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「反インフレ経済勉強会」開講のお知らせ

インフレは税の一種です。しかも普通の税よりも悪質な税です。ところが、この事実はよく理解されていません。それどころか、多少のインフレはむしろ良いことだという嘘が、現在主流の国家主義的な、誤った経済学(ケインズ経済学)や、そこから派生した極端な説 (MMT=現代貨幣理論など) によっ...

2023-01-09

クリーブランドと健全な通貨

クリーブランド米大統領はインフレ論者の主張とは逆に、通貨切り下げはかえって貧しい労働者を苦しめると主張した。2期目にはシャーマン銀購入法を廃止し、金本位制に復帰した。インフレ論者が騒いでも、クリーブランドに矛盾はない。健全な貨幣を守ることが、労働者階級の救済につながるのだ。
Grover Cleveland Presented the Best Example of a True Liberal Populist | Mises Wire [LINK]
減税を攻撃し、政府の規模拡大を擁護する論調は熱狂的なレベルに達している。しかし政府支出の肥大と金融介入の拡大こそ、中流階級を広く貧困化させる原因の一部だ。絶え間ない増税と、通貨の購買力の低下は、ほとんどの先進国で中産階級を一掃しようとしている。
Tax Cuts Do Not Cause Inflation. Printing Does. | Mises Wire [LINK]

今日、全能の「民主」国家は、世界の富の大部分を動かし、ある者(取り巻きの銀行家など)には恩恵を与え、他の者(中流階級など)には負担を課している。さらに他の人々(生活保護受給者など)には、一見恩恵を与えているようだが、実は貧困を招く国家への依存を助長するよう負担を強いている。
The Old Order and the Libertarian Revolution - Foundation for Economic Education [LINK]

 2002年にブッシュ大統領が発動した関税の影響で、米国の労働市場全体で20万人の雇用が失われた。この数字は、当時の米国の鉄鋼メーカーの総人員よりも大きい。つまり保護主義は、たとえ他国が報復してこないとしても、自国にとって悪いことなのだ。
 What Donald Trump Doesn't Understand About Trade - Foundation for Economic Education [LINK]
 
 米連邦政府の規制によって課せられたコストと、連邦政府の保護主義のせいで、米国の航空会社の乗客は選択肢が十分でない。2007年から2021年まで新規参入の航空会社はなく、少数の企業が北米の航空事業を支配している。上位3社が70%、4社が80%のシェアを握るとされる。
Southwest's Meltdown Reminds Us We Must End Airlines' Corporate Welfare | Mises Wire [LINK]

 米食品医薬品局(FDA)の試験と承認は、新しい医薬品が市場に参入する際に大きな障壁となる。インスリン製造事業への参入コストは、FDAの厳しい審査手続きがない場合に比べ、はるかに高くなる。一方、2016年12月、20州の司法長官が、インスリン大手3社が結託し、市場を独占していると告発した。
 Why We Don’t Have Generic Insulin - Foundation for Economic Education [LINK]
 
  1980年代半ばから1990年代にかけて、ニュージーランド政府は赤字の国営企業を何十社も売却していった。1984年の政府職員は8万8000人だった。激しいダウンサイジングの後、1996年には3万6000人未満となった。59%の減少だ。規制緩和のおかげで、新規事業の立ち上げも迅速かつ容易になった。
 New Zealand's Path to Prosperity Began With Rejecting Democratic Socialism - Foundation for Economic Education [LINK]

ニューヨーク市ブルックリンの犯罪多発地域であるスターレットシティにおける民間警備隊の行動と効果を調査したところ、公営の警察よりもはるかに犯罪を減らす効果があったことがわかった。これは民間の警備員の訓練や育成のレベルが上がったことと、高度な警備技術の活用によるものと思われる。
Private Security: An Effective Method to Prevent Being a Crime Victim | Mises Wire [LINK]

中絶をめぐるヒステリーは米国の国境を越えた世界には及ばないようだ。欧州諸国の多くが厳しい妊娠期間制限を設け、ポーランドで中絶はほとんど違法だ。中南米でも中絶にはさまざまな制限がある。イラクでは、進歩的な民主主義を築くという名目で何千人もの米国人が死んだが、中絶は違法である。
Secession: Why the Regime Tolerates Self-Determination for Foreigners but Not for Americans | Mises Wire [LINK]

2023-01-08

グレタの環境十字軍

グレタ・トゥンベリの運動は、単なる気候変動対策を超えて、平和的・生産的に資源を手に入れた人々の意思に反し、資源を専制的に支配しようとするものだ。もし彼女の望みどおりに市場経済の力が弱まれば、気候変動に対してインフラ・技術・研究などの防御を行う能力を高められなくなるだろう。
The Authoritarian Implications of Greta Thunberg’s Crusade against Markets - Foundation for Economic Education [LINK]
環境活動家グレタ・トゥンベリは、CO2排出量を削減する唯一の有効な方法が原子力発電への切り替えであることを認識していないようだ。ある試算によれば、日照時間の豊富な米カリフォルニア州でさえ、すべて再生エネルギーに切り替えた場合、メガワット時あたりの価格が1612ドルに急騰する。
The Real Problem with Greta Thunberg Is Not Her Age - Foundation for Economic Education [LINK]

気候変動活動家と呼ばれる人たちの多くは、気候や環境について本当はあまり関心がない。資本主義との戦いにおける道具にすぎないからだ。真の目的は資本主義を排除し、国営の計画経済を確立することだ。だから環境を保護し、気候変動のリスクを軽減するあらゆる手段を一貫して拒否している。
It's Not Kooky to Say Anti-Capitalists Are Using Climate Change as a Pretext for a Planned Economy When They Come Out and Say It - Foundation for Economic Education [LINK]

政府の強制に頼ることで、経済的にも環境的にも意味のないリサイクルの仕組みが出来上がってしまった。人類のより良い未来を真剣に考えるなら、政府は手を引き、現場の知識と利益への動機のある起業家に道を譲るはずだ。リサイクル品が川や海に捨てられるのではなく、価値を生み出すようになる。
How America’s Recycling Program Failed—and Scarred the Environment - Foundation for Economic Education [LINK]

人間はイノベーションによって、資源の供給量を増やすことができる。自動車の燃費を2倍にすれば、ドライブに利用できる石油の量は実質2倍になる。石油を取り出す新しい技術も開発する。このような変化があるから、多くの科学者は長年にわたり、石油産出量のピークの予測を試みて失敗してきた。
Paul Ehrlich: Wrong on 60 Minutes and for Almost 60 Years - Foundation for Economic Education [LINK]

米疾病対策センターは新しい報告書の中で、2020〜2021年の平均寿命の低下にコロナワクチンが影響している可能性にあえて触れていない。だが報告書に記載された死因の上位10位(1位は心臓病)に含まれる病状によって、ワクチンが多くの傷害や死亡を引き起こしたことを示唆する研究が増えている。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : CDC Blames Life Expectancy Decrease on Coronavirus, Ignores Contribution of Coronavirus Shots and Government Coronavirus Policies [LINK]

ウイルスが脅威であればあるほど、リバタリアンが日頃勝ち取ろうと闘っている自由は、重要になる。自由な人々は情報を生み出すからだ。彼らが好きに振る舞うことで、どんな活動が脅威で、どんな活動が脅威でないかを、自由を通じて見つけることができる。
As China Retreats From Covid Lunacy, Lunacy Returns to the U.S. | RealClearMarkets [LINK]

コロナワクチンが殺人兵器であるという疑いがこれほどまでに米国に広がり、さらにワクチンに関する情報が増え、コロナ騒動が歴史から消え去るにつれ、ワクチンの迅速な製造と承認、宣伝、広範囲な配布、強制的な接種の背後にいた政府、企業、個人が法的な危険にさらされる可能性は高まるだろう。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Killer Shots and Justice [LINK]

米フロリダ州ブロワード郡は、コロナ向け救済資金の1億4000万ドルを使って、プールデッキ、屋上バー、スパ、フィットネスセンターを備えた高級ホテルを建設した。その際、巧妙な手口を使った。救済資金を郡の一般資金に移し、税収減を補う連邦政府からの支払いと説明したうえで建設に回した。
9 Crazy Examples of Government Waste in 2022 - Foundation for Economic Education [LINK]

CIAは自由をもたらさない

破壊工作や暗殺の長い歴史を持つスパイ組織が、リバタリアンの考える自由をもたらすことはない。CIAのスパイで全米民主主義基金(NED)会長となったカール・ガーシュマンは、元は米社会党の活動家だった。CIAがクーデターや革命を起こした国々に直接自由をもたらした例もない。実際はその逆だ。
Surveillance State: What the #TwitterFiles mean for America, Ukraine and libertarianism | LP of MA [LINK]
昨年9月にノルドストリームのガスパイプラインが爆発した際、米欧諸国はロシアの破壊行為だと決めつけた。しかしワシントン・ポスト紙は最近、ロシアの責任を示すものは何もないと報じた。それでは誰がやったのか。それを問わないのは、9.11テロの背後に誰がいたのかを調査しないのと似ている。
Nord Stream Who? - The American Conservative [LINK]

