2022-06-30

国連は貧困を減らす真の方法をなぜ言わないのか?

ケイトー研究所政策アナリスト、チェルシー・フォレット
(2017年10月27日)

国連によれば、1999年に17億人だった貧困人口は2013年には7億6700万人に減少し、世界の貧困率は1999年の28%から2013年には11%に低下した。最も大きな進展が見られたのは東・南東アジアで、1999年の35%から2013年には3%に低下した。

残念ながら、国連はその進歩の源を誤解しているようだ。貧困が著しく減少したのは、政府の行動とトップダウンの技術者主導のプログラムのおかげだと主張している。例えばタンザニア政府は、食糧貧困ライン以下で暮らす人々に手を差し伸べるため、現行の国家プログラムである社会安全網の大規模な見直しに着手したという。

タンザニアは貧困減少で目覚しい前進を遂げたが、それは貧困層向けに政府食糧に対するの支出が増えたからではない。実際、タンザニア政府は現在、過去に比べて再分配をはるかに減らしている。過去の再分配政策が、最貧困層のタンザニア人に飢餓に近い状態をもたらしたのである。

世界銀行によると、2011年にタンザニアで極度の貧困状態にある国民は半分弱に減った。2000年には86%だった。

その真の原因は、経済的自由である。タンザニアは独裁者ニエレレが1985年に退陣して以来、社会主義の「ウジャマー(友愛)」経済政策を徐々に解体してきた。ニエレレは社会主義に対する真摯な信念、比較的少ない汚職、他の多くの独裁者と違い自国民を意図して虐殺しないことなどから、先進国の左派知識人から広く賞賛されていた。

ニエレレは1980年代までに、厳しい食糧不足、農業・工業生産の崩壊、交通インフラの悪化、経済危機をもたらすような政策を打ち出した。また自らの権威を固め、甚大な損害をもたらす政策に関する議論を防ぐために、反対政党を禁止した。

ニエレレ後のタンザニアは、物価統制の撤廃、貿易の自由化、民間企業への参入の自由化によって、経済成長率を加速させることに成功した。

ニエレレが悲惨な計画にもかかわらず、これほど長く権力を維持できたのは、何十億ドルもの支援金のおかげである。世界銀行は良心も常識もなく、ニエレレの残忍なウジャマー計画を直接支援した。

政府による援助は市場主導の開発に比べて効果がないだけでなく、しばしば貧困層の財産権や制度改革の必要性を無視する。援助資金を受けた独裁者の例としては、ウガンダのアミン、エチオピアのメンギスツ、ザイール(現コンゴ民主共和国)のモブツ、さらには悪名高いカンボジアの残忍なポル・ポトらがいる。

支援金はしばしば独裁政権を支え、独裁政権は国有化によって国民の農地を奪うといった有害な政策を追求する。タンザニアがそうだった。何十億ドルもの海外援助を受けながら、社会主義政府は何百もの農場を国有化し、農業生産を減らし、大規模な食糧不足を招いたのだった。

貿易障壁の縮小は、政府プログラムの設計を助ける技術官僚や支援金を送るよりも、貧しい人々の生活の質を高めるうえではるかに効果的だ。貧困撲滅に真剣に取り組むなら、各国は経済的自由を追求する政策をとるべきだ。なぜなら貧困と戦うのは究極的には国ではなく、過剰な規制から解放され、国際貿易に参加できる個人だからだ。

(次より抄訳)
Why Won't the UN Say What Really Reduces Poverty? - HumanProgress [LINK]

2022-06-29

経済計算

経済学者、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス
(1944年)

資本主義がなぜ優れているかといえば、新しい事業を計画したり、すでに稼動している工場、農場、作業場が有用かどうかを評価したりする際に、計算が可能な唯一の制度だからだ。社会主義や中央計画がなぜ非現実的かといえば、生産手段(原材料、土地、建物、道具、機械など)が私的に所有されず、その結果、生産手段に市場価格が存在しないため、いかなる種類の経済計算も不可能だからだ。

物質的な生産要素には無数の種類があり、それぞれの種類の中でも、物理的な性質と利用可能な場所の双方において互いに異なる。何百万人もの労働者は、働く能力に関して大きく異なる。科学技術は天然資源、資本財、労働力を消費財の生産に利用すれば何が達成されるか、無数の可能性に関する情報を提供してくれる。

これらの手順や計画のうち、どれが最も有利なのだろうか。どれが最も緊急なニーズの充足に貢献する可能性が高く、実行に移すべきだろうか。その実行によって他のプロジェクトから生産要素を流用することになるが、どれを延期・中止すべきだろうか。

技術者は、何がどのようにできるかを示してくれる。しかし、あるプロジェクトの実現が物質的な幸福を本当に増大させるかどうか、希少な生産要素を他のラインから引き抜くことによって、消費者がより緊急だと考えるニーズを満たせなくならないかどうかを判断することはできない。経済計画の指針は、市場価格である。あるプロジェクトの実行がコスト以上のものを生み出すかどうかは、市場価格だけが答えることができる。

自由企業と生産手段の私的所有に基づいて組織された市場社会では、消費財の価格は、その生産に必要な諸要素の価格に忠実かつ密接に反映される。こうして、考えうる無数の生産過程のうち、どれがより有利で、どれが不利かを、正確な計算によって発見することが可能になる。企業は経済計算によって、消費者の需要に生産を合わせることが可能になる。

他方、どのような社会主義のもとでも、生産管理の中央委員会は、経済計算を行うことはできないだろう。市場が存在せず、その結果、生産要素に市場価格が存在しないところでは、それらは計算の要素になりえない。

社会主義の下では、利益も損失もはっきりしない。計算がないところでは、計画され実施された事業が、最も緊急の必要を満たすのに最も適したものであったかどうかという問題に対する答えを得る手段がなく、成功も失敗も闇の中で認識されないままとなる。

社会主義の支持者は、損益がはっきりしないことを優れた点だと考えているが、それは大きな誤りである。それどころか、それはあらゆる社会主義的経営の本質的な悪弊である。自分のしていることが、求めている目的を達成するための適切な手段であるかどうか、無知であることは利点ではない。社会主義的経営は、目隠しされて一生を過ごすことを強いられるようなものだ。

(次より抄訳)
Economic Calculation | Mises Wire [LINK]

2022-06-28

グレート・リセットとは何か? 望み薄い経済とバイオテクノ封建制

元ニューヨーク大学教授、マイケル・レクテンワルド
(2020年12月16日)

世界経済フォーラム(WEF)の創設者兼会長クラウス・シュワブ氏は著書『グレート・リセット』で、コロナ危機は「経済をより公平で環境にやさしい形に生まれ変わらせる制度の変更や、その方向に向かって加速できるようにする政策を選択するチャンス」としてとらえるべきだと書いている。同氏は長年にわたりグレート・リセットを推進してきたが、コロナ危機はついにそれを実現する口実になったのである。シュワブ氏によれば、アフターコロナの世界システムが以前のような運営形態に戻ると期待すべきではない。むしろ新しい常態を生み出すために、連動・相互依存する領域で変化が起こるだろう、あるいは起こるべきだと示唆する。

グレート・リセットとは、所得と炭素使用量の削減を意味する。しかしシュワブ氏やWEFは、経済、金融、技術、医療、ゲノム、環境、軍事、統治制度の融合という観点からも、グレート・リセットを定義している。同氏によれば、グレート・リセットはこれら各領域における大きな変革を伴うものであり、それは我々の世界を変えるだけでなく、「人間であることの意味を問い直す」きっかけになるものである。

グレート・リセットは、経済・金融政策面では、富の集約とユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)の導入、デジタル通貨への移行、銀行業と銀行口座の一元化、即時リアルタイム課税、マイナス金利、支出・債務の集中監視・統制などが想定される。

グレート・リセットは、必然性を口実とした組織的なプロパガンダキャンペーンにすぎない。企業の「ステークホルダー」と政府に世界経済フォーラムの望みを採用させるようとする陰謀の試み、あるいは社会経済計画者の「希望的観測」である。

世界経済フォーラムは政策パッケージを売り込むために、「経済の平等」「公正」「包摂」「運命の共有」といった焼き直しのレトリックを動員している。こうしたフレーズは全体として、企業社会主義という構想の集団主義的、社会主義的な政治・思想的要素を表している(経済的社会主義は決して実現できないので、それはつねに政治的、思想的なものでしかない)。

世界経済フォーラムが想定するのは、社会経済計画者と企業の「ステークホルダー」が舵を取り、人類の大部分がその言いなりになる、バイオテクノロジー封建制の世界秩序だと言えば十分だろう。計画者たちは、人類の大部分は完全に抹殺されないまでも、個人の自律が大幅に抑制され、望みの乏しい経済停滞の下で暮らすことになると考えているのだろう。このような計画者は独裁主義者であり、個人の計画を自分たちの中央集権的な計画に取って代えようと考えている。このような計画は、実行すれば破綻するだろうが、それでもその採用には代償が必要だろう。

(次より抄訳)
What Is the Great Reset? Part I: Reduced Expectations and Bio-techno-feudalism | Mises Wire [LINK]

2022-06-27

ジューンティーンスと世俗的休日は体制の道具

ミーゼス研究所、ゾー・ビショップ
(2022年6月20日)

昨年、米議会は6月16日を連邦の祝日と公式に宣言した。評論家は、「ジューンティーンス」が長い間祝われてきた米国の休日だと人々を必死に説得しようとしたが、実際には、議会の行動の前には全国でほとんど知られていなかった。政府は世俗的な休日を武器にして、より大きな文化的行動計画を進めようとする。
奴隷制という恐ろしい組織暴力の終焉は、たしかに人間の自由にとって大きな勝利であり、祝賀と称賛の瞬間だ。 このため、ランド・ポール上院議員を含む多くのリバタリアン志向の政治家は、トランプ政権を引き継いだバイデン政権による祝日実施を支持した。しかしそれは罠であり、連邦政府に米国の物語、ひいては国の文化を都合よく作り上げる機会を与えてしまう。

政府が社会統制を目的に祝日を武器にするのは、目新しいことではない。古代ローマの勝利とは、ローマ軍の勝利を祝う壮大な宗教と国家の儀式だった。共和政ローマでは、元老院だけが勝利を承認でき、派閥政治の道具とした。ジュリアス・シーザーは有名な公の祝賀会を利用し、ローマの平民の間で支持の基盤を築いた。

大革命時代のフランスでは、ジャコバン派が新しい合理主義の教義に従って暦を完全に書き直した。カトリック教会への忠誠を保つのに役立つ道具だった伝統的な宗教上の祝日の代わりに、「理性の祭典」と「最高存在の祭典」を称える新しい無神論的祝典を推進した。

世俗的な休日は、米国でも政治的道具として利用されてきた長い歴史がある。憲法記念日は、建国時に最大の勝利を収めたフェデラリスト党を公に祝うものだった。ホワイトハウスが7月4日(独立記念日)を最初に祝ったのは、1800年にトーマス・ジェファーソン大統領が選出されてからだ。1939年、フランクリン・ルーズベルト大統領は、連邦政府が認めた感謝祭の日付を、消費者支出を増やす狙いで変更し、1941年にようやく実施された。

