2023-05-08

BRICS新通貨の未来と課題

金融アナリスト、ジョン・ウォルフェンバーガー
(2023年5月4日)

貨幣(お金)は、非効率な物々交換を解消するために、金や銀などの商品を自発的に交換することから始まった。
オーストリア経済学派の創始者であるカール・メンガーは、次のように説明している。

貨幣は政府の発明ではない。立法行為の産物でもない。政治的権威の承認さえも、その存在には必要ないのである。ある種の商品は、政府権力とは無関係な経済関係の結果として、ごく自然に貨幣となった。

しかし政府はすぐに、貨幣を支配することによって莫大な富と権力を得ることができると知った。ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスはその大著『ヒューマン・アクション』で、この支配がいかに人類の進歩を害したかを詳述し、こう述べた。「二百年の間、政府は、市場による貨幣としての媒介手段の選択に、干渉を加えてきた。最も頑固な国家主義者でさえ、この干渉が益をなしたという大胆な主張はしない」

(オーストリア経済学派の)マレー・ロスバードは『政府はわれわれの貨幣に何をしてきたか』で、さらに次のように詳しく述べている。

政府はお金に干渉することで、言い表せない暴政を世界にもたらしてきただけではない。混沌と無秩序をももたらしてきた。無数の制限、管理、人為的な相場、通貨の崩壊、等々によって貿易と投資を妨げ、平和で生産的な世界市場をばらばらにし、無数の断片に粉砕してきた。平和な交易の世界を、戦う通貨ブロックのジャングルに変えることによって、戦争をもたらす手助けをしてきた。要するに、他の事柄と同様に、貨幣においても、強制は秩序ではなく、対立と混沌をもたらすのである。

インフレからデフレへ、好景気から不景気へと、私たちは日々、この混沌を目の当たりにしている。なぜこのような状況になったのか、そして今後どのように変化していくのだろうか。

金から不換通貨へのお金の退化


第二次世界大戦前、英ポンドは世界の「準備通貨」であった。しかし戦後、米国は世界で最も強い経済力を持ち、最も多くの金準備高を有した。

1944年のブレトンウッズ会議で、米ドルは1オンス35ドルの金と結びつけられ、他のすべての通貨は米ドルに固定為替レートで結びつけられることになった。これにより、ドルは「世界準備通貨」となり、国際貿易の決済に使われる唯一の通貨となった。

1960年代から1970年代初めにかけて、米政府の放漫財政で外国政府が米国の金準備の引き出しに殺到した。これに対しニクソン米大統領は1971年、ドルと金の結びつきをなくした。それ以来、世界のどの通貨にも商品としての裏付けはない。このためインフレが進行し、生活水準が低下した。

1973年の第一次石油危機の後、米政府がサウジアラビアに軍事支援を行う代わりに、サウジは米ドルでのみ石油を販売することに同意した。この「ペトロダラー」協定により、ドルは過去50年間、世界の準備通貨として確固たる地位を築いてきた。

今、米ドルに対抗できるものは何だろうか。

BRICSの台頭


BRICSとは、新興国の中でもとくに大きな5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の頭文字をとったものだ。BRICS諸国は世界の人口の約42%、世界の国内総生産(GDP)の32%を占めている。一方、米国は世界人口の4%、世界GDPの16%を占めるにすぎない。

さらに、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、トルコ、タイ、インドネシアなど、将来BRICS連合への参加が噂される国もある。

BRICS諸国は、米ドルと米国の金融政策に従うことに疲弊している。とくに近年はその傾向が強い。(a)米国の通貨供給量が40%増加し、過去40年間で最も高いインフレ率(b)米連邦政府債務が増加して対GDP比率が120%と15年前の2倍、40年前の3倍になり、さらに社会保障や医療保険などの債務が200兆ドル超の積立不足(c)ロシア・ウクライナ戦争に関する制裁など米国の攻撃的な外交が顕著——などの理由による。