イラン人の多くが政治体制を変えたいと望むなら、それはイラン人の権利であり、米国はそれを妨げるべきではない。一方、米国は政権交代を仕事にしてはならない。それは米政府の役割でも責任でもない。過去の暴挙や現在の政策のせいで米政府が嫌われている国では、関与が役立つことはないだろう。
The US Should Not Be in the Business of Regime Change - Antiwar.com Blog [LINK]

キューバ危機の際、ソ連がキューバにミサイルを配備したのは、米国がトルコとギリシャに核兵器搭載の中距離ミサイルを配備したためだ。そのミサイルがソ連を脅かした。ソ連のレッドライン(越えてはならない一線)を越えてしまったのだ。キューバのミサイルは、米国への対抗措置だったのである。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Are There Any US Red Lines? [LINK]

CNNが美化した1991年の湾岸戦争は、冷戦終結で失業した十字軍を元気づけた。安全保障狂のネオコンだ。連中はレーガン大統領を惑わして大規模な軍備増強をさせ、核戦争に勝つ能力の構築と世界征服をたくらむというソ連の台頭を阻止しようとした。ソ連は合理的で、核戦争に勝つ戦略などなかった。
The First Gulf War – A Catastrophic Error - Antiwar.com Original [LINK]

新しい冷戦の始まりだ。……これ(NATOの東方拡大)は悲劇的な間違いだと思う。これには何の理由もなかった。誰も他の誰かを脅かしてはいなかった。このような拡大をやってしまったら、アメリカ建国の父たちも浮かばれまい。 - 米外交官、ジョージ・ケナン(1998年の発言)
Putin Apologists? - Antiwar.com Blog [LINK]

米国の安全保障を強化する最善の方法は、その防衛に依存する国々が卒業し、自分の地域の面倒を見ることだ。米国が朝鮮半島からいなくなれば、北朝鮮は米国の事情にあまり関心を持たなくなるだろう。米政府の財政は厳しく、韓国のような豊かな友人のためにグローバルなお守り役をする余裕はない。
The Greatest Threat to World Peace: North Korea’s Kim Jong-un? | AIER [LINK]

2023-01-07

ウクライナ戦争に光明?

米国は愚かにも戦争へと向かっているが、2023年には明るい兆しもある。世論調査によれば一貫して、米国のウクライナへの関与に反対する米国人が増えている。家庭は暴走するインフレと迫り来る経済危機に苦闘しているのに、なぜウクライナに1000億ドル以上も送ったのか、政府に答えを求めている。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : A Gloomy 2023? Here Are Some Bright Spots [LINK]
ウクライナのゼレンスキー大統領は、国民のニュース閲覧に対する政府の支配を強化する新しい法案に署名した。NYタイムズによると、この法律は政府の報道機関に対する支配を印刷物とオンラインに拡大するもの。3月には戒厳令の権限を行使し放送メディアを国有化し、反対意見を事実上封じ込めた。
Zelensky Expands Crackdown on Ukrainian Media | The Libertarian Institute [LINK]

ウクライナ政権は率先してロシア軍に対する悪質な中傷を流布した。ブチャでは撤退するロシア軍による「民間人の大虐殺」があったと言われた。ロシア恐怖症は国民に戦争の準備をさせ、好戦的な愛国心を抱かせる昔からの手口の新しい現れだ。殺人を受け入れやすくするために、相手の人間性を奪う。
Dehumanizing the Enemy - Antiwar.com Original [LINK]

欧米のプロパガンダは文学、芸術、チェス、スポーツ選手、俳優・女優など、ロシアのすべてを悪者扱いしている。このようなやり方は、欧米への善意を育むことにはならない。その逆だ。ロシアのナショナリズムを強化し、プーチン支持を強固にしている。有能なプロの情報機関なら、こうはならない。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Is Western Propaganda Failing? [LINK]

1.7兆ドルの米一括歳出法案が可決された際、米国のイスラエル代理人が、ウクライナへの累積外国援助1000億ドルはイスラエルより多いと虚偽の主張をした。それは誤りだ。1946〜2018年のイスラエル向け援助はインフレ調整後で2360億ドル。何十億もの闇予算の諜報活動や秘密裏の援助は含まれない。
2022 US Middle East Policy Review and 2023 Forecast From the Institute for Research: Middle Eastern Policy - Antiwar.com Blog [LINK]

米トランプ政権は、経済制裁はシリア国民を傷つけるためではなく、アサド政権の暴力と破壊に対する説明責任を促すためのものだと場当たり的な主張をした。しかしこれは明らかに誤りであった。現在、シリア人の10人に9人が貧困状態にあり、10人に6人以上が飢餓の危険にさらされている。
Ending the Syria war, getting US troops out, and lifting sanctions - Responsible Statecraft [LINK]

エマニュエル駐日大使によれば、日本の軍備増強は米国内で両党と議会両院から「統一的」な支持を得ている。これは明らかな嘘だ。ツイッターを見れば右も左も日本の新しい姿勢に全然関心がない。米主要メディアではわずかな例外を除いてほとんど触れられず、CNNやMSNBCでも事実上無視されている。
Japan Crosses the Rubicon – THE SHORROCK FILES [LINK]

グローバリゼーションとグローバリズム

グローバリゼーションとは、世界中の社会が経済的・政治的に交流し、統合し始めることだ。帆船時代やシルクロードを経由した大陸間貿易は、初期のグローバリゼーションの例だ。一方、グローバリズムとは、権力の一極集中を背景としたトップダウンの貿易自由化と世界統合を求めるイデオロギーだ。
Globalization, Not Globalism: Free Trade versus Destructive Statist Ideology | Mises Wire [LINK]
植民地時代のアメリカでよく読まれたエッセイ「ケイトーの手紙」は、自由と権力についての考えを親しみやすく力強い散文で表現した。「ある人が溝に落ちたからといって、行政官はすべての人の足を縛らなければならないのか。偽りを見ないように、すべての人の目をくり抜かなければならないのか」
Cato’s Letters Explained “the Glorious Principles of Liberty” to the American Founders - Foundation for Economic Education [LINK]

リバタリアニズムが米国で比較的新しいのは、言葉としてだけで、思想としてではない。この言葉は、それまで「リベラリズム」として知られていた思想に名前を付けるために作られたものだ。「リベラリズム」は堕落し、しまいに本来とは逆の意味を持つようになったので、その場しのぎが必要だった。
The Libertarian (and Whig) Heritage of America - Foundation for Economic Education [LINK]

作家アイン・ランドのいう「アメリカニズム」とは、特定の米国人や政府が望むこと、行うことをやみくもに支持することではない。アメリカニズムとは、個人主義、すなわち個人の権利の原則を支持する、アメリカ建国の伝統のことであり、それは建国の文書である独立宣言にはっきりと示されている。
What Ayn Rand Meant by “Americanism” - Foundation for Economic Education [LINK]

米国では19世紀に入ってからも、親たちは、政府が子供たちに教育を提供する責任を負っているとか、負うべきだとかは考えもしなかった。南北戦争前に義務教育法があったのはマサチューセッツ州だけだったが、識字率は米国の歴史上最も高い水準にあった。
The Myth that Americans Were Poorly Educated before Mass Government Schooling - Foundation for Economic Education [LINK]

ミーゼスとハイエクは、自分を左派から区別するために「古典的リベラル」という言葉を使った。今日、この言葉はおもに左派をなだめるために使われている。今の自称古典的リベラルとは、トランプ支持者から距離を置き、「自分はあのひどい右翼とは違う!」と左派に納得してもらおうとするものだ。
"Classical Liberalism" Will Never Satisfy the Left | Mises Wire [LINK]

経済では、ある行為・習慣・制度・法律が一つの影響だけでなく、一連の影響を生む。最初の影響だけが原因と同時に姿を現す。それは目に見える。他は次々と展開し、見えない。駄目な経済学者は目に見える影響を考慮し、優れた経済学者は目に見える影響と予見必要な影響の双方を考慮する。(バスティア)
That Which Is Seen, and That Which Is Not Seen | Mises Institute [LINK]

2023-01-06

【コラム】ノーベル賞作家の単純な図式

木村 貴

朝日新聞デジタルは新年の目玉として1月1〜3日の3回にわたり、ノーベル文学賞作家スベトラーナ・アレクシエービッチ氏へのインタビュー記事を連載した。おもなテーマは、世界の注目を集める「ロシアのウクライナ侵攻」である。

アレクシエービッチ氏は、ロシアとウクライナに国境を接するベラルーシの出身。また記者の紹介によれば、代表作「戦争は女の顔をしていない」などで、「常に社会や時代の犠牲となった『小さき人々』の声につぶさに耳を傾けてきた」という。もしそうならば当然、今回の「侵攻」の歴史的背景をしっかり踏まえたうえで、女性や子供を含む人々が戦争の犠牲になる悲惨な現状を一刻も早く止めるよう、早期停戦を呼びかけるに違いない。ところが予想はみごとに裏切られる。

