2018-11-30

「証拠に基づく政策立案」の限界

最近、データ分析を活用した「証拠に基づく政策立案(EBPM)」が注目されています。NIKKEI STYLEの記事によれば、欧米では近年、この考えが浸透し、日本でも今年8月から政府がEBPM推進委員会を開き、これを導入する動きが出てきました。

政府の政策担当者はこれまで、どれだけの予算を自分の部署の政策に支出できたかという「支出の大きさ」を主眼に政策形成をしてきました。いまさらながらそれをやめ、政策がどれだけの効果を生み出したかという「政策効果の大きさ」を物差しとして政策立案を行おうというわけです。

統計学を駆使したデータ分析には、たしかに興味深いものがあります。2008年、リーマン・ショックに襲われた米政府は景気を刺激する政策として、低燃費車を高燃費車に買い替えたら約40万円の補助金を与える「ぽんこつ車買い替え支援プログラム」を行いました。

この政策について、車販売数の推移を分析した米国の経済学者は「一時的に駆け込み需要を生んだだけで、結果的には需要の総計を増加させはしなかった」と結論づけたそうです。経済学者の伊藤公一朗氏は著書『データ分析の力』で、日本のエコポイント政策についても米国と同様のデータを収集して分析を行うことは可能なはずだと指摘します。

もし専門家が期待するようにデータ分析が税金の無駄遣いを減らすことに役立つのであれば、おおいに結構なことです。実際、海外ではデータ分析の結果を一つの根拠として学校でパソコン無償給付が停止された例などもあるそうです。

しかし、長い目で無駄減らしに役立つかといえば、懐疑的にならざるをえません。データ分析の専門家が重要なことを見落としているからです。それは政府を動かす政治家たちは欲望をもつ生身の人間であり、自分の利益にならないことはやらないという事実です。

データ分析の結果、ある政策に効果がないと言われても、政治家は自分の利益になる政策であれば、あれこれ言い訳をつくってやめないでしょう。あるいは、やめる代わりに別の新しい政策をより大きな規模でやるでしょう。それは政治家と親しい一部の専門家が不十分な検証のままお墨付きを与えた政策かもしれません。

かつて米ジャーナリストのH・L・メンケンは、政治家にとって最大の関心事は「役得にありつくこと」だと喝破しました。政策の決定権を握る政治家たちが聖人君子でない以上、証拠に基づく政策立案には限界があり、悪用される恐れさえあります。(2017/11/30

2018-11-29

違法民泊は悪か

違法な民泊への監視を強める旅館業法改正案が今国会で成立する見通しになりました。行政側に立ち入り検査の権限を与え、罰金の上限額も3万円から100万円に引き上げるそうです。

日経電子版によると、訪日外国人が増加するなか、観光客の新たな受け皿となる民泊の健全な普及を後押しするのが狙いとのことです。

しかし民泊に限らず、「健全」なサービスを普及させるのに政府の規制強化は必要ありません。むしろ逆効果ですらあります。

無許可の違法民泊を問題視する際によく持ち出されるのは、犯罪です。6月に東京で民泊を悪用した覚せい剤密輸事件、7月に福岡で民泊を利用した外国人女性旅行者への性的暴行事件が起き、そのたびに違法民泊は犯罪の温床とのイメージが強調されました。

けれどもこれらの犯罪は例外にすぎません。もし違法民泊の大部分が犯罪の温床なら、政府が規制を強化するまでもなく、怖がって誰も利用しなくなるはずです。

しかし実際には、自治体が許可した正規の民泊の10倍を超える違法民泊があるとみられています。大半の違法民泊は犯罪と無縁であり、だからこそ多くの利用者がいるのです。

そもそも違法民泊が生じる大きな原因は、建築基準法で定める住宅地域の多くで民泊が禁止されているといった規制にあります。建築基準法の地域区分は住宅地に介護老人施設を建てられないなどの問題を引き起こしていますが、民泊の場合も硬直的な規制が家主を法令違反に走らせているといえます。

違法民泊を営むのはいかがわしい一部の業者で、厳しく取り締まろうと自分には関係ないと思うかもしれません。しかし一般市民が違法民泊を敵視し、規制強化に賛成すれば、自分自身が民泊の提供者や利用者として便益を得る自由を狭めるだけです。

法令違反は「悪い」ことです。しかしそれは本当に悪いことでしょうか。住宅など自分の財産を自由に使う財産権は、憲法で保障された権利です。本当に悪いのは規制を破る側なのか、それとも過度な規制の側なのか。違法民泊の問題はそれを問いかけています。(2017/11/29

2018-11-28

不寛容な社会

近ごろ「ダイバーシティ(多様性)」を合い言葉に、互いに寛容な社会をつくろうという運動が盛り上がっています。もし真の寛容をめざしているなら喜ばしいことです。けれども実際には、きわめて不寛容な社会に向かっている気がしてなりません。

ファミリーレストラン大手のサイゼリヤは、再来年9月までに全国のすべての店舗を原則として禁煙とする方針を固めました。

厚生労働省が2020年の東京五輪までに受動喫煙対策を強化する法改正を検討しています。NHKの報道によれば、サイゼリヤでは、客席の禁煙化には改装などに費用や時間がかかるため、国の規制が正式に決まる前に対応方針を固めたものとみられます。

一方、コンビニ大手のミニストップは先週、成人向け雑誌の取り扱いをやめると発表しました。12月1日から本社のある千葉市内の43店でとりやめ、来年1月1日から全国の約2200店に広げます。

ミニストップの発表によると、成人誌の陳列対策に取り組んでいた千葉市からの働きかけをきっかけとして、取り扱いの中止を判断したといいます。

全面禁煙にせよ、成人誌の販売中止にせよ、個々の企業が自主的な判断で実行するのであれば、問題ではありません。喫煙したい利用客は喫煙できる他のレストランに行けばいいし、成人誌を買いたい消費者は売っている他のコンビニに行けばいいからです。

しかし実際にはそうではありません。サイゼリヤやミニストップの例が示すように、背後に政府・自治体の方針や圧力があります。そうだとすれば、1社や2社でとどまる話ではなく、すべての同業他社に広がる恐れがあります。実際、外食産業ではすでに全面禁煙が広がりつつあります。

喫煙や成人誌を不快に感じる人もいるでしょう。いや、むしろそう感じる人が社会の多数派でしょう。しかし、不快に感じても少数派の存在を認めることが、真の寛容のはずです。

もし日ごろ「ダイバーシティ」を声高に唱える人やメディアが本当に寛容や多様性を大切だと考えるのなら、愛煙家や成人誌愛読者の権利を脅かす動きに反対の声を上げるはずです。

けれども残念なことに、そうした声は聞こえません。日本で叫ばれる寛容のすすめとは、しょせんその程度の底の浅いものなのでしょう。(2017/11/28

2018-11-27

企業が現預金を抱える理由

企業の現預金が大きく積み上がっています。政府はこれを問題視し、賃上げや投資に回させようと躍起です。それにしても企業はなぜ、現金を抱えたままなのでしょうか。

現在、金融機関を除いた全産業が保有する現預金は過去最高の191兆円にのぼります。そこで安倍晋三首相は経済界に3%の賃上げを要請し、政府も税制改正などで後押しする構えです。

企業が現預金を抱える理由はいくつかあるでしょう。しかし少なくともその一つは、こうした政府自身の姿勢にあります。そして政府はそれに気づいていません。

日経電子版の記事によれば、企業の「賃上げ倒産」が目立ち始めています。深刻な人手不足の中、人材確保のために賃上げしても業績が伸びず、経営が傾く一因となっています。

人手不足が労働市場の自然な需給に基づくものなら、対応できない企業が淘汰されてもやむをえません。しかし実際には、東京五輪や防災、老朽インフラ対策などを名目とした公共事業の増加や、不動産価格を押し上げる日銀の金融緩和により、特定の産業の求人が膨らんでいます。他産業の人手不足はそのしわ寄せを食っています。

一方で政府は最低賃金の引き上げ、労働時間の短縮、非正規と正社員の格差是正など労働コストの増大につながるさまざまな政策を推進しています。一見、労働者のためになりそうな政策ですが、企業が競争力を失い、最悪の場合「賃上げ倒産」してしまっては元も子もありません。