皮肉なことに、ジューンティーンスに最も似た起源を持つ祝日は、現代の左翼から攻撃される「コロンブス・デー」である。ハリソン大統領は1892年、ニューオーリンズ(ルイジアナ州)で起こったイタリア系住民の暴動に対応し、コロンブスの航海四百周年を祝う全国的な祝日を宣言した。

政治の道具としての祝日は長い歴史があり、中央集権的な権力への忠誠を強化する目的で、宗教的・地域的な文化のつながりを弱めるため、体制によってしばしば利用される。ジョージ・ワシントン、リンカーン、マーティン・ルーサー・キングといった個々の人物を祝う国民の祝日は、(カトリック教会の)列聖の世俗版とみなすことができる。

ジューンティーンスは、特定の文化的行動計画を促進するため、帝国の都市(首都ワシントン)から国民に命令で押しつけられた祝日の例だ。国民の考えが劇的に変われば、奴隷廃止と自由の祝典に戻せるだろう。(しかし)短期では、「ブラック・ライブズ・マター」運動の思想目的や「聖ジョージ・フロイド(白人警官に殺害された黒人男性。キリストに模した絵画が描かれた)」の祝祭とはるかに似たものとなるだろう。

(次より抄訳)
Juneteenth and Secular Holidays as Tool of the Regime | Mises Wire [LINK]

2022-06-26

#21 自由な社会のしなやかなセーフティーネット(最終回)


政府の介入しない完全に自由な資本主義になったら、社会にセーフティーネット(安全網)を整備できないと心配する声があります。それは杞憂です。セーフティーネットは政府に頼らず民間で築くことができるし、むしろそのほうが真の安心・安全をもたらします。

<参考資料>

2022-06-25

経済回廊をめぐる戦争——サンクトペテルブルク国際経済フォーラムで議論

ジャーナリスト、ペペ・エスコバル 
(2022年6月22日)

サンクトペテルブルク国際経済フォーラムはここ数年、ユーラシア統合の進化するダイナミクスと試行錯誤を理解するうえで、絶対不可欠なものとして設定されてきた。

西側の制裁を受けたロシア貯蓄銀行(スベルバンク)のグレフ最高経営責任者が司会を務める討論で、ロシア経済界の最高の人々である聴衆に質問が投げかけられた。「東方との貿易拡大か、ロシア経済の構造転換か。どちらを勧めますか」。なんと72%が後者に投票した。

サンクトペテルブルク・フォーラムの数日前に起こった出来事を見ると、二つのテーマが互いに影響し合っていることがわかる。

ロシア北西部からカスピ海、イランを経由してペルシャ湾に至る国際北南輸送回廊(INSTC)の重要なノード(結節点)が完成したのである。サンクトペテルブルグからインドの港までの輸送日数は25日間。

このマルチモーダル(複数手段)輸送による物流回廊は、スエズ運河を経由するアジアから欧州への通常の貨物輸送路に代わる重要なルートを開く。BRICsの2カ国(ロシアとインド)と「新G8」のメンバー候補にとって、大きな地政学的意義を持つ。

INSTC回廊は典型的な南南統合プロジェクトである。船、鉄道、道路からなる全長7200キロの複合輸送ネットワークで、インド、アフガニスタン、中央アジア、イラン、アゼルバイジャン、ロシアを結び、バルト海のフィンランドまで続く。

例えば、サンクトペテルブルクからアストラハン(ロシア南部の都市)まで、陸路でコンテナを運ぶとする。その後、カスピ海を経由してイランのバンダレアンザリー港に入港。陸路でバンダレアッバース港へ。そしてインド最大の港であるナバシェバまで海外輸送を行う。運営主体はロシアとインドに支社を持つイラン・イスラム共和国船舶会社(IRISLグループ)である。

これからの戦争は、領土ではなく、輸送回廊をめぐって争われるようになる。

中国が急ピッチで進める一帯一路(BRI)は、米欧の「ルールに基づく国際秩序」を脅かす構想とみなされている。ユーラシア大陸を横断する6つの陸上回廊と、南シナ海、インド洋から欧州に至る海上シルクロードに沿って展開している。

北大西洋条約機構(NATO)のウクライナ代理戦争の重要な目標の一つは、ロシアを横断するBRI回廊を中断させることだ。(アメリカ)帝国は、BRIだけでなく、INSTCのノードも妨害するために全力を尽くすだろう。米国の占領下にあったアフガニスタンは、BRIでもINSTCでもノードになることを阻まれた。

アゾフ海やおそらく黒海沿岸全域への完全アクセスが可能になれば、ロシアは海上貿易の展望を大きく広げることになる。

過去20年間、エネルギー回廊は激しく政治化された。BTC(バクー・トビリシ・ジェイハン)パイプラインやサウスストリーム、ノルドストリーム1、2、トルクメニスタン・アフガニスタン・パキスタン・インド(TAPI)やイラン・パキスタン・インド(IPI)のガスパイプラインに至るまで、容赦ない世界のパイプライン競争の中心である。

ロシアの海岸線に沿ってバレンツ海まで続く北極海航路もある。中国とインドが同航路を重視するのは偶然ではなく、サンクトペテルブルク・フォーラムでも詳しく議論された。

軍事・エネルギー大国としてのロシアは今や、ほとんど気づかないうちに、西側先進国の大部分を石器時代に追いやることができる可能性があることを示している。西側のエリートたちは、ただただ無力である。ユーラシア大陸で高速鉄道の回廊に乗ることができれば、何かわかるかもしれない。

(次より抄訳)
St. Petersburg Sets the Stage for the War of Economic Corridors - LewRockwell LewRockwell.com [LINK]

SFの惑星へようこそ——オーウェルの「二重思考」はいかにして世界の常識になったのか?

言語学者、ノーム・チョムスキー
(2022年6月17日)

2014年以降、米国と北大西洋条約機構(NATO)はウクライナに武器を注ぎ込み始めた——先端兵器、軍事訓練、合同軍事演習、ウクライナをNATO軍司令部に統合する動きなどだ。これは秘密ではない。かなりオープンだった。最近、NATOのストルテンベルグ事務総長はこのことを自慢げに語った。2014年から行っていたことだ、と。もちろん、これはきわめて意識的で、きわめて挑発的だ。
2019年、ウォロディミル・ゼレンスキーは、東ウクライナとロシアの和平実現を公約に掲げ、圧倒的多数で(ウクライナ大統領に)当選した。彼はそれを前に進め始め、実際、ロシア寄りの東部地域ドンバスに行き、「ミンスク2」合意を実施しようとした。ドンバスがある程度の自治権を持つウクライナの連邦化のようなもので、スイスやベルギーに似ている。ゼレンスキーは右翼の民兵に妨害され、もしこの努力を続けるなら殺すと脅された。

まあ、ゼレンスキーは勇気のある男だ。もし米国の後ろ盾があれば、前進できたかもしれない。米国は拒否した。ゼレンスキーは手を引かざるをえなかった。米国は、ウクライナをNATOの軍事司令部に組み入れる政策に熱心だった。それはバイデン大統領が誕生してさらに加速した。2021年9月、NATO加盟準備「強化プログラム」の一環として、軍事訓練、軍事演習、武器増強を加速させる計画、共同声明を発表した。

(2022年)2月24日、プーチン(露大統領)は犯罪的な侵略を行った。こうした深刻な挑発は正当化できない。もしプーチンが政治家であったなら、まったく違うことをしただろう。フランスのマクロン大統領のもとに戻り、マクロンの暫定提案を把握し、欧州との融和を図り、欧州共通の家に向けた一歩を踏み出すために動いただろう。

もちろん米国はずっとそれ(ロシアと欧州の融和)に反対してきた。プーチンの手近に政治家がいれば、マクロンの構想を把握し、実際に欧州と統合して危機を回避できるかどうか、実験していたはずだ。プーチンが選んだのはそうではなく、ロシアから見れば、まったく愚かな政策だった。侵略の犯罪性は別として、プーチンは欧州を米国の懐に深く追いやるような政策を選択した。実際、スウェーデンとフィンランドをNATOに加盟させるという、ロシアから見れば最悪の結果を招いている。

ロシア側の犯罪性と愚かさ、米国側の厳しい挑発。そうした背景がウクライナ戦争をもたらした。この惨状に終止符を打つのか、それとも永続させるのか。それが選択肢だ。

戦争を終わらせる方法は一つしかない。外交だ。プーチンにある種の逃げ道を提供することになる。もう一つは、ただ引き延ばし、どれだけ誰もが苦しむか、どれだけウクライナ人が死ぬか、どれだけロシアが苦しむか、どれだけアジアやアフリカで餓死者が出るか、どれだけ環境を悪化させ、人間が生きていける可能性のないところまで進めるか、ということだ。米国と欧州の大半はほぼ100%の一致で、外交はしないという選択肢を選ぶだろう。前進を続け、ロシアを傷つけなければならないというわけだ。

西側全体と同様、スウェーデンの指導者たちは、二つの矛盾した考えを持っている。一方で、ロシアは張子の虎で、大半が市民の(スウェーデン)軍に守られた国境から数マイルの都市すら征服できないのは明らかだと笑う。つまりロシアは軍事的に完全に無能だという。他方で、ロシアは西側諸国を征服し、破壊する態勢を整えているという。

作家ジョージ・オーウェルはそのような考えを「二重思考」と呼んだ。心の中に二つの矛盾する考えを持ち、その両方を信じる能力だ。オーウェルはそれを、『1984年』で風刺した超全体主義国家しか持ちえないものだと勘違いしていた。彼は間違っていた。自由な民主主義社会でもそれは可能なのだ。私たちは今、その劇的な例を見ている。

(次より抄訳)
Welcome to a Science-Fiction Planet - Antiwar.com Original [LINK]

2022-06-24

アサンジは米国防総省とCIAを裁判にかけよ

作家、ジェイコブ・ホーンバーガー
(2022年6月20日)

先日、英国のプリティ・パテル内務相が(ウィキリークス創始者)ジュリアン・アサンジの米国への引き渡しを承認したことで、アサンジがまもなく米国で裁判にかけられることが事実上確実となった。 
この機会に、ペンタゴン(米国防総省)とCIA(米中央情報局)を裁判にかけることを期待しよう。裁判長に任命された連邦判事が、それを許さないために最善を尽くすだろうことはわかっている。しかし、ちょっとした市民的不服従の何がいけないのだろう。有罪という結果があらかじめ決まっている、不正ないかさま裁判になることは必至なのだから。

忘れてはならないのは、結局のところ、アサンジが犯罪者ではないということだ。彼はウィキリークスという組織を通じて、犯罪行為を世界に公表した人物である。その犯罪行為は、米連邦政府の行政府と立法府の支援を受けている国防総省とCIAによって行われたものだ。

