2023-05-31

ウクライナ、NATO加盟の工程表求める

今週、外相会合で議論へ

アンチウォー・ドット・コム
(2023年5月30日)

今週、スロバキアのブラチスラバで開催されたGLOBSECフォーラムで、ウクライナの当局者が北大西洋条約機構(NATO)の強い関与を促した。ウクライナのステファニシナ欧州統合担当副首相は、今年7月にリトアニアの首都ビリニュスで開くNATO首脳会議で、NATOがウクライナに加盟への工程表を示すよう望んでいる。
ステファニシナ氏は会議の傍ら、「ビリニュス(首脳会議)は政治的に、ウクライナがNATOに加盟するよう明確なシグナルを出すべきだ。全加盟国の統一的な取り組みが必要だ」と米政治サイト、ポリティコに語った。

ウクライナは2008年、初めてNATO加盟を約束されたが、当時の駐露米国大使〔バーンズ現米中央情報局=CIA=長官〕は、加盟はロシアにとって「あらゆるレッドライン(超えてはならない一線)のうち最も明白なもの」だと警告していた。しかし、ウクライナが実際に加盟できる時期は示されたことはない。

NATO加盟国の間では、ウクライナがロシアとの戦争に盛んに関与している間は同盟に参加できないという理解がある。ビリニュス・サミットでは、ウクライナの軍隊とNATOの相互運用を高めることに重点を置いた新たな支援策を発表する予定だが、ウクライナにとってそうした約束は十分とはいえない。

ステファニシナ氏は、NATO加盟に関して「今と同じ場所に留まる」ことは「ウクライナ人にとって全く受け入れがたいこと」だと述べた。GLOBSECフォーラムに参加した欧州関係者の中にも、この意見に賛同する人がいるようだ。

エストニアのペブカー国防相は「ビリニュスで我々が訴えなければならないのは、ウクライナの次のステップを明確に理解しなければならないということだ」と述べた。

チェコのリパヴスキー外相はポリティコに対し、NATOサミットの「希望リスト」があると述べ、その中にはスウェーデンの加盟やウクライナの「招待」が含まれていると語った。しかしこの案件は「複雑な問題」だと認めている。同意が必要なNATO加盟国は31カ国あるためだ。

NATOは5月31日~6月1日、ノルウェーのオスロで外相会合を開き、ウクライナとの将来の問題について議論するとみられている。NATO諸国がどのような決定を下そうとも、ウクライナに対する新たな支援は戦争を長引かせる可能性が高い。ロシアがウクライナに侵攻した主な動機の一つはウクライナとNATOの連携であり、戦争初期の短命に終わった交渉で、ロシアの主な要求はウクライナが中立を保つことだった。

Ukraine Pushing for Road Map to NATO Membership - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-30

露、米上院議員を指名手配 「ロシア人が死んでいる」発言で

逮捕状は「名誉のバッジ」とグラム氏

アンチウォー・ドット・コム
(2023年5月29日)

ロシアは、ロシア人がウクライナで死亡していることについてのコメントと、ロシアとの代理戦争に対する米国の支出を「これまで使った中で最高のカネ」と呼んだことについて、リンゼー・グラム米上院議員(共和党、サウスカロライナ州)の逮捕状を発行した。
「1955年7月9日生まれ、米国籍のリンゼー・オーリン・グラムは、ロシア刑法の条文により指名手配されている」と、ロシアのタス通信によると、ロシア内務省は述べている。

グラム氏がこのコメントをしたのは、ウクライナの首都キエフで同国のゼレンスキー大統領と会談した際。同大統領の事務所は、グラム氏が「ロシア人が死んでいる」と発言する様子を映した動画を公開し、その後、グラム氏が「これまで使った中で最高のカネだ」と発言する場面を切り取った。

この発言がロシアで怒りを買った後、ウクライナは、グラム、ゼレンスキー両氏が引用された発言の合間に別のことを話し合っている様子を映した動画の全編を公開した。ゼレンスキー氏が380億ドルの軍事援助を行った米国に感謝した後、グラム氏は米国の戦争支援金を「これまで使った中で最高のカネだ」と呼んでいる。

しかしロシア人が死んでいるという事実に満足するグラム氏の発言は、やはり挑発的である。同氏は今回の戦争中、ロシアのプーチン大統領の暗殺を呼びかけるなど、極めてタカ派の発言をしている。

ロシアは、グラム議員のコメントが文脈を無視して切り取られたものだと指摘するメディアについて、「不器用」で「恥ずべき」言い訳をしていると述べた。ロシア外務省は「たとえ別々に発したとしても、そのような発言の汚れから身を清めることはすでに不可能である」と述べている。

逮捕状に対しグラム議員は、ロシアを怒らせたことがうれしいと述べた。「プーチンの腐敗した不道徳な政府が出した逮捕状を、名誉のバッジとして身につけよう」と同議員はツイッターに書いた。「ウクライナへの私の取り組みがプーチン政権の怒りを買ったと知って、計り知れない喜びを感じている」

Russia Places Sen. Graham on Wanted List Over Dead Russians Comment - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-29

米作家、ウクライナで拘束 戦争に関する政治的見解理由に

米国務省、リラ氏の解放に取り組んでいるか明言せず

アンチウォー・ドット・コム
(2023年5月28日)

米国務省は、ロシアとの紛争に関する政治的見解を理由にウクライナ保安局(SBU)に拘束された米国人ゴンザーロ・リラ氏をめぐり、ウクライナ政府と対話しているかどうかについて明言を避けた。
リラ氏はユーチューブの人気チャンネルを持ち、ツイッターやテレグラムでも多くのフォロワーを抱える。ビジネス・インサイダーなど複数のメディアに寄稿する作家でもある。カリフォルニア州で生まれ、米国とチリの二重国籍で、戦争中もウクライナのハルキウに住んでいたことがある。

リラ氏はウクライナ政府を批判しており、ロシアの侵攻を正当化した容疑でSBUに逮捕された。SBUは「本格的な侵略が始まった後、このブロガーはロシアの侵略者を支持し、その戦争犯罪を美化する最初の一人だった」とリラ氏に言及したプレスリリースで述べている。

SBUはまた、リラ氏を「我が国の軍や政治の首脳、国防軍の信用を失墜させた」と非難した。同氏は、2014年にさかのぼってロシアの行動を正当化する「資料の配布」を違法とするウクライナ刑法の第436条の2の第2、第3項に基づき起訴された。

エポック・タイムズの記者リアム・コスグローブ氏は国務省のミラー報道官に対し、政権はリラ氏の拘束を把握しているのか、またウクライナが言論を理由に米国人を逮捕したことを米国はどう感じているのかと質問した。

「一般論として、我々はその報道を知っていると申し上げたい。我々は世界のどこでも言論の自由を行使することを明らかに支持するし、そう言うにとどめたい」とミラー氏は述べた。

リラ氏の解放に向けて行政が動いているのかとの質問には、「コメントはこのあたりにしておく」と答えた。

コスグローブ氏はリラ氏の拘束について、テッド・リュー(民主党、カリフォルニア州)、マージョリー・テイラー・グリーン(共和党、ジョージア州)の両米下院議員にも問い合わせた。リュー議員は、この件について知らなかったとしながらも、米市民は「自分の考えや意見を表現する能力を持つべきだ」と述べ、逮捕について調べるとした。

グリーン議員はこのニュースに反応し、コスグローブ氏にこう述べた。「米国はウクライナの自衛のために武器や装備を提供しているが、ウクライナ政府は米国人の言論の自由を守るつもりはない。これは本当に問題だ」

リラ氏の逮捕は、欧米メディアではほとんど注目されなかった。報道した数少ないメディアの一つであるデイリー・ビーストは、容疑に疑問を呈する代わりに、リラ氏を中傷した。同メディアによると、リラ氏は5~8年の禁固刑に処されるという。

State Department Won't Say If It's Working to Free US Citizen Detained in Ukraine - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-28

【コラム】保守メディアが生き残るには

木村 貴

日本のリベラル・左派メディアの劣化は情けない限りだが、そうかといって、保守・右派メディアがしっかりしているかといえば、そんなことはない。それどころか、左派に劣らず的外れな主張をしている。広島で5月19〜21日に開いた主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)に関する産経新聞の報道を見て、あらためてそう痛感した。
産経の記事に行く前に、同系列の夕刊フジに触れておこう。ツイッターの公式アカウントで共有された紙面の一部しか見ていなくて恐縮だが、期間中の1面トップの見出しに「ゼレンスキー大統領来日大成功、岸田解散一直線」とある。ウクライナのゼレンスキー大統領が来日し参加したのは、たしかに驚きではあったが、夕刊フジは何を根拠に「大成功」というのだろう。リード文を読むと、こうある。

ロシアのウクライナ侵略や、中国の軍事的覇権拡大が進むなか、G7首脳らは(5月)19日、平和記念公園内の原爆資料館を史上初めてそろって訪問し、慰霊碑に献花した。その感動的なセレモニーは国内外に配信された。侵略者に立ち向かうウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が20日夜に緊急訪日し、G7サミットに出席するサプライズも明らかになった。(略)岸田文雄首相はサミットの「歴史的成功」を追い風に、来月の国会会期末にも衆院解散に踏み切るのか。

リード文が記事全体を要約するものだとすると、どうやら夕刊フジがサミットを「大成功」と絶賛した理由は、一つにはG7首脳が原爆資料館をそろって訪ねた後、慰霊碑に献花する「感動的な」セレモニーが内外に配信されたこと。もう一つは公務多忙なゼレンスキー大統領がわざわざ来日し「サプライズ」出演、いや出席してくれたことの、二点であるようだ。

なんとも甘っちょろい。まるで少年少女のような無邪気さだ。少年少女の無邪気さなら愛するべきところもあるが、夕刊フジの読者層である中高年サラリーマンが電車の中でこれを読んで感涙にむせんでいるとしたら、同輩として情けない。

夕刊フジがいう「大成功」の二つの理由は、どちらも外見上のことでしかない。いうまでもないが、セレモニーの映像は、被爆地広島という舞台を十二分に意識した政府が、おそらくその道のプロと事前に入念に打ち合わせし、計算し尽くしたものを「配信」している。「感動」するのは、ある意味当然だ。

しかし人は感情を揺さぶられると、往々にして理性がお留守になる。映像や物語に感動させられたときこそ、その意図を冷めた理性で探る必要がある。それが健全なメディアリテラシーというものだろう。ところが夕刊フジは、メディアのプロであるにもかかわらず、政府の意図にまんまと乗せられ、サミットを激賞する。これでは勤め帰りのサラリーマンを癒やすことはできても、啓発することはできないだろう。

もっとも、夕刊フジだけを責めるわけにはいかない。ご立派な肩書の専門家の先生方も、同レベルの無邪気な感想をネット上で書き連ねているからだ。日本経済新聞電子版のひとこと解説で、慶應義塾大学の細谷雄一教授は「まるで映画のワンシーンを見るような、見事な準備と、構成と、演出でした」と称賛し、政策研究大学院大学の岩間陽子教授は「慰霊碑にささげられた9つの花輪と9人の政治家の映像は、これから何年も世界中で見られることでしょう」とほめちぎる。プロパガンダに「大成功」した政府の広報チームは、今ごろガッツポーズをしていることだろう。

2023-05-26

ウクライナ、「肉挽き器」バフムトに貧しく未熟な兵士投入

「銃を持ったこともない」新兵も 反攻に備え兵力温存と米紙報道

アンチウォー・ドット・コム 
(2023年5月25日)

ウクライナは(東部ドネツク州の要衝)バフムトの戦いに、訓練を受けていない新兵を送り込み、近いとされる反攻に備え職業軍人を温存していた。米紙ウォールストリート・ジャーナルが25日報じた。
同紙は、動員されてからわずか数日後に、「肉挽き器」として知られるようになったバフムトに送り込まれた小グループの一員である男性に話を聞いた。

徴兵されたグループの16人のうち、11人が殺されるか、捕らえられた。同紙によると、多くはハリコフ地方北東部の村から来た貧しい男たちで、失業し、便利屋や地元資本の工場での交代勤務などの雑役に就いていた。

何人かは数年前か数十年前に軍事訓練を受けたことがあるが、戦闘経験のある者はいない。2月21日、前線に派遣されると聞いた際、未訓練を理由に命令を拒否すると脅した者もいたが、結局は派遣された。

そのうちの1人、ウラジスラフ・ユディン氏は、曹長に対し「銃を撃ったことも、持ったこともない」と言ったとジャーナル紙に語っている。「バフムトに行けば覚える」と言われたそうだ。

徴兵された兵士らはバフムトで血生臭い市街戦に参加した。多くは死亡したと思われているが、家族はロシア軍に捕まり、まだ生きているという希望を持ち続けている。

兵士らの証言は、戦闘がまだ続いている間に、最前線で戦うウクライナ人がメディアに語っていた内容と一致している。そこで語られたのは、支援も訓練も弾薬もほとんどないまま送り込まれた部隊の話だ。

米紙ワシントン・ポストが3月に取材したウクライナのある大隊長は、銃声を恐れて銃を撃とうとしない新兵が送られてきたと語った。

ウクライナを支援する西側がバフムトに資源を投入しないよう忠告したにもかかわらず、同国のゼレンスキー大統領はできる限り長くこの街に留まろうとしたが、この週末、民間軍事会社ワグネルとロシア軍によって完全に制圧された。

ワグネル創設者のプリゴジン氏は、この都市のために戦って命を落としたウクライナ人は5万人と推定しているが、その数は確定していない。また同氏は、バフムトで戦うために刑務所から5万人を募集し、そのうちの約20%が殺害されたと述べている。

Ukraine Sent Poor, Untrained Men Into Bakhmut Meat Grinder to Save Better Forces for Counteroffensive - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-25

ウクライナ諜報機関、プーチン氏殺害を計画

アンチウォー・ドット・コム
(2023年5月24日)

ウクライナの諜報機関は、ロシアのプーチン大統領の殺害を試みていると言っている。最近のクレムリン(大統領府)へのドローン攻撃の後、同大統領の暗殺を盛んに企んでいることを高官が認めた。
ウクライナ国防省情報総局のスキビツキー副局長は、ドイツ紙ウェルトのインタビューに対し「プーチンは我々がどんどん近づいてきていることに気づいている」と語った。プーチン氏は殺害リストの筆頭であり、それは同氏が「物事を調整・決定するからだ」と付け加えた。