第1回の冒頭、「ウクライナ侵攻が起きて、まず感じたことは」という記者の問いに対し、アレクシエービッチ氏はこう答える。「開戦を知った時、ただただ涙がこぼれました。私は本当にロシアが大好きで、その文化の中で育ちました。ロシアに友人も大勢いるのです。戦争が始まるなんて到底信じられませんでした」

アレクシエービッチ氏のこの発言に対し、いつも日本の新聞やテレビ、あるいはせいぜい、その情報源である米欧の大手メディアの報道にしか接しない人たちは、さして違和感を覚えないだろう。しかし、少し詳しく今回の紛争の経緯を調べたことのある人なら、疑問を感じるに違いない。まるでロシアのウクライナ侵攻が何の前触れもなく、突然始まった出来事であるかのように語られているからだ。

新聞テレビははっきり伝えようとしないが、2022年2月24日に始まったロシアの「侵攻」(ロシアは「特別軍事作戦」と呼称)には、それに先立つ経緯がある。詳しくは別の機会に述べるとして、ここではごく手短にいうと、ロシアとウクライナの対立は少なくとも2014年、ウクライナで米国の支援を受けたデモ隊が親露派の大統領を倒し、親米派を据えたクーデター(マイダン革命)にさかのぼる。

クーデターで実権を握った民族主義者による迫害を恐れ、東部のロシア系住民がドネツク、ルガンスク両人民共和国の独立を宣言すると、ウクライナ政府は激しい攻撃を加え、内戦となる。この内戦は昨年2月、ロシアが「侵攻」に踏み切るまで8年間続き、その間、独立派は軍人と市民合わせて1万3000人以上の命が奪われた。これには歴史的に関係の深いロシア国民の親族も含まれる。

しかもロシアがロシア系住民の要請に応える形で「侵攻」に踏み切る直前には、ウクライナ軍の東部に対する砲撃が10日間にわたって大幅に強化されていた。長期でみても短期でみても、決してロシアが何の理由もなく、一方的に攻め込んだというような状況ではなかった。

ところがアレクシエービッチ氏はこうした経緯に一切触れることなく、「戦争が始まるなんて到底信じられませんでした」と驚いてみせる。内戦はすでに8年間も続いていたのにである。ウクライナ政府に独立を阻まれ、命を奪われた1万3000人ものロシア系住民の存在は、まるで忘れ去られたかのようだ。

もちろん理想をいえば、プーチン大統領率いるロシアは、武力に訴えるという選択肢を避け、粘り強く外交による解決の道を追求するべきだったろう。しかしそうしなかったからといって、それまで内戦でさんざん市民に暴力を行使してきたウクライナ政府やそれを支援する西側諸国に比べ、はるかに邪悪な存在だなどと言えるわけがない。

だがアレクシエービッチ氏は、「ウクライナ=善」「ロシア=悪」という、冷静な議論にはむしろ有害な、単純きわまりない図式を描く。「かつて〔第2次世界大戦中〕、ソ連人が自国をドイツから守りました。今のウクライナ人は、かつてのソ連人のように振る舞い、ロシアはヒトラーのようです」

ニュース雑誌のカバーでよく目にする、プーチン氏をヒトラーになぞらえた、わかりやすい漫画そのものだ。ノーベル賞作家の描く人間像にしては、いささか平板すぎる。ウクライナ戦争の経緯を知っていて、一方的にロシアに対する敵意を煽るのであれば、不誠実だと言わざるをえない。

アレクシエービッチ氏のロシア非難は止まらない。「ウクライナの破壊された街並みも、第2次世界大戦をほうふつとさせます。村が焼かれ、人々が撃たれました。街を闊歩(かっぽ)していたロシア兵が撤退すると、いくつもの墓が残ります。墓を掘り起こした時、人々が拷問されたのだとわかるのです」

この発言を踏まえ、聞き手の朝日記者は「ロシア軍が占拠し、後に撤退したウクライナのブチャなどでは、残虐な行為が繰り返されました」と、さも確かな事実であるかのように述べる。

しかしロシア軍の仕業として米欧メディアで一時騒がれた「ブチャの虐殺」はその直後から、遺体の状態や発見のタイミング、ロシアにわざわざ国際世論の批判を浴びる行動をとる動機がないことなどから、ウクライナ側によるプロパガンダの疑いが持たれている。また、ブチャの集団墓地に最大300人の遺体が埋葬されていたとか、ウクライナの女性捕虜がロシア軍から拷問を受けていたとかいう米CNNの報道は、ウクライナの人権監察官(解任)によるデマだったことがわかっている

ロシア軍には人道に反する行為が皆無と言うつもりはないが、少なくともそれが敵対するウクライナ政府の発表や西側メディアの報道に基づく場合、眉に唾をつけるのが、健全なメディアリテラシーというものだろう。

けれどもアレクシエービッチ氏のここまでの発言には、そうした慎重な態度はまったく感じられない。それどころか、ここからさらに暴走していく。(この項つづく)

2023-01-05

古代ローマの経済破壊

古代ローマ帝国のディオクレティアヌス帝は現物課税を導入した。税の支払いとして、価値がなく質の落ちた貨幣を受け取らないようにしたのだ。多くの納税者は土地や職業に縛られ、徴税時に政府が要求する製品を生産しなければならなくなった。 こうしてローマの経済構造はますます硬直化した。
How Roman Central Planners Destroyed Their Economy - Foundation for Economic Education [LINK]
中世後期以降、国家は社会のあらゆる組織に対し独占的な権力を行使するようになった。教会も国家権力の下に置かれ、国家による結婚の統制はその重要な部分だった。今では当たり前のようになった結婚の国家管理も、権力がほとんど制約を受けない近代の舞台を整えた、国家建設の一側面でしかない。
How the State Seized Control of Marriage | Mises Wire [LINK]

英哲学者ジョン・ロックの思想は、アメリカ建国思想の元となった。不可侵の権利とは、政府の給付に対する権利ではなく、生命、自由、財産に対する権利である。革命の権利とは、国民は専制政治に抵抗し、変更し、廃止する権利を持っているという考え方である。その思想は暴君には脅威だった。
The Most Dangerous Man in the World - Foundation for Economic Education [LINK]

アダム・スミスの時代には、政府が裁判を事実上独占していたにもかかわらず、スコットランドやイングランドの農民は、今日よりも多くの法の選択肢を持っていた。当事者は地方法、荘園法、郡法、教会法、商人法、大法院(衡平法上の救済と金銭賠償)、コモンローの法廷を利用することができた。
The Realistic Market for Private Governance | Mises Wire [LINK]

奴隷制の時代、無能な白人に農園の管理を任せるのは農園主にとって損だった。そこで盛んに黒人を雇った。雇用主はイデオロギーとは関係なく、質の高い労働力を好む。人種差別が容認されていた時代でさえ、人種差別主義者の農園主は無能な白人より有能な黒人を選び、同業者を悔しがらせたのだ。
Capitalism Is Not Racist; Capitalism Undermines Racism | Mises Wire [LINK]

クリーブランド米大統領(第22、24代)にとって、消費者に必要以上に課税するのは道徳的に忌まわしく、政府の憲法上の権限に反するものだった。「政府の徴収の権利は実際に必要なものに限られており、政府の保護に必要な金額を超えて国民から徴収するのは強盗に等しい」と選挙演説で述べている。
Grover Cleveland Presented the Best Example of a True Liberal Populist | Mises Wire [LINK]

泥棒といえば、誰も見ていないところで仕事をするものだと思われている。しかし最も成功した泥棒は、持ち主が家にいる間に、ほとんど発見できないような巧妙な手口で、平然と、大規模に盗みを働く。1913年12月23日、ウィルソン米大統領が米中央銀行の設立法に署名し、そのような盗みが始まった。
Woodrow Wilson's Christmas Grift of 1913 | Mises Wire [LINK]

2023-01-04

ハイテク製品という権力装置

メガデータ、ソーシャルメディア、人工知能、アプリ、発展途上の物のインターネット、身体のインターネット、デジタルアイデンティティー、中央銀行デジタル通貨(CBDC)など、巨大ハイテク企業の諸技術は、独占企業の製品であるだけでなく、新たな企業・国家権力の装置として組み込まれている。
Notes from the Digital Gulag | Mises Wire [LINK]

米連邦準備理事会(FRB)は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の種をまいている。目的は取引を容易にし、経済活動を強化することと思えるかもしれないが、おもに個人に対する政府の管理強化にある。導入されれば、中央銀行は口座を凍結できるだけでなく、すべての取引にアクセスできるようになる。
Digital Currency: The Fed Moves toward Monetary Totalitarianism | Mises Wire [LINK]

FBIは今、検閲に異議を唱えるのは「陰謀論」だとする左派の識者の言葉を取り入れている。透明性の確保へ議会と協力すると約束するどころか、言論の自由を守ろうと、ツイッターが政府の代理人として検閲をしていたのではと懸念する人を攻撃している。ツイッター自身が認めているにもかかわらず。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : 'Conspiracy Theorists…Attempting to Discredit the Agency': The FBI Attacks Critics Objecting to its Role in Twitter’s Censorship System [LINK]