政府が企業の負担を増すような政策を次々と繰り出し、そのせいで下手をすれば倒産しかねないような状況で、積極的な経営をやれと言われても、土台無理な話でしょう。内閣支持率がまた下がったりすれば、人気テコ入れのため新たにどんな政策が飛び出すかわかったものではありません。

こんなとき経営者としてはできるだけ慎重に構え、リスクに備えて現預金を蓄えておくに限ります。経済への勝手気ままな介入を当然と考える、資本主義国とは思えない政府自身の行動が、企業の警戒心を呼び起こし、現預金を抱え込ませているのです。(2017/11/27

2018-11-26

著作権保護は正しいか

著作権が力を持たなければ、創造的な活動の活気は失われ、芸術家たちは貧しくなってしまう——。政府や業界団体はこう強調し、多くの人々もそう信じています。けれども、それは本当なのでしょうか。

文明の歴史からみれば、著作権が登場したのはごく最近のことです。芸術は文明の始まりまでさかのぼり、少なくとも三千年にわたり、どんな種類の著作権保護もそこにはありませんでした。それにもかかわらず、文学、美術、音楽などの作品がほとんどの社会で多数作られてきたのです。

著作権なしで、たとえば小説家はどうやって稼いだのでしょう。経済学者ボルドリンとレヴァインの共著『〈反〉知的独占』によれば、19世紀の米国では、合法的に売られている本を購入する代金以外、著者にまったく支払いせずに誰でも海外出版物を自由に再版できました。それでもディケンズら英国の作家たちは利益を手にします。

英国の作家たちは新作が自国で出版される前に、原稿を米国の出版社に売ったのです。原稿を買った米国の出版社は、良書をできるだけ早く求める読者の需要に応え、売り上げを伸ばすことができました。英国の作家たちが米国の出版社から前払いで受けた収入は、英国で何年もかけて稼ぐ印税を上回ることがしばしばあったといいます。

著作権保護を強く支持する米ディズニーのアニメ映画の多くは、「白雪姫」「眠れる森の美女」「アラビアンナイト」から、最近製作中止が発表された「ジャイガンティック」の元となった「ジャックと豆の木」に至るまで、著作権のないすぐれた昔話を素材とします。この事実自体、ボルドリンとレヴァイン両氏が指摘するとおり、著作権がなければすぐれた作品は生まれないという同社の主張が正しくないことを示しています。

日経電子版によれば、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)で著作権の保護期間が著作者の死後70年に延長され、しかも外務省はその事実をウェブサイトでひっそりと明らかにしただけでした。文化の発展を妨げかねない重大な決定が、国民の目を盗むように行われることに憤りと危うさを覚えます。(2017/11/26

2018-11-25

技術革新と画家たち

技術革新はしばしば社会に軋轢をもたらします。政治家・官僚や大企業経営者、古い産業の労働者など、既得権益を脅かされる人々が反発・抵抗するからです。

しかし政治力で技術の進歩を妨げれば、社会は停滞し、物質面だけでなく、精神面でも貧しくなります。

話題の「怖い絵展」を監修した中野京子氏の本『印象派で「近代」を読む』によれば、印象派絵画に決定的な影響を与えた発明品があります。チューブ入りの既製絵の具です。

19世紀になるまで、画家は使うだけの分量の絵具を工房内でそのつど調合して作らなければならず、戸外に出て絵を描くことはできませんでした。携帯しやすい既製絵の具や金属製チューブ、ネジ式キャップなどの発明によって、画家は外へ飛び出し、自然光の下で絵を描けるようになったのです。

ここで中野氏は興味深い事実を明かします。既製絵の具の販売を始めたのは「画家になれなかった人たち、あるいは画家として生活してゆけない人たち」だったといいます。

18世紀の終わり頃、創作を断念した元画家や画家志望者は、自分たちであらかじめ練って作った、さまざまな色の絵の具を売り出します。これは今でいう「起業」だと中野氏は指摘します。

写真技術も絵画に大きな影響を及ぼします。写真が肖像画家に与えた打撃は深刻でした。フランスの画家で新古典派の大家、アングルは政府に写真禁止を求めたほどです。

けれども一方で、画家たちは写真を参考に斬新な表現を切り開きます。ドガは写真術を学び、その知見を生かして、踊り子の絵などで斬新な動きのイメージを醸し出しました。

写真の登場という衝撃をきっかけに、印象派もそのライバルであるアカデミー派も真剣に道を模索し、それがかえって絵画の質を高めたと中野氏は言います。もし写真を禁止していたら、この進歩はなかったでしょう。

技術革新による変化を恐れず、むしろ飛躍のばねにする起業家精神こそ、社会を豊かにする原動力です。印象派時代の絵画の歴史は、そのことをあらためて教えてくれます。(2017/11/25

2018-11-24

ノーベル経済学賞を取る法

経済は機械にあらず
経済は、複雑で変化をやめない取引関係から成り立つ。多数の個人の好みと欲望に基づき、生産・売買の精巧で入り組んだパターンが生じる。このパターンは絶え間なく移り変わる。何か一つの目的を果たすために作られた機械とは異なり、経済の目的は一つではなく、何十億もある。
Why the "Economy Is an Engine" Metaphor is So Wrong | Mises Wire

経済学者に予測はできない
同じ刺激に対しても人によって反応は異なる。人間の行動に量的な規則性はない。だから経済学によって人間の未来の行動を予測することはできない。経済学にできるのは(「価格が下がれば需要は増える」のように)一定の条件の下で起こる人間行動の結果を定性的に述べることだ。
Economists Won't Predict the Next Crash — Because They Can't | Mises Wire

進化と市場経済
進化生物学者ドーキンスいわく、良い突然変異より悪い突然変異が多いのは、生命の複雑な仕組みをいじれば改善より改悪の可能性が大きいから。経済も同じ。改悪を避けるには、意思決定を個人に委ねよう。判断を誤っても社会への悪影響は限られ、改善に再挑戦する気持ちも強い。
Richard Dawkins, Biological Complexity, and the Market - Foundation for Economic Education

ノーベル経済学賞を取る法
科学や知識の進歩は経済成長と密接な関係があるといった、昔から知られていたことを数式で表し、新古典派経済学の枠組みに組み込むと、ノーベル経済学賞をもらえる。しかしすでに存在する知見を別の言語で表したからといって、それ自体は科学的知識の大きな進歩とはいえない。
Old Wine in Old Bottles? A Nobel for Clever Packaging? | Mises Wire

2018-11-23

資本主義の主役

今の日本で大企業のトップといえば大半がサラリーマン社長で、自分で会社を起こし、大株主であり続けるオーナー社長は少数派です。まだ若いスタートアップ企業の創業者は別として、オーナー社長は時代遅れで野暮ったいという見方をされがちです。一方、サラリーマン社長のほうが現代的で洗練された印象を与えます。

けれども経済を発展させる原動力となるのは、サラリーマン社長ではありません。オーナー社長です。両者はその本質が異なります。オーナー社長が会社の大部分を所有する資本家であるのに対し、サラリーマン社長はせいぜいわずかな自社株を持つ程度だからです。

その名が示すとおり、資本主義において、資本家かそうでないかは決定的な違いを意味します。資本家は事業に取り組む際、自分の財産を危険にさらします。いきおい、投資には細心の注意を払う半面、十分な見返りがあると判断すれば大胆に資金を投じます。

もし判断を誤って損失を出せば、財産を失って投資する余裕がなくなり、事業の縮小・撤退を迫られます。その一方、洞察力に富む資本家兼起業家は、他人が気づかなかった消費者のニーズを発見してすばやく満たし、増えた財産をさらに投資に回し、社会を便利で豊かにしていきます。経済発展の原動力と呼ぶゆえんです。

これに対しサラリーマン経営者は、事業の成功や不成功で報酬が多少増減する程度で、財産が大きく増えることも失われることもありません。そのため、先行例のない事業はリスクが大きいとして避け、後追いで無難な経営をしがちになります。