同副局長によると、プーチン氏が「引きこもったまま」であるため、情報総局は同氏の殺害に失敗したという。スキビツキー氏は、プーチン大統領が「今、頭を出し始めている」ため、すぐに新たな試みが行われる可能性があると示唆した。 

ウクライナ政府関係者は以前にも、プーチン氏の殺害を試みたことを認めている。昨年、情報総局のブダノフ局長はウクライナ・プラウダのインタビューで「プーチン暗殺の試みがあった。……絶対に失敗する試みだったが、(2022年3月ごろに)実際にあった」と述べている。

3週間前、プーチン氏がオフィスを構えるクレムリン上空で、2台のドローン(無人機)が撃墜された。しかし攻撃が起こった際、プーチン大統領はクレムリン内にいなかった。クレムリンのペスコフ報道官は、ロシアはドローンをプーチン氏暗殺の試みとみなすと述べた。

ウクライナ戦争が始まって1カ月後、イスラエルのベネット首相(当時)は、プーチン大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談に臨み、停戦近くまで漕ぎ着けた。和平交渉は米国によって阻止されたが、プーチン氏は会談の間、ゼレンスキー氏を暗殺の対象にしないと約束した。ロシア政府はプーチン氏の命が狙われるまで、この合意を守ってきたようだ。

ロシアがこの約束を守り続けるかどうかは不明だ。ゼレンスキー氏は数週間、自国外で同盟国を回り、相手国と会談している。

クレムリンへのドローン攻撃を受け、ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)は、ゼレンスキー氏の「物理的排除」を求めた。ロシア大統領府は声明で「ロシアは時と所を問わず適切と思われる対抗措置を講じる権利を留保する」と述べた。

スキビツキー氏は、ウクライナの殺害リストのもう一人の名前は、民間軍事会社ワグネルの創始者エフゲニー・プリゴジン氏であると明かした。「我々は彼を殺そうとしている」と述べ、「我々の優先事項は、部下に攻撃を命じる者(プリゴジン氏)排除することだ」と付け加えた。

スキビツキー副局長はさらに、標的とするロシア高官を2名挙げた。「しかし最終的には、誰もが自分の行動に責任を負わなければならない」とし、「ゲラシモフ参謀総長とショイグ国防相は攻撃を計画し、今や引き返すことはできない」と述べた。

ウェルト紙はスキビツキー氏に対し、ロシア国内の民間人が殺害リストに加えられる可能性はあるかと尋ねた。同氏は「我々は戦争中であり、これらは我々の敵である。もしある重要人物が(ロシアの)ために兵器を製造し、資金を提供しているのであれば、排除することで多くの民間人の命を救うことができる」と述べた。「国際条約によれば、これは正当な目標だ」

米政府は、ウクライナがすでにロシア国内で標的暗殺を行ったと考えている。昨年、(ジャーナリストの)ダリア・ドゥギナ氏が自動車爆弾で死亡した。父親である(哲学者)アレクサンドル・ドゥーギン氏が攻撃の標的になったのではないかと疑われている。

Ukrainian Intelligence Says It’s Trying to Kill Putin - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-24

ネオナチ民兵、露西部攻撃で米製装甲車を使用 英紙報道

アンチウォー・ドット・コム
(2023年5月23日)

ネオナチ民兵が22日、ウクライナからロシア西部ベルゴロド州に向けて国境を越えた襲撃を開始し、米国製装甲車を使用した。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が23日報じた。
「ロシア義勇軍」のニキーチン隊長によると、ベルゴロドを攻撃した戦闘員は、少なくとも2台の新型装甲車「MRAP」と複数の軍用車両「ハンビー」を含む米国製装甲車を所持していた。ロシア軍が投稿した動画や写真は同隊長の主張を裏付けている。

ニキーチン氏は世界中のネオナチとつながりがあり、白人民族主義者の衣料品ブランドを持つ有名な過激派である。FTによると、ロシア義勇軍には「自称ネオナチが含まれている」という。

この組織は2022年に結成され、ウクライナのために戦うことを志願したロシア市民で構成されているといわれる。メンバーの中には、2014年にドンバス戦争で戦うために署名した者もおり、アゾフ大隊の退役軍人でもある。

ニキーチン氏は、戦闘員が米国製の装甲車をどのように入手したかは語らなかった。ウクライナ情報当局は、ロシア義勇軍や、襲撃を始めた別の組織「ロシアの自由軍」と協力していることを認めている。

「もちろん彼らとは連絡を取り合っている。もちろんいくつかの情報を共有している。協力し合っているとさえ言えるかもしれない」とウクライナ軍情報当局のアンドリー・チェルニャク氏はFT紙に語っている。

チェルニャク氏は、ロシア人義勇兵に装備を供給したことを否定し、義勇兵は自分で作戦を始めたと主張した。しかし英紙タイムズの報道によると、SNS(交流サイト)ディスコードからの流出情報から、ウクライナが以前からロシアの義勇兵組織を使ってロシア領への攻撃を計画していたことがわかっている。ある文書によると、ウクライナのために戦うロシア市民は「様々な質的タイプのNATO(北大西洋条約機構)兵器」で武装しているという。

米国務省のミラー報道官は、ベルゴロドへの攻撃に米国の武器が使われているというニュースについて質問され、その報道には「懐疑的」だと述べた。米国は「ロシア国内の攻撃を奨励したり、可能にしたり」しないと強調し、「この戦争をどのように行うかはウクライナ次第だ」と述べた。

Neo-Nazi Militia Used US Armored Vehicles in Attack on Russia's Belgorod Region - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-23

ロシア、クリミア攻撃で米に警告

米補佐官、ウクライナに米国製武器の使用制限せず

アンチウォー・ドット・コム
(2023年5月22日)

ロシアのアントノフ駐米大使は21日、米国の支援するウクライナがクリミア半島を攻撃した場合、ロシアは同国本土への攻撃と同じくらい深刻に受け止めるだろうと警告した。
アントノフ氏のコメントは、米国の供与する武器をウクライナがクリミアに対し使用することを止めないというサリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)の発言を受けたもの。同補佐官の発言は、バイデン米大統領が欧州諸国からウクライナへのF16戦闘機の供与を容認した後のものである。

サリバン氏はCNNに対し「クリミアはウクライナ」と語ったが、クリミア半島は2014年以来ロシアの支配下にある。「我々は、ウクライナが国際的に認められた国境内の領土で攻撃できることに制限をかけていない。我々が言ったのは、米国の装置、西側の装置を使ってウクライナがロシアを攻撃することを可能にしないということだ。そしてクリミアはウクライナだと考えている」

ウクライナのクリミア攻撃を制限しないことは、戦争中ずっと米国の立場だった。アンチウォー・ドット・コムが2022年7月、ウクライナがHIMARS(高機動ロケット砲システム)を使ってロシア領土を狙うことに対する禁止がクリミアにも適用されるかどうか尋ねたところ、米国務省は「クリミアはウクライナ」と答えた。

アントノフ氏は、米国が「クリミアへの攻撃を無条件で承認」し、ウクライナにF16戦闘機を供与したことについて、「米国が平和に関心がないことが改めて明らかになった」と述べた。ロシアはクリミアへの攻撃を「ロシア連邦の他の地域に対する攻撃とみなすだろう」と述べ、米国はロシアの対応の可能性を考慮すべきだと語った。

ブリンケン米国務長官は以前、ウクライナのクリミア攻撃はロシアのプーチン大統領にとって「レッドライン」(越えてはならない一線)であることを認めている。しかし他の米政府高官は、ヌーランド国務次官を含め、米国はウクライナのクリミア攻撃を支持すると表明している。

Russia Warns US Against Enabling Attacks on Crimea - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-22

ロシア、F16供与は「巨大なリスク」 ウクライナ向け、米の容認受け

米補佐官、自国のF16を送るかは未定

アンチウォー・ドット・コム
(2023年5月21日)

ロシア政府関係者は20日、ウクライナに米国製戦闘機「F16」を供与する欧米の計画は「巨大なリスク」をもたらすと語った。欧州諸国による同戦闘機の供与を容認するという米国の表明を受けたもの。
タス通信によると、ロシアのグルシコ外務次官は「欧米諸国は依然として戦闘激化のシナリオを堅持しているようだ。これは彼らにとって非常に大きなリスクを伴う」と述べた。

「いずれにせよ、これは我々のあらゆる計画で考慮されるし、我々には設定した目標を達成するのに必要なあらゆる手段がある」とグルシコ氏は付け加えた。

広島で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)の最終日、バイデン米大統領は、ロシアがF16計画を「巨大なリスク」と呼んでいることについて尋ねられ、「それは彼らにとってだ」と答えた。

F16の供与は、ウクライナに対する北大西洋条約機構(NATO)の支援を大幅に拡大させる。NATOは以前、ロシアからNATOが直接戦争に参入したと認識されることを懸念し、ウクライナ対する旧ソ連製戦闘機の供与を否定していた。

しかし今年初め、ポーランドとスロバキアが一歩踏み出して旧ソ連製のミグ29戦闘機を送り、今回のF16供与につながったようだ。ただしウクライナに到着する明確な日程は不明だ。

ベルギー、デンマーク、ノルウェー、オランダはいずれもF16を保有しているが、まだ正式には供与を表明していない。まずウクライナの操縦士がF16の訓練を受ける必要があるが、それにかかる時間の見積もりは大きく異なる。

米国防総省のカール国防次官は以前、議会で訓練には18〜24カ月かかると述べた。他の国防総省関係者は、訓練期間を短縮しても4〜9カ月かかると述べている。

米国はこれまでのところ、ウクライナの操縦士訓練を支援すると述べているが、自国のF16を送るとは表明していない。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は、バイデン大統領は米国がF16を供与するかどうか決めておらず、米国は他の種類の兵器に焦点を当てていると述べた。

「欧州同盟国の在庫から現在入手可能な(F16の)台数や、米議会が政府に与えた予算、供与するシステムに他の多くの優先順位があるという事実などから考えると、第3者移転が有力かもしれないが、大統領は最終決定を下していない」とサリバン氏は述べた。

ウクライナにF16を供与する取り組みは、ロシアとの戦争においてウクライナを支援するNATOの計画が長期にわたることを意味する。ウクライナ軍が実際に戦闘機を使用できるようになるまで何年もかかる可能性があるためだ。

Russia Says West Providing F-16s to Ukraine a 'Colossal Risk' - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-21

【コラム】日本メディアのアナザーワールド

朝日新聞デジタルは2023年5月10日から4日間にわたり、「アナザーワールド プーチン帝国の虚像」と題する連載記事を公開した。読んで驚いた。最近の報道ぶりや連載の陳腐なタイトルから予想できたとはいえ、天下の朝日がここまで堕落するとは思わなかったからだ。
連載の趣旨にはこうある。

ウクライナへの侵攻を続けるロシア。1年以上経ったが、反戦運動は影を潜め、いまもプーチン大統領は高い支持率を維持している。その大きな要因がメディアと一体で拡散されている政権のプロパガンダだ。多くのロシア人が見る世界は、日本での認識と大きく異なる。ロシアの人たちが住むのはまるで「アナザーワールド」(もう一つの世界)となっている。

ロシア政府はメディアと一体化してウクライナ戦争に関するプロパガンダを拡散し、国民に現実とは異なる世界を信じ込ませているという。そう断言するのなら、さぞ理路整然とロシアの嘘を暴いているに違いない。そう信じて読み始めた読者は、みごとに裏切られる。具体的に見ていこう。

第1回の記事は、プーチン政権がウクライナ政府を「ネオナチ」と呼び、今回の戦争を第2次世界大戦でナチス・ドイツを破った「大祖国戦争」になぞらえるのは、「外国からは荒唐無稽にも聞こえる政権のプロパガンダ」だと断言する。ところがそう断じる根拠は、驚くことに、この記事を最後まで読んでも見当たらない。

そしておかしなことに、ロシア人はプロパガンダに洗脳されているという趣旨とは矛盾するエピソードが紹介される。モスクワの「大祖国戦争中央博物館」を夫と訪ねた65歳の女性は、ウクライナ軍が自国民を殺害し、ロシアの仕業に見せかけていると訴えるが、この女性は「テレビでなく、息子から現地の話を聞いている」という。それならメディアのプロパガンダを批判する記事の立場からすれば、むしろ信憑性の高い情報だろう。

ついでにいうと、第3回では今年1月、ウクライナ中部ドニプロの集合住宅が攻撃され、46人が死亡した悲劇に触れ、攻撃はウクライナの主張どおり、ロシア軍によるものだと断定している。しかし記事では触れていないが、この事件は直後に、ウクライナのアレストビッチ大統領府長官顧問がユーチューブ番組で、ウクライナ軍の防空システムによって迎撃されたミサイルが住宅に落下したとの見解を語り、国内で批判を浴び解任される騒ぎがあった。もし見解が真実なら、過失にしろ自国民の殺害を「ロシアの仕業に見せかけ」た一例ということになる。

話を戻して、ウクライナ政府はネオナチだというプーチン政権の主張に対する反論らしきものは、最後の第4回になってようやく出てくる。ロシア人にとっては、「ウクライナ」と「ナチス」が結びつきやすい歴史的な背景もあるとして、記事は次のように説明する。

第2次世界大戦中、ウクライナ西部では、独立運動家ステパン・バンデラらがナチス・ドイツ軍と協力してソ連軍と戦った。「バンデラ主義者が子どもたちを虐殺した」とされる写真は、いまも多くのロシア人がすぐに思い浮かべる。/2014年からのウクライナ東部紛争では、極右組織の戦闘員がウクライナ政府軍に入ってロシア側と戦ったのは事実だ。だが、その後の選挙で民族主義系の政党はほとんど議席を獲得しておらず、社会的な影響が大きくなったとは言えない。/ところが、ロシアのテレビは、暗闇の中、たいまつを掲げて大勢の民族主義者が行進する映像などを繰り返し流す。そうやって、まるでウクライナが「ネオナチ」に支配された国というイメージを国民の中につくってきた。