公正な社会であれば、犯罪行為を暴露した者は英雄として迎えられ、犯罪行為に関与した者は刑務所に入ることになるだろう。しかし、国家安全保障国家という奇怪な世界では、正反対だ。犯罪者が告発し、投獄する。一方で犯罪行為に反対する者は罰せられ、拷問され、監獄に入れられる。

アサンジの弁護士が裁判中にできる大きなことのひとつは、ウィキリークスが公開した米国人職員が関与したあらゆる暗黒面の行動に加え、ウィキリークスが公開していないものをあらためて公表し、強調することだ。そうすれば、いかさま裁判の結果が変わるとは限らないが、少なくとも、なぜ米当局がアサンジを追いかけているのかを世界に示すことができるだろう。

当時の極端な反ロシア感情の一環として、「神なき共産主義」とソ連との冷戦を戦うために、アメリカ政府が建国の構造である限定政府共和国から国家安全保障国家に転換されたとき、国家安全保障体制とアメリカ国民の間で暗黙の交渉が交わされたのです。ペンタゴン、CIA、NSAは全体主義的な暗黒権力に関与する権限を与えられるが、人々の良心に迷惑がかからないように、その不愉快な行動をアメリカ国民に秘密にする。

米政府が建国時に築いた小さな政府の共和国から安全保障国家に転換し、極端な反ロシア感情の一環として「神なき共産主義」とソ連に対する冷戦を戦った際、安全保障支配層は米国民の間に暗黙の取引を交わした。ペンタゴン、CIA、国家安全保障局(NSA)は全体主義的な暗黒権力に関わる権限を与えられるが、その不愉快な行動を秘密にし、国民の良心をわずらわせないようにした。

アサンジは、そうした暗黒面の行為のいくつかを世界に公開することで、その協定を妨害したのだ。それに関しては、エドワード・スノーデンも同じだ。そのために、彼ら二人は罰せられる必要があった。そして世間の人々に、こうメッセージを送ったのだ。もし我々の暗黒面の犯罪行為を世界に公表したらこうなるのだ、と。

オーストラリア国籍のアサンジが、米政府の犯罪行為を公開した罪で強制的に米国に連行され、裁判を受けることになったら、見世物の裁判を覚悟しておくことだ。わずかでも正義らしいものは期待できない。

(次より抄訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Assange Should Put the Pentagon and the CIA on Trial [LINK]

2022-06-23

恐ろしい「公式の敵」はきりがない

作家、ジェイコブ・ホーンバーガー
(2022年6月17日)

安全保障国家の政府には、大きな公式の敵が必要だ。恐ろしい敵は、安全保障国家という形態の政府の存在だけでなく、そのための予算が増え続け、貪欲な「防衛」請負業者の軍隊を支え続けるよう、国民を仕向ける。 


それが今のロシア騒動のすべてである。冷戦時代の再現なのだ。当時米国人は、(ソ連の)赤軍が自分たちを捕まえに来て、連邦政府と公立学校を乗っ取り、共産主義と社会主義を愛するように皆を洗脳すると信じ込まされた。

米国の保守派は、自分たちの立場の矛盾に気づくことができなかった。一方で、社会主義は本質的に欠陥のある制度であり、失敗する運命にあると主張した。他方で、米国と世界は、モスクワに本拠を置くという国際共産主義者・社会主義者による世界征服の陰謀に陥る重大な危険にさらされていると主張していたのである。

実は、ソ連や中国が米国に侵攻して乗っ取るという危険は、まったくなかったのである。それはいつも、米国人を恐れさせ、安全保障支配層とその貪欲な「防衛」請負業者を権力と富の座にとどめるために作られた、大げさな脅威だった。

冷戦が突然終わったとき、米国防総省、中央情報局(CIA)、国家安全保障局(NSA) はパニックに陥った。一番望まないことだったからだ。彼らは冷戦が必要だったのだ。それ以外に、どうやって米国人を怖がらせておくというのだろう。もし米国人が、建国時の政府体制である制限された共和制の復活を要求し始めたらどうなるか。そのためには、国家安全保障型の政府機構の解体が必要になる。

安全保障支配層は、かつてのパートナーであり同盟者だったイラクの独裁者サダム・フセインに目をつけた。1990年代を通じ、サダムは新たな公式の敵になった。明けても暮れても、「サダム! サダム! サダム! サダムは新しいヒトラーだ! 大量破壊兵器をもって我々を捕まえに来る!」。そして大多数の米国人は、それがどんなに馬鹿げていても、新しい公式の脅し文句を鵜呑みにした。

安全保障支配層は対テロ戦争と対イスラム戦争のさなかも、中国とロシアを大きくて恐ろしい公式の敵として復活させることを決して諦めなかった。それが今も続いている。ペンタゴン、CIA、NSAは、とくにペンタゴンとCIAがアフガニスタンで人々を殺さなくなった今、米国人がテロリストとイスラム教徒に対する恐怖心を失っていることを知っている。

国防総省、CIA、NSAはこれからどうするのだろう。間違いなく、米国人がロシアと中国共産党に対する深い恐怖の中で生きるよう教え込み続けるだろう。北朝鮮はいつも公式の敵として待機しているのだから、また危機を煽っても驚くことはない。もちろんイランやキューバ、ベネズエラ、ニカラグアもある。もしかしたら(共産主義の)ベトナムもあるかもしれない。米当局はイラクやその他の中東、アフリカでまだ人々を殺しているから、テロとイスラムに対する世界戦争を再燃させるようなテロリストの反撃の可能性もつねにある。

米国人は、数十年来の不正と腐敗にまみれた国家安全保障機構によって植え付けられた、公式の敵に対する恐怖を克服する必要がある。そうすれば、米国は建国時の政府体制である制限された共和制を回復し、自由、平和、繁栄、世界の人々との調和への道を取り戻すことができるだろう。

(次より抄訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : An Endless Stream of Scary Official Enemies [LINK]

2022-06-22

嘘が戻ってくるとき

元米陸軍大佐、ダグラス・マクレガー
(2022年6月17日)

ウクライナ戦争の起源と遂行について、米国民に何カ月も大嘘をついてきたメディアは、今や米英など西側諸国の国民にウクライナの軍事的崩壊を覚悟させようとしている。

西側メディアは、ウクライナの防衛が実際よりもはるかに強力であるかのように見せるために、あらゆる手段を講じてきた。注意深く観察すれば、ロシア軍の戦車が攻撃を受けている同じビデオクリップが繰り返し流されていた。現地での反撃は、あたかも作戦行動であるかのように報道された。

ロシアのミスは誇張された。両軍の損失の程度は歪曲・捏造され、あるいは単に無視された。だが戦況は時間とともにほとんど変化しなかった。ウクライナ軍が市街地や(東部)ドンバス地方中心部の動きのない防衛拠点に釘づけにされると、ウクライナの立場は絶望的となった。しかし、この展開はロシア側が「目的」を達成できなかったものとして描かれた。

防衛陣地で動けない地上戦部隊は、遠距離から識別され、狙いをつけられ、破壊される。上空からの情報・監視・偵察装置が、正確な照準データに基づく精密誘導攻撃兵器や最新砲兵システムと連携すれば、「地上待機」はあらゆる地上軍にとって致命的である。ウクライナではなおさらだ。ロシアが最初の行動から、都市の占領やドニエプル川以西のウクライナ領土の獲得ではなく、ウクライナ軍の破壊に重点を置いていることは明らかだからである。

ウクライナはロシアとの戦争に敗北した。ウクライナ軍は失血死しつつある。訓練された代替要員は戦闘に影響を与えるほどの数は存在せず、状況は刻々と絶望的になっている。米国と北大西洋条約機構(NATO)の地上軍による直接的な軍事介入をしない限り、米国と同盟国の軍事援助や支援をいくら受けても、この厳しい現実を変えることはできない。

今の問題は、ロシアがすでに支配している東ウクライナの領土と住民をロシアに譲り渡すかどうかではない。ドンバス地方とともに(南部)ヘルソン地方とザポロジエ地方の将来は決まっている。またロシアは、歴史的・言語的に関係の深いハルキウ、オデッサの両都市と、それらに隣接する領土を確保する可能性が高い。これらの作戦で、紛争は夏まで拡大するだろう。問題はこの戦闘をどう止めるかである。

欧州の人々は、経済不況の深淵をすでにのぞいている。バイデン(米大統領)の思いつきの政策の結果に対処しなければならない米国人とは異なり、欧州各国はバイデンのウクライナに対する永久戦争計画から手を引くことができる。

米国の平均家庭で昨年と同じ商品やサービスを今年も購入するために、インフレで毎月460ドルの追加コストがかかるとすれば、ウクライナが米国の有権者の関心を引くことなく、タイタニック号のように静かに波の下に沈んでいく可能性は十分にある。経験豊富な政治家たちは、米国人の海外問題への関心が非常に低いことを知っているので、ウクライナの敗北を認めても、おそらく目先の影響はほとんどないだろう。

11月になると、米国民は(中間選挙の)投票に行く。この選挙は、米国の選挙手続きの健全性を試す以上の意味を持つ。バイデンは1932年のハーバート・フーバー(大統領、共和党)のように、軌道修正することを拒否し、その頑固さを記憶されることになりそうだ。

(次より抄訳)
When the Lies Come Home - The American Conservative [LINK]

2022-06-21

英がアサンジ引き渡し決定、自由に関する米英の説教は茶番

ジャーナリスト、グレン・グリーンウォルド
(2022年6月18日)

ウィキリークス創始者ジュリアン・アサンジに対する11年にわたる迫害は、金曜日(6月18日)の朝、延長され、激化した。英内務相プリティ・パテルは、2010年にウィキリークスが公開した、米英当局と中東の独裁的な同盟国による広範な汚職、欺瞞、戦争犯罪を示す数千の文書に関連し、1917年のスパイ活動法およびその他の法律に基づく18の重罪で裁判を受けさせるためにアサンジを米バージニア州に送るという米国の引渡要求を承認した。

この決定は意外ではない。米英が自分たちの犯罪を暴露したジャーナリズムに対する罰として、アサンジを潰そうと決意していることは何年も前から明らかである。それでも、自由、民主主義、報道の自由についての米英の説教がまったく見せかけであることをさらに浮き彫りにした。このような自己美化のパフォーマンスは、米英による他国への干渉や攻撃を正当化し、国民に自分たちの政府のあり方に優越感を抱かせるために、つねに展開されている。結局のところ、もし米英が自由を支持し、専制政治に反対するならば、誰がそのような高尚な目標と高貴な価値を推進するという名目の戦争と介入に反対できよう。

アサンジをどう評価するかにかかわらず、彼が現代において最も影響力があり、先駆的で、優れたジャーナリストの一人であることに疑いの余地はないだろう。彼が一人でトップの座を占めていることは容易に想像がつく。なぜなら、言論の自由と同様に、米国と英国における「報道の自由」の保証は、紙切れと理屈の上だけに存在するからだ。市民が「ジャーナリズム」を自由に行うためには、現実の権力中枢を乱したり、怒らせたり、妨げたりしてはならない。ワシントン・ポストとCNNの職員が望むことを言うためには、その「報道」の内容が米中央情報局(CIA)によって承認・指示され、国防総省の巨大な戦争機構の利益を促進しなければならない。