全体主義のプロパガンダは道徳に深刻な影響を及ぼす。「あらゆる道徳の破壊」である。なぜなら「あらゆる道徳の基礎の一つである、真実に対する感覚と敬意を損なう」からだ。ハイエクは『隷従への道』で、雪崩のような「公式の嘘」はいつも「全体主義の様々な理論家」の道具だったと書いている。
Why the Left Must Destroy Free Speech – or Be Destroyed - LewRockwell [LINK]

実験心理学は、科学的な基準を満たすという点では非常に疑わしいにもかかわらず、研究対象となる特定の被験者の意見を信用させないために絶えず利用されている。いわゆる陰謀論者の信用を落とすために動員されてきた。そして今、「気候変動否定論者」をおとしめるためにも使われている。
Regime Pseudoscientists Enforce Climate Change Narrative | Mises Wire [LINK]

毛沢東の大躍進政策とグレート・リセットには共通した特徴がある。人間の活動と本性に対し、集団主義的な非科学的イデオロギーを押し付けることだ。大躍進の時代には、ソ連で悲惨な結果をもたらしたルイセンコ説(遺伝子の存在を否定)が採用された。グレート・リセットは気候破局論を採用した。
The Great Leap Backward* | Mises Wire [LINK]

目的が何であれ、社会的に有益なものであれば、それを達成するために暴力や「グレート・リセット」は必要なく、人々はその目的に向かって自発的に協力するはずだ。真の利害関係者の目標を支配エリートの鉄の意志で置き換える制度は、経済ファシズムに酷似している。
Is ‘Stakeholder Capitalism’ Newspeak for Economic Fascism? - Foundation for Economic Education [LINK]

2023-01-03

ウクライナのネオナチ

ロシアが2020年2月にウクライナに侵攻する前、アゾフ大隊がナチスの思想を推進していることは広く知られていた。ユダヤ人社会やイスラエルのロビー団体である名誉毀損防止同盟(ADL)は2019年、アゾフは「ネオナチや白人至上主義者とつながりのあるウクライナの過激派集団」だと警告していた。
Israel helps Ukraine whitewash its Nazis | The Electronic Intifada [LINK]

ウクライナには重大なネオナチ問題が存在する。これは数年前まで主流メディアが真剣に報道していたことだ。2014年のクーデター以来、極右過激派が力をつけ、かなりの数がネオナチに所属していることは、ユダヤ人、フェミニスト、LGBTQやロマ人(ジプシー)社会への攻撃の激増に反映されている。
Facing Unpleasant Facts: What You aren’t Supposed to say about the War in Ukraine | Mises Wire [LINK]

国連総会はナチズムの美化と戦うためのロシアの決議案を採択した。「ナチズム、ネオナチズムなど、現代的形態の人種主義、人種差別、外国人排斥および関連する不寛容を助長する慣行の美化と戦う」と題する文書は、賛成120、反対50、棄権10で採択された。米国、ウクライナ、オーストリアや、ドイツ、イタリア、フランス、スペインを含む欧州連合(EU)加盟国、日本などが反対票を投じた。イスラエル、インド、中国、セルビアはロシアが作成した決議案を支持した。トルコ、韓国、スイス、アフガニスタンは棄権した。
UN General Assembly Adopts Russian Resolution on Combating Glorification of Nazism - 16.12.2022, Sputnik International [LINK]

1.7兆ドルの米一括歳出法案が可決された際、米国のイスラエル代理人が、ウクライナへの累積外国援助1000億ドルはイスラエルより多いと虚偽の主張をした。それは誤りだ。1946〜2018年のイスラエル向け援助はインフレ調整後で2360億ドル。何十億もの闇予算の諜報活動や秘密裏の援助は含まれない。
2022 US Middle East Policy Review and 2023 Forecast From the Institute for Research: Middle Eastern Policy - Antiwar.com Blog [LINK]

ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領は、それぞれ自国に向けて年頭の挨拶を行い、2023年も戦争が収まる気配がないため、戦闘を継続することを誓った。戦線に大きな変化はないものの、ロシアがウクライナのエネルギーインフラを攻撃し、数百万人が冬の電力と暖房を失った。
Putin and Zelensky Both Vow to Keep Fighting in New Year's Addresses - News From Antiwar.com [LINK]

2023-01-02

戦争を防ぐ唯一の道

戦争を防ぐ唯一の道は、その根本原因を取り除くことだ。20世紀の教訓とは、保護主義と社会主義が戦争を引き起こすということである。政府の経済への介入を排除することが、戦争を防ぐ鍵だ。経済学者ミーゼスが忠告するように、「永続的な平和をもたらす制度はただ一つ、自由な市場経済である」。
Who Is Most Responsible for the Ongoing War in Ukraine? | Mises Wire [LINK]

たとえプーチンの戦争責任を全面的に認めたとしても、米国の攻撃的な政策が核戦争の危険をもたらすという事実は変わらない。さらに言えば、プーチンがロシアを1991年のソ連崩壊前の状態に戻したいと考えたとしても、それが成功したところで、米国の安全保障に直接の脅威を与えることはない。
Review: How the West Brought War to Ukraine | Mises Wire [LINK]

用語はとても重要だ。かつて米国は正直に、戦争省と呼んでいた。誰もが戦争に熱心なわけではないので、こっそり防衛省(国防総省)と名前を変えた。誰も「防衛」には反対しない。問題は、米国の基本構想が攻撃的であることだ。国民を「守る」ため、あらゆる場所を支配しなければならないという。
Dominating Everyone Everywhere All At Once - Antiwar.com Original [LINK]

冷戦の終わりには、1914年8月(第一次世界大戦)の銃声に始まった狂気の炎がついに燃え尽きた。平和は間近にあった。しかし31年経った今も、アメリカ帝国が平和を妨げている。イラクへの不必要な侵略と占領、米政府が扇動したシリアの惨状、ウクライナでのロシアに対する代理戦争などがそれだ。
After The 77-Years War – Why There Is Still No Peace On Earth - Antiwar.com Original [LINK]

イランが世界にテロを輸出しようとする拡張主義的な大国だという考えそのものが、米国の戦争党(民主・共和両党の好戦派)とその親ネタニヤフ(イスラエルのタカ派首相)一派が、対決主義的な政策への政治的支持を得るために作り出した、巨大な虚構であり、嘘の固まりである。
Why the War Party Needed To Demonize Iran - Antiwar.com Original [LINK]

2023-01-01

江戸の飢饉はなぜ起こったか

江戸時代の農村は、冷害、日照り、風水害、虫害などによって、たびたび凶作を経験した。しかし、凶作が必ずしも飢饉に直結したわけではない。幕府・藩による経済への介入が、飢饉の悲劇を大きくした。

飢えと食の日本史 (読みなおす日本史)

江戸時代に起こったおもな飢饉には、寛永の飢饉(1641〜42)、享保の飢饉(1732)、宝暦の飢饉(1755〜56)、天明の飢饉(1782〜87)、天保の飢饉(1833〜39)などがある。とくに享保、天明、天保の飢饉は「三大飢饉」と呼ばれる。

三代将軍・徳川家光の治世に起こった寛永の飢饉のきっかけは、西日本で流行した牛疫病だ。西日本では牛は耕作や運送に欠かせないものだったから、農業生産に大打撃となった。牛疫病に続き、旱魃、大雨・洪水に襲われ、飢饉の様相が深まった。東日本でも北海道駒ヶ岳の噴火の影響で冷害に見舞われる。

このため全国的な大飢饉が襲った。農村ではくずやわらびの根を採って飢えをしのぎ、都市では米価の高騰と、農村からの飢えた農民の流入により、多数の餓死者が道端に充満することになった。

幕府の大老だった酒井忠勝は「五十年百年の内にもまれなる」飢饉と危機感を抱いた。農民の疲弊を無視して年貢収納を強行すれば、島原・天草の乱のような一揆も起きかねない。そこで幕府は困窮した農民の救済措置などいくつかの対策を打ち出すが、必ずしも問題の本質解決につながるものではなかった。

たとえば、江戸における米流通の拡大策だ。幕府は上方の蔵米(幕府・諸藩の米蔵に収納された米)や各地の城米(城中に貯蔵した米)を江戸に回送するよう命じた。また諸藩には、江戸滞在の家臣の兵糧米を江戸で買うことを禁じ、国元から回送するよう命じている。これは全国的な米価の高騰を呼ぶ。

この対策からわかるように、幕府の姿勢は将軍権力の膝元である江戸の米を最優先し、いかに確保するかに最大の神経を使っていた。これがしばしば江戸と地方、江戸と大坂の利害対立を招く。

藩の側にも、江戸や上方への米の回米を優先しなければならない事情があった。窮乏化する藩財政を支えるために、各藩とも、少しでも高く、より多く、藩内で生産された米を売るために、年貢のみならず強制的買い上げも行いながら、それらの米を領内ではなく江戸や大坂で売却しようとするようになる。しかも高く売るためには、米価が高騰する米の端境期に、前年度に獲れた米を売る必要がある。このような藩の判断が、領内における米払底をもたらし、飢饉を招くことになった。