順に検討しよう。朝日はまず、ステパン・バンデラをナチス・ドイツ軍と協力しただけの普通の「独立運動家」であるかのように表現し、バンデラ主義者による虐殺も「とされる写真」という言葉で逃げ、確たる事実として書いていない。これはきわめて問題だ。

2023-05-19

米、ウクライナで「凍った戦争」覚悟

反攻の成功見込まず、ポリティコ報道

アンチウォー・ドット・コム
(2023年5月18日)

バイデン米政権は、ウクライナ戦争が朝鮮半島情勢と同様に数年、場合によっては数十年にわたる「凍った戦争」になることを覚悟している。米政治専門サイト、ポリティコが18日報じた。
米政府関係者は、ウクライナとロシアの双方が越えないことに同意する境界線をどこに引くかという選択肢を含め、凍った戦争の可能性について議論しているという。ポリティコの記事によれば、戦闘を凍結するという考えは「政治的に受け入れやすい長期の結果」になりうる。

米政府がこの可能性を検討しているのは、ウクライナが長らく待ち望む反攻で多くの領土を取り戻せないと予想しているため。ポリティコによると、米国は今回の攻撃で「ロシアに致命的な打撃を与えることはないだろう」と予想しているという。

米国のある高官は、紛争が凍結されるかどうかにかかわらず、政権は長期でウクライナを支援する準備を進めていると述べた。「凍っているように見えようが、解凍しているように見えようが、我々は長期的な計画を立てている」と、この当局者はポリティコに語っている。

長期の支援とは、ウクライナの武装を継続し、同国の軍隊を北大西洋条約機構(NATO)と相互運用できるようにすることだ。NATO加盟国の中には、同盟内でのウクライナの地位を向上させたいと考えている国もある。米国と西欧のNATO加盟国は、ウクライナに加盟への具体的な道筋を示すことに消極的だが、将来的には何らかの新しい保証が期待されている。

ポリティコによると、ウクライナに対する新たな保証は「NATO第5条(加盟国の一つに対する攻撃はNATO全体への攻撃とみなす)流に相互防衛を結ぶことから、イスラエル流にウクライナとの武器取引をロシアに対する抑止力とすることまで」多岐に渡る可能性がある。米当局者によれば、NATOは最低限、ウクライナの武器と互換性があることを確認し、ウクライナ軍と共同訓練を行うだろうという。

ロシアがウクライナに侵攻した主な動機の一つはウクライナとNATOの協力であり、戦争初期の短期間の交渉でロシアが要求したのはウクライナの中立だった。このためNATOがウクライナの武装を継続するような凍った戦争は、おそらくロシアにとって受け入れがたい。ロシア政府関係者は交渉に前向きな姿勢を示しているものの、ロシア政府は、同国の目標は軍事手段によってのみ達成されると考えると述べている。

現在の戦線で紛争が凍結された場合、ウクライナは侵攻直後にロシアと交渉した際よりも大幅に多くの領土を失うことになる。しかし和平交渉は米国とその同盟国によって阻止され、バイデン政権はいまだに、長続きする外交的解決を推し進めることに関心を示していない。

Report: US Preparing for Ukraine War to Become a Frozen Conflict - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-18

露、アフリカ・ブラジルの和平提案に前向き

露とウクライナ、和平協議へアフリカの首脳受け入れに合意

アンチウォー・ドット・コム
(2023年5月17日)

ロシアのラブロフ外相は17日、同国はアフリカの首脳とブラジルが行うウクライナ紛争の和平提案に目を向ける用意があると述べた。
タス通信によると、同外相は「いずれの場合も、ラテンアメリカとアフリカの友人からの提案に対して、世界秩序の安定化に貢献したいという誠実な願いに促された提案であれば、検討する用意があると回答した」と述べた。

この発言は、南アフリカのラマポーザ大統領が、ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が、和平提案について話し合うためにアフリカ首脳の代表団受け入れに合意したと述べたことを受けてのもの。この計画は、ラマポーザ大統領のほかセネガル、ウガンダ、エジプト、コンゴ共和国、ザンビアの首脳らに支持されている。

ブラジルのルラ大統領は、ウクライナでの戦闘を終わらせる外交を呼びかけているが、ラブロフ氏は、書面による提案を見ていないという。「これまでのところ、中国の隣人とは異なり、ブラジルからもアフリカからも、この問題に関する文書は見ていない」と同外相は述べた。

「我々は、彼らが興味を抱いた際にいつでも連絡を維持する用意があることを確認した。中立に見て明確な論理を、世界中のできるだけ多くの協力国に届けることが、我々の利益につながるからだ」と同外相は付け加えた。

中国は2月、ウクライナ戦争に対し戦闘の一時停止と交渉の再開を求める12項目の和平計画を発表した。中国はこの地域を訪問する特使・李輝氏を派遣し、同氏はすでに(ウクライナの首都)キエフに到着している。李氏はロシア、フランス、ドイツ、ポーランドも訪問する予定だ。

Russia Says Open to Ukraine Peace Proposals from Africa, Brazil - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-17

露、キエフで米国製パトリオットを攻撃

米政府関係者、損傷認める
アンチウォー・ドット・コム
(2023年5月16日)

ロシア軍は16日、ウクライナの首都キエフ(キーウ)にある米国製地対空ミサイルシステム「パトリオット」を極超音速ミサイルで攻撃したと発表し、その後、米政府関係者がこれを認めた。
ロシア国防省報道官のコナシェンコフ中将は「極超音速ミサイルシステム『キンジャル』による高精度の攻撃が、米国製のパトリオット防空システムに命中した」と述べた。

米政府関係者は米CNNに対し、ウクライナ軍のパトリオットはロシアのミサイル連射によって損傷した可能性が高いが、破壊はされていないと述べた。米国は、システムを修理のためにウクライナから持ち出す必要があるかどうかを確認するため、損害状況を評価している。

パトリオットは、米国で最も先進的な防空システムの一つ。米国とウクライナの当局者は以前、パトリオットがロシアの極超音速ミサイルを迎撃したと主張したが、ロシア軍はこれを否定している。

米当局者はCNNに対し、パトリオットは他の防空システムよりもロシアの攻撃に弱い可能性があることを示唆した。記事にはこう書かれている。「ウクライナに提供されたいくつかの短距離防空ミサイルが移動式で標的になりにくいのとは異なり、パトリオットは大きく固定された装置であるため、時間が経てばロシア軍は場所を特定することが可能だ」

米国は2022年12月に初めてウクライナをパトリオットで武装すると約束し、オクラホマ州の基地でウクライナ兵にこのシステムの訓練を行った。非常に高価なこのミサイルシステムは先月、初めてウクライナに到着し始めた。

Russia Hits US-Made Patriot Air Defense System in Kyiv - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-16

日本の優れた植民地支配という神話

経済アナリスト、リプトン・マシューズ
(2023年5月8日)

戦後、韓国と台湾が経済的に成功したのは、日本による植民地支配の遺産があったからだと、主流派の歴史家たちは考えている。日本は新技術、重要なインフラ、効率的な政府を提供し、韓国・台湾の産業発展を可能にしたとされる。台湾と韓国は日本の技術をうまく取り入れたことで恩恵を受け、帝国の支配下で産業成長を記録したという。
さらに1913年から38年にかけて、台湾と韓国は一人当たり国内総生産(GDP)の急速な成長と、それに伴う幅広い社会変革を経験した。学者たちは、旧植民地における日本の国家建設プロジェクトは開発型国家の特徴を備えていると表現している。西洋の植民地主義とは異なり、日本の統治がもたらした遺産は、進歩的で肯定的なものとして熱心に描かれる。たしかに日本による植民地支配は、台湾や韓国にとって好ましい結果を一部もたらしたが、文献を見直すと、こうした立派な効果は誇張されていることがわかる。

人体計測データから始めよう。研究によれば、台湾の華人の平均身長は植民地時代には伸びたとされるが、1930年代には身長や他の福祉指標が停滞しており、このパターンは持続しなかった。また韓国の植民地時代を振り返ると、1920年代から1930年代にかけて、一人当たりのカロリー摂取量は継続的に増加せず、非熟練者の実質賃金などの指標も低下していることがわかる。日本の統治をよく観察してみると、その成果は非常にはかないものであることがわかる。

日本人は、日本の専門知識と資本に支えられ、植民地に起業家階級を育てたとさえ称賛されている。しかし歴史的な記録は、それとは異なる絵を描いている。インフラ事業は土着資本の成長を助けたが、日本企業は、競争するには小さすぎる、あるいは政府官僚とつながりのない地元企業を犠牲にして、特別な特権を得た。日本の経済政策は、台湾や韓国の一部の地元企業に恩恵を与えたが、その大部分は軍事的・地政学的な目的であった。

さらに、経済学者のアン・ブースは、台湾と韓国の産業成長は、アジアの他の地域と比較してそれほど急速ではなかったと指摘している。ブース氏の指摘によれば、台湾ではフィリピン、インドネシア、英領マラヤと同様、1930年代までは工業化の大部分が農産物加工に依存していた。一方、韓国の成長は目覚ましかったが、最初は低調だった。インドネシアと同様、韓国も1930年代に外国資本が流入し、製造業の発展に拍車がかかった。1940年には、両地域のGDPに占める製造業の割合は同じになった。しかし労働力人口に占める割合は、インドネシアのほうが高かった。

日本の植民地の特徴は進歩的な政府だったというアトゥル・コーリー氏の主張に対し、ブース氏は、20世紀最初の10年間には、東南アジアのすべての植民地国が財政制度の近代化を重視した効率的な行政機構を構築していたと指摘している。そのため韓国では1910年以降、国民1人当たりの歳入が急速に増加した。しかし1929年には、韓国の1人当たり歳入はフィリピンやビルマと同程度になった。

ブース氏によれば、台湾と韓国は1930年代後半、東南アジアの多くの地域と比較して、道路や鉄道の面で優れた資産を持っていた。しかしどちらもジャワ島よりも交通の便は良くなかった。同様に、英領マラヤは交通インフラと電力容量が比較的優れていた。韓国と台湾は灌漑に大きな利点があった。東南アジアのどこも同じように広範な灌漑網を誇っていなかったからだ。しかしインドネシアやベトナムでも灌漑は優先された。人口統計学的に見ても、日本の植民地はアジアの非日本植民地と似ており、台湾の乳児死亡率は英領マラヤより少し低い程度であった。

教育面では、1930年代末の総人口に対する教育就学者数の比率で、台湾は東アジア・東南アジアのほとんどの地域をリードしていた。興味深いことに、英領マラヤでは、この比率は韓国を上回っていたが、学生の数はマレー系ではなく、中国系やインド系に偏っていた。フィリピンは中等教育機関への就学ではトップで、1940年代初頭までに4万人以上の学生が高等教育に就学していた。

台湾と韓国には学校が建設されたが、教育はエリート主義であり、ほぼすべての台湾人が高等教育やホワイトカラーの仕事に就くことを拒否された。日本は韓国の初等教育に投資したものの、敵対的な文化政策をとり、韓国語の使用を制限し、韓国固有の教育制度を崩壊させた。1944年には韓国で学校教育を受けた人は14%未満、初等教育以上の教育を受けた人は2%となった。

厳密な分析によると、日本の植民地支配の成果は、他の列強と比較すると、きわめて淡白なものに見える。アン・ブース氏は、米国は自治を奨励し、最終的にフィリピンを独立させたことを考えると、真の「最先端」だったとコメントしている。米国はまた、フランス、英国、オランダ、日本よりも中等・高等教育を重視した。この政策は成功し、1930年代には、フィリピン人は公務員のほとんどすべてのポストに就き、多くの人が民間企業やさまざまな職業で影響力を持つようになった。米国は自由主義的であったのに対し、オランダや英国は先住民が有能な市民や企業家になることに疑問を抱いていた。

さらに、日本はインフラの先駆者だと思われているが、アン・ブース氏とケント・ダン氏によれば、この点で日本の植民地主義は、ライバルより優れているというよりも、むしろ同等だった。どの植民地でも、植民地技術者は鉄道、道路、灌漑事業などの建設に、都市住民の専門知識を活用した。たとえば、オランダのジャワ島での成果は、日本の台湾での成果と似ている。オランダはジャワ島に大規模な灌漑網を建設し、それは現在も残っている。

韓国や台湾の発展は植民地独立後の政策によるものであり、韓国は日本の植民地支配がなければ、植民地支配前の教育機関の遺産によって発展していたとする説もある。日本の植民地主義は先進的であるように見えるかもしれないが、日本以外の植民地主義と比較すると、むしろ平凡であったことを示す証拠がある。したがって韓国と台湾が遂げた目覚ましい発展は、植民地時代の後に加速した経済政策、起業家精神、人的資本への投資によるものだと推論することができる。

Was Japanese Colonialism the Engine of Later Prosperity for Korea and Taiwan? Probably Not | Mises Wire [LINK]

中国特使、ウクライナ・露など歴訪へ 停戦仲介めざす

李輝氏、ポーランド・仏・独も訪問予定

アンチウォー・ドット・コム
(2023年5月15日)

中国のトップ級特使がロシア、ウクライナ、その他欧州諸国への歴訪に近く出発する。中国は停戦を仲介し、ウクライナでの戦争を終わらせたい考えだ。
中国のユーラシア問題担当特別代表である李輝氏は、ポーランド、フランス、ドイツも訪問する予定だ。李氏はロシア語が堪能で、2019年までの10年間、駐ロシア大使を務めた。

「中国政府のユーラシア問題特別代表、李輝氏は5月15日からウクライナ、ポーランド、フランス、ドイツ、ロシアを訪問する。ウクライナ危機の政治解決に関する意思疎通が目的である」と中国外務省は13日発表した。

「ウクライナ危機が始まって以来、中国は客観公正な立場を保ち、平和のための協議を積極的に推進してきた」と同省は付け加えた。中国はまだ詳細な旅程を発表していない。ウクライナ政府関係者が15日にロイター通信に語ったところによると、李氏は5月16、17日にウクライナを訪問する予定だ。