本物のジャーナリストは、しばしば起訴や投獄、殺人の脅威にさらされ、時には意地の悪いツイートの対象にもなる。米企業メディア階級の多くは、アサンジの迫害を無視し、支援さえしてきた。それはまさにアサンジが企業メディアを恥じ入らせ、本当のジャーナリズムとは何か、いかに企業メディアがそれを完全に欠いているかを示す、鮮やかな鏡の役割を果たしているからだ。

言論の自由と報道の自由は、米国にも英国にも現実には存在しない。単に国民を煽動するための美辞麗句であり、米英が実際には支持していない価値を支持するという名目で他国で絶えず行う様々な戦争やその他の破壊行為を正当化し、賞賛するためのものだ。ジュリアン・アサンジの迫害は、大きな個人的悲劇であり、政治的茶番であり、基本的な市民の自由に対する重大な危険である。しかし、それはまた、米英政府の自画像の中心にある詐欺と欺瞞を示す、輝かしい不朽の記念碑でもあるのだ。

(次より抄訳)
The UK's Decision to Extradite Assange Shows Why The US/UK's Freedom Lectures Are a Farce [LINK]

2022-06-20

ユートピア主義——進歩への最大の障害のひとつ

ケイトー研究所政策アナリスト、チェルシー・フォレット
(2018年8月15日)

進歩の継続と自由で開かれた社会を維持するうえで、最大の障碍は何だろうか。

最大の障害のひとつは、大雑把に言えばユートピア主義である。進歩は保証されたものではないし、逆戻りすることもある。人類が達成した進歩をもたらすのに役立った制度や価値観は、左右双方から過激派の攻撃にさらされることが増えている。右派の国家主義ポピュリストや左派の自称社会主義者の多くは、理性、科学、開かれた議論、自由な企業といった啓蒙主義の価値観を否定する。

人間の現実の姿とは、不完全な現在を、未来に想像するユートピアとではなく、もっと不完全だった過去と比較し、人類がすでに成し遂げた真に驚くべき進歩を認めることであるはずだ。しかし残念ながら、多くの人は現在を過去からの大きな改善ととらえるのではなく、現在がある種の理想世界に追いついていないと考え、これまで達成した進歩を否定する。

ホモ・サピエンスが誕生してから99.9%の期間、生活環境には驚くほど変化がなく、貧困が至るところに存在していたことを忘れてはならない。その後、英国やオランダ、西欧、北米、世界各地で経済成長が加速した。市場がグローバル化し、産業革命によって生産性が飛躍的に向上し、経済成長が加速され、最後には繁栄の拡大につながった。

法の支配、グローバルな交流、寛容に基づく現代社会は、きわめて最近の現象である。それはまた、見かけ以上にもろいものかもしれない。

20世紀の最大の悲劇は、共産主義とファシズムという、ユートピアのイデオロギーの名の下に実行された。新しいユートピア的なデマゴーグ(煽動政治家)が現れる危険はつねににある。

ユートピアはつねに手の届かないものであり、世界が完璧な場所になることは決してない。しかし、過去の成功体験から学び、それを基に、毎日をより良いものにするために努力することは可能だ。人類は、かつて乗り越えられないと思われた難題にも挑戦し、解決できることを何度も証明してきた。

危険なのは、理性、科学、開かれた議論、知識欲など、問題を解決するための手段に背を向けることにある。啓蒙主義の価値観は、極左と極右から攻撃を受けている。両極端な人々は、この世界は修復不可能なほど腐敗していると考える。彼らはその腐敗した世界を吹き飛ばし、新たな世界を始めたいのだ。「何を失うというのか」と彼らは問いかける。じつは多くを失うことになると、私たちは答えなければならない。

(次より抄訳)
Utopianism: One of the Biggest Obstacles to Progress - HumanProgress [LINK]

2022-06-19

大恐慌を悪化させたニューディール政策

弁護士、オリバー・ダンフォード
(2020年5月25日)

ニューディール政策が経済を救い、世界恐慌を終わらせたというのが、これまでの常識だった。しかし、この説は次第に批判されるようになってきた。いずれにせよ、ニューディール政策が、現代の巨大で強力で押しつけがましい米連邦政府の前身となったことは、誰もが認めるところだろう。

ニューディール以前、連邦政府の日常生活における役割は乏しかった。経済に対する政府の規制は、ほとんど州や地方自治体の「警察権」によってのみ行われていた。警察権とは、個人や企業が他人の権利を侵害することを防止し、正当な行為を規制する(例えば、不動産の売買を適切に記録するために一定の手続きを要求する)ことを、連邦政府ではなく州や地方自治体に認めるものだと元来理解されている。

大恐慌は悲惨な状況を引き起こしたが、それまでの不況とは異なり、この時は米国民が連邦政府に「何とかしてくれ」という声を大きく上げた。ルーズベルト大統領は時間をかけなかった。就任宣言のわずか2日後、1917年に制定された「敵国取引法」に基づいて、銀行休業日を宣言したのである。ニューディール政策の実験が始まり、ルーズベルトは深刻な不況を食い止めるために、あちこちに事務所を開設し、委員会を設置し、各部門を再編成して、次々と政策を実行に移した。

ニューディール政策(および第二次世界大戦)の「緊急事態」が収まると、いくつかの制度が廃止された。しかし、連邦政府が経済活動において大規模かつ積極的な役割を担うという考え方は、根強く残っている。ニューディールの目玉の一つである公正労働基準法などは、民間産業を支配し続けている。これらの法律は随時更新され、政府自身も、政府の関与が健全な経済のために不可欠だと主張し続けている。

ニューディールの遺産の具体例として、住宅を取り上げよう。大恐慌が始まると、連邦政府は無数の委員会や委員会を設立し、住宅事業に連邦資金を投入し(1932年緊急救済建設法)、住宅保証と直接融資を行い(1932年連邦住宅貸付銀行法)、住宅法の採択、現行法の改正、拡大する官僚制度の再編成を続けた。

政府の住宅政策は1949年の住宅法で増強され、国の「一般の福祉」と「安全」の必要上、住宅の量や質を「改善」するために、住宅生産とそれに関連する地域開発を求めた。この問題の広範な性質を象徴するのは、1934年国家住宅法によって創設され、今日では「世界最大の住宅ローン保険会社」となった、連邦住宅局である。

ニューディールの絶え間ない実験は、人々の日常生活に対する政府の関与をさらに強めるだけだった。様々な問題を「解決」できない場合は、市場の失敗のせいにされ、政府だけが解決できると言われる。

裁判所は今や政府の実験を当然のように支持し、米国人が自分を自分で管理する能力を日々低下させている。新たなニューディールを求める声には抵抗しなければならない。政治家が危機を自分の利益のために利用するのを許してはならない。

(次より抄訳)
The New Deal Made the Great Depression Worse. Let's Not Repeat It - Foundation for Economic Education [LINK]

2022-06-18

課税は強盗である

ジャーナリスト、フランク・チョドロフ
(1947年)

もし個人が生命に対し明白な権利を有するならば、自分の労働の産物を享受する同様の権利を有すると認めなければならない。これを財産権と呼ぶ。財産に対する絶対の権利は、生命に対する本来の権利から生じる。一方が他方なしに存在することは無意味であり、生きるための手段は命そのものと同一視されなければならない。

もし国家が個人の労働の産物に対し優先する権利を持つならば、その人の生存する権利は制限される。あらゆる権利を創造したのは国家だと宣言する以外に、そのような優先権を認めることはできないという事実を別にしても、人は(納税を回避する努力に見られるように)この優先権の概念を拒否しようとする。それは人間の本能に反する。

私たちは自分の財産を、組織化された社会が奪うことに反対する。それは社会の一単位による財産の強奪に反対するのと同様だ。後者の場合、私たちはその行為をためらわず強盗と呼び、それ自体が悪だと呼ぶ。そもそも強盗とは何かを定めるのは法律ではなく、倫理原則である。法律は倫理原則に違反することはあっても、それに取って代わることはない。

生活上の必要から法の力にやむをえず従い、長年の慣習で不道徳な行いに気づかなくなったからといって、(財産の強奪は強盗だという)原則は消え去っただろうか。強盗は強盗であり、百万言を費やしたところで、それ以外のものにはならない。

課税の結果、つまり症状を見れば、私有財産の原則が侵害されているかどうか、どのように侵害されているかがわかる。さらに証拠を得るために、課税の手法を調べる。性能のよい道具を持っていれば強盗の犯意が疑われるように、課税の手法は(強盗の)証拠になる。

国家が個人の労働生産物に対する権利を侵害すれば、物事の本質に反する権威を私物化し、国家自身とその権威を行使される人々のために、非倫理的な行動様式を確立する。所得税は国家を犯罪収益の共謀者にした。法律は生産から得られる所得と強盗から得られる所得を区別できないし、その源泉には何の関心もない。

最近まで、税金は一般に「社会サービス」と呼ばれる政府の必要な機能を維持するためとされた。しかし政治権力というものは、その活動領域が自己完結しているわけではなく、抵抗がない分だけ拡大する性質がある。この権力の行使に対する抵抗は、(人々の)自立の精神を反映し、経済的な安心感に依存する。人々は経済全般が落ち込むと、基本の原因がわからず困惑し、救済を約束してくれるなら、どんなまじない師にでも頼ろうとする。政治家は喜んでその役割を果たす。その報酬は権力であり、カネによって実行される。

(次より抄訳)
Taxation Is Robbery | Mises Institute [LINK]

2022-06-17

エアコンに対する世界戦争

国際的な気候変動対策の多くと同じく、エアコンに対する規制は環境への利益よりも経済に弊害を及ぼす危険が大きい

競争企業研究所主任研究員、ベン・リーバーマン
(2022年6月7日)

もしエアコンが医学の進歩なら、その開発者は多くの命を救い、改善したことでノーベル賞を受賞したことだろう。エアコンは途上国にも浸透しつつある。そこには熱帯地方に住む何十億もの人々が含まれる。彼らはエアコンの恩恵を最も受けられるにもかかわらず、市場普及率は世帯の10%未満にすぎない。

エアコンは公衆衛生上の利点があるにもかかわらず、その普及は必ずしも良いニュースと受け止められていない。電力消費の増加とそれに伴う温室効果ガス排出の増加のせいだ。国連、世界銀行、国際エネルギー機関、多くの非政府組織(NGO)は、エアコンの普及についてせいぜい両論併記だ。

米国は最初に冷房が普及した国で、冷房の効用を最もよく証明している。エアコン普及前は、多くの地域で夏の気温に伴い死亡率が著しく上昇していたが、住宅にエアコンが90%普及し、この傾向はほぼ解消された。ある研究によると、エアコンの普及は暑さによる死亡を年間1万8000人防いでいる。