厄介なのは、サラリーマン経営者がストックオプション(株式購入権)などで財産を大きく増やしたり、名声や名誉といった財産以外のリターンを手にしたりするチャンスに恵まれた場合です。失敗しても財産を失う恐れがないので、オーナー社長ならやらないような無鉄砲な投資に走ることがあります。

もちろん後追いの経営であっても、経済には貢献しています。けれども原動力とはいえません。政府が資産課税や株式譲渡益(キャピタルゲイン)課税などで企業オーナーという資本家をしいたげ続ければ、資本主義は活力を奪われ、豊かさは失われるでしょう。

今週話題をさらった、DMMグループが70億円を投じる「CASH」買収は、同グループ創業者の亀山敬司氏がメッセージで直接持ちかけて以来、口頭ベースでは合意まで5日ほどのスピードだったといいます。成否はこれからですが、資本主義の主役は資本家だとあらためて認識させられた出来事です。(2017/11/23

2018-11-22

伝統文化はグローバル

伝統文化とグローバル化は相容れないと信じる人が少なくありません。だから「グローバル化は日本の伝統文化を破壊する」という主張をよく耳にします。けれども文化とは、つねに海外の異なる文化を吸収し進化していく、本質的にグローバルなものです。

日本の伝統文化も例外ではありません。今でこそ日本古来の伝統の町とされる京都は、桓武天皇が都を遷した当時、朝鮮半島や中国から移住してきた渡来人であふれていました。大塚ひかり『女系図でみる驚きの日本史』によれば、7世紀の畿内の人口のほぼ30%が渡来人だったといいます。

朝鮮半島と日本の関係は古く、3世紀半ば、百済から多くの技術者や物資が渡来したとされます。さらに5世紀後半、秦の始皇帝の末裔と称する秦氏が嵯峨野・太秦周辺に居住。7世紀後半、百済と高句麗が滅亡すると、日本と特に深い関係にあった百済から亡命者が大挙して渡ってきました。

天皇の御所である大内裏自体、渡来人の秦河勝の邸宅だったという伝承もあり、広隆寺、伏見稲荷、松尾大社など秦氏の関わる寺社は京都に少なくありません。

桓武天皇はそんな京都に長岡京、平安京を造営・遷都します。この造営・遷都も渡来人と関わりが深く、責任者だった藤原種継、藤原小黒麻呂はそれぞれ秦氏の母や妻がありました。

桓武天皇が旧都・奈良から離れた渡来人の街、京都に都を遷した最大の理由も、母が百済の王族の末裔である渡来人だったことと大塚氏は指摘します。桓武天皇は渡来人の血へのこだわりが強く、百済系や漢系など渡来人を6人も妻に迎えました。

その妻の1人、百済永継はもともと藤原内麻呂の妻として真夏や冬嗣を生んだ後、桓武天皇に女官として仕えるうちに愛されて皇子を生みます。歌人の僧正遍昭はその息子です。冬嗣は藤原道長の先祖にあたります。

小倉百人一首で有名な僧正遍昭、文学を愛好し紫式部、和泉式部などの女流文学者を庇護した藤原道長には、ともに百済系の渡来人の血が流れていたわけです。

もし古代の日本が国境を閉ざし、朝鮮半島や中国からの渡来人を排除していたら、魅力ある伝統文化は生まれていなかったでしょう。

先月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に、群馬県高崎市の古代石碑群「上野三碑(こうずけさんぴ)」が登録を認められました。朝鮮半島からの渡来人が伝えた技術で作られ、仏教の広がりや東アジアの文化交流を示す資料とされます。昔から、文化はグローバルだったのです。(2017/11/22

2018-11-21

市場による格差、政府による格差

所得格差は不幸か
殺人や自殺などの社会問題は所得格差(income inequality)が原因といわれる。実際には、貧困層同士の競争よりも富裕層の存在が大きなストレスを与える証拠はない。むしろ所得格差は活発な社会的移動を示し、幸福に寄与する。最新の研究によれば、人は本来、平等な所得再分配を求めるわけではない。
Income equality is no measure of human progress - CapX

市場による格差、政府による格差
経済格差の研究で重要なのは、格差の原因が市場の自由か、市場に対する政府の介入かの区別だ。市場の自由による格差は、たとえ個人差はあっても、社会全体が豊かになる副産物として生じる。政府が起こす格差は、規制や特権による富の再分配というゼロサムゲームの一部である。
Yes, Inequality Is a Problem — When Caused by the Government | Mises Wire

官民癒着による格差
格差問題で真に重要なのは、格差の原因だ。レントシーキング(利権を求める圧力)や政府へのロビー活動で特定の利害集団に有利な規制を実施させ、その結果生じる格差は悪い。大手金融機関の救済、農家への補助金、国内産業を保護する関税、一部の資産家を潤す量的緩和などだ。
3 Problems with How the Media Looks at Inequality | Mises Wire

量的緩和と格差拡大
米連邦準備銀行による量的緩和は富の格差を広げる。人々は超低金利の預貯金を取り崩し、株式などの金融資産を購入する。連銀は資金が預貯金から貸し出しに回るよう望んだが、期待外れ。資金は企業の自社株買いや投資家の信用取引に流れ、経済成長を支える投資には向かわない。
The Fed's Easy-Money Policies Aren't Helping Income Growth | Mises Wire

賃上げ圧力の害悪

政府・与党が企業に対し賃上げの圧力を強めようとしています。日経電子版によれば、賃上げに前向きな企業の法人税の実質的な負担を下げる一方で、高収益にもかかわらず賃上げをしない企業はペナルティーとして特別な減税措置を外すとのことです。

しかし政治の力で無理に賃金を引き上げると、労働コストの上昇を受けて企業が雇用に慎重になり、労働者は職を得るチャンスが小さくなってしまいます。悪くすると、多数の失業者が生じかねません。労働もサービスの一種である以上、価格と需要の法則からは逃れられません。

賃上げ圧力は経済史上、最悪の事態の一因となったことがあります。有名な大恐慌です。

大恐慌当時、米国の失業率が25%にも達したことはよく知られます。この原因について、当時のハーバート・フーバー大統領が自由放任主義者で、必要な不況対策を何も打たなかったからとよく説明されます。しかし近年、事実は逆であることがわかってきました。

大恐慌の発端となったニューヨーク株暴落から1カ月後の1929年11月21日、不況の色が濃くなる中で、フーバー大統領はホワイトハウスに自動車王ヘンリー・フォードをはじめとする米産業界の大物たちを集め、こう提案しました。

「苦しい企業は最悪でも労働時間を削減して雇用を共有してほしい。しかし、一般的な方向は高賃金を維持しつつ雇用を押し上げることにある」(シュレーズ『アメリカ大恐慌』上巻、田村勝省訳)

強制ではありませんでしたが、大統領の要請を受け、会議に出席した経営者らは賃下げをしないと誓い、全米の経営者に同調を呼びかけます。

その結果、米失業率は急上昇していきます。なかでも技能や経験の乏しい労働者は、高い賃金では雇ってもらえず、もろに打撃を受けました。1931年1月時点で、デトロイトでは黒人女性の失業率が約75%(全国平均は14%)に達します。

けれどもフーバーは、自らの賃上げ圧力のせいで大量の失業が発生し、不況が深刻になったことを理解しませんでした。1932年秋、再選を目指す大統領選での演説で、政策の成果を誇らしげにこう強調します。「不況の歴史上初めて、企業の配当、利益、生活費が減少しても、賃金は下がりませんでした」。もちろん再選は果たせませんでした。

賃上げ圧力は、好景気だと弊害が目に見えにくいかもしれません。けれども将来景気が悪化したとき、賃金が柔軟に下がらないと経済的な惨事をもたらしかねません。(2017/11/21

2018-11-20

科学に政府予算はいらない

科学技術の基礎研究は短期の利益に結びつかないので、民間には無理で、政府でなければ担えないという意見をよく耳にします。けれども歴史を振り返ると、それが思い込みにすぎないことがわかります。

原子力を例にとりましょう。初期の原子力研究の大半は政府の予算に頼らず、民間財団や大学の資金で賄われていました。

原子物理学の父と呼ばれ、1908年にノーベル化学賞を受賞したアーネスト・ラザフォードが研究に携わったのは、英国のマンチェスター大学。現在は他の大学と統合して国立大学となりましたが、もとは19世紀半ば、地元の繊維商ら実業家の寄付により設立されました。マンチェスターは産業革命後、綿織物工業の中心地として発展した商工業都市として有名です。