李氏の訪問は、4月26日に行われたウクライナのゼレンスキー大統領と中国の習近平国家主席との電話協議の結果によるものだ。

ゼレンスキー大統領は、北京の和平工作に前向きな姿勢を示しているが、ロシアが占領したすべての領土から撤退しない限り交渉は成立しないと主張しており、ロシアにとっては不合理な話である。ロシアは、将来の和平交渉には、自国が併合したウクライナの州をロシア領として認めることが必要だと主張している。

米国は、交渉を促す中国の努力を拒否し、習氏のモスクワ訪問に先立つ3月には、ウクライナでの停戦に反対を表明している。ホワイトハウスはこうした態度を一時抑えたが、ニューヨーク・タイムズ紙は12日、米政府高官が「即時停戦や和平交渉の呼びかけを警戒している」と報じた。

Chinese Envoy to Start Peace Trip to Ukraine and Russia - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-15

ロシア領攻撃、ひそかに計画 ゼレンスキー大統領、米紙報道

ウクライナ当局はロシア領の攻撃に欧米提供の武器は使わないと主張するが、流出情報はその逆を示唆

アンチウォー・ドット・コム
(2023年5月14日)

ウクライナのゼレンスキー大統領は、自軍が欧米から提供された武器を使ってロシア領土を狙うことはないと公言しながら、ロシア国内の大規模な攻撃をひそかに計画している。米紙ワシントン・ポストが13日報じた。
報道では、SNS(交流サイト)ディスコードから漏洩した機密情報の一部である米国防総省の文書を引用し、ゼレンスキー氏は以前、ロシアの村を占領してロシアのハンガリーへのパイプラインを爆破しようと提案し、ロシア領土を攻撃できる長距離兵器の不足に懸念を表明していたと述べている。

ある文書によると、ゼレンスキー氏は1月に開いた会合で、ウクライナ軍が「ロシアで攻撃を行い」、ロシア領内に兵力を移動させて「ロシア国境の不特定の都市を占領する」可能性を示唆した。この攻撃のアイデアは「ロシアとの交渉でウクライナに影響力を与えるため」とみられる。

以前報道された別の文書では、2月にゼレンスキー氏がウクライナの総司令官であるザルジニー将軍に対し「ウクライナは、ロシア国内に配置された同国軍に届く長距離ミサイルも、攻撃できる何もない」と「懸念を表明した」とあった。

ゼレンスキー氏が最も挑発的な提案をしたのは、2月のスビリデンコ副首相との打ち合わせでのことだ。北大西洋条約機構(NATO)加盟国のハンガリーに石油を供給するドルジバ・パイプラインを「爆破」しようと提案した。文書によると、ゼレンスキー氏は「ウクライナはパイプラインを爆破し、ロシアの石油に大きく依存するハンガリーのオルバン(首相)の産業を破壊すればよいと……強調した」という。

この文書の示唆するところによれば、ゼレンスキー氏が「ハンガリーに対する怒りを表現しているため、大げさで無意味な脅しをかけている可能性がある」。しかしいずれにせよ、この暴露はウクライナとハンガリーの間の緊張を高めることは間違いないだろう。米国とウクライナの両政府関係者は、ハンガリーが停戦を呼びかけ、欧州連合(EU)の対ロシア制裁を緩和する努力をしたことに激怒している。パイプラインに依存するハンガリーなど中欧諸国は、EUのロシア石油禁輸から免除されている。

今回の暴露は、英国がウクライナに長射程の巡航ミサイル「ストームシャドー」を納入し始めた後に行われた。このミサイルの射程は約250キロで、米国がウクライナに提供してきた武器弾薬よりもはるかに遠い。米国は英国の動きを歓迎し、ディスコードからの情報漏洩にもかかわらず、紛争が激化する可能性について懸念していない。

「ウクライナは、ロシアの侵略に対抗するために必要な場合、米国が提供する武器を責任を持って戦略的に使用することを繰り返し約束しており、今後もそうであると確信している」と米国防総省当局者はポスト紙に語っている。

ゼレンスキー大統領は流出した内容を「空想」と呼び、ロシア国内の標的を攻撃するために長距離兵器を使用することはないと強調している。同大統領は14日にも同様のコメントを出し、待ち望まれるウクライナの反攻作戦はロシア領の攻撃が目的ではないと述べた。

Zelensky Privately Plotted Bold Attacks on Russian Territory - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-14

徴兵制という奴隷制

自由の未来財団(FFF)代表、ジェイコブ・ホーンバーガー
(2023年5月12日)

ロシアとウクライナの戦争で興味深いのは、両国の政府が、兵士が「国に尽くす」ために徴兵制をとっていることである。戦争が正当なものであれば、市民が強制的に戦わされる必要はないと考えるのが普通だろう。
徴兵制では、政府は市民に軍事施設への出頭を命じ、そこで市民は政府の定めた賃金で、政府の従業員になることを強制される。さらに悪いことに、その強制労働とは人を殺すことである。したがって、徴兵制は軍事的な奴隷制の一種である。市民が政府による殺戮のために自分の時間と労働力を提供するよう強制されるからである。

米国はロシアやウクライナとは違う、と結論づけたくなるかもしれない。違わない。この両国と同じように、米政府も徴兵制に頼っている。

たしかに、米政府は現在徴兵制をとっていないが、それは単に、絶え間なく続く対外戦争向けに「大砲のえじき」(使い捨ての兵士)が今は必要ないからにすぎない。米政府は、十分な数の男女を自発的に「国に尽くす」よう仕向けることに成功している。

しかし、ロシアやウクライナと同じように、ここ米国にも徴兵制は存在するのが事実である(選抜徴兵登録制度)。そのため、若い男性は18歳になると徴兵の登録をしなければならない。

もしそれを怠ったり拒否したりすれば、逮捕・起訴され、有罪判決を受け、投獄されることになる。ベトナム戦争で徴兵拒否者に行われたのと同じことだ。(ボクシング世界王者の)モハメド・アリ氏は、強制労働のからくりに従うことを拒否したら、政府がその人々をどのように標的にするかを示す好例(起訴され地裁で有罪判決)である。

間違ってはいけないのは、このことだ。もしペンタゴン(米国防総省)と米中央情報局(CIA)が、米国をロシアや中国、あるいはその両方との戦争に巻き込むことに成功したら、米当局はためらうことなく、ロシアやウクライナがやっているようなことをやるだろう。ただちに米国人の男女を「国に尽くす」ために徴兵するだろう。

その日が来れば、「なぜ自分は米国の対外介入主義を前にして受け身でいたのか」と嘆く親が続出することは必至である。もちろん、戦争が核戦争に発展しなければの話だ。逆の場合、悲嘆にくれる親たちは死んでいる可能性が高い。

Involuntary Servitude in Russia, Ukraine, and the U.S. – The Future of Freedom Foundation [LINK]

2023-05-13

ウクライナのメディア、「次の暗殺対象」で投票

ジャーナリスト、アレクサンダー・ルビンシュタイン
(2023年5月9日)

英BBC、独誌シュピーゲルなど欧米報道機関と提携したウクライナのメディアグループは、作家ザハル・プリレーピン氏への自動車爆弾攻撃の次に、どのロシア人知識人を暗殺すべきかについて読者に投票を行った。バイデン米政権はウクライナのテロ作戦を許可した。
ロシアの作家で活動家のザハル・プリレーピン氏が自動車爆弾の標的となり殺されそうになった数時間後、ウクライナの人気通信社は、読者に「ロシアのクズ宣伝家のうち次に暗殺されるべきなのは誰だと思うか」という投票を行った。

ウクライナのUNIAN通信社によると、政府の戦争努力を支持するロシアの知識人に対する狩りの解禁期間だそうだ。ロシアのニジニ・ノヴゴロド州でロシアの小説家ザハル・プリレーピン氏を狙った自動車爆弾事件が発生した後、同通信社は通信アプリ「テレグラム」で利用者に投票を募り、暗殺される可能性のある著名なロシア人の名前のリストを提供した。

ウラジーミル・プーチン露大統領に対する2件の暗殺未遂事件を除くと、プリレーピン氏は、ウクライナの工作員によって暗殺の標的とされた3人目の著名なロシア人となる。同氏の遭難は、ロシアの民族主義哲学者アレクサンドル・ドゥーギン氏を狙ってその娘でジャーナリストのダリア氏が死亡した自動車爆弾事件、人気テレグラムチャンネルを運営するウラドレン・タタルスキー氏(本名マクシム・フォミン氏)が出演した公共イベントの爆破事件に続くものだ。UNIAN通信によるテレグラムの投稿では、ドゥーギン、タタルスキー、プリレーピン各氏がはっきり言及されている。

標的となりうるリストの中には、他のテレグラムチャンネルの運営者である、RT編集長のマルガリータ・シモニャン氏(投稿では「ビーバー食い」と乱暴に呼ばれている)、ロシアTVニュースのホスト、ドミトリー・キセロフ氏やセルゲイ・マルダーン氏などが含まれていた。この記事の掲載時点で、約5万人のテレグラム利用者が投票している。

UNIAN通信の企業概要ページによると、この報道機関は英ロイターや米ブルームバーグと「情報発信と交換のパートナー」であり、配信先にはBBCやシュピーゲルといった海外の著名な報道機関も含まれる。

UNIAN通信は、ウクライナのオリガルヒ(新興財閥)であるイホル・コロモイスキー氏が所有する1+1メディア・グループに所有され、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とネオナチのアゾフ大隊の長年の支援者である。この企業集団は最近、モスクワで毎年5月9日に行われるナチズムの敗北を祝う式典の際、赤の広場へのドローン(無人機)によるテロ攻撃に懸賞金を出したテレビニュース番組TSNの親会社でもある。

プリレーピン氏に対する暗殺未遂事件は、米国籍のゴンサロ・リラ氏を含む11人の戦争批判者を一網打尽にしたウクライナ国内の襲撃事件と時を同じくして発生した。ウクライナの情報機関SBU(ウクライナ保安局)は5月4日、「敵のインターネット扇動家の別のネットワーク」を逮捕したと発表した。

米情報機関とつながりのある米国のジャーナリストらが、ネット上のインフルエンサーを標的にすることを正当化しようとしている。米政府出資の報道機関べリングキャットでロシア調査主任を務めるクリスト・グロゼフ氏は、サンクトペテルブルクのカフェで行われた公開イベントの爆破を、標的が「扇動家」だという理由で正当化した。

同様に、ウクライナの武装勢力に入隊した米国人記者で元民主党工作員のサラ・アシュトンキリロ氏は、同じ理由で米国人のゴンサロ・リラ氏がウクライナ情報機関に逮捕されたことについて現実離れした弁護を撮影している。ウクライナ保安局は顔をぼかしたリラ氏の画像しか公開していなかったが、アシュトンキリロ氏はどうにか無修正版を作ることができた。

一方バイデン米政権は、ロシア国内でのウクライナのテロ作戦に青信号を灯した。ロシアのプーチン大統領に対する2度目の暗殺未遂事件後、アントニー・ブリンケン国務長官は、ロシア領内の攻撃に対する米国の見解について質問された。「これはウクライナが自国をどう守るかの判断だ」とブリンケン氏は答えた。

空軍州兵のジャック・テシェイラ氏がリークした極秘文書には、米報道機関の引き出しの奥でゆっくりと分解されているであろう、ウクライナの反撃に関する米国の悲惨な予測を詳述した文書もある。ウクライナは2014年以前の領土全体を奪還する望みが薄れるにつれ、ロシアの有力な論客を標的とした暗殺作戦に頼り、その領域内にとどまる者たちを消そうとしている。

Ukrainian media asks 'who should be next' after car bombing of Russian writer - The Grayzone [LINK]

2023-05-12

米の干渉、ウクライナ戦争招く

ジャーナリスト、スコット・ホートン
(2023年5月9日)

米国はロシア・ウクライナ戦争への関与をやめ、停戦を呼びかけ、ただちに交渉を始めるべきである。

ロシアのプーチン大統領がソビエト連邦やロシア帝国の復活を望んでいるとされることについて、戦争党(米民主・共和両党の好戦派)がどのような主張をしようとも、この戦争は米国、そして(驚くなかれ)とくにネオコン(新保守主義者)によって引き起こされたというのが事実である。
ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ両米大統領は、ウクライナの人々が間違った人物(親露派)に投票し続けたため、2004年のオレンジ革命、2014年のマイダン革命と、人工芝を施したような偽りの「革命」で、10年間に2度もウクライナ政府を転覆させた。

ブッシュ大統領は2008年のブカレストで、どちらもロシアと国境を接するウクライナ、旧ソ連のグルジア(ジョージア)を北大西洋条約機構(NATO)に加えるという米国の決意を表明した。ちょうどバルト3国(ラトビア、リトアニア、エストニア)の加盟を監督したようにである。その数カ月後、グルジアで戦争が起こった。米国の据えた政権が、ソ連崩壊時に失った2つの州を奪還しようとしたのである。

ブッシュ大統領はまた、ルーマニアとポーランドに対弾道ミサイルシステムを設置し始めたが、これは水爆を搭載できるトマホーク巡航ミサイルも装備できる発射機「MK41」から発射されるため、少なくともロナルド・レーガン大統領による1987年の偉大な中距離核戦力(INF)廃棄条約の精神には反していた。同条約は2019年、ドナルド・トランプ大統領が破棄した。

オバマ政権(政治評論家ロバート・ケーガン氏の妻でチェイニー元副大統領の元顧問ビクトリア・ヌーランド氏が率いる)は、2014年にウクライナの選挙で選ばれた政権の転覆を支援し、ネオナチや極右団体がその転覆に密接に関与していた。新政権はまもなく、クリミア半島のセバストポリにある唯一の不凍港からロシア人を追い出すと脅した。その結果、ウクライナはクリミア半島全体を失い、最東部のドンバス地方で戦争が勃発する。同地方では多数派のロシア系民族が追放されたばかりの(ヤヌコビッチ)大統領を支持していた。

フランスとドイツが2014、2015年にウクライナとロシアの間でミンスク和平協定を結ばせた後、オバマ、トランプ両大統領はウクライナに数億ドル相当の武器を売り、和平協定に違反し続ける誘因を与えた。