米国より夏が厳しいにもかかわらず、冷房の効いた住宅や建物の少ない地域では、人口が10倍近くも多いことを考えると、冷房の利点はケタ違いに大きい。近代シンガポールの父といわれるリー・クアンユーによれば、同国が熱帯の他の国々と比べて成功した最大の要因はエアコンの普及である。

気候活動家はエアコンの電力使用量だけでなく、冷媒にも関心を寄せる。1987年のモントリオール議定書でオゾン層を破壊する冷媒が規制された後、多くの冷媒にハイドロフルオロカーボン(HFCs)が使用されるようになった。当初は歓迎されたが、その後、温室効果ガスとして問題視されるようになった。

たしかにHFCは、分子あたりではCO2二酸化炭素の数百倍、場合によっては数千倍の温室効果ガスだが、大気中に存在する量はCO2の100万分の1程度だ。米国海洋大気庁は、人為的な温暖化に対するHFCの寄与度を1.37%としている。

それでも2016年にルワンダのキガリでモントリオール議定書が改正され、HFCに規制がかかることになった。冷媒の切り替えを強制されることでコストが上がる可能性は高い。皮肉なことに、HFCsが実際には効率の悪い冷媒に置き換えられるため、効率にも悪影響を及ぼす可能性がある。

気候変動対策の多くは、特に発展途上国にとって、環境への良い影響よりも、経済に悪影響を及ぼしかねない。化石燃料の制限によるエネルギーコストの大幅な上昇と引き換えに、将来の気温がわずかに低下するだけだろう。何十億人もの人々がまだエアコンを買う前に、そのようなコストを課してはならない。

(次より抄訳)
The Global War on Air Conditioning - HumanProgress [LINK]

2022-06-16

海抜の低い島々は海面上昇に無力なのか?

ライター、ヨアキム・ブック
(2022年6月2日)

気候変動に関する議論で繰り返し懸念され、政治的な関心を集めているのが、小規模な島嶼国の窮状だ。国連の気候変動サミットでは、海抜数メートルの島や環礁からなるこれらの国々が、迫り来る海の犠牲者に仕立て上げられる。

ここ数十年、現実は大手報道機関や気候変動会議の絶望的な主張とまったく異なる。世界は海に飲み込まれる以上の土地を海から取り戻している。オランダやベトナムのような国々は、海面が上昇している世界でも、海から陸地を手に入れることが可能なことを示している。

1980年以降、世界の海面は約100mm上昇したが、南太平洋の島国ツバルはその面積を拡大した。太平洋に浮かぶ数百の島々は、海面上昇がこの地域を脅かしているにもかかわらず、陸地面積が増加するほどの土砂を蓄積している。マーシャル諸島の一つ、ジェイ島は過去80年間で13%大きくなった。

モルディブは1990年代、海底から砂を汲み上げ、2平方kmのフルマレ島の建設を始めた。その後、島の面積は倍増し、人口5万人の同国で4番目に大きな島となった。この20年間のモルディブの島々の変化は驚くべきもので、海面上昇で浸水されるがままにせず、人間の創意工夫で海から土地を取り戻した。

太平洋とインド洋に浮かぶ海抜の低い島々を対象にしたある学術調査によれば、過去数十年間、環礁の島々は、海面上昇に直面して物理的に不安定になる兆候を広く示すことはなかった。30の環礁(709の島々を含む)のデータを再分析した結果、どの環礁も陸地面積を失っていないことが明らかになった。

BBCの番組では、手に負えない海に面する地球上の他の場所(オランダなど)と同様に、「モルディブで干拓は生活の一部となった」と報じている。人間は気候変動を受け身で眺めるだけの存在ではなく、進んで守りを強化し、環境をつくり、本来は優しくない自然を手なずける。

静的なモデルでは、海抜の低い島々は海面上昇の影響を受けやすいため、気候変動の脅威に最もさらされる地域と言えるかもしれない。しかしその分、そこに住む人々は現実を直視し、自分たちの生活や住まいに対する予測可能な脅威に対し、現実的に対処しようとする。

解決策は完璧ではない。干拓は海の生態系を破壊するかもしれないし、環礁の島々は大きくなっても、海面上昇で淡水資源や衛生環境が脅かされている。しかし、これらの問題は解決可能であり、盛んに喧伝される滅亡シナリオほど悲惨なものではない。

(次より抄訳)
Are Low-Lying Islands Helpless in the Face of Sea Level Rise? - HumanProgress [LINK]

2022-06-12

#20 ヒトラーはユダヤ人だったのか?


陰謀論の本を読んでいると、歴史上の有名な政治家、実業家の多くはユダヤ人だったという記述にしばしば出くわします。しかし、それらは本当なのでしょうか。ユダヤ人迫害で悪名高いドイツの独裁者ヒトラーについて取りざたされる、彼自身がユダヤ人だったという説を検証してみましょう。

<参考資料>
  • 「ヒトラーにはユダヤの血が流れていた」説はどこから生まれたのか? | ロシアの外相ラブロフも口にした陰謀論 | クーリエ・ジャポン [LINK]
  • 野口英明ほか『世界金融 本当の正体』(サイゾー) [LINK]

2022-06-10

嘘の帝国

民主主義を掲げ、専制主義を声高に批判する国の政府やメディアは、国民が適切な判断をできるよう、偽りや誇張のない正しい事実を何よりも大切にするはずだ。しかし、現実は必ずしもそうではない。

ウクライナの前人権監察官リュドミラ・デニソワ氏は、ウクライナ政府に代わって「武器と圧力を提供するよう世界を説得する」ために、ロシア兵による性犯罪の報告を「誇張」したことを認めた。ロシアの通信社スプートニクによると、6月3日にウクライナの出版物に掲載されたインタビューで、デニソワ氏は自分の誇張が少なくとも一度は成功したと主張し、次のように述べた。

「たとえばイタリア議会の国際問題委員会で演説した際、ウクライナはとても疲弊していましたよね。ウクライナとウクライナ国民に必要な(イタリアの)決断を何とか後押ししようと、恐ろしい話をしたのです」。デニソワ氏によれば、イタリアの連立与党「五つ星運動」は当初、ウクライナへの武器供与に反対していたが、「(自分の)演説の後、党首の一人が、武器供与を含め(ウクライナを)支援すると言ったのです」という。話をでっち上げた効果というわけだ。

デニソワ氏は5月31日、誤った情報を流したとしてウクライナ議会で234対9の不信任投票を受け、人権監察官を解任された。米ニューズウィーク誌が報じたように、ウクライナ議会のパブロ・フロロフ議員は、デニソワ氏が解任された理由として、ロシア軍占領地での「不自然な性犯罪」や子どもの性的虐待に関する詳細の数々が、「証拠に裏付けられていない」ことを挙げた。 フロロフ議員は、このような誤情報は「ウクライナに害を及ぼすだけだ」と主張したという。

デニソワ氏の「誇張癖」が害を及ぼしたのは、もちろんウクライナだけではない。2月にロシアがウクライナで軍事行動を始めて以来、デニソワ氏が語るロシア軍の「悪行」の数々は、米欧の主要メディアで事実として紹介されてきた。
たとえば、ロイター通信は4月5日、「ブチャの集団墓地、最大300人の遺体埋葬か=ウクライナ人権監察官」と題する記事で、デニソワ氏の情報に基づき「ウクライナの首都キーウ近郊ブチャの教会付近で見つかった集団墓地に、150─300人の遺体が埋葬されている可能性がある」と報じた。
また、米CNNテレビは翌日、やはりデニソワ氏の情報に基づき、「ロシア軍から解放の女性捕虜、『拷問を受けていた』 ウクライナ当局者」と題する記事を公開した。「女性捕虜は士気を砕くために男性の前で裸にされたり、スクワットや髪を切ることを強制されたり、尋問を受けたりした。ロシアのプロパガンダ動画撮影への協力を強要された人もいるという」と、デニソワ氏の主張をそのまま伝えている。

普段から米欧メディアに右へならえの日本の新聞・テレビも、デニソワ氏の主張をそのまま垂れ流していた。

その点、ウクライナのジャーナリストは違った。デニソワ氏の解任に先立ち、ウクライナの記者数百人は公開書簡を発表し、デニソワ氏の衝撃的だが明らかに根拠のない言い分が、しばしば額面どおりに受け取られていると警告した。そこで引用されたのは「6カ月の女の子をロシア人はティースプーンでレイプした」「(兵士)2人が赤ちゃんの口と肛門をレイプした」「9カ月の女の子がろうそくでレイプされた」といったデニソワ氏のおぞましい主張だ。

戦時下のウクライナで、「敵に塩を送った」と言われかねない当局者批判を堂々と行った同国のジャーナリストの勇気に感服する。日本の大手メディアの記者に、同じことができるだろうか。

米欧の政府や大手メディアは、ロシアなど敵対勢力の「偽情報」を激しく批判するが、自分たちは平気で嘘をつく。その中でも特におぞましく卑猥な例は、「カダフィのバイアグラ」だ。スプートニクが記すように、2011年、当時のスーザン・ライス米国連大使は、リビアのカダフィ政権が「集団レイプ」を促すために、兵士に性機能改善薬「バイアグラ」を配布していると国連で語った。後にこの主張は、親米欧の人権団体アムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチでさえ、証拠がないと断言した。

その同じ国連で今月6日、安全保障理事会はウクライナ情勢を巡る公開会合を開き、パッテン事務総長特別代表が、ウクライナ各地で性暴力被害の訴えが3日までに124件あったと述べ、「経験上、氷山の一角だ」として各国に対策を講じるよう求めた。これに対しロシアのネベンジャ国連大使は「ロシア兵による性暴力の証拠はない」と反論し、ウクライナや欧米諸国の情報戦の一環だと主張した。

ネベンジャ大使の部下であるポリャンスキー国連第一副代表もツイッターへの投稿で、ロシア兵に関する欧州連合(EU)の「嘘と根拠のない主張」からみて、EUは「明らかに(真実を)必要としていない」と批判した。ロシアのテレビ局RTによると、同副代表は「(デニソワ)前人権監察官の嘘が暴露された後も、一部の発言者は物語を修正できなかった」と皮肉った。

同副代表が言うとおり、デニソワ氏の情報を事実として伝えた西側政府やメディアは、同氏解任後も、真偽を検証したり過去の報道を訂正したりした様子はない。何もなかったかのように口をぬぐっている。トランプ前米大統領の「ロシア疑惑」を大騒ぎしたあげく、根拠がなかったと判明したときの開き直った態度そっくりだ。

英作家ジョージ・オーウェルは「嘘の帝国で本当のことを言うと反逆罪になる」と喝破した。私たちは「嘘の帝国」から抜け出すことができるだろうか。

政府のスタートアップ支援策、利用する前に知っておこう

経済学者、ペール・バイランド
(2022年5月31日)

政府は、創業や事業拡大を目指す起業家に対し、さまざまな支援や資金提供を行う。これらの制度が経済成長と雇用創出にどれほど効果があるかは、疑問の余地がある。しかし政府の資金援助は、個々の起業家にとってどのような意味を持つのだろうか。