寛永の飢饉では、幕府蔵奉行らが町人と謀って年貢米の納入を遅らせ、利益をあげていたことが露見し、関係者が逮捕されている。城米蔵奉行三人、浅草蔵奉行四人ら多くの役人や江戸町人に、死罪などの厳しい処分が行われた。幕府がこの不正を米価高騰の一因と考えたためだが、不正は米価高騰の原因というよりも、結果というべきだろう。不正をいくら摘発しても、米不足や飢饉の解決にはならない。

享保の飢饉でも、幕府・藩の対応はみごととはいえなかった。代表的な失政として、四国の伊予松山藩の例がある。

瀬戸内地方では、讃岐うどんが名物であるのでわかるように、麦の裏作が盛んだった。ところが気候不順が続き、麦は大不作でウンカが大発生した。城下にも農民たちが救いを求めて流れ込んできたが、藩は取り押さえ追い払うだけだった。

餓死者の死骸があふれるようになると、藩士たちに禄高による給米をやめて家族の数に応じた米を支給することにして手は打ったものの、庶民には足元を見て、高値での備蓄食料放出を行う始末である。それ以外は、野菜や蕎麦などの緊急作付けを許すだけだった。

やがて江戸の藩主にも状況の深刻さが伝わり、目付一行を松山へ帰し、緊急食料支援を庶民にも広げた。死者は3489人とされ、全国の餓死者の3割にあたり、逃散した者なども含め人口の1割にあたる2万人の減少を見た。これだけの失政をしても、幕府は藩主に半年ほどの「差控」(謹慎)を命じただけだった(八幡和郎『江戸時代の「不都合すぎる真実」』)。

幕府や藩の行動そのものが、飢饉の悲劇を悪化させた面があった。食料を確保する手段として、穀留という方法がよく採られた。藩はひとつの国家のようなものだったから、領内の民を飢えさせないために関所での取り締まりを強化し、穀物が流出しないようにしたのである。

穀留は領主による自衛策だが、食料が払底している藩にとっては他領からの買い付けが不可能となり、致命的だった。食料に多少ゆとりがあった藩でも、世情不安、食料不安を抑える都合上、他藩の支援要請に応えるには消極的になる。

盛岡藩の星川正甫はその著『食貨志』で、宝暦の飢饉の被害を大きくしてしまった原因として、領内の米が藩の米のみならず農民の米までも買い集められ、根こそぎ回送されてしまい、凶作に対応できなかったと指摘している。江戸時代の当時から、飢饉の原因ははっきり知られていたのである(菊池勇夫『飢えと食の日本史』)。

宝暦の飢饉では、幕府の飢饉対策は後退し、むしろ民間人が個人レベルで救済したり、「救荒食」(飢えをしのぐ食物)の手引書を著した。しかしその後に起こった天明の飢饉は、一時の対応では対処できないほど激しかった。

天明の飢饉は、浅間山の大噴火・降灰、冷害などが重なり、東北・関東を中心に約92万人の死者を出した。死人の肉を食べたとの記録も見られ、各地で一揆や打ち壊しが続発した。
幕府は米穀売買勝手令を出して、周辺地域からの穀物の流入と問屋・仲買以外の素人でも自由に売買することを認めた。江戸への米の移入増と米価の引き下げを狙ったのである。当初は効果を発揮する場面もあったが、関東農村も飢饉に陥ると、江戸への回米は増加しなくなり、米価は高騰を続けた。

やがて幕府は売買勝手令を撤回し、旧来のように六軒の米問屋に上方米の扱いを独占させ、彼らに安値販売させることで米価の高騰を抑えようとした。幕府の米価対策の迷走に、市場も消費者も混乱した。結局、米価の高騰は収まらず、1787年(天明7)年5月、ついに江戸で大規模な打ちこわしが始まる。

打ちこわされた家は500軒を超え、米関係の商人が3分の2を占めた。打ちこわしと前後して、市中の各地で施行(豪商などによる施し)が行われ、騒動は数日でようやく沈静化する。幕府は6月、「武家寺社町方共一統救い合い」の気持ちを持って「助け合う」ように触れた(倉地克直『江戸の災害史』)。

19世紀に入り、1820年代までは大きな凶作に見舞われなかったが、1833(天保4)〜36年に異常気象で全国規模の凶作が生じ、天保の飢饉となった。各藩は自藩領での食料確保のために米穀の領外移出を禁止し、幕府も天明の飢饉時に生じた都市打ちこわしへの教訓から江戸市中での食料確保を優先させたため、局所的に激しい食糧不足が生じた。

幕府は例によって江戸への米の移入に努め、米価高騰を食い止めようとした。その結果、関東周辺から大量の米穀が江戸市中へ回送され、大凶作が生じなかった地域でも食料が逼迫し、貧窮民が打ちこわしを起こした。

大坂でも、大坂町奉行所が江戸への米の回送に積極的に協力したため、大坂市中での貧窮民への施米は江戸に比べて貧弱だった。大坂町奉行所与力を隠居していた大塩平八郎は、1837年(天保 8)に幕府の施政を批判して門弟らとともに蜂起した。大塩平八郎の乱は半日で鎮圧されたが、武士身分の者が幕府の施政を批判した点で、一揆・打ちこわしとは異なる衝撃を与えた。

江戸時代の日本は、年貢を多く取りたいので米に偏った作付けが行われ、海外からの食料輸入もさせず、全国的な物流・流通が発展していなかったので、餓死やそれに近い打撃が起きやすい構造問題を抱えていた。

天保の飢饉を最後に、日本で大規模な飢饉が起こらなくなった背景には、幕末開港後に、安価な外国米(南京米)が輸入され始めたことがある。日本の庶民を飢饉から救ったのは、開国による自由貿易だったのである。

<参考文献>
  • 八幡和郎『江戸時代の「不都合すぎる真実」 日本を三流にした徳川の過ち』PHP文庫
  • 菊池勇夫『飢えと食の日本史』(読みなおす日本史)吉川弘文館
  • 倉地克直『江戸の災害史 徳川日本の経験に学ぶ』中公新書
  • 中里裕司編『日本史の賢問愚問』山川出版社
  • 中西聡編『日本経済の歴史 列島経済史入門』名古屋大学出版会
  • 中西聡編『経済社会の歴史 生活からの経済史入門』名古屋大学出版会

2022-12-31

外国の紛争にかかわるな

ネオコンの戦争屋や「民主主義」の擁護者、勘違いした「リバタリアン」までがこう言う。ロシアの「侵略」に抵抗する義務はないのかと。答えは明らかだ。義務はない。外国のあらゆる争いを評価し、誰が悪いかを判定する義務はない。既存の国境線を不変のものとして認めるよう要求する義務もない。
A Manufactured World Crisis | Mises Wire [LINK]

ウクライナが2004年と2014年に米主導のカラー革命に見舞われたように、台湾も2014年に同様のNED(全米民主主義基金)資金による「ひまわり革命」で政権交代が行われ、中国本土との経済統合協定の最終段階が確定したところで国民党が政権を奪取された。
The High Cost of Blowing Up the World: Ukraine and the 2023 NDAA - LewRockwell [LINK]

カナダ自由党政権は、第二次世界大戦の良い結果の一つが終わることを祝い、中国との対立を推し進めている。カナダ国際関係省はツイッターで、軍事費を大幅に増加させた日本を賞賛した。日本は攻撃的な兵器を獲得し、軍事費をGDPの2%に倍増させ、名目上の平和主義から脱却しようとしている。
Ottawa Cheers Rather Than Mourns End of Japanese Pacifism - Antiwar.com Original [LINK]

米議会で可決された一括法案には、両院で議論されなかった条項がある。外国で外国人被害者に対し行われた犯罪を、誰であろうと告発することを許可し、連邦裁判所に事件を審理させる。米大統領は敵対する人物を連れ出すために、どの国にでも合法的に、軍装の連邦捜査官を送り込めるようになった。
Searching for Monsters - Antiwar.com Original [LINK]

米国は1970年代、サウジアラビアから石油を買うことを約束し、その代わりサウジは全世界の石油をドル建て買うようにすると約束した。米国はサウジに軍事援助もした。サウジは何十億ドルものペトロダラー収入を米国債に戻し、米政権の過度の戦争・福祉支出をまかなった。
The Petrodollar-Saudi Axis Is Why Washington Hates Iran | Mises Wire [LINK]

新年に平和の兆しなし

ロシア軍とウクライナ軍の戦闘は10カ月以上続いているが、2023年にウクライナに平和が訪れる兆しはない。米国はウクライナへの援助を拡大し続け、戦争における同国の役割を強化し続けている。専門家は、核戦争の可能性は冷戦時代のどの時期よりも現在のほうが大きいと警告している。
No Sign of Peace in Ukraine as New Year Approaches - News From Antiwar.com [LINK]