東部でのいわゆる「低レベル」の代理戦争を8年間続けた後、プーチン露大統領はミンスク協定の完全実施と、ウクライナをNATOに統合させず、ミサイルを配備しないよう約束する米国との新条約を要求した。

バイデン米政権は誠実に交渉する代わりに、1980年代のアフガニスタンにおけるムジャヒディン(聖戦士)に対する米国の支援を再現することを楽しみにしていると言った。ロシアを泥沼に引き込み、破産させるつもりだったのだ。ちょうどソ連がベトナムで米国をそうさせ、米政府が中東で過去20年間、ウサマ・ビンラディンの(国際テロ組織)アルカイダを助け、米国自身をそうしたように。

米国は、ウクライナ軍が崩壊し、今ごろは反乱軍を支援しているだろうと考えていた。ところが、かろうじてではあるがウクライナ軍はまだ持ちこたえている。だからサウスカロライナ州のグラム上院議員が言うように「最後の一人まで」戦うために、オースティン国防長官の言葉を借りれば「ロシアの弱体化」のために、ウクライナを利用するという方針は、予想以上にうまくいき、続いている。

しかしベトナムもアフガンも、モスクワからわずか300マイルのロシア国境にあるわけではなかった。米国の安全保障部隊は、このインチキな地政学的ゲームのために、故意に核戦争のリスクを高めている。結局のところ、それは米国民に対する反逆であり、敵は両陣営の水爆である。

もしロシアがカナダの政府を2度にわたって転覆させ、その際に暴力的なネオナチを使い、アラスカの海軍基地から米国を追い出すと脅し、それを拒否したバンクーバーの人々に宣戦布告し、武器と訓練兵を投入して最初の1年で1万人以上を殺害したとしたら、どうなるだろう。

そもそもそのような問い自体が馬鹿げている。なぜなら、米国はすぐさまカナダに侵攻し、親ロシア派の新政権を潰し、念のためモスクワを核攻撃するとわかっているからだ。

中国がメキシコで同じようなことをやって、その結果どうなるかを想像してみるといい。

米国は世界帝国を放棄し、ウクライナでの代理戦争から撤退し、ロシアとの新たな冷戦をただちに終わらせるべきである。

Scott Horton: U.S. meddling contributed to the Russia-Ukraine war, it’s time we stop meddling around the world – Orange County Register [LINK]

2023-05-11

よみがえるドミノ理論

ランドルフ・ボーン研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年5月9日)

米国の外交政策史上、とくに大きなダメージを与えたのが、アイゼンハワー大統領によるドミノ理論(ある一国が共産主義化すればドミノ倒しのように隣接する国々も共産主義化するという理論)である。この理論を採用したことで、米国はベトナムへの軍事介入という大失敗にまっしぐらとなった。この単純な理論は、ベトナムの失敗の後、笑いものとなったが、その信奉者は存在し続けている。さらに悪いことに、ロシアと中国に対する米政府の現在の態度に関して、完全に復活したように見える。
アイゼンハワー大統領が初めてその主張を展開したのは、1954年4月7日の記者会見である。それによれば、崩壊しつつあるフランスのインドシナ植民地帝国において共産主義勢力が権力を握るのを防ぐことが、より広い範囲で重要である。同大統領は、後に有名になるイメージを引き合いに出した。「ドミノの列があり、最初の1個を倒すと、最後の1個は間違いなくあっという間に倒れてしまう。だから崩壊が始まれば、きわめて深刻な影響を及ぼす」

同大統領は悪夢のようなシナリオを紡ぎ出した。ベトナムで共産主義が成功すれば、「インドシナ半島、ビルマ、タイ、(マレー)半島、それに続いてインドネシアが失われる」。そして共産主義の脅威は「日本のいわゆる島嶼防衛網、台湾、フィリピン、そして南方へ進出し、オーストラリアとニュージーランドを脅かす」のである。日本でさえも、共産主義世界に目を向ける以外の選択肢はないだろう。その結果、「(ベトナムの)喪失がもたらすかもしれない結果は、自由世界にとって計り知れないものとなる」。

アイゼンハワー氏とその助言者らは、基本的な点を無視していた。国家はドミノではない。それぞれの国は、独自の伝統、価値観、利益、優先順位を持つユニークな社会である。ある国で政治的、イデオロギー的な結果が生じたからといって、同じ結果が近隣の国、ましてやもっと遠くの国で起こるとは限らない。

米外交のタカ派メンバーや欧州、東アジアの関係者は、ロシアと中国に関してこの現実を無視するようになっている。もしロシアがウクライナとの戦争に成功すれば、ロシアは欧州全域に悲惨な脅威をもたらすというのが、北大西洋条約機構(NATO)のお偉いさんたちの決まり文句になっている。それどころかロシアが勝てば、「ルールに基づく」国際体制全体の安定を脅かすという。

経済規模がスペインよりわずかに大きく、軍事予算が米国の10分の1以下である国がそのような脅威をもたらすという考えは、一見して不合理に思えるはずである。米国が関与しなくても、ロシア軍は欧州のNATO圏全体はもちろん、欧州の主要国1つですら征服することは困難だろう。

さらにこの考えは、ウクライナが文化上・安全保障上の理由からロシアにとって非常に重要だという広範な証拠を無視している。とくにロシアの指導者らは、米国がウクライナをNATOの対ロシア軍事資産にすることを許そうとはしなかったのである。だからといってロシアが同様の骨折りをし、リスクを冒してまで、欧州の他地域に対し地政学的な攻勢をかけると考える理由はまったくない。かりにウクライナがロシアの現在の軍事作戦に敗れたとしても、ポーランド、バルト3国、スロバキアが次の拡張の標的になると考える確かな理由はないだろう。ましてドイツ、フランス、イタリアといった大国は言うまでもない。

米国でも、とくに反中のタカ派が増え、対中政策について同様の単純な考えが浸透し始めている。その根底にあるのは、もし中国が力づくで台湾を支配することに成功すれば、中国は東アジア全域に拡張政策の脅威を及ぼし、世界の覇権を握る候補になるだろうという仮説である。ロシアについてドミノ理論を唱えるアナリストが、ロシアにとってのウクライナの重要性を無視するのと同様に、中国が台湾を獲得すれば拡張政策に走ることになると主張する人々は、中国の指導者と国民にとって台湾が特別な存在であることを無視している。多くの中国人にとって台湾は、1949年に共産党の勝利で終わった中国本土の内戦で、最後に解決されなかった領土問題である。また台湾は、中国の「長い屈辱の世紀」の間に外国(日本)が盗んだ領土とみなされている。

台湾を取り戻すことは、他のどんな領土的野心よりもはるかに大きな重要性を持っている。中国が世界をリードする大国となり、米国の覇権を弱めたいと考えているのは確かだが、その目標が自動的に不正な拡張政策につながるわけではない。さらに、ロシアが欧州の経済・軍事大国の存在によって力を制限されているのと同様に、中国も日本、インド、インドネシアなど、その野心を制限する動機を持つ近隣の主要国に直面することになるだろう。

1950年代にアイゼンハワー大統領が発表したドミノ理論は、単純でナンセンスなものだった。現在ゾンビのようによみがえった理論も同様に現実離れしている。元祖ドミノ理論のように米国を不必要で悲惨な紛争に巻き込むことのないよう、断固として否定する必要がある。

The Zombie Domino Theory Returns - Antiwar.com Original [LINK]

2023-05-10

NATO、次の標的は中国

元米下院議員、ロン・ポール
(2023年5月8日)

冷戦後の北大西洋条約機構(NATO)の歴史は、「売り時」を過ぎた組織の歴史である。ワルシャワ条約終了後、使命を渇望したNATOは1990年代後半、クリントン米政権下で「人権」の軍事化の後ろ盾となることを決定した。
NATOの40年の歴史を正当化するために使われた「世界共産主義の脅威」はなくなり、NATOは自らを武装した大西洋主義のスーパーヒーロー集団として再構築することになった。米国のネオコン(新保守主義者)が定義する「不正義」があれば、NATOは銃と爆弾を持って準備万端となった。

米国の軍産複合体にとって、これほどうれしいことはない。連中が惜しみなく資金を提供するシンクタンクも、資金パイプラインを維持するための確実な勝者についにたどり着いたのである。それは安全保障のためではなく、常にカネのためだった。

人権のスーパーヒーローとしてのNATOの試運転は、1999年のユーゴスラビアだった。NATOと、ワシントンや 欧州の多くの首都にいるネオコンの黒幕以外のすべての人にとって、これは恐ろしい、不当な大惨事だった。NATOを脅かすことのない国を78日間にわたって空爆した結果、何百人もの市民が死亡し、インフラは破壊され、ウランチップ入り弾薬の遺産が今後何世代にもわたって景観を汚染することになった。

先週、伝説のテニスプレーヤー、ノバク・ジョコビッチ氏が、NATOの爆弾が落ちてきて破壊された祖父の家から夜中に逃げ出したときの気持ちを語っていた。なんという恐怖だろう。

それからNATOはリビアのカダフィ政権の転覆を支援した。リビアを爆撃し、国民を殺し、政府を転覆させれば、リビアの人権問題はすべて解決するというネオコンの嘘を、企業マスコミは鵜呑みにした。予想どおり、NATOの爆撃はリビアの問題を解決せず、すべてを悪化させた。混乱、内戦、テロ、奴隷市場、深刻な貧困……。ヒラリー・クリントン氏(元国務長官)、バラク・オバマ氏(元大統領)やネオコンが最近リビアについて語りたがらないのも不思議ではない。

ここでは紹介しきれないほどの失敗の連続の後、米国が支配するNATOは2014年、全力を傾けてロシアそのものを「政権交代」の対象とすると決定した。最初のステップは民主的に選ばれたウクライナ政府の転覆であり、ビクトリア・ヌーランド氏(国務次官補、当時)とその他ネオコンがこれを担当した。次に、ロシアと戦うことを意図して、ウクライナのクーデター政権にNATOが8年間にわたり大規模な軍事支援を行った。最後に2022年、NATO軍が国境を取り囲むのを防ぐために欧州安全保障協定について交渉したいというロシアの要請を拒否した。

主流メディアや米政府のプロパガンダにもかかわらず、NATOはウクライナでリビアとほぼ同程度の成功しか収めていない。数千億ドルが流出し、セイモア・ハーシュ氏らジャーナリストによって大規模な汚職が報じられている。

今回の唯一の違いは、NATOの標的であるロシアが核兵器を持ち、この代理戦争を自国の存在にかかわるものとして捉えていることだ。

そのため今度は、失敗の遺産にもかかわらず、NATOは中国と戦争を始めることにした。おそらくウクライナでの惨事から注意をそらすためだろう。先週、NATOは日本に初のアジア事務所を開設すると発表した。次は台湾のNATO加盟だろうか。台湾はNATOの新たな「ウクライナ」となるのだろうか。NATOの戦争への飽くなき欲望をかき立てるという名目で、自らを中国の犠牲にすることを望んでいるのだろうか。

2024年に米国が、NATOの死を招く世界ツアーに、終止符を打つ大統領を選ぶよう願うばかりである。

The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : NATO ‘s Great New Idea: ‘Let’s Start A War With China!’ [LINK]

2023-05-09

豪首相、米に「不満」表明 バイデン政権、アサンジ氏への告訴取り下げず

アンチウォー・ドット・コム
(2023年5月7日)

オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相は、豪国籍のウィキリークス創設者ジュリアン・アサンジ氏を有罪にしようとするバイデン米政権の取り組みに不満を表明した。
アルバニージー首相は英滞在中の5日、「彼が現在も収監されていることで得られるものは何もない」と述べた。同首相はアサンジ氏がすでに何年も投獄されていると指摘した。アサンジ氏は2019年4月からロンドンのベルマーシュ刑務所に収容され、それ以前はエクアドル大使館に監禁されていた。

アルバニージー首相は「もう十分だと言っているだけだ。不満なのはわかるし、私も不満だ。自分の立場を明確にする以上のことはできないし、米政権も豪政府の立場をよく理解しているはずだ」と述べた。

同首相は昨年11月、アサンジ氏に対する告訴を取り下げるよう、自ら米政府に要請したと述べた。同氏は米国の戦争犯罪を暴露する情報を公開し、有罪になれば最長175年の禁固刑に処せられる。バイデン政権には、英国からのアサンジ氏移送を断念するよう圧力が強まっているが、方向転換する気配はない。

世界報道自由デーの5月3日、米国務省はアサンジ氏がジャーナリストであることを認めず、同氏に対する告発を初めて支持した。国務省は以前、この件に関してコメントすることはなかった。

ラシダ・トライブ議員を中心とする米下院民主党のグループは最近、メリック・ガーランド米司法長官に書簡を送り、アサンジ氏に対する告訴を取り下げるよう促した。ウィキリークスを創設したアサンジ氏は、標準的なジャーナリズムの慣行を用いて情報を入手、公開しており、議員らは、アサンジ氏に有罪判決が下れば(他のジャーナリストの)前例になりかねないと警告した。

「アサンジ氏の起訴が成功すれば、ジャーナリストや出版社が起訴されかねない法的な先例を作るだけでなく、政治的な先例にもなる。将来ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストが機密情報に基づく重要な記事を掲載した場合、訴追される可能性がある」と議員らは述べている。

Australia's PM 'Frustrated' US Won't Drop Charges Against Assange - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-08

BRICS新通貨の未来と課題

金融アナリスト、ジョン・ウォルフェンバーガー
(2023年5月4日)

貨幣(お金)は、非効率な物々交換を解消するために、金や銀などの商品を自発的に交換することから始まった。
オーストリア経済学派の創始者であるカール・メンガーは、次のように説明している。

貨幣は政府の発明ではない。立法行為の産物でもない。政治的権威の承認さえも、その存在には必要ないのである。ある種の商品は、政府権力とは無関係な経済関係の結果として、ごく自然に貨幣となった。

しかし政府はすぐに、貨幣を支配することによって莫大な富と権力を得ることができると知った。ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスはその大著『ヒューマン・アクション』で、この支配がいかに人類の進歩を害したかを詳述し、こう述べた。「二百年の間、政府は、市場による貨幣としての媒介手段の選択に、干渉を加えてきた。最も頑固な国家主義者でさえ、この干渉が益をなしたという大胆な主張はしない」