ラザフォードに学び、量子力学を確立したニールス・ボーアが母国デンマークに設立した研究機関、ニールス・ボーア研究所は、1920~30年代に原子物理学研究の中心地となります。この研究所の財政を支えたのも、ビール醸造大手カールスバーグの財団を中心とする民間の資金です。

一方、1940年代になると第二次世界大戦に伴い米国やドイツの政府が原爆開発に乗り出し、研究資金が政府予算で賄われるようになります。これは原子力の平和利用研究をかえって妨げました。厳しい秘密主義により、研究者間の自由な情報交換が規制されたためです。

原子力研究に対する政府の介入は、科学全般にも悪影響をもたらします。米政府は戦後も原子力に過剰な期待を抱き、他分野の研究者や技術者まで動員したため、それらの分野で人材不足を招きました。

政府が特定の技術に肩入れすると、人材や物資が他の産業分野に回らず、健全な経済発展ができなくなります。

極端な例が、かつてのソ連の宇宙開発です。1957年、ソ連は人類初の人工衛星の打ち上げに成功し、先を越された米国など西側諸国に「スプートニク・ショック」と呼ばれる衝撃を与えます。しかし食料品や日用品を作ったり輸入したりする経済力は育たず、結局、国は崩壊しました。

日経ヴェリタスの記事「量子コンピューター革命」で、東京工業大学教授の西森秀稔氏は、政府の予算が乏しい中、民間金融の活力を生かすことが重要だと指摘します。苦肉の策かもしれませんが、政府に頼らない民間主導の研究はむしろ量子コンピューターの未来を明るくするはずです。(2017/11/20

2018-11-19

国家、このあいまいなるもの

私たちは普段、国家を非常に確かな存在と考えています。しかし世界にある風変わりな小国にまで視野を広げると、国家ほどあいまいで奇妙なものはないと思えてきます。

一般に国家が成立するための3要素は「領土、国民、主権」とされます。ところが十字軍時代のカトリック修道会を発祥とするマルタ騎士団は、領土がないのに100以上の国および欧州連合(EU)と外交関係を結び、国連にもオブザーバーとして参加しています。

高級ブランド店が軒を連ねるローマの通りのビルを本拠とし、イタリアに治外法権を認められています。カトリックの頂点に立つローマ法王率いるバチカンとも政治的には対等に渡り合います。

報道などでは、国家ではなく「主権実体」とされますが、国家との区別がよくわからない主権実体という概念を持ち出さざるをえないこと自体、国家というもののあいまいさを示しています。

マルタ騎士団とは対照的にきわめて浅い歴史ながら、劣らず興味深いのは、英国沖の公海上にあるシーランド公国です。今年9月2日、「建国」から50年を迎えました。

1967年、第二次世界大戦中に英軍が築いた人工島の海上要塞を、元英軍少佐で漁師のパディ・ロイ・ベーツが占拠。ロイ・ベーツ公を名乗って独立を宣言します。

2006年に火災が起こり、国土は壊滅状態となりますが、ロイ・ベーツ公夫妻が私財をなげうって再建します。他人の税金に頼ってばかりの他国の政治家は見習ってほしいものです。

ロイ・ベーツ公は2012年10月に91歳で死去。摂政を務めていたマイケル・ベーツ公太子が父の後を継ぎ、2代目シーランド公に即位しました。ハフポストの記事によると、シーランド公国は「ジョークということは全然なく、100%真剣」。いいですね。

地震で大西洋に没したとされる伝説の島、アトランティス。その名を付けた国を建国した人々がいました。1917年、デンマーク人のグループが戦乱の欧州を逃れて米フロリダ沖の群島に移住し、アトランティス公国を宣言します。

NIKKEI STYLEの記事によると、1930年代から1950年代にかけての米国務省の行政記録には、公国元首が同省に宛てて「いずれかの島または国内への不法侵入はすべて懲役刑に相当する犯罪にあたる」と警告を発した文書があるといいます。惜しいことに、今ではもうこの国はないようです。

11月16日の投稿「海上国家へようこそ」で書いたように、太平洋に人工島を浮かべ、新しい国を作る構想もあります。国家とは何か、考えさせられる機会が増えそうです。(2017/11/19

2018-11-18

税軽減は補助金にあらず

税について議論するとき、陥りやすい誤った考えがあります。税の軽減や免除を特別な恩恵のように受け止め、一部の人だけがそれを享受するのは不公平で、許してはならないという考えです。

日経電子版の記事によれば、政府は中小企業の廃業増加を食い止めるため、税制を見直します。これに対し読者の間で、税金を投入してまで中小企業主を助けるのはおかしいと異論が出ています。

もし本当に税金が投入されるのであれば、たしかにおかしなことです。けれども記事を読んでみると、どうもそういう話ではありません。

記事によれば、今は親族内で会社を引き継ぐ場合、相続税や贈与税の支払いを猶予する制度があります。しかし、雇用の8割以上を維持しないと全額納付を迫られ「使い勝手が悪い」と不評です。政府はこうした要件を見直します。

これは税金を投入する話ではありません。税負担を軽くする話です。二つは似ているようで、まったく違います。

中小企業主を助けるために補助金を与えるのであれば、それは税金の投入です。ただし、その税金は他人のお金です。だから使い道が適切かどうか問題になります。

一方、中小企業主を助けるために税金の負担を軽くする場合、その税金は他人のお金ではありません。中小企業主自身のお金です。税軽減は自分のお金を返してもらうにすぎません。補助金ではありません。

それでもサラリーマンなど他の納税者は、中小企業主だけが税軽減の恩恵にあずかるのは不公平で許せないと思うかもしれません。もともと自営業者はサラリーマンに比べ課税所得の捕捉率が低いという恨みもあります。けれどもそれは悪平等の思想です。

税軽減を受けられない納税者が、自分の負担が重くなったと感じ、不公平だと非難したくなる気持ちはわかります。しかしそれはたとえるなら、奴隷が自由になった仲間をねたみ、憎むようなものです。悪いのは自由になった奴隷ではありません。他の奴隷に自由を許さない奴隷主です。

同じように、税を減免される納税者は悪くありません。悪いのは無駄な支出を削ろうともせず、他の納税者に負担を押しつける政府です。

しかも中小企業主の相続税や贈与税は減免されるのではなく、支払いを猶予されるだけです。これでは多少見直すくらいでは廃業は止まらないでしょう。税は国民同士の憎しみを煽り、国を滅ぼします。(2017/11/18

2018-11-16

スイスという希望

スイスという希望
「経済はあまねく、政治は影もなし」。19世紀スイスを表した言葉。その姿は今も健在。連邦国家で中央政府の権限は小さい。税の大半は地方税で、連邦税の割合は約20%。不満なら他の町の選択肢が多い。住民投票で政治に意思を直接反映でき、軍や兵役はあるが戦争を避けてきた。
Economics Everywhere, Politics Nowhere: Switzerland's Six Pointers Towards Hope For Western Civilization. - Center for Individualism

スイス銀行業の深慮
スイスの銀行は一部を除きオープンバンキングはリスクが大きいとして懐疑的だ。慎重さよりも便利さ、信頼できる経験よりも目新しさ、文化的伝統よりも市場の流行を重視するような銀行業には批判的だ。自動資産運用サービスは安い手数料にもかかわらず顧客獲得に苦労している。
FinTech, Robo Advisers, and the Soul of Swiss Banking | Mises Wire

銀行秘密の砦
スイス銀行業の秘密保持に対し風当たりが強いが、脱税と重大犯罪を除けば今なお健在だ。銀行の秘密保持は、法の支配が滅びたり風前の灯だったりする国に住む個人や家族を保護する。スイス政府は繰り返し、正当な顧客のデータを犯罪者や悪辣な政府から守る決意を表明している。
The Death of Swiss Bank Secrecy - LewRockwell