ウクライナのゼレンスキー大統領と米投資運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOはビデオ会議を行い、ウクライナの復興について調整することで合意した。世界銀行は今月、5000億〜6000億ユーロの費用がかかると試算しており、戦争が長引けばこの数字は上昇する可能性がある。
Zelensky, Blackrock CEO Agree to Coordinate on Ukraine's Reconstruction - News From Antiwar.com [LINK]

ウクライナはマネーロンダリングにとって夢のような国だ。オリガルヒは政府補助のガス価格から数十億ドルをかすめ取る。腐敗した役人はオリガルヒと協力し事業を独占。ウクライナで利益を上げている企業は50%未満であり、全企業の9.8%が腐敗した官僚とオリガルヒに支配され、利益を得ている。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Blackrock to Take Zelenskyy’s Panhandling Act to the Next Level [LINK]

2023年米国防権限法は、米宇宙軍の予算を数十億ドル増加させる。同軍トップの文民職員が部下にセクハラをし、職にとどまった後での予算増額だ。幹部職員のアンドリュー・コックス氏は、性具や「Gストリング」(ひもパン)がプレゼントされるような文化を作り上げたという。
Space Force Gets Massive Budget Boost Amid Sexual Harassment Scandal | The Libertarian Institute [LINK]

米中央軍(CENTCOM)が発表した年末の報告書によると、米軍はイラクとシリアで武装組織「イスラム国」(IS) に対して313の任務を遂行し、テロリスト集団のメンバーと思われる686人を殺害した。7月にバイデン米大統領は、米軍はもはや中東での戦闘行為に関与していないと虚偽の主張をしていた。
CENTCOM Says US Troops Killed 686 Suspected ISIS Members in 2022 - News From Antiwar.com [LINK]

2022-12-30

高まる核戦争のリスク

大惨事のリスクを評価するスウェーデンのグループは年次報告書で、核兵器使用のリスクは、1945年に米国が日本に核兵器を投下して以来、どの時点よりも高くなっていると警告した。核戦争のリスクは1962年のキューバ・ミサイル危機の時よりも大きいという。
Report Warns Risk of Nuclear War At Its Highest Since US Nuked Japan - News From Antiwar.com [LINK]

米CIAは2月のウクライナ侵攻以来、欧州のNATO諸国の情報機関を利用し、ロシア国内で破壊工作を行っている。調査ジャーナリストのジャック・マーフィー氏が報じた。潜伏工作員がどれだけの攻撃を行ったかは不明だが、侵攻以来、ロシアの軍事施設や発電所、鉄道などで謎の爆発が相次いでいる。
Report: The CIA Is Directing Sabotage Attacks Inside Russia - News From Antiwar.com [LINK]

グラム米上院議員は、プーチンが「新しいヒトラー」だからその暗殺を要求しているのではない。ロシアの隣にある米政府の傀儡国家(ウクライナ)が戦争に大敗しているからだ。グラムはプーチンがCIAの傭兵によって(シリアの)カダフィのようにサディスティックに切り刻まれることを望んでいる。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Lindsey Graham, the Ugly American [LINK]

ウクライナがこの戦争に「勝つ」ために何かしなければならないという考えは、2008年のオバマ大統領の「アフガニスタンは我々が勝たなければならない戦争だ」という宣言と同じく危うい。米国人の善意からだが、ひどく利用された同情心は、ウクライナをアフガンのような泥沼に変えてしまわないか。
Noninterventionism Is Not Isolationism: The US Government Should Stop Arming Ukraine | Mises Wire [LINK]

平和と繁栄は国家の規模や強さに反比例する。国民国家で構成される世界では、これは(国家統合を目指す)政治的グローバリズムと正反対の結論を導く。つまり、できるだけ多くの国家が存在し、その一つ一つができるだけ弱く小規模(自治体レベルでもいい)であるべきだ。
Clausewitz, the UN Charter, and a Libertarian View on War | Mises Wire [LINK]

クリスマスはアナーキー

クリスマスは、人間には政府がいらないという事実に気づかせる。家族、友人、同僚のつながりが寛大さ、優しさ、もてなしの言葉や行いを提供し、私たちの自発的な結びつきこそ良き生活の中心であることを思い起こさせる。これらの交流はまさに無政府状態で、無国籍であり、暴力の脅威とは無縁だ。
Reclaiming the Antistate Roots of Christmas | Mises Wire [LINK]

英ビクトリア朝の中流階級が子供たちを重視するようになったことで、クリスマスに対する考えも変化した。当時の有名な詩で、サンタクロースはそりにおもちゃを満載し、子供たちの靴下に詰め込む。現代の子供中心の豊かで楽しいクリスマスは、工業化、資本主義化、先人の努力によって実現された。
How Capitalism Made Christmas a Holiday for Children | Mises Wire [LINK]

「贅沢」や「消費主義」の判断に明確な基準はない。昔、フォークを使うことは贅沢だといわれた。しかし今日、フォークは贅沢品とはいいにくい。同じく人工照明や小麦パンが贅沢品だという人はいない。かつて「不必要な」玩具を批判した人々も、今ではもっと大きく高価なものに標的を移している。
Capitalist Luxury vs. "The True Meaning of Christmas" | Mises Wire [LINK]

ホモ・エコノミクス(経済人)は効用を最大化しようとする。経済学者はしばしば効用を富や所得の量と同一視する。しかし効用は金銭だけの問題ではない。クリスマスの食卓で、友人や家族の笑顔からも効用を得ることができる。
Christmas Economics and the True Meaning of Utility - Foundation for Economic Education [LINK]

英作家ディケンズは『オリバー・ツイスト』など小説の登場人物を通じ、社会の最下層の人々の苦境を直視させようとしたが、その不幸を終わらせるために集団主義的な解決策を提案したわけではない。苦境を資本主義のせいにしたわけでもない。ディケンズが行ったのは強欲という悪徳への攻撃だった。
Was Dickens Really a Socialist? - Foundation for Economic Education [LINK]

ジャーナリストの怠慢

米軍から生涯現役を感謝されるほど、ジャーナリストの怠慢をはっきり示すものはない。腐敗し、残虐な米軍と記者との関係が対立と無縁で、米軍の記者に対する感情が敵視と無関係だとしたら、それはその記者がジャーナリストではなかったからだ。米軍の広報担当者だったのだ。 
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : US Military Thanks And Praises Retiring CNN 'Journalist' For Her Service [LINK]

軍産議会複合体はメディアと結託し、真実を隠す。悪いニュースは報道されない。あるいは機密扱いにされるか、さもなければ緘口令が敷かれる。ベトナムのソンミ村虐殺や、チェルシー・マニングとウィキリークスによって明らかにされたイラク戦争の「付随的殺人」の映像を考えてみるといい。
The Mainstream Media and the US Military - Antiwar.com Original [LINK]

ミリー米統合参謀本部議長、キッシンジャー元米国務長官、マクロン仏大統領、ショルツ独首相らの最近の発言は、ゼレンスキー氏の求める交渉の前提条件から脱却する可能性を示している。つまりクリミアとドンバスの地位や、ロシアの安全保障上の懸念について、議論を受け入れる可能性を示唆する。
Five Statements That Could Change the War - Antiwar.com Original [LINK]

米政府による半導体市場への介入は、産業自体や消費者の福利に悪影響を与えるだけでなく、米国の指導者が市場の力への信頼を失っていることを示す。これは非常に危険だ。自由な市場競争だけが労働生産性と国際分業の利益を高め、国際取引の制限は将来の戦争を助長する。
The US Chip Blockade against China Is Creating Unplanned Consequences | Mises Wire [LINK]

米政府が1917年4月、第一次世界大戦に正式に参戦した際、有権者のために行動していたわけではない。米国は深刻な攻撃の脅威にさらされていたわけではない。国民は平和への飽き、支配者への服従の習慣、米国参戦の結果に対する非現実的な考えから、戦争に同意した。
World War I: The Great War Was also the Great Enabler of Progressive Governance | Mises Wire [LINK]

2022-12-29

無意味な戦争

英国とドイツの兵士たちは、この戦争(第一次世界大戦)にほとんど意味を見出せなかった。何しろ英国の国王もドイツの皇帝も、ビクトリア女王の孫なのである。オーストリアの王室夫婦がセルビア訪問中に暗殺されたくらいで、なぜドイツと英国が戦争したり、憎み合ったりしなければならないのか?
The Christmas Truce of World War I | Mises Institute [LINK]

クリスマスに望むのは、必要な戦争だけを行い、それ以外の戦争には手を出さないことだ。脅威の水増し、エゴ、無謀な社会実験によって引き起こされる戦争の代償として、若者の命はあまりにも大きい。エゴ、虚栄心、傲慢といった見苦しい動機によって、不必要に戦うことを強いられてはならない。
All I Want For Christmas Is the End to Unnecessary War - Foundation for Economic Education [LINK]

ウクライナとロシアの戦争は、自由とは何の関係もない。むしろ危機を煽り、戦争を引き起こしたNATOと関係がある。米国防総省はウクライナのNATO編入に固執していた。ゼレンスキーもNATO加盟を望んでいた。ロシアは少なくとも過去25年間、ウクライナのNATO加盟は「最後の一線」だと明言してきた。
Ukraine’s War with Russia Has Nothing to Do With Freedom – The Future of Freedom Foundation [LINK]