政府は中小企業庁の融資や助成、インキュベーターやアクセラレーターなど、あらゆる階層で相当額の資金と労力を費やし、起業家の支援を試みている。その根拠は政治的なものだ。その目的は経済成長を促進し、それによって雇用を創出することにある。

しかし、その資金と労力は何を意味するのだろうか。政府の資金援助や支援が利用されていることは間違いない。その結果、資金提供や支援を受ける活動がより多く行われていることも確かだ。しかし本当の疑問は、これらの政策が成功しているのかどうかだ。この問いに対する答えは明らかでない。

ハーバード大学のジョシュ・ラーナーによれば、政府による起業家支援の実績はかなり悲惨なものだ。政府の施策や投資によって起業家精神を高め、起業家を成功に導き、経済成長を実現する方法は、まだよくわからない。起業家支援策は見栄えこそ良いものの、実際の効果はほとんどない。

起業家の仕事は、消費者に価値を届ける最善の方法を見つけ出すことだ。政府の資金支援を受けるため、ビジネスアイデアを微調整してはいけない。価値の創造に忠実でなければ、ビジネスの成功はありえない。それどころか、その種の資金調達に依存するようになる恐れがある。

必要以上の資金を持ったり、市場の厳しい現実から守られたりすると、無気力や非効率の原因となる。余分なコストをかけ、最適とはいえない決断を下すこともある。コスト削減や経費を最大限に活用することに、熱心でなくなってしまうのだ。これはビジネスの収益性や存続に重大な影響を及ぼしかねない。

「タダ飯はない」と経済学者は言う。これは政府の支援にも当てはまる。申請する前に、期待の中身と必要な条件をよく理解しておこう。申請手続き自体が負担になり、時間がかかるかもしれない。資金援助を受けると、納得できる範囲を超えて、事業に対し政府の意見や意向に従うよう求められることもある。

政府の資金支援には、わざわざやりたくないような大量の報告義務や官庁手続きが伴うこともある。覚えておいてほしいのは、起業家とはコストを選択する仕事だということだ。賢明な選択をしよう。

外部からの資金提供は、すべて紐付けされている。これは公共部門の支援にも当てはまる。支援を申請し受け入れる前に、その施策、当局、機関が期待することを確認しよう。資金獲得のために独立や自律を手放したくない場合もあるだろう。

(次より抄訳)
Considering a Government Program to Support Your Startup? Here's What You Need to Know First. [LINK]

2022-06-09

中央銀行を尊重するな、廃止せよ

元米下院議員、ロン・ポール
(2022年6月6日)

バイデン米大統領はインフレと戦うために、あるいは少なくとも戦っていると人々に思わせるために、三つの柱からなる計画を発表した。その一つは、サプライチェーンの問題を政府機関に「解決」させることだ。そもそも政府の介入で引き起こされた問題を政府が解決しようとしても、新たな問題を引き起こす。

もう一つの柱は財政赤字の削減だが、バイデンは福祉や戦時支出の削減を提案していない。その代わり「歳入を増やすための税制改革」から成っており、これは増税を意味する政治家用語だ。歴史が示すように、支出削減を伴わない増税は結局、赤字を増やす。

バイデン大統領のインフレ対策で最重要な最後の柱は、連邦準備理事会(FRB)が「インフレをコントロールする第一の責任を負う」と認識することだ。意地悪なツイートで「FRBの品位を汚した」トランプ前大統領と異なり、「FRBの独立性を尊重する」と公約している。

バイデンほど長く政界にいる人物が、FRBの金融政策に影響を与えようとした最初の大統領はトランプだと本気で思っているとは信じがたい。FRB創設以来、大統領は公的・私的な圧力を使ってFRBを「説得」し、政策や政治目標を推進するために金融政策を仕立ててきた。

FRBの「品位を汚した」点では、トランプはリンドン・ジョンソンに及ばない。ジョンソンは、「偉大な社会」政策とベトナム戦争の資金調達に合わせた金融政策をFRBが拒否したことにいらだち、(マーティン)FRB議長を壁に投げつけた。

バイデンはインフレの責任逃れをすることで、中間選挙前に自分と民主党から非難をそらすよう望んでいるのは間違いない。これまでインフレのスケープゴートとしてきた強欲な企業やプーチン露大統領とは異なり、FRBは実際にインフレの発生や管理に責任を負っている。

経済の特定部門における物価上昇は様々な要因によって引き起こされるかもしれないが、経済全体の物価上昇はつねにFRBの金融緩和政策の結果である。インフレ(貨幣膨張)とは本当のところ、中央銀行による貨幣の創造行為である。広範な物価上昇はインフレの原因ではなく、症状である。

前FRB議長のイエレン財務長官とパウエル現議長は、インフレを「一過性」と公言したのは誤りだったと認めている。この失態は、秘密主義の中央銀行に金融政策を任せる愚かしさを示している。バイデン大統領は「FRBの独立性を尊重する」のではなく、議会と協力してFRBを監査し、廃止するべきだ。

(次より抄訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Respect the Fed? No, End the Fed [LINK]

2022-06-08

ロシアが欧州を脱NATO化する方法

ムーン・オブ・アラバマ
(2022年6月6日)

ロシアがNATOを1997年の国境まで後退させるには、どうすればよいか。経済制裁だ。米国は従わない国々に制裁を加えてきた。このような制裁は国際法上何の根拠もない。にもかかわらず、米国は欧州などの諸国に対し、イランやベネズエラと取引すれば制裁するという、二次的制裁まで発動した。

ロシアも同じことができる。つねに国際法に従っているため、少し違った方法が必要だろう。ロシアは、西側が必要とするあらゆる種類の原材料を生産する超大国だ。欧州、特にドイツは、ロシアの天然ガスと石油に依存する。ロシアの供給を完全に断てば、ドイツのエネルギー価格は少なくとも3倍になる。

ロシアのエネルギー供給を制限する現在の欧州の政策が続くなら、化学大手のBASFやバイエルはどこか他の国に移らなければならないだろう。フォルクスワーゲン、メルセデス、BMWは欧州での生産をすべて停止しなければならないだろう。鉄鋼の生産はゼロになるだろう。

大量の失業者が続出するだろう。計画停電、凍えるアパート、ハイパーインフレに抗議するため、何百万人もの人々が街頭に立つだろう。ロシアはいつでもこれを実現することができる。欧州へのガスと石油の供給を止めればいいだけだ。

欧州はロシアに対し6つの制裁パッケージを発動しているが、ロシアはまだ報復していない。欧州が米国によって命がけのゲームを戦わされていると気づくよう期待しているのだろう。イデオロギーに凝り固まった欧州の指導者は、ドイツ現実政治の伝統に従ったクリーンな指導者と交代しなければなるまい。

新しいまともな指導者がいてこそ、欧州は正気を取り戻すことができる。ロシアはNATO問題の解決と一石二鳥で、その達成に貢献できる。このように公に宣言すればいい。「欧州が米政府と決別するまで、いかなる種類のロシア製品も欧州に供給しない」

その後、何が起こるだろう。寒さと空腹に苦しむ欧州の家庭で、ろうそくの灯りの下、何百万回となく議論が交わされることになる。政治的な意見も変わるだろう。政府は、より現実的な政権に取って代わられるだろう。

フランスとドイツはNATOを脱退するか、貧しく無力になるかのどちらかだ。欧州に駐留する米軍は退去を求められるか、激怒した国民に攻撃され、追い出されることになるだろう。ドイツは、米軍が自国の領空を使用することを禁止するだろう。米国は欧州大陸に対する支配力を失うだろう。

ロシアは、欧州に対する米国の覇権という現行システムの破壊を必要としている。欧州は脱NATO化されなければならない。そのためには欧州諸国の政権交代が必要だろう。ロシアの指導者たちは今、その目的を達成する百年に一度のチャンスに恵まれている。

米国は、ロシアの販売ボイコットやその影響を防ぐことも、それらに対抗することもできない。欧州の政治家やその背後にいる人々は、いつになったらこの事実に目を覚ますのだろうか。

(次より抄訳)
MoA - How Russia Can (And Will?) De-NATO-size Europe [LINK]

2022-06-07

資本主義は人種差別ではない。資本主義は人種差別を弱める

研究者、リプトン・マシューズ
(2022年5月31日)

反資本主義の知識人は、人種差別が資本主義のDNAに染みついていると考える。資本主義がマイノリティーに罰を与えるという物語を補強するために、専門職における人種格差を持ち出す。格差が人種差別だという主張は一般的になっているが、問題はもっと複雑だ。

人種差別は資本主義に染みついているわけではないが、企業は競争力を維持するために差別をしなければならない。正しい能力に報いることができなければ、競争は維持できない。差別は正当な政策であり、非市場的な理由で行われる場合にのみ、不愉快になるのである。消費者だって日常的に差別をしている。

親が自分の子供を優秀な教育者のいる学校に通わせたいというのは、劣った学校を拒否していることになるので、一種の差別と言える。独学で学んだ労働者よりも正規の教育を受けた労働者を雇うことを好むのも差別だ。このような差別をしなければ、代償として自分のビジネスと幸福を損ねることになる。

ウェルズ・ファーゴのチャールズ・シャーフCEOは最近、マイノリティーの有能な人材が不足しているため、多様性目標を達成できないかもしれないと見解を示し、非難された。あるマイノリティー集団の知的業績が貧弱で、エリートの仲間入りができないとしたら、それはその集団が解決すべき問題だ。

人種資本主義を否定する最も鋭い証拠は、人種差別が激しかった時代に、黒人労働者が好まれたことである。資本主義が人種で人を判断するのであれば、人種差別が許される環境では、人種差別主義者は黒人との取引を控えるはずである。しかし奴隷制の歴史を調べてみると、そうはなっていない。

起業家の原動力は金銭である。たとえ人種差別主義者でも、富を蓄積しなければならないという圧力から、黒人を雇う。奴隷農園の管理人は下級職員を監督し、奴隷を訓練し、農園主に報告した。管理人はプランテーション経営に精通した人材でなければ成功しないため、農園主は高い知性を持つ人材を選んだ。

無能な白人に農園の管理を任せれば、農園主は損をする。そこで積極的に黒人を雇った。18世紀には農園経営以外でも、奴隷労働者は白人をしのぐ高い能力を発揮した。バルバドスのブリッジタウンでは、自由労働者である黒人が熟練労働者の市場を支配し、白人の職人が割を食うほどだった。

イデオロギー的な立場とは関係なく、雇用主は劣った代替品よりも質の高い労働力を好むものだ。人種差別が容認された時代でさえ、人種差別主義者の農園主は無能な白人より有能な黒人を選び、競争相手を悔しがらせた。人種差別が批判される現代の雇用主が、人種を理由に従業員を差別するはずがない。

問題は単純で、一部のマイノリティー集団は人的資本のレベルが低いために、白人と同等になることができないのだ。学力格差を是正できるのは、遅れているグループとその指導者だけである。人種資本主義の怪しげな理論に固執すれば、価値ある目標の達成から目をそらすことになる。