向上心と嫉妬心
貧困を解決する方法は、貧困層が勤勉と自己改善により豊かになる機会を妨げないこと。こう考える社会は向上心型社会である。今の向上心型社会には香港、シンガポール、韓国、スイス、チリなどが含まれる。米国はかつて向上心型社会だったが、最近は嫉妬型社会に変わってきた。
Why Aspirational Societies Are Better Than Envious Ones - Foundation for Economic Education

海上国家へようこそ

優れた起業家は、政府が定める時代遅れの規制や理不尽な課税を賢くかいくぐり、便利で安価な製品・サービスを消費者に届けます。けれども、既得権益を侵された政府やその関係者から目の敵にされ、規制や課税を強化される場合があります。そんなとき、どうすればいいでしょうか。

世界的に著名な起業家が出した答えは「それなら自分たちの国をつくり、そこに移り住めばいい」という大胆極まるものです。

米決済大手ペイパル創業者で大富豪のピーター・ティール氏らが創設した非営利団体、海上居住研究所(Seasteading Institute)は2020年、南太平洋のタヒチ沖に世界初の海上国家を建設する予定です。

同研究所は今年初め、仏領ポリネシア政府から人工島建設の同意を得ました。建設はまもなく始まります。ニューヨーク・タイムズの記事によれば、2020年までに新国家の核となる10を超す島をつくって住宅やホテル、オフィス、レストランを建て、人が住めるようにする計画です。

およそ6000万ドル(約68億円)の費用は、仮想通貨技術を使った資金調達(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)で集めるそうです。

同研究所所長のジョー・カーク氏は「2050年には島を数千に増やし、それぞれが都市として独自の統治を行えるようにしたい」と話します。同氏は既存国家の政府について「改善がない」と批判します。「過去数百年、進歩がない。土地は暴力で独占したくなるからだ」

まるでSF小説のような海上国家が成功するかどうかはまだわかりません。けれども、世界を根底から変える可能性を秘めた試みであることは間違いありません。起業家の使命が旧来の発想を疑い、代替案を提示することだとすれば、まさにその王道を行く挑戦といえます。

海上国家が出現する2020年といえば、東京五輪が開かれる年です。五輪もいいでしょう。けれどもスポーツを既存国家の枠にはめ、あわよくば政治や利権に利用しようとする発想から新しい世界が生まれるとは思えません。(2017/11/16

2018-11-15

起業という革命

衆院選が終わった後も、政治の世界はなにやかやと騒がしい毎日です。しかし政治がどうなろうと、その間に社会では静かな革命が日々進行しています。起業家という革命家たちによってです。

国政選挙をはじめ、政治に関する出来事は派手で目を引きます。あたかも政治が社会の変化をリードしているかのように見えます。そう信じて政治の世界に飛び込む人もいます。

しかし政治は社会の変化を先取りするのでなく、せいぜい後追いするものでしかありません。最初に変化するのは経済であり、政治ではありません。政治は受け身です。もし人々が新しい製品やサービスを支持し、経済のしくみが変われば、社会は変わり、政治も変わらざるえなくなります。その変化を起こすのが起業家です。

起業によって社会や政治を変える方法はたくさんあります。最近でいえば、ライドシェアはタクシーの地域独占を揺さぶります。民泊は政府の都市計画に再考を迫ります。仮想通貨は中央銀行に操作される国営通貨や高コストの古い決済制度に挑戦します。ホームスクールやオンライン教育は政府の教育制度を根底から問い直します。

日経産業新聞で始まった連載「Startup X」によれば、貧富や地域による格差を情報技術(IT)でなくすエドテック(Education Tech)が急成長しています。スマホを使って授業を無料配信する葵(東京・新宿)は、登録者数が30万人を超えたそうです。創業者が保険の営業マン時代、娘の教育に悩むシングルマザーと出会い、今の教育に疑問がわいたのが、起業のきっかけだったといいます。

あらゆる起業は、規制で守られ税で維持される既得権益に対する革命です。暴力でなく、人々を満足させることによって実現される革命です。創造的破壊とも呼ばれます。スタートアップ企業はすべての政治運動を合わせた以上に、創造的破壊によって社会のより良い変化に貢献していくことでしょう。(2017/11/15

2018-11-13

アジア資本主義の未来

「資本主義は終焉しつつある」という暗い見通しをときどき見かけます。たしかに、欧米主導の資本主義は衰退の危機に瀕しているかもしれません。けれども、それだけで資本主義の終焉を語るのは時期尚早でしょう。資本主義の未来を拓く原動力が勢いを増しているからです。アジアです。

国際政治経済学者の進藤榮一氏は著書『アメリカ帝国の終焉』で、アジアにおいて「もう一つの資本主義が誕生し、蘇生し、興隆しつづけている」と強調します。

これまで後発国の発展は、先進国を追い上げるのがせいぜいとされてきました。しかし最近は生産のモジュール化で、一気に追い抜く戦略が可能になりました。先端技術を選択的に利用しながら後発技術をフル稼働させ、膨大な人口のニーズを満たすのです。

代表は中国の山寨(さんさい)企業です。広告や流通にお金をかけず、先端技術は日本企業から部品として入手。特許の縛りを巧みに回避し、庶民に商品を安く早く売り込みます。精巧だけれど値段が高く、巨大な途上国市場に食い込めない日本製品とは対照的です。

勃興するアジアを牽引する中国の躍進は、中華帝国の再来ととらえられがちです。しかし、それは正しくないと進藤氏は異を唱えます。中国の興隆は単独の力によるものではなく、アジアの他の国々と相互に連鎖・依存・補完することで可能になっているからです。

中国で人民解放軍と資源エネルギー産業との軍産複合体が生まれ、南シナ海での膨張主義的行動につながっているのは事実だと進藤氏は認めます。けれども資源開発を日本など周辺諸国とともに進めれば、膨張主義の拡大を防ぐ抑止力になると論じます。

日経電子版の記事によれば、日本は東南アジア諸国連合(ASEAN)と経済連携協定(AJCEP)で最終合意しました。日本自身が衰退への道を脱するためにも、軍事力ではなく、経済の力でアジアの平和と繁栄に貢献してほしいものです。(2017/11/13

2018-11-11

言論の自由は守れるか

神奈川県座間市のアパートで9人の遺体が見つかった事件を受け、菅義偉官房長官は10日、再発防止策としてツイッターの規制について検討の対象になるだろうという見通しを述べました

しかしツイッターを規制すれば、自殺願望に関するやり取りは規制されない地下サイトなどに移り、かえって異常を発見しにくくなるだけです。

ツイッターをはじめとするインターネット上でも「意味がない」「事件を利用し言論の自由を剥奪しようとしてる」「殺人者が死体の解体にのこぎりを使ったら、のこぎりの使用を規制するのか? 」と批判の声が相次いでいます。きわめてまっとうな反応といえます。

多くの人々がネット上で自由な発言を楽しむようになった結果、規制に反発する意見が増えたと感じます。心強いことです。

実際、政府側もこうしたネット世論を無視できなくなっています。菅官房長官の言い回しは「ツイッターの規制について、検討の対象に今後はなるだろうと思いますけれど、現段階で予断を持ってお答えすることは控えたい」と慎重なものでした。

けれども、これだけで言論の自由が安泰だとはいえません。残念ながら市民の中には、別の場面では規制を求める人々も少なくないからです。

その典型は今年9月、同じツイッターに対し行われた抗議活動です。差別表現を伴う投稿を放置しているとして、市民らが東京都内の日本法人前に投稿を印刷した紙を敷き詰め、「ヘイトツイートは表現の自由にあたらない」などと書かれたポスターを掲げました。

ヘイトスピーチやヘイト投稿が言論・表現の自由にあたらないという主張は海外でも一部支持を集めていますが、善意に発したものだとしても、あやうい考えといわざるをえません。何をヘイト表現とするかは線引きが難しく、自由の抑圧に悪用されかねないからです。

本来、言論のプロであるメディアは規制を求める市民をたしなめ、それを機に議論を深める役割があるはずです。ところがツイッターへの抗議活動に関しては、皮肉なことに、いつもは言論の自由を守れと叫ぶリベラルなメディアほど、市民側に同調した報道ぶりでした。