ウクライナに対する米バイデン政権の無条件の支持は、1965年のジョンソン政権と同じような曲がり角を迎えている。1964年にジョンソン大統領が突然、東南アジアの平和と安全が米国の重要な利益と判断したのと似ている。1960年代の南ベトナムのように、ウクライナはロシアとの戦争に負けつつある。
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Washington Is Prolonging Ukraine's Suffering [LINK]

米国防総省は、民間人の犠牲者に関する透明性を高めると表明しているが、インターセプトの報道によると、160人以上の非戦闘員を殺害した2017年のナイジェリア空爆における米軍の役割を説明するよう3カ月の期限を設けた下院民主党のグループに対し、回答していない。透明性に疑問を呈されている。
Pentagon Blows Deadline To Explain US Role in Nigerian Airstrike That Killed 160 Civilians - Antiwar.com Blog [LINK]

ウクライナ危機と安全保障のジレンマ

反戦団体「コードピンク」共同設立者、メディア・ベンジャミン
ジャーナリスト、ニコラス・デービス
(2022年12月28日)

2022年12月27日、ロシアとウクライナの双方が、ウクライナでの戦争を終わらせるための呼びかけを行ったが、どちらも相手が拒否すると承知のうえで、交渉の余地がない条件を掲げている。

ウクライナのクレバ外相は、来年2月にグテレス国連事務総長を議長とする「和平サミット」を提案したが、その前提として、ロシアはまず国際法廷で戦争犯罪の訴追を受けなければならないとしている。一方、ロシアのラブロフ外相は、ウクライナがロシアの和平条件を受け入れなければ、「この問題はロシア軍が決定する」と冷ややかな最後通牒を発した。

しかし、もしこの紛争と解決策を理解する方法があるとしたら、それはすべての立場の意見を包含し、戦争を煽って激化させるだけの一方的な物語と提案を超えることができるとしたらどうだろうか。ウクライナの危機は、実は国際関係論の研究者が「安全保障のジレンマ」と呼ぶ典型的なケースであり、これによってより客観的な見方ができるようになる。

安全保障のジレンマとは、自国を守るために各国がとった行動が、相手国にとっては脅威と映るような状況のことである。攻撃用と防衛用の武器や兵力は区別されないことが多いので、一方の防衛力の増強は、他方の攻撃力の増強に見えやすい。互いに相手の行動に反応するため、結果として軍備の増強と拡大の連鎖に陥るが、双方とも自らの行動は防衛的であると主張し、そう信じてさえいるかもしれない。

ウクライナの場合、これはロシアとウクライナの国・地域政府との間で、またロシアと米国・NATO(北大西洋条約機構)との間で、地政学的により大きな規模で起こっている。

安全保障のジレンマの本質は、当事者間の信頼関係の欠如にある。米ソ冷戦時代、キューバ・ミサイル危機を契機に、深い不信感が残るなかで、軍備管理条約や 安全保障措置の交渉に着手し、事態の悪化を抑制することが求められた。相手が世界を破滅させるつもりでいるわけではないことを認識し、そうならないための交渉や保障措置に必要な最低限の土台を提供したのである。

冷戦終結後、双方は核兵器の大幅な削減に協力したが、米国は相次ぐ軍備管理条約からの脱退、NATOを東欧に拡大しないとの約束違反、国連憲章の「武力による威嚇または武力の行使」の禁止に直接違反する軍事力の行使に踏み切った。米国の指導者たちは、テロリズムと核・化学・生物兵器の存在が結びついたことで、「先制攻撃」を行う新しい権利が与えられたと主張したが、国連も他のいかなる国もそれに同意したことはない。

イラクやアフガニスタンなどにおける米国の侵略は、世界中の人々、さらには多くの米国人にとっても警戒すべきものであり、冷戦後の米国の新たな軍国主義にロシアの指導者が特に懸念を抱いたのも無理はないだろう。NATOが東欧諸国をどんどん取り込んでいくにつれて、古典的な安全保障のジレンマが生まれ始めた。

2000年に当選したプーチン大統領は、国際的な場を利用してNATOの拡大と米国の戦争行為に異議を唱え始め、NATOに加盟を要請された国だけでなく、欧州のすべての国の安全を確保するための新しい外交が必要であることを主張し始めた。

東欧の旧共産圏諸国は、ロシアの侵略に対する防衛的な懸念からNATOに加盟したが、これは、国境付近に集まる野心的で攻撃的な軍事同盟(NATO)に対するロシアの安全保障上の懸念を悪化させ、とくに米国とNATOがその懸念に対処しようとしないことから、その懸念はさらに大きくなった。

このような状況の中で、NATOの拡大に関する約束違反、中東やその他の地域における米国の一連の侵略、ポーランドとルーマニアにある米国のミサイル防衛砲台はロシアではなくイランから欧州を守るためだという不合理な主張が、ロシアに警戒の念を抱かせることになった。

米国が核軍備管理条約から離脱し、核先制攻撃政策を変更しようとしないことから、米国の新世代の核兵器は、米国がロシアに対する核先制攻撃能力を持つように設計されているのではないかという懸念がさらに高まった。

他方、ジョージアにおけるロシアの飛び地防衛のための軍事行動や同盟国アサド政権を守るためのシリアへの介入など、ロシアが世界の舞台で自己主張を強めていることは、他の旧ソ連邦諸国やNATO新加盟国を含む同盟国の安全保障上の懸念を高めている。ロシアは次にどこに介入してくるのだろうか。

米国がロシアの安全保障上の懸念に外交的に対処しようとしないため、それぞれが安全保障上のジレンマを悪化させる行動を取った。米国は2014年にウクライナのヤヌコビッチ大統領を暴力で倒し、クリミアとドンバスでクーデター後の政府に対する反乱を引き起こした。ロシアはクリミアを併合し、ドネツクとルハンスクの分離「人民共和国」を支援することでこれに対抗した。

このような緊張の高まりのなかで、「安全保障のジレンマ」モデルが予測するように、たとえすべての国が善意と防衛的配慮から行動していたとしても、有効な外交手段がない限り、互いの動機を最悪のものと仮定して危機はさらに制御不能な状態に陥った。

もちろん、安全保障のジレンマの核心は相互不信にあるため、当事者のいずれかが不誠実に行動しているとみなされれば、状況はさらに複雑になる。ドイツのメルケル前首相は最近、欧米の指導者は2015年のミンスク2協定の条件をウクライナに遵守させるつもりはなく、ウクライナの軍事力増強のための時間稼ぎとして協定に合意しただけであったと認めた。

ミンスク2和平合意の決裂と、米国、NATO、ロシアという大きな地政学的対立のなかで続く外交的行き詰まりは、関係を深い危機に陥れ、ロシアのウクライナ侵攻につながった。このような安全保障上のジレンマがあることを各関係者は認識していたはずだが、危機を解決するために必要な外交的行動をとることができなかった。

平和的・外交的な代替案は、当事者がそれを追求することを選べばつねに利用可能だったが、そうしなかった。だからといって、すべての当事者が意図的に平和よりも戦争を選んだというのだろうか。彼らは皆、それを否定するだろう。

しかし、毎日絶え間なく続く殺戮、何百万人もの市民の悲惨で悪化した状況、NATOとロシアの全面戦争という想像を絶する危険にもかかわらず、すべての当事者は現在、紛争を長引かせることに利点を見出しているようである。いずれの側も、自分たちは勝てる、あるいは勝たなければならないと確信しており、そのため、あらゆる影響と制御不能に陥る危険性を伴いながら、戦争を激化させ続けている。

バイデン大統領は、米国外交の新時代を約束して就任したが、かえって米国と世界を第三次世界大戦の瀬戸際に導いてしまった。

このような安全保障のジレンマに対する唯一の解決策は、殺戮を止めるための停戦と平和協定であることは明らかだ。1962年のキューバ・ミサイル危機から数十年の間に米ソ間で行われた外交は、1963年の部分的核実験禁止条約とその後の兵器管理条約につながった。元国連職員のアルフレッド・デ・ザヤス氏も、クリミア、ドネツク、ルハンスクの人々の意思を決定するために、国連が管理する住民投票を呼びかけている。

平和的共存への道に向けた交渉は、敵対者の行為や立場を是認するものではない。私たちは今日、ウクライナで絶対主義の代替案を目撃している。砲弾の衝突、負傷者の叫び、死臭から何千キロも離れた(アメリカ)帝国の首都で、スマートスーツと軍服を着た人々が管理・指揮し、実際に行っている容赦ない、際限のない大量殺戮に道徳的高みなどない。

和平交渉の提案が単なる広報活動以上のものになるには、すべての側の安全保障上のニーズに対する理解と、そうしたニーズが満たされ、根本的な対立のすべてに対処できるよう妥協する意志にしっかりと根ざしたものでなければならない。