(次より抄訳)
Capitalism Is Not Racist; Capitalism Undermines Racism | Mises Wire [LINK]

2022-06-06

自由を守る限り、未来は可能性に満ちている

ケイトー研究所主任研究員、マリアン・テューピー
(2022年5月31日)

「近代」というこの2〜3世紀は、人類がおもに農耕民族として生きたそれまでの1万2000年、まして人類出現以来の30万年とは根本から異なる。古代シュメールの農民は古代エジプト、古代ローマ、大革命前のフランスには違和感なく住めるだろうが、1900年や2000年頃の先進国の生活は理解できないだろう。

1750年以降の人類の進歩の速さには驚かされる。歴史から正しい教訓を学べなければ、西洋と世界の繁栄は個人・経済の自由と深く結びついていることを理解できないだろう。それでは経済成長を続け、自由を守ることはできないかもしれない。経済が停滞し、自由が後退する恐れさえある。

人間のハードウェア(脳の構造)とソフトウェア(心理)は、否定的な事柄を重視するように進化してきた。これは危険・残酷・不快な世界で生き残るには適切なメカニズムだ。脅威かもしれないものに過剰反応して偽物だとわかっても、過小反応して本物とわかるより、生物にとってコストが低いのだ。

古代ギリシャの女性は男性の所有物だった。今日女性は多くの国を運営し、大半の国で投票権がある。男性が危険な仕事をしたり、外国の戦争で戦ったりして死ぬ可能性は昔よりずっと低い。奴隷制はおそらく農業の誕生以来、存在していたが、18世紀英国で組織的・持続的な反奴隷運動が起こった。

昔、児童労働と体罰は珍しくなかったし、同性愛は罰せられた。動物への残酷な行為はいたるところで行われていた。魔女狩り、人肉食、新生児遺棄、人間の生けにえも忘れてはならない。

あらゆる主要な宗教や文明は、何らかの終末論や「終わりの日」のシナリオを発展させてきた。終末論的な環境主義は比較的新しく、一見もっともらしく見えるため、人々の想像力をかきたてる。しかしヒステリックな予言が多く外れるようになると、人々の関心は失われ、他の予言に移っていくだろう。

長い目で見ればすべてがうまくいくに違いないと言っているのではない。例えば、核兵器や致死的な病原体との戦いがある。それらを優先すべきなのだ。心配なのは、財政・金融政策、政府の無能、社会に有害なロックダウンを人々がたやすく受け入れたこと、世界貿易の崩壊、政治の過激主義の台頭などだ。

全体としては、新型コロナ流行で以前よりも将来への不安が増したと言えるだろう。しかし、過去から正しい教訓を導き、賢明な政策を実行する気概のあるリーダーを見つけることができれば、これらの問題を解決することができると思う。

(次より抄訳)
Marian Tupy's Interview with James Pethokoukis - HumanProgress [LINK]

2022-06-05

#19 『ナニワ金融道』は資本主義批判か?


先進国で、資本主義に対する批判が強まっています。資本主義悪玉論が強まる背景には、一部の富裕層とそれ以外の市民との間で経済的な格差が拡大していることなどがあるとされます。しかし、それは本当に資本主義のせいでしょうか。この問題について、人気マンガをヒントに考えてみましょう。

<参考資料>
  • 青木雄二『ナニワ金融道』(講談社) [LINK] 
  • 青木雄二『ナニワ金融道 ゼニのカラクリがわかるマルクス経済学』(講談社+α文庫) [LINK] 
  • 木村貴『反資本主義が日本を滅ぼす』(コスミック出版) [LINK]

2022-06-04

経済制裁が効かず、ロシアの前進が続く中、ウクライナに対する態度を変えた欧米メディア

かつてウクライナの応援団だった欧米メディアは、制裁は無駄であり、ウクライナは平和を築く必要があると警告を強める

ジャーナリスト、ネボイサ・マリッチ
(2022年6月2日)

米欧が現実を無視し、ウクライナ紛争はウクライナ側に有利に進行中だと主張し続けているにもかかわらず、主要メディアは経済戦争の状況に不安を強めている。米国と同盟国が課した禁輸措置が、当初意図したようにロシア経済を潰すのではなく、むしろ自国の経済を潰していることを認める論者が増えている。

「ロシアは経済戦争に勝っている」。英ガーディアン紙の経済エディター、ラリー・エリオットは木曜日(6月2日)、こう宣言した。「西側がロシアに対し経済戦争を仕掛けて三カ月になるが、計画通りには運んでいない。それどころか、実にひどい状況になっている」

エリオットは、最近米国がウクライナにロケットランチャーを送ると発表したのは、制裁が功を奏していない証拠だと述べる。「エネルギー禁輸やロシア資産の差し押さえではこれまでできなかったこと、つまりプーチン(露大統領)による軍隊の撤退を、米国からの最新の軍事技術で達成するよう期待される」

この現実は、毎週のようにロシアの敗北を予言することで有名になった英テレグラフ紙の国防エディター、コン・コフリンでさえも無視できない。コフリンは今や、ウクライナにはさらに多くの武器が必要だという自説のためではあるが、ロシアが「衝撃的な勝利」を収めるかもしれないと述べている。

欧米がロシアの壊滅に失敗したことは、ロシアに同情的とは言えない英エコノミスト誌にすら明らかだ。同紙は一カ月前、ロシア経済が最初の制裁ショックから立ち直ったとしぶしぶ認めた。一方、エネルギー不足、生活費の高騰、記録的なインフレに対処しなければならないのは、西側諸国である。

欧米の制裁政策に対する不満が噴出しているのは、欧州だけではない。米ニューヨーク・タイムズ紙は火曜日(5月31日)、クリストファー・コールドウェルの論説を掲載し、バイデン政権がウクライナに大量の武器を送ることで「交渉の道を閉ざし、戦争を激化させている」と批判した。

「米国は、同盟国を武装させるのと戦闘に参加するのは同じではないという虚構を維持しようとしている」とNYタイムズは書き、この区別は情報化時代において「不自然さを増している」と指摘した。その翌日、米サイバー軍のトップが、ウクライナのためにロシアに対し攻撃的な作戦を実施したと認めた。

NYタイムズのコールドウェルによれば、米国は「激化する戦争で勝てると信じる理由をウクライナに与えてしまった」。実際、ダボス会議でキッシンジャー(米元国務長官)が紛争の早期解決を論じようとすると、ゼレンスキー政権から罵倒され、ただちにウクライナ国家の敵に指定された。

(次より抄訳)
As sanctions fail to work and Russia's advance continues, Western media changes its tune on Ukraine — RT Russia & Former Soviet Union [LINK]

2022-06-03

「LGBTQ+プライド月間」始まる〜ストレートの人々にもパレードをさせるときが来たのだろうか?

米欧は、最も一般的な性的指向を祝うことを考えるべきだ

ジャーナリスト、ロバート・ブリッジ
(2022年6月2日)

6月の「LGBTQ+プライド月間」の始まりは1969年6月28日朝、ニューヨークのゲイ・コミュニティが集うグリニッジ・ビレッジにあるバー「ストーンウォール・イン」に、警察が踏み込んだときにさかのぼる。逮捕しようとする警察に対し、バーや近隣の酒場の常連客が反撃したのだ。

その後は言うまでもない。今日、ストーンウォール暴動のおかげで、LGBTQ+のコミュニティは文化的に大きな勝利を収めたと言える。同性婚は50州すべてで合法化され、ゲイやトランスジェンダーの労働者は職場における差別から保護されている。

LGBTQ+運動が成功しているにしても、「プライド月間」は一カ月、関心を集めるに値するのだろうか。かつて米黒人俳優モーガン・フリーマンは、「黒人歴史月間をどう思うか」と記者に聞かれた際、「ばかばかしい」と即答した。「黒人歴史月間を作りたいとは思わない。黒人の歴史はアメリカの歴史だ」

「でも、どうやって人種差別をなくすのですか」と記者が尋ねると、フリーマンの答えは簡潔明瞭だった。「その話をやめるのさ」。そしてこう言った。「君を白人と呼ぶのをやめるから、私を黒人と呼ぶのをやめてくれ」

このエピソードは、多くの人にとって「LGBTQ+プライド月間」の問題点を要約したものだ。「プライド月間」は、性的問題をひたすら形にしなければならない。それも子供を含む公衆の面前でだ。分別はどこに行ったのか。テレビや新聞でも、性にまつわる問題に直面することはほとんどないというのに。

実際、LGBTQ+運動は、一カ月のパレードや祭り、美徳の乱舞から取り残されたくない企業からの無料広告よりも、ずっと多くのものを得ている。この文化的権力は、生活のほとんどあらゆる側面を、小学校のレベルまで日々支配するようになった。

真っ昼間から繰り広げる性的倒錯に捧げる月が、本当に必要なのだろうか。それとも、ストレート(異性愛者)の人々にも一カ月与え、バランスを取るのが答えなのだろうか。政治的な正しさが尊重される今、LGBTQ+コミュニティの一員であることは、結婚して子供を持つよりも難しいことなのだろうか。

7月はまだ空いているのだから、「ストレート・プライド月間」として、朝の電車に揺られ、徹夜明けで歯が生えた赤ん坊を抱えて出勤する、疲れ切った顔の男女に敬意を表してみてはどうだろう。

ゲイ、トランス、クィア、バイ、それ以外の人々も含め、もし時代遅れのストレートの人々がいなければ、何も祝うことができないだろう。ストレートの人々は、この大変な時代に、子供を生み育て、家庭を営むというありがたくない仕事に志願しているのだから。

ストレートの人々はそろそろ、その多大な犠牲を称えてもらうために、国旗を掲げた祝典月間を要求しないだろうか。それは世界が本当に優先すべきことを思い起こさせる良い方法かもしれない。しかし世界の真のヒーローは報酬を求めない。ましてや一カ月のパーティーなど求めないだろう。

(次より抄訳)
Robert Bridge: As LGBTQ+ Pride Month kicks off, is it time to give straight folks their parade too? — RT World News [LINK]

2022-06-02

五月の七日間

作家、ジェイコブ・ホーンバーガー
(2022年5月31日)

1960年代初め、国防総省とCIAが認可しなかったにもかかわらず、製作された米国映画がある。バート・ランカスター、カーク・ダグラス、エヴァ・ガードナー、フレデリック・マーチらが出演した『五月の七日間』という作品だ。米連邦政府における国家安全保障上層部の圧倒的な権力を題材にしている。

この映画で米軍の将軍たちは、大統領が国を破滅に導いていると判断し、国を救うには大統領を排除するしかないと判断する。計画を知った大統領は、阻止に動き出す。ケネディ大統領は原作の小説を読み、国家安全保障上層部がもたらす重大な危機を米国民に警告するため、映画化を決めた。

1970年、チリの大統領にアジェンデが選ばれた。社会主義者であるアジェンデは、米政府の激しい反ロシア、反共運動に参加する気はないことを明確にした。それどころか、ソ連やキューバなどの共産主義国と友好・平和共存の精神で手を結んだ。