言論の自由は本当に守れるのか、心もとないといわざるをえません。(2017/11/11

2018-11-10

自由が失われるとき

定価1000円の古本をアマゾンに出品し、5700円で売れたら詐欺罪で逮捕され、有罪に——。さいわい、本の世界ではそんな悪夢のような話はありません。ところがコンサートやイベントの世界では、現実になっています。

今年9月のことですが、人気ロックバンド、サカナクションのコンサートの電子チケットを転売目的で取得したなどとして詐欺罪に問われた男性に対し、神戸地裁は懲役2年6月、執行猶予4年を言い渡しました。

男性は今年2月、インターネットのチケット販売サイトを通じて、サカナクションの電子チケット2枚(販売価格計1万3000円)を転売目的で購入。入場券となる二次元コードを表示するスマートフォンを貸し出すことで2枚を計7万4000円で転売したそうです。

チケットの高値転売を非難する人々はよく、「異常な高値」といいますが、この事件の場合、転売価格は販売価格の約5.7倍。絶版になった古本だとこれくらいの値段はざらですから、もしチケットと同じルールが導入されたら、逮捕者が続出することでしょう。くわばらくわばら。けれども笑いごとではありません。

あらゆる転売を禁止したら市場経済が成り立たないことは明らかなので、チケット転売を批判する人々も、転売そのものは認めます。その代わり、「高値転売」を非難します。「異常な高値」がよくないというのです。

しかし「異常」の基準は何でしょうか。そんなものはありはしません。売り手と買い手が互いに納得して取引し、そこで成立した価格は、すべて正当なものです。他人から見て「異常」だからといって取引を否定したら、市場経済は成り立ちません。

音楽ファンの中には、チケット転売をなりわいとする転売屋が厳しい摘発でいなくなれば、一般のファンに回るチケットが増えると期待する人がいます。けれどもこれまで転売屋を通じて買っていた人が一般販売に回りますから、買えずに悔しい思いをする人は減りません。

日経電子版の記事によれば、ヤフーが「ヤフオク」のガイドラインを改定し、転売目的とみられるチケットの出品を禁止しました。ヤフーがそう判断し、実行するのは自由です。しかしそれは本当に利用者のメリットになるのでしょうか。2020年東京五輪を控え、政府がチケット転売規制を強める気配があるのも気がかりです。

自由が失われるとき、それは大衆の支持を得やすい、ささいなところから始まるものです。古本転売の悪夢が現実にならないことを祈ります。(2017/11/10

2018-11-09

ロシア革命の亡霊

11月7日はロシア革命からちょうど100年でした。1917年にレーニン率いる急進的な社会主義勢力が帝政ロシアの当時の政権を奪取し、世界初の社会主義国家、ソビエト連邦(ソ連)の樹立につながった革命です。

資本家に搾取されず、労働者が豊かな生活を送るはずだったソ連は、飢饉や弾圧などで膨大な犠牲者を出した末、1991年に崩壊しました。

けれども「ソ連は社会主義だから滅びた。資本主義の日本には関係ない」と考えたとしたら、それは誤りです。ソ連が滅びたのは、政府が市場経済の原理に無知だったからです。日本に無縁の話ではありません。

松戸清裕『ソ連史』によれば、ソ連の最高指導者だったフルシチョフは1957年、3〜4年のうちに国民1人あたりの食肉・牛肉・バターの生産量で米国に追いつき、追い越せと号令しました。これは非現実的でした。畜産物の政府買付価格は安くて生産コストに満たず、農民が生産増大に積極的に取り組もうとしないからです。

農民の生産意欲を高めるには、買付価格の引き上げが必要です。それには小売価格を上げざるをえません。平均30%引き上げたところ、肉製品の不足が続いていた不満もあって、国民は強く反発しました。ある州では数千人が抗議し、軍の発砲で数十人が死傷します。

またフルシチョフは、安価で供給されるパンを餌に家畜を飼う都市住民が少なくないことが、パン不足を招いているとみて、都市住民による家畜の飼育を禁止しました。この結果、都市は食肉不足に陥ります。農家の付属地削減で野菜も不足しました。

環境破壊は資本主義の病だという俗説に反し、社会主義のソ連で環境は大規模に汚染されていました。利潤の最大化への無関心が罰金や悪評をいとわぬ態度につながったとも、生産計画達成のため環境対策を後回しにしたともいわれます。

今の日本はソ連のような独裁国家ではありませんし、ソ連ほど厳しい経済統制を行なっているわけでもありません。けれども財政危機に瀕しているにもかかわらず、政府の規模拡大をやめようとせず、市場経済への介入を改めない傾向は、ソ連と同じ道をゆっくりたどっているように見えます。ロシア革命の亡霊はそばにたたずんでいます。(2017/11/09

2018-11-08

代表民主制の虚構

政治のまやかし
「選挙とは盗品を前もって売り出す競りのようなもの」「善良な政治家なんてものは正直な強盗と同様ありえない」「政治の目的は大衆を怖がらせ、安全を求めさせること。そのために怪物を次々に登場させるが、すべてまやかしにすぎない」。ジャーナリスト、H.L.メンケンの名言。
12 Naughty Quotes from H.L. Mencken on Government, Democracy, and Politicians - Foundation for Economic Education

代表民主制の虚構
代表民主制の虚構。政治家がたとえ選挙区の有権者を誠実に代表しようとしても、不可能である。有権者全員の考えを知ることはできないからだ。有権者が多様化すればするほど、全員に平等に役立つ法律の制定はできなくなる。少なくとも有権者が何十万人もいる選挙区では無理だ。
No Matter How You Vote, The New Congress Won't Represent You | Mises Wire

政治のカネを減らす法
政治にかかる金を本気で減らしたければ、良い方法がある。地方分権を進め、行政区を小さくすることだ。米国での研究によれば、大きな選挙区の議員がマスメディアでの宣伝活動に巨費を投じる一方、小さな選挙区の議員は催し物や説明会で有権者と対面で交流し、安い費用で済む。
Get Rid of Campaign Finance Laws — Decentralize to Make Campaigns Cheaper | Mises Wire

政府への同意にあらず
選挙で投票しても、政府のすることすべてに同意したことにはならない。中小企業に高い税をかける公約を掲げる候補者Aと、それより低い税を公約する候補者Bしかいないときに中小企業主が投票したからといって、そんな選択肢しか与えない政治制度を支持したことにはならない。
No, Voting Doesn't Mean You "Support the System" | Mises Wire

経済に「反日」はない

歴史認識や領土問題で何かにつけて反目し合う日本と韓国。けれどもそれは所詮、政治の話です。経済には大昔から国境はありません。

高田貫太『海の向こうから見た倭国』によれば、早くも弥生時代後半から、日本列島と朝鮮半島の間で交易が本格化していました。その主役は日朝の沿岸や島々に住む、漁労をなりわいとし、優れた航海技術をもつ人々(海民)です。

かつて交易の対象はおもに青銅とみられていましたが、近年の研究により、鉄も対象だとわかったそうです。

韓国・釜山のトンネネソン遺跡からは鉄器を作る当時の工房が発見されましたが、そこから出土した土器の多くは、日本列島の弥生土器やそれをまねて現地で作られた土器でした。これらを弥生系土器と呼びます。大半は北部九州でみられる壺や甕(かめ)です。

工房で使っていた土器が弥生系土器ということは、そこで鉄器を作っていた人々の中に北部九州から渡ってきた弥生人が含まれていた可能性が高いと高田氏は指摘します。

弥生人は沿岸にある港町を利用し、鉄を求めて海峡を往来していたとみられます。さらに沿岸にとどまらず、鉄鉱石を産出する半島南部の内陸にまで鉄器を求めてやってきた形跡があるといいます。

一方、この交易ネットワークを利用し、朝鮮半島南部からも北部九州に盛んに人々が渡ってきていました。その活動は両地域の間にとどまらず、紀元前108年に中国前漢によって楽浪郡が設置された後には、中国から半島南部、北部九州から、西日本の内陸、驚くことに東日本まで及びます。