(次を全訳)
The Ukraine Crisis Is a Classic 'Security Dilemma' - Antiwar.com Original [LINK]

2022-12-28

ウクライナ「内戦」を終わらせよう

元米下院議員、デビッド・ストックマン
(2022年12月23日)

繰り返し立証してきたように、ウクライナ戦争はロシアの侵略ではない。ソ連の共産主義による専制政治以前はつねに大ロシアの属国で、ときには不可欠な部分だった「辺境」(ロシア語で「ウクライナ」)における内戦なのである。じつは現在の内戦は、正規に選出された親露派の大統領に対し米政府がクーデターを起こした後、キエフに据えた非合法政権によって2014年に扇動されたものである。

米政府が演出するこの「政権交代」は、次は人工国家ウクライナの各地域を、言語、宗教、民族、経済などの長年の違いに基づき、互いに対立させるように仕向けた。クリミア、ドンバス、黒海沿岸地域のロシア語を話す住民が、キエフで政権を握ったウクライナの民族主義者やネオナチの政治家による弾圧を恐れて分離を求めると、ネオナチのアゾフ旅団を含むウクライナ軍の血生臭い暴力が住民たちに浴びせられたのである。

つまり、キエフ政権が東・南部のロシア語を話す住民に対して扇動した内戦は、公然の軍事支援を求める住民たちの嘆願にプーチン露大統領がようやく応えるまで8年間も続いた。それはキエフ政権の「自国民」に対する激しい攻撃によって、分離派の軍人と民間人が1万4000人以上殺された後でもあった。

プーチンが2007年のミュンヘン安全保障会議で、ウクライナのNATO加盟とモスクワから数分以内の核ミサイル配備は、越えてはならないレッドライン(最後の一線)だと主張して14年になる。しかし2020年2月には、レッドラインが越えられるのはほぼ確実となっていた。

そのうえ、ロシアの「侵攻」は、ウクライナ軍のドンバス砲撃が10日間にわたって大幅に強化された後に行われた。軍事行動と兵站のあらゆるシグナルが、キエフ政権による分離主義共和国への「侵攻」が差し迫っていることを暗示していたのである。

要するに、レーニン、スターリン、フルシチョフによって銃口で命を吹き込まれるまで存在しなかった専制的なソビエト社会主義共和国の「分割」は、つねに最終段階にあった。2014年以降、最終的に分裂のきっかけを作ったのは米国の不器用な覇権主義ネオコンであり、それはこの地域の歴史に対する深い無知によるものだった。

最後の合法的な選挙である2010年の大統領選で賽は投げられた。親露派のヤヌコビッチ候補が東部と南部(地図の青い部分)で60~90%の大差をつけて勝利し、ウクライナの民族主義者ティモシェンコ候補が中部と西部の経済的に豊かでない地域(赤い部分)で同様の60~90%の大差をつけて勝利した。

実際、地図の青い部分の都市名を見れば、ウクライナの戦争とは、ゼレンスキー同国大統領が昨夜(米議会演説で)笑止千万にも述べた「自由」をめぐる戦いではなく、分割をめぐる戦いであることがわかる。ハリコフ、ルハンスク、ドネツク、マリウポリ、ザポリージャ、クリビエリ、オデッサはいずれも2010年に大差で青(親露派候補)に投票し、2014年から内戦の前線となり、今年9月の住民投票ではほとんどがウクライナから離れ、ロシアに加わることを決めた。

米国の覇権主義者、ネオコン、戦争屋が住民投票は無効だと主張するのは間違いないが、それでは説明できないことがある。つまり、地図上のロシア語圏の青い地域では、ロシアの「占領者」や、分離派政府と民兵を動かす売国奴に反対する「抵抗」運動が地元住民の間で起こっているという報告はほとんどないのだ。どちらかといえば、住民たちは自分たちが「占領」されたのではなく、「解放」されたと考えている。

そして昨晩は米議会で究極の狂気といえる華やかな光景が繰り広げられ、米国・NATO(北大西洋条約機構)は1410億ドルを注ぎ、不幸な黒土の国の人々を事実上、大量虐殺しようとしている。つまり、外交的解決の明確な輪郭と、ありうべき休戦の境界線は、2010年の選挙で国民自身によって描かれたのである。

実際、プーチン氏の住民投票はすでに青い地域の大部分で終了しており、あとは戦闘をやめ、領土の現状を承認し、国際平和会議を開催し、2010年の選挙結果に含意されていた、共産主義後のウクライナの分割という論理的な結論を遂行できるようにすることだ。

共産主義後のユーゴスラビアやチェコスロバキアがそうだったように、(分離の)影響を受けたすべての国民ははるかに良い生活を送っている。レーニンが「ノボロシア」(帝政ロシア時代に征服された黒海北部地域)とロシア帝国の一部、第一次大戦後のガリツィア(ウクライナ南西部)から、スターリンが第二次大戦中のポーランド、ハンガリー、ルーマニアから、フルシチョフがロシアのクリミアから作った国境は、今こそ歴史のゴミ箱に入れなければならない。 世界が現在の危うい崖っぷちから退くためには、死後も残るソ連の虐殺者と暴君の影響力を消し去らなければならない。

(次より抄訳)
After the Zelensky Spectacle – Let the Partition Begin! - Antiwar.com Original [LINK]

2022-12-27

戦争福祉国家の巨大予算

元米下院議員、ロン・ポール
(2022年12月26日)

クリスマスに政府機関の閉鎖を望んでいた人々は、議会が4000ページ、1兆7000億ドルの一括予算法案を可決したとき、再び失望させられた。共和党の指導者はこの肥大化した怪物を称賛した。なぜなら戦争に8580億ドルを費やす一方で、福祉には7725億ドルしか使わないからである。

共和党が福祉よりも戦争に力を入れるからといって、民主党が戦争国家に反対しているとは誰も思わないはずだ。バイデン大統領と民主党が支配する議会の下で、「防衛」支出は過去2年間で4.3%増加している。同様に、近年のすべての共和党大統領(少なくとも任期の一部で共和党が議会を支配していた2人を含む)は、福祉国家への支出を大幅に増やすことを支持している。それぞれの党の支持者層をなだめるために、ほとんどの民主党員は戦争に反対するふりをし、ほとんどの共和党員は福祉に反対するふりをするだけである。

一括法案では、ウクライナに445億ドルもの予算を計上している。これはウクライナの軍事費に対する米国の総支出を1000億ドル以上にするもので、ロシアの軍事費全体の約50%以上にあたる。この資金は、米国の安全保障に影響を与えない紛争に費やされているが、この紛争は米国が以前この地域に干渉していなければ、おそらく発生しなかっただろう。

一括法案は連邦捜査局(FBI)に113億ドルを提供し、5億6960万ドルの増加、大統領の要請を5億2400万億ドル上回った。民主党指導部によると、この資金増額は、FBIが「過激派の暴力や国内のテロリスト」とよりよく闘えるようにするためのものだという。

最近、ツイッター関係者とFBIの間で交わされた電子メールが公開され、FBIが「過激派」と戦う適切な方法と考えていることが一般に知られるようになった。これらのメモによると、FBIはツイッターと、そしてほぼ間違いなく他のソーシャルメディア企業と協力して、(大統領の息子)ハンター・バイデン氏のノートパソコンのような特定のストーリーや、マスク着用、ロックダウン(都市封鎖)、ワクチンの義務付けに関する懐疑的な意見などを抑圧していた。このような「要請」を実行する費用をツイッター社に返済するために、納税者の資金を使用することさえあった。政府当局が民間企業と協力して米国市民を黙らせることは、明らかに合衆国憲法修正第1条(言論の自由)に違反する。

FBIが米国市民の憲法上の権利を侵害するのは、今回が初めてではない。実際、FBIは創設以来、マーティン・ルーサー・キング牧師のような政治活動家や指導者を標的にしてきた。活動家らの主張がFBIの腐敗した指導者によって「極端」または「危険」とみなされたからだ。政治信条を理由に米国人を標的にする権力のある国家警察という考えは、憲法の起草者たちを恐怖に陥れたことだろう。連邦政府は海賊行為、通貨偽造、反逆の場合を除き、刑法に関する憲法上の権限を持たない。リバタリアン(自由主義者)、護憲派、市民の自由を重視する左派の人々は、FBIの資金を削減するために協力するべきだ。

2022会計年度の一括予算法案は、政府を拡大し、自由を削減し、政府の負債を増やし、連邦準備理事会(FRB)にさらなる財政ファイナンスを強要し、さらなる物価高騰を引き起こす。米国の政治エリートは、FRBの破壊的な金融政策のような米国民が直面する問題への対処よりも、海外での軍国主義や国内での権威主義を優先している。これは政治体制に対する不満の増大に拍車をかけるだろう。経済が悪化し続け、世界を動かそうとする試みが失敗し続けるなかで、この不満は、福祉戦争体制が崩壊し、うまくいけば自由と平和と繁栄の新たな時代が幕を開けるまで、高まるだろう。

(次を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Omnibus shows Congress’s Priorities: Authoritarianism and War [LINK]