2023-05-05

アサンジ氏訴追のダブルスタンダード

トーマス・ジェファーソン法科大学院名誉教授、マージョリー・コーン
(2023年4月30日)

2023年5月3日は、国連が各国政府に報道の自由を尊重する必要性を喚起するために制定した「世界報道自由デー」の30周年にあたる。しかしバイデン米政権が世界に報道の自由の重要性を宣言する一方で、ジャーナリストで出版者のジュリアン・アサンジ氏を追及するその偽善は驚くべきものだ。
バイデン政権は最近、ロシアが米紙ウォールストリート・ジャーナルのモスクワ駐在記者で米国籍のエバン・ゲルシコビッチ氏を、ジャーナリズムの実践を理由に逮捕したことに怒りを表明した。ゲルシコビッチ氏は現在、ロシアで20年の禁固刑に処される可能性のあるスパイ容疑をかけられ、投獄されている。裁判前の勾留解除を求める訴えは却下され、領事面会も拒否されたばかりだ。

一方、バイデン政権は、米国の戦争犯罪の証拠を入手し公表したとして、オーストラリア人であるアサンジ氏の身柄引き渡しを要求し続けている。

ゲルシコビッチ氏もアサンジ氏も、ジャーナリストの仕事をしたためにスパイ容疑で外国に拘束されたジャーナリストである。

アサンジ氏は、スパイ活動法により同氏を起訴しようとするドナルド・トランプ前大統領の試みをバイデン大統領の政権が続ける間、ロンドンの最高度に厳重な刑務所に4年間閉じ込められている。引き渡され、裁判を受け、有罪判決を受けた場合、175年の刑に処される可能性がある。アサンジ氏は、国家機密を暴露したとして、スパイ活動法の下で起訴された史上初の出版者である。同氏の上訴は英高等法院で係争中だ。

「ジャーナリズムは犯罪ではない」


ロシア連邦保安局(FSB)は3月30日、ゲルシコビッチ氏の拘束を発表した。同局によれば、「国家機密を構成するロシア軍産複合体の企業の一つの活動に関する情報を収集するために米国側からの指示で行動していた」という。

ゲルシコビッチ氏の拘束について、カリーヌ・ジャンピエール米大統領報道官は声明で「我々は深く懸念している」と述べ、「ロシア政府が米市民を標的にすることは容認できない。我々は最も強い言葉でゲルシコビッチ氏の拘束を非難する」とした。

バイデン大統領はホワイトハウス特派員晩餐会で、「ジャーナリズムは犯罪ではない」と宣言した。

同様に、米上院の民主党トップ、チャック・シューマー院内総務と共和党トップのミッチ・マコネル院内総務は珍しい共同声明で、ロシアにゲルシコビッチ氏をただちに解放するよう呼びかけた。「ジャーナリズムは犯罪ではない」と両議員は書いている。

「出版は犯罪ではない」


2022年11月28日、米ニューヨーク・タイムズ、英ガーディアン、スペインのエル・パイス、仏ルモンド、独シュピーゲルは、外交・軍事機密を公開したアサンジ氏に対するスパイ活動法の告訴を棄却するよう米政府に求める共同公開書簡に署名した。

「出版は犯罪ではない」とこれらメディアは書いている。「米政府は、機密を公開したジュリアン・アサンジ氏の訴追を終わらせるべきだ」

これら5つのメディアは2010年、アサンジ氏の(内部告発サイト)ウィキリークスと協力し、国際的な規模で汚職、外交スキャンダル、スパイ問題を公表した25万1000件の米国務省機密文書からなる「ケーブルゲート」を公表した。ニューヨーク・タイムズ紙によると、この文書は「政府がどのように最重要の決定、命と金で国に大きな犠牲を強いる決定を下すかについて、ありのままの話」を明らかにした。

アサンジ氏の起訴は、ウィキリークスが暴露した「イラク戦争記録」にも基づいている。これはイラク市民1万5000人の未報告の死と、米軍が「悪名高いイラクの拷問部隊に拘束者を引き渡した」後の組織的なレイプ、拷問、殺人を記録した40万件の現地報告書だった。また同氏の起訴は、米軍が報告していたよりも多くの民間人が連合軍によって犠牲にされていたという9万1000件の報告からなる「アフガン戦争日記」の公開にも起因している。

さらに、2007年の「巻き添え殺人」動画では、米軍のアパッチ攻撃ヘリコプターが、ロイター通信の報道スタッフ2人と負傷者の救助にあたった男性を含む非武装の民間人11人を標的にして殺害し、子供2人を負傷させる様子が描かれている。この動画には、ジュネーブ条約と米軍フィールドマニュアルの違反3件の証拠が含まれている。

米下院議員ら、アサンジ氏告訴の撤回求める


アサンジ氏の逮捕から4年目を迎え、米民主党のラシダ・トライブ(ミシガン州)、ジャマール・ボウマン(ニューヨーク州)、コリ・ブッシュ(ミズーリ州)、グレッグ・カサール(テキサス州)、アレクサンドリア・オカシオコルテス(ニューヨーク州)、イラン・オマル(ミネソタ州)、アイアンナ・プレスリー(マサチューセッツ州)の各下院議員はメリック・ガーランド司法長官に書簡を送付した。議員らは、アサンジ氏に対する告訴を撤回し、英国への引き渡し要求を取り下げることで、報道の自由を保護する憲法修正第1条を確認するよう司法省に要請した。

「報道の自由、市民的自由、人権の各団体は、アサンジ氏に対する告発が、憲法上保護された日常のジャーナリズム活動に対する重大かつ前例のない脅威であり、有罪判決が下されれば、憲法修正第1条の歴史を汚す後退になると強調してきた」と7人の議員は書いている。

議員らは、(人権団体の)米自由人権協会、アムネスティ・インターナショナル、国境なき記者団、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、権利異論保護協会、ジャーナリスト保護委員会が署名した書簡を引用し、「アサンジ氏の起訴は報道の自由を脅かす。なぜなら起訴状で述べられている行為の多くはジャーナリストが日々行っている行為であり、国民の求める仕事をするために必要な行為だからだ」と書いている。

その行為には、情報源と定期的に話すこと、説明や追加文書を要求すること、政府が秘密とみなす文書を受け取って公開することなどが含まれる。「(アサンジ氏起訴という)今回の前例によって、こうしたジャーナリズムの一般的実践が事実上、犯罪化される恐れがある」と人権団体は指摘している。

議員らの書簡は、オーストラリアのアルバネーゼ首相、メキシコのロペスオブラドール大統領、ブラジルのルラ大統領、アルゼンチンのフェルナンデス大統領ら世界の指導者がアサンジ氏の訴追に反対していること、拷問に関する国連特別報告者を務めたニルス・メルツァー氏や欧州評議会の人権委員ドニャ・ミハトヴィッチ氏が、この訴追に反対していることを紹介した。また英国、オーストラリア、ドイツ、ブラジルの議員からの同様の書簡にも言及した。

バイデン政権は、ロシアによるゲルシコビッチ氏逮捕に異議を唱える資格はない。国境なき記者団の運営・運動担当理事であるレベッカ・ビンセント氏は「アサンジ氏に対する裁判が続く限り、米政府にとってトゲとなり、世界でメディアの自由を守る米国の努力を損なうことになる」と述べる。

世界報道自由デーである5月3日には、アサンジ氏に対する告訴の撤回と米国の引き渡し要請取り下げを求めるいくつかの行事が各地で予定されている。

Biden Hypocritically Slams Arrest of US Journalist in Russia But Pursues Assange - Truthout [LINK]

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