たとえば神奈川県海老名市の河原口坊中遺跡では、朝鮮半島中南部で製作されたとみられる、全長28.5センチの長大な板状の鉄斧が出土しています。

このように古代の日本列島と朝鮮半島は交易でつながり、盛んに人々や物が往来していました。

今も庶民は変わりません。日本人は韓国製のスマートフォンや韓流ドラマを楽しみ、韓国人は日本の化粧品や医薬品を愛用する。「反日」「反韓」とは無縁のこのつながりがある限り、両国関係は大丈夫です。(2017/11/08

2018-11-07

規制は弱者を助けない

政府の規制は弱者を守るためにあると信じられています。けれども実際には、政治力のある企業や団体の既得権を守るために導入される規制もあります。弱者を守るために導入された規制であっても、結果的に弱者を苦しめる場合が少なくありません。

日経電子版の大幅刷新を機に連載が始まった産業内幕ルポによると、フリマアプリ大手、メルカリが年内に計画していた東京証券取引所への上場の延期が濃厚になりました。金融庁や警察庁が難色を示しているといいます。

記事には、規制について興味深い指摘があります。資金決済法が定める資金移動業者に登録すると、ユーザーが口座を開設するときに免許証のコピーなど身分証明書を郵送して本人確認をしなければなりません。

なんとも時代遅れで面倒な手続きですが、記事によれば、法制化の過程で銀行からの圧力があり、無意味な規制がかけられたそうです。政治を動かせる強者の既得権を守るための規制です。

実際、2012年に日本でスマホ決済サービスを始めたペイパルが4年後に撤退したのは、資金移動業者に登録した結果、本人確認の手続きが煩雑でユーザーが集まらなかったのが一因といいます。

メルカリはペイパルの二の舞にならないよう、資金移動業者の登録を避けようとしています。しかし物品を販売して得た売上金を預けておくことができるメルカルのしくみは、資金移動業者にあたるとの指摘があるそうです。

記事では触れていませんが、メルカリのこのしくみは、生活保護受給者の助けになっているともいわれます。売上金を出金しなければ、銀行口座を定期的にチェックするといわれる役所に収入を知られず、生活保護を打ち切られる恐れがないからです。

ルール違反かもしれません。けれども、生活費の不足を補うためやむをえずという場合も少なくないでしょう。

メルカリでは以前、額面以上の現金が出品され、問題とされました。借金に苦しむ人がクレジットカードで現金を購入し、急ぎの返済に充てているといわれました。今は禁止されています。

企業がさまざまに工夫するサービスは、法的には微妙な逃げ道を含め、弱者を助けます。何か弊害があっても市場の自律的なルールで解決できる場合が大半です。政府の画一的な規制はむしろ弱者を苦しめかねません。(2017/11/07

2018-11-06

クールジャパンの真の教訓

官民ファンドのクールジャパン(CJ)機構で、損失リスクを抱える事例が相次いでいます。日経電子版の記事によると、発足から丸4年の投資24件中、決定後1年を超す事業の過半が収益などの計画を達成できていないそうです。

誰もがその経営判断の甘さと不効率にあきれることでしょう。けれども、CJ機構や官民ファンドだけが悪いのではありません。政府のかかわる事業すべてに共通する問題であることが、記事を注意深く読めばわかるはずです。

記事では「まず投資ありき」の姿勢がCJ機構の戦略なき膨張を招いていると指摘します。正しい指摘です。けれども、「まず投資ありき」はCJ機構や官民ファンドに限った話ではありません。政府の公共事業はすべて、「まず投資ありき」で決まっています。予算を消化しなければならないからです。

経済学者ケインズを教祖とするマクロ経済学では、公共事業は雇用を生むから正しいと主張します。たしかに公共事業は雇用を生みます。しかしそれをいうなら、CJ機構などの官民ファンドだって、伝統工芸の食器や衣類、食品などを作るため、それなりの雇用を生んでいます。

もし雇用を生むという理由で公共事業を擁護するなら、CJ機構だって擁護しなければならないはずです。そんなことにならないのは、CJ機構の損失リスクが国民に伝わり、納税者のコストが意識されるからです。

一方、一般の公共事業は官民ファンド以上に採算が不透明で、納税者のコストが意識されません。むしろ納税者にコストを意識させないよう、わざと採算をわからなくしているふしがあります。その結果、官民ファンドほど批判されないにすぎません。

記事では、CJ機構の投資先決定に経営陣の不透明な関与があると指摘します。これまた官民ファンドに限った話ではありません。一般の公共事業では、政治家が陰に日に大きく関与しています。

CJ機構は日本の経済政策の例外ではありません。縮図です。世耕弘成経済産業相は「CJ機構の抜本的な見直しを指示した」と5月の国会で答弁しましたが、抜本的見直しが必要なのは、政府が当然のように市場に介入する姿勢そのものです。(2017/11/06

2018-11-04

愚かな税の大迷惑

観光庁が出国税の導入を検討しています。訪日外国人の増加を背景に、国内の観光資源を整える財源に充てるのが狙いだそうです。ところが実際には、日本人の海外旅行や出張の旅客も対象といいます。来日客でもないのにどうして払わなければならないのか、理解に苦しみます。

1人あたりの徴収額は1000円を見込むそうです。観光庁はこれくらいなら大丈夫と考えているようですが、格安航空会社(LCC)の利用客や若者の旅行者には無視できない金額でしょう。肝心の来日客が減ってしまったら元も子もありません。

出国税は欧米にもあるそうですが、税金の場合、欧米でやっているからまともだとはいえません。歴史上、日本顔負けの愚かな税を数多く導入してきたからです。英ニュースサイト、キャップXで英国史上有数の愚かな税を紹介しています。

1712年に導入された「壁紙税」。当時、上流・中産階級の間で人気となった、色や模様付きの壁紙を標的にしました。

税導入の結果、非課税の無地の紙を買い、自分で彩色・彩画する人が続出。税は壁紙作りに余計な時間を取らせ、経済全体の効率を悪化させました。

1696年に導入され、150年以上も続いた「窓税」。これも富裕な市民が標的です。窓が10個以上ある建物が課税の対象となりました。税を逃れるため、多くの家が窓をれんがで塞ぎます。

政府の意図に反し、窓税で一番苦しむことになったのは借家人として入居する貧困層でした。小さい家、窓の少ない家が増えた結果、暗くて狭い住環境を強いられたのです。

「帽子税」もあります。1784年から1811年まで、特別売上税の対象になったのです。当時、帽子は壁紙や窓と同じく、金持ちの贅沢品とみられていました。

帽子屋は課税を逃れるため、帽子の呼び名を「かぶり物(headgear)」に変えました。政府は帽子の法的な定義を見直さざるをえなくなります。法律専門家が大まじめで帽子の定義に貴重な時間を割かなければならないとは、どうみても無駄です。

日本の出国税にも、海外旅行は贅沢だから課税するという時代錯誤な感覚を感じます。愚かな税として社会に迷惑を及ぼし、将来恥をかかないよう、今のうちに撤回してはどうでしょうか。(2017/11/04

第3の道はない

農業支援策の欺瞞
トランプ米政権は、米国の高関税措置への報復で中国などが米農産物にかけた関税の影響を和らげるため、農業支援策を講じる。これは問題解決にならない。支援額は農家が貿易戦争で被る損失には満たないし、大手の農業関連企業を潤すばかりで、小規模な農家の助けにはならない。
Protectionism Abroad and Socialism at Home | Mises Wire

幼稚産業を保護するな
将来有望な「幼稚産業」を自由貿易から保護せよとの意見がある。しかし将来どの産業・企業が成長するかは、政治家や官僚にもわからない。かりにわかったとして、その産業が成熟したとき政治家が保護をやめるとは思えない。建前がどんなに立派でも、保護主義は腐敗をもたらす。
'Infant Industry' Argument Does Not Justify Trade Barriers | Competitive Enterprise Institute

介入政策の末路
もし政府が命じ、より安全に運転できる自動車を造らせたなら、人々は安全運転をしなくなり、その結果、交通事故の死亡率は期待したほど下がらないだろう。一見正しそうな政府の介入政策に賛成するのは賢明でない。この警告を繰り返し発することがエコノミストの重要な役目だ。
Economics Is the Best Mythbuster in History - Foundation for Economic Education

