれる。だから拵(こしら)へた軍艦そのものは物を作らぬけれども、軍艦を作る費用は皆生産的に使はれる」(『随想録』中公クラシックス)

これを『目覚めよ! 日本経済と国防の教科書』(中経出版)で引用した経済評論家の三橋貴明は、「高橋是清の『国民経済』に対する理解度は、驚愕するほどに深い」と持ち上げる。そして「国民の安全に直結する公共投資や防衛費」はもちろん、極論すれば「浪費だろうが何だろうが、日本政府がおカネを消費もしくは投資として使えば、日本国民の所得が創出される」と述べる。

しかし高橋も三橋も、経済にとって肝心のことを忘れている。商品やサービスを提供するのは、人を満足させるためである。そのためには人が商品・サービスの値段を知ったうえで、買うか買わないかを自由に選べなければならない。ところが政府が提供するサービスは、これらの条件を欠いている。

第一に、値段が不明朗である。政府が国防、教育、インフラ整備といったサービスの代償として課す税金は、サービスの質に応じて決まるのでなく、支払う側の所得や資産の額に応じて一方的に決められる。

第二に、購入を拒否することができない。外国に拉致されても助けてくれないような政府に防衛費を払うのは嫌だと言っても、税金をその分負けてはくれない。


このような商売の仕方を、もし民間でやったら何と呼ばれるか。そう、押売りである。なるほど、もし押売り屋が客からカネを巻き上げるのに成功したならば、高橋が言うように、押売り屋の生活は「これに依つて保たれる」ことになろう。しかしこれでは社会全体の幸福は増進しない。押売りが幸福になる分、客が不幸になるからである。

もし押売りが手のつけられないほど横行すれば、人はまじめに働くことをやめてしまうだろう。どんなに稼いでも押売りに奪われてしまうからだ。まじめに働く者が減れば、商品やサービスの供給が減り、社会は物質的に貧しくなる。政府がカネを使えば景気は良くなるという押売りの経済学を声高に唱える輩こそ、社会を貧しくする元凶なのである。
(2013年6月、某ミニコミ誌に寄稿)

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