行動を起こすBRICS


ロシア・ウクライナ戦争と中国の経済成長継続により、BRICSは米国から権力を奪う計画を加速している。

これまでにBRICSは、インフラ融資のための新開発銀行(通称BRICS銀行)、外国為替圧力から守るための緊急時外貨準備金基金(CRA)、SWIFT(国際銀行間通信協会)に代わるBRICS決済システムなどの取り組みを始めている。

また国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)に対抗するため、BRICS諸国の通貨バスケットに基づくBRICS準備資産にも取り組んでいる。SDRは米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円、中国人民元のバスケットをベースにしている。SDRは正式には通貨ではないが、IMFが各国にSDRを買うように指示すれば、何もないところから作り出し、各国通貨と交換することができる。

世界の中央銀行は、すでに米ドルから中国元などへ分散を始めている。

ロシアのウクライナ侵攻後、米国はロシアをドル体制から追放した。しかしロシアは中国への最大の石油供給国であるため、ロシアと中国は米ドルではなく中国元で取引を開始した。

インドも最近、ロシアの石油のほとんどをドル以外の通貨で支払っている。ブラジルと中国は最近、将来の貿易をすべて自国通貨で行うことに合意した。フランスの石油会社トタルは最近、中国からの液化天然ガス(LNG)の購入を初めて人民元で完了した。

こうした努力の結果、世界の通貨準備高に占める米ドルの割合は、2001年の73%から現在は58%に低下している。

米ドル駆逐は容易ではない


BRICS諸国が、何もないところから作り出せる不換紙幣を唯一の手段とするのであれば、王者ドルに本気で挑戦することにはならない。

米国は最大かつ最も安全な国債市場を持ち、資本規制がなく、法の支配を実施するという評判がある。一方、BRICS諸国が法を尊重し、強い通貨を持つという話はほとんど聞かない。

さらに重要なことに、米国以外の国家は12兆ドルのドル建て債務を抱え、それをドルで返済する必要があるため、ドルを放棄することは非常に困難でコストがかかる。

商品に裏打ちされた国際通貨を


もちろん、BRICS諸国が戦争や福祉の支出を賄うために無からお金を作り続ければ、ブレトンウッズ体制が崩壊したように、ドルとの競争は最終的に失敗に終わるだろう。BRICSにより良いチャンスがあるとしたら、金や石油などの商品に裏打ちされたハードカレンシー(国際通貨)を作ったときだろう。

BRICS諸国の金準備は合計5352トンで、8133トンの米国に次ぐ第2位だ。中国は過去20年間で金準備を4倍に増やしている。

BRICS諸国は賢明にも、金担保通貨を模索中だ。例えばロシアは2022年3月、ルーブルを1グラム5000ルーブルで金とリンクさせ、輸出品の支払いをルーブルで求めると発表した。また最近、ロシアとイランがドルに対抗するために、金に裏打ちされた新しい暗号通貨「ステーブルコイン」の開発に取り組んでいると報じられた。

「自由市場」である米国が、ロシア、中国、イランのような国によって作られた、より自由市場的な通貨に負けたとしたら、なんとも皮肉な話だ。

米経済・政治への影響


もしBRICSが成功し、米国が強いドル、支出削減、戦争ではなく平和に力を入れる政策に変更しない場合、ドルは徐々に「準備通貨」の地位を失う可能性がある。そうなれば、第二次世界大戦後に衰退した英国と同じように、米国の生活水準は低下し、米政府の権力も低下する。歴史上、あらゆる帝国は衰退しており、米国も例外ではあるまい。それを左右するのは、BRICSがドルに対抗する国際通貨を成功させられるかどうかだ。

結 論


BRICSが無からお金を生み出す力を放棄し、金やその他の商品で100%裏付けされた通貨を作らない限り、新しい通貨はドルやその他の不換通貨と同じ問題を抱える可能性が高い。

結局のところ、お金が自由な市場に戻り、政府に操作されないようになるまでは、政府がお金に干渉するようになって以来、人類を苦しめてきた経済問題を経験し続けることになる。

Will a New BRICS Currency Change Anything? Maybe | Mises Wire [LINK]

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