第3の道はない
金融緩和は経済危機と不況をもたらす。信用膨張はあらゆる商品とサービスの価格を高騰させる。市場実勢を上回る水準に賃金を無理やり上げれば、大量の失業が続く。価格に上限を設けると商品の供給が落ち込む。だから資本主義と社会主義を混ぜ合わせた「第三の道」は失敗する。
The Bigotry of the Literati | Mises Wire

2018-11-03

王道の企業、邪道の企業

企業には2種類あります。一つは、魅力ある商品・サービスで顧客を満足させ、その対価で自分も富を築く企業。もう一つは、権力と結託して不公正な取引で潤う企業です。いうまでもなく企業としては前者が王道、後者は邪道です。厄介なことに、同じ企業が王道から邪道に道を踏み外す場合もあります。

昔からそうでした。清水廣一郎『中世イタリア商人の世界』によれば、イタリア商人は13世紀、フランドル特産の上質毛織物やイングランドの羊毛をフランスのシャンパーニュの市で取引し、台頭していきます。欧州各地に支店網も巡らしました。

その一方で、王侯貴族ら権力者と結びつきます。権力者にとって、イタリア商人は資金力だけでなく、優れた事務能力や金融の知識も大きな利用価値がありました。

イタリア商人は宮廷の財政を管理する財務官のような役割を担い、貨幣の発行にも知恵を貸します。フランス王フィリップ4世がしばしば行った貨幣の悪鋳の責任は、イタリア商人にあると非難されたほどです。

こうして当初は市場で頭角を現したイタリア商人は、清水氏が述べるように、権力者に密着してさまざまな特権を獲得する典型的な「特権商人」の道を歩みます。

経済力に加え、政治力まで手中にしたのですから、イタリア商人の地位は盤石に見えます。しかし、むしろもろさが潜んでいました。14世紀半ばに英仏間で百年戦争が起こり、両国の王から資金を求められたイタリア商人は、多額の貸し付けを余儀なくされます。その原資には各地の顧客から預かったお金も含まれていました。

結局、英国王に対する過度の貸し付けは取り立て不能となります。一方でフランス王からは敵の英国王に貸し付けを行ったかどで社員が逮捕され、商品は没収、信用が失墜しました。栄華を誇ったイタリア商人は相次いで破産します。

最初は王道を歩んでいた企業が、規模が大きくなるにつれ権力と癒着し、規制や補助金で守られる邪道に陥る例は、近現代の日本でも少なくありません。しかし最後に残るのは、政治に頼らず、顧客に支持される王道の企業です。(2017/11/03

男女格差の真実

CEOと囚人
男性はノーベル賞受賞者、著名企業CEOのそれぞれ95%、STEM(科学・技術・工学・数学)専攻学生の68%を占める。だが一方で囚人の93%、自殺者の80%弱、ホームレスの70%を占める。男性が囚人になるのは本人のせいだとしたら、CEOになるのも本人のおかげと言わなければならない。
Your "Privilege" Level: How Much We Can Steal From You in the Name of Equality | Mises Wire

男女格差の真実
男女の賃金格差の原因は差別ではなく、おもに家事と育児に割く時間の違いによる。だから結婚せず子供のない男女の間に賃金格差はほとんどない。男女の能力は平均すれば同等だが、男性は女性よりばらつき(ノーベル賞、チェス名人、ホームレス、犯罪、精神疾患など)が大きい。
Racism, Sexism, and Slavery - LewRockwell

選択とは差別
料金が安くて評判も良い庭師に仕事を発注せず、代わりに高い報酬で友人に頼む人は、高いコストという罰を市場から受けているのか? そんなことはない。自分が取引したい相手以外を「差別」することで得られる、より大きな利益のために進んで追加の金銭コストを払うのだから。
The Market Isn't a Schoolmarm: The Austrian School versus Chicago | Mises Wire

女性のきこりを増やそう?
女性の割合が低いのはテック企業だけではない。むしろ他の職業の男女差が大きい。きこり(男性94.9%)、屋根職人(98.3%)、ごみ収集人(91.4%)、製鉄所工員(98%)、鉱夫(99.9%)、漁師(99.9%)、トラック運転手(94%)など。なぜか女性の割合を高める運動はないようだ。
7 Non-Tech Jobs That Underrepresent Women (And the Story They Tell) - Foundation for Economic Education

2018-11-02

少子化対策に大幅減税を

安倍晋三首相は第4次安倍内閣の発足を受けた記者会見で、少子高齢化の克服に向けた新たな政策パッケージを来月上旬に取りまとめるとともに、待機児童の解消などを目的に今年度の補正予算案を編成する考えを表明し、政策の推進に全力をあげる考えを強調しました。

政府はこれまでも少子高齢化を食い止めようと、結婚・妊娠・出産・育児などの支援策をあれこれと打ち出してきました。しかし効果は疑問ですし、私生活への干渉になりかねません。歴史を振り返ると、もっとスマートな人口増加策が見えてきます。それは市場経済の拡大です。

鬼頭宏『人口から読む日本の歴史』によれば、日本は過去1万年に人口の波が4つあります。①縄文時代②弥生時代以降③14~15世紀以降④19世紀~現代――です。①②④の時期はそれぞれ気温上昇、水稲農耕、工業化を支えに人口が増えました。

興味深いのは、室町時代に始まる③の波です。人口成長を支えた原動力は「市場経済の展開」だと鬼頭氏は指摘します。具体的には、隷属農民の労働力に依存する名主経営が解体し、家族労働力を主体とする小農経営への移行が進んだことです。

室町時代には貨幣の普及とともに利潤獲得の機運が高まり、農民はより良い生産方法を求めて選択的に行動するようになります。隷属農民に依存する旧来の名主経営は、衣食住などの費用がかさむうえ、勤勉な労働が期待できず、生産効率が悪かったのです。

晩婚や生涯独身の多かった隷属農民が自立することで、社会全体の有配偶率が高まり、出生率が上昇しました。一方で、食生活の充実や住生活の向上により死亡率も改善します。この背景にも、生産力向上や流通の拡大など市場経済の発展がありました。

現代の隷属農民といえば、稼ぎの多くを税金(社会保険料を含む)で取り上げられる企業家や労働者でしょう。新内閣には市場経済を活性化する規制緩和とともに、大幅な減税を期待します。小手先の少子化対策よりも、はるかに効果が大きいはずです。(2017/11/02

2018-11-01

政府が格差を是正できない理由

「政府は富の格差拡大を是正しなければならない」という意見を毎日のように目にします。けれども、いくつか疑問があります。

まず、そもそも格差は本当に拡大しているのかどうか。次に、かりに本当だとして、是正が必要なのかどうか。特に見落とされやすいのは3点めの疑問です。それは、政府に富の格差拡大を是正するインセンティブ(誘因)があるかどうかです。

考えてもみましょう。政府を動かす政治家・高級官僚の多くは、富のピラミッドの上位に入る金持ちです。だとすれば、わざわざ自分の富を減らすような格差是正策を実行したがるでしょうか。むしろ逆ではないでしょうか。

日経電子版の記事によれば、安倍晋三首相が表明した3~5歳の保育所の無償化に対し、与党内から「所得再分配に逆行する」との批判があるそうです。高所得者層への恩恵が大きいからです。

無償化が全額補填を意味するなら、高額所得世帯は年間100万円以上もの負担減になります。金額にして、年収約1130万円以上の世帯は年収約260万円未満の世帯の17倍もの恩恵を受けるそうです。一方、生活保護世帯では恩恵はゼロです。

格差拡大を批判する人たちは、自己の利益を追求する市場経済では格差は是正されないので、政府に任せるべきだといいます。しかし政府を動かす政治家や官僚は、聖人君子でも天使でもありません。やはり自己の利益を追求する生身の人間です。

著名な知識人でも、この当然の事実を忘れがちです。英文記事にあるように、米哲学者のジョン・ロールズは、自由放任的な資本主義は公正な機会の平等などを受け入れないとして、政府の介入を求めます。ところがその一方で、金持ちは教育で培った知性や財産を利用して政治権力を手に入れ、法体系を作って経済を支配するとも述べます。

おかしな意見です。金持ちが政府を支配していると認めながら、政府は金持ちに不利な政策を実行せよと求めるのですから。(2017/11/01