(オーストリア経済学派の)マレー・ロスバードは『政府はわれわれの貨幣に何をしてきたか』で、さらに次のように詳しく述べている。

政府はお金に干渉することで、言い表せない暴政を世界にもたらしてきただけではない。混沌と無秩序をももたらしてきた。無数の制限、管理、人為的な相場、通貨の崩壊、等々によって貿易と投資を妨げ、平和で生産的な世界市場をばらばらにし、無数の断片に粉砕してきた。平和な交易の世界を、戦う通貨ブロックのジャングルに変えることによって、戦争をもたらす手助けをしてきた。要するに、他の事柄と同様に、貨幣においても、強制は秩序ではなく、対立と混沌をもたらすのである。

インフレからデフレへ、好景気から不景気へと、私たちは日々、この混沌を目の当たりにしている。なぜこのような状況になったのか、そして今後どのように変化していくのだろうか。

金から不換通貨へのお金の退化


第二次世界大戦前、英ポンドは世界の「準備通貨」であった。しかし戦後、米国は世界で最も強い経済力を持ち、最も多くの金準備高を有した。

1944年のブレトンウッズ会議で、米ドルは1オンス35ドルの金と結びつけられ、他のすべての通貨は米ドルに固定為替レートで結びつけられることになった。これにより、ドルは「世界準備通貨」となり、国際貿易の決済に使われる唯一の通貨となった。

1960年代から1970年代初めにかけて、米政府の放漫財政で外国政府が米国の金準備の引き出しに殺到した。これに対しニクソン米大統領は1971年、ドルと金の結びつきをなくした。それ以来、世界のどの通貨にも商品としての裏付けはない。このためインフレが進行し、生活水準が低下した。

1973年の第一次石油危機の後、米政府がサウジアラビアに軍事支援を行う代わりに、サウジは米ドルでのみ石油を販売することに同意した。この「ペトロダラー」協定により、ドルは過去50年間、世界の準備通貨として確固たる地位を築いてきた。

今、米ドルに対抗できるものは何だろうか。

BRICSの台頭


BRICSとは、新興国の中でもとくに大きな5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の頭文字をとったものだ。BRICS諸国は世界の人口の約42%、世界の国内総生産(GDP)の32%を占めている。一方、米国は世界人口の4%、世界GDPの16%を占めるにすぎない。

さらに、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、トルコ、タイ、インドネシアなど、将来BRICS連合への参加が噂される国もある。

BRICS諸国は、米ドルと米国の金融政策に従うことに疲弊している。とくに近年はその傾向が強い。(a)米国の通貨供給量が40%増加し、過去40年間で最も高いインフレ率(b)米連邦政府債務が増加して対GDP比率が120%と15年前の2倍、40年前の3倍になり、さらに社会保障や医療保険などの債務が200兆ドル超の積立不足(c)ロシア・ウクライナ戦争に関する制裁など米国の攻撃的な外交が顕著——などの理由による。

行動を起こすBRICS


ロシア・ウクライナ戦争と中国の経済成長継続により、BRICSは米国から権力を奪う計画を加速している。

これまでにBRICSは、インフラ融資のための新開発銀行(通称BRICS銀行)、外国為替圧力から守るための緊急時外貨準備金基金(CRA)、SWIFT(国際銀行間通信協会)に代わるBRICS決済システムなどの取り組みを始めている。

また国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)に対抗するため、BRICS諸国の通貨バスケットに基づくBRICS準備資産にも取り組んでいる。SDRは米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円、中国人民元のバスケットをベースにしている。SDRは正式には通貨ではないが、IMFが各国にSDRを買うように指示すれば、何もないところから作り出し、各国通貨と交換することができる。

世界の中央銀行は、すでに米ドルから中国元などへ分散を始めている。

ロシアのウクライナ侵攻後、米国はロシアをドル体制から追放した。しかしロシアは中国への最大の石油供給国であるため、ロシアと中国は米ドルではなく中国元で取引を開始した。

インドも最近、ロシアの石油のほとんどをドル以外の通貨で支払っている。ブラジルと中国は最近、将来の貿易をすべて自国通貨で行うことに合意した。フランスの石油会社トタルは最近、中国からの液化天然ガス(LNG)の購入を初めて人民元で完了した。

こうした努力の結果、世界の通貨準備高に占める米ドルの割合は、2001年の73%から現在は58%に低下している。

米ドル駆逐は容易ではない


BRICS諸国が、何もないところから作り出せる不換紙幣を唯一の手段とするのであれば、王者ドルに本気で挑戦することにはならない。

米国は最大かつ最も安全な国債市場を持ち、資本規制がなく、法の支配を実施するという評判がある。一方、BRICS諸国が法を尊重し、強い通貨を持つという話はほとんど聞かない。

さらに重要なことに、米国以外の国家は12兆ドルのドル建て債務を抱え、それをドルで返済する必要があるため、ドルを放棄することは非常に困難でコストがかかる。

商品に裏打ちされた国際通貨を


もちろん、BRICS諸国が戦争や福祉の支出を賄うために無からお金を作り続ければ、ブレトンウッズ体制が崩壊したように、ドルとの競争は最終的に失敗に終わるだろう。BRICSにより良いチャンスがあるとしたら、金や石油などの商品に裏打ちされたハードカレンシー(国際通貨)を作ったときだろう。

BRICS諸国の金準備は合計5352トンで、8133トンの米国に次ぐ第2位だ。中国は過去20年間で金準備を4倍に増やしている。

BRICS諸国は賢明にも、金担保通貨を模索中だ。例えばロシアは2022年3月、ルーブルを1グラム5000ルーブルで金とリンクさせ、輸出品の支払いをルーブルで求めると発表した。また最近、ロシアとイランがドルに対抗するために、金に裏打ちされた新しい暗号通貨「ステーブルコイン」の開発に取り組んでいると報じられた。

「自由市場」である米国が、ロシア、中国、イランのような国によって作られた、より自由市場的な通貨に負けたとしたら、なんとも皮肉な話だ。

米経済・政治への影響


もしBRICSが成功し、米国が強いドル、支出削減、戦争ではなく平和に力を入れる政策に変更しない場合、ドルは徐々に「準備通貨」の地位を失う可能性がある。そうなれば、第二次世界大戦後に衰退した英国と同じように、米国の生活水準は低下し、米政府の権力も低下する。歴史上、あらゆる帝国は衰退しており、米国も例外ではあるまい。それを左右するのは、BRICSがドルに対抗する国際通貨を成功させられるかどうかだ。

結 論


BRICSが無からお金を生み出す力を放棄し、金やその他の商品で100%裏付けされた通貨を作らない限り、新しい通貨はドルやその他の不換通貨と同じ問題を抱える可能性が高い。

結局のところ、お金が自由な市場に戻り、政府に操作されないようになるまでは、政府がお金に干渉するようになって以来、人類を苦しめてきた経済問題を経験し続けることになる。

Will a New BRICS Currency Change Anything? Maybe | Mises Wire [LINK]

2023-05-07

【コラム】権力に仕えるメディア

木村 貴

米政府の機密文書がインターネットに流出し、米連邦捜査局(FBI)は漏洩に関わった疑いで、ジャック・テシェイラ氏を逮捕・起訴した。数百件に上るとされる流出情報の中には現在進行中のウクライナ情勢に関するものが多く、大騒ぎになった。しかしメディアの報道ぶりが、何とも奇妙だ。
まずテシェイラ氏の逮捕に至る米大手メディアの報道が異様だった。FBIが同氏をマサチューセッツ州ノースダイトンの自宅で逮捕したのは4月13日午後。ガーランド司法長官は同日、空軍州兵に所属する21歳のテシェイラ氏を逮捕したと発表した。

しかし米大手メディアはそれ以前から、機密漏洩の「犯人探し」に血道を上げていた。ワシントン・ポスト紙は12日、漏洩の舞台となった交流サイト(SNS)「ディスコード」を通じてテシェイラ氏(仲間内では「OG」と呼ばれた)と知り合った未成年男性へのインタビュー動画を公開した。匿名だが、顔は簡単なモザイク処理を施しただけで、声は本人の要望を理由に加工していない。アップで映るノートパソコンのキーボードは一部が欠けた特徴あるものだ。ネットメディア、インターセプトのニキータ・マズロフ記者は「捜査当局の身元確認に役立つ証拠を進んで示しているようだ」と批判する。同記者がポスト紙に問い合わせたところ、広報担当者はインタビューについて保護者の同意を得たと繰り返したという。

ニューヨーク・タイムズ紙はさらに踏み込んで、13日の逮捕直前に流したオンライン記事で、流出文書の写真の背景が、ソーシャルメディアに家族写真として投稿されたテシェイラ氏の幼少期の家の内部と一致したことや、軍の記録などから、漏洩した疑いのある人物は州兵のテシェイラ氏だと特定した。

この記事には共同筆者の一人として、英調査報道機関ベリングキャットの調査員の名前がある。ベリングキャットは、欧米や日本の主流メディアでは公正中立な団体であるかのように扱われるが、実際は第二の米中央情報局(CIA)と呼ばれる全米民主主義基金(NED)から助成金を得るなど、政府の影の濃い組織だ。そのベリングキャットと天下のニューヨーク・タイムズが一体となって、家族写真まで引っ張り出し、機密漏洩の「犯人探し」に躍起になるとは、ジャーナリズムのあり方として疑問を感じざるをえない。

ジャーナリズムの基本からすれば、元英外交官でジャーナリストのクレイグ・マレー氏が指摘するように、テシェイラ氏の名前が浮上した時点で本人に接触し、漏洩の動機を説明するよう求め、同氏がアクセスした他の機密資料に目を通し、その意味について同氏の見解を聞き、公共の利益になるものについて報じるべきだろう。ところがニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストは、それをしていない。

両紙を含む主流メディアは、漏洩文書が明らかにしたウクライナ情勢などに関する情報を一部報じてはいる。しかしそれよりも、情報漏洩をとんでもない不祥事とみなし、その「犯人」を糾弾し、政府に「再発防止」を求める姿勢が勝っているように見える。

2023-05-06

NATOが日本に事務所開設へ アジアで初

中国、「アジア太平洋への東進」に警告

アンチウォー・ドット・コム
(2023年5月4日)

北大西洋条約機構(NATO)は来年、アジアで初めてとなる連絡事務所を日本に開設する予定だ。日経アジアが3日報じた。
NATOは近年、アジア太平洋地域に視線を向け、2022年の戦略構想で中国を「体制上の挑戦」と名づけた。対中戦略の一環として、同地域の国々との協力を深めている。

日経によると、NATOが日本に連絡事務所を開く目的は「従来の焦点であるロシアと並んで、中国が新たな挑戦として浮上するなか、日本や韓国、オーストラリア、ニュージーランドといった地域の主要パートナーと定期的な協議を行うことができるようにするため」だという。

記事によれば、NATOと日本は6月にリトアニアのビリニュスで開くNATO首脳会議(サミット)に先立ち、「ITPP(国別適合パートナーシップ計画)」として知られる協定に署名することで、協力関係を強化するためにさらなる措置を講じる。日本はまた、(NATO本部のある)ベルギーの大使館とは別に、独立したNATO代表部の開設を計画している。

このニュースに対し、中国はNATOのアジア進出計画に警告を発した。外務省の毛寧報道官(副報道局長)は「アジアは平和と安定のための錨(いかり)であり、協力と発展のための有望な土地であって、地政学的競争のためのレスリング場ではない」と述べた。

「NATOがアジア太平洋に東進し、地域問題に干渉し続けることは、必然的に地域の平和と安定を損ない、陣営対立を煽ることになる。このため、地域諸国は強い警戒心を持つ必要がある」と毛報道官は付け加えた。

NATO to Open Office in Japan, the Alliance's First in Asia - News From Antiwar.com [LINK]

2023-05-05

アサンジ氏訴追のダブルスタンダード

トーマス・ジェファーソン法科大学院名誉教授、マージョリー・コーン
(2023年4月30日)

2023年5月3日は、国連が各国政府に報道の自由を尊重する必要性を喚起するために制定した「世界報道自由デー」の30周年にあたる。しかしバイデン米政権が世界に報道の自由の重要性を宣言する一方で、ジャーナリストで出版者のジュリアン・アサンジ氏を追及するその偽善は驚くべきものだ。
バイデン政権は最近、ロシアが米紙ウォールストリート・ジャーナルのモスクワ駐在記者で米国籍のエバン・ゲルシコビッチ氏を、ジャーナリズムの実践を理由に逮捕したことに怒りを表明した。ゲルシコビッチ氏は現在、ロシアで20年の禁固刑に処される可能性のあるスパイ容疑をかけられ、投獄されている。裁判前の勾留解除を求める訴えは却下され、領事面会も拒否されたばかりだ。

一方、バイデン政権は、米国の戦争犯罪の証拠を入手し公表したとして、オーストラリア人であるアサンジ氏の身柄引き渡しを要求し続けている。

ゲルシコビッチ氏もアサンジ氏も、ジャーナリストの仕事をしたためにスパイ容疑で外国に拘束されたジャーナリストである。

アサンジ氏は、スパイ活動法により同氏を起訴しようとするドナルド・トランプ前大統領の試みをバイデン大統領の政権が続ける間、ロンドンの最高度に厳重な刑務所に4年間閉じ込められている。引き渡され、裁判を受け、有罪判決を受けた場合、175年の刑に処される可能性がある。アサンジ氏は、国家機密を暴露したとして、スパイ活動法の下で起訴された史上初の出版者である。同氏の上訴は英高等法院で係争中だ。

「ジャーナリズムは犯罪ではない」


ロシア連邦保安局(FSB)は3月30日、ゲルシコビッチ氏の拘束を発表した。同局によれば、「国家機密を構成するロシア軍産複合体の企業の一つの活動に関する情報を収集するために米国側からの指示で行動していた」という。

ゲルシコビッチ氏の拘束について、カリーヌ・ジャンピエール米大統領報道官は声明で「我々は深く懸念している」と述べ、「ロシア政府が米市民を標的にすることは容認できない。我々は最も強い言葉でゲルシコビッチ氏の拘束を非難する」とした。