米国の国家安全保障上層部は、今日と同じように激しい反ロシア感情を持っており、アジェンデを米国の国家安全保障に対する重大な脅威とみなした。同様に、アジェンデはチリでも国家安全保障に対する重大な脅威とみなされた。

そこで米国の国家安全保障上層部は、チリの国家安全保障上層部に対し、国を救うためには、民主的に選ばれた大統領を(暴力で)排除する道徳的義務があると説得にかかった。

しかし、大きな問題が生じた。チリ国軍の総司令官であるレネ・シュナイダー元帥が「ノー」と言ったのだ。チリ憲法には大統領を暴力的に追放する規定がないから、(アジェンデ大統領を排除する)計画には乗らないというのである。

そこでCIAは、首都サンチャゴの路上でシュナイダー元帥の誘拐・暗殺を企てた(シュナイダーは重傷を負い死亡)。アジェンデを大統領から暴力的に追放し、何万人もの人々を一斉検挙、処刑、レイプ、拷問し、行方不明にした。そこには二人の米国人青年も含まれていた。

CIA長官リチャード・ヘルムズは後日、米議会で証言するよう召喚された。チリのクーデターへのCIAの関与を問われると、宣誓証言で嘘をつき、否定したのである。おそらく、チリの政権転覆工作がケネディ暗殺事件(1963年11月22日)と驚くほど似ていたからだろう。

ケネディは友好と平和共存の精神でソ連やキューバと接触した。それはチリのアジェンデ大統領と同じ行動だった。皮肉なことに、映画『五月の七日間』の公開予定日にケネディは暗殺された。このため公開は延期された。

(次より抄訳)
Seven Days in May – The Future of Freedom Foundation [LINK]

平和が実現すれば、ウクライナは世界で最も自由な国になる可能性がある

歴史家、ライナー・ジテルマン
(2022年5月25日)

ウクライナでは自由主義系のシンクタンクや政治家がすでに戦後の計画を立てている。5月12〜13日に開いた「欧州自由フォーラム2022」は、自由主義系シンクタンクの国際組織アトラス・ネットワークが主催した。当初キエフで開く予定だったが、戦争のためワルシャワに変更された。

ウクライナ国会議員で、ゼレンスキー大統領率いる与党に所属するマリヤン・ザブロツキー氏は以前、自由主義系シンクタンクのメンバーでもあった。同氏によると、ウクライナの所得税は最近2%に引き下げられ、多くの規制や関税が廃止された。「現在、世界で最も経済的に自由な国だ」という。

何十億ドルもの国際援助が流れ込んでいることを思えば、ウクライナは歴史の例外ともいえる。苦しい戦争に見舞われる国が、かつてないほど経済的に自由になっているのだ。一時の措置として採用されたこの経済改革を、戦後も継続させることが目標だとザブロツキー氏は言う。

ウクライナはヘリテージ財団の「経済自由度指数」(2021年)で、欧州の45カ国中、経済的に最も自由でない国にランクされている。世界ランキングでは127位で、インドやニカラグアなどより低い。同財団は、ウクライナの財産権、法の支配、労働市場の規制が最大の欠点と認定している。

2014〜19年にカナダの駐ウクライナ大使を務めたローマン・ワシュクによれば、ウクライナは経済自由度指数やその他統計で信じられているほど経済的に不自由ではない。「このようなランキングは公式統計を評価したにすぎず、ウクライナの巨大な地下経済を把握できていない」という。

少なくとも25万人の技術専門家からなるIT業界では、企業は税の抜け穴を徹底的に利用している。ウクライナの最高税率は20%だが、「個人事業主」は5%で済むという規定がある。実はこの税金、本来は小規模な個人事業主を対象にしたものだが、IT専門家を含む起業家にも利用されている。

ウクライナで施行されている規制の多くが1970年代のソ連時代にさかのぼり、改革は急務だ。アトラス・ネットワークのトム・パーマーによれば、第二次世界大戦後、ドイツに市場経済を導入したルートヴィヒ・エアハルト経済相が、将来のウクライナのモデルになりうる。

ウクライナのためにマーシャル・プラン(第二次大戦後に米国が行った欧州経済復興援助計画)を求める声がしばしば聞かれる。しかしウクライナを救うのはマーシャル・プランではなく、エアハルトの導入したような市場経済改革しかない。

戦後西ドイツの「経済の奇跡」に大きく貢献したのは、エアハルトの自由市場主義が描いた経済路線であり、欧州の人々の苦しみと飢えを救うために行われた、当時の米国務長官ジョージ・マーシャルの名にちなんだマーシャル・プランではなかった。

英国はドイツの2倍以上の援助を受けたにもかかわらず、ドイツのような経済発展は見られなかった。英国が社会主義者(労働党政権)によって統治されていたのに対し、エアハルトはドイツに市場経済を導入した。戦時中から、すでに政策を練っていたのだ。

ウクライナに対する自由主義の政策案は明確だ。「私たちが新しいウクライナについて語るとき、何よりも三つのことを意味します。汚職との戦い、法の支配、経済の自由です」。同国の自由主義系シンクタンクのナタリヤ・メルニクは言う。

(次より抄訳)
How Ukraine Could Become the Most Libertarian Country in the World Once Peace Is Achieved - Foundation for Economic Education [LINK]

2022-06-01

「ダボスの男」が今年も登場、2022年世界経済フォーラム年次総会

元ニューヨーク大学教授、マイケル・レクテンワルド
(2022年05月31日)

ダボスで開く世界経済フォーラム(WEF)の年次総会は、おそらく世界で最も不人気な会議であり、WEFの創設者クラウス・シュワブは世界で最も軽蔑されている人物の一人である。シュワブ氏はネット上でいつも、ジェームズ・ボンド映画の超悪玉やそのパロディ「ドクター・イーブル」に例えられる。

ダボス会議のテーマの幅は驚異的だが、思い上がった中央計画主義を示すものでもある。中央集権的なデジタル通貨から都市計画まで、関心は(1970年代に「成長の限界」を唱えた)ローマクラブを彷彿とさせ、その新マルサス主義(産児制限による人口抑制を説く考え)に影響を受けている可能性が高い。

バイデン米大統領が最近、ガス価格の高騰は自然エネルギーへの「驚くべき移行」の一部として祝福されるべきものだと発言したにもかかわらず、主流メディアはいまだにWEFのグレート・リセットを陰謀論とみなしている。ガス価格の高騰はグリーン・ニューディール計画の一部なのだ。

2022年の会議のハイライトは、オーストラリアのeセーフティー監督官であるジュリー・インマン・グラントの発言だ。「言論の自由と万人の自由は同じではない」「言論の自由からオンライン暴力からの自由まで、オンラインで展開されているあらゆる人権の再調整が必要になるだろう」と述べた。

同監督官によるこの不吉な発言は、オーストラリアが新型コロナの流行時に全体主義に傾き、欧州連合(EU)が最近デジタルサービス法を承認したことを受けたものである。同法は「ヘイトスピーチ」と「偽情報」を禁止し、インターネットの世界管理に向けた大きな一歩となるものだ。

デジタルコミュニケーションに関するEUの枠組みは、「気候変動」「パンデミック」「ヘイトスピーチ」などに関し、EUが定義する「違法な言論」を規制する。検索サイトやソーシャルメディアプラットフォームは、すべてのオンラインコンテンツにEUのルールを単純に適用することになる可能性が高い。

WEFとその参加者は、無能な中央計画主義者やグローバリストか、政府の政策から企業の意思決定まで影響を及ぼす強力なインフルエンサーかはともかく、厚かましくも自分たちが世界を支配している、支配すべきだと考える。人が経済や家庭生活など人生の利益を追求するのを放っておくわけがない。

WEFのマスタープランナーたちは、個人・地方・地域・国のあらゆる計画に介入せずにおかない。経済学者ミーゼスが指摘したように、こうした中央計画主義者は独裁主義であり、個人の計画を上書きしたいと願っている。介入政策のお粗末な実績にもかかわらず、自分たちが間違いなく正しいと信じている。

(次より抄訳)
Davos Man Is at It Again: The 2022 Annual Meeting of the World Economic Forum | Mises Wire [LINK]

国家宗教と化し、破綻しかける英国営医療

国民医療制度(NHS)は、官僚主義的で非効率な国家独占となった

英コンテンツクリエーター、ジェス・ギル
(2022年5月30日)

国民医療制度(NHS)は、英国で身近な国家宗教として知られる。英国の医療制度は「我々の」NHSであり、英国の美点の一つと言われる。しかし実際には、国営化された医療が推し進める集団主義は、個人の自律性を否定し、医療を官僚的で非効率な国家独占の手に委ねることになる。

英国民はNHSをほとんど神様のように崇めるため、批判は嫌われ、NHSの失敗はだいたい大目に見てもらえる。よくある言いわけは、資金不足だ。NHSの支出は特に新型コロナの流行中、増加し続けたので、これは真実ではない。

個人は、政府が決めた金額をいくらだろうと支払わなければならない。経済の停滞で日々の食事に苦労する健康な家庭が、国民保健をほとんど使っていないにもかかわらず、その費用を払わなければならない。家計の中で何を優先させるかは、個人が管理できるはずだ。

他のサービスの方が必要なのに、使わないサービスに高額な費用を払って加入する意味はない。自由な市場経済の下では、個人の家計が厳しい場合、より安い医療保険を選択できるだろう。国営医療では、患者は与えられたものを受け取るだけで、選択の余地はあまりない。

英国ではコロナ流行の際、2万5000人の患者が検査や隔離の手配をされないまま病院からケアハウスに移された。これは2020年3月から6月にかけ、ケアホームで2万人の人々が陽性と判定され死亡することにつながった。NHSのコロナ対応で、ケアホームの患者は明らかに後回しにされていた。

より質の高い医療を受けたい人は、民間でない限り、選択肢がない。高齢者がより良い医療を望んでも、国が決めたものを受ける以外には選べない。自由な市場経済なら、高齢者は自分の医療についてより多くの選択肢を持てるだろう。

個人が民間医療を受けたい場合、国民保険料を上乗せして支払わなければならない。つまり、労働者階級にとって民間医療は現実に利用しやすいものではなく、英国の多くの人々は非効率で居心地の悪い公的医療に依存することになる。英国の労働者階級にとって、NHSは安全網ではなく、抜け出せない罠だ。

緊急病院(A&E)でもかかりつけ医(GP)の予約でも待ち時間が増える中、「無料」の医療制度があっても、それを必要とする人が延々と待ち続けて利用できないのでは意味がない。国営医療は、「無料」医療のために選択肢を犠牲にしている。

英国は自由な市場経済を通じた手頃な価格の医療に焦点を当てるべきである。そうすれば、患者に真の選択肢を提供し、医療制度をより快適で利用しやすく、効率的なものにできるはずだ。

(次より抄訳)
The UK’s Single-Payer Healthcare System Has Become a State Religion—and It’s Failing - Foundation for Economic Education [LINK]