バイデン大統領はホワイトハウス特派員晩餐会で、「ジャーナリズムは犯罪ではない」と宣言した。

同様に、米上院の民主党トップ、チャック・シューマー院内総務と共和党トップのミッチ・マコネル院内総務は珍しい共同声明で、ロシアにゲルシコビッチ氏をただちに解放するよう呼びかけた。「ジャーナリズムは犯罪ではない」と両議員は書いている。

「出版は犯罪ではない」


2022年11月28日、米ニューヨーク・タイムズ、英ガーディアン、スペインのエル・パイス、仏ルモンド、独シュピーゲルは、外交・軍事機密を公開したアサンジ氏に対するスパイ活動法の告訴を棄却するよう米政府に求める共同公開書簡に署名した。

「出版は犯罪ではない」とこれらメディアは書いている。「米政府は、機密を公開したジュリアン・アサンジ氏の訴追を終わらせるべきだ」

これら5つのメディアは2010年、アサンジ氏の(内部告発サイト)ウィキリークスと協力し、国際的な規模で汚職、外交スキャンダル、スパイ問題を公表した25万1000件の米国務省機密文書からなる「ケーブルゲート」を公表した。ニューヨーク・タイムズ紙によると、この文書は「政府がどのように最重要の決定、命と金で国に大きな犠牲を強いる決定を下すかについて、ありのままの話」を明らかにした。

アサンジ氏の起訴は、ウィキリークスが暴露した「イラク戦争記録」にも基づいている。これはイラク市民1万5000人の未報告の死と、米軍が「悪名高いイラクの拷問部隊に拘束者を引き渡した」後の組織的なレイプ、拷問、殺人を記録した40万件の現地報告書だった。また同氏の起訴は、米軍が報告していたよりも多くの民間人が連合軍によって犠牲にされていたという9万1000件の報告からなる「アフガン戦争日記」の公開にも起因している。

さらに、2007年の「巻き添え殺人」動画では、米軍のアパッチ攻撃ヘリコプターが、ロイター通信の報道スタッフ2人と負傷者の救助にあたった男性を含む非武装の民間人11人を標的にして殺害し、子供2人を負傷させる様子が描かれている。この動画には、ジュネーブ条約と米軍フィールドマニュアルの違反3件の証拠が含まれている。

米下院議員ら、アサンジ氏告訴の撤回求める


アサンジ氏の逮捕から4年目を迎え、米民主党のラシダ・トライブ(ミシガン州)、ジャマール・ボウマン(ニューヨーク州)、コリ・ブッシュ(ミズーリ州)、グレッグ・カサール(テキサス州)、アレクサンドリア・オカシオコルテス(ニューヨーク州)、イラン・オマル(ミネソタ州)、アイアンナ・プレスリー(マサチューセッツ州)の各下院議員はメリック・ガーランド司法長官に書簡を送付した。議員らは、アサンジ氏に対する告訴を撤回し、英国への引き渡し要求を取り下げることで、報道の自由を保護する憲法修正第1条を確認するよう司法省に要請した。

「報道の自由、市民的自由、人権の各団体は、アサンジ氏に対する告発が、憲法上保護された日常のジャーナリズム活動に対する重大かつ前例のない脅威であり、有罪判決が下されれば、憲法修正第1条の歴史を汚す後退になると強調してきた」と7人の議員は書いている。

議員らは、(人権団体の)米自由人権協会、アムネスティ・インターナショナル、国境なき記者団、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、権利異論保護協会、ジャーナリスト保護委員会が署名した書簡を引用し、「アサンジ氏の起訴は報道の自由を脅かす。なぜなら起訴状で述べられている行為の多くはジャーナリストが日々行っている行為であり、国民の求める仕事をするために必要な行為だからだ」と書いている。

その行為には、情報源と定期的に話すこと、説明や追加文書を要求すること、政府が秘密とみなす文書を受け取って公開することなどが含まれる。「(アサンジ氏起訴という)今回の前例によって、こうしたジャーナリズムの一般的実践が事実上、犯罪化される恐れがある」と人権団体は指摘している。

議員らの書簡は、オーストラリアのアルバネーゼ首相、メキシコのロペスオブラドール大統領、ブラジルのルラ大統領、アルゼンチンのフェルナンデス大統領ら世界の指導者がアサンジ氏の訴追に反対していること、拷問に関する国連特別報告者を務めたニルス・メルツァー氏や欧州評議会の人権委員ドニャ・ミハトヴィッチ氏が、この訴追に反対していることを紹介した。また英国、オーストラリア、ドイツ、ブラジルの議員からの同様の書簡にも言及した。

バイデン政権は、ロシアによるゲルシコビッチ氏逮捕に異議を唱える資格はない。国境なき記者団の運営・運動担当理事であるレベッカ・ビンセント氏は「アサンジ氏に対する裁判が続く限り、米政府にとってトゲとなり、世界でメディアの自由を守る米国の努力を損なうことになる」と述べる。

世界報道自由デーである5月3日には、アサンジ氏に対する告訴の撤回と米国の引き渡し要請取り下げを求めるいくつかの行事が各地で予定されている。

Biden Hypocritically Slams Arrest of US Journalist in Russia But Pursues Assange - Truthout [LINK]

2023-05-04

ウクライナ戦争、米政府の3つの嘘

ランドルフ・ボーン研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年5月2日)

どの国の政府も、外交政策の側面から欺瞞に満ちたプロパガンダを行う。しかしジョー・バイデン米政権は、嘘の数とその大胆さの両方で、ある種の記録を作ろうとしているようだ。その中でも、大胆さの面で際立っているのが3つある。
嘘「世界はロシアに反対し、ウクライナを支援することで一致団結している」。この自慢は、ロシア・ウクライナ戦争が始まった当初から信憑性に乏しかったが、時間が経つにつれて、よりほころびが大きくなっている。米政府の主張は、2022年3月と2023年2月の2回の国連総会の議決に基づいている。これらの措置は、ウクライナに侵攻したロシアを批判するものではあったが、国連加盟国に何らかの行動を約束するものではなかったため、純粋に象徴的なものだった。それでも、強国である米国の怒りを買うとわかっていながら、総会の2割以上の国が反対票を投じたり棄権したりした。

内容のある政策としては、北大西洋条約機構(NATO)圏と米国の長年にわたる安全保障上の依存先である東アジア以外では、反露政策への支持はほとんどない。インドや中国などの大国がロシアへの制裁を拒否しているだけでなく、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの圧倒的多数の国々がその姿勢を維持している。ウクライナへの経済的(ましてや軍事的)援助という点では、支持者の層はさらに薄くなっている。バイデン政権関係者の独りよがりな主張とは裏腹に、このような問題では、欧米対その他の国々ということになる。

嘘「ロシアとウクライナの戦争は、民主主義と権威主義の存亡をかけた世界的な戦いの一部である」。政権幹部や欧米ニュースメディアの閉鎖空間にいるその支持者は、何度もそのような主張をしている。ウクライナが合理的な基準で民主主義国家ではないという現実もさることながら、いくつかの理由でそれは誤りである。2022年2月のロシアの侵攻後、ウォロディミル・ゼレンスキー政権がさらなる弾圧政策をとる以前から、ウクライナは蔓延する汚職を理由にトランスペアレンシー・インターナショナル(非政府組織)から悪い評価を受け、政治的自由に関してはフリーダムハウス(同)から平凡な評価を受けていた。

それ以来、ゼレンスキー大統領は野党やメディアを非合法化し、その他の報道機関には厳しい検閲を課し、ロシア正教会や「ロシアとのつながり」を持つその他の宗教団体を事実上禁止し、反逆罪の疑いで多数の個人(元上級顧問らを含む)を収監した。さらに、国内外の批判者を「情報操作テロリスト」や「戦争犯罪人」と非難する「ブラックリスト」まで作成された。

バイデン政権が、ロシア・ウクライナ戦争を民主主義と権威主義の重要な闘いとして描くのは不条理である。どちらの国も民主主義ではないからだ。フロリダ州のロン・デサンティス知事は、この紛争を米国の関与を必要としない平凡な「領土問題」と表現したが、これははるかに的を射ていた。しかし残念なことにデサンティス氏が後にこの正確な説明を撤回したのは、戦争に関する議論を支配する親ウクライナの物語に異を唱える者をウクライナ・ロビーがいかに効果的に威圧するかを示すものであった。

嘘「米国はロシアとウクライナの戦争に直接関与していない」。ロシアの侵攻が始まったとき、バイデン政権幹部はすぐに、米国とそのNATO同盟国はウクライナの防衛努力を支援するが、ウクライナに米国の「ブーツ・オン・ザ・グラウンド(地上軍)」は存在しないと米国民に保証した。しかし2023年4月に流出した国防総省の文書によると、米国と他のNATO諸国がウクライナに数十人の特殊部隊を配置していることが確認された。その事実を皮肉ったコメントで、ある識者は「米軍はブーツの代わりにスリッパを履いているのではないか」と推測している。

地上部隊の駐留がなくても、米国は(他のNATO加盟国とともに)ロシアとウクライナの紛争に深く関与してきた。米政府が公式に唱える非交戦国としての地位は、茶番である。米国を中心とするNATOは、ロシアに対して本格的な代理戦争を仕掛けているのである。しかもその目的は、ウクライナがロシアの侵略を食い止めるのを助けるにとどまらない。ロイド・オースティン国防長官が率直にも「ロシアを弱体化」させ、ウクライナや他の国にとって安全保障上の脅威とならないようにすることが目的だと述べたことは、この点を端的に示している。米国はウラジーミル・プーチン露大統領を戦争犯罪で訴追するよう国際刑事裁判所(ICC)に働きかけている。バイデン大統領を含む政権幹部は、NATOの根本的な目標はロシアの政権交代だとほのめかしている。

西側諸国は長距離ミサイルや重戦車など、ますます強力な武器をウクライナに供給している。また米国はウクライナに標的データを含む戦場情報を提供してきたことも明らかになっている。そのおかげで、ウクライナ軍は数百人が乗ったロシア軍の輸送機を撃墜し、多数のロシア軍将兵を殺害し、ロシアの黒海艦隊の旗艦を沈めるなどの戦果を挙げている。このような関与は米国を交戦国にし、核武装したロシアとの信じられないほど危険な衝突を引き起こす危険性がある。

米国民は、自国の政府に騙される心配をする必要はないはずだ。しかしロシア・ウクライナ戦争に関して、バイデン政権とその同盟国は、いくつかの重要な問題について国民を組織的に欺いた。このような行動は、民主主義の根本規範をまったく軽んじていることを示している。

Washington's Egregious Deceptions About the Russia-Ukraine War - Antiwar.com Original [LINK]

2023-05-03

侵略は自衛、ただし米国に限る

ジャーナリスト、ケイトリン・ジョンストン
(2023年5月1日)

アメリカ集権帝国が私たちに信じさせようとする最も愚かなことは、地政学上のライバルである二つの国を軍事的に包囲することが、極端な侵略行為ではなく、自衛行為だということだ。
私たちを支配する黒幕は多くの極めて愚かな物語を信じるよう求めるが、この物語はその頂点に立つのではないかと思う。米国がロシアと中国を軍事的に包囲することは、侵略行為ではなく防衛行為であるという考えは、非常に率直で透明な馬鹿馬鹿しさであり、それについて十分に批判的に考える人は誰でも、すぐに頭が空っぽのナンセンスとしてそれを否定するだろう。しかしそれは西側世界の主流の物語であり、数百万の人々がそれを真実として受け入れている。なぜなら、それが米国のプロパガンダの力だからである。

考えれば考えるほど、ますます馬鹿馬鹿しくなる。連中の主張は要するに、「いやいや、あなたはわかっていない。米国は地政学上の主な競合相手が攻撃的なことをするのを防ぎたいから、急いで戦争装置で囲んでいるのだ」というものだ。「各国に勝手に軍事的侵略をさせてはならない。だからこの戦争装置を地球の反対側にある主な戦略的ライバルの国境に移動させる必要があったのだ」という。

これほど非常識なことがあるだろうか。政治、政府、メディアにおいて最も強力で影響力のある人たちが一斉に、国家が敵の国境に重武装の代理軍を集結させることは、それ自体が極端な侵略の扇動行為ではなく、侵略を防ぐための行動とみなすべきものだと主張するとは。

最近ある人から、米国は中国の近くに巨大な軍事的存在感を高める権利があると言われた。そのポイントを説明していわく、中国がメキシコに基地を置こうと、米国がやめろという筋合いはない。しかしこの議論が説明するのは私の主張であって、米国の主張ではない。米国は中国がメキシコに軍事基地を置くことを1秒たりとも許すはずがない。基礎工事が始まるはるか前から、現実に戦争が始まるだろう。

このことが意味するのは、米国がこれらの紛争において侵略者であるということだ。北大西洋条約機構(NATO)を拡大し、ウクライナを事実上のNATO加盟国にし始めたときも侵略者であり、中国包囲網を加速させ、台湾への武器流入の門を開く準備をしているときも侵略者である。地政学的ライバルの国境で、そのライバルが自分たちにすることを決して許さないようなことをしていれば、それは侵略だし、ライバルがすることはすべて、その侵略に対する防衛的対応である。

これがアメリカ集権帝国の常套手段である。いわゆる「ルールに基づく国際秩序」のリーダーを自任し、発令した命令に従わない国々を絶えず攻撃し、飢えさせ、威嚇する。そしてその侵略が少しでも反発を受けると、得意のプロパガンダで小鹿のように無実を装い、従わない国々からいわれのない侵略を受けているだけであるかのように見せかける。

しかし帝国は受け身ではなく、無邪気でもなく、私たちが世界の舞台で見ている極めて危険な現在の紛争や新たな紛争の主な原因となっている。アメリカ帝国は、多極化が進む前に地球の一極覇権を確保しようと、最後の力を振り絞って必死になっており、その力に挑戦する核保有国の国境で異常なほど攻撃的な行動に出て、私たちすべてを危険にさらしている。

そして、このことは折に触れて再確認する価値があると思う。もし自分に何が真実かを思い出させ続けなければ、この野郎どもは私たち全員をおかしくしてしまうだろう。

The Single Dumbest Thing The Empire Asks Us To Believe – Caitlin Johnstone [LINK]

2023-05-02

BRICSが加速する多極世界

コラムニスト、テッド・スナイダー
(2023年5月1日)

米国が主導する一極集中の世界を維持するために苦労している間に、多極化した世界があちこちで生まれつつある。アフリカやブラジルはそれを望んでいる。中国やインドもそれを支持している。ドイツはそれをささやき、フランスはそれを求めている。イランとサウジアラビアは、多極的な上海協力機構(SCO)に参加している。しかし新しい多極世界の現実を示す最も驚くべき兆候は、BRICSの爆発的な成長かもしれない。
BRICSは、新しい多極世界において、米国の覇権とバランスを取ることを主目的とする国際組織である。そのルーツは1996年、ロシア、インド、中国(RIC)を中心とするグループの出現にさかのぼる。2009年、ブラジルとともにBRICは最初のサミットを開催した。2010年には南アフリカも加わり、アフリカとラテンアメリカの代表が対等に発言できる唯一の主要な国際機関として、BRICSが設立された。

BRICSは同盟でもブロックでもなく、米国に反対しているわけでもない。しかし米国が主導する一極集中の世界を終わらせ、多極化し、多くの国が対等に発言できる世界に置き換えることを目指している。ほぼすべての大陸からメンバーが集まり、BRICS諸国は32億人、つまり地球上の人口のほぼ41%を代表している。

そして、その均衡はますます強まっている。先日のBRICS外相会議ではインドネシア、カザフスタン、エジプト、ナイジェリア、セネガル、タイがゲストとして迎え入れられた。北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるトルコは加入を目指している。6月に南アフリカで開催される年次サミットでは、BRICSの5カ国が、拡大や加盟に関心を示している19カ国について話し合う。13カ国がBRICSへの加盟を正式に要請し、6カ国が非公式に要請している。イランとサウジアラビアは正式に加盟を要請している。アルゼンチン、アラブ首長国連邦(UAE)、アルジェリア、エジプト、バーレーン、インドネシアが関心を表明していることが知られている。このリストには新たな6億人が含まれ、世界人口に占めるBRICSの割合は41%をはるかに超えることになる。また、このリストにはメキシコと少なくとも3つのアフリカ諸国が含まれると伝えられている。ロシアはこれまで、パキスタン、バングラデシュ、ナイジェリア、スーダン、ベネズエラもリストに入っていると述べてきた。

しかしBRICSの成長は、加盟国や世界人口に占める割合にとどまらない。ほんの数年前までありえないと思われていたBRICSは、今や米国が主導する主要7カ国(G7)を抜いて、世界最大の国内総生産(GDP)ブロックとなった。2021年にはBRICSのGDP合計が42兆ドル、世界のGDPの31.5%に達するのに対し、G7は41兆ドル、30.7%となる。この傾向は今後も続くと予想される。ブルームバーグは国際通貨基金(IMF)の最新データに基づき、2023年にはG7のGDPシェア29.9%に対しBRICSは32.1%を占めるだろうと伝えている。

BRICSは2014年、世界銀行とIMFに代わる独自の銀行、新開発銀行(通称BRICS銀行)を立ち上げた。欧米が支配する世界銀行やIMFからの資金援助には、イデオロギーの整合や経済・政治的な構造調整の口実が伴うことが多い。ブラジル大統領でBRICSの創設メンバーであるルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ氏の説明によれば、同氏が「各国の経済を窒息させる」と非難したIMFとは異なり、「新開発銀行は、貧困や不平等が少なく持続可能な世界を作るという観点から、BRICS諸国のパートナーシップにより生まれたもの」である。中国外務省の報告によると、BRICS銀行は「インフラ事業を中心に99件、総額340億ドル以上の融資案件を承認した」という。

だがBRICSの意義は、その経済的影響にとどまらない。BRICSはもともと、国際情勢における米国の覇権主義に対する対抗手段として構想された。両者は互いに相容れないものではなく、いくつかのBRICS加盟国は、米国の覇権主義から自らを解放する仕組みとしてBRICS通貨を要求している。

BRICS加盟国は、ロシアのウクライナ戦争に対する世界の対応や多極化の推進など、世界情勢に大きな影響を及ぼしている。ブラジルのルラ大統領は、米国がウクライナで「平和を語る」のでなく「戦争を奨励している」と批判している。同大統領はウクライナの和平を仲介する中国の提案を「前向きに受け止め」、BRICSメンバーも含めた共同の取り組み、すなわち「平和クラブ」を提案し、多極化を支持することで米国に挑戦した。ブラジルは、米国とともにロシアを制裁することも、国連でロシアに反対票を投じることもしていない。

ルラ氏は、多極化と「公正で公平な国際秩序」を強く推進してきた。「多国間主義」を求め、「BRICSやその他の多国間機関」を強化するよう求めてきた。

ルラ氏はまた、「BRICS銀行がブラジルと中国、ブラジルと他のBRICS諸国との貿易に融資する通貨を持つ」よう提案している。各国が「自国通貨で輸出できるのに、輸出のためにドルを追い求める」よう強いられないためにである。

インドも国連でロシアを非難することを拒否している。ロシアを制裁するどころか、ロシアからの輸入、とくに石油の輸入を増やし、ロシアをインドの輸入相手国として18番目から4番目に昇格させた。ナレンドラ・モディ首相は「ロシアとインドの関係は著しく改善された」と述べ、インドは最近、ロシアとの関係を「現代における世界の主要な関係の中で最も安定したものの一つ」と呼んでいる。

インドは「多極世界へのコミットメント(関与)」を改めて表明している。BRICSのパートナーであるブラジルと同様に、インドはルピーによる貿易を促進し、ロシアの石油の一部をロシアルーブルで購入し始めることで、米ドルの地位低下を図っている。

中国は国連で外交的に、また経済的にもロシアを支援し、制裁体制からの出口を提供している。中露貿易は年間1900億ドルにまで膨れ上がっている。中国の習近平国家主席は「ロシアと中国のパートナーシップの特別な性質を再確認」しただけでなく、「戦略的パートナーシップと新時代を迎える二国間関係の深化に関する声明に署名」した。

南アフリカは、制裁体制への参加を求める米国の圧力をはねのけ、国連でロシアに対する投票を棄権している。2月には中露との合同軍事訓練を自国沿岸で行った。南アフリカ国防軍は、この訓練は「すでに栄えている南アフリカ、ロシア、中国の関係を強化する手段」だと述べている。

南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は、戦争における交渉を求める反対派に加わって米国を批判し、「NATOの東方への拡張は、この地域の不安定さを減らすどころか、より大きくすることになるという、長年にわたる自国の指導者や当局者の警告を聞いていれば、戦争は避けられただろう」と述べている。

BRICSの他のパートナーたちと同様に、南アフリカも多極世界を求め続けてきた。

規模も経済力も大きくなったBRICSは、多極世界を求めるグローバル・マジョリティ(多数派)の声を増幅させている。

How Big Is BRICS? - Antiwar.com Original [LINK]

2023-05-01

報道機関の失われた良心

ランドルフ・ボーン研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年4月24日)

米紙ニューヨーク・タイムズをはじめとする既成の報道機関が、ジャック・テシェイラ容疑者を追跡する当局に奴隷のように協力したことで、ジャーナリズムの良心は最悪の水準に陥った。同容疑者は、米国と北大西洋条約機構(NATO)の高官がウクライナ戦争などについて嘘をついていたことを明らかにしたリーク元だとみられている。残念ながらこの事件は、その数カ月前に始まり、現在も続いているジャーナリズムの重大な不正行為に関するもう一つの話題、ノルドストリーム・パイプライン爆破事件の欠陥報道をも凌駕してしてしまった。
しかしノルドストリーム事件に関する報道機関のひどいやり方を忘れてはならない。なぜなら欧米(とくに米国)のジャーナリストが外交政策や国家安全保障問題に関し、政府の薄っぺらい公式見解をいかに喜んでおうむ返しするかが浮き彫りになったからである。2022年9月に起こった爆弾テロであるノルドストリーム事件はロシアが引き起こした可能性が高いというバイデン米政権の主張には、それなりに独立した有能な報道機関であっても重大な疑問を呈するはずだった。しかし予想どおり、ニューヨーク・タイムズはすぐに政府の示した疑惑に同調した。他のエリート報道機関もこれに続き、ロシア政府の犯行だということに何の疑いも抱かないところもあった。

その疑惑に大きな疑念を抱く理由はいくつもあり、結局、政府幹部でさえ、ロシアが有罪だという「決定的な証拠」がないことを認めた。どんな犯罪でも、優秀な捜査官が最初に問うのは「cui bono(誰が得をするのか)」である。その点では、ロシアは容疑者リストのはるか下に位置していただろう。

ロシアの投資家は、ノルドストリーム1と完成したばかりのノルドストリーム2の建設に何十億ドルも注ぎ込んでいた。しかし今ではこれらのパイプラインは北海の底で無用の長物と化した。米国内のロシア嫌いのタカ派は、短期ではロシアの経済的利益が損なわれるものの、プーチン(露大統領)は欧州諸国への天然ガスの流れを断ち、ウクライナの戦争支援を続けるなら痛みを与えることができると示そうと、この措置をとったのだと主張した。しかしこの説を支持する当局者やアナリストは、パイプラインのバルブを閉めれば同じ結果が得られるのに、なぜロシアが自国の貴重なインフラを破壊するのかを説明しなかった。さらに悪いことに、当局者らにそのような質問をしたジャーナリストはほとんどおらず、ましてや首尾一貫した答えを求めることはできなかった。

「誰が得をするのか」の問いを投げかければ、ロシアが容疑者から外れることはなかったかもしれないが、他の関係者がもっと上位に来るはずだ。例えば、欧州大陸への天然ガスの供給元として、他の候補が挙げられていた。英国やノルウェーなどのNATO加盟国や米国がそれに該当する。またウクライナは、ロシアとの極めて破壊的な戦争に巻き込まれていたため、動機としてはもっともな容疑者であった。敵対するロシアを経済的、外交的に弱体化させることは、明らかにウクライナの利益になる。しかしウクライナにはこのような高度な攻撃を実行する能力がない、というのが主な反論であった。

ジャーナリズムの調査から浮かび上がる第一容疑者は、米国だったろう。実際、米国が単独で、あるいは少数のNATO同盟国と共同で行ったとする証拠の量は相当なものであった。それにもかかわらずニュースメディアの大半は、この説をロシアのプロパガンダにすぎないと手厳しく断じた。FOXニュースの司会者タッカー・カールソン氏は、この説に異を唱え、適切な質問をした数少ない著名ジャーナリストである。

欧州諸国へのロシアのエネルギーパイプラインの存在に断固として反対する米国の態度は、40年以上も前にさかのぼる。ロナルド・レーガン政権は、西ドイツがパイプラインの建設を承認したことに猛反発した。欧州の非共産圏の大部分が、地政学的に敵対する国からのエネルギー供給に依存を高めることになると考えたからである。キャスパー・ワインバーガー、ジョージ・シュルツ両元国務長官はそれぞれの回顧録で、欧州の同盟国を説得して方向転換させることができなかったことへの政権の苛立ちを語っている。ワインバーガー氏は実際、欧州のソ連へのエネルギー依存をやめさせたいと狂信的なまでに考えていた。

米政府の不満は、時間の経過とともに解消されることはなかった。ドナルド・トランプ政権は、最新かつ最大の天然ガスパイプラインであるノルドストリーム2の完成を阻止しようとし、バイデン政権も当初はそうしていた。ノルドストリーム2はロシアとドイツを直接結び、バルト三国や東欧の忠実な米従属国を迂回するため、とくに好ましくないものと考えられていた。なかでもウクライナの収入に壊滅的な影響を与えるものだ。

米国の長年の政策が一貫してノルドストリーム・パイプラインを敵視していただけでなく、爆発に至るまでの数カ月、バイデン政権の言葉遣いは容赦なく威嚇的だった。ロシアが2022年2月にウクライナへの侵攻を開始する前から、バイデン大統領は米国がノルドストリーム2に「終止符を打つ」と平然と述べている。決定権はドイツにあるのに、どうしてそんなに自信があるのかと記者が詰め寄ると、バイデン氏は、米国はその目的を達成するという明白な「約束」で応えた。

米国の著名な報道機関の多くは、その後の破壊工作の第一容疑者はロシアであるという政府の立場を支持したが、欧州をはじめとする世界各国の報道機関は、より懐疑的な見方を示した。2023年2月、著名な調査ジャーナリストであるセイモア・ハーシュ氏が、ノルウェーと組んだ米国の犯行であることを示す長大な記事を発表すると、その警戒感はさらに強くなった。ホワイトハウスは、ハーシュ氏の記事はまったくの虚偽だとただちに非難し、米エリートマスコミの多くが、ハーシュ氏の暴露を驚くほど小さく報道し、敬意を払わなかったことが印象的である。

しかしハーシュの記事は、欧米の一般大衆に十分な共感を与えたようで、米国はその公式見解を変更した。ウォロディミル・ゼレンスキー政権とはまったく関係のない悪質なウクライナ人がパイプラインを破壊したという説を展開したのである。このような話は最初から信憑性に欠ける。NATOの複数の国の情報機関に傍受されることなく、少数のフリーランスのアマチュアが自家用ヨットでこのような高度な作戦を実行できたという考えは、ほとんどお笑いぐさとなった。

しかしエリートメディアの主要メンバーは、米政府の発表に従順だった。その多くは、事実と関係なくロシアを非難することに固執するタカ派であった。

ノルドストリーム破壊工作の報道は、数十年前から続く長いシリーズの一つのエピソードだった。そこでは独立したジャーナリストであるはずの人々が、米政府公認の物語を伝えるだけの存在であることに満足しているように見える。その特徴は、米政府によるバルカン半島での人道的十字軍、イスラム世界での政権交代戦争、ロシアに対し激化する挑発行為(NATOの拡張など)の報道で、あまりにも顕著だ。知的な調査や精査の欠如は、今や本当に不名誉な水準に達している。

Bombing Journalistic Integrity - The American Conservative